説明

エチレンの1,2−ジクロロエタンへの固定床でのオキシ塩素化用の触媒

【課題】エチレンの1,2−ジクロロエタンへの固定床中でのオキシ塩素化用の触媒を提供することを課題とする。
【解決手段】7〜50nmの間の直径を有するミクロ細孔およびメソ細孔で主に形成された、0.4〜0.55ml/gの全細孔容積を有する中空円筒状の顆粒の形態であって、該メソ細孔が主成分を構成し、50nmより大きく10000nmまでの直径を有するマクロ細孔が15〜35%存在する、エチレンの1,2−ジクロロエタンへの固定床でのオキシ塩素化用の触媒により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、規定された中空円筒状の形状および特定の範囲の全細孔容積を有する顆粒の形態であって、7〜50nmの直径を有するメソ細孔が主成分である、エチレンの1,2−ジクロロエタン(DCE)への固定床中でのオキシ塩素化に使用し得る触媒、および該触媒のために用いられる中空状の担体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンのDCEへのオキシ塩素化は、公知のように、流動床または固定床のいずれかにおいて行われる。1つ目の場合では、反応器内の温度分布がより均一となり、もう1つの場合では、反応パラメータの管理はより容易であるが、触媒顆粒間の、および顆粒と反応ガスとの間の低い交換係数のために、触媒の選択性および有用な寿命に対して悪影響を与える局部的なホット・スポット温度が生じ得る。
【0003】
球体および中実のものより高いS/V比(幾何学的な面積の容積に対する比)のおかげで、触媒床を通じた、より効果的な熱交換および低い圧力損失、ならびにその結果としての床に沿ったより良好な温度制御および工業用反応器の生産性の増大を得ることができる、中空円筒状の顆粒が通常用いられる。
【0004】
前記の利点にもかかわらず、いくつかの不利な点が明白となってしまうため、中空円筒状の顆粒は注意深く設計されなければならない。
【0005】
例えば、中空円筒の外径の内径に対する比(De/Di)がある値より大きくなる場合、顆粒は極めて脆くなり、触媒の嵩密度が低下し、その結果、活性触媒相の全体量の存在が少なくなり、触媒床の単位容積当たりの変換が低下する。
【0006】
De、または一定のDe/Diの比を維持する円筒の長さの余りに大きな増加は、反応器の管内部の触媒の不均一な担持および顆粒の潜在的な破損を引き起こし得り、その結果圧力損失が増加する。
【0007】
4〜7mmのDe、2.0〜2.8nmのDi、6.1〜6.9mmの高さを有する円筒の形態の触媒が欧州特許出願第1053789号に記載されている。
【0008】
この触媒は、米国特許第4740644号に記載の外径よりも短い長さを有する中空円筒の形態の触媒および米国特許第5166120号に記載の外径よりも長い長さを有する触媒の円筒よりも有利であると報告されている。
【0009】
後者の米国特許に記載の触媒は、少なくとも0.6〜1.0ml/gの全細孔容積を、そして4nmより小さい細孔は存在せず、全細孔容積の少なくとも80%は8〜20nmの直径を有するメソ細孔で形成され、残りは20nmより大きく200nmまでの直径を有する細孔であることを特徴とする。
【0010】
欧州特許出願第1053789号でなされた検討によれば、米国特許第5166120号の触媒は、充填工程間の触媒顆粒の破損による高い圧力損失と組合さった、少量の触媒物質のみが床内に存在すること、およびその結果としてのDCEへの低い比生産性(g DCE/g 触媒.h)を意味する、極めて高い床のボイド率(void fraction)という不利を有する。前記の触媒の活性は、細孔容積が8nmより小さい直径を有する細孔で主に形成されている触媒の活性よりは高い。
【0011】
多くても0.40ml/gの全細孔容積を有し、ミクロ細孔およびメソ細孔が主成分である市販の中空円筒状の触媒が知られている。これらの触媒の生産性はかなり低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願第1053789号
【特許文献2】米国特許第4740644号
【特許文献3】米国特許第5166120号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
課題
本発明の課題は、同じ幾何学的パラメータ(形状および大きさ)および組成を有する触媒の比生産性よりも高いDCEへの比生産性(g DCE/g 触媒.h)と組合さった、選択性および変換という点で高い性能を備え、ガンマアルミナの中空円筒状の顆粒上に支持された、塩化銅と、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属から選択される、少なくとも1つの金属の塩化物とを含み、かなり高い合計容積を有する、中空円筒状の顆粒の形態の、エチレンのDCEへの固定床でのオキシ塩素化用の触媒を提供することである。
