説明

エチレン分解触媒

【課題】青果物の呼吸作用の進行に伴って発生するエチレンガスの分解除去において、悪臭成分や可燃成分を発生させることなしに、しかもメンテナンスを不要とする簡素な構成のエチレン分解触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】活性アルミナ、活性シリカ、ゼオライト、メソ多孔体などの高比表面積担体表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物、および白金、パラジウム、銀などの貴金属微粒子を担持したエチレン分解触媒を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物の呼吸作用の進行に伴って発生するエチレンを、酸化分解するためのエチレン分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
青果物保存庫に野菜や果物が収納されると、これら青果物の呼吸作用の進行に伴ってエチレンガスが発生する。このエチレンガスの作用により青果物の完熟および腐敗が促進され、その結果として青果物の日持ちが悪くなる。したがって、収穫後青果物の移送中もしくは貯蔵中における鮮度を保持するためには、これらから発生するエチレンガスを効率よく除去することが好ましい。
【0003】
エチレンガスを除去する方法としては、これまで種々のものが提案されており、代表的なものとして、吸着法、オゾン法、触媒法、光触媒法等がある。吸着法は、活性炭、ゼオライト、シリカ等の吸着剤の多孔性を利用して吸着除去する方法である。オゾン法は、オゾンの強力な酸化力を利用してエチレンガスを酸化分解する方法であり、このオゾンはオゾン発生器により得られる。触媒法は、触媒として塩化パラジウムを用いてエチレンガスを燃焼除去する方法である。また、その他の触媒として、白金、コバルト、銅、ニッケル等を用いる場合もある。光触媒法は、酸化チタンなどの光触媒を用いてエチレンガスを分解する方法である。
【0004】
【特許文献1】特開平9−23815号公報
【特許文献2】特開平5−138039号公報
【特許文献3】特開平6−304480号公報
【特許文献4】特開平7−16473号公報
【特許文献5】特開平7−88367号公報
【0005】
しかしながら、上述のエチレンガスの除去方法には、各々一長一短があり、以下に述べるような多くの課題を有している。例えば、吸着法は、吸着剤が飽和してしまった場合に吸着能力が低下するため、一定期間毎の吸着剤の交換や、吸着剤を保存庫から取り出して再生するといった煩雑な作業が必要になる。オゾン法は、オゾン発生のための装置が必要であり、構造が複雑になるために保存庫全体としての大型化やコストの上昇を招いてしまうだけでなく、エチレンガスの酸化分解により悪臭成分である酢酸が生成する。触媒法においても、エチレンガスの燃焼により悪臭成分であるアセトアルデヒドが生成する。光触媒法では、エチレンガスの分解により可燃性を有するメタンが発生してしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エチレンガスの分解において、活性が高く、悪臭成分や可燃成分を発生させることなしに、しかもメンテナンスを不要とする簡素な構成のエチレン分解触媒を提供することを目的とする。すなわち発明者らは、活性アルミナ、活性シリカ、ゼオライト、メソ多孔体などの高比表面積担体表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物、および白金、パラジウム、銀などの貴金属微粒子を担持した触媒が、高いエチレン分解活性を示すことを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、前記構成とすることによって、高比表面積触媒担体による高い吸着能、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物による酸素の吸蔵放出特性、および貴金属微粒子の高い酸化触媒能の相乗効果により、高いエチレン分解活性を示すことを特徴とする、エチレン分解触媒の発明である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の触媒を用いれば、悪臭成分や可燃成分を発生させることなしに、エチレンガスを炭酸ガスおよび水に酸化分解処理することが可能である。すなわち、従来の吸着法のように一定期間毎における吸着剤の交換や、吸着剤を保存庫から取り出して再生するといった作業が不要であるだけでなく、オゾン発生のための装置などを必要とせず、悪臭成分である酢酸やアセトアルデヒドが放出されることもない。さらに、メタンなどの可燃性ガスを発生させることもなしにエチレンガスを分解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のエチレン分解触媒は、担体材料(高比表面積担体)表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物と貴金属微粒子とを担持したことを特徴とするエチレン分解触媒である。本発明のエチレン分解触媒の担体材料としては、特に制限はないが、通常、高比表面積担体が用いられ、なかでも、高比表面積の多孔質担体を使用し、反応ガスが流通可能であることが好ましい。前記高比表面積の多孔質担体としては、例えば、アルミナ(活性アルミナ等)、シリカ(活性シリカ等)、シリカアルミナ、チタニア、ゼオライト、メソ多孔体、ジルコニア、およびこれらの混合物が適している。なかでも、活性アルミナを担体として用いたときにエチレンの酸化分解活性が高くなるので好ましい。担体の形状は、粉体状、粒状、ハニカム状、スポンジ状、マット状、織布状、板状、円筒状等の形状をとることができるが、特に反応ガスとの接触面積が大きくなる粉体状もしくはメソ多孔体等の三次元網状構造体が好ましい。
【0010】
