説明

エクオール産生能が維持されたエクオール産生微生物を含む発酵製品、及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、エクオール産生能が維持されたエクオール産生微生物を生菌の状態で含む発酵製品を提供することである。
【解決手段】エクオール産生微生物を用い、大豆粉末又は豆乳を原料として発酵物を製造する際に、(1)エクオール産生微生物を用いて、ダイゼイン類の存在下、pH5.0以上、嫌気条件下で発酵することにより、マザースターターを調製する、(2)前記マザースターターを用いて、ダイゼイン類の存在下、pH5.0以上で発酵することにより、バルクスターターを調製する、(3)前記バルクスターターを用いて、大豆粉末又は豆乳を含む培地で発酵して発酵物を調製することによって、エクオール産生能が維持された微生物を生菌のままで含む発酵物の製造が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクオール産生能が維持されたエクオール産生微生物を生菌の状態で含む発酵製品、及びその製造方法に関する。更に、本発明は、生菌の状態のエクオール産生微生物を含み、保存後でも該微生物のエクオール産生能を安定に維持できる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆中に含まれるイソフラボン(大豆イソフラボン;ダイゼイン、ゲ二ステイン、グリシテイン)はエストラジオールと構造が類似しており、エストロゲンレセプター(以下、ERと表記する)への結合に伴う抗エストロゲン作用及びエストロゲン様作用を有している。これまでの大豆イソフラボンの疫学研究や介入研究からは、抗エストロゲン作用による乳癌、前立腺癌等のホルモン依存性の癌の予防効果や、エストロゲン様作用による更年期障害、閉経後の骨粗鬆症、高脂血症の改善効果が示唆されている。
【0003】
近年、これら大豆イソフラボンの生理作用の活性本体がダイゼインの代謝物のエクオールである可能性が指摘されている。即ち、エクオールは大豆イソフラボンと比較してERとの結合能(特に、ERβとの結合)が強く、乳房や前立腺組織などの標的臓器への移行性が顕著に高いことが報告されている(非特許文献1−4参照)。また、患者−対照研究では、乳癌、前立腺癌患者でエクオール産生者が有意に少ないことが報告され、閉経後の骨密度、脂質代謝に対する大豆イソフラボンの改善効果をエクオール産生者と非産生者に分けて解析するとエクオール産生者で有意に改善されたことも報告されている。
【0004】
エクオールは、ダイゼインより腸内細菌の代謝を経て産生されるが、エクオール産生能には個人差があり、日本人のエクオール産生者の割合は、約50%と報告されている。つまり、日本人の約50%がエクオールを産生できないヒト(エクオール非産生者)であり、このようなヒトにおいては、大豆や大豆加工食品を摂取しても、エクオールの作用に基づく有用生理効果が享受できない。そこで、エクオール非産生者に、エクオールの作用に基づく有用生理効果を発現させるには、エクオール産生微生物を生菌のまま摂取させることが有効であると考えられる。
【0005】
一方、エクオール産生微生物については既に公知であり、例えば、本発明者等によって、バクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)及びラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)がヒトの腸内から単離されている(特許文献1及び2参照)。
【0006】
そこで、エクオール産生微生物を生菌のままで含む発酵製品を提供できれば、エクオール産生微生物の摂取が可能になり、エクオール産生微生物に基づく有用効果を享受できると考えられる。しかしながら、エクオール産生微生物を用いて通常の方法に従って発酵製品を製造すると、該微生物のエクオール産生能が喪失され、エクオール産生微生物を生菌のままで含む発酵製品が得られないという問題点がある。更に、エクオール産生微生物は、低pH条件や好気的保存等によって、エクオール産生能が喪失され易い傾向が強いため、たとえ該微生物のエクオール産生能を維持したまま発酵製品を製造できても、保存に耐えることができず、流通段階でエクオール産生能が損なわれるという問題点もある。
【0007】
このような従来技術を背景として、エクオール産生を維持した微生物を生菌のままで含む発酵製品の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第99/007392号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/000042号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Morito K, HiroseT, Kinjo J, Hirakawa T, Okawa M, Nohara T, Ogawa S, Inoue S, Muramatsu M, Masamune Y. Interaction of phytoestrogens with estrogen receptors αand β. Biol Pharm Bull 24(4):351-356, 2001
【非特許文献2】Maubach J, Bracke ME, Heyerick A, Depypere HT, Serreyn RF, Mareel MM, Keukeleire DD. Quantitation of soy-derived phytoestrogens in human breast tissue and biological fluids by high-performance liquid chromatography. J Chromatography B 784:137-144, 2003
【非特許文献3】Morton MS, Chan PSF, Cheng C, Blacklock N, Matos-Ferreira A, Abranches-Monteiro L, Correia R, Lloyd S, Griffiths K. Lignans and isoflavonoids in plasma and prostatic fluid in men : Samples from Portugal, Hong Kong, and the United Kingdom. Prostate 32:122-128, 1997
【非特許文献4】Tammy EH, Paul DM, Paul GF, Robert D, Stephen B, Kenneth J, Ray M, Lorraine GO, Kristiina W, Holly MS, Karen JG. Long-term dietary habits affect soy isoflavone metabolism and accumulation in prostatic fluid in caucasian men. J Nutr 135:1400-1406, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、エクオール産生能が維持されたエクオール産生微生物を生菌の状態で含む発酵製品を提供することである。また、本発明の他の目的は、エクオール産生能が維持されたエクオール産生微生物を生菌の状態で含み、しかも保存後でもエクオール産生能を安定に維持できるエクオール産生微生物含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、驚くべきことに、エクオール産生微生物を用いた発酵において、マザースターターの調製から本発酵に亘る各工程において、使用する原料に応じて、発酵雰囲気及びpH等に特段の創意工夫を行うことによって、工業的規模への適用可能な方法で、エクオール産生能が維持されたエクオール産生微生物を生菌の状態で含む発酵物が得られることを見出した。更に、本発明者らは、エクオール産生微生物を生菌の状態で含む組成物にアスコルビン酸及び/又はその誘導体を添加することによって、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に保持でき、保存安定性に優れたエクオール産生微生物含有組成物が得られることを見出した。具体的には、本発明者らは、以下の知見を見出した。
【0012】
(i)第1法の発酵物の製造方法
エクオール産生微生物を用い、大豆粉末又は豆乳を原料として発酵物を製造する際に、(1)エクオール産生微生物を用いて、ダイゼイン類の存在下、pH5.0以上、嫌気条件下で発酵することにより、マザースターターを調製する、(2)前記マザースターターを用いて、ダイゼイン類の存在下、pH5.0以上で発酵することにより、バルクスターターを調製する、(3)前記バルクスターターを用いて、大豆粉末又は豆乳を含む培地で発酵して発酵物を調製することによって、エクオール産生能が維持された微生物を生菌のままで含む発酵物の製造が可能になる。
【0013】
(ii)第2法の発酵物の製造方法
エクオール産生微生物を用い、乳を原料として発酵物を製造する際に、マザースターターをダイゼイン類の存在下で嫌気条件下で発酵させることにより調製し、更にマザースターターを用いて乳原料を発酵させる際に、ダイゼイン類の存在下、pH4.6以上となる条件下で行うことによって、エクオール産生能が維持された微生物を生菌のままで含む発酵物の製造が可能になる。また、当該発酵物は、エクオール産生微生物のエクオール産生能が長期間に亘って保持され、保存安定性にも優れている。更に、マザースターターの調製から乳原料の発酵に亘って行われる全て発酵を、酵母エキスの存在下で実施することにより、エクオール産生微生物のエクオール産生能の維持、並びに保存安定性を一層向上させることができる。
【0014】
(iii)エクオール産生微生物含有組成物
エクオール産生微生物を生菌の状態で含む発酵製品に、アスコルビン酸及び/又はその誘導体を添加することによって、保存後でもエクオール産生微生物のエクオール産生能が喪失されることがない組成物の提供が可能になる。
【0015】
本発明は、これらの知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0016】
即ち、本発明は、下記態様の発明を提供する。
項1. 以下の工程を含む、発酵物の製造方法:
(1)ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含有する培地で、エクオール産生微生物を用いて、pH5.0以上を維持した状態で嫌気発酵を行うことにより、マザースターターを調製する工程、
(2)前記工程(1)で得られたマザースターターを用いて、前記ダイゼイン類を含有する培地で、pH5.0以上を維持した状態で発酵を行うことにより、バルクスターターを調製する工程、及び
