説明

エネルギー回収装置およびエネルギー回収装置の運転方法

【課題】エネルギー回収効率が向上し、伝熱部を小型化することが可能なエネルギー回収装置を提供する。
【解決手段】媒体2として飽和水3が上下方向に循環する循環流路5と、循環流路5の外部から供給される熱を媒体2に伝える伝熱部6と、循環流路5中の媒体2の流れを受けて回転する回転翼7が備えられた発電装置8とを有し、循環流路5は、伝熱部6を通過した媒体2が上向きに流れる上昇流路10と、上昇流路10を通過した媒体2が下向きに流れて伝熱部6へ供給される下降流路11とを有し、回転翼7は上昇流路10中に設けられ、媒体2は、伝熱部6からの熱によって飽和蒸気21を含む気液二相流に変化して上昇流路10を流れ、回転翼7に供給されて回転翼7を回転することにより気液二相流から飽和水3に復水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば炉等から排出される廃熱を利用してエネルギー回収を行うエネルギー回収装置およびエネルギー回収装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電所等では、ボイラーで発生した蒸気によって蒸気タービンが回転して発電し、蒸気タービンを回転させた後の蒸気は復水器で冷やされて水に戻り、再びボイラーに供給されて蒸気に変化する。
【0003】
また、別のエネルギー回収装置として、太陽エネルギーを利用して発電を行うものがある。これは、図8に示すように、水61を入れた循環流路62の途中に、水車63に連動する発電機64が設けられ、循環流路62の伝熱部65に太陽光66を当てて循環流路62の水61を加熱し、熱対流によって水61を一方向67へ循環させて水車63を回転させることで、発電が行われる。尚、このような太陽エネルギーを利用したエネルギー回収装置60は下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−82316
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、地球温暖化防止の観点から、火力発電所等に対して、熱回収効率・発電効率の向上が望まれ、各方面で技術開発が進んでいる。一例として、火力発電所においては、25MPa×600℃のボイラーなど、高温高圧化が推進されている。
【0006】
しかしながら従来の火力発電所等では、蒸気タービンから排出される過熱蒸気を復水器において冷却し復水として回収するため、復水器からの放熱エネルギーが膨大となり、発電効率が低く留まるといった問題がある。
【0007】
また、焼却炉から発生する熱をボイラーにて蒸気として回収する場合、ボイラーの排出ガス温度がボイラー内部の缶水温度より十分に高くないと熱交換ができないので、排出ガスの温度が高いまま大気へ放出され、エネルギー効率として無駄を生じている。
【0008】
さらに、一般的な工場排ガスにおいては、ボイラーで熱回収するにはその温度が低く、ほとんど熱回収されないまま大気へ無駄にエネルギーが放出されている。
また、図8に示したエネルギー回収装置では、水61は、液体の状態で、温度差による熱対流によって循環流路62を循環している。このため、水61の温度が低下する際に放出されるエネルギーは顕熱に相当し、水61の場合では1℃の温度低下で4kJ/kg程度の少量のエネルギーしか放出されない。したがって、水61で水車63を回転させて回収したエネルギーで発電する場合、水車63を回転させる際に温度低下により放出されるエネルギーは少量であり、発電効率の向上が望めないといった問題がある。
【0009】
また、水61が循環流路62を循環しながら太陽光66によって加温され、水温が次第に上昇していくため、最終的には、循環流路62内の全ての水温が均一になり、熱対流が消滅して水61の循環が停止してしまうといった問題がある。
【0010】
