説明

エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物

【課題】難燃性、物性、二次加工性に優れた耐燃焼性シートを提供することを目的とする。
【解決手段】エチレン−酢酸ビニル共重合体と、膨張後粉砕黒鉛又は熱分解黒鉛とを含むエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物であって、エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物の全重量に対して、前記膨張後粉砕黒鉛または熱分解黒鉛が、15〜70重量%で含有されているエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂は、耐衝撃性、耐熱性等の物理的性質及び耐溶剤性、耐酸性等の化学的性質に優れた特性を有する材料として、プラント用プレート、パイプ、パイプ継手、シート、フィルム等多くの用途に使用されている。
しかし、燃焼すると有毒ガスや多量の黒煙が発生し、列車などの車両用途では火災の際に乗客の安全性に支障をきたすため、より燃えにくい材料が要求されている。
【0003】
熱可塑性樹脂の難燃性を向上させる方法としては、例えば、塩化ビニル系樹脂に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの難燃剤を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、塩化ビニル系樹脂に黒鉛を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−25347号公報
【特許文献2】特開平09−227747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような熱可塑性樹脂組成物では、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)」の第5節車両の火災対策等第83条に準拠した方法で行った燃焼試験において、燃焼抑制効果を発現するためには、多量の充填量を必要とするため、耐衝撃性等の物性や真空成形性等の二次加工性が著しく低下するという欠点があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、難燃性、二次加工性に優れたエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合体と、膨張後粉砕黒鉛または熱分解黒鉛とを含むエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物であって、
エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物の全重量に対して、前記膨張後粉砕黒鉛または熱分解黒鉛が、15〜70重量%で含有されていることを特徴とする。
このエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物は、さらにポリテトラフルオロエチレンと(メタ)アクリル酸アルキル重合体とからなる混合物を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃性及び二次加工性に優れたエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物は、少なくとも、エチレン−酢酸ビニル共重合体と、膨張後粉砕黒鉛または熱分解黒鉛とを含有してなる。このように、特定の材料を組み合わせることにより、材料自体が有する優れた特性を十分に発揮させることができるとともに、例えば、鉄道車両の内装材として、難燃性、二次加工性を向上させることができる。
なお、内装材用途の場合、通常、表層面に印刷加工が施されるか、加飾層が設けられるが、エチレン−酢酸ビニル系樹脂は、これらの処理が施される場合においても、優れた加工特性を発揮させることができる。
【0010】
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、特に限定されず、公知のもののいずれをも使用することができるが、一般に、全エチレン−酢酸ビニル共重合体重量に対して、酢酸ビニル単位が、3〜40重量%程度、好ましくは14〜40重量%程度含有されているものが適している。
【0011】
膨張後粉砕黒鉛とは、黒鉛又は膨張黒鉛を膨張させた後粉砕処理した黒鉛を意味する。
膨張黒鉛とは、従来公知のものであり、特に限定されず、いかなるものをも使用することができる。通常、黒鉛を化学処理することにより製造されたものである。例えば、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とを利用して、黒鉛の層間に無機酸を挿入し、酸処理をして得られる炭素の層状構造を維持した結晶化合物等が挙げられる。
【0012】
黒鉛又は膨張黒鉛を膨張させる方法としては、特に限定されない。例えば、炉の中で数百度〜千度程度の温度にて数分〜数時間、加熱処理を施して膨張させる方法等が挙げられる。
このように膨張させた膨張化黒鉛は、黒鉛の層間が開くことにより、黒鉛の表面積が大きくなり、エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物中又はその成形後において、黒鉛同士がより近接する確率が高まると考えられる。
【0013】
粉砕処理は、特に限定されず、例えば、ロッドミル、ボールミル、ジェットミル等の従来公知の装置を用いて行うことができる。
【0014】
熱分解黒鉛とは従来公知のものであり、特に限定されずいかなるものをも使用することができる。通常、熱分解黒鉛は、黒鉛の基材を炭化水素雰囲気中で高温(2000〜3000℃程度)で加熱することにより、炭化水素の分解重合等で基材表面に炭素が沈積することによって得られたものであるが、コークスを高温で処理した黒鉛であってもよい。