(3)前記工程(2)で得られたバルクターターを用いて、大豆粉末及び/又は豆乳を含む培地で発酵を行うことにより、発酵物を得る工程。
項2. エクオール産生微生物が乳酸菌である、項1に記載の製造方法。
項3. エクオール産生微生物がラクトコッカス・ガルビエであるである、項1に記載の製造方法。
項4. 以下の工程を含む、発酵物の製造方法:
(I)ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含有する培地で、エクオール産生微生物を用いて嫌気発酵することにより、マザースターターを調製する工程、及び
(II)前記工程(I)で得られたマザースターターを用いて、前記ダイゼイン類及び乳を含む培地で、pH4.6以上を維持した状態で発酵を行うことにより、発酵物を得る工程。
項5. ダイゼイン類として大豆胚軸抽出物が使用される、項4に記載の製造方法。
項6. 前記工程(I)及び(II)で使用される培地が、更に酵母エキスを含む、項4に記載の製造方法。
項7. エクオール産生微生物が乳酸菌である、項4に記載の製造方法。
項8. エクオール産生微生物がラクトコッカス・ガルビエであるである、項4に記載の製造方法。
項9. 項1乃至3のいずれかに記載の製造方法により得られる発酵物を含有する、発酵製品。
項10. 項4乃至8のいずれかに記載の製造方法により得られる発酵物を含有する、発酵製品。
項11. pHが4.6以上である、項10に記載の発酵製品。
項12. (A)生菌の状態のエクオール産生微生物、並びに(B)アスコルビン酸、その誘導体、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、エクオール産生微生物含有組成物。
項13. 上記(B)成分が0.05〜5重量%の配合割合で含まれる、項12に記載の組成物。項14. pHが5.0以下である、項12に記載の組成物。
項15. 生菌の状態のエクオール産生微生物として、エクオール産生微生物を用いて発酵した発酵物を含む、項12に記載の組成物。
項16. 発酵大豆飲料又は発酵豆乳である、項12に記載の組成物。
項17. エクオール産生微生物が乳酸菌である、項12に記載の組成物。
項18. エクオール産生微生物がラクトコッカス・ガルビエであるである、項12に記載の組成物。
項19. 生菌の状態のエクオール産生微生物を含む組成物に、アスコルビン酸、その誘導体、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を添加することを特徴とする、エクオール産生微生物のエクオール産性能の維持方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、エクオール産生能が維持されたエクオール産生微生物を生菌の状態で含む発酵製品が製造できるので、世界で初めてエクオール産生微生物を生菌の状態で含む飲食品を提供することが実現される。また、本発明の製造方法は、大量生産を要する工業的規模で実施しても、エクオール産生微生物のエクオール産生能を維持して発酵を進行させることができるので、商業上の実用性が高く極めて有用性である。
エクオール産生能が維持されたエクオール産生微生物を生菌の状態で含む飲食品を提供できれば、エクオールを産生できないヒト(エクオール非産生者)に対して、エクオール産生能を獲得させることができるので、本発明によってエクオール非生産者に対してエクオールに基づく有効生理活性を享受させることが可能になる。
【0018】
また、本発明のエクオール産生微生物含有組成物によれば、エクオール産生微生物のエクオール産生能を長期間安定に維持でき、流通・販売に十分に耐え得る保存安定性を備えている。特に、本発明のエクオール産生微生物含有組成物が、発酵大豆飲料又は発酵豆乳の形態である場合には、ダイゼイン類を初めとする大豆由来の有用成分と共に、生菌の状態のエクオール産生微生物が含まれているので、腸内でエクオール産生微生物がエクオールを生成し易くなるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例4において、各飲料に含まれるラクトコッカス・ガルビエの生菌数を測定した結果である。
【図2】実施例4において、各飲料に含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、エクオール産生微生物とは、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物である。ここで、ダイゼイン配糖体としては、具体的には、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン等が挙げられる。本発明で使用されるエクオール産生微生物としては、食品として摂食が許容され、エクオール産生能を有する限り特に制限されない。例えば、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)等のラクトコッカス属に属する微生物;ストレプトコッカス・インターメディアス(Streptococcus intermedius)、ストレプトコッカス・コンステラータス(Streptococcus constellatus)等のストレプトコッカス属に属する微生物;ラクトバチルス・ムコーサエ(Lacobacillus mucosae)等のラクトバチルス属に属する微生物;バクテロイデス・オバタス(Bacteroides ovatus)等のバクテロイデス属に属する微生物;エンテロコッカス・フェシウム(Enteroccus faecium)等のエンテロコッカス属に属する微生物;フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)等のフィネゴルディア属に属する微生物;ベイロネラ(Veillonella)属に属する微生物;アドラークレウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)等のアドラークレウチア属に属する微生物;ユーバクテリウム・リムノサス(Eubacterium limosum)等のユーバクテリウム属に属する微生物;エグレセラ・ホンコンゲニス(Eggerthella hongkongenis)等のエグレセラ(Eggerthella)属に属する微生物;ビフィドバクテリウム・アドレセンチス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)等のビフィドバクテリウム属に属する微生物;スラッキア(Slackia)属に属する微生物;アシネトバクター(Acinetobacter)属に属する微生物等の中に上記能力を有する微生物が存在していることが分かっている。エクオール産生微生物の中で、好ましくは、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、及びビフィドバクテリウム属等の乳酸菌であり、更に好ましくはラクトコッカス属に属する乳酸菌であり、特に好ましくはラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。エクオール産生微生物は、例えば、ヒト腸内中からエクオールの産生能の有無を指標として単離することができる。上記エクオール産生微生物については、本発明者等により、ヒト腸内から単離同定された菌、即ち、ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)、及びバクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)が寄託されており、本発明ではこれらの寄託菌を使用できる。また、エクオール産生微生物としては、ユーバクテリウム・リムノサス(ATCC 8486)、エグレセラ・エスピー(KCC10490)、アドラークレウチア・エクオリファシエンス(JCM14793)、エグレセラ・ホンコンゲニス HKU10(JCM14552)、ビフィドバクテリウム・アドレセンチスTM-1(FERM P-20325号)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(JCM1273)、スラッキアTM30(FERM AP-20729号)、グラム陽性細菌 do03(AHU-1763)(FERM AP-20905号)等についても使用することができる。これらの寄託菌の中でも、本発明において、ラクトコッカス20-92が好適に使用される。
【0021】
以下、本発明の発酵物の製造方法(第1法と第2法)、発酵製品、及びエクオール産生微生物含有組成物について詳述する。第1法は、大豆粉末及び/又は豆乳を原料として発酵物を製造する方法であり、第2法は、乳を原料として発酵物を製造する方法である。
【0022】
本明細書において、マザースターターとはストックカルチャーから調製されるスターター(種菌)であり、バルクスターターとはマザースターターを用いて調製されたスターター(種菌)であって、本発酵によって発酵物を大量生産する際にスターターとして使用されるものである。
【0023】
1.発酵物の製造方法(第1法)
本第1法の発酵物の製造方法は、マザースターター(以下、「マザースターター-1」と表記することもある)を調製する工程(1)、マザースターター-1を用いてバルクスターター(以下、「バルクスターター-1」と表記することもある)を調製する工程(2)、及びバルクスターター-1を用いて、大豆粉末又は豆乳を原料として発酵物を調製する工程(3)を含む。以下、本第1法の発酵物の製造方法について工程毎に詳述する。
【0024】
工程(1)
本発明では、まず、エクオール産生微生物を、ダイゼイン類を含む培地(以下、「マザースターター培地-1」と表記することもある)で、pH5.0以上を維持した状態で嫌気発酵することにより、マザースターター(以下、「マザースターター-1」と表記することもある)を調製する(工程(1))。
【0025】
マザースターター培地-1は、エクオール産生微生物が成育可能であり、且つ食品成分として許容されることを限度として特に制限されず、最終的に製造される発酵物の種類に応じて、その組成を適宜設定すればよい。
【0026】
マザースターター培地-1に使用されるダイゼイン類とは、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインの中の1種又は2種以上のダイゼイン類を含むものである。ダイゼイン配糖体としては、具体的には、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン等が挙げられる。本発明では、前記ダイゼイン類として、ダイゼイン類の純品、ダイゼイン類の粗精製品、及びダイゼイン類を含む物質のいずれを使用してもよい。ダイゼイン類を含む物質としては、大豆、豆乳、大豆胚軸、葛、葛根、レッドグローブ、アルファルファ、及びこれらの抽出物(水、含水アルコール等の極性溶媒抽出物)等が挙げられる。エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に維持させるという観点から、本発明に使用されるダイゼイン類として、大豆、豆乳、大豆胚軸又はその抽出物が好ましく、特に大豆が好ましい。