本発明は、エネルギー回収効率が向上し、媒体の循環が停止するのを防止することが可能なエネルギー回収装置およびエネルギー回収装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本第1発明におけるエネルギー回収装置は、媒体として飽和液体が上下方向に循環する循環流路と、
循環流路の外部から供給される熱を媒体に伝える伝熱部と、
循環流路中の媒体の流れを受けて回転する回転体が備えられた回収エネルギー取出手段とを有し、
循環流路は、伝熱部を通過した媒体が上向きに流れる上昇流路と、上昇流路を通過した媒体が下向きに流れて伝熱部へ供給される下降流路とを有し、
回転体は上昇流路中に設けられ、
媒体は、伝熱部からの熱によって飽和気体を含む気液二相流に変化して上昇流路を流れ、回転体に供給されて回転体を回転することにより気液二相流から飽和液体に戻るものである。
【0012】
これによると、伝熱部からの熱によって媒体の一部が飽和液体から飽和気体となり、媒体は、飽和液体に飽和気体を含んだ気液二相流となり、比重差により上昇流路を上昇して流れ、回転体に供給される。これにより、回転体が回転して回収エネルギーが取り出され、回転体を回転させた後の媒体のエネルギーが回転体を回転させる前の媒体のエネルギーよりも低下し、媒体は、気液二相流から飽和液体の液相流に戻り、飽和液体の状態で、上昇流路から下降流路を下向きに流れ、伝熱部へ供給される。
【0013】
媒体が飽和液体と飽和気体との気液二相流の状態から飽和液体の液相流に変化する際に放出するエネルギーは蒸発潜熱に相当し、顕熱と比較して非常に大量のエネルギーが放出されるため、大量のエネルギーを回収して取り出すことができ、エネルギー回収効率が向上する。
【0014】
また、復水器で飽和気体を冷却して復水させる必要が無いため、放熱エネルギーの損失が低減され、エネルギー回収効率が向上する。
また、飽和液体に飽和気体を含んだ気液二相流と飽和液体の液相流との比重差によって、媒体が循環流路を循環する。これにより、循環流路内が一様に飽和温度に保たれた状態であっても、媒体の循環が停止することはない。
【0015】
本第2発明におけるエネルギー回収装置は、循環流路に空間部が形成され、
空間部を減圧する減圧装置が設けられているものである。
これによると、減圧装置で空間部を減圧することにより、媒体の飽和温度が低下するため、熱回収が困難であった低温の廃熱を利用してエネルギー回収することができる。
【0016】
本第3発明におけるエネルギー回収装置は、伝熱部と回転体との間に、上昇流路内の飽和気体の気泡を微細化する気泡微細化装置と気泡の流れを整流する整流化装置との少なくともいずれかが設けられているものである。
【0017】
これによると、気泡微細化装置により飽和気体の気泡が微細化されるため、飽和気体が回転体で液体に変わる際の衝撃が緩和され、回転体の寿命が延びるものである。また、整流化装置により気泡の流れが整流されるため、回転体に流入する流れの乱れが減少し、回転体の回転がスムーズになって、潜熱回収が効率的に行われる。
【0018】
本第4発明におけるエネルギー回収装置は、上昇流路内の飽和気体の気泡発生量を検知する検知手段と、気泡発生量を制御する制御手段とが備えられているものである。
これによると、検知手段によって上昇流路内の気泡発生量を検知し、検知された気泡発生量に基いて、制御手段が気泡発生量を制御するので、安定したエネルギー回収を行うことが可能である。
【0019】
本第5発明は、上記第1発明から第4発明のいずれか1項に記載のエネルギー回収装置の運転方法であって、
媒体が、伝熱部からの熱によって飽和液体の液相流から飽和気体を含む気液二相流に変化した状態で上昇流路を上昇し、回転体を回転させることにより気液二相流から飽和液体の液相流に戻り、液相流の状態で下降流路を下降し、伝熱部に供給されるものである。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明によると、エネルギー回収効率が向上し、伝熱部を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるエネルギー回収装置の構成を示す模式図である。
