説明

エタノールとX線不透過性の脂溶性化合物とを含む注入用粘稠医薬製剤

本発明は、エタノールと少なくとも1種の少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物とを含み、さらに、溶解したとき、25℃で10〜700cP、好ましくは90〜350cP範囲の粘度を有して塞栓形成作用誘発性ゲルをもたらすエタノール可溶性化合物を含み、エタノールが70〜99容量%、好ましくは90〜99容量%範囲の純度を有して硬化作用をもたらすことを特徴とする注入用医薬製剤に関連する。本発明は、静脈血管腫のような静脈奇形の治療においてとりわけ有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールとX線不透過性の脂溶性化合物とを含む注入用粘稠医薬製剤に関する。さらに詳細には、本発明は、限定するものではないが、静脈血管腫のような静脈奇形の治療において有用である。
【背景技術】
【0002】
一般に、静脈奇形は、傾斜位置において膨張している青みを帯び締りのない圧縮性の腫脹または肉体労作(physical exertion)に特徴を有する。静脈奇形は、多かれ少なかれ嵩だかであり、到達するのが困難な領域または外科切除が厄介または実施不能な悪化性領域に位置し得る。
純粋エタノールは、そのような奇形を、経皮的経路を使用し奇形を硬化させることにより処置するために提案された。その有効性に議論の余地はないが、純粋エタノールを取扱う場合、以下の理由により、有意の安全上の問題が存在する:
‐硬化剤(sclerosing agent)は液体形であり、病理領域を超えるその拡散は、以前の血管造影図群に基づく奇形内での注射針の正確な位置付けを注意深くチェックしても僅かに部分的にしか制御されない;
‐硬化剤は放射線不透過性ではなく、硬化剤が到達した領域を注入中または注入後のいずれにおいても制御し得ない;
‐静脈奇形中へのエタノール注入に直接関連している稀であるが重篤な一般毒性および心臓毒性症例が報告されている。
純粋エタノールの安全性と有効性を改善するために、エタノールと、粘稠製剤をもたらす化合物、例えば、エチルセルロース、デキストリンまたはこれらの誘導体との混合物の使用が提案されている。そのような混合物はゲルを生成し、その2つの主な利点は以下のとおりである:
‐針を使用してゲルを静脈奇形中に注入する;望ましくない領域へのゲル拡散は、純粋エタノールによる同じ状況と比較したとき、有意に抑制される;
‐上記ゲルは、その物理的性質故に、注入部位近くに留まり、はるかに強力な硬化作用を生じる。同じ結果を得るのに必要な量は、純粋エタノールと比較したとき、大いに低減され、従って、一般毒性のリスクは低下する。
しかしながら、このゲルは、以下の2つの有意な欠点を被る:
‐放射線不透過性ではない;
‐硬化用混合物(エタノールとエチルセルロース)の自然凝集が、血管放射線医学において伝統的に使用される水溶性造影剤との接触時に発生し、この凝集は、ゲルが注入針中を通るのを困難にし、カテーテル中に入るのを不可能にさえする。
【発明の開示】
【0003】
本発明の目的は、そのような欠点を補うことである。
本発明の目的においては、エタノールと少なくとも1種の少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物とを含む注入用医薬製剤を提供する。
本発明によれば、この製剤は、溶解したときに25℃で10〜700cP、好ましくは90〜350cP範囲の粘度を有して塞栓形成作用誘発性ゲルをもたらすエタノール可溶性化合物をさらに含み、且つエタノールが70〜99容量%、好ましくは90〜99容量%範囲の純度を有して硬化作用をもたらすことに特徴を有する。
“cP”は、動粘度測定単位、即ち、10-3パスカル/秒(Pa.s)に相当するセンチポイズであることに留意すべきである。
勿論、エタノール中に溶解したとき、25℃で10〜700cP、好ましくは90〜350cP範囲の粘度を有する上記化合物は、少なくとも1種の少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物を含む。これらの化合物は、互いに対して不活性である。
活性剤を本発明の製剤に混入し得る。
さらに正確には、この製剤は、少なくともエタノールを含む粘稠相と上記少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物を含む脂溶性相とをベースとするエマルジョンからなり得る。
本発明の上記製剤は、10容量%〜50容量%の上記少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物を含み得る。
有利には、エマルジョン中に存在する微粒子の数が多いほど、混合物はより均質であり、その後の混合物追跡が注入後に容易である。
上記エマルジョンは、上記少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物に上記製剤の製造終了時点または手術直前に混入することによって調製し得る。
【0004】