この課題およびその他の課題は、本発明の触媒により達成される。
その他の課題は、以下の本発明の説明から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
規定された幾何学的構造を有する中空顆粒の形態であり、アルミナの中空円筒状の顆粒上に支持された、塩化銅を含み、好ましくは塩化カリウムも含み、任意にアルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属の群から選択される少なくとも1以上の金属の塩化物を含んでいてもよい本発明の触媒は、ミクロ細孔およびメソ細孔で主に形成された0.4〜0.55ml/g、好ましくは0.40〜0.48ml/gの全細孔容積と、7〜50nmの直径を有するメソ細孔が主成分を構成し、残りが50nmより大きく10000nmまでの直径を有するマクロ細孔で形成され、該マクロ細孔が全容積の15〜35%、好ましくは20〜35%であることを特徴とする。平均細孔直径は10〜20nmである。全細孔容積は、粒子密度(PD)の逆数と真密度(RD)の逆数との間の差(1/PD−1/RD)の容積を意味する。
【0015】
アルミナの支持体は、約60〜65μmのd50、約160〜165μmのd90および70〜80μmの平均粒径を有するベーマイトの粉末を圧縮成型することにより製造される(レーザー測定)。
【0016】
使用し得るベーマイトの例は、UOP(米国)により製造される市販のベーマイトV700バーサル(VERSAL)である。
【0017】
このベーマイトは、以下の:
次の大きさより小さい粒子径 容積%
40μm 34.2
63μm 51.0
100μm 70.4
250μm 99.6
100μm 100
粒子径分布を有する(レーザー測定)。
【0018】
ポンデラル・シーブ・スクリーニング(ponderal sieve screening)により算出された粒度分布(重量%)は、<63μm=52.1%、63−100μm=24.8%、100−250μm=22.0%、>250μm=1.1%である。
【0019】
使用し得るベーマイトは、制御したpH条件下NaAlO2の水溶液からAl(OH)3を析出させ、できるだけ多くのナトリウムイオンを除去するために、濾過したものを十分に洗浄する、公知の方法に従って得られる。
【0020】
600℃および700℃で焼成したベーマイトV700バーサルから得られる圧縮成型した中空円筒状の顆粒は、表1に報告の特徴を有し、サソール(SASOL)−ドイツにより販売されるベーマイト プーラル(Pural)SCC 150およびプーラル SB1の特徴も報告している。
【0021】
【表1−1】

【表1−2】

(1)トリローブの(trilobed)円筒=断面および顆粒の軸に平行な貫通孔を含むローブ(lobe)を有する顆粒
(2)全細孔容積=1/(粒子密度)−1/(真密度)
(3)平均細孔直径=4TV/SA(TV=全容積;SA=表面積)
(4)外接円の直径
【0022】
アルミナ顆粒の全細孔容積は0.55〜0.75ml/gの範囲であり、メソ細孔(7〜50nmの直径を有する細孔)およびミクロ細孔(7nmより小さい直径を有する細孔)で主に形成され、ミクロ細孔はマイナーな成分(容積の15〜45%)である。
【0023】
(ベーマイトをガンマアルミナへ変換するのに約600〜800℃の温度で予め焼成して)成型して得られた顆粒を、金属塩化物−触媒成分の水溶液で含浸させる。含浸は、アルミナ顆粒の細孔容積より少し多い溶液量を用いて行うことが好ましい。
【0024】
金属の量として表される触媒中に存在する塩化物の量は、Cu3〜12重量%、アルカリ金属1〜4重量%、アルカリ土類金属0.05〜2重量%、希土類金属0.1〜3重量%である。
【0025】
好ましくは、Cuの量は4〜10重量%であり、アルカリ金属は0.5〜3重量%の量で用いられるカリウムおよび/またはセシウムであり、アルカリ土類金属は0.05〜2重量%のマグネシウムであり、希土類金属は0.5〜3重量%のセリウムである。
【0026】
好ましい顆粒は、顆粒の軸に平行な少なくとも1つの貫通孔を有する円筒の形態である。
Deの直径は4〜6mmであり、Diの直径は1〜3mmであり、高さは4〜7mmである。
【0027】
顆粒の軸に平行な貫通孔を備えたローブを有するトリローブの断面を有する顆粒が好適に使用される。
【0028】
