説明

エネルギー吸収体

【課題】 エネルギーの吸収効率を向上させることができるとともに、その製造を簡易に行うことができるエネルギー吸収体を提供する。
【解決手段】 エネルギー吸収体1は、表層部2とコア部3とを備えている。このうち、コア部3のせん断弾性率は、(1)式で求められるせん断弾性率基準値Gの1/5〜5倍の範囲に設定されている。
G=100*Es*ts*tc/λ ・・・(1)
ただし、
G:第二の部材のせん断弾性率基準値
Es:第一の部材の弾性率
ts:表層部の厚さ
tc:コア部の厚さ
λ:円筒座屈の波長

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー吸収体に係り、特に、車両等に搭載され、車両衝突時等の衝撃エネルギーを吸収するエネルギー吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、車両が衝突した際の衝撃を緩和するためのエネルギー吸収体が設けられることがある。このようなエネルギー吸収体を道路などの周囲環境物や車両に設けることにより、衝突事故時などにおける車両の損傷を軽減しようとするものである。
【0003】
このようなエネルギー吸収体として、従来、特開平11−351301号公報に開示された樹脂製衝撃吸収体がある。この樹脂製衝撃吸収体は、所定の曲げ弾性率を有する樹脂(A)製の中空筒状体に、この樹脂よりも弾性率の低い樹脂(B)を充填したものであり、中空円筒部の座屈変形によって衝撃エネルギーを吸収し、中空筒状体の長さ方向に対する圧縮時における反力−圧縮率曲線が所定の降伏強度および単位体積あたりのエネルギー吸収量を満たすように構成されたものである。このような樹脂製衝撃吸収体は、小型・軽量でかつ簡単な構造であって、反力に比較して大きな圧縮エネルギー量を有することができるというものである。
【特許文献1】特開11−351301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に開示された樹脂製衝撃吸収体では、中空筒状体の曲げ弾性率が規定されているとともに、圧縮時における反力−圧縮率曲線の関係を規定しているが、中空筒状体に用いられる樹脂(A)と樹脂(B)との関係については、樹脂(B)は、樹脂(B)よりも曲げ弾性率が低いと規定するにとどまるものである。このため、樹脂(A)と樹脂(B)との関係については具体的に検討されておらず、さらなエネルギー吸収効率の向上を図る余地があるものであった。
【0005】
また、エネルギーの吸収効率を高めるためには、座屈量を多くすればよいため、筒状体に座屈を誘起する刻みなどを設けることが考えられる。ところが、このような刻みを設けるとすると、工数が多くなり、製造に手間がかかるようになるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、エネルギーの吸収効率を向上させることができるとともに、その製造を簡易に行うことができるエネルギー吸収体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明に係るエネルギー吸収体は、第一の部材から構成されている表層部と、第一の部材よりも弾性率の低い第二の部材によって構成されているコア部とを備え、表層部とコア部とが交互に層状に重なるように構成されたエネルギー吸収体であって、第二の部材のせん断弾性率は、下記(1)式で表される第二の部材のせん断弾性率基準値の1/5〜5倍の範囲に設定されているものである。
G=100*Es*ts*tc/λ ・・・(1)
ただし、
G:第二の部材のせん断弾性率基準値
Es:第一の部材の弾性率
ts:表層部の厚さ
tc:コア部の厚さ
λ:円筒座屈の波長
【0008】
本発明に係るエネルギー吸収体では、第二の部材のせん断弾性率を、上記(1)式に基づいて設定している。本発明者らは、第二の部材のせん断弾性率を調整することにより、エネルギーの吸収効率を向上させるため鋭意研究を行った。その結果、上記(1)式により第二の部材のせん断弾性率を設定することにより、エネルギーの吸収効率を高めることができることを知見した。このように、第二の部材のせん断弾性率を規定することにより、エネルギーの吸収効率を高めることができる。また、本発明では、第一の部材および第二の部材のせん断率をそれぞれ規定することによりエネルギーの吸収効率を高いものとしているので、座屈を誘起するための刻みなどを設ける必要がない。したがって、その製造を簡易なものとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るエネルギー吸収体によれば、エネルギーの吸収効率を向上させることができるとともに、その製造を簡易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。まず、エネルギー吸収体の構造について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るエネルギー吸収体の斜視図である。