【0027】
ここで、ダイゼイン類として大豆を使用する場合には、好ましくは粉末化した大豆、更に好ましくは蒸煮又は煮沸し、粉末化した大豆、特に好ましくは65〜105℃で30秒〜30分間蒸煮又は煮沸し、粉末化した大豆が挙げられる。また、粉末化した大豆の平均粒子径については、特に限定されるものではないが、一般には、製造される発酵物に良好な食感を備えさせるという観点から、メジアン径が約50μm程度以下とするのが好ましい。また、粒子径150μm以上の粒子が10%以下となるようにするのが好ましい。なお、上記粒子径は、レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される。
【0028】
マザースターター培地-1中のダイゼイン類含有物の配合割合としては、例えばダイゼイン類の総量が0.002〜0.04重量%、好ましくは0.004〜0.02重量%、更に好ましくは0.008〜0.012重量%となる割合が挙げられる。より具体的には、ダイゼイン類として、大豆粉末を使用する場合であれば、マザースターター培地-1中に大豆粉末が乾燥重量換算で3〜28重量%、好ましくは5〜28重量%、更に好ましくは7〜17重量%となる割合が挙げられる。また、ダイゼイン類として、大豆胚軸抽出物を使用する場合であれば、マザースターター培地-1中に大豆胚軸抽出物が乾燥重量換算で0.005〜0.1重量%、好ましくは0.01〜0.05重量%、更に好ましくは0.02〜0.03重量%となる割合が挙げられる。このような配合割合でダイゼイン類を含むことによって、エクオール産生能を損なうことなくエクオール産生微生物を増殖させてマザースターター-1を得ることが可能になる。
【0029】
また、マザースターター培地-1には、エクオール産生微生物が成育を促進させるために、アルギニン等のアミノ酸;アスコルビン酸等のビタミン類;ピロリン酸鉄等の微量金属が含まれていてもよい。マザースターター培地-1において、アルギニンの添加はエクオール産生微生物の成育を良好にするために好適であり、マザースターター培地-1おけるアルギニンの配合割合としては、例えば、0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.3重量%が例示される。
【0030】
更に、マザースターター培地-1には、必要に応じて、上記成分以外に、窒素源、炭素源等の栄養素が添加されていてもよい。
【0031】
マザースターター培地-1は、発酵物の風味に影響を及ぼすことがあるので、好ましくは、発酵物の風味に悪影響を及ぼさない培地が例示される。
【0032】
マザースターター培地-1は、所定量の添加成分を混合し、必要に応じて乳化させた後、殺菌処理することにより調製される。
【0033】
本工程(1)において、エクオール産生微生物の嫌気発酵は、ガスパックや嫌気ジャーを使用する従来公知の方法で実施することができる。
【0034】
また、本工程(1)において、嫌気発酵は、pHが5.0以上、好ましくは5.5〜8.0、更に好ましくは6.0〜8.0となるように維持して行われる。このようにpHを維持することによって、エクオール産生能を損なうことなくエクオール産生微生物を増殖させたマザースターター-1を調製でき、本第1法の製造方法によって最終的に得られる発酵物において、該微生物のエクオール産生能を安定に維持させることが可能になる。このような嫌気発酵中のpHの制御は、公知の方法で実施できる。例えば、使用する培地において、エクオール産生微生物により資化される糖質(例えば、ブドウ糖等)の配合割合を0.5重量%以下、好
ましくは0.4重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下に設定しておくと、発酵が進行してもpHが低下しないため、嫌気発酵中のpHを上記範囲に維持させることが可能になる。また、嫌気発酵中のpHの制御は、pH調整剤を適宜添加することによって行うこともできる。
【0035】
本工程(1)における嫌気発酵は、エクオール産生微生物の種菌をマザースターター培地-1に接種して、該微生物の生育可能な温度領域、好ましくは該微生物の至適温度領域で、20〜96時間、好ましくは72〜96時間嫌気発酵させることにより実施される。より具体的には、エクオール産生微生物として乳酸菌を使用する場合には、例えば、35〜39℃で72〜96時間嫌気発酵すればよい。
【0036】
斯くして得られるマザースターター-1は、エクオール産生微生物が増殖し且つエクオール産生能が維持された状態で含まれている。
【0037】
斯くして得られるマザースターターは、そのまま次の工程(2)に供するとともに、必要に応じて、当該マザースターターを種菌として使用して、上記と同条件で更にマザースターターを作成し、次の生産に用いることも出来る。作成されたマザースターターを使用して、上記と同条件で再度マザースターターを調製する工程は、1回又は複数回、例えば1〜10回程度繰り返し行ってもよい。このように発酵を繰り返し実施しても、上記条件を充足する限り、マザースターター-1において、エクオール産生微生物がエクオール産生能を維持した状態で含ませることができる。
【0038】
工程(2)
次いで、前記工程(1)で得られたマザースターター-1を用いて、前記ダイゼイン類を含有する培地で(以下、「バルクスターター培地-1」と表記することもある)、pH5.0以上を維持した状態で発酵を行うことにより、バルクスターター-1(以下、「バルクスターター-1」と表記することもある)を調製する(工程(2))。
【0039】
バルクスターター培地-1は、前記ダイゼイン類を含むものであって、エクオール産生微生物が成育可能であり、且つ食品成分として許容されることを限度として特に制限されず、発酵物の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0040】
バルクスターター培地-1は、ダイゼイン類を含有することによって、エクオール産生微生物のエクオール産生能を維持した状態で増殖させることが可能になっている。バルクスターター培地-1に配合される前記ダイゼイン類の種類及び配合割合については、後記する本発酵用培地-1と同様である。
【0041】
また、バルクスターター培地-1において、前記ダイゼイン類以外に配合可能な添加成分の種類及び配合割合については、上記マザースターター培地-1と同様である。また、バルクスターター培地-1は、発酵物の風味に影響を及ぼすことがあるので、好ましくは、発酵物の風味に悪影響を及ぼさない培地、更に好ましくは上記マザースターター培地-1と同組成のものが例示される。
【0042】
バルクスターター培地-1は、所定量の配合成分を混合し、必要に応じて乳化させた後、殺菌処理することにより調製される。
【0043】
本工程(2)において、嫌気発酵は、pHが5.0以上、好ましくは5.5〜8.0、更に好ましくは6.0〜8.0となるように維持して行われる。このようにpHを維持することによって、エクオール産生能を損なうことなくエクオール産生微生物を増殖させバルクスターター-1を調製でき、本第1法の製造方法によって最終的に得られる発酵物において、該微生物のエクオール産生能を安定に維持させることが可能になる。このような発酵中のpHの制御は、前記工程(1)と同様の方法で行うことができる。
【0044】
また、本工程(2)において、発酵は好気又は嫌気のいずれの雰囲気で行ってもよいが、製造コストの低減、操作簡便性等の観点から、好気雰囲気で行うことが望ましい。エクオール産生微生物は、好気雰囲気ではエクオール産生能を喪失し易くなるが、培養中のpH条件を特定範囲に制御することによって、好気雰囲気であっても、エクオール産生能を維持させることが可能になる。
【0045】
本工程(2)における発酵は、バルクスターター培地-1に上記工程(1)で得られたマザースターター-1を例えば0.5〜10容量%程度、好ましくは1〜5容量%程度添加し、該微生物の生育可能な温度領域、好ましくは該微生物の至適温度領域で、10〜28時間、好ましくは14〜24時間発酵させることにより実施される。より具体的には、エクオール産生微生物として乳酸菌を使用する場合には、例えば、35〜39℃で14〜24時間発酵すればよい。
【0046】
斯くして得られるバルクスターター-1は、エクオール産生微生物が増殖し且つエクオール産生能が維持された状態で含まれている。
【0047】
バルクスターター-1は、そのまま次の工程(3)に供してもよいが、必要に応じて、バルクスターター-1をスターター(1次バルクスターター)として使用して、再度、本工程(2)を実施して2次バルクスターターを作成し、この2次バルクスターターを次の工程(3)に供してもよい。
【0048】
工程(3)
次いで、前記工程(2)で得られたバルクターター-1を用いて、大豆粉末及び/又は豆乳を含む培地を含む培地(以下、「本発酵用培地-1」と表記することもある)で発酵を行うことにより、発酵物を調製する(工程(3))。
【0049】
本発酵用培地-1は、大豆粉末及び豆乳の少なくとも1方を含むものであって、エクオール産生微生物が成育可能であり、且つ食品成分として許容されることを限度として特に制限されない。
【0050】
本発酵用培地-1として使用される大豆粉末を含む培地は、具体的には、大豆粉末を含む水溶液が挙げられる。本発酵用培地-1において使用される大豆粉末は、風味や食感を良好にして、更に大豆臭を抑制するという観点から、蒸煮又は煮沸による加熱処理を施した大豆粉末を使用することが望ましい。このように加熱処理が施された大豆粉末としては、具体的には、65〜105℃で30秒〜30分間蒸煮又は煮沸した大豆を粉末化したものが例示される。大豆粉末の平均粒子径については、特に限定されるものではないが、一般には、製造される発酵物に良好な食感を備えさせるという観点から、メジアン径が約50μm程度以下とするのが好ましい。また、粒子径150μm以上の粒子が10%以下となるようにするのが好ましい。なお、上記粒子径は、レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される。本発酵用培地-1として、大豆粉末を含む水溶液を使用する場合、水に大豆粉末を添加し、ホモジナイザー等を用いて均質化処理に供しておくことが望ましい。このように均質化処理を行うことによって、製造される発酵物に優れた食感、特に滑らかさを付与することが可能になる。また、本発酵培地-1として、大豆粉末を含む水溶液を使用する場合、該水溶液における大豆粉末の配合割合については、特に制限されないが、例えば、大豆粉末が乾燥重量換算で3〜28重量%、好ましくは5〜28重量%、更に好ましくは7〜17重量%が例示される。
