説明

エチレングリコールの安定化方法

【課題】特に加熱時の、空気酸化防止方法として有効な、酸化防止効果の高いエチレングリコールを得ること。
【解決手段】含水状態であってもよいエチレングリコールおよび2−メルカプトチアゾリンに代表されるチアゾリン誘導体からなり、当該チアゾリン誘導体を重量比で0.001〜5%添加することによる、エチレングリコールの酸化に対する安定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として有機合成用の反応剤や溶剤、自動車などの内燃機関などにおいて不凍液および/または冷却液、あるいは化学プラントにおける熱媒や冷媒として使用されるエチレングリコールに関し、詳細にはエチレングリコールの劣化防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】公開特許公報平成5年第171140号
【特許文献2】公開特許公報平成9年第227425号
【特許文献3】公開特許公報平成6年第25655号
【0003】
エチレングリコールをはじめアルコール類は、特に加熱時に熱劣化や空気酸化を受けやすく、劣化することが知られている。従来、エチレングリコール類の酸化を防止する方法としては、特許文献1にトリアゾール化合物を添加する方法が、特許文献2には特定のカルボン酸塩による方法が開示されている。また、下記化2に記載の化合物とエチレングリコール類との組み合わせは、金属除去剤の比較例として、特許文献3に開示があるに過ぎない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、エチレングリコールの安定化方法を提供することにある。この目的を達成するために、本発明のとった手段について、以下に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明にかかるエチレングリコールの安定化方法の構成は、含水状態であってもよいエチレングリコールおよび下記化2で表されるチアゾリン誘導体からなり、当該チアゾリン誘導体を1種または2種以上添加することによる、エチレングリコールの酸化に対する安定化方法である。
【0006】
【化2】

【0007】
(ただし、R1〜R4は独立して水素、C1〜C4のアルキル基を表す。)
【0008】
本発明のチアゾリン誘導体には2−メルカプトチアゾリン、2−メルカプト−4−メチルチアゾリンが例示される。
【0009】
安定化されたエチレングリコール組成物中の、化2で表されるチアゾリン誘導体のエチレングリコールに対する添加量は、重量比で0.001〜5%、好ましくは 0.01〜2%、さらに好ましくは0.1〜1%である。この割合で当該チアゾリン誘導体を存在させたエチレングリコールは、空気酸化に対して極めて良好な抵抗性を示す。むろん、5%を越える添加量であっても、熱劣化を始め、空気酸化に対して極めて良好な抵抗性を示す。しかしながら、添加の費用を考慮すれば、上記の添加量程度が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
エチレングリコールの自動酸化の機構は、過酸化物中間体を通じてアルデヒドを生じ、最終的にギ酸になると言われている。本発明の組成物は、エチレングリコールに化2で表されるチアゾリン誘導体を添加することにより調整されるものである。本発明を実施することにより、化2で示されるチアゾリン誘導体は、エチレングリコールの過酸化物生成を抑制するものと推定している。上記、化2に示される化合物は、金属用防錆剤や腐食抑制剤としては公知であるものの、エチレングリコールにおける酸化防止剤としての効果は知られていない。本発明は、この点に着目してなされたものであり、新規なエチレングリコールの安定化方法として極めて有用である。
【0011】
以上説明したとおり、本発明にかかるエチレングリコールの安定化方法によれば、以下の効果を奏する。即ち、エチレングリコールに本発明にかかるチアゾリン誘導体を添加又は含有してなるエチレングリコールは、その酸化防止効果がきわめて良好となる。また、本発明は、エチレングリコールの、特に加熱時の、空気酸化防止方法として有効である。よって、本発明の安定化方法によれば、酸化防止効果の高いエチレングリコールを得ることができる。具体的には化学プラントの熱媒や冷媒、自動車エンジンの冷却液、不凍液などに適用が可能である。