本発明のエチレン分解触媒の貴金属微粒子としては、特に制限はないが、通常、白金、パラジウム、銀などの貴金属ナノ粒子であることが好ましい。なかでもその粒径が2〜20nmのときにエチレンの酸化分解活性が高くなるので好ましく、さらに白金微粒子を用いたときに最も活性が高くなるのでより好ましい。
【0011】
また、触媒中に貴金属微粒子の割合は、特に制限はないが、高価な貴金属の使用量を最適にし、余分なコストをかけずに効率よくエチレンを分解するために、1〜6重量%、好ましくは2〜4重量%とするのがよい。
【0012】
本発明のエチレン分解触媒には、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物が反応を促進する助触媒として加えられる。この助触媒がないと、十分なエチレンの酸化分解活性が得られない。
【0013】
前項のセリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物助触媒は、一般式Ce1-x-yZrxBiy2-δで表される固溶体である。この助触媒の組成において、x、y、δの値がそれぞれ、0.1≦x≦0.3、0.1≦y≦0.3、0.05≦δ≦0.15の範囲にあるときに、エチレンの酸化分解活性が高くなるので好ましい。
【0014】
次に、本発明のエチレン分解触媒を製造する方法について説明する。本発明のエチレン分解触媒は、最終的に得られる触媒が、高比表面積担体表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物と貴金属微粒子とが担持されている構成であれば、限定されるものではないが、すでに触媒化学の教科書等で公知となっている含浸法等により調製することができる。
【0015】
すなわち、以下の方法に限定されるものではないが、次のような合成法により、本発明のエチレン分解触媒が得られる。例えば、高比表面積の多孔質担体粉末を、セリウム、ジルコニウム、及びビスマスイオンを含む溶液に分散して撹拌した後、溶媒を留去して乾燥し、次いで、これを大気中、300〜600℃にて焼成して得た粉末を、貴金属微粒子のコロイド溶液に再び分散し、溶媒を留去して乾燥する。得られた粉末を、大気中、300〜600℃にて再度焼成することにより、本発明のエチレン分解触媒が得られる。
【0016】
本発明のエチレン分解触媒の製造法において使用される、高比表面積の多孔質担体粉末は、特に限定されないが、市販されている安価な各種触媒担体が好ましく用いられる。反応ガスとの接触面積をできるだけ大きくするために、比表面積が100m2-1以上であることが望ましい。また、エチレン分解活性を高くする点で、活性アルミナが好ましく用いられ、なかでも比表面積が大きいγ型の活性アルミナがさらに好ましく用いられる。
【0017】
本発明のエチレン分解触媒の製造法において使用される、セリウム、ジルコニウム、及びビスマスイオンを含む溶液の原料としては、たとえば高純度(99.9%以上)の硝酸塩、オキシ硝酸塩、塩化物、オキシ塩化物、硫酸塩、オキシ硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩など、酸あるいは水に可溶な化合物があげられる。
【0018】
本発明のエチレン分解触媒において使用される貴金属微粒子の原料としては、市販の貴金属コロイド溶液が用いられる。コロイド溶液の代わりに、塩化白金酸、塩化パラジウム、硝酸銀等の水溶液等を用いることもできるが、貴金属粒子を高分散状態で担持し、エチレン分解活性を高くする点で、コロイド溶液が好ましく用いられる。
【0019】
上述の製造法において適用される焼成温度は、触媒が安定に生成する300〜600℃が好ましい。300℃より低いと、貴金属コロイド分散液中に含まれる高分子保護剤が不純物として残り、また、600℃以上で焼成すると、貴金属微粒子が粒成長し、エチレン分解活性を低下させる。また、焼成雰囲気としては、空気、酸素、酸素含有アルゴン、酸素含有窒素などの酸化性雰囲気であることが望ましい。また、反応を促進させるために、焼成雰囲気中に水蒸気を共存させてもよい。
【0020】
さらに上記方法にて得られるエチレン分解触媒を、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて粉砕し、比表面積を大きくすることができる。また、必要に応じて洗浄、分級することができる。得られるエチレン分解触媒の結晶性を高めるために、再焼成を行うこともできる。
【0021】
エチレン分解触媒とエチレンガスとの接触は、固定床流通型反応器、または流動床型反応器により行うことができる。また、利用規模に応じて種々の実用的形態を採ることができ、本発明は接触の実施態様である反応器の形式等には限定されない。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例
市販の高活性アルミナ(岩谷化学工業株式会社製RK-30、比表面積130 m2・g-1)を、大気中500℃で4時間焼成した。得られたγ-アルミナ4.41 gを、0.1 mol・dm-3濃度のCe(NO3)3 水溶液32 cm3、0.1 mol・dm-3濃度のZrO(NO3)2水溶液8 cm3、及び0.1 mol・dm-3濃度のBi(NO3)3水溶液10 cm3の混合水溶液に分散し、室温で6時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、大気中80℃で一晩乾燥後、得られた粉末を大気中、500℃にて1時間焼成した。この試料をCZBAとする。CZBAと、市販のポリビニルピロリドン保護白金コロイド溶液(田中貴金属工業株式会社製、PtPVPコロイドエタノール溶液、Pt 4.0 wt%)および超純水20 gを表1の割合で混合し、室温で6時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、大気中80℃で一晩乾燥後、得られた粉末を大気中、500℃にて4時間焼成した。
【0024】
【表1】

