説明

エゼクタ

【課題】主流の流量に関わらず圧力制御性を向上することができるエゼクタを提供するものである。
【解決手段】ノズル吐出部122を有するノズル120と、ノズルと同軸に配置されるディフューザ110と、主流の状態量を調整可能なニードル130と、ニードルを収容可能なボディ150と、ニードルの位置を移動させるアクチュエータ140と、を備え、副流を主流に合流させて混合流を生成し、混合流をディフューザから送出するエゼクタ50において、ニードルは、先端部131と、先端部より径方向外側に膨出された胴部132と、を有し、ボディには、ノズル吐出部の開口面積と略同一の断面積で形成されるとともに、胴部の一部である圧力キャンセル部136を挿通可能な挿通孔153が形成され、ボディとアクチュエータとの間に背圧室160が形成され、ニードルには、背圧室とノズル吐出部の下流側との間を連通する連通孔137が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エゼクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体高分子電解質膜をアノードとカソードとで両側から挟み込んで形成されたセルを複数積層して構成された燃料電池スタックを備えた固体高分子膜型燃料電池が知られている。この固体高分子型燃料電池は、アノードに燃料として水素が供給され、カソードに酸化剤として空気が供給されて、アノードで触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を通過してカソードまで移動して、カソードで酸素と電気化学反応を起こして発電するようになっている。
【0003】
また、固体高分子電解質膜のイオン導電性を保つために、燃料電池スタックに供給される水素や酸素には加湿装置などによって水分が混合されている。その際、燃料電池スタックの電極内のガス流路に水が溜まって、このガス流路が塞がれることがないように、排出燃料には所定の排出流量が設定されている。
【0004】
ここで、エゼクタを用いて排出燃料を新たに燃料電池スタックに導入される燃料に混合して再循環させることで、燃料を有効に活用することができ、固体高分子膜型燃料電池のエネルギー効率を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
エゼクタは、外部からの動力を必要とせず、圧力エネルギーを利用して循環させるジェットポンプとしての機能を有する。このようなエゼクタは、テーパ状の内周面を有するディフューザと、ディフューザの基端開口に連接された副流室と、ディフューザと同軸に、副流室内に突き出すように配置されたノズルと、ノズルの軸中心に形成された開口部に挿通され軸方向に移動可能に構成されたニードルと、を備えている。エゼクタに供給される燃料は、ノズルからディフューザの基端開口に向かって噴射され、この高速の燃料流に引き込まれるようにして排出燃料が副流室内に導入される。そして、燃料と排出燃料とが混合流となってディフューザから送出されるように構成されている。このとき、ニードルが軸方向に移動することにより、燃料が通過する開口面積が可変するため、流量を調整することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−120441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、従来のエゼクタにおいては、ニードルが例えばステッピングモータにより軸方向に移動可能に構成されている。ところが、ニードルを電気駆動方式で移動させる場合には、流体の圧力制御が課題となる。特に、エゼクタでは、ノズルの下流側圧力をフィードバック制御して、主流の流量(開口面積)を決定するが、主流の流量が小流量の場合には、圧力制御が困難になるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、主流の流量に関わらず圧力制御性を向上することができるエゼクタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、主流が通過可能なノズル吐出部(例えば、実施形態におけるノズル孔122)を有するノズル(例えば、実施形態におけるノズル120)と、前記ノズルの下流側に、該ノズルと同軸に配置されるディフューザ(例えば、実施形態におけるディフューザ110)と、前記ノズルと同軸に配置され、該ノズルに対して位置を移動することにより前記主流の状態量を調整可能