上記少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物は、非金属化合物であり得る。
そのような非金属化合物は、ヨウ素脂肪酸エチルエステルのようなハロゲン化脂肪酸エステルであり得る。
有利には、皮膚近くに存在し、多くの場合、主として美的理由により処置する静脈奇形の場合、非金属化合物は、金属化合物によって生じるであろう如何なる黒い皮膚汚染も回避するのを可能にする。
溶解したとき、25℃で10〜700cP、好ましくは90〜350cP範囲の粘度を有する上記化合物は、下記の特性をもたらすように選定し得る:
‐製剤の注入性故に生体適合性である;
‐混合物粘度を少量においてさえも増大させるに十分であるような増粘力を有する;
‐処置領域の如何なる外科的切除も回避するように、現場生分解性誘導体を有する;
‐均質な製剤を得るためには、低温エタノール中で溶解性である;
‐製剤の安全性を損なわないように、あるにしても極めて僅かな局所および/または全身毒性作用しか有さず、さらに、場合によっては、エタノールを希釈しないように、液体形よりはむしろ粉末状である。
25℃で10〜700cP、好ましくは90〜350cP範囲の粘度を有する上記化合物は、エチルセルロースであり得る。
エチルセルロースは、製剤総質量と比較したとき、0.5〜30質量%、好ましくは5〜18質量%で変動する量で存在し得る。
従って、本発明の製剤は、全てのプロセス段階における使用の安全性並びに安定で且つ選択性の硬化を発生させる能力に及ぶ主要な必要基準を満たす。
以下、非限定的な例示とみなす本発明の特定の実施例を、添付図面を参照して説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
製剤の製造
種々のエチルセルロース濃度(Aqualon 100 NFR、Hercules社)を有する数種の製剤を、それぞれ、70〜99容量%純度、好ましくは95容量%純度(d = 0,8)を有する15mLのエタノール中に、0.15、0.45および0.75g、即ち、製剤総質量と比較したときに1.22、3.61および5.88質量%を溶解することによって調製した。最高のエチルセルロース濃度を有する製剤を選択した。各フラスコへの分配中に2.5%の損失、即ち、40個のフラスコにおいて205mLのCologneスピリット(容量%)と10.25gのエチルセルロースの損失を考慮した。より一般的には、エチルセルロースは、製剤の総質量と比較したとき、5〜18質量%の範囲、好ましくは5.88質量%の量で存在する。
グッドプラクティス(good practices) (Bonnes Pratiques de Fabrication (1998))に従い、調製法は、3工程、即ち、ゲルの調製、無菌分配および最終パッケージにおける生成物の滅菌を含む。第1の工程においては、賦形剤(エチルセルロース)を、滅菌グラウンドネック(ground neck)フラスコ内で、エタノールと電磁撹拌下に高温混合し、完全に溶解するまで還流させた。全体を、撹拌下に、15分間還流せしめ、次いで、全体が冷却するまで撹拌下に置いてアルコールをフラスコ内で再濃縮させた。その後、再状態調節を、5mL容量の滅菌密閉フラスコ(Bioblock 42065)内の水平層状空気流フードにより行った。最後に、ヨーロッパ薬局方に推奨されているようにして、各フラスコを、オートクレーブ内で、飽和水蒸気下に121℃で12分間滅菌した。
製剤を製造する最終工程は、ヨウ素脂肪酸エチルエステル(フランスのLaboratoire Guerbet社)のような脂溶性不透明化物質を変動する量で添加して、例えば、総容量の約10容量%〜50容量%の良好な不透明度を得ることからなっていた。
この物質(脂溶性相)はエタノールとエチルセルロースの混合物(粘稠相)と混和性でないので、2つの相を撹拌することにより、エマルジョン(その粒度は使用した撹拌に依存する)を生成させた。粒子が最高に微細であるほど、注入混合物はより均質であり、従って、注入量の追跡を比例的に拝領することに留意すべきである。
この最終添加は、例えば、注入前のシリンジ内で実施し得る。
さらにまた、この物質は、不活性であり少量で使用するので、添加する前の製剤につい行った試験の以下で示す結果を有意には変化させない。
【0006】
試験
製剤適合性を、滅菌性、化学および物理化学試験によりチェックした。
ヨーロッパ薬局方により推奨されているようにして、可能性ある汚染物発現は、好気性菌については4mlの上記製剤を250mLのトリプチカーゼソイ培地中に種付けし、嫌気性菌についてはチオグリコレートを、そして、酵母についてはサブレー(Sabouraud)培地を使用することによって管理した。滅菌性試験の結果は、製剤中の汚染物の不存在を確証していた。
アルコール含有量は、サンプルを希釈し内部標準、プロパノール-1を混入した後、炎イオン化検出器を使用し、ガスクロマトグラフィーによって測定した。分離は、Delsi
DN200装置上での担体ガスとしての窒素(1.2バール)により、Porapak Qカラム(80〜100メッシュ、3m長)において実施した。結果として、アルコール投与は、802g.L-1を示した。