【0051】
本発酵用培地-1として、豆乳を含む培地を使用する場合、豆乳をそのまま本発酵用培地-1として使用できる。豆乳の製造方法は、当該技術分野で公知である。具体的には、豆乳は、脱皮した原料大豆を磨砕し、これを水に加えて湿式粉砕することにより懸濁液(生ご;豆汁)を作り、この懸濁液を必要に応じて加熱処理した後に、固液分離処理によって固形分(オカラ)を除去することによって製造することができる。
【0052】
また、本発酵用培地-1は、前述する組成に、更に他の添加成分を含んでいてもよい。本発酵用培地-1の組成は、製造される発酵物の風味や食感に影響を与えるため、配合される他の添加成分は、製造目的の発酵物の種類に応じて適宜決定される。本発酵用培地-1に配合される添加成分としては、例えば、ショ糖、スクラロース、ステビア等の甘味料;コーヒーエキス、紅茶エキス等のフレーバー剤;香料;果汁、果実片、野菜汁、野菜片等の植物由来成分;グルコン酸等の酸味料;ナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、鉄等の金属;アスコルビン酸等のビタミン類等が挙げられる。本工程(3)における発酵ではpHの低下を抑制する必要がないため、エクオール産生微生物によって資化される糖類(ショ糖、グルコース等)等が含まれる甘味料や植物由来成分が、本発酵用培地-1に含まれていてもよい。
【0053】
本発酵用培地-1は、所定量の成分を混合し、必要に応じて乳化させた後、殺菌処理することにより調製される。
【0054】
本工程(3)における発酵は、本発酵用培地-1に上記工程(2)で得られたバルクスターター-1を例えば0.5〜10容量%程度、好ましくは1〜5容量%程度添加し、該微生物の生育可能な温度領域、好ましくは該微生物の至適温度領域で、10〜28時間、好ましくは14〜24時間攪拌又は静置すればよい。より具体的には、エクオール産生微生物として乳酸菌を使用する場合には、35〜39℃で14〜24時間発酵すればよい。
【0055】
本工程(3)における本発酵は、好気又は嫌気のいずれの雰囲気で行ってもよいが、製造コストの低減、操作簡便性等の観点から、好気雰囲気で行うことが望ましい。
【0056】
また、本工程(3)における発酵において、発酵中のpHは、特段制御する必要はない。通常、本工程(3)における発酵が進行するにつれて、発酵物中のpHは5.0程度以下に低下する傾向が認められる。
【0057】
エクオール産生微生物は、通常、好気雰囲気及びpH5.0程度以下では、エクオール産生能を喪失する傾向が強くなるが、本第1法の製造方法によれば、上記工程(1)及び(2)を経て調製されたバルクスターター-1を使用して最終段階の発酵を行うことによって、エクオール産生能が維持されたエクオール産生微生物を生菌の状態で含む発酵物を製造することが可能になる。
【0058】
本発酵用培地-1として大豆粉末を含む培地を使用する場合、最終的に発酵物として、飲食品として使用される発酵大豆が得られる。また、本発酵用培地-1として豆乳を含む培地を使用する場合、最終的に発酵物として、飲食品として使用される発酵豆乳が得られる。本第1法の製造方法は、発酵大豆飲食品の製造、即ち、大豆粉末を含む培地を発酵させた発酵物の製造に好適である。
【0059】
斯くして得られる発酵物は、エクオール産生微生物がエクオール産生能を維持したまま生菌として含まれている。
【0060】
2.発酵物の製造方法(第2法)
本第2法の発酵物の製造方法は、マザースターター(以下、「マザースターター-2」と表記することもある)を調製する工程(I)と、マザースターター-2を用いて乳を原料として発酵を行う工程(II)を含む。以下、本発明の製造方法について工程毎に詳述する。
【0061】
工程(I)
本発明では、まず、エクオール産生微生物を、ダイゼイン類を含む培地(以下、「マザースターター培地-2」と表記する)で嫌気発酵することにより、マザースターターを調製する(工程(I))。
【0062】
マザースターター培地-2は、ダイゼイン類を含み、且つエクオール産生微生物が成育可能であり、且つ食品成分として許容されることを限度として、その組成については特に制限されず、発酵物の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0063】
マザースターター培地-2に使用されるダイゼイン類については、上記第1法のマザースターター培地-1に使用されるものと同様であるが、本第2法の製造方法では、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に維持させるという観点から、大豆胚軸又はその抽出物が好ましく、特に大豆胚軸の抽出物が好ましい。
【0064】
マザースターター培地-2に配合される前記ダイゼイン類の配合割合については、上記第1法で使用されるマザースターター培地-1と同様である。
【0065】
また、マザースターター培地-2は、前述する成分以外に、更に他の添加成分を含んでいてもよい。マザースターター培地-2において配合可能な他の添加成分の種類及び配合割合については、上記第1法で使用されるマザースターター培地-1と同様である。
【0066】
特に、マザースターター培地-2には、酵母エキス、酵母加水分解物等の酵母由来成分、ホエー加水分解物、カゼイン加水分解物等の発酵促進剤を含んでいることが望ましい。本第2法の製造方法では、酵母由来成分、特に酵母エキスは、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に維持させる作用を有効に発揮することができる。マザースターター培地-2に酵母エキスを添加する場合、その配合割合としては、通常0.0125重量%以上、好ましくは0.05〜1重量%、更に好ましくは0.1〜0.2重量%が挙げられる。酵母エキスの濃度が上記範囲を充足する場合には、最終的に製造される発酵物おいて、エクオール産生微生物のエクオール産生能を長期間安定に維持させることも可能になる。
【0067】
マザースターター培地-2は、最終的に製造される発酵物の風味に影響を及ぼすことがあるので、好ましくは、発酵物の風味に悪影響を及ぼさない培地が挙げられ、例えば、上記成分の他に、乳、及び必要に応じて乳脂肪含有成分を含まれている培地が例示される。マザースターター培地-2に配合される乳及び乳脂肪含有成分の種類及び配合割合については、後記する発酵用培地-2と同様である。マザースターター培地-2の好適な一例として、工程(II)で使用される本発酵用培地-2と同組成のものが例示される。
【0068】
マザースターター培地-2は、所定量の添加成分を混合し、必要に応じて乳化させた後、殺菌処理することにより調製される。
【0069】
本工程(I)において、エクオール産生微生物の嫌気発酵は、ガスパックや嫌気ジャーを使用する従来公知の方法で実施することができる。
【0070】
また、本工程(I)において、嫌気発酵中のpHは、4.6以上、好ましくは5.0〜7.0、更に好ましくは5.5〜6.5となるように維持することが望ましい。このようにpHを維持することによって、エクオール産生能を損なうことなくエクオール産生微生物を増殖させ、且つ製造後にも該微生物のエクオール産生能を安定に維持させるという本発明の効果を増強することができる。このような嫌気発酵中のpHの制御は、上記第1法の工程(1)と同様の方法で行うことができる。
【0071】
本工程(I)における嫌気発酵は、エクオール産生微生物の種菌をマザースターター培地-2に接種して、該微生物の生育可能な温度領域、好ましくは該微生物の至適温度領域で、20〜28時間、好ましくは22〜26時間嫌気発酵させることにより実施される。より具体的には、エクオール産生微生物として乳酸菌を使用する場合には、例えば、35〜39℃で22〜26時間嫌気発酵すればよい。
【0072】
斯くして得られるマザースターター-2は、エクオール産生微生物が増殖し且つエクオール産生能が維持された状態で含まれている。
【0073】
工程(II)
次いで、前記工程(I)で得られたマザースターター-2を用いて、前記ダイゼイン類を含む培地(以下、「本発酵用培地-2」と表記する)を、pH4.6以上を維持した状態で発酵(以下、「本発酵」と表記することもある)させる(工程(II))。
【0074】
本工程(II)では、上記工程(I)で得られたマザースターター-2を本発酵用培地-2に添加し本発酵を行ってもよいが、発酵乳製品を大量生産する場合には、該マザースターター-2を用いて更にバルクスターター(以下、「バルクスターター-2」と表記することもある)を調製し、バルクスターター-2を本発酵用培地に添加して本発酵を行ってもよい。
【0075】
バルクスターター-2の調製に使用される培地(以下、「バルクスターター培地-2」と表記する)は、前記ダイゼイン類を含むものが使用される。このように、ダイゼイン類を配合することによって、エクオール産生微生物のエクオール産生能を維持した状態で増殖させることができる。バルクスターター培地-2に配合される前記ダイゼイン類の種類及び配合割合については、上記マザースターター培地-2と同様である。
【0076】
また、バルクスターター培地-2は、前記ダイゼイン類を含むものであって、エクオール産生微生物が成育可能であり、且つ食品成分として許容されることを限度として特に制限されず、発酵物の種類に応じて適宜設定すればよい。バルクスターター培地-2において、前記ダイゼイン類以外に配合可能な添加成分の種類及び配合割合については、上記マザースターター培地-2と同様である。なお、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に維持させるために、バルクスターター培地-2にも、酵母由来成分、特に酵母エキスが含まれていることが望ましい。また、バルクスターター培地-2は、発酵物の風味に影響を及ぼすことがあるので、乳、及び必要に応じて乳脂肪含有成分が含まれていることが望ましい。
【0077】
バルクスターター培地-2として、好ましくは、発酵物の風味に悪影響を及ぼさない培地、更に好ましくは本発酵用培地-2と同組成のものが例示される。
【0078】
バルクスターター培地-2は、所定量の配合成分を混合し、必要に応じて乳化させた後、殺菌処理することにより調製される。
【0079】
バルクスターター-2を調製するには、バルクスターター培地-2に上記工程(I)で得られたマザースターター-2を例えば1〜10容量%程度、好ましくは1〜5容量%程度添加し、該微生物の生育可能な温度領域、好ましくは該微生物の至適温度領域で、20〜28時間、好ましくは22〜26時間発酵させればよい。より具体的には、エクオール産生微生物として乳酸菌を使用する場合には、例えば、35〜39℃で22〜26時間発酵すればよい。