【0011】
図1に示すように、エネルギー吸収体1は、第一の部材である金属からなる表層部2と、第二の部材である樹脂製フォーム材からなるコア部3とを備えている。表層部2は、外形が円筒状をなしており、その平断面は渦巻き状をなしている。また、コア部3は、表層部2に積層され、表層部2における渦巻き状の空隙部分を埋めるようにして配置されている。
【0012】
エネルギー吸収体1を製造するにあたっては、まず、表層部2を構成する金属板を用意し、この金属板に対して、表面の形状が金属板と同様である板状のフォーム材を積層し、基材を製造する。この基材を渦巻き状に巻き上げることにより、エネルギー吸収体1が製造される。このように、基材が巻き上げられて、表層部2とコア部3とが交互に層状に重なる状態が形成される。
【0013】
このエネルギー吸収体1では、図1に示す方向から力Fが加わった場合に、コア部3のせん断弾性率が下記(1)式を満たす基準値の付近、具体的には1/5〜5倍程度の範囲内にある場合に、ちりめん状に座屈が生じて、好適なエネルギー吸収効率を発揮することが分かった。
G=100*Es*ts*tc/λ ・・・(1)
ただし、
G:第二の部材のせん断弾性率基準値
Es:第一の部材の弾性率
ts:表層部の厚さ
tc:コア部の厚さ
λ:円筒座屈の波長
【0014】
以下に、下記(1)式を導き出した過程について説明する。
【0015】
いま、図2に示すエネルギー吸収体10について考える。この態様のエネルギー吸収体10は、表層部11とコア部12とを備えており、両者がいわばサンドイッチ構造をなして構成されている。上記の態様と同様、表層部11は金属製であり、コア部12は樹脂製のフォーム材である。図2に示すエネルギー吸収体10は、板状の表層部11と、この表層部11の表面と同様の形状を有するコア部12とが1枚ずつセットとなり、複数セットが積層されて構成されている。こうして、表層部11とコア部12とが交互に層状に重なる状態が形成される。
【0016】
図2に示すように、コア部12と表層部11とを交互に重ねたサンドイッチ構造のエネルギー吸収体10における曲げ剛性は、コア部12のせん断弾性率と曲げのスパンに影響を受ける。たとえば、曲げスパンが短い場合には、より高いコアのせん断弾性率が必要である。仮にコア部12のせん断弾性率が低くなると、剛性も低下する。
【0017】
いま、下記(2)式で示す値をせん断弾性率の下限基準値Gcとした場合のせん断弾性率と剛性比との関係について説明する。図3は、せん断弾性率と剛性比との関係を示すであり、せん断弾性率としては下限値と実値との比を示し、剛性比としては理想状態との比を示している。
Gc=6・E・tc・ts/L (2)
但し、
E:スキン弾性率
tc:コア部の厚さ
ts:表層部の板厚
L:曲げスパン(中心−支点間の距離)
【0018】
図3に示すように、コア部12のせん断弾性率が下限基準値Gcを下回った場合、曲げ剛性は急激に低下することが分かる。そこで、サンドイッチ構造において、適当なコア部12のせん断弾性率を選んで設計すれば、波長の長い座屈、つまり曲げスパンの長い座屈モードに対してはコア部12のせん断弾性率が十分であり、曲げ剛性が高くなるために座屈しにくく、波長の短い座屈、つまり曲げスパンの短い座屈モードに対してはコア部12のせん断弾性率が不十分であり、曲げ剛性が低くなって座屈しやすくなる。これは、サンドイッチ構造体が細かく破壊されることを意味し、エネルギー吸収体として都合のよい性質となる。
【0019】
また、単なる円筒形状のエネルギー吸収体では、下記(3)式で表される長さの波長λのモードで座屈が生じる。
λ=3.5(Rt1/2 ・・・(3)
但し、
λ:円筒座屈の波長
R:エネルギー吸収体の幅寸法
:エネルギー吸収体の厚み
【0020】
ここで、円筒形状のエネルギー吸収体が座屈する際の波長λについて説明する。いま、円筒形状のエネルギー吸収体は、下記(4)式に従うモードで座屈が生じる。
