説明

エプスタインバーウイルスのVCA−p18カプシド抗原由来ペプチド及びその使用

本発明は、ウイルス診断の領域に関し、特にエプスタインバーウイルス(EBV)診断に関する。本発明によりEBV検出のための改良方法およびこの目的のために適した試薬が提供される。p18−VCAに由来し、急性EBV感染および過去EBV感染の識別を可能とするペプチド類が開示される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス診断、特にエプスタインバーウイルス(EBV)診断の領域に関する。本発明により、EBV感染を検出するための改良方法及びこの目的に適した試薬が提供される。エプスタインバーウイルスは、伝染性単核症の引き金であると考えられるヒトヘルペスウイルスである。EBVによる感染は、しばしば穏やかな徴候と共に無症状で起こるが、免疫抑制された人においては、重篤な悪性の症状をもたらす。
【背景技術】
【0002】
エプスタインバーウイルス(EBV)診断の重要性
急性EBV感染症の症状は、他の病原体によって引き起こされる、あるいは他の原因による多くの臨床的状況とオーバーラップする可能性があるので、EBV診断は識別診断をする上で大変、重要である。したがって、急性EBV感染症は、初期HIV感染症、風疹ウイルス感染症、サイトメガロウイルス感染症、古典的な肝炎ウイルスによる感染症、トキソプラズマ症、レプトスピラ症、様々な向神経性病原体による感染症、および白血病あるいはリンパ腫と混同されることがある。それゆえ、明確なEBV血清学は、患者に対して大きな恩恵をもたらすものである。
【0003】
EBV血清学の諸問題
古典的なEBV血清学は、ウイルスカプシド抗原(VCA)やEBV特異的核内抗原(EBNA)、特にEBNA−1に応答するIgG抗体やIgM抗体の検出に基づいている。
【0004】
様々なEBV抗原クラスの分類は、初期に必要とされるタンパク質(EA:早期抗原)、後期に必要とされるタンパク質(VCA:ウィルスカプシド抗原)および潜伏性維持のための抗原(EBNA)を備えたウイルス増殖の生物学的サイクルに基づいている。これらの抗原クラスは、一次血清学的検査システム(EBV感染細胞の免疫蛍光検査法)により、検出及び識別が可能である。血清学的検査システムのさらなるその後の開発は、すべてこの方法を保持し、EBNA、VCAおよびEAの抗体特異性を識別するのを可能としている。
【0005】
VCAとEBNAのマーカーとしては、免疫蛍光検査法の中で初めて明確にされた。より最近の検査では、組換え法によって一般に調製されるVCA複合体の精製成分p18やp23、あるいはEBNA−1に相当するp72が用いられる。EBNA−1抗原は初期感染後の遅い段階で形成して潜伏感染細胞を構築し、この潜伏状態を維持する要因のうちの1つである。これは、EBNA−1抗体は、初期感染に引き続く6ケ月以内の期間経過後に初めて形成されることを意味する。しかしながら、それと同時に、このマーカーが存在する場合には、最近の感染を診断により安全に除外することができることをも意味している。したがって、感染時期の特定のための重要なマーカーとして利用可能である。
【0006】
EBV血清学的診断は、古典的マーカーであるVCA−IgG,VCA−IgMおよびEBNA−1抗体のみが検査される場合、しばしば曖昧かつ誤った結果に結びつくという、高度の多様性を持っている。したがって、例えば、すべての急性EBV感染症が、検出可能なVCA−IgM応答を示すとは限らない。その結果、VCA−IgGおよびVCA−IgMの決定のみに基づく検査戦略は、この場合、誤った結論に繋がる。一方、まれではあるが、VCA−IgM応答が何ケ月も持続し、このために最近の感染と見せかけることがある。
【0007】
EBNA−1抗体陽性であるということは、EBVに経過感染したことを示す証拠であり、VCA−IgG陽性と組み合わせることにより、唯一の明確な血清学的組み合わせとなる。EBNA−1抗体陰性(同時に、VCA−IgG陽性)は、急性EBV感染を示すかもしれないし、あるいは免疫抑制の場合のように、二次的なEBNA−1抗体の減少によって起こる場合がある。また、感染した患者の約5%は、検出可能なEBNA−1抗体を生じないし、このため彼らの生涯に渡って、急性EBV感染症の血清学的状態を見せかける。
【0008】
したがって、急性EBV感染症は、同時にVCA−IgG陽性およびEBNA−1抗体陽性であることから、安全に排除される。しかしながら、VCA−IgG陽性であって、EBNA−1抗体陰性の場合には、以下の3通りの症例に発生する断定できない組み合わせとなる。
1)最近のEBV感染のケース
2)細胞内免疫系の抑制による、経過感染およびEBNA−1抗体の減少のケース
3)経過感染および同時期のEBNA−1抗体生成の欠如(健常人の約5%に見られる)のケース
【0009】
ケース2)およびケース3)は、例えば、実際の最近のEBV感染よりも、より頻繁に大病院で検査された患者で見られる。
【0010】
EBV血清学の重要なこの問題は、複雑な追加の検査によって、あるいは臨床データを伴う一定期間の反復検査によってのみ、今日、信頼性を持って解決することができている。
【0011】
したがって、EBNA−1抗体の欠如は、新たな感染の指標として一般的に使用されている。上記したように、これは、EBNA−1抗体陰性のままであるEBV感染患者の場合、あるいは細胞内免疫系の抑制により、関連抗体が減少しているEBV感染患者の場合、深刻な誤解を招くことになる。定型的な診断で使われており、EBNA−1抗体を使用している現在の方法は、感染したばかりのEBV感染の診断を信頼に足るものとするものではない。
【0012】
一方では、急性EBV感染におけるEBNA−1に対する1次抗体が陰性であること、および他方では、EBNA−1抗体が減少したり、EBNA−1抗体が欠如していることの識別は、EBV血清学における重要な問題である。
この特別な問題は、血清学検査に関しての公表された評価法の殆どにおいて考慮されていない。EBV感染検査の最大20%は、曖昧であり、正しくない結果となっているものと推測しなければならない。EBV感染検査は、特に腫瘍学、移植医学および妊娠中の看護にとって非常に重要である。
【0013】
本発明の目的は、急性感染および過去感染を信頼性をもって識別することができるEBV感染検出試薬を提供することにある。
【0014】
驚くべきことに、ウイルス性EBVカプシド抗原p18を修飾することによって、EBNA−1抗体と同様の確実性で感染後期の段階でのみ生成する抗体であって、免疫抑制されたヒトにおいて生成しないかあるいは減少するという問題を同程度に示さない抗体と反応するペプチドを得ることができる。
【0015】
これらは、リーディング・フレームBFRF3によってコードされるEBV−p18抗原に由来するペプチドである。この抗原はVCAマーカーとして、大分前の1988年に報告されている(Middeldorp and Herbrink, J. Virol. Meth., 21 (1988) 133 − 146)。