黒鉛の基材は、特に限定されず、天然に存在するもの、人工的に作られたもの等、例えば、天然グラファイト、キッシュグラファイト等のいずれであってもよい。黒鉛基材及びコークスの形状は、固体状、粉末状等のいずれであってもよい。
【0015】
エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物中の黒鉛の平均粒径は、エチレン−酢酸ビニル共重合体との分散性及び/又は物性発現性を考慮すると、500μm程度以下とすることが好ましく、さらに300μm程度以下とすることが好ましい。ここで、粒径は、黒鉛をTHF溶液中に充分分散させ、レーザー回折式粒度分布計SALD−2200(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
黒鉛を適当な粒径にするために、上述した粉砕処理と同様の処理を行うことができる。
【0016】
このように、特定の黒鉛をエチレン−酢酸ビニル共重合体に添加することにより、耐燃焼性シートにおいて、著しく耐燃焼性を向上させることができる。このため、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)」の第5節車両の火災対策等第83条に準拠した方法で行った燃焼試験において、試験体への着火を抑制する効果を発現させることができる。
【0017】
耐燃焼性を上げる効果は、添加する黒鉛の黒鉛化度及び/又はアスペクト比が高い方が有利であり、薄い形状と高温(2000〜3000℃)処理による高黒鉛化度により、耐燃焼性が高まるため、特に好ましい。
【0018】
黒鉛は、エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物の全重量に対して、15〜70重量%で含有されることが適しており、好ましくは30〜70重量%であり、さらに好ましくは40〜65重量%である。この範囲とすることにより、適切な難燃効果を得ることができるとともに、成形性の低下を防止することができる。
【0019】
本発明のエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物は、さらに、二次加工性を改善する加工助剤が含有されていることが好ましい。このような加工助剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系モノマー、(メタ)アクリレート系モノマー又はこれらの混合物、さらに、これらモノマーの単独重合体又は共重合体等が挙げられる。これらモノマーは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。なかでも、真空成形性等の二次加工性にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と(メタ)アクリル酸アルキル重合体とからなる混合物が好ましい。
ポリテトラフルオロエチレンと(メタ)アクリル酸アルキル重合体とからなる混合物は、せん断力によりポリテトラフルオロエチレンがフィブリル化されるものが好ましい。このような混合物として、メタブレンA−3000(三菱レイヨン(株)社製)等が挙げられる。
【0020】
エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物における上述した加工助剤は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を含む全樹脂成分、言い換えると、エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物において黒鉛以外の成分の0重量%〜50重量%程度で添加されていることが適しており、1重量%〜30重量%程度が好ましく、3重量%〜25重量%程度がより好ましい。例えば、耐燃焼性シートの表層に加飾層を追加する等の場合には、より不燃性を確保するために黒鉛が増量されるが、黒鉛を増量すると、高温伸び性が低下する。これに対して、エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物において加工助剤、特に、上述したPTFEと(メタ)アクリル酸アルキル重合体とからなる混合物を添加する場合には、黒鉛成分が比較的多く添加された場合においても、それに起因する高温伸び性を良好に保つことができる。
【0021】
エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物には、上述した加工助剤の有無にかかわらず、その意図する機能に影響を与えない限り、以下に示した種々の添加剤を添加してもよい。
本発明のエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物には、燃焼抑制効果を補助する目的で、さらに難燃剤が添加されていてもよい。また、必要に応じて、衝撃改質剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料等の各種添加剤の1種又は2種以上が添加されていてもよい。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体以外の樹脂成分を含有してもよい。これらの各添加剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記難燃剤としては、例えば、二酸化アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、三酸化モリブデン、二硫化モリブデン、アンモニウムモリブデート等のモリブデン化合物、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロムエタン等の臭素系化合物、トリフェニルフォスフェート、アンモニウムポリフォスフェート等のリン系化合物などが挙げられる。