【図2】同、エネルギー回収装置の媒体のエネルギーと回収エネルギー取出手段で回収されるエネルギーとを示す模式図である。
【図3】ベルヌーイの定理を説明するための図である。
【図4】蒸気の圧力と飽和温度との関係および断熱変化をした際の圧力と温度との関係を示すグラフである。
【図5】水の温度に対する状態変化を示すグラフである。
【図6】本発明の第4の実施の形態におけるエネルギー回収装置の構成を示す模式図である。
【図7】本発明の第5の実施の形態におけるエネルギー回収装置の構成を示す模式図である。
【図8】従来のエネルギー回収装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、図1に示すように、1は、例えば工業炉から排出される排ガス等の廃熱を利用して発電を行うエネルギー回収装置である。エネルギー回収装置1は、媒体2として飽和水3(飽和液体の一例)が上下方向に循環する循環流路5と、循環流路5の外部から供給される排ガスの廃熱を媒体2に伝える伝熱部6と、循環流路5中の媒体2の流れを受けて回転する回転翼7(回転体の一例)が備えられた発電装置8(回収エネルギー取出手段の一例)とを有している。
【0023】
循環流路5は、伝熱部6を通過した媒体2が上向きに流れる上昇流路10と、上昇流路10を通過した媒体2が下向きに流れて伝熱部6へ供給される下降流路11と、これら上昇流路10の上端と下降流路11の上端との間に設けられた上部流路12と、上昇流路10の下端と下降流路11の下端との間に設けられた下部流路13とを有している。
【0024】
上昇流路10は、上下方向の主管路15と、主管路15の下方に設けられて伝熱部6を通る複数の分岐管路16と、各分岐管路16の上端と主管路15の下端とを連通するヘッダー17(連通管)とを有している。上記主管路15、分岐管路16、ヘッダー17、下降流路11、下部流路13はそれぞれ配管等で構成され、上部流路12はタンク等で構成されている。
【0025】
回転翼7は上昇流路10の主管路15中に設けられている。尚、回転翼7は上下一段であるが多段にしてもよく、多段にすることによって、一段の回転翼7では回収できない気泡の持つ潜熱を回収することができるため、潜熱の回収が促進される。
【0026】
上部流路12の上部には、上向きに窪んだ空間部24(空洞部)が形成されている。上部流路12には、空間部24を減圧する減圧装置20が設けられている。尚、減圧装置20としては、例えば真空ポンプやエジェクタ等が用いられている。
【0027】
また、伝熱部6は、排ガス34が流れる排ガス流路14の途中に設けられており、排ガス流路14に連通する流入口25を上流側に有すると共に、排ガス流路14に連通する流出口26を下流側に有している。流入口25の上流側に接続された排ガス流路14には、伝熱部6に供給される排ガス34の流量を調節する回動自在なダンパー27が設けられている。
【0028】
また、上昇流路10には、上昇流路10内の飽和蒸気21の気泡発生量を検知する複数の監視装置29,30(検知手段の一例)が設置されている。これらの監視装置29,30はそれぞれ、カメラからなり、上昇流路10内を撮影して気泡発生量を監視するものである。このうち、第1の監視装置29はヘッダー17と回転翼7との間に位置し、第2の監視装置30は回転翼7と上部流路12との間に位置している。
【0029】
また、エネルギー回収装置1には、監視装置29,30の映像に基いてダンパー27の開度を制御する制御部32が備えられている。尚、ダンパー27と制御部32とによって、上昇流路10内の気泡発生量を制御する制御手段33が構成されている。例えば、ダンパー27の開度を大きくすると、流入口25から伝熱部6に供給される排ガスの流量が増加し、これに伴って伝熱部6へ供給される熱量も増加し、飽和蒸気21の発生量すなわち気泡発生量が増加する。
【0030】