【0016】
p18の分子量の決定、および遺伝子工学的方法によるタンパク質の調製、およびそれらの幾つかの免疫学的に活性な断片の使用は、ヨーロッパ公開特許(EP574075A2)に記載されている。しかしながら、組換え抗原の性質、あるいは化学的に合成された断片の性質に関する記載は、最適の反応性に常に基づくものであった。
【0017】
組換え方法によって製造される精製された完全p18抗原に対するIgG抗体は、最近のEBV感染の場合でさえも検出されるので、急性感染と過去感染とを識別するのには不適当である。
【0018】
驚くべきことに、例えばp18抗原のN−末端領域を除外することにより、時間を関数とする抗体応答の識別が達成されることが、種々、検討の間に見出された:このN−末端側欠失p18は、感染のわずか数週間後に形成される抗体を認識する。
【0019】
したがって、本発明は、エプスタインバーウイルスのウイルス性p18抗原に由来するペプチドに関し、該ペプチドは、比較的遠い過去からエプスタインバーウイルス感染している個体からの抗体に対して反応するか、あるいはエプスタインバーウイルスに急性感染あるいは近い過去からエプスタインバーウイルスに感染している個体からの抗体と反応しないか、あるいは反応しても弱い。
【0020】
「ペプチド」なる表記は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含む。特に断りのない限り、ペプチドの長さについては制限がない。
【0021】
本発明によるペプチドは、修飾されたp18抗原である。つまり、本ペプチドはウイルス性p18である「野生型タンパク質」と同一ではない。もし、修飾されたペプチドが、比較的遠い過去からEBV感染している個体からの抗体に対しては反応するか、あるいはエプスタインバーウイルスに急性感染した、あるいは近い過去からエプスタインバーウイルスに感染している個体からの抗体とは反応しないか、あるいは弱く反応する限りにおいて、ウイルス性p18の修飾については特に制限されない。
【0022】
本発明のペプチドがp18に由来するという事実は、それが完全なウイルス性p18抗原の少なくとも1つのエピトープを有する、少なくとも1個の断片を含むことを意味する。比較的遠い過去からEBV感染している個体から得られた血清とインキュベーションすることによるラインアッセイ(Line Assay)(実施例3参照)において、陽性反応が得られる場合には、そのようなエピトープが存在している。
【0023】
ウイルス性p18のアミノ酸配列を図7(配列番号:1)に示す。一般に、本発明のペプチドは、配列番号:1とは異なるアミノ酸配列を有している。本発明のペプチドは、好ましくは1以上の欠失および/または置換を含む。本発明のペプチドは、最も好ましくは、配列番号:1で示されるアミノ酸配列に比べて、1以上の欠失を有している。アミノ酸がp18のN−末端側のみならず、C−末端側および/またはp18配列の内部の位置で欠失していてもよい。好ましくは、1以上の、p18のN−末端側アミノ酸が欠失していてもよい。
【0024】
本発明のペプチドは、配列番号:1のアミノ酸配列の連続した、少なくとも10個、好ましくは少なくとも25個、さらに好ましくは少なくとも50個、もっと好ましくは少なくとも75個、さらにもっと好ましくは少なくとも100個、最も好ましくは少なくとも125個のアミノ酸から成る、あるいは含むものである。
【0025】
完全なp18−VCAの少なくとも1つのエピトープは、感染後、抗体がそれに対して形成されるのであるが、本発明によるペプチド中には存在しないのが望ましい。
【0026】
一般に、本発明のペプチドは、1から100個のアミノ酸、好ましくは5から90個のアミノ酸、より好ましくは10から70個のアミノ酸、さらに好ましくは15から50個のアミノ酸、さらにもっと好ましいのは20から40個のアミノ酸、最も好ましいのは約30個のアミノ酸であって、ウイルス性p18抗原よりもそのN−末端側が短い。好ましい具体例として、本発明のペプチドは、配列番号:2のアミノ酸配列から成る。このアミノ酸配列は、配列番号:1における31位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸に相当する。さらに好ましい態様では、本発明のペプチドは、以下のグループから選ばれるアミノ酸配列を実質的に含んでいる。
【0027】
配列番号:1の21位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の22位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の23位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の24位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の25位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の26位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の27位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の28位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の29位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の30位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の31位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の32位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の33位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の34位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の35位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の36位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の37位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の38位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の39位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の40位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列、および
