説明

エタロンフィルタ及びエタロンフィルタの設計方法

【課題】より所望のFSRに近いFSRを得ることが可能なエタロンフィルタを提供する。
【解決手段】エタロンフィルタ1は、基板3と、基板3の入出射面に配置された第1反射膜5A及び第2反射膜5Bとを有する。基板の厚みdは、一般に知られている理論式FSR=c/2ndに基づいて得られる厚みdよりも小さい。なお、cは光速、nは前記基板の屈折率である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザシステムや光通信システムに用いられるエタロンフィルタ及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソリッドエタロンフィルタは、基板と、その基板の入出射面に設けられた反射膜とにより構成され、周期的な透過波形を示し、m次のピーク波長λ(ピーク振動数ν)において光の透過率が急峻に上昇するフィルタである。その透過ピークの振動数間隔であるFSR(Free Spectral Range)は、一般に、以下の(1)式により求められるとされている。
【0003】
【数1】

ただし、cは光速、nは基板の屈折率、dは基板の厚み、θは基板内の光の屈折角度である。
【0004】
特許文献1は、透過波形位置の波長にすることは、基板の厚みdを正確に調整することが重要であり、その一方で、基板の厚みdを光学研磨によって精密に調整することは難しいことに言及している。そして、特許文献1は、基板と同一の屈折率を有する材料を基板の入射面若しくは出射面に成膜することにより、実質的に基板の厚みdを高精度で調整することを提案している。
【0005】
特許文献2は、MD特性の仕様を満足させるためには、平行度を10″〜30″以内の精度で研磨すること、またFSR特性は、板厚の誤差を±1〜3μm程度の精度で加工することが必要であると言及している。なお、上述したような仕様を満足するためには、極めて優れた研磨技術が必要であるとも言及しており、機械加工により研磨した基板に基板と同等の屈折率を有する薄膜を形成することにより、MD特性の改善とFSR特性の微調整を行うことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−208022号公報
【特許文献2】特開2006−292911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本願発明者の鋭意検討の結果、(1)式に基づいて基板の厚みdを設計した場合、仮に基板の厚みdを正確に調整して基板を製造できたとしても、FSRは所望の値にはならないことが分かった。すなわち、特許文献1及び2のように、実質的に基板の厚みdを高精度に調整して厚みdを設計上の厚みに一致させたとしても、所望のFSRは得られない。
【0008】
本発明の目的は、より所望のFSRに近いFSRを得ることが可能なエタロンフィルタ及びその設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るエタロンフィルタは、基板と、当該基板の入出射面に配置された第1反射膜及び第2反射膜とを有し、前記基板の厚みdが、以下のように算出される厚みdおよび厚みdよりも小さいエタロンフィルタ。
厚みd
下記(I)式に対する、c、n、θ及びFSRの代入により得られる。
【0010】
【数2】

ただし、cは光速、nは前記基板の屈折率、θは前記基板中の屈折角度、FSRは当該エタロンフィルタの設計上のFSRである。
厚みd
下記(II)式及び(III)式において波長λを変数として算出される透過係数Tの極大値間の波長間隔から求められるFSRcalが、当該エタロンフィルタのFSRに一致するように求められる。
【0011】
【数3】

ただし、A及びAは前記第1反射膜及び前記第2反射膜の吸収係数、R及びRは前記第1反射膜及び前記第2反射膜の反射係数である。
【0012】
好適には、前記基板の厚みdが、前記第1反射膜及び前記第2反射膜が設けられていないと仮定した場合において前記FSRが得られる前記基板の厚みdよりも小さい。
【0013】
好適には、前記厚みdは、下記(IV)式に対するλ、λm+L、n、nm+LおよびLの代入により得られる。
【0014】
【数4】