なニードル(例えば、実施形態におけるニードル130)と、前記ニードルを収容可能なボディ(例えば、実施形態におけるボディ150)と、前記ニードルの位置を移動させるアクチュエータ(例えば、実施形態におけるアクチュエータ140)と、を備え、前記ノズルを通過した前記主流により吸引作用が働く位置において、副流を前記主流に合流させて混合流を生成し、該混合流を前記ディフューザから送出するエゼクタ(例えば、実施形態におけるエゼクタ50)において、前記ニードルは、前記ノズル吐出部に挿通される先端部(例えば、実施形態における先端部131)と、前記ボディ内に収容され前記先端部より径方向外側に膨出された胴部(例えば、実施形態における胴部132)と、を有し、前記ボディには、前記ノズル吐出部の開口面積と略同一の断面積で形成されるとともに、前記胴部の一部である圧力キャンセル部(例えば、実施形態における圧力キャンセル部136)を挿通可能な挿通孔(例えば、実施形態における挿通孔153)が形成され、前記ボディと前記アクチュエータとの間に背圧室(例えば、実施形態における背圧室160)が形成され、前記ニードルには、前記背圧室と前記ノズル吐出部の下流側との間を連通する連通孔(例えば、実施形態における連通孔137)が形成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載した発明は、前記圧力キャンセル部は、断面円形のピストン状に形成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載した発明は、前記圧力キャンセル部は、軸方向に直交する断面積が前記ノズル吐出部の開口面積よりも大きく形成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載した発明は、前記ノズルは、軸に直交するように配された平板状のノズルボディ(例えば、実施形態におけるノズルボディ121)に前記ノズル吐出部が形成され、前記ノズル吐出部の周縁に前記ディフューザから離間する方向に突出した弁体(例えば、実施形態における弁体123)が設けられ、前記ニードルの前記胴部における前記弁体に対向する位置に、該弁体と当接離反可能に構成された弁座(例えば、実施形態におけるシート部材135)が配設されていることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載した発明は、前記主流が燃料電池(例えば、実施形態における燃料電池11)に供給される燃料ガスであり、前記副流が前記燃料電池から排出された排出燃料ガスであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載した発明によれば、背圧室の圧力とノズル吐出部の下流側の圧力とを略同一の圧力に釣り合わせることができ、主流の供給圧の影響をキャンセルすることができる。したがって、アクチュエータの作動にかかる力を極小化することができるため、アクチュエータの制御性を向上させることができ、圧力制御性を向上させることができる。その結果、主流の流量に関わらず圧力制御性を向上することができる。
【0015】
請求項2に記載した発明によれば、ニードルに対して軸方向に働く力をスムーズに釣り合わせることができる。したがって、アクチュエータの制御性を向上させることができる。
【0016】
請求項3に記載した発明によれば、圧力キャンセル部の断面積をノズル吐出部の開口面積よりも大きくすることにより、ノズル下流側の圧力が何らかの外乱で上昇したときに、ニードルを下流側方向(主流の流れを閉塞する方向)に移動させる力が働き、釣り合うため、常に吐出が安定系となって圧力制御性を向上させることができる。
【0017】
請求項4に記載した発明によれば、ニードルを軸方向に移動させることにより、ノズルボディとニードルの胴部との距離を可変することができる。つまり、主流が通過できる流路の大きさ(流路面積)を連続的に変化させることができ、主流の流量調整を容易に行うことができる。また、ニードルの胴部に弁座を設けて、締め切り構造として信頼性の高いフラットバルブとして機能する平板状のノズルボディに当接させることにより、上記効果に加え、流路を容易に締め切ることができる。
【0018】