【0080】
バルクスターター-2の調製において、発酵は好気又は嫌気のいずれの雰囲気で行ってもよいが、製造コストの低減、操作簡便性等の観点から、好気雰囲気で行うことが望ましい。
【0081】
また、バルクスターター-2の調製において、発酵中のpHについては、特に制限されるものではないが、例えば、pH4.6以上、好ましくは5.0〜7.0、更に好ましくは5.5〜6.5となるように維持することが望ましい。このようにpHを維持することによって、エクオール産生能を損なうことなくエクオール産生微生物を増殖させることが可能になる。このような発酵中のpHの制御は、前記工程(I)と同様の方法で行うことができる。
【0082】
バルクスターター-2は、そのまま次の本発酵に供してもよいが、必要に応じて、バルクスターター-2をスターター(1次バルクスターター)として使用して、再度、バルクスターター-2の調製と同条件で発酵を実施して2次バルクスターターを作成し、この2次バルクスターターを次の本発酵に供してもよい。
【0083】
本工程(II)で使用される本発酵用培地-2は、前記ダイゼイン類及び乳を含むものであって、エクオール産生微生物が成育可能であり、且つ食品成分として許容されることを限度として特に制限されない。
【0084】
本発酵用培地-2に使用されるダイゼイン類については、上記第1法のマザースターター用培地-1に使用されるものと同様であるが、本第2法の製造方法では、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に維持させるという観点から、大豆胚軸又はその抽出物が好ましく、特に大豆胚軸の抽出物が好ましい。
【0085】
本発酵用培地-2に配合される前記ダイゼイン類の配合割合については、上記マザースターター培地-2と同様である。
【0086】
また、本発酵用培地-2に使用される乳としては、食品として許容される乳であればよく、例えば、牛乳、山羊乳、羊乳等の獣乳;脱脂乳;脱脂粉乳や全粉乳を溶解した還元乳等が挙げられる。
【0087】
また、本発酵用培地-2には、製造される発酵物の風味を向上させるために、本発酵用培地-2には、生クリーム、バター等の乳脂肪含有成分が含まれていてもよい。これらの乳脂肪含有成分の配合割合としては、乳脂肪の量に換算して、通常0.1〜4.5重量%、好ましくは0.5〜4.2重量%、更に好ましくは1.0〜3.5重量%が挙げられる。
【0088】
また、本発酵用培地-2において、上記成分以外に配合可能な添加成分の種類及び配合割合については、上マザースターター培地-2と同様である。なお、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に維持させるために、本発酵用培地-2にも、酵母由来成分、特に酵母エキスが含まれていることが望ましい。
【0089】
本発酵用培地-2は、乳、前記ダイゼイン類、及び必要に応じて他の添加成分を各所定量混合し、必要に応じて乳化させた後、殺菌処理することにより調製される。
【0090】
本工程(II)における本発酵は、本発酵用培地-2に上記工程(I)で得られたマザースターター-2又は上記バルクスターター-2を例えば1〜10容量%程度、好ましくは1〜5容量%程度添加し、該微生物の生育可能な温度領域、好ましくは該微生物の至適温度領域で、20〜28時間、好ましくは22〜26時間攪拌又は静置すればよい。より具体的には、エクオール産生微生物として乳酸菌を使用する場合には、35〜39℃で22〜26時間発酵すればよい。
【0091】
本工程(II)における本発酵は、好気又は嫌気のいずれの雰囲気で行ってもよいが、製造コストの低減、操作簡便性等の観点から、好気雰囲気で行うことが望ましい。
【0092】
また、本工程(II)における本発酵において、発酵中のpHは、4.6以上、好ましくは5.0〜7.0、更に好ましくは5.5〜6.5となるように維持する。このようにpHを維持することによって、エクオール産生能を損なうことなくエクオール産生微生物を増殖させ、且つ製造後にも該微生物のエクオール産生能を安定に維持させることが可能になる。このような発酵中のpHの制御は、前記工程(I)と同様の方法で行うことができる。
【0093】
本第2法の製造方法では、発酵物として発酵乳が製造される。当該発酵物には、エクオール産生微生物がエクオール産生能を喪失することなく生菌の状態で含まれている。
【0094】
3.発酵製品
更に、本発明は、上記第1法及び第2法で得られた発酵物を含む発酵製品を提供する。即ち、上記第1法及び第2法で得られた発酵物は、そのまま、或いは必要に応じて、ショ糖、スクラロース、ステビア等の甘味料;コーヒーエキス、紅茶エキス等のフレーバー剤;香料;大豆粉末、大豆片、果汁、果実片、野菜汁、野菜片等の植物由来成分;ナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、鉄等の金属;アスコルビン酸等のビタミン;ゲル化剤;グルコン酸等の安定化剤;水等の希釈剤等の添加成分を配合して発酵製品として提供される。とりわけ、上記第1法で得られた発酵物は、大豆粉末を含む水溶液と混合された発酵製品として好適に提供される。
【0095】
本発酵製品において、上記第1法及び第2法で得られた発酵物の配合割合については、特に制限されるものではないが、例えば5〜100重量%、好ましくは10〜100重量%が例示される。
【0096】
本発酵製品のpHについては、特に制限されない。例えば、発酵製品中のエクオール産生微生物のエクオール産生能を長期間安定に維持させることを重視する場合には、pHは4.6以上、好ましくは5.0〜7.0、更に好ましくは5.5〜6.5となるように調整することが望ましい。一方、中性域では、雑菌の繁殖が懸念されるため、雑菌の繁殖を抑制することを重視する場合には、pHは5.0以下、好ましくは4.0〜4.8、更に好ましくは4.2〜4.6となるように調整することが望ましい。
【0097】
本発酵製品の形態は、製造時に使用した本発酵培地の種類、上記第1法又は第2法で得られた発酵物の種類、発酵物に配合される添加成分の種類等に応じて定まり、液状、半固形状、固形状、ゲル状のいずれでもよい。本発酵製品の形態の好適な例として、発酵大豆飲食品、発酵豆乳飲食品、発酵乳等が例示される。ここで、発酵乳には、ヨーグルト(ハードタイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプ)、乳酸菌飲料等が含まれる。
【0098】
本発酵製品には、エクオール産生微生物が生菌の状態で含まれているので、低温下で流通、販売することが望ましい。
【0099】
本発酵製品は、エクオール産生微生物がエクオール産生能を維持した状態で生菌のまま含まれているので、該微生物に基づく様々な生理活性や薬理活性を発現することができる。従って、本発酵製品は、一般の飲食品の他、特定保健用飲食品、栄養補助飲食品、機能性飲食品、病者用飲食品等として使用できる。
【0100】
例えば、本発酵製品は、摂取されて腸内でエクオール産生微生物の作用によりエクオールを生成でき、エクオールに基づく生理活性を有効に享受させることができるので、例えば、更年期障害、骨粗鬆症、前立腺肥大、メタボリックシンドローム等の疾患や症状の予防乃至改善、血中コレステロール値の低減、美白、にきびの改善、整腸、肥満改善、利尿等の用途に有用である。中でも、本発酵製品は、特に、中高年女性における不定愁訴乃至閉経に伴う症状(例えば、骨粗鬆症、更年期障害等)の予防乃至改善に有用である。
【0101】
本発酵乳製品の一日当たりの摂取量については、本発酵乳製品中のエクオール産生微生物の菌数、摂取者の年齢や体重、摂取回数等によって異なるが、例えば、成人1日当たりの摂取量として本発酵製品が10〜500gに相当する量を挙げることができる。
【0102】
4.エクオール産生微生物含有組成物
エクオール産生微生物を生菌の状態で含む組成物において、アスコルビン酸、その誘導体、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を添加することによって、低pH条件や好気保存条件下においてもエクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に保持させることが可能になり、長期間保存しても該組成物においてエクオール産生微生物のエクオール産生能が喪失されるのを抑制することができる。そこで、本発明は、更に、生菌の状態のエクオール産生微生物(以下、単に「(A)成分」と表記することもある)、並びにアルコルビン酸、その誘導体、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、単に「(B)成分と表記することもある」を含む、エクオール産生微生物含有組成物(以下、単に「本組成物」と表記することもある)を提供する。
【0103】
本組成物では、エクオール産生微生物として、単離又は粗精製したエクオール産生微生物の生菌を使用してもよく、またエクオール産生微生物を利用して発酵させた発酵物を使用してもよい。
【0104】
本組成物に含まれるエクオール産生微生物の濃度については、特に制限されるものではないが、一例として、1×105〜1010CFU/g、好ましくは1×10〜1010CFU/g、更に好ましくは1×10〜1010CFU/gが例示される。
【0105】
本組成物には、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に保持させるために、(B)成分が配合される。(B)成分の内、アスコルビン酸の誘導体については、アスコルビン酸に対して、エステル結合又はエーテル結合によって置換基を結合させたものであって、食品成分として許容されるものであれば特に制限されないが、具体例としては、アスコルビン酸2,6−ジパルミテート、アスコルビン酸6−ステアレート、アスコルビン酸2−リン酸、アスコルビン酸2−硫酸、アスコルビン酸2−グルコシド、アスコルビン酸グルコサミン、アスコルビン酸6−パルミテート、テトライソパルミチン酸L−アスコルビン、テトラ2−ヘキシルデカン酸アスコルビル等を例示することができる。また、アスコルビン酸及びその誘導体の塩としては、食品成分として許容されるものであれば特に制限されないが、例えば、ナトリウム等のアルカリ金属塩が例示される。(B)成分の中でも、好適なものとしてアスコルビン酸及びその塩が例示される。本組成物において、(B)成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0106】