配列番号:1の41位アミノ酸から176位アミノ酸までのアミノ酸配列。
【0028】
当業者は、もしアミノ酸が挿入、置換または欠失される場合、そのような配列の免疫学的性質は、ほんの僅かだけしばしば変わることも知っている。保存的としばしば看做される置換は、置換アミノ酸の化学的性質が置換されるアミノ酸のそれと類似している置換である。保存的と看做されるアミノ酸の組み合わせは、例えば、Gly/Ala、 Asp/Glu、 Asn/Gln、 Val/Ile/Leu、 Ser/Thr、Lys/Arg およびPhe/Tyrである。
【0029】
本発明のペプチドは、その機能性を失うことなくウイルス性p18より1個以上のC−末端側アミノ酸が短くてもよい。通常、10個以下のアミノ酸、より好ましくは5個以下のアミノ酸、最も好ましくは2個以下のアミノ酸が、p18と比較して、C−末端側で存在しない。特定の開発では、該ペプチドは、実質的に以下の配列からなるグループから選ばれるアミノ酸配列を含む。
【0030】
配列番号:1の31位アミノ酸から166位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の31位アミノ酸から167位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の31位アミノ酸から168位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の31位アミノ酸から169位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の31位アミノ酸から170位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の31位アミノ酸から171位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の31位アミノ酸から172位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の31位アミノ酸から173位アミノ酸までのアミノ酸配列、
配列番号:1の31位アミノ酸から174位アミノ酸までのアミノ酸配列、および
配列番号:1の31位アミノ酸から175位アミノ酸までのアミノ酸配列。
【0031】
しかしながら、ウイルス性p18と比較して、本発明のペプチドは、C−末端側で短縮されていないのが好ましい。
【0032】
担体と好都合にカップリングさせる為のある種のリンカーを作成するために、N−末端側あるいはC−末端側で、付加的なアミノ酸あるいは化学的なグループを付加させることは可能である。そのようなリンカーは、概ね、1〜60個のアミノ酸から成り、一般的には1〜10個のアミノ酸から成る。しかしながら、担体あるいは固相へのペプチドの結合は、共有結合である必要はない。さらにまた、他のペプチドへのカップリングを達成するためにシステイン残基を付加することは可能である。
【0033】
本発明のペプチドは、例えば、グリコシル化、アミド化、カルボキシル化あるいは燐酸化により、さらに修飾することができる。本発明は、例えば、塩類、アミド類、エステル類、C−末端アミド化誘導体あるいはN−末端アシル化誘導体等の機能的誘導体にも関する。
【0034】
本出願における情報に基づき、当業者はある種のp18誘導体が急性感染であるか、過去感染であるかを識別するのに適しているかどうかを容易に決めることができる。この目的達成のためには、例えば、与えられたp18誘導体を実施例3に記載されたラインアッセイによって検査するだけでよい。
【0035】
本発明のペプチドは、当業者に公知の種々の方法で製造することができる。概して、該ペプチドは、化学合成によって、あるいは適切な宿主細胞中での組換えDNAの発現によって製造される。
【0036】
固相合成法あるいは液相合成法が、ペプチドの化学合成法として使用することができ、固相合成法が好ましい。ペプチドの化学合成法は、出版物[Bodanszky and Ondetti: Peptide Synthesis(ペプチド合成), Interscience Publishers, New York (1966); The Peptides, Analysis, Synthesis, Biology(ペプチド、分析、合成、生物学)], Volume 1−3 (Ed. Gross and Maienhofer) 1979, 1980, 1981 (Academic Press, Inc.)]に記載されている。
【0037】
本発明によるペプチドの組換え合成のためには、ペプチドのアミノ酸配列をコードする核酸が、最初に提供される。この核酸はDNAあるいはRNAであるが、DNAが好ましい。コーディング用核酸は、通常、コードされたペプチドを発現させることのできる適切な配列を含んでいるベクターあるいはプラスミドへ導入される。このタイプの適切な配列としては、例えば、プロモーター配列、ターミネーター配列およびプラスミドの複製を可能とする配列である。それらは原核生物あるいは真核生物における、発現用の発現プラスミドであることができる。当業者は、いろいろなプロモーター配列が使用されることを知っている。原核生物の発現プラスミドが好まれる。
【0038】
さらに、本発明は、本発明のペプチドをコードする核酸を含んでいるベクターあるいはプラスミドにも関する。ベクターとプラスミドの調製のための慣用的な方法が、出版物[Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual(分子クローング:実験マニュアル), 2001, Cold Spring Harbour Laboratory Press.]に記載されている。さらに、ベクターまたはプラスミドは、適切な宿主微生物、例えば、哺乳動物細胞、あるいは好ましくは細菌へ導入され、次いで適当な条件下、培養して所望のペプチドの発現が起きるようにする。また、本発明は、ベクターあるいはプラスミドを含む細胞にも関する。本発明の別の態様としては、本発明のペプチドの製造法、すなわち、本発明の細胞を適当な条件下培養して、所望のペプチドを発現させ、随意、該ペプチドを回収する。発現が完了した後、ペプチドは当業者にそれ自体公知の方法で回収される。ペプチドの組換え発現に関する適当な方法が、出版物[Sambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual(分子クローニング:実験マニュアル)](上記参照)に記載されている。
【0039】
ペプチドは、好ましくは単離された形で存在し、実質的に他のペプチドを含まない。本発明によるペプチドの純度は、好ましくは90%超、より好ましくは95%超、最も好ましくは99%超であり、これらの純度は電気泳動(SDS−PAGE)とその後のクーマシー染色によって決定される。
【0040】