請求項5に記載した発明によれば、エゼクタを用いて燃料電池から排出された排出燃料ガスを新たに燃料電池に導入される燃料ガスに混合して再循環させることで、燃料ガスを有効に活用することができ、上記効果に加え、燃料電池のエネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態における燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態におけるエゼクタの断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるエゼクタの作動原理を説明する部分拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態におけるエゼクタの圧力キャンセル部の外径とノズル孔の開口径との関係によって、ニードルにかかる力の変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態におけるエゼクタのニードルが上流側に位置した状態を示す部分拡大断面図である。
【図6】本発明の実施形態におけるエゼクタのニードルが下流側に位置した状態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。なお、本実施形態では燃料電池自動車における燃料電池システムの配管に取り付けたエゼクタについて説明をする。
【0021】
(燃料電池システム)
図1は燃料電池システムの概略構成図である。
図1に示すように、燃料電池システム10の燃料電池11は、水素ガスなどのアノードガスと空気などのカソードガスとの電気化学反応により発電を行う固体高分子膜型燃料電池である。燃料電池11に形成されたアノードガス供給用連通孔13(アノードガス流路21の入口側)にはアノードガス供給配管23が連結され、その上流端部には水素タンク30が接続されている。また、燃料電池11に形成されたカソードガス供給用連通孔15(カソードガス流路22の入口側)にはカソードガス供給配管24が連結され、その上流端部にはエアコンプレッサ33が接続されている。なお、燃料電池11に形成されたアノードオフガス排出用連通孔14(アノードガス流路21の出口側)にはアノードオフガス排出配管35が連結され、カソードオフガス排出用連通孔16(カソードガス流路22の出口側)にはカソードオフガス排出配管38が連結されている。
【0022】
また、水素タンク30からアノードガス供給配管23に供給された水素ガスは、レギュレータ(不図示)により減圧された後、エゼクタ50を通り、燃料電池11のアノードガス流路21に供給される。また、水素タンク30の下流側近傍には、電磁駆動式の電磁弁25が設けられており、水素タンク30からの水素ガスの供給を遮断することができるように構成されている。なお、本実施形態においては、エゼクタ50の上流側に接続されたアノードガス供給配管23を上流側アノードガス供給配管23Aとし、エゼクタ50の下流側に接続されたアノードガス供給配管23を下流側アノードガス供給配管23Bとする。
【0023】
また、アノードオフガス排出配管35は、エゼクタ50に接続され、燃料電池11を通過し排出されたアノードオフガスを再度燃料電池11のアノードガスとして再利用できるように構成されている。さらに、アノードオフガス排出配管35には、途中で2本の配管が分岐して設けられており、一方はドレイン排出配管36であり、他方はパージガス排出配管37である。ドレイン排出配管36およびパージガス排出配管37は、それらの下流でともに希釈ボックス31に接続されている。そして、ドレイン排出配管36には電磁駆動式のドレイン弁51が設けられており、パージガス排出配管37には電磁駆動式のパージ弁52が設けられている。また、アノードオフガス排出配管35とドレイン排出配管36との分岐地点には気液分離器としてキャッチタンク53が設けられている。
【0024】
次に、空気(カソードガス)はエアコンプレッサ33によって加圧され、カソードガス供給配管24を通過した後、燃料電池11のカソードガス流路22に供給される。この空気中の酸素が酸化剤として発電に供された後、燃料電池11からカソードオフガスとしてカソードオフガス排出配管38に排出される。カソードオフガス排出配管38は希釈ボックス31に接続され、その後、車外へと排気される。なお、カソードオフガス排出配管38には背圧弁34が設けられている。また、カソードガス供給配管24とカソードオフガス排出配管38との間には加湿器39が架け渡して設けられている。加湿器39によりカソードガスはカソードオフガスに含まれる水分の移動により加湿されるようになっている。
【0025】