本発明の触媒顆粒の代表的な特性を表2に報告し、表3には実施例の触媒を用いて得られた触媒試験の結果を報告する。
【0029】
本発明の触媒顆粒を用いるエチレンのDCEへのオキシ塩素化を、空気を用いるとき1:1.99:0.51の、酸素を用いるとき1:0.71:0.18のC24/HCl/O2の全体的な供給モル比を用いて、200℃〜300℃の温度で、酸化剤として空気または酸素を用いる公知の方法により固定床中で行う。
【0030】
好ましくは、酸素を用いて、プロセスを一連の3つの反応器中で行うとき、HCl/C24、O2/C24およびHCl/O2のモル比は、それぞれ0.15〜0.50、0.04〜0.1および3.20〜5.8であり、第3の反応器は、本発明の触媒顆粒で形成されているか、または該触媒顆粒を含む固定床で充填されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
測定
マクロ細孔の容積(50nmより大きく10000nmまでの直径を有する細孔の容積)をHg−圧入法により測定する:BETでの窒素の吸収−脱離によるミクロ細孔およびメソ細孔(メソ細孔容積=2〜50nmの直径を有する細孔の容積)。
【0032】
嵩密度(見かけのパッキング密度とも称する)を、ASTM法 D 4164−82により測定する。
【0033】
次の実施例は、本発明の範囲を限定せずに説明するために示す。
【実施例】
【0034】
実施例1
4重量%のアルミニウムトリステアレートを混合したベーマイト バーサルV700の粉末を圧縮成型して製造した円筒を600℃で焼成して得た、209m2/gのS.A.(BET)、0.69ml/gの全細孔容積を有する、De=5mm、Di=2.5mmおよび高さ=5mmのアルミナの中空円筒350gを、次のもの:
CuCl2*2H2O=97.0g
KCl=6.9g
MgCl2*6H2O=1.8g
HCl 37重量%=7.0ml
その他=230mlまでの脱イオン水
を含む水溶液200mlで、5lの回転ジャー中、室温〜50℃までの温度で含浸させる。
【0035】
含浸させた顆粒を次のサイクル=60℃で1時間、80℃で2時間、100℃で3時間および150℃で16時間で、オーブン中で乾燥した。触媒顆粒の特徴を表2に報告し、実施例2の触媒顆粒ならびに比較例1および2の触媒の特徴もそこに報告する。パイロットプラントでの触媒試験の結果を表3に報告する。
【0036】
実施例2
4重量%のアルミニウムトリステアレートを混合したベーマイト バーサルV700の粉末を圧縮成型して製造したペレットを700℃で焼成して得た、それぞれのローブが顆粒の軸に平行な貫通孔を備えたトリローブの円筒の断面を有し、外接円の直径が5.8mmであり、高さが4.30mmであり、S.A.(BET)が164m2/gであり、全細孔容積が0.60ml/gであるアルミナ顆粒300gを、次のもの:
CuCl2*2H2O 82.1g
KCl 5.9g
HCl 37重量% 6.0ml
その他 脱イオン水
を含む水溶液で含浸する。
含浸させた顆粒を実施例1の記載のようにして乾燥する。触媒顆粒の特徴を表2に報告する。
【0037】
比較例1
6重量%のアルミニウムトリステアレートを混合したベーマイト プーラルSCC150を圧縮成型することにより製造した円筒状の顆粒を700℃で焼成して得た、実施例1の円筒と同じ大きさおよび形状を有するアルミナの中空円筒400gを、次のもの:
CuCl2*2H2O=110.8g
KCl=7.9g
MgCl2*6H2O=2.1g
HCl 37重量%=8.0ml
その他=200mlまでの脱イオン水
を含む水溶液150mlで、5lの回転ジャー中、室温で含浸させた。
【0038】
含浸させた顆粒を実施例1の記載のようにして乾燥した。触媒顆粒の特徴を表2に報告する。実施例1と同じ条件下で行った触媒試験の結果を表3に報告する。
【0039】
比較例2
実施例1の触媒と同様の大きさおよび形状ならびに同様の組成を有する市販の触媒(その他の特性を表2に報告する)を、実施例1と同じ触媒試験条件下で用いた。
【0040】
試験結果を表3に報告する。
【0041】
【表2】

(1)全細孔容積=1/(粒子密度)−1/(真密度)
(2)マクロ細孔容積分布曲線の最大値での細孔直径
(3)床のボイド率=1−見かけの嵩密度/粒子密度
【0042】
【表3】

*)全供給量:C24=30.4容積%、O2=2.7容積%、HCl=9.5容積%、N2=57.4容積%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