発現が完了した後、ペプチドは一般に精製される。当業者に公知の広範囲の精製方法を使用することができる。タンパク質やペプチドの精製方法は、出版物[Methods in Enzymology, Vol. 182, Guide to Protein Purification(タンパク質精製の手引き), Academic Press, New York 1990 or Scopes R.K., Protein Purification(タンパク質精製), Springer−Verlag, Heidelberg 1994]に記載されている。
【0041】
本発明のペプチドは、比較的遠い過去にエプスタインバーウイルス感染した個体からの抗体に対しては反応するが、エプスタインバーウイルスに急性感染した、あるいは近い過去からエプスタインバーウイルスに感染している個体からの抗体に対しては反応しないか、あるいは弱い反応しか示さない、という事実によって識別される。データは、好ましくは、IgG抗体に関係するものである。
【0042】
比較的遠い過去より感染歴のある個体からの血清は、以下に示す血清学的特性を有している。
EBNA−1−IgG抗体:陽性
p23−IgG抗体 :陽性
p54−IgG抗体 :陰性
p138−IgG抗体 :陰性 および
p23−IgG抗体 :陰性
【0043】
本発明のペプチドは、こうした血清学的特性を持っている血清からの抗体と反応する。
【0044】
概して、約1.5年遡る期間の感染は、「比較的遠い過去からの感染」として定義することができる。
【0045】
EBVによる個体の感染は、伝染性単核症の臨床的症状が存在する場合には、「急性」と考えられる。近い過去に遡るEBV感染した個体からの血清は、以下に示す血清学的特性を持つ。
EBNA−1−IgG抗体:陰性
p54−IgG抗体及び/又はp138−IgG抗体(EA):陽性
p23−IgG抗体(VCA):陽性 および
p54−IgM抗体及び/又はp138−IgM抗体及び/又はp−54−IgM抗体:陽性
【0046】
本発明のペプチドは、これらの血清学的特性を持っている血清からの抗体に対しては、反応しないか、あるいは反応しても弱い。
【0047】
一般に、約4週間遡る感染は、「近い過去に遡る感染」として定義できる。
【0048】
本願明細書においてペプチドが抗体と「反応する」という表現は、ペプチドと抗体が互いに接触させられた後、ペプチドが1つ以上の抗体を有する抗原抗体免疫複合体を形成することを意味する。もし、ペプチドと抗体が互いに接触させられた後、抗原抗体複合体が形成されないか、あるいは弱い抗原抗体複合体だけが形成される場合には、ペプチドと抗体の反応は起きていないか、あるいは弱い反応が起きているだけである。ペプチドが抗体と反応するかどうかは、実施例3に記載したように、「ラインアッセイ」によって決定することができる。
【0049】
本発明は、さらに、本発明の上記ペプチドとウイルス性p18抗原のアミノ酸配列に相当しない1個以上のアミノ酸配列との融合ペプチドに関する。広範囲の外来配列が関与していてもよい。しかしながら、外来アミノ酸と抗体との間の交差反応を避けるために数個のアミノ酸が融合ペプチドに包含されているのが好ましい。外来配列の例としては、発現ペプチド、例えばN−末端あるいはC−末端におけるオリゴヒスチジン鎖(6〜8個の連続したヒスチジン残基)のアフィニティー精製法を容易にするアミノ酸配列である。
【0050】
本発明のさらに別の態様では、エプスタインバーウイルスに対する抗体の検出用診断薬であり、これは本発明のペプチドおよび/または本発明の融合ペプチドから成る。本願明細書における「診断薬」は、固相またはトレーサーを含む。固相は、例えば検査マイクロプレート、細胞、容器、細胞膜、フィルター、検査ストリップ、あるいはビーズなどの粒子を含む。ペプチドを固相表面あるいは固相へ結合させる方法は、当業者にそれ自体公知である。
【0051】
トレーサーとしては、例えば、放射性同位体、蛍光性化合物、酵素、着色剤等である。本発明のペプチドまたは融合ペプチドは、使用目的に応じて標識してもよいし、標識しなくてもよい。標識は、あらゆる種類のものがあり、例えば、酵素的、化学的、蛍光性、発光性、あるいは放射性であってよい。
【0052】
エプスタインバーウイルスに対する抗体は、例えば、本発明の診断薬を個体の血清と接触させて、生成した抗原抗体複合体を検出することによって検出することができる。したがって、本発明は、また、検体中のエプスタインバーウイルスに対する抗体の検出方法に関し、それは、本発明のペプチドあるいは融合ペプチドを、あるいは本発明の診断薬を検体と接触させて、生成した抗原抗体複合体を検出することから成るものである。
【0053】
一般に、検体は個体からの体液である。好ましくは、検体は個体からの血清である。血清は、適当な液体で希釈することができる。
【0054】
本発明方法においては、上記した診断薬が通常、使用される。診断薬の性質およびさらなる特徴に依存して、免疫化学反応はいわゆるサンドイッチ反応、凝集反応、競合反応あるいは阻害反応である。
【0055】
本発明方法の好ましい形態として、本発明のペプチド又は融合ペプチドは、固相に固定される。次いで、その固相は調べようとする検体、例えば血清と接触させられ、その結果、抗原抗体複合体が形成される。その後、結合抗体を除去するために固相は1回もしくは数回、洗浄される。次に、固定化された抗原抗体複合体が同定される。この同定は、例えば、マーカーに結合させたいわゆる抗抗体によって実施することができる。したがって、洗浄後は、固相は西洋わさびペルオキシダーゼに結合した抗IgG抗体と接触させることができる。この抗抗体は、固定化免疫複合体と結合する。結合した2次抗体は、西洋わさびペルオキシダーゼの酵素反応による公知方法で視覚化することができる。この2次抗体は、好ましくは、特異的にヒトIgGを認識する。
【0056】
本発明方法では、その上に1つ以上の抗原が固定化されている膜あるいは検査ストリップが、好ましく使用される。該方法の別の態様では、ELISA検査が実施される。そのような方法の操作は、当業者にそれ自体公知である。適切な検出法の概略は、出版物“Labor und Diagnose” [実習と診断], L. Thomas; Die medizinische Verlagsgesellschaft, Marburg; ISBN 3 921320 21 6.に見ることができるであろう。
【0057】
ELISAを実施するためには、ペプチドあるいは複数のペプチドの混合物は、通常、固相に、例えば、マイクロタイタープレートに結合している。適当に希釈した検査すべき体液(血清)を、ペプチドまたは複数のペプチドが結合している固相と接触させる。次いで、抗原抗体複合体の生成に十分な時間、インキュベーションする。その後、結合しなかった成分は洗浄して除去する。免疫複合体の検出は、一般に、ヒト免疫グロブリンに特異的に結合し、標識(適当なマーカーに関しては上記参照)されている抗体を用いて実施される。基質を加えた後、視覚的に、光度測定により、分光測定により、発光測定により、あるいは電気化学的に容易に検出することができる生成物がしばしば形成される。