また、エアコンプレッサ33と燃料電池11との間を繋ぐカソードガス供給配管24において、配管が分岐され掃気ガス導入配管54の一端が接続されている。掃気ガス導入配管54は、下流側アノードガス供給配管23Bに他端が接続されている。つまり、エアコンプレッサ33にて加圧された空気を燃料電池11のアノードガス流路21に供給できるようになっている。なお、掃気ガス導入配管54には電磁駆動式の電磁弁55が設けられており、エアコンプレッサ33からの空気の供給を遮断できるように構成されている。
【0026】
また、制御装置(ECU)45は、各種電磁弁などが電気的に接続されており、図示しない温度センサや圧力センサなどの検出結果に基づいて、各種弁の開閉などを実行することができるように構成されている。
【0027】
(エゼクタ)
次に、エゼクタ50の構造について説明する。
図2に示すように、エゼクタ50は、燃料電池11の空気極側における空気の圧力と、燃料電池11の燃料極側における燃料の圧力とに基づいて、燃料電池11へ供給する燃料の流量を制御するものであって、例えば、ディフューザ110と、ノズル120と、ニードル130と、アクチュエータ140と、ニードル130を収容するボディ150と、を備えている。
【0028】
ディフューザ110は、軸線方向に貫通する流体通路111が形成されており、該流体通路111は、その途中に内径が最小となるスロート部112を有し、このスロート部112よりも上流側には下流方向に進むにしたがって漸次連続的に縮径する内周面を有する絞り部113が形成されている。また、スロート部112よりも下流側には下流方向に進むにしたがって漸次連続的に拡径する内周面を有する拡径部114が形成されている。ここで、拡径部114の拡がり角度は上流側の絞り部113の拡がり角度よりも小さくなっている。また、流体通路111の下流側には、下流側アノードガス供給配管23Bが接続されている。
【0029】
また、ディフューザ110には軸線方向に沿って穴部115が形成されており、この穴部115の下流側が絞り部113に連通している。一方、穴部115の上流端には、ボディ150が連設されており、ディフューザ110とボディ150との間にノズル120が配されている。
【0030】
なお、ノズル120よりも下流側であって、絞り部113と穴部115とによって構成される空間は副流室116とされており、該副流室116には燃料電池11から排出されるアノードオフガスを導入するためのアノードオフガス排出配管35が接続されている。
【0031】
ノズル120は、金属製の平板状のノズルボディ121と、ノズルボディ121の略中央部に形成されたノズル孔122と、を有している。ノズル120は、ノズル孔122の軸中心と、ディフューザ110の軸中心とが略一致するように、後述するボディ150におけるディフューザ110との境界面に固定されている。さらに、ノズル孔122の周縁部には、後述するニードル130の胴部132に向かって突出した弁体123が形成されている。
【0032】
ディフューザ110(ノズル120)の下流側には、内部にガス流路151が形成されたボディ150が配されている。ボディ150はディフューザ110の上流側に連結されている。
【0033】
ガス流路151の壁面をなす内周面151Aは軸方向に沿って略円筒状に形成されている。ガス流路151の下流端には、ノズル120がそのノズルボディ121でガス流路151の一部を閉塞するように配されており、ガス流路151とノズル120に形成されたノズル孔122とが連通するように配されている。
【0034】
また、ガス流路151内にはニードル130が配されており、ニードル130はアクチュエータ140によってディフューザ110の流体通路111と同軸の軸方向に対して移動可能に保持されている。また、ガス流路151には、水素タンク30から供給されるアノードガスを導入するための上流側アノードガス供給配管23Aが接続されている。
【0035】
ここで、ニードル130は、ノズル120のノズル孔122に対して軸方向に挿通可能に構成された先端部131と、先端部131よりも径方向に拡張されガス流路151内に配される胴部132と、を有している。なお、先端部131と胴部132との境界には段差部133が形成されている。また図3に示すように、胴部132におけるノズル120と対向する面には、ゴムなどの弾性体で形成されたシート部材135が設けられている。シート部材135は、正面視略リング状に形成されており、先端部131の外周を取り囲むように配されている。そして、シート部材135は、ノズル120の弁体123と当接離反することができる位置に設けられている。
【0036】