ただし、λは、当該エタロンフィルタの使用波長範囲における第1ピーク波長、λm+Lは、当該エタロンフィルタの使用波長範囲における最終ピーク波長、nは第1ピーク波長λにおける前記基板の屈折率、nm+Lは、最終ピーク波長λm+Lにおける前記基板の屈折率、Lは、第1ピーク波長λから最終ピーク波長λm+Lまでの波長間隔の数である。
また、各ピーク波長は、前記第1反射膜及び前記第2反射膜が設けられていないと仮定した場合において前記FSRが得られるピーク波長である。
【0015】
好適には、前記厚みdは、前記第1反射膜及び前記第2反射膜の合計の厚みをdとしたときに、d−dよりも大きい。
【0016】
好適には、前記第1反射膜及び前記第2反射膜それぞれは、複数の薄膜が積層されて構成されている。
【0017】
本発明の一態様に係るエタロンフィルタの設計方法は、基板と、当該基板の入出射面に配置された第1反射膜及び第2反射膜とを有し、前記第1反射膜及び前記第2反射膜それぞれが、複数の薄膜が積層されて構成されているエタロンの設計方法であって、前記基板の厚みdをパラメータとして含む下記のFSR算出法によりFSRcalを算出し、算出したFSRcalと所望のFSRtとの比較に基づいて前記基板の設計上の厚みdを決定するエタロンの設計方法。
FSR算出法:
前記基板及び前記複数の薄膜をm層の媒質からなる多層構造体と捉え、j番目(1≦j≦m)の媒質の特性行列Mjを下記(V)及び(VI)式により算出するものとする。
【0018】
【数5】

ただし、λは波長、nはj番目の媒質の屈折率、dはj番目の媒質の厚み、θはj番目の媒質中の屈折角、δはj番目の媒質の位相である。
前記多層構造体の特性行列Mを下記(VII)式により算出するものとする。
【0019】
【数6】

そして、前記多層構造体の透過係数Tを下記(VIII)式により算出するものとする。
【0020】
【数7】

ただし、n及びnはそれぞれ、m層の媒質のうち入射媒質及び出射媒質となる媒質の屈折率である。
そして、上記(V)〜(VIII)式において波長λを変数として算出される透過係数Tの極大値間の波長間隔からFSRcalを算出する。
【0021】
好適には、上記のエタロンフィルタの設計方法は、前記基板の厚みdとして所定の初期厚みdを設定するステップと、前記初期厚みdを用いるとともに前記第1反射膜及び第2反射膜が無いと仮定して前記FSR算出法によりFSRを算出するステップと、前記初期厚みdを用いるとともに前記第1反射膜及び第2反射膜が有ると仮定して前記FSR算出法によりFSRを算出するステップと、下記(IX)式に対して、d、FSR、FSR及びFSRを代入して前記基板の設計上の厚みdを算出するステップと、を有する。
={1+(FSR−FSR)/(FSR)}d (IX)
【発明の効果】
【0022】
上記の構成又は手順によれば、より所望のFSRに近いFSRを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1(a)は本発明の実施形態に係るエタロンフィルタの模式的な側面図、図1(b)はエタロンフィルタの透過特性を模式的に示す図。
【図2】エタロンフィルタの反射膜の複数の構成例を示す図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は実施形態のFSR算出法により算出したFSR及びΔFSRを示す図。
【図4】図4(a)及び図4(b)は比較例及び実施例のエタロンフィルタの設計条件及びFSR等の実測値を示す図。
【図5】図5(a)及び図5(b)は他の実施例のエタロンフィルタの構成を示す図。
【図6】図6(a)及び図6(b)は図5(a)及び図5(b)のエタロンフィルタのFSRの実測値を示す図。
【図7】エタロンフィルタの基板の厚みの算出法の手順を示すフローチャート。
【図8】エタロンフィルタの応用例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(エタロンフィルタの概要)