本組成物における上記(B)成分の配合割合としては、通常0.05〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%、更に好ましくは0.1〜2.0重量%が例示される。このような配合割合を充足することによって、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に保持させることが可能になる。
【0107】
本組成物のpHについても、特に制限されるものではなく、本組成物の種類等に応じて適宜設定される。本組成物において雑菌の繁殖を抑制するという観点から、pHは5.0以下、好ましくは4.0〜4.8、更に好ましくは4.2〜4.6となるように調整することが望ましい。一般に、エクオール産生微生物はpH5.0以下の環境下では、エクオール産生能を喪失する傾向が強くなり、エクオール産生能を安定に維持することができなくなるが、本組成物によれば、アスコルビン酸及び/又はその誘導体の作用によって、pHは5.0以下の条件下でも、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に維持することが可能になっている。
【0108】
本組成物には、必要に応じて、ショ糖、スクラロース、ステビア等の甘味料;コーヒーエキス、紅茶エキス等のフレーバー剤;香料;果汁、果実片、野菜汁、野菜片等の植物由来成分;ナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、鉄等の金属;ベータカロテン等のビタミン;ゲル化剤;グルコン酸等の安定化剤;水等の希釈剤等の添加成分を含んでいてもよい。ここで、本組成物に、配合される添加成分は、保存安定性を損なわせないために、エクオール産生微生物により資化されないものが望ましい。
【0109】
本組成物の形態についても特に制限されず、液状、半固形状、固形状、ゲル状等のいずれであってもよい。
【0110】
本組成物の好適な形態として、エクオール産生微生物を利用して発酵させた発酵物に、アスコルビン酸及び/又はその誘導体、並びに必要に応じて他の添加成分を配合した発酵製品が挙げられる。ここで、エクオール産生微生物を利用した発酵させた発酵物としては、好ましくは上記第1法及び第2法によって製造された発酵物が挙げられる。また、当該発酵製品としては、具体的には、発酵大豆飲食品、発酵豆乳飲食品、発酵乳等が例示される。ここで、発酵乳には、ヨーグルト(ハードタイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプ)、乳酸菌飲料等が含まれる。これらの発酵製品の中でも、好ましくは発酵大豆飲食品及び発酵豆乳飲食品、更に好ましくは発酵大豆飲食品が例示される。
【0111】
また、本組成物の他の好適な形態として、単離又は粗精製したエクオール産生微生物の生菌、アスコルビン酸及び/又はその誘導体、可食性の担体、並びに必要に応じて他の添加成分を含む組成物が挙げられる。ここで、可食性の担体としては、例えば、大豆粉末を含む水溶液、豆乳、水、可食性ゲル、乳、各種塩溶液等が例示される。
【0112】
本組成物には、エクオール産生微生物が生菌の状態で含まれているので、低温下で流通、販売することが望ましい。
【0113】
本組成物は、エクオール産生微生物がエクオール産生能を維持した状態で生菌のまま含まれているので、該微生物に基づく様々な生理活性や薬理活性を発現することができる。従って、本組成物は、医薬又は飲食品の分野で使用することができる。
【0114】
本組成物を飲食品の分野で使用する場合、本組成物は、一般の飲食品の他、特定保健用飲食品、栄養補助飲食品、機能性飲食品、病者用飲食品等として提供される。
【0115】
例えば、本組成物は、摂取されて腸内でエクオール産生微生物の作用によりエクオールを生成でき、エクオールに基づく生理活性や薬理活性を有効に享受させることができるので、医薬又は飲食品の分野において、エクオールの作用の享受が求められる人に対して、好適に使用される。具体的には、本組成物は、例えば、更年期障害、骨粗鬆症、前立腺肥大、メタボリックシンドローム等の疾患や症状の予防乃至改善、血中コレステロール値の低減、美白、にきびの改善、整腸、肥満改善、利尿等の用途に有用である。中でも、本組成物は、特に、中高年女性における不定愁訴乃至閉経に伴う症状(例えば、骨粗鬆症、更年期障害等)の予防乃至改善に有用である。
【0116】
本組成物の一日当たりの摂取量については、本組成物中のエクオール産生微生物の菌数、摂取者の年齢や体重、摂取回数等によって異なるが、例えば、成人1日当たりの摂取量として本組成物が10〜500gに相当する量を挙げることができる。
【0117】
また、前述するように、エクオール産生微生物を生菌の状態で含む組成物において、上記(B)を添加することによって、エクオール産生微生物のエクオール産生能を安定に保持させることが可能になり、長期間保存してもエクオール産生微生物のエクオール産生能が喪失されるのを抑制することができる。従って、本発明は、更に、生菌の状態のエクオール産生微生物を含む組成物に、アスコルビン酸、その誘導体、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を添加することを特徴とする、エクオール産生微生物のエクオール産生能の維持方法をも提供する。エクオール産生能については、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。当該保存安定化方法の具体的実施態様については、上記のエクオール産生微生物含有組成物に関する記載内容が援用される。
【実施例】
【0118】
以下に、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0119】
以下の実施例及び比較例で使用した大豆粉末は、以下の方法で調製したものを使用した。
【0120】
大豆粉末溶液の調製
皮を剥いで半割に分割して脱皮大豆を蒸煮処理に供した。蒸煮処理は、脱皮大豆に対して、100℃の温度に達するまで蒸気を送り続け、100℃に到達した時点から140秒間100℃に保った。次に、蒸煮処理後の大豆をローラーミルのローラ間に通して、フレーク状にした。その後、フレーク状の大豆を80℃で熱風乾燥を行い、水分含量を3〜6%程度になるまで乾燥させ、これをエアーグラインダーで粉砕することにより、大豆粉末を得た。エアーグラインダーでの粉砕は、粉砕粒子の径150μm以上が10%以下になるように行った。
【0121】
次いで、適量の炭酸水素ナトリウム及びクエン酸三ナトリウムを溶解させた水に、上記で得られた大豆粉末を所定量添加して分散溶解させ、15分以上膨潤させた。次いで、得られた溶液を95℃で、10分間加熱して大豆粉末中の水溶性成分を抽出させて、さらに大豆粉末中に含まれるLOX、トリプシンインヒビターなどの酵素を失活させた。加熱後、80℃以上の温度を保持したまま、適量のクエン酸を添加して、pHを中性に戻した。その後、均質機(ガウリン(GAULIN)社製LAB40)を用い、200-1000kgf/cm2の範囲の条件下で均質化処理を行うことによって、大豆粉末溶液(大豆粉末を乾燥重量換算で14重量%含む)を調製した。
【0122】
実施例1:第1法による発酵大豆食品の製造、及び発酵大豆食品の評価
1.発酵大豆食品(実施例1-1)の製造
エクオール産生能を有するラクトコッカス・ガルビエ(ラクトコッカス20-92株、FERM BP-10036号)を用いて、以下の条件で、マザースターターの調製、バルクスターターの調製、本発酵、及び容器への充填を行った。
【0123】
<マザースターターの調製>
大豆粉末溶液(乾燥重量で14%の大豆粉末を含む)80重量%、グルコース0.1重量%、L-アルギニン0.1重量%、精製水 残部を含む溶液(pH 7.48)100mlをオートクレーブ殺菌(121℃、15分間)し、マザースターター培地を調製した。このスターター培地に、ラクトコッカス20-92株の種菌を接種してGas Packにて37℃で96時間、嫌気培養を行うことにより、マザースターター(pH6.64)を得た。
【0124】
<バルクスターターの調製>
大豆粉末溶液(乾燥重量で14%の大豆粉末を含む)80重量%、グルコース0.1重量%、L-アルギニン0.1重量%、精製水 残部を含む溶液(pH 7.48)5Lをオートクレーブ殺菌(121℃、15分間)し、バルクスターター培地を調製した。このスターター培地に、上記で得られたマザースターターを1容量%となるように接種して、37℃で15時間、好気条件下で静置培養を行うことにより、バルクスターター(pH6.72)を得た。
【0125】
<本発酵>
大豆粉末溶液(乾燥重量で14%の大豆粉末を含む)50重量%、ニンジン汁(宮崎農協果汁)6重量%、かぼちゃペースト(長野サンヨーフーズ)6重量%、精製水 残部を含む溶液(pH 6.78)200Lを二重管式殺菌機にて95℃、30秒間殺菌し、本発酵用培地を調製した。殺菌後回収した本発酵用培地に、上記で得られたバルクスターター4Lを接種して、37℃で15時間、好気条件下で静置培養を行うことにより発酵大豆液(pH4.56)を得た。
【0126】
<副原料混合、容器への充填>
大豆粉末溶液(乾燥重量で14%の大豆粉末を含む)65重量%、砂糖7.4重量%、ゲル化剤製剤FG2524(新田ゼラチン製)1.0重量%、グルコン酸0.8重量%、香料0.4重量%、L-アスコルビン酸0.1重量%、精製水 残部を含む溶液800Lを二重管式殺菌機にて95℃、30秒間殺菌し、副原料溶液を得た。この副原料溶液80重量部と上記で得られた発酵大豆液20重量部を37〜40℃で混合した。混合液の温度を維持したまま衛生的にポリエチレンカップ(満注容量130ml、口径71mm)に100g充填し、アルミ蓋でシールした。充填物は5℃の冷蔵庫に入れ、冷却固化させ、ラクトコッカス・ガルビエ生菌を含む発酵大豆食品(実施例1-1)を得た。
【0127】
2.発酵大豆食品(実施例1-2)の製造
マザースターター培地及びバルクスターター培地の調製において、乳酸を添加してpHを5.77に変更する以外は、実施例1と同条件で、マザースターターの調製、バルクスターターの調製、及び本発酵を行い、発酵大豆食品(実施例1-2)を製造した。
【0128】
3.各種評価
上記で得られた容器入りの発酵大豆食品について10℃で3週間保存した。調製直後、1週間後、2週間後、及び3週間後に、発酵大豆食品のpHを測定し、更に発酵大豆食品に含まれるラクトコッカス・ガルビエの菌数、及び発酵大豆食品に含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能の有無を以下の方法で評価した。また、上記で調製したマザースターター、バルクスターター及び本発酵後の発酵物についても、ラクトコッカス・ガルビエの菌数、及びそれぞれに含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能について同様に測定した。