また、ニードル130の先端部131には、軸方向先端側(下流側)に向かうにしたがって漸次連続的に縮径するテーパ部134が形成されている。このテーパ部134によりノズル孔122から噴射されるアノードガスを整流することができる。
【0037】
また、ノズル120のノズル孔122において、ニードル130の先端部131が軸線方向に移動することで、ノズル120のノズル孔122から突出するニードル130の先端部131の突出量が変更させられる。これに伴い、ガス流路151におけるニードル130の段差部133とノズル120のノズルボディ121との間隙の距離が変更させられ、ノズル120のノズル孔122から副流室116内に噴射されるアノードガスの流量が調整可能とされている。
【0038】
ここで、図2に示すようにニードル130における先端部131の軸方向反対側は、アクチュエータ140に連結されている。アクチュエータ140は、例えばソレノイドで構成されており、ニードル130を軸方向に移動できるように構成されている。ここで、アクチュエータ140とボディ150との間には、密閉された空間の背圧室160が形成されている。
また、ニードル130の先端部131におけるノズル孔122の下流側に対応する位置と、背圧室160とを連通する連通孔137が、ニードル130の内部に形成されている。
【0039】
さらに、ボディ150におけるガス流路151が形成された部分の軸方向アクチュエータ140側には、ニードル130の胴部132を挿通可能な断面円形の挿通孔153が形成されている。この挿通孔153には、ニードル130の胴部132の一部である圧力キャンセル部136が挿通されている。挿通孔153の内径と圧力キャンセル部136の外径とは略同一に構成されており、圧力キャンセル部136は、挿通孔153内を軸方向にピストン状に移動できるようになっている。つまり、圧力キャンセル部136により、ガス流路151と背圧室160とが仕切られており、それぞれの圧力は、ガス流路151内がアノードガスの供給圧に保持され、背圧室160がノズル孔122の下流側の圧力に保持されている。
【0040】
そして、挿通孔153の内径は、ノズル孔122の内径よりも若干大きくなるように形成されている。
【0041】
次に、エゼクタ50の作動原理について、図3を用いて具体的に説明する。
まず、図3に示すように、各パラメータを設定する。アクチュエータ140のスプリング力をFs、アクチュエータ140にかかる力をFa、アノードガスの供給圧をPs、ノズル孔122の下流側の圧力をPb、ノズル孔122の開口径をAv、圧力キャンセル部136の外径をApと設定する。すると、力の釣り合い式は、下記の式(1)になる。
【0042】
Fs−Fa+Pb(Ap−Av)+Ps(Av−Ap)=0 …(1)
【0043】
なお、上記(1)式においては、ニードル130がノズル孔122を閉じる方向(先端側方向)を正としている。
【0044】
したがって、Ap=Avの場合は、Fs=Faとなる。つまり、ノズル孔122の開口径Avと圧力キャンセル部136の外径Apとが同じ場合には、完全にアノードガスの供給圧Psおよびノズル孔122の下流側圧力Pb(背圧室150の圧力Pb)の影響がキャンセルされ、Fs=Faの位置で釣り合うこととなる。
【0045】
仮に、背圧室160が無い場合は、Ap=0であるため、Fa=Fs+Av(Ps−Pb)となり、アクチュエータ140には、アノードガスの供給圧Psによる力とアクチュエータ140のスプリング力Fsに打ち勝つ力が常に必要となる。
【0046】
次に、圧力制御について図4を用いて検証する。ここで、アノードガスの供給圧Psおよびアクチュエータ140のスプリング力Fsは一定とする。また、Fa−Fs=Fとして、ノズル孔122の下流側圧力(背圧室160の圧力)Pbの変化に伴い、ニードル130に働く力Fの変化を考察する。
【0047】
上記(1)式を変形すると、Fa−Fs=F=(Pb−Ps)(Ap−Av)との式が導かれ、さらに、下記(2)式が導かれる。
【0048】
【数1】

【0049】
なお、ニードル130に働く力Fは、ノズル孔122を閉じる方向(先端側方向)を正としている。
【0050】
まず、圧力キャンセル部136の外径Ap>ノズル孔122の開口径Avの場合(図4の線分(1)の場合)、ノズル孔122の下流側の圧力(背圧室160の圧力)Pbが上昇すると、ニードル130を軸方向先端側(ディフューザ110側)に移動させる力が加わり、アノードガスの流量を少なくしようとする。つまり、自己安定系の制御をすることができる。
【0051】