【実施例】
【0012】
以下、本実施例を詳細に説明するが、これは代表的なものを示したものであり、本実施例によって本発明が限定されるものではない。
試験例1
空気酸化によるエチレングリコールの劣化試験を次の操作で行い、その結果を下記にまとめた。エチレングリコール50gに、上記化2で表されるチアゾリン誘導体を重量比で所定量加えた。その後に酸化促進剤として銅粉を5g加え、エアレーションしながら100℃で30日間経時変化させた。そしてガスクロマトグラフィーによりエチレングリコールの残存量を測定した。ただし、下記実施例において、化2記載のR2〜R4は それぞれ水素である。
【0013】
1 添加量(%) 残存率(%)
H 0.5 98.3
H 1.0 99.2
CH3 0.5 97.5
CH3 1.0 98.7
比較例 無添加 76.3

【0014】
試験例2
空気酸化による含水エチレングリコールの劣化試験を次の操作で行い、その結果を下記にまとめた。エチレングリコール25gと水25gからなる溶液に、上記化2で表されるチアゾリン誘導体をそれぞれ0.125g、0.25g(エチレングリコールに対して重量比で0.5%、1.0%)加えた。その後、試験例1と同様に酸化促進剤として銅粉を5g加え、エアレーションしながら100℃で30日間経時変化させた。なお、試験中に蒸発する水は、毎日、試験開始の状態になるように補充した。30日後、ガスクロマトグラフィーによりエチレングリコールの残存量を測定した。ただし、下記実施例において、化2記載のR1〜R4は それぞれ水素である。
【0015】
添加量(%) 残存率(%)
0.5 96.7
1.0 98.3
比較例 無添加 76.3

【0016】
試験例3
空気酸化による自動車用不凍液の劣化試験を次の操作で行い、その結果を下記にまとめた。自動車用不凍液の例として、以下の配合で不凍液の類似液を調製した。エチレングリコール88g、水3.5g、セバシン酸3g、安息香酸ナトリウム3g、ベンゾトリアゾール0.2g、トリルトリアゾール0.2g、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩0.1g、硝酸ナトリウム0.1g、モリブデン酸ナトリウム0.1g、水酸化カリウム1.8g。以上からなる溶液に、上記化2で表されるチアゾリン誘導体をそれぞれ0.44g、0.88g(エチレングリコールに対して重量比で0.5%、1.0%)加えた。
【0017】
その後、試験例2と同様に酸化促進剤として銅粉を10g加え、30日間経時変化させた。なお、試験中に蒸発する水は、毎日、試験開始の状態になるように補充した。30日後、ガスクロマトグラフィーによりエチレングリコールの残存量を測定した。ただし、下記実施例において、化2記載のR1〜R4は それぞれ水素である。
【0018】
添加量(%) 残存率(%)
0.5 98.5
1.0 99.4
比較例 無添加 83.7




【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールに、化1で表されるチアゾリン誘導体を1種または2種以上添加することを特徴とするエチレングリコールの安定化方法。
【化1】


(ただし、R1〜R4は独立して水素、C1〜C4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
エチレングリコールと水の混合物に、請求項1の化1で表されるチアゾリン誘導体を1種または2種以上添加することを特徴とするエチレングリコールの安定化方法。
【請求項3】
エチレングリコールと水の混合比が容量比で、99:1〜10:90である請求項2記載のエチレングリコールの安定化方法。
【請求項4】
エチレングリコールを主成分とする液体に、請求項1の化1で表されるチアゾリン誘導体を1種または2種以上、添加することを特徴とする当該液体中のエチレングリコールの安定化方法。
【請求項5】
請求項1〜4記載の液体が熱媒である当該液体中のエチレングリコールの安定化方法。
【請求項6】
請求項1〜4記載の液体が不凍液および/または冷却液である当該液体中のエチレングリコールの安定化方法。
【請求項7】
請求項6記載の不凍液および/または冷却液が自動車用不凍液および/または冷却液である当該液体中のエチレングリコールの安定化方法。
【請求項8】
請求項1の化1に記載のチアゾリン誘導体の1種または2種以上をエチレングリコールに対して重量比で0.001〜5%の割合で存在させてなる請求項1〜7のいずれかに記載のエチレングリコールの安定化方法。
【請求項9】
安定化の対象が、熱劣化の防止および/または空気酸化の防止である請求項1〜7のいずれかに記載のエチレングリコールの安定化方法。



【公開番号】特開2008−156263(P2008−156263A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345702(P2006−345702)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000176268)三新化学工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】