反対に、ダンパー27の開度を小さくすると、流入口25から伝熱部6に供給される排ガスの流量が減少し、これに伴って伝熱部6へ供給される熱量も減少し、飽和蒸気21の発生量すなわち気泡発生量が減少する。このように、ダンパー27の開度を調節することで、上昇流路10内の気泡発生量を制御することができる。
【0031】
以下、上記エネルギー回収装置1の運転方法を説明する。
高温の排ガス34が伝熱部6を流れることにより、伝熱部6から受ける排ガス34の熱によって媒体2の一部が飽和水3から飽和蒸気21(飽和気体の一例)に変化する。これにより、媒体2は、飽和水3の液相流から飽和蒸気21を含む気液二相流に変化した状態で上昇流路10を上昇し、回転翼7を回転させることにより気液二相流から飽和水3の液相流に復水し、飽和水3の状態で、上部流路12を通って下降流路11を下降し、下部流路13を通って伝熱部6へ供給され、循環流路5を循環して流れる。
【0032】
この際、回転翼7において、翼の上面の流速は翼の前面や下面よりも速くなることから下記に示すベルヌ−イの定理により、静圧P2が静圧P1よりも低下し、飽和蒸気21は断熱膨張して温度が低下することで飽和水3に変化する。この断熱膨張により、飽和蒸気21はエネルギー(潜熱)を放出し、放出されたエネルギーが回転翼7により回収される。
【0033】
尚、上記気液二相流の比重は飽和水3のみの液相流の比重よりも軽いため、この比重差によって、媒体2は循環流路5を循環する。これにより、循環流路5内が一様に飽和温度に保たれた状態であっても、媒体2の循環が停止することはない。
【0034】
また、上記回転翼7の回転によって発電が行われ、図2に示すように、回転翼7を回転させた後の媒体2のエネルギーE2が回転翼7を回転させる前の媒体2のエネルギーE1よりも低下する。これは、回転翼7において静圧が低下し、飽和蒸気21が断熱膨張して温度が低下することで飽和水3に変化するためである。これにより、媒体2は気液二相流から飽和水3の液相流に復水し、飽和蒸気21のエネルギーを飽和水3になるまで回収して発電することができる。また、媒体2が循環流路5を循環している際、循環流路5内は一様に飽和温度に保たれるので、伝熱部6は飽和水3が飽和蒸気21へ変化するために必要な伝熱面積さえ有していれば十分である。つまり、飽和していない水(液体)から蒸気(気体)に変化させる場合や過熱蒸気(気体)に変化させる場合に必要な伝熱面積と比較して、伝熱部6の伝熱面積を小さくすることができ、これにより伝熱部6が小型化される。
【0035】
さらに、復水器で飽和気体を冷却して復水させる必要が無いため、放熱エネルギーの損失が低減され、発電効率(エネルギー回収効率)が向上する。また、従来より低い温度の排ガスが保有しているエネルギーも回収でき、エネルギー回収装置1を含む設備全体での熱回収効率が向上する。ここで設備全体とは、従来の熱回収方法である排ガスボイラによるエネルギー回収装置も含んだ設備である。
【0036】
尚、上記のように飽和水3と飽和蒸気21とが混合した気液二相流の媒体2は回転翼7を回転させることによって気液二相流から飽和水3の液相流に復水するのであるが、この相変化は下記のような理由によって発生する。
【0037】
下記の式はベルヌ−イの定理と理想気体の状態方程式と断熱の式を示す。
【0038】
【数1】


尚、ベルヌ−イの定理において、図3に示すように、P1,P2は静圧、T1,T2は温度、ρ1,ρ2は媒体の密度、q1,q2は媒体の流速を示す。また、理想気体の状態方程式において、Pは気体の圧力、Vは気体が占める体積、Rは気体定数、Tは気体の温度を示す。また、断熱の式において、γは比熱比を示す。
【0039】
これによると、図3に示すように、回転翼7の上部の流速q2が下部の流速q1よりも速くなり、ベルヌ−イの定理によって、静圧P2が静圧P1よりも低下する。
ここで上記ベルヌ−イの定理は下記式(1)のように変形することができ、流速q2が増加すると、P2×V2の値は小さくなる。
【0040】
【数2】


また、断熱の式を下記式(2)のように変形することができ、蒸気の場合、比熱比γは1.33となるため、下記式(2)において、1−γ<0となり、P×Vが小さくなると、Pは小さくなる。