図1(a)は、本発明の実施形態に係るエタロンフィルタ1を模式的に示す側面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、従来技術若しくは比較例についてもエタロンフィルタ1に係る符号を付すことがある。
【0025】
エタロンフィルタ1は、基板3と、基板3の第1主面3aに設けられた第1反射膜5Aと、基板3の第2主面3bに設けられた第2反射膜5B(以下、単に「反射膜5」といい、両者を区別しないことがある。)とを有している。
【0026】
基板3は、例えば、石英等のガラス材若しくは水晶等の結晶材により構成され、また、第1主面3a及び第2主面3bが互いに平行な平板状に形成されている。その厚さdは、後述するように、FSR等の所望の光学特性に応じて適宜に設定される。第1主面3a及び第2主面3bの面粗さ及び平行度も、所望の光学特性やその精度に応じて適宜に設定されてよいが、例えば、面粗さは1nm未満であり、平行度は1分未満である。このような微小な面粗さや高精度な平行度は、例えば、第1主面3a及び第2主面3bの光学研磨により得られる。
【0027】
反射膜5は、複数の薄膜7が積層されることにより構成されている。複数の薄膜7は、例えば、誘電体により構成されている。誘電体は、例えば、二酸化ケイ素(SiO、屈折率=1.445)、二酸化チタン(TiO、屈折率=2.3)、五酸化タンタル(Ta、屈折率=2.2)である。複数の薄膜7は、屈折率が互いに異なる薄膜7が交互に積層されるように配置されている。なお、基板3の第1主面3a及び第2主面3bに重ねられる薄膜7は、基板3とは屈折率が異なる薄膜7とされている(上記の例ではSiO以外)。また、複数の薄膜7は、反射膜5において所望の光学特性(例えば反射率)が得られるように、その材料、積層数及び厚みが設計されている。一例として、反射膜5は、サブミクロン程度の厚みの薄膜7が10層以下で積層されて構成されている。薄膜7は、例えば、蒸着により基板3に対して設けられる。
【0028】
エタロンフィルタ1には、光Ltが、基板3の第1主面3a及び第2主面3bに直交する光軸Axに対して平行に若しくは傾斜して入射する。なお、図1では、光Ltが傾斜してエタロンフィルタ1に入射し、基板3内を屈折角度θで透過している場合を例示している。そして、エタロンフィルタ1は、所望の波長の光の透過を許容し、それ以外の光の透過を規制する。なお、第1主面3a及び第2主面3bは、いずれが入射面若しくは出射面とされてもよいが、図1では、第1主面3aが入射面、第2主面3bが出射面とされた場合を例示している。
【0029】
図1(b)は、エタロンフィルタ1の透過特性を模式的に示す図である。図1(b)において横軸は波長λを示し、縦軸は透過係数Tを示している。なお、透過係数Tは、光Ltの、エタロンフィルタ1への入射前における強度Iinと、エタロンフィルタ1からの出射後の強度Ioutとの比Iout/Iinである。
【0030】
一般に知られているように、エタロンフィルタ1は、周期的な透過波形を示し、m次のピーク波長λ(ピーク振動数ν)において透過係数Tが周期的に上昇するフィルタである。なお、通常、FSRは、ピーク振動数νの間隔(ν−νm+1)で表現されるが、図1(b)では、理解の一助のためにFSRをピーク波長間において示している。
【0031】
(FSR算出法)
ここで、本願発明者は、エタロンフィルタ1の試作品におけるFSRの測定結果から、反射膜5の構成(材料、積層数、厚み等)が変化すると、FSRが変化することを発見した。一方、(1)式に示されるように、一般に、反射膜5の構成がFSRに影響を及ぼすことは認知されておらず、当然に、反射膜5の構成を考慮して、エタロンフィルタ1の各種設計値等に基づいてFSRを算出(予測)する方法は知られていない。
【0032】
そこで、本願発明者は、反射膜5の影響を考慮に入れたFSR算出法を考案した。当該算出法は、Florin Abeles氏の行列法に基づくものである。具体的には、以下のとおりである。
【0033】
基板3及び複数の薄膜7の全体をm層の媒質からなる多層構造体として考える。このとき、j番目(1≦j≦m)の媒質の特性行列Mjは、下記(2)及び(3)式により表わされる。
【0034】
【数8】