【0058】
別の変法としては、競合的アッセイ法があるが、これもまた当業者には公知である。
【0059】
本方法の特定の態様では、エプスタインバールウイルスのさらなる抗原を、検体と接触させ、生成した抗原抗体複合体を検出する。このさらなるEBV抗原は、最近の感染が特徴的である抗原が好ましい。このさらなる抗原は、p18、p23、p138およびp54から成るグループから好ましくは選択される。
本発明方法のさらに別の態様では、本発明のペプチドまたは融合ペプチドの他に、後期核抗原EBNA−1(p72)が使用される。
本発明方法のさらに別の態様では、本発明のペプチドまたは融合ペプチドの他に、p72、p18、p23、p138および/またはp54が使用される。
【0060】
本発明のさらに別の態様は、エプスタインバーウイルスに対する抗体の検出用検査キットであり、該キットは本発明によるペプチドまたは融合ペプチドおよび/または上記した診断薬から成る。この検査キットは、本発明方法を実施するのに適したさらなる試薬、例えば2次抗体から成る組成物を含んでいてもよい。この検査キットは、好ましくは、固相を含んでいる。少なくとも本発明による1つのペプチドあるいは融合ペプチドが、その上に固定化されているウエスタンブロット検査ストリップが、特に好ましい。さらに、EBV抗原は固定化することができ、例えばp18、p23、p72、p54および/またはp138がそうである。検査ストリップは、ニトロセルロースのストリップであってよい。検査キットは、随意、濃縮した形態の洗浄液をさらに含んでいてもよい。
【0061】
本発明のさらなる態様は、急性EBV感染/近い過去あるいは比較的遠い過去にまで遡るEBV感染/過去のEBV感染の有無を決定するための、エプスタインバーウイルスの修飾されたウイルスカプシド抗原の使用である。
本発明による好ましい使用の態様は、上記したペプチド、融合ペプチド、診断薬、検査キットおよび/または方法の好ましい態様に相当する。
本発明は、さらに、最近感染/近い過去にまで遡る感染および過去感染を血清学的に識別するための、エプスタインバーウイルスの修飾されたウイルスカプシド抗原の使用に関する。本発明は、さらに、EBVに対する抗体を検出するための、エプスタインバーウイルスの修飾されたウイルス性抗原の使用に関係する。最近感染および過去感染を識別することはむしろ可能である。本発明は、さらに、過去のEBV感染の検出のためのエプスタインバーウイルスの修飾されたウイルスカプシド抗原の使用に関する。最後に、本発明は、過去のEBV感染と最近のEBV感染を識別するためのエプスタインバーウイルスの修飾されたウイルスカプシド抗原の使用に関する。本発明の使用によれば、修飾されたウイルスカプシド抗原は、好ましくは、本発明によるペプチドあるいは融合ペプチドに相当する。上記した本発明の全ての好ましい変形は、本発明の使用に対しても適用できる。
【0062】
本出願で記載されている全ての態様および好ましい実施形態は、非常に広範囲の様々の方法で互いに組み合わせることができる。本発明は、同様に、そのような組み合わせにも関する。
【0063】
EBNA−1の他に、本発明は抗体が生成しないという欠点を持たない二次後期マーカーを提供する。EBNA−1とは対照的に、p18に対する抗体は細胞の免疫抑制の後でも失われない。したがって、本発明により修飾されたp18に対するIgGの同定は、信頼性を持って急性EBVを除外している。
【0064】
例えば、免疫ブロット法等の適当な測定系で、修飾されたp18を使用することによって、EBNA抗体の応答が変則的な場合でさえ、最近のEBV感染および過去のEBV感染を検出することが可能である。
【0065】
図1は、修飾されたp18抗原の使用による、EBV診断の情報提供力における改善を示す。
【0066】
上半分の図は、EBVに対する抗体を決定するための通常の免疫ブロットを概略的に示す。下半分の図は、N−末端側で短縮されたp18(検査ストリップ上では、p18として示されている)を追加的に含む、本発明による試験を示す。マーカーp23(VCA)、p54(初期抗原)およびp138(初期抗原)は、新しい感染および過去の感染を区別できない血清陽性マーカーである。これらのマーカーに対する抗体反応は変わりうるので、異なるパターンの免疫反応を検出することができる。少なくとも1つのこれらのマーカーに対する抗体応答が陽性であるということは、「最近感染」および「過去感染」を識別することなく、「EBVに感染」との診断を下すことができる。p72(=EBNA−1)に対する陽性IgG応答は、「過去感染」との信頼性のある診断を下すことが可能である。従来の検査では、古典的な過去のEBV感染(A1)は、p72−IgG陽性に基づき正しく認識されるのに対して、p72−IgG生成(A2)がない過去のEBV感染、あるいはその後の2次p72−IgGの消失(A3)を伴う過去のEBV感染は、まだp72−IgG応答を示さない真の最近のEBV感染とは識別することができない。したがって、ケースA2およびA3は、従来の検査では、概して正しく診断されていない。毎日の実務では、こうしたケースが、本当の最近EBV感染よりも、さらに頻繁に起きている。
【0067】
例えば、N−末端側で短縮されたp18(図1では、「p18」として示されている。)を含む修飾検査(図面の下半分)を使うと、p18−IgG(B)を欠く最近のEBV感染は、過去のEBV感染(A1〜A3)とは、p72−IgGがなくても明瞭に識別される。
【0068】
図2は、様々なペプチドの発現を示す。誘導後の発現E.coliクロ−ン溶解液のクーマシーブルー染色SDSポリアクリルアミドゲルを示す(参照:実施例1)。レーンは以下のバッチに相当する。
【0069】
レーン1:N−末端側で短縮されたp18の発現(p18−30)
レーン2:pDSベクター中での完全p18の発現
レーン3:pQEベクター中での完全p18の発現
レーン4:分子量マーカー
【0070】
完全p18抗原の大きさの相違は、異なるN−末端側のアミノ酸に基づく;pQEベクターは付加的なヒスチジンタグを有する。N−末端側で短縮されたp18は、予想通りに、約4kDa低い分子量である。
【0071】
図3は、免疫ブロット法におけるペプチドの反応性を示す。2つのp18変異体を有する誘導E.coliクローンの溶解液を、ゲル電気泳動によって分離し、次いでニトロセルロース膜(ウェスタンブロット法)に移す。
【0072】
レーン1:ヒスチジンタグなしの完全p18
レーン2:p18−30(短縮されたp18バージョン)
【0073】
ニトロセルロース膜は、EBV陽性のヒト血清とインキュベーションされる;特異的に結合した抗体は、次いでペルオキシダーゼコンジュゲートの抗IgG2次抗体およびTMB染色によって視覚化された。
A;最近のEBV感染患者の血清
B;過去のEBV感染患者の血清
【0074】