続いて、圧力キャンセル部136の外径Ap=ノズル孔122の開口径Avの場合(図4の線分(2)の場合)、ノズル孔122の下流側の圧力(背圧室160の圧力)Pbが変動してもニードル130には力がかからないため、能動制御によりアノードガスの流量を変動させる必要がある。
【0052】
続いて、圧力キャンセル部136の外径Ap<ノズル孔122の開口径Avの場合(図4の線分(3)の場合)、ノズル孔122の下流側の圧力(背圧室160の圧力)Pbが上昇すると、ニードル130を軸方向後端側(アクチュエータ140側)に移動させる力が加わり、アノードガスの流量を多くしようとする。したがって、余計に圧力が上昇してしまい、自己発散系の制御になる。
【0053】
したがって、上記検証より、圧力キャンセル部136の外径Ap>ノズル孔122の開口径Avとなるように、つまり、圧力キャンセル部136の外径をノズル孔122の開口径Avよりも若干大きく設定することにより、ノズル孔122の下流側の圧力(背圧室160の圧力)Pbの変動時に、安定方向に調圧しやすくすることが可能である。
【0054】
次に、アノードガスの流量調整方法について、図5、図6を用いて具体的に説明する。
図5に示すように、アクチュエータ140によりニードル130が上流側に移動した状態では、アノードガスがガス流路151を通過してディフューザ110に送出される。具体的には、上流側アノードガス供給配管23Aからボディ150のガス流路151に供給されたアノードガスは、ガス流路151の内周面151Aとニードル130の胴部132の外周面との隙間を通過し、その後、ノズル120のノズルボディ121とニードル130の段差部133との隙間を通過する。そして、アノードガスは、ノズル120のノズル孔122とニードル130の先端部131との隙間を通過して、ディフューザ110側へ噴射される。ここで、噴射されたアノードガスは、ニードル130のテーパ部134により整流される。このとき、高速のアノードガスが流通するディフューザ110のスロート部112の近傍において負圧が発生し、この負圧により副流室116内にアノードオフガスが引き込まれ、ノズル120から噴射されたアノードガスと混合してディフューザ110の下流端から下流側アノードガス供給配管23Bに送出される。このように、燃料電池11から排出されたアノードオフガスは、可変流量エゼクタ50を介して循環させられている。また、このとき、ニードル130に形成した連通孔137により、背圧室160の圧力とノズル孔122の下流側の圧力とが略同一の圧力に釣り合っている。
【0055】
一方、図6に示すように、アクチュエータ140によりニードル130が最も下流側に移動した状態では、ノズル120の弁体123とニードル130の胴部132に設けられたシート部材135とが当接される。この状態においては、アノードガスが流通する流路が閉塞されるため、アノードガスがノズル120のノズル孔122から噴射されることはない。また、このとき、ニードル130に形成した連通孔137により、背圧室160の圧力とノズル孔122の下流側の圧力とが略同一の圧力に釣り合っている。
【0056】
このように、アクチュエータ140によりニードル130を軸方向に移動させることで、アノードガスの流量を調整するのみならず、完全に締め切ることもできる。また、ニードル130を軸方向に移動させることで、アノードガスが流通する流路の面積(ノズル120のノズルボディ121とニードル130の段差部133との隙間)を連続的に調整することができるため、アノードガスの流量を連続的に調整することができる。
【0057】
本実施形態のエゼクタ50によれば、ニードル130に連通孔137を形成したため、背圧室160の圧力とノズル孔122の下流側の圧力とを略同一の圧力に釣り合わせることができ、ニードル130をアクチュエータ140で軸方向に移動させる際に、アノードガスの供給圧Psの影響をキャンセルすることができる。したがって、アクチュエータ140の作動にかかる力を極小化することができるため、アクチュエータ140の制御性を向上させることができる。その結果、アノードガスの流量に関わらず圧力制御性を向上することができる。
【0058】
また、ニードル130の胴部132に形成した圧力キャンセル部136を断面円形のピストン状に構成したため、ニードル130に対して軸方向に働く力をスムーズに釣り合わせることができる。したがって、アクチュエータ140の制御性を向上させることができる。
【0059】