ただし、λは波長、nはj番目の媒質の屈折率、dはj番目の媒質の厚み、θはj番目の媒質中の屈折角、δはj番目の媒質の位相である。
【0035】
多層構造体の特性行列Mは、下記(4)式に示すように、各層の行列の積によって表わされる。
【0036】
【数9】

【0037】
この多層構造体のフレネル反射係数ρとフレネル透過係数τは、下記(5)式及び(6)式により表わされる。
【0038】
【数10】

ただし、n及びnはそれぞれ、m層の媒質のうち入射媒質及び出射媒質となる媒質の屈折率である。
【0039】
(5)式及び(6)式より、反射係数Rと透過係数Tは、下記(7)式及び(8)式により表わされる。
【0040】
【数11】

【0041】
そして、上記(8)式において波長λを変数として透過係数Tを計算して極大値を求め、極大値間の波長間隔からFSRを算出する。
【0042】
なお、屈折率nについては、波長分散(波長依存性)を考慮しなければならない。例えば、下記(9)式により屈折率nが波長λに基づいて算出されることが好ましい。
【0043】
【数12】


ただし、A〜Aは分散係数である。なお、基板あるいは薄膜に吸収がある場合は、屈折率のみならず消衰係数とその波長依存性も考慮する必要がある。
【0044】
また、FSRは、一般には、(1)式に例示したように、次数mを考慮せずに求められる。ただし、次数mに応じたばらつきを考慮してFSRを求めるのであれば、FSRは、エタロンフィルタ1が使用される振動数範囲に含まれる、ピーク振動数の間隔の数、最大のピーク振動数及び最小のピーク振動数をそれぞれ、L、ν、νm+Lとして、
FSR=(ν−νm+L)/L
により求められてもよい。
【0045】
なお、以上に説明したFSR算出方法が、各媒質において屈折率が不均一でない限り、高精度にFSRを算出できることは、その理論から明らかである。また、以下では、当該FSR算出法を「本実施形態のFSR算出法」と呼んで参照することがある。
【0046】
(実施例及び比較例等の条件)
以下では、具体的な材料や寸法を設定した実施例及び比較例等に関して、FSRの算出値や実測値を求めた結果を参照し、反射膜がFSRに及ぼす影響等について説明する。なお、この場合において、特に断りがない限り、入射角度は0°であり、波長範囲は1530〜1610nmであり、基板3は、水晶Zカット板により構成されているものとする。
【0047】
(反射膜がFSRに及ぼす影響調査)
図2は、反射膜5の複数の構成例(複数の薄膜7の組み合わせの複数の例)を示す図である。図2において、各列(縦の欄)は、各構成例に対応し、各行は、各構成例の特徴を示している。具体的には、以下のとおりである。
【0048】
図2の第1行「No.」は、構成例に対して便宜的に付した番号を示している。そして、図2では、No.1〜No.15までの15種類の構成例が示されてる。
【0049】
図2の第2行「R」は、各構成例における反射膜5の反射率(%)を示している。そして、図2では、いずれの構成例も、反射膜5の反射率が20%になるように、その材料、積層数、厚みが設定されている。
【0050】
図2の中央付近の行「d」は、基板3の厚みd(単位:nm)を示している。そして、図2では、全ての構成例は、厚みdが互いに同一とされている。
【0051】
図2において、「d」の上下の行「SiO2」及び「Ta2O5」は、薄膜7の材料毎の厚み(単位:nm)を、基板3に対する積層順に合わせて示している。すなわち、図2の構成例では、基板3の一方の主面に対して、その主面側から順に、Ta、SiO、Ta、SiO、Ta及びSiOの6層が積層され、また、他方の主面においても同様に、その主面側から順に、Ta、SiO、Ta、SiO、Ta及びSiOの6層が積層されている。そして、複数の構成例は、互いに薄膜7の厚さが異なっている。
【0052】
なお、No.11〜15において薄膜7の厚みが0とされているのは、その材料の薄膜が設けられなかったことを意味している。また、No.1〜N.13までは、第1反射膜5A及び第2反射膜5Bは互いに同一の構成であるのに対し、No.14及びN.15は、第1反射膜5A及び第2反射膜5Bは互いに異なる構成となっている。
【0053】
図3(a)は、No.1〜No.15の構成例におけるFSRを上述した本実施形態のFSR算出法により算出した結果を示す図であり、図3(b)は、No.1〜No.15の構成例におけるΔFSRを示す図である。図3(a)及び図3(b)において、横軸は、エタロンフィルタの厚みD(図1(a))を示している。図3(a)において縦軸はFSRを示し、図3(b)において縦軸はΔFSRを示している。
【0054】
ここで、ΔFSRは、以下の(10)式により求められる。
ΔFSR=FSR−FSR (10)
ただし、FSRは、厚みdの基板3に第1反射膜5A及び第2反射膜5Bが設けられていない場合におけるFSR、FSRは、上記の厚みdの基板に第1反射膜5A及び第2反射膜5Bが設けられている場合におけるFSRである。
【0055】
上述のように、No.1〜No.15の構成例は、基板3の厚みdが互いに同一である。従って、図3(a)及び図3(b)から、基板3の厚みdが互いに同一であっても、FSRが互いに異なることが確認された。換言すれば、いかに精度良く基板3の厚みdを調整しても、FSRが基板3の厚みdのみによって決定されるものとしてエタロンフィルタ1を設計している限り、FSRを高精度に調整することができないことが確認された。
【0056】
また、図3(a)及び図3(b)から、反射膜5の構成が異なれば、FSRも異なることが確認された。このことより、反射膜5の構成に応じて、基板3の厚みdを調整する必要があることが分かる。
【0057】
また、図3(b)において、ΔFSRは全て負の値となっている。すなわち、反射膜5が設けられることにより、FSRは小さくなることが分かる。一方、(1)式に例示したように、一般に、基板3の厚みdが小さくなると、FSRは大きくなる。従って、所望のFSRを得るためには、反射膜5の影響を考慮せずに決定された基板3の厚みdよりも小さくされなければならないことが分かる。
【0058】
また、図3(a)及び図3(b)のプロットのばらつきから、巨視的には、エタロンフィルタの厚みDが大きくなると、FSRが小さくなる傾向があるものの、必ずしも、厚みDを大きくすることにより、FSRを小さくすることができるとは限らないことが分かる。すなわち、反射膜5の厚みの増加分だけ基板3の厚みを薄くするような単純な手法により基板3の厚みdを決定しても、必ずしも所望のFSRが得られるとは限らないことが分かる。なお、図3(a)の相関係数の2乗は0.28である(図3(b)も同様)。
【0059】
なお、一般には、(1)式において例示したように、FSRは、基板3の厚みdによってのみ決定されるとされており、反射膜5の構成がFSRに影響を及ぼすことや、厚みDを調整するだけではFSRを高精度に調整することができないことは認知されていない。すなわち、上記の知見は、本願発明者の鋭意検討によって得られたものである。
【0060】
(エタロンフィルタの基板の厚み)
以上の知見を踏まえ、本実施形態では、以下のような基板3の厚みdを提案する。
【0061】
上述のように、従来の(1)式は、反射膜5の影響を一切考慮していない。また、図3(b)を参照して説明したように、所望のFSRを得るためには、基板3の厚みdは、反射膜5を考慮せずに決定される厚みdよりも小さくされなければならない。
【0062】
従って、まず、実施形態の基板3の厚みdは、所望のFSRを得ようとする場合において、(1)式を変形して得られる下記(11)式により決定される厚みdよりも小さいことが好ましい。
【0063】
【数13】