規定された幾何学的構造を有し、アルミナの顆粒上に支持された塩化銅を含む中空顆粒の形態にある、エチレンの1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化用の触媒顆粒であって、該触媒顆粒がメソ細孔およびミクロ細孔で主に形成された0.4〜0.55ml/gの全細孔容積を有し、7〜50nmの直径を有するメソ細孔が主成分を構成し、残りが50nm〜10000nmの直径を有するマクロ細孔で形成され、該マクロ細孔が全容積の15〜35%を構成する触媒顆粒。
【請求項2】
0.5〜3重量%の金属として表わされる量の塩化カリウムを含み、任意に、アルカリ金属として0.5〜3重量%、アルカリ土類金属として0.05〜2重量%および希土類金属として0.1〜3重量%の量の、カリウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される1以上の金属の塩化物を含んでいてもよい、請求項1に記載の触媒顆粒。
【請求項3】
平均細孔直径が12〜20nmである、請求項1または2に記載の触媒顆粒。
【請求項4】
前記の全細孔容積が20〜35%のマクロ細孔容積を含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載の触媒顆粒。
【請求項5】
前記の全細孔容積が0.40〜0.48ml/gであり、ミクロ−メソ細孔容積が全容積の65〜80%である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の触媒顆粒。
【請求項6】
銅の量が4〜10重量%であり、前記のアルカリ金属がカリウムおよび/またはセシウムであり、前記のアルカリ土類金属がマグネシウムであり、前記の希土類金属がセリウムである、請求項1〜5のいずれか1つに記載の触媒顆粒。
【請求項7】
前記のカリウムおよび/またはセシウムの量が0.5〜3重量%であり、前記のマグネシウムの量が0.1〜2重量%であり、前記のセリウムの量が0.5〜2重量%である、請求項1〜6のいずれか1つに記載の触媒顆粒。
【請求項8】
顆粒が、外径4〜6mm、内径1〜3mm、高さ4〜7mmの中空円筒の形態にある、請求項1〜7のいずれか1つに記載の触媒顆粒。
【請求項9】
ローブを備えたトリローブの円筒状の断面を有し、そのそれぞれが顆粒の軸に平行でかつ他のローブの軸から等距離にある貫通孔を有する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の顆粒触媒。
【請求項10】
50nmまでの直径を有するミクロ−メソ細孔で主に形成された、0.55〜0.75ml/gの全細孔容積を有するガンマアルミナで形成された中空円筒状の顆粒であって、7nmより小さい直径を有する細孔がミクロ細孔およびメソ細孔の容積の15〜45%を構成する中空円筒状の顆粒。
【請求項11】
顆粒の軸に平行な1以上の貫通孔を備えた、請求項10に記載の中空円筒状の顆粒。
【請求項12】
4〜6mmの外径、1〜3mmの内径および4〜7mmの高さを有する円筒の形態にある、請求項10または11に記載の中空円筒状の顆粒。
【請求項13】
空気を用いるとき1:1.99:0.51のモル比、酸素を用いるとき1:0.70:1.79のモル比にあるHCl/C24/O2で、200℃〜300℃の温度で、酸化剤として空気または酸素を用いて、請求項1〜9のいずれか1つに記載の触媒顆粒で形成されているか、または該触媒顆粒を含む固定床中で行われる、エチレンの1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化の方法。
【請求項14】
酸化剤として酸素を用い、一連の3つの反応器を用い、第3の反応器が請求項1〜9のいずれか1つに記載の触媒顆粒で形成されているか、または該触媒顆粒を含む固定床で充填され、HCl/C24、O2/C24およびHCl/O2のモル比が、それぞれ0.15〜0.50、0.04〜0.10および3.20〜5.8である、請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2010−149115(P2010−149115A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290827(P2009−290827)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(505471510)サッド−チェミー カタリスツ イタリア エス.アール.エル. (8)
【氏名又は名称原語表記】SUD−CHEMIE CATALYSTS ITALIA S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Via G. Fauser 36/B,28100 NOVARA,ITALY
【Fターム(参考)】