粘度添加剤の特定の投与は行わなかったが、その濃度は、エタノールを110℃の温度調節容器内で一定のサンプル質量まで蒸発させることからなる乾燥固形分法を使用して評価した。この乾燥固形分法は、エチルセルロース理論濃度を試験で測定した濃度、即ち、サンプル総質量の5.88質量%によって補正することを可能にした。
製剤粘度は、Baume粘度計とも称する毛細管粘度計(Prolabo社)によって測定した。数群の試験を、種々の温度および製剤を増粘させることによる種々の濃度において実施した。
粘度測定値は、一定温度において、製剤粘度とエチルセルロース含有量が幾何学級数的に増大することを示していた(図1)。対照的に、製剤粘度は、温度の上昇につれてさらに幾何学級数的に低下していた(図2)。
結論として、物理化学安定性分析を、製剤を定義するパラメーター、即ち、粘度並びにエタノールおよび粘度剤量の経時的進展を測定することによって実施した。測定は、1日目(D1)で行い、その後、8日後(D8)、15日後(D15)および30日後(D30)において繰返した。
【0007】
結果は、下記の表1に示している。3%よりも低い変動係数は、D30までの混合物安定性を実証しており、これによって、製剤の有効期限を決定するのが可能である。

表1:時間に対する物理化学パラメーター

【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】総質量基準でのエチルセルロース質量%で表す濃度に応じたセンチポイズで表したときの粘度値を示すグラフである。
【図2】温度(℃)に応じたセンチポイズで表したときの粘度値を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールと少なくとも1種の少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物とを含み、さらに、溶解したとき、25℃で10〜700cP、好ましくは90〜350cP範囲の粘度を有して塞栓形成作用誘発性ゲルをもたらすエタノール可溶性化合物を含み、エタノールが70〜99容量%、好ましくは90〜99容量%範囲の純度を有して硬化作用をもたらすことを特徴とする注入用医薬製剤。
【請求項2】
前記化合物が、溶解したとき、10〜700cP範囲の粘度を有し、前記エタノールと少なくとも1種の少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物とが互いに対して不活性である、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
前記製剤が、少なくともエタノールを含む粘稠相と、前記少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物を含む脂溶性相とをベースとするエマルジョンからなる、請求項1記載の製剤。
【請求項4】
前記製剤が、約10容量%〜50容量%の前記少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物を含む、請求項1記載の製剤。
【請求項5】
前記少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物が、非金属化合物である、請求項1記載の製剤。
【請求項6】
前記少なくとも部分的にX線不透過性の脂溶性化合物が、ハロゲン化脂肪酸エステルである、請求項5記載の製剤。
【請求項7】
前記ハロゲン化脂肪酸エステルが、ヨウ素脂肪酸エチルエステルである、請求項6記載の製剤。
【請求項8】
溶解したとき、25℃で10〜700cP範囲の粘度を有する前記化合物が、下記の特徴を有する、請求項1記載の製剤:
‐前記化合物は、生体適合性である;
‐前記化合物は、少量においてさえも混合物粘度を十分に増大させる増粘力を有する;
‐前記化合物は、現場生分解性誘導体を含む;
‐前記化合物は、冷エタノールに可溶性である;
‐前記化合物は、最大限に低減させた局所および/または全身毒性作用を有する。
【請求項9】
溶解したとき、25℃で10〜700cP範囲の粘度を有する前記化合物が、粉末状である、請求項1記載の製剤。
【請求項10】
溶解したとき、25℃で10〜700cP範囲の粘度を有する前記化合物が、エチルセルロース、デキストリンまたはこれらの誘導体である、請求項1〜9のいずれか1項記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−510035(P2009−510035A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532830(P2008−532830)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002213
【国際公開番号】WO2007/036646
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(508097951)
【出願人】(508097939)
【出願人】(508097940)
【Fターム(参考)】