なお、実際の製品のFSR、特に、従来の設計方法により設計された製品のFSRは、実際のFSRが所望のFSRと異なっていることが考えられる。すなわち、必ずしも、イ号製品自体から設計上のFSRであるFSRを特定することはできない。しかし、エタロンフィルタは、カタログや仕様書等にFSRを特定可能な情報があるはずであり、FSRを用いて本実施形態のエタロンフィルタ1を特定することは、本実施形態のエタロンフィルタ1とイ号製品との区別を不明確にするものではない。
【0064】
次に、一般に、透過係数Tは、下記(12)式及び(13)式により求められるとされている。
【0065】
【数14】

ただし、Rは反射膜5の反射係数である。
【0066】
従って、従来においては、上記の(12)式及び(13)式において、波長λを変数として透過係数Tを算出し、透過係数Tのピーク間の波長間隔からFSRを求めることも可能であった。
【0067】
しかし、当該(12)式及び(13)式においては、反射膜5の反射係数が考慮されているものの、反射膜5の構成(複数の薄膜7の組み合わせ)については考慮されていない。一方、図2、図3(a)及び図3(b)に示した反射膜5の複数の構成例は、反射係数は互いに同一であるものの、FSRは互いに異なっている。すなわち、(12)式及び(13)式に基づいて正確にFSRを算出することはできない。
【0068】
また、(12)式及び(13)式は、反射膜5の厚みを考慮していない。一方、図3(a)及び図3(b)に示したように、巨視的には、反射膜5の厚み(D−d)が大きくなると、FSRは小さくなる。
【0069】
従って、実施形態の基板3の厚みdは、所望のFSRを得ようとする場合において、(12)式及び(13)式において波長λを変数として算出される透過係数Tの極大値間の波長間隔から求められるFSRcalが、所望のFSRに一致するように求められる厚みdよりも小さいことが好ましい。
【0070】
なお、第1反射膜5A及び第2反射膜5Bは、一般には、互いに同一の構成とされることから、(12)式においても、反射係数Rは、第1反射膜5Aと第2反射膜5Bとで区別されていない。
【0071】
第1反射膜5A及び第2反射膜5Bの構成が異なる場合においても(12)式と同様の計算をするためには、下記の(14)式を用いればよい。
【0072】
【数15】