また、圧力キャンセル部136の外径Apをノズル孔122の開口径Avよりも大きくすることにより、ノズル122の下流側の圧力Pbが何らかの外乱で上昇したときに、ニードル130を下流側方向(アノードガスの流れを閉塞する方向)に移動させる力が働き、釣り合うため、常に吐出が安定系となって圧力制御性を向上させることができる。
【0060】
さらに、ノズル120に弁体123を形成したため、ノズル120とニードル130とを確実に当接させることができ、より確実に流路径を締め切り状態から全開状態まで連続的に変化させることができる。さらに、ニードル130にシート部材135を設けたため、ノズル120とニードル130とが当接したときのシール性能を向上させることができる。つまり、流路の締め切り性能を向上させることができる。
【0061】
そして、エゼクタ50を用いて燃料電池11から排出された副流となるアノードオフガス(排出燃料ガス)を新たに燃料電池11に導入されるアノードガス(燃料ガス)に混合して再循環させることで、燃料ガスを有効に活用することができ、燃料電池11のエネルギー効率を向上させることができる。
【0062】
なお、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な構造や形状などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
11…燃料電池 50…エゼクタ 110…ディフューザ 120…ノズル 121…ノズルボディ 122…ノズル孔(ノズル吐出部) 123…弁体 130…ニードル 131…先端部 132…胴部 133…段差部 134…テーパ部 135…シート部材(弁座) 136…圧力キャンセル部 137…連通孔 140…アクチュエータ 150…ボディ 153…挿通孔 160…背圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主流が通過可能なノズル吐出部を有するノズルと、
前記ノズルの下流側に、該ノズルと同軸に配置されるディフューザと、
前記ノズルと同軸に配置され、該ノズルに対して位置を移動することにより前記主流の状態量を調整可能なニードルと、
前記ニードルを収容可能なボディと、
前記ニードルの位置を移動させるアクチュエータと、を備え、
前記ノズルを通過した前記主流により吸引作用が働く位置において、副流を前記主流に合流させて混合流を生成し、
該混合流を前記ディフューザから送出するエゼクタにおいて、
前記ニードルは、前記ノズル吐出部に挿通される先端部と、前記ボディ内に収容され前記先端部より径方向外側に膨出された胴部と、を有し、
前記ボディには、前記ノズル吐出部の開口面積と略同一の断面積で形成されるとともに、前記胴部の一部である圧力キャンセル部を挿通可能な挿通孔が形成され、
前記ボディと前記アクチュエータとの間に背圧室が形成され、
前記ニードルには、前記背圧室と前記ノズル吐出部の下流側との間を連通する連通孔が形成されていることを特徴とするエゼクタ。
【請求項2】
前記圧力キャンセル部は、断面円形のピストン状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエゼクタ。
【請求項3】
前記圧力キャンセル部は、軸方向に直交する断面積が前記ノズル吐出部の開口面積よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のエゼクタ。
【請求項4】
前記ノズルは、軸に直交するように配された平板状のノズルボディに前記ノズル吐出部が形成され、
前記ノズル吐出部の周縁に前記ディフューザから離間する方向に突出した弁体が設けられ、
前記ニードルの前記胴部における前記弁体に対向する位置に、該弁体と当接離反可能に構成された弁座が配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエゼクタ。
【請求項5】
前記主流が燃料電池に供給される燃料ガスであり、前記副流が前記燃料電池から排出された排出燃料ガスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエゼクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−140907(P2011−140907A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2020(P2010−2020)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】