【0025】
得られた試料の粉末X線回折および透過型電子顕微鏡観察により、γ-Al2O3担体上に白金微粒子とセリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物が担持されていることを確認した。また、得られた各触媒の組成を蛍光X線分析により、比表面積を液体窒素温度でのN2吸着量から、BET法により求めたところ、表2のようになった。
【0026】
【表2】

【0027】
比較例
市販の高活性アルミナ(岩谷化学工業株式会社製RK-30、比表面積130 m2・g-1)を、大気中500℃で4時間焼成した。得られたγ-アルミナ1.47 gと、市販のポリビニルピロリドン保護白金コロイド溶液(田中貴金属工業株式会社製、PtPVPコロイドエタノール溶液、Pt 4.0 wt%)0.75 g、および超純水20 gを混合し、室温で6時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、大気中80℃で一晩乾燥後、得られた粉末を大気中、500℃にて4時間焼成した。
【0028】
得られた試料の粉末X線回折および透過型電子顕微鏡観察により、γ-Al2O3担体上に白金微粒子が担持されていることを確認した。また、得られた各触媒の組成を蛍光X線分析により、比表面積を液体窒素温度でのN2吸着量から、BET法により求めたところ、それぞれ3.7wt%Pt/γ-Al2O3、143 m2・g-1であった。
【0029】
エチレン分解活性の評価
内径10 mmのU字型石英製反応器に、実施例あるいは比較例で合成した触媒0.5 gを充填し、前処理として200℃にてアルゴンガスを接触時間W/F=1.5 g・s・cm-3となる流量で流した。前処理後、ガス組成としてエチレンが1%、酸素が5%、残りがヘリウムからなる混合ガスを、接触時間W/F=0.3 g・s・cm-3となる流量で流した。出口ガスのエチレン濃度をガスクロマトグラフ分析により測定し、式1によりエチレンの分解率として計算した。なお、ここでガスの組成を示す%は全て容量%であり、W/Fは触媒単位重量当たりの触媒活性を表示する接触時間の次元を持ち、式2により計算される。
【0030】
【数1】

【0031】
ここで、[C24]outは反応器出口ガスのエチレン濃度、[C24]inは反応器入口ガスのエチレン濃度である。
【0032】
【数2】

【0033】
図1は、実施例の触媒1から6および比較例の触媒に、分解活性の評価で記した評価を行ったときのエチレン分解率曲線である。この結果から、本発明の触媒は、触媒2〜6、とりわけ触媒3、4、5の組成、すなわち白金の含有率が2〜4重量%の触媒が、80℃以下の低温度域において格段に高いエチレン分解率を示すことがわかる。さらに比較例の触媒の結果から、本発明のエチレン分解触媒には、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物助触媒が必須であることがわかる。また、触媒によってエチレンは酸化分解し、水と二酸化炭素のみを生成することが、ガスクロマトグラフ分析によって確認された。
【0034】
以上のように、活性アルミナ、活性シリカ、ゼオライト、メソ多孔体などの高比表面積担体表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物、および白金、パラジウム、銀などの貴金属微粒子を担持した触媒とすることにより、エチレンガスの分解において、活性が高く、悪臭成分や可燃成分を発生させることなしに、しかもメンテナンスを不要とする簡素な構成のエチレン分解触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例および比較例で合成した本発明のエチレン分解触媒について、分解活性の評価の条件下で測定したエチレン分解率の温度依存性を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高比表面積担体表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物と貴金属微粒子とを担持したことを特徴とするエチレン分解触媒。
【請求項2】
触媒中に含まれる貴金属微粒子の割合が2〜4重量%、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物の割合が10〜30重量%である、請求項1に記載のエチレン分解触媒。
【請求項3】
一般式:Ce1-x-yZrxBiy2-δで表されるセリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物において、x、y、δの値がそれぞれ、0.1≦x≦0.3、0.1≦y≦0.3、0.05≦δ≦0.15の範囲にある、請求項1ないし2に記載のエチレン分解触媒。
【請求項4】
担体が活性アルミナである請求項1から3に記載のエチレン分解触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2007−229559(P2007−229559A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51497(P2006−51497)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】