図4は、N−末端側で短縮されたp18の反応性について、ストリップ上で市販EBV抗体検査(Viramed社, Planegg(ドイツ);製品名 ViraStripe EBV)を用い、全長p18−VCAの反応性との比較を示す。
【0075】
過去にEBV感染しているが、血清学上の問題(弱い抗体価、EBNA−1抗体の欠如;A)がある患者の10血清検体、および最近のEBV感染(B)患者の10血清検体について、以下に示す2種類のEBV抗原検査ストリップを用いてそれぞれ検査した。
「Mikrogen」ストリップは、N−末端側で短縮されたp18とは離して、追加的にEBV抗原、すなわちEBNA−1、p23(VCA)およびp54およびp138(EAs)を含んでいる。
「Viramed」ストリップもまた、完全p18抗原とは離して、EBVタンパク質であるEBNA−1、EA−p54およびgp125(VCA)を含んでいる。
【0076】
図の左半分(Mikrogen検査)では、「p18」は、N−末端側で短縮されたp18を示す。右半分 (Viramed検査)では、「p18」はウイルスの全長p18を示す。
過去感染(A)の場合には、多かれ少なかれ明らかなp18抗体反応が両方の検査で見られるはずである。
しかしながら、最近感染(B)後の患者血清では、N−末端側が短縮されたp18による試験ではいずれの場合にも反応を示さないが、ViraStripe(完全p18)を用いた場合、全ての検体において反応を示す。
【0077】
図5は、本発明による試験と市販ELISAシステムとの反応性に関する比較試験を示す。
【0078】
最近のEBV感染(「急性」)患者の32検体および過去(昔)のEBV感染患者の25検体が、N−末端側が短縮されたp18[ニトロセルロース検査ストリップ上での噴霧、Mikrogen(図4の抗原ストリップ参照)]および通常のp18−VCA抗原を備えた市販のELISA(Sorin社)で、それぞれ検査された。
【0079】
2つの図では、それぞれの場合、2つの検査のOD値が互いに対してプロットされている;x軸はN−末端側で短縮されたp18のバンド強度を示す;y軸は、完全p18のELISA値を示す。ELISAのOD値は、慣用のELISA読み取り装置で測定され、0〜3.0の間にある;N−末端側で短縮されたp18を含むニトロセルロースのストリップが読み取られ、そのバンド強度はソフトウェア・プログラムによって決定された;ここで、目盛は0〜200である;2つの追加の線は、それぞれの切捨てを表わす。
【0080】
図6は、種々の検査フォーマットにおけるp18の反応相関性を示す。実施例4(図5)における最近および過去に感染した血清の検査結果を、さらに通常のVCA−p18(Viramed社から入手)のストリップ検査で調べ、その結果をVCA−ELISA値およびN−末端側で短縮されたp18の反応性と相関させた。
【0081】
図の評価は、前述の例で記載した方法と類似の方法で実施した:ELISAによるOD値(0〜2.0)に関するx軸;2つのストリップ検査によるp18反応性に関するy軸(丸印(○)は完全p18のViramed;ドット印(・)はN−末端側で短縮されたp18抗原)。
【実施例】
【0082】
次の実施例は、本発明を詳細に説明する。
実施例1:完全p18およびN−末端側で短縮されたp18抗原の組換え製法
【0083】
ウイルス性完全p18と比較して、N−末端側で30アミノ酸を欠く抗原の発現クローニングが、N−末端側で短縮されたp18の一具体例として記載される。
【0084】
p18抗原のアミノ酸31−176をコードする領域が、PCRおよび単離されたEBV−DNA(B95−8株)からの対応オリゴヌクレオチドプライマーによって増幅された。
(リーディングフレーム BFRF3;遺伝子配列データベース登録による配列データ)
【0085】
完全p18用プライマー:
5’−プライマー:
【0086】
【表1】

(配列番号3)
【0087】
3’−プライマー:
【0088】
【表2】

(配列番号4)
【0089】
短縮されたp18用プライマー:
5’−プライマー:
【0090】
【表3】

(配列番号5)
【0091】
3’−プライマー:
【0092】
【表4】

(配列番号6)
【0093】
太字のヌクレオチドは、p18をコードする配列に相当する;イタリック体のヌクレオチドは、さらなるクローニング工程で使用された制限酵素インターフェース(GGATCC−BamH1; CTGCAG−Pst I)を表す。
PCRは、標準的な方法(94℃、1分間の変性;55℃、1分間のプライマー結合;72℃、1分間の合成;全部で40サイクル)および標準緩衝液を用いて実施した。
【0094】
PCR生成物は、ゲル電気泳動にかける際の正しいサイズ(完全p18に対しては約530nt、短縮されたp18に対しては約440nt)かどうかをチェックした後、この2つの生成物は常法に従い洗浄し、脱塩し、次いでBamH1およびPst1で切断し、最後に発現ベクターpDS1の相当する位置に挿入した。
pDS1はアンピシリン抵抗性および最適化されたlacプロモーターを有するベクターであり、その後の翻訳は、BamH1およびPst1の位置で始まり、正しいリーディングフレーム中でPCR生成物の正しい翻訳を与える。
他の発現システムもまた、適している。完全p18をコードする断片もまた、比較目的のために最後に、市販ベクターpQE30(QIAGEN)に挿入される。
【0095】
形質転換後、発現プラスミドと正しい挿入を有する大腸菌クローンは、標準的な方法により誘導され、その溶解液はSDSゲル電気泳動およびその後のクーマシー染色によって分析された。
【0096】
両方のバッチは、組換えp18あるいはp18誘導体の明らかな発現を示している。完全p18は約22kDaの分子量を持っており、N−末端側で30個のアミノ酸が短縮されたタンパク質は、幾分低い発現収率ではあるが、約18kDaの大きさである。
完全p18のpQE30による発現は、似たような範囲の収率であり、生成物は付加的に存在するヒスチジン残基のためにいくらか大きい(図2参照)。
【0097】
実施例2:完全p18とそのN−末端側で短縮された抗原との反応性の比較
【0098】
完全p18および短縮p18のクローン溶解液は、いったんゲル電気泳動で再び分離し、これをニトロセルロース膜に移し、種々のEBV陽性血清に対する反応性について調べた。
【0099】
この目的のために、上記ニトロセルロース膜は、100倍希釈された血清とインキュベーションされ、特異的抗体はペルオキシダーゼコンジュゲート2次抗体を用い、その後の染色反応により視覚化された。
緩衝液、希釈液およびインキュベーション時間は、EBVウェスタンブロット法である、Mikrogen社で開発された「recomBlot EBV」と同様にして実施された。
他のウェスタンブロット操作法あるいは染色法もまた、使用することができる。
【0100】
最近(約3週間、遡る)の感染後の血清、および遠い過去(約1.5年、遡る)に感染した血清を、それぞれ検査した(図3参照)。
驚くべきことに、完全p18抗原は、短縮されたものと比較して、反応性において本質的な違いを有することが、ここで分かる:
遠い過去からの感染の場合には、両方の抗原変異体は、ほぼ同じ程度に反応する;しかしながら、最近の感染の血清の場合には、完全p18抗原だけが、充分な反応を示す。
【0101】
したがって、EBV感染の時期を決めるために使用することができる2つのマーカー(EBNA−1の他に)が存在する。
【0102】
実施例3:市販のイムノドット検査薬による反応性の比較
【0103】
p18抗原の短縮変異体が、比較的大量に発現され、通常の方法により精製された;ここでの実質的な工程を以下に示す。
【0104】
− 発現物質を含む誘導された大腸菌細胞の溶菌;
− p18の遠心分離による不溶性「封入体」としての分離;
− 種々の非イオン性界面活性剤による不溶性ペレットの洗浄;
− p18を含む残存ペレットの8M尿素緩衝液中への溶解;
− 様々なイオン交換クロマトグラフィー:DEAE、Q−セファロース、S−セファロース(全てPharmacia社から入手)
【0105】
このようにして、タンパク質は、>99%の純度で得ることができる。
【0106】
別法として、他の精製方法あるいは連続カラム工程もまた使用することができる。pQE30−p18製品を使用することにより、特にニッケルキレートカラムへの選択的結合を利用することができる。
【0107】
精製された生成物について、EBV感染者からの抗体との反応性がラインアッセイで検討された。この目的のために、生成物は他の組換えEBV抗原(EBNA−1)、p23−VCA、p138−EA、p54−EA)と共に、いわゆる接触針(Imagene社の製品Isoflow)を用いて、ニトロセルロース膜上に細い線で塗布され、次いでさらに処理(膜状の非結合部分の飽和、マーカーの適用、細いストリップへの切断)されて検査ストリップが得られた。ラインアッセイの原理は、Mikrogen社から市販されているイムノアッセイ「recomLine EBV IgG」(製品番号4572)と同じである。
【0108】
検査ストリップは、最近感染および過去感染の血清により検査された。この目的のために、検査ストリップを、100倍希釈の血清と共にインキュベーションした。3回洗浄した後、ヒトIgG抗体(西洋ワサビペルオキダーゼコンジュゲート)と共にインキュベーションした。再び洗浄後(3回)、インキュベーションは、TMB基質と共に実施された。切捨てコントロールバンドが確認できたら、直ちに基質溶液を除去し、検査ストリップを水洗した。 バンド強度が切り捨てコントロールバンドのそれと同等もしくはより強い場合には、反応は陽性であると考えられる。したがって、バンド強度が切捨値と同等以上の場合には、ペプチドは、抗体と反応する。反応が起こらない、あるいは起きても弱い反応であるとは、バンドが存在しないか、あるいは切捨て値よりも下の強度であるバンドを意味する。この検査において、検査ストリップ上のいわゆるコントロールバンドの弱い染色強度(切捨てバンド)が、抗原バンドの反応性を評価する限界として用いられ、切捨て値として定義される(参照:例えば、上記したMikrogen社の免疫アッセイ“recomLine EBV IgG”)。切捨てバンドのかすかな染色度は、全ての操作および患者検体において、特定の試薬を使用するので常に同じである。
【0109】
上記した検査ストリップと類似しているが、ときには完全p18のような他のEBV抗原を含んでいる、Planegg社の市販のViramedストリップ検査(EBV−ViraStripe)が、比較のために実施された。
【0110】
免疫染色された検査ストリップを示す図4から明らかに証明されるように、完全p18(右側)あるいはそのN−末端側で短縮されたp18(左側)は、過去にEBV感染した血清の両検査において、同様によく認識されており、その反応性は非常に似通っている。一方、最近のEBV感染者の血清の場合には、その違いは決定的である:通常のp18を用いた比較試験において、この違いは、すべての場合において多かれ少なかれ認められる;短縮されたp18抗原の検査ストリップでは、最近感染のどんな場合にも反応は見られない。
【0111】
このことは、EBVの状態を解釈するうえで、修飾されたp18の価値および信頼度を今一度強調するものである。
【0112】
実施例4:市販ELISAシステムを用いる反応性比較
【0113】
最近のEBV感染(「急性」)患者の32血清検体および過去(昔)のEBV感染者の25血清検体を、実施例3(ニトロセルロース検査ストリップ上での噴霧、p18のラインアッセイ)で得られた短縮p18および通常のVCA抗原を備えた市販ELISA(DiaSorin社のエプスタインバーカプシド抗原ETI−VCA−G)を用いて、各場合について検査した(図5参照)。
【0114】
2つの図において、それぞれの場合における両検査のOD値が一方に対してプロットされる。x軸は、短縮されたp18のバンド強度に相当する。y軸は、完全p18のELISA値に相当する。
ELISAのOD値は、通常のELISA読み取り装置により測定され、その値は0と3.0の間にある;短縮されたp18のニトロセルロース検査ストリップは、スキャナーに取り込まれ、バンド強度がソフトウエアプログラムにより測定された;ここでは、スケールは0から200の値から成る。
2つの付加的な線は、それぞれの切捨てを表す。
【0115】
反応性における違いは、全く明白である:過去感染の場合、反応性の分布は、高度に似通っている−1つの検査において高度な陽性血清は、一般に、他の検査でも強い陽性であると認められる−すなわち、過去感染の場合、ELISA抗原および短縮されたp18は、非常に似た反応をする。
【0116】
最近感染の場合の状況は、劇的に異なる:ELISA値の場合−過去感染の場合も同様であるが−全ての値は切り捨て値と高度の陽性値(OD3.0)の間にある;過去感染の場合の状況と比較して違いはない。
しかしながら、短縮されたp18のOD値は、殆どの場合、切捨て値以下であり、わずか2例だけが弱い陽性領域にある。このことは、最近感染および過去感染の場合、短縮されたp18は異なる反応性を有することを極めて印象的に証明している。
【0117】
実施例5:種々の検査フォーマットにおけるp18の反応性の比較検討
【0118】
さらなる研究では、実施例4の最近感染および過去感染の血清について、通常のVCA−p18(Viramed社から入手)を用いて検査ストリップでさらに検討し、その結果をVCA−ELISA値と実施例3の短縮されたp18との反応性に相関させた(図6参照)。
【0119】
グラフの評価は、前の実施例に記述した方法と類似の方法で実施した:ELISAのODは、x軸(0から3.0)に沿ってプロットされる;y軸は2つの検査ストリップ(丸印(○)=Viramed社から入手の完全p18、ドット印(・)=短縮されたp18抗原)。
【0120】
過去に感染した血清の場合には、血清はすべて−予想通りに−ELISA陽性であり、それと同時に、両検査ストリップにおいてもまた反応する;すなわち検査フォーマットによる影響はない。