【0129】
<ラクトコッカス・ガルビエの菌数の測定>
ラクトコッカス・ガルビエの生菌数の測定は、BCP加プレートカウント寒天培地(日水製薬株式会社製)を用いて37℃、72時間混釈培養を行い、生育したコロニー数を計測することにより求めた。
【0130】
<ラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能の有無の測定>
ダイゼインを10μg/mlの濃度で含む変法GAMブイヨン(日水製薬株式会社製)5mlに、発酵大豆食品を200μl添加して37℃で96時間、ガスパックにて嫌気培養を行った。次いで、得られた培養液をHPLCに供して、培養液中のエクオール量を定量した。HPLCによる分析は次の様にして実施した。先ず、培養液0.5 mlを酢酸エチル5.0 mlに加えて浸透抽出を行い、得られた抽出液を3000rpmにて10分間遠心し、上清を遠心エバポレーターにより溶媒を減圧乾固した。次いで得られた固形物を、1.0ml溶媒(移動相A/移動相B=50/50)にて再溶解してHPLCの検体に供した。HPLCの分析は、D7000シリーズ(日立製作所製)を使用し、カラムはCapcell Pack UGL205μm4.6Φ×250mm(資生堂製)を使用した。移動相は、移動相Aとして0.05%リン酸緩衝液(EDTA含有)と酢酸エチル-メタノール(1:10)を8:2で混合した溶液を使用し、移動相Bとして2%酢酸エチル含有メタノールした。グラジエント法で流速を1.0ml/分とした。検出はSPD-10AVP UV-VIS検出器を用い、検出波長は254nmと280nmとした。
【0131】
<ラクトコッカス・ガルビエの菌数及びエクオール産生能の測定結果>
結果を表1に示す。この結果から、マザースターター、バルクスターターのpHが5以上であれば、本発酵後の発酵物、発酵大豆食品のpHが4.6以下であってもエクオール産生能を保持したラクトコッカス・ガルビエを含む発酵大豆食品が製造できることが明らかとなった。なお、発酵大豆食品におけるラクトコッカス・ガルビエの菌数自体は、pHやエクオール産生能の有無にはさほど影響されず、長期間一定に保持されることも確認された。
【0132】
【表1】

【0133】
<呈味の評価>
実施例1-1では、調製直後の発酵大豆食品及び2、3、4週間保存後の発酵大豆食品も大豆の風味よく異味異臭もなく、食品として好適であった。また、実施例1-2でも同様に、調製直後の発酵大豆食品は、大豆の風味よく異味異臭もなく、食品として好適であった。なお、実施例1-2の発酵大豆食品については、保存後の呈味については試験しなかった。
【0134】
比較例1:発酵大豆食品の製造、及び発酵大豆食品の評価
マザースターターの調製において、グルコース添加量を0.1重量%から1.0重量%に変更すること以外は実施例1と同条件で、マザースターターの調製、バルクスターターの調製、及び本発酵を行い、発酵大豆食品(比較例1-1)を製造した。
【0135】
また、バルクスターターの調製において、グルコース添加量を0.1重量%から1.0重量%に変更すること以外は実施例1と同条件で、マザースターターの調製、バルクスターターの調製、及び本発酵を行い、発酵大豆食品(比較例1-2)を製造した。
【0136】
更に、マザースターター培地及びバルクスターター培地の調製において、乳酸を添加してpHを4.74に変更する以外は、実施例1と同条件で、マザースターターの調製、バルクスターターの調製、及び本発酵を行い、発酵大豆食品(比較例1-3)を製造した。
【0137】
比較例1-1及び1-2の発酵大豆食品のpH、ラクトコッカス・ガルビエの菌数、及びエクオール産生能の有無を実施例1と同様の方法で評価した。また、マザースターター、バルクスターター及び本発酵液についてもラクトコッカス・ガルビエの菌数、エクオール産生能の有無についても同様に測定した。
【0138】
結果を表2に示す。マザースターター調製においてpHが低下する培地を用いた比較例1-1では、ラクトコッカス・ガルビエの菌数には差が認められなかったが、エクオール産生能は喪失していた。引き続くバルクスターター、本発酵液調製、発酵大豆食品製造においても菌数、pH及び官能面で実施例1と大きな差は認められなかったが、エクオール産生能は回復しなかった。また、バルクスターター調製においてpHが低下する培地を用いた比較例1-2でも、ラクトコッカス・ガルビエの菌数には差が認められなかったが、エクオール産生能は喪失していた。引き続く本発酵、発酵大豆食品製造においても菌数、pH及び官能面で大きな差は認められなかったが、エクオール産生能は回復しなかった。更に、マザースターターとバルクスターター共に、pHが4.5程度になる培地を使用した比較例1-3でも、ラクトコッカス・ガルビエの菌数には差は認められないものの、エクオール産生能は喪失していた。
【0139】
【表2】

【0140】
実施例2:第2法による発酵乳の製造、及び発酵乳の評価
1.発酵乳の製造
エクオール産生能を有するラクトコッカス・ガルビエ(ラクトコッカス20-92株、FERM BP-10036号)を用いて、以下の条件で、マザースターターの調製、バルクスターターの調製、本発酵、及び容器への充填を行った。
【0141】
<マザースターターの調製>
脱脂粉乳10重量%、生クリーム6.67重量%、酵母エキス(「SK酵母エキスHi-K」、日本製紙ケミカル株式会社)0.1重量%、大豆胚軸抽出物(「ソヤフラボンHG」、不二製油株式会社;大豆胚軸抽出物中のダイゼイン類の含有割合は約37重量%)0.025重量%、精製水 残部を含む溶液(pH 6.14)500mLをオートクレーブ殺菌(115℃、15分間)し、マザースターター培地を調製した。このスターター培地に、ラクトコッカス20-92株の種菌を接種してGas Packにて37℃で24時間、嫌気培養を行うことにより、マザースターターを得た。
【0142】
<バルクスターターの調製>
脱脂粉乳10重量%、生クリーム6.67重量%、酵母エキス(「SK酵母エキスHi-K」、日本製紙ケミカル株式会社)0.1重量%、大豆胚軸抽出物(「ソヤフラボンHG」、不二製油株式会社)0.025重量%、精製水 残部を含む溶液10LをUHT(Ultra High Temperature)殺菌(140℃、4秒分間)し、バルクスターター培地を調製した。UHT殺菌後に回収したバルクスターター培地に、上記で得られたマザースターターを1v/v%となるように接種して、37℃で24時間、好気培養を行うことにより、バルクスターターを得た。
【0143】
<本発酵>
脱脂粉乳10重量%、生クリーム6.67重量%、酵母エキス(「SK酵母エキスHi-K」、日本製紙ケミカル株式会社)0.1重量%、大豆胚軸抽出物(「ソヤフラボンHG」、不二製油株式会社)0.025重量%、精製水 残部を含む溶液10LをUHT(Ultra High Temperature)殺菌(140℃、4秒分間)し、本発酵用培地を調製した。UHT殺菌後に回収した本発酵用培地に、上記で得られたバルクターターを1v/v%となるように接種して、37℃で24時間、好気培養を行うことにより、発酵乳を得た。
【0144】
<容器への充填>
上記本発酵により得られた発酵乳を、滅菌済みの600mL容の容器に無菌的に入れ、更に所定量の乳酸を容器内に無菌的に添加して混合した後に、容器を密閉した。
【0145】
2.発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能の評価
上記で得られた容器入り発酵乳のそれぞれについて10℃で74週間保存した。製造直後、2週間後、6週間後、及び74週間後に、発酵乳のpHを測定し、更に発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエの菌数、及び発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能の有無を、実施例1と同様の方法で評価した。また、上記で調製したマザースターター及びバルクスターターについても、ラクトコッカス・ガルビエの菌数、及び発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能についても、同様に測定した。
【0146】
結果を表3に示す。この結果から、発酵乳のpHが4.6以上であれば、エクオール産生能を保持したラクトコッカス・ガルビエを含む発酵乳が製造できることが明らかとなった。更に、ラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能は、発酵乳のpHが5.28以上であれば2週間、発酵乳のpHが5.79以上であれば6週間、発酵乳のpHが5.92以上であれば74週間、安定に保持されることも確認された。一方、発酵乳のpHが4.09及び3.53の場合には、調製直後であっても、ラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能が喪失されることが分かった。なお、発酵乳におけるラクトコッカス・ガルビエの菌数自体は、発酵乳のpHやエクオール産生能の有無にはさほど影響されず、長期間一定に保持されることも確認された。
【0147】
【表3】

【0148】
<呈味の評価>
製造直後の発酵乳(乳酸添加なし)及び74週間保存後の発酵乳(乳酸添加なし)はいずれも、酸味が少なくしかも飲み易く、食品として好適であった。
【0149】
実施例3:第2法による発酵乳の製造、及び発酵乳の評価
マザースターター培地、バルクスターター培地、及び本発酵用培地として、下記組成をベースとする培地に、表4に示す所定量の発酵促進剤を添加して調製したものを用いること以外は、上記実施例2と同条件で、マザースターターの調製、バルクスターターの調製、及び本発酵を行った。

【0150】
【表4】

【0151】
斯くして得られた発酵乳500gを滅菌済みの600mL容の容器に無菌的に入れて密封し、10℃で10週間保存した。
【0152】
製造直後、2週間後、4週間後、及び10週間後に、発酵乳のpHを測定し、更に発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエの菌数、及び発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能の有無を、実施例1と同様の方法で評価した。また、マザースターター及びバルクスターターについても、ラクトコッカス・ガルビエの菌数、及び発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能について、同様に測定した。
【0153】