ただし、R及びRは第1反射膜5A及び第2反射膜5Bの反射係数である。また、(14)式では、第1反射膜5A及び第2反射膜5Bの吸収係数A、Aも考慮している。
【0073】
以上の条件により、本実施形態の基板3の厚みdからは、従来の設計方法により得られる可能性のある厚みdが排除される。さらに好適には、基板3の厚みdは、以下のように設定される。
【0074】
図3(b)においてΔFSRは負の値となった。すなわち、エタロンフィルタ1のFSRは、反射膜5が無く、基板3のみと仮定されて高精度に算出されたFSRよりも小さくなった。また、反射膜5の厚みが0に近づくと、所望のFSRが得られる基板3の厚みdは、反射膜5が無く、基板3のみにより所望のFSRが得られる場合における基板3の厚みdに近づく。従って、基板3の厚みdは、厚みd未満であることが好ましい。
【0075】
当該厚みdは、そのような基板3を試作して実測により求められてもよいし、高精度にFSRを算出可能な本実施形態のFSR算出法に基づいて求められてもよい。本実施形態のFSR算出法に基づいて厚みdを求める方法とは、(12)式に基づく方法と同様に、波長λを変数として算出される透過係数Tの極大値間の波長間隔から求められるFSRcalが、当該エタロンフィルタのFSRに一致する厚みdを求める方法である。
【0076】
厚みdは、透過特性から算出されてもよい。例えば、エタロンフィルタの使用波長範囲における第1ピーク波長をλ、エタロンフィルタの使用波長範囲における最終ピーク波長をλm+L、第1ピーク波長λにおける基板3の屈折率をn、最終ピーク波長λm+Lにおける基板3の屈折率をnm+L、第1ピーク波長λから最終ピーク波長λm+Lまでのピーク波長の数をLとすると、厚みdは、以下の(15)式により求められる。
【0077】
【数16】