【0041】
【数3】


一方、理想気体の状態方程式を下記のように変形し、これを断熱の式に代入することにより、下記式(3)が求められる。
【0042】
【数4】


上記式(3)により、1−γ<0であるため、Pが小さくなるとTも小さくなる。
【0043】
このように、圧力Pの低下に伴って温度Tも低下するので、飽和蒸気21が飽和水3に復水するのであるが、圧力Pの低下によって飽和温度も低下する。ここで、図4のグラフG1は、圧力Pに対する蒸気の飽和温度を示し、グラフG2は、断熱変化をした際の圧力Pの低下と温度Tの低下の関係を示し、上記式(3)の比熱比γを蒸気の比熱比1.33にした場合のグラフである。
【0044】
また、下記表1は、圧力に対する蒸気の飽和温度と、圧力に対して上記式(3)により求められる温度とを数値で示した一例であり、上記グラフG1,G2の複数点の数値を示している。
【0045】
【表1】


図4に示すように、媒体2に水を用いた場合、上記グラフG2がグラフG1よりも下になっているため、飽和温度の低下量よりも、断熱変化をした際の圧力低下に伴う温度の低下量の方が大きくなり、これにより、回転翼7を回転させる飽和蒸気21が断熱膨張することによって飽和水3に復水する。
【0046】
尚、熱力学的には、復水の際に放出されるエネルギー(すなわち図2に示すように上記エネルギーE1からエネルギーE2を差し引いたエネルギーEに相当)によって回転翼7が回転し、物理学的には、飽和蒸気21が飽和水3に復水する際に容積が非常に小さくなり(蒸気の場合1/1200程度)、瞬時的に真空が発生し、回転翼7の上下の差圧が大きくなるため、回転翼7が回転する。
【0047】
また、飽和水3と飽和蒸気21との気液二相流の媒体2が飽和水3の液相流に復水する際に放出するエネルギーは蒸発潜熱に相当し、図5のグラフに示すように、水の場合は2257kJ/kgとなり、非常に大量のエネルギーが放出されるため、大量のエネルギーを回収して発電することができ、発電効率(エネルギー回収効率)が向上する。
【0048】
また、減圧装置20で空間部24を減圧することにより、循環流路5内が減圧又は真空化されて水の飽和温度が低下する。このため、低温の廃熱から熱回収が可能となり、低温の廃熱を利用して発電(エネルギー回収)することができる。つまり、より低い温度の排ガスからエネルギーを回収することができ、エネルギー回収装置1を含むシステム全体としてのエネルギー回収効率が向上する。また、上記実施の形態では媒体2に水を用いているが、低沸点物質(イソペンタン、アンモニア等)を用いても、同様に低温の廃熱を利用して発電することができる。
【0049】
尚、飽和蒸気21が飽和水3に復水する際、飽和蒸気21の気泡が壊れることにより、回転翼7の表面が壊食される虞があるため、回転翼7の材料にハステロイ等の高強度材料を採用したり、或は、回転翼7の表面にゲル材等の衝撃緩衝材を具備することが望ましい。
【0050】
また、上昇流路10内の飽和蒸気21の気泡発生量は監視装置29,30により監視されている。例えば、第1の監視装置29の監視映像に基いて、上昇流路10内の気泡発生量が不足していると制御部32が判断すれば、制御部32はダンパー27の開度を増大して伝熱部6へ供給される排ガス34の流量を増加させる。これにより、排ガス34から分岐管路16に伝達される熱量が増加し、気泡発生量が増加する。
【0051】
また、第1の監視装置29の監視映像に基いて、上昇流路10内の気泡発生量が過剰であると制御部32が判断すれば、制御部32はダンパー27の開度を減少して伝熱部6へ供給される排ガス34の流量を減少させる。これにより、排ガス34から分岐管路16に伝達される熱量が減少し、気泡発生量が減少する。このようにして気泡発生量を制御することにより、安定した発電(エネルギー回収)を行うことができる。
【0052】
さらに、第2の監視装置30の監視映像に基いて、上昇流路10の回転翼7よりも上方の部分に気泡すなわち飽和蒸気21が残っていないかを検出することができ、この検出に基いて、回転翼7で潜熱が十分に回収できているかどうかを確認することができ、精度の高い制御を行うことができる。
【0053】
尚、第2の監視装置30を備えていないものであっても、回転翼7で潜熱が十分に回収できているかを気泡の量から判断できないため制御の精度は若干低下するが、気泡発生量の制御は可能である。
【0054】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、図1の仮想線で示すように、伝熱部6と回転翼7との間に、上昇流路10内の飽和蒸気21の気泡をフィルターや超音波等を用いて微細化する気泡微細化装置36が設けられている。
【0055】
これによると、気泡微細化装置36により飽和蒸気21の気泡が微細化されるため、飽和蒸気21が回転翼7で水に変わる際の衝撃が緩和され、回転翼7の寿命が延びる。
(第3の実施の形態)
第2の実施の形態では、図1の仮想線で示すように、伝熱部6と回転翼7との間に気泡微細化装置36が設けられているが、第3の実施の形態では、図1の仮想線で示すように、気泡微細化装置36の代わりに、気泡の流れを整流する整流化装置37が設けられている。尚、整流化装置37には、固定された案内羽根やメッシュ状の整流板等が用いられる。
【0056】
これによると、整流化装置37により、気泡の流れが整流されるため、回転翼7に流入する流れの乱れが減少し、回転翼7の回転がスムーズになって、潜熱回収が効率的に行われる。
【0057】
尚、上記第2および第3の実施の形態では、図1の仮想線で示すように、気泡微細化装置36と整流化装置37とのいずれか片方のみを設けているが、気泡微細化装置36と整流化装置37とを共に設けてもよい。この場合、発電効率(エネルギー回収効率)がさらに向上する。
【0058】
上記各実施の形態では、気泡発生量を検知する検知手段の一例として、カメラからなる監視装置29,30を用いたが、監視装置29,30に限定されるものではなく、超音波センサ又は赤外線センサ等を用いて気泡発生量を検知してもよい。
【0059】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態では、図6に示すように、空間部24内の圧力を測定する圧力計41と、上部流路12内の媒体2の温度を測定する温度計42と、圧力計41で測定された実測圧力と温度計42で測定された実測温度とに基いて減圧装置20を制御する制御部43とが設けられている。
【0060】
制御部43は、飽和温度と飽和蒸気圧との関係についてのデータベース(例えば日本機械学会から刊行されているもの等)を有しており、実測圧力が実測温度に対応した飽和蒸気圧よりも低い場合、飽和蒸気21の気泡発生量が少ないと判断し、実測圧力が実測温度に対応した飽和蒸気圧よりも高い場合、飽和蒸気21の気泡発生量が過剰であると判断する。尚、圧力計41と温度計42とは、気泡発生量を検知する検知手段45を構成している。また、減圧装置20と制御部43とは、気泡発生量を制御する制御手段44を構成している。
【0061】
以下、上記構成における作用を説明する。
制御部43は、飽和蒸気21の気泡発生量が不足していると判断した場合、減圧装置20を作動させて空間部24内の圧力を低下させる。これにより、飽和蒸気圧が低下し、飽和蒸気21の発生が促進されるため、気泡発生量が増加する。
【0062】
反対に、制御部43は、飽和蒸気21の気泡発生量が過剰であると判断した場合、減圧装置20を停止し、空間部24内の圧力を上昇させる。これにより、飽和蒸気圧が上昇し、飽和蒸気21の発生が抑制されるため、気泡発生量が低減する。このようにして気泡発生量を制御することにより、安定した発電(エネルギー回収)を行うことができる。
【0063】
尚、上記実施の形態では、気泡発生量を制御する制御手段44が減圧装置20と制御部43とで構成されているが、減圧装置20の代わりに加圧装置を用いてもよい。
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態では、図7に示すように、発電装置8は、励磁装置8aにより負荷制御が可能な同期発電装置である。制御部32は、第1および第2の監視装置29,30の監視映像に基いて、励磁装置8aを制御する。
【0064】
以下、上記構成における作用を説明する。
制御部32は、第2の監視装置30による監視映像中に気泡が残存していない場合、励磁装置8aの励磁力を小さくして、発電装置8の発電量を抑制し、また、監視映像中に気泡が残存している場合、励磁装置8aの励磁力を大きくして、発電装置8の発電量を増加させることで、媒体2を飽和状態に維持することができる。尚、さらに第1の監視装置29によって気泡発生量を検知することにより、精度の高い制御を行うことができる。
【0065】
尚、上記第1〜第4の実施の形態では、図1,図6に示すように、上部流路12の上部に、凸部を設けることにより、上向きに窪んだ空間部24を局部的に形成しているが、図7に示すように、凸部を設けず、空間部24を上部流路12の上部全体に形成してもよい。
【0066】
上記各実施の形態では、回収エネルギー取出手段の一例として、発電装置8を挙げたが、発電装置8に限定されるものではなく、例えばポンプやファンの駆動源であってもよい。
【0067】
上記各実施の形態では、回転翼7を上昇流路10に一個設けたが、上下複数個設けてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 エネルギー回収装置
2 媒体
3 飽和水(飽和液体)
5 循環流路
6 伝熱部
7 回転翼(回転体)
8 発電装置(回収エネルギー取出手段)
10 上昇流路
11 下降流路
20 減圧装置
21 飽和蒸気(飽和気体)
24 空間部
29,30 監視装置(検知手段)
33 制御手段
36 気泡微細化装置
37 整流化装置
44 制御手段
45 検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体として飽和液体が上下方向に循環する循環流路と、
循環流路の外部から供給される熱を媒体に伝える伝熱部と、
循環流路中の媒体の流れを受けて回転する回転体が備えられた回収エネルギー取出手段とを有し、
循環流路は、伝熱部を通過した媒体が上向きに流れる上昇流路と、上昇流路を通過した媒体が下向きに流れて伝熱部へ供給される下降流路とを有し、
回転体は上昇流路中に設けられ、
媒体は、伝熱部からの熱によって飽和気体を含む気液二相流に変化して上昇流路を流れ、回転体に供給されて回転体を回転することにより気液二相流から飽和液体に戻ることを特徴とするエネルギー回収装置。
【請求項2】
循環流路に空間部が形成され、
空間部を減圧する減圧装置が設けられていることを特徴とする請求項1記載のエネルギー回収装置。
【請求項3】
伝熱部と回転体との間に、上昇流路内の飽和気体の気泡を微細化する気泡微細化装置と気泡の流れを整流する整流化装置との少なくともいずれかが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のエネルギー回収装置。
【請求項4】
上昇流路内の飽和気体の気泡発生量を検知する検知手段と、気泡発生量を制御する制御手段とが備えられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のエネルギー回収装置。
【請求項5】
上記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエネルギー回収装置の運転方法であって、
媒体が、伝熱部からの熱によって飽和液体の液相流から飽和気体を含む気液二相流に変化した状態で上昇流路を上昇し、回転体を回転させることにより気液二相流から飽和液体の液相流に戻り、液相流の状態で下降流路を下降し、伝熱部に供給されることを特徴とするエネルギー回収装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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