得られた結果を表5に示す。この結果から、酵母エキス、ホエー加水分解物、又はカゼイン・酵母加水分解物を培地に添加することによって、ラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能を保持できることが確認された。特に、酵母エキス0.1重量%以上、或いはカゼイン・酵母加水分解物0.1重量%以上を含む場合であれば、発酵乳中のラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能を10週間以上もの長期に亘って安定に保持できることが明らかとなった。
【0154】
【表5】

【0155】
比較例2:発酵乳の製造、及び発酵乳の評価
マザースターターの調製において、好気培養すること以外は、実施例2と同条件で、マザースターターの調製、バルクスターターの調製、及び本発酵を行った。
【0156】
斯くして得られた発酵乳のpHを測定し、更に発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエの菌数、及び発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能の有無を、実施例2と同様の方法で評価した。また、マザースターター及びバルクスターターについても、ラクトコッカス・ガルビエの菌数、及び発酵乳に含まれるラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能について、同様に測定した。
【0157】
この結果、マザースターターを好気的条件で好気発酵させて製造すると、マザースターター中のラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能は維持されていたものの、最終的に得られる発酵乳製品では、ラクトコッカス・ガルビエのエクオール産生能は喪失していた。なお、マザースターターを好気発酵で調製しても、発酵乳中のpHとラクトコッカス・ガルビエの菌数については、マザースターターを嫌気発酵で調製した場合と同程度であった。
【0158】
実施例4:エクオール産生微生物のエクオール産生能の保持効果の評価
1.エクオール産生微生物含有組成物の製造
変法GAM培地(日水製薬株式会社)5mLに、ラクトコッカス・ガルビエ(ラクトコッカス20-92株、FERM BP-10036号)の種菌を接種してGas Packにて37℃で24時間、嫌気培養を行った。次いで、得られた培養物2mLを変法GAM培地(日水製薬株式会社)50mLに接種してGas Packにて37℃で24時間、嫌気培養を行った。さらに得られた培養物8mLを変法GAM培地(日水製薬株式会社)200mLに接種してGas Packにて37℃で24時間、嫌気培養を行った。
【0159】
得られた培養物を遠心分離(4500rpm×15分)して菌体を回収し、得られた菌を概ね1×108cfu/mLの菌濃度となるように、表6に示す組成の各飲料に添加して、エクオール産生微生物含有組成物を製造し、これを15mL容ポリプロピレンチューブ(IWAKI製)に10mLずつ分注した。
【0160】
【表6】

【0161】
1.保存後のエクオール産生能の評価
上記で得られた各エクオール産生微生物含有組成物を、10℃で21日間保存を行った。保存期間中に、各エクオール産生微生物含有組成物について、pH、菌数及びエクオール産生能の評価を行った。菌数の測定方法は、上記実施例1と同様である。また、エクオール産生能は、上記実施例1と同様の方法でHPLCによる分析を行い、下記の式に従ってエクオール変換率を算出した。
【0162】
【数1】

【0163】
pHの測定結果を表7に示す。また、菌数の測定結果を図1に示し、エクオールの産生能の測定結果を図2に示す。表7から明らかなように、いずれの飲料でも、保存しても製造直後のpHが維持されており、飲料中で雑菌が繁殖できないような環境が保持されていた。また、図1から明らかなように、各エクオール産生微生物含有組成物では、保存期間中の生菌数については殆ど差が認められなかった。一方、図2に示すように、アスコルビン酸を添加しなかったエクオール産生微生物含有組成物では、保存14日後には、エクオール産生能が喪失していたが、アスコルビン酸を添加したエクオール産生微生物含有組成物では、保存21日後でもエクオール産生能が維持されていた。特に、アスコルビン酸を1重量%又は2重量%で添加したエクオール産生微生物含有組成物では、エクオール産生能が極めて安定に保持されていることが確認された。
【0164】
【表7】

【0165】
実施例5:エクオール産生微生物のエクオール産生能の保持効果の評価
1.エクオール産生微生物含有組成物の製造
実施例1で使用したマザースターター培地と同組成の培地5mlに、ラクトコッカス20-92株の種菌を接種してGas Packにて37℃で96時間、嫌気培養を行うことにより、マザースターターを得た。
【0166】
次いで、実施例1で使用したバルクスターター培地と同組成の培地10mlに、上記で得られたマザースターター0.2mlを接種して15時間ガスパックを用いて37℃にて嫌気培養を行い、1次バルクスターターを得た。更に、実施例1で使用したバルクスターター培地と同組成の培地300mlに、上記で得られたマザースターター6mlを接種して15時間ガスパックを用いて37℃にて嫌気培養を行い、2次バルクスターターを得た。
【0167】
次いで、実施例1で使用した本発酵用培地と同組成の培地2000mlに、上記で得られた2次バルクスターター40mLを接種して、37℃で15時間、好気条件下で静置培養を行うことにより発酵大豆液を得た。
【0168】
得られた発酵大豆液に6種類の抗酸化剤を表8に示す通り添加して発酵製品を調製した後、紙カップに130gずつ充填し、アルミ蓋でシール密封した。これを10℃で保存し、0及び7日後に開封して、エクオール産性微生物の菌数とそのエクオール産生能を、実施例4と同様の方法で測定した。
【0169】
【表8】

【0170】
2.評価結果
エクオール産生微生物の菌数を測定した結果を表9に示し、エクオール産生能を測定した結果を表10に示す。保存開始時には、いずれの酸化防止剤を配合した場合であっても、エクオール産生能が認められた。しかしながら、保存7日後においてはアスコルビン酸を添加した発酵製品以外はすべてエクオール産生能が消失した。
【0171】
【表9】

【0172】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、発酵物の製造方法:
(1)ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含有する培地で、エクオール産生微生物を用いて、pH5.0以上を維持した状態で嫌気発酵を行うことにより、マザースターターを調製する工程、
(2)前記工程(1)で得られたマザースターターを用いて、前記ダイゼイン類を含有する培地で、pH5.0以上を維持した状態で発酵を行うことにより、バルクスターターを調製する工程、及び
(3)前記工程(2)で得られたバルクターターを用いて、大豆粉末及び/又は豆乳を含む培地で発酵を行うことにより、発酵物を得る工程。
【請求項2】
エクオール産生微生物が乳酸菌である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
エクオール産生微生物がラクトコッカス・ガルビエであるである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
以下の工程を含む、発酵物の製造方法:
(I)ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含有する培地で、エクオール産生微生物を用いて嫌気発酵することにより、マザースターターを調製する工程、及び
(II)前記工程(I)で得られたマザースターターを用いて、前記ダイゼイン類及び乳を含む培地で、pH4.6以上を維持した状態で発酵を行うことにより、発酵物を得る工程。
【請求項5】
ダイゼイン類として大豆胚軸抽出物が使用される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程(I)及び(II)で使用される培地が、更に酵母エキスを含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
エクオール産生微生物が乳酸菌である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
エクオール産生微生物がラクトコッカス・ガルビエであるである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法により得られる発酵物を含有する、発酵製品。
【請求項10】
請求項4乃至8のいずれかに記載の製造方法により得られる発酵物を含有する、発酵製品。
【請求項11】
pHが4.6以上である、請求項10に記載の発酵製品。
【請求項12】
(A)生菌の状態のエクオール産生微生物、並びに(B)アスコルビン酸、その誘導体、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、エクオール産生微生物含有組成物。
【請求項13】
上記(B)成分が0.05〜5重量%の配合割合で含まれる、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
pHが5.0以下である、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
生菌の状態のエクオール産生微生物として、エクオール産生微生物を用いて発酵した発酵物を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
発酵大豆飲料又は発酵豆乳である、請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
エクオール産生微生物が乳酸菌である、請求項12に記載の組成物。
【請求項18】
エクオール産生微生物がラクトコッカス・ガルビエであるである、請求項12に記載の組成物。
【請求項19】
生菌の状態のエクオール産生微生物を含む組成物に、アスコルビン酸、その誘導体、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を添加することを特徴とする、エクオール産生微生物のエクオール産性能の維持方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−83273(P2011−83273A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59904(P2010−59904)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【出願人】(000206945)大塚食品株式会社 (17)
【Fターム(参考)】