【0023】
衝撃改質剤としては、特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリル系改質剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
光安定剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。
【0025】
顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。
【0026】
エチレン−酢酸ビニル共重合体以外の樹脂成分としては、特に限定されず、種々のものを用いることができる。例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル系樹脂、塩素化塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0027】
以下、本発明のエチレン−酢酸ビニル重合体系樹脂組成物の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1〜17及び比較例1〜4
表1〜表3に示した所定量のエチレン−酢酸ビニル重合体、黒鉛およびポリテトラフルオロエチレンと(メタ)アクリル酸アルキル重合体とからなる混合物(以下、「PTFE系加工助剤」と記載する)を、8インチミキシングロール混練機(安田精機社製)に供給し、温度170℃で溶融混練して、厚さ1mmのシートを得た。
次いで、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度180℃、200kgfで加圧し、3mmのB5プレス板を得た。
なお、表1〜表3において、各成分の単位は重量%である。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
使用した材料は以下の通りである。
(1)EVA1:エチレン−酢酸ビニル(商品名「エバフレックスEV560」、三井・デュポンポリケミカル社製)
EVA2:エチレン−酢酸ビニル(商品名「エバフレックスEV260」、三井・デュポンポリケミカル社製)
(2)PTFE系加工助剤1:三菱レイヨン社製、商品名「メタブレンA−3000」、
PTFE系加工助剤2:三菱レイヨン社製、商品名「メタブレンA−3800」
(3)膨張後粉砕黒鉛:(商品名「CS−F400」、丸豊鋳材社製)
熱分解黒鉛:(商品名「PC−30」、伊藤黒鉛社製)
【0033】
<車両燃焼試験>
着火:「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)」の第5節車両の火災対策等第83条に準拠して評価
判定基準:
◎:着火無し(不燃相当)
○:着火時間が70秒以上であり、着火後の火勢も弱い(極難燃相当)
△:30秒を超え、70秒未満に着火(難燃相当)
×:30秒以内に着火
【0034】
<引張破壊伸び率>
(ダンベル作製)
得られた厚さ3mmのB5プレス板を切断し、JIS K6741(2004)の図1に記載されている呼び径25以下の管から切り出される引張ダンベル形状と同サイズのダンベルを作製した。
(測定)
JIS K7113に準拠して、130℃で引張試験を行った。
試験機は島津製作所社製オートグラフAGS−Jを使用し、
試験速度は500mm/min、状態調節は2hとした。
【0035】
(引張破壊伸び率の算定)
標線間距離a(mm)を23℃にて測定した。ダンベルが破壊するまで引張試験を行い、引張試験前後のチャック移動距離をb(mm)とし、
a÷(b-a)×100(%)を引張破壊伸び率とした。
高温での引張破壊伸び率は真空成形などの二次加工性を反映することから真空成形性の代用評価法として本評価を用いた。
なお、引張破壊伸び率における判定基準は、以下のとおりとした。
◎○:130℃引張破壊伸び率が400%以上
◎:130℃引張破壊伸び率が200%以上400%未満
○:130℃引張破壊伸び率が100%以上200%未満
△:130℃引張破壊伸び率が30%以上100%未満
×:130℃引張破壊伸び率が30%未満
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物を使用することを期待するあらゆる分野、例えば、車両内装材として、特に、鉄道車両の内装材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体と、
膨張後粉砕黒鉛又は熱分解黒鉛とを含むエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物であって、
エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物の全重量に対して、前記膨張後粉砕黒鉛または熱分解黒鉛が、15〜70重量%で含有されていることを特徴とするエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物が、さらにポリテトラフルオロエチレンと(メタ)アクリル酸アルキル重合体とからなる混合物を含む請求項1記載のエチレン−酢酸ビニル系樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−80051(P2011−80051A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201871(P2010−201871)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】