なお、(15)式は、ピーク波長間の位相差と透過波形の周期性より得られる式であり、屈折率nの波長分散を考慮せずに、n=nm+Lとすると、(1)式が得られる。
【0078】
以上においては、厚みdの上限について述べたが、厚みdの下限は、例えば、第1反射膜5A及び第2反射膜5Bの合計の厚みをdとしたときにd−dである。反射膜5の屈折率が基板3の屈折率に近づくと、所望のFSRが得られる基板3の厚みdはd−dに近づくことからである。
【0079】
(実施形態の妥当性)
以下では、実施形態の製造方法の妥当性について説明する。
【0080】
図4(a)は、比較例のエタロンフィルタの設計条件及びFSR等の実測値を示す図である。
【0081】
図4(a)において、各行は、各比較例に対応しており、図4(a)では、4種類の比較例が示されている。
【0082】
「反射膜」の列は、各比較例における反射膜の条件を示しており、反射膜の相違を示す事項として、反射膜5の合計の厚み(D−d)を代表して示している。4つの比較例は、反射膜5が互いに異なる構成とされている。なお、4種の反射膜5は、いずれも、反射率が25%になるように構成されている。
【0083】
「設計値」の列は、所望のFSRであるFSR、及び、当該FSRに対応する、(11)式によって求められる厚みdを示している。4つの比較例は、互いにFSRが互いに同一である。そして、(11)式は、反射膜5の影響を考慮していないことから、4つの比較例の厚みdは互いに同一となっている。
【0084】
「実測値」の列は、厚みdの比較例を試作して得られたFSRの実測値(FSR)を示している。この列に示されているように、実測されたFSRは、所望のFSRに比較して小さくなっている。また、4つの比較例のFSRは、反射膜5の構成の相違に起因して、互いに異なっている。
【0085】
従って、反射膜5の構成によってFSRが変化することが実測においても確認された。また、基板3の厚みdが厚みd未満とされることにより、従来よりもFSRが所望のFSRに近づくことが期待されることが確認された。
【0086】
図4(b)は、実施例のエタロンフィルタの設計条件及びFSR等の実測値を示す図4(a)と同様の図である。
【0087】
図4(b)では、図4(a)の4つの比較例と同様の構成の反射膜5が設けられた4つの実施例が示されている。ただし、「設計値」の列の厚みdは、本実施形態のFSR算出法に基づいて決定されたものであり、比較例の厚みdよりも小さくなっているとともに、反射膜5の構成の相違に起因して、実施例間で互いに異なっている。
【0088】
そして、「実測値」の列に示されているように、実測されたFSRは、基板3の厚みdがdよりも小さくされていることにより、比較例に比較して、所望のFSRに近い値となっている。さらには、本実施形態のFSR算出法に基づいて厚みdが好適に求められていることから、実測されたFSRは、所望のFSRに略一致している。
【0089】
図5(a)及び図5(b)は、他の実施例の条件を示す図2と同様の図である。なお、「d」の行の厚みは、本実施形態のFSR算出法に基づいて設計されている。また、図5(a)の条件は、FSRが100GHzのものを示し、図5(b)の条件は、FSRが50GHzのものを示している。また、図5(a)のNo.21〜No.28と、図6(a)のNo.29〜No.36とは、互いに反射膜5の構成が同一であり、基板3の厚みdのみが互いに異なる。
【0090】
図6(a)及び図6(b)は、図5(a)及び図5(b)の条件でエタロンフィルタ1を試作し、FSRを計測した結果を示す図である。
【0091】
これらの図において、各行は、図4(b)と同様に、各実施例に対応している。また、「D−d」、「d」、「FSR」の列も、図4(b)と同様である。これらの欄に示されているように、実施例においては、反射膜5の構成に応じて厚みdを適切に設定することにより、実測されたFSRが所望のFSR(100GHz又は50GHz)に近い値となっている。
【0092】
さらに、図6(a)及び図6(b)では、上述した上限値としての厚みd及び下限値としての厚みd−dの値も示している。いずれの実施例においても、厚みd>d>d−dとなっていることが確認された。
【0093】
(厚みdの簡便な算出法)
上述のように、基板3の厚みdは、本実施形態のFSR算出法に基づいてFSRを算出し、算出されたFSRcalと所望のFSRとに基づいて好適な値が求められる。ここで、厚みdを種々変化させて最もFSRcalがFSRに近い厚みdを求めることもできるが、より簡便な方法を以下では説明する。
【0094】
図7は、厚みdの算出法の手順を示すフローチャートである。
【0095】
ステップST1では、基板3の初期厚みdを決定する。この厚みdは、経験等に基づいて大雑把に設定されてよい。
【0096】
ステップST2では、上記の厚みdの基板に反射膜5が設けられていないと仮定した場合のFSRを本実施形態のFSR算出法に基づいて算出する。
【0097】
ステップST3では、B=FSR/dを算出する。
【0098】
ステップST4では、上記の厚みdの基板に反射膜5が設けられていると仮定した場合のFSRを本実施形態のFSR算出法に基づいて算出する。なお、反射膜5は、反射率等の所望の光学特性が得られるようにその構成が予め設計されている。
【0099】
ステップST5では、E=(FSR−FSR)/Bを算出する。
【0100】
ステップST6では、d=E+dを算出する。dは、反射膜5の構成を考慮した、所望のFSRを好適に得ることができる設計上の厚みdである。
【0101】
なお、上述したステップを順次進めることは、上記のdtの式にE及びBを順次代入して得られる下記の(16)式を計算することと等価である。
={1+(FSR−FSR)/(FSR)}d (16)
【0102】
また、dを新たなdとし、上述した手順を繰り返し行ってもよい。
【0103】
(エタロンフィルタの応用例)
図8は、エタロンフィルタ1の応用例を示すブロック図である。
【0104】
エタロンフィルタ1は、レーザシステム11の光の波長を一定に保つための波長ロッカ13に組み込まれている。波長ロッカ13は、例えば、レーザシステム11からドロップされた光が入射するビームスプリッタ15と、ビームスプリッタ15を透過した光が入射するエタロンフィルタ1と、エタロンフィルタ1を透過した光が入射する第1光検出器17Aと、ビームスプリッタ15を反射した光が入射する第2光検出器17Bとを有している。そして、制御装置19は、第1光検出器17Aの検出した光の強度と、第2光検出器17Bの検出した光の強度とを比較して光の波長を検出し、その検出波長が一定に保たれるようにレーザシステム11の制御を実行する。
【0105】
本実施形態のFSRが高精度に調整されたエタロンフィルタ1が、このような波長ロッカ13に用いられることによって、光の波長を高精度にモニタすることが可能となる。
【0106】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0107】
実施例では、基板が水晶Zカット板により構成されているものとしたが、石英ガラスを用いても同様な結果が得られる。また、基板は、異なる材料を接合した状態となっていてもよい。換言すれば、エタロンフィルタは、複合型のエタロンフィルタであってもよい。
【0108】
基板の厚みdが上述のように算出される厚みd及びdよりも小さいエタロンフィルタは、本実施形態のFSR算出法により設計されたものに限定されない。例えば、反射膜の種々の構成と、厚みdの補正値Δdとを対応付けたデータベースを構築しておき、データベースに基づいて厚みdから補正値Δdを差し引いて基板の厚みdを決定してもよい。
【符号の説明】
【0109】
1…エタロンフィルタ、3…基板、5…反射膜、7…薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、当該基板の入出射面に配置された第1反射膜及び第2反射膜とを有し、
前記基板の厚みdが、以下のように算出される厚みdおよび厚みdよりも小さいエタロンフィルタ。
厚みd
下記(I)式に対する、c、n、θ及びFSRの代入により得られる。
【数17】