{(mπ/l)+(n/R)}/(mπ/l)
=2{3(l−ν)}1/2/Rt ・・・(4)
但し、
ν:ポアソン比(≒0.3)
l:円筒の全長
m:円筒の軸方向の次数
n:円筒の円周方向の次数
【0021】
また、軸方向の座屈の波長λと、円周方向の座屈の波長λ′は、それぞれ下記(5)式および(6)式で表される。
λ=2l/m ・・・(5)
λ′=2πR/n ・・・(6)
【0022】
上記(5)式および(6)式を(4)式に代入することにより、下記(7)式が得られる。
{(2π/λ)+(2π/λ′)}/(2π/λ)
=2{3(1−ν)}1/2/Rt ・・・(7)
【0023】
一般に、円筒の座屈では軸方向に細かい皺による傾向があり、λ′はλよりかなり大きくなる。したがって、簡単のために1/λ′の項を無視することができるので、下記(7)式は下記(8)式を得ることができる。
λ≒2π[Rt/2{3(l−ν)}1/21/2≒3.5(Rt1/2 ・・・(8)
【0024】
ところで、波長λの座屈とは、円筒が波長λで曲げられることを意味する。この場合の曲げスパンLは、λ/4になる。この値を上記(2)式に代入し、96≒100と考えて、(1)式を得ることができる。
【0025】
したがって、この波長λ付近の曲げスパンに対して、コア部のせん断弾性率が上記(1)式で示す基準値Gc付近になるように設計することにより座屈を生じる波長を短い値にシフトさせることができる。コア部のせん断弾性率をこのように調整することにより、図4に示すように、エネルギー吸収体1の軸方向に力Fが加わると、衝撃入力方向に略直角なちりめん状の皺Sを生じるモードで壊れるようになる。したがって、上記(2)式に基づいて上記(1)式が導き出され、上記(1)で表される基準値Gの付近、具体的にはコア部のせん断弾性率が基準値Gの1/5〜5倍の範囲に設定されることにより、衝撃エネルギーを理想的に吸収することができる。
【0026】
このような考え方は、図1に示す円筒形状のエネルギー吸収体1のみならず、図2に示すサンドイッチ構造のエネルギー吸収体10についても当てはまるものである。したがって、サンドイッチ構造のエネルギー吸収体10について、上記(1)で表される基準値Gの付近、具体的にはコア部12のせん断弾性率が基準値Gの1/5〜5倍の範囲に設定されることにより、衝撃エネルギーを理想的に吸収することができる。
【0027】
また、本実施形態に係るエネルギー吸収体では、座屈を誘起するための刻みなどを設ける必要がない。したがって、その製造を簡易なものとすることができる。
【0028】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では表層部を金属製としたが、樹脂、特に繊維強化樹脂製など他の材料とすることもできる。また、円筒形状とする際の巻き数やサンドイッチ構造とする際の積層数などについては単数または複数の適宜の数とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係るエネルギー吸収体の斜視図である。
【図2】サンドイッチ構造のエネルギー吸収体の斜視図である。
【図3】せん断弾性率と剛性比との関係を示すグラフである。
【図4】エネルギー吸収体にちりめん状の皺が入った状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1,10…エネルギー吸収体、2,11…表層部、3,12…コア部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の部材から構成されている表層部と、
前記第一の部材よりも弾性率の低い第二の部材によって構成されているコア部とを備え、
前記表層部とコア部とが交互に層状に重なるように構成されたエネルギー吸収体であって、
前記第二の部材のせん断弾性率は、下記(1)式で表される第二の部材のせん断弾性率基準値の1/5〜5倍の範囲に設定されていることを特徴とするエネルギー吸収体。
G=100*Es*ts*tc/λ ・・・(1)
ただし、
G:第二の部材のせん断弾性率基準値
Es:第一の部材の弾性率
ts:表層部の厚さ
tc:コア部の厚さ
λ:円筒座屈の波長

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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