しかしながら、最近感染の血清の場合には、短縮されたp18の全く異なる反応が、もう一度見られる:ELISA値は、切捨て値から強い反応性を示す値までの領域で、ばらつき−予想されることではあるが−が見られる;同じパターンが完全p18を含む検査ストリップにおける血清によって証明される;一方、短縮されたp18抗原は、陰性あるいは−2例ではあるが−弱い陽性領域にある。
【0121】
この評価法は、VCAマーカーによる過去感染および最近感染を識別するための、現在まで利用可能なEBV検査システムの無力さをもう一度非常に明白に実証しているのである。上記した手段によって、修飾されたp18抗原(そのN−末端側で短縮されている)は、この識別を可能にしている。
【0122】
従って、短縮されたp18の使用で、最近感染の診断用のさらに信頼できるマーカーが、殆どの場合に見出されており、このマーカーは、公知のEBVマーカーと組み合わせることにより、血清学的EBV状況の解釈に大きな改良と信頼性をもたらすものである。
【0123】
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【0124】
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【0125】
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【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1は、修飾されたp18抗原の使用による、EBV診断の情報提供力における改善を示す。
【図2】図2は、様々なペプチドの発現を示す。
【図3】図3は、免疫ブロット法におけるペプチドの反応性を示す。
【図4】図4は、N−末端側で短縮されたp18の反応性について、全長p18−VCAの反応性との比較を示す。
【図5】図5は、本発明による試験と市販ELISAシステムとの反応性に関する比較試験を示す。
【図6】図6は、種々の検査フォーマットにおけるp18の反応相関性を示す。
【図7】図7は、ウイルス性p18のアミノ酸配列(配列番号:1)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エプスタインバーウイルスに比較的遠い過去から感染している個体からの抗体とは反応するが、エプスタインバーウイルスに急性感染したかあるいはエプスタインバーウイルスに近い過去から感染している個体からの抗体とは、反応しないかあるいは反応しても弱いことを特徴とする、エプスタインバーウイルスのウイルス性p18抗原由来のペプチド。
【請求項2】
ウイルス性p18抗原と比較して、N−末端側で短縮されていることを特徴とする、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
ウイルス性p18抗原と比較して、N−末端側で最大100のアミノ酸が短縮されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
ウイルス性p18抗原と比較して、N−末端側で10〜70のアミノ酸が短縮されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドと、ウイルス性p18抗原のアミノ酸配列に一致しないさらなる1以上のアミノ酸を含むことを特徴とする、融合ペプチド。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドおよび/または請求項6に記載の融合ペプチドを含むことを特徴とする、エプスタインバーウイルスに対する抗体の検出用診断薬。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドおよび/または請求項6に記載の融合ペプチドおよび/または請求項7に記載の診断薬を含むことを特徴とする、エプスタインバーウイルスに対する抗体検出用検査キット。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドまたは請求項6に記載の融合ペプチドまたは請求項7に記載の診断薬を、検体と接触させ、生成した抗原抗体複合体を同定することを特徴とする、検体中のエプスタインバーウイルスに対する抗体を検出する方法。
【請求項10】
少なくとも1つのさらなるEBV抗原を、検体と接触させ、生成した抗原抗体複合体を同定することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
さらなるEBV抗原が、急性EBV感染あるいは近い過去からEBV感染している個体からの抗体と反応することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
さらなるEBV抗原が、EBV p18、p23、p72、p138およびp54のウイルス性抗原から成るグループから選ばれることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
a)急性EBV感染、あるいは近い過去からのEBV感染、または
b)過去のEBV感染、あるいは比較的遠い過去からのEBV感染
の有無を決定するための、エプスタインバーウイルスの修飾されたウイルスカプシド抗原の使用。
【請求項14】
修飾されたウイルスカプシド抗原が、請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドであることを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドまたは請求項6に記載の融合ペプチドが、適当な宿主細胞で発現させて得られ得ることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のペプチドまたは請求項6に記載の融合ペプチドをコードする核酸を含むベクターまたはプラスミド。
【請求項16】
請求項15に記載のベクターまたはプラスミドを含む細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−523603(P2007−523603A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501763(P2006−501763)
【出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/001127
【国際公開番号】WO2004/074317
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(505310286)ミクロゲン モレキュラーバイオロジスチェ エントウィックラングス・ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】