ただし、cは光速、nは前記基板の屈折率、θは前記基板中の屈折角度、FSRは当該エタロンフィルタの設計上のFSRである。
厚みd
下記(II)式及び(III)式において波長λを変数として算出される透過係数Tの極大値間の波長間隔から求められるFSRcalが、当該エタロンフィルタのFSRに一致するように求められる。
【数18】

ただし、A及びAは前記第1反射膜及び前記第2反射膜の吸収係数、R及びRは前記第1反射膜及び前記第2反射膜の反射係数である。
【請求項2】
前記基板の厚みdが、前記第1反射膜及び前記第2反射膜が設けられていないと仮定した場合において前記FSRが得られる前記基板の厚みdよりも小さい請求項1に記載のエタロンフィルタ。
【請求項3】
前記厚みdは、下記(IV)式に対するλ、λm+L、n、nm+LおよびLの代入により得られる請求項2に記載のエタロンフィルタ。
【数19】

ただし、λは、当該エタロンフィルタの使用波長範囲における第1ピーク波長、λm+Lは、当該エタロンフィルタの使用波長範囲における最終ピーク波長、nは第1ピーク波長λにおける前記基板の屈折率、nm+Lは、最終ピーク波長λm+Lにおける前記基板の屈折率、Lは、第1ピーク波長λから最終ピーク波長λm+Lまでの波長間隔の数である。
また、各ピーク波長は、前記第1反射膜及び前記第2反射膜が設けられていないと仮定した場合において前記FSRが得られるピーク波長である。
【請求項4】
前記厚みdは、前記第1反射膜及び前記第2反射膜の合計の厚みをdとしたときに、d−dよりも大きい
請求項2又は3に記載のエタロンフィルタ。
【請求項5】
前記第1反射膜及び前記第2反射膜それぞれは、複数の薄膜が積層されて構成されている
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエタロンフィルタ。
【請求項6】
基板と、当該基板の入出射面に配置された第1反射膜及び第2反射膜とを有し、前記第1反射膜及び前記第2反射膜それぞれが、複数の薄膜が積層されて構成されているエタロンの設計方法であって、
前記基板の厚みdをパラメータとして含む下記のFSR算出法によりFSRcalを算出し、算出したFSRcalと所望のFSRtとの比較に基づいて前記基板の設計上の厚みdを決定するエタロンフィルタの設計方法。
FSR算出法:
前記基板及び前記複数の薄膜をm層の媒質からなる多層構造体と捉え、j番目(1≦j≦m)の媒質の特性行列Mjを下記(V)及び(VI)式により算出するものとする。
【数20】

ただし、λは波長、nはj番目の媒質の屈折率、dはj番目の媒質の厚み、θはj番目の媒質中の屈折角、δはj番目の媒質の位相である。
前記多層構造体の特性行列Mを下記(VII)式により算出するものとする。
【数21】

そして、前記多層構造体の透過係数Tを下記(VIII)式により算出するものとする。
【数22】

ただし、n及びnはそれぞれ、m層の媒質のうち入射媒質及び出射媒質となる媒質の屈折率である。
そして、上記(V)〜(VIII)式において波長λを変数として算出される透過係数Tの極大値間の波長間隔からFSRcalを算出する。
【請求項7】
前記基板の厚みdとして所定の初期厚みdを設定するステップと、
前記初期厚みdを用いるとともに前記第1反射膜及び第2反射膜が無いと仮定して前記FSR算出法によりFSRを算出するステップと、
前記初期厚みdを用いるとともに前記第1反射膜及び第2反射膜が有ると仮定して前記FSR算出法によりFSRを算出するステップと、
下記(IX)式に対して、d、FSR、FSR及びFSRを代入して前記基板の設計上の厚みdを算出するステップと、
を有する請求項6に記載のエタロンフィルタの設計方法。
={1+(FSR−FSR)/(FSR)}d (IX)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate