説明

エポキシ樹脂粉体塗料

【課題】 エッジカバー率、表面平滑性に優れた絶縁被膜を形成することのできるモーター用エポキシ樹脂分体塗料を提供する。
【解決手段】 エポキシ樹脂及び硬化剤を必須成分とし、さらに帯電性を向上させるビニルシラン処理されたシリカ微粒子及び/またはシリコーンオイル処理されたシリカ微粒子を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料であり、ビニルシラン処理されたシリカ微粒子、シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子の添加量がそれぞれ0.01〜1.0重量%であり、シリカ微粒子の平均一次粒子径は1〜100nmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂粉体塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からハードディスクやフロッピー(登録商標)ディスクなどのOA機器用のマイクロモーターや自動車用電装モーター等の大型のモーターの分野において、スロット絶縁用にエポキシ樹脂粉体塗料が広く使われている。これらの絶縁皮膜の厚みはマイクロモーターで約50〜100mm程度、自動車用電装モーターで200〜300mmが現在のところ一般的である。
【0003】
しかし、近年になりマイクロモーター、自動車用電装モーターともに小型化、高出力化の要求が強まっている。小型化、高出力化のために通常、銅線の巻き線回数を上げる方法がとられる。巻き線回数を上げるためには絶縁皮膜はできるだけ薄い方が有利であり、薄膜化可能な絶縁塗料への要求は強い。一般的には絶縁被膜を薄くするために粉体塗料の粒度を細かくする方法が用いられている。(例えば特許文献1参照)
【0004】
しかし、モータースロットなどの複雑な形状を有するものに皮膜を形成させる場合、平坦部に比べエッジ部の膜厚は薄くなる。従って、粉体塗料の粒度を細かくし過ぎるとエッジ部に必要な厚さの絶縁被膜を形成できなくなり、エッジ部での絶縁不良発生につながる危険性がある。このためエッジ部では必要な膜厚が得られ且つ平坦部ではこれまでより薄い絶縁被膜が形成できるものが望まれている。平坦部での膜厚に対するエッジ部での膜厚の比率をエッジカバー率と呼び、このエッジカバー率の高い粉体塗料が特にモータースロット用粉体塗料の市場ニーズとなっている。
【特許文献1】特開平11−323202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これまでより高いエッジカバー率を有しながら同時にその他の本来の要求特性を損なうことの無い絶縁被膜を形成させることができるエポキシ樹脂粉体塗料を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、下記[1]〜[3]に記載の本発明により達成される。
[1] エポキシ樹脂及び硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂粉体塗料であって、該エポキシ樹脂粉体塗料はさらにビニルシラン処理されたシリカ微粒子及び/またはシリコーンオイル処理されたシリカ微粒子を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
[2] 粉体塗料総重量に対する前記ビニルシラン処理されたシリカ微粒子、シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子の添加量がそれぞれ0.01〜1.0重量%である[1]項に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
[3] 前記ビニルシラン処理されたシリカ微粒子、シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子の平均一次粒子径がともに1〜100nmである[1]又は[2]項に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【発明の効果】
【0007】
本発明はエポキシ樹脂粉体塗料によりモーターに絶縁皮膜を形成させる際の平坦部の被膜厚さに比較してエッジ部の被膜厚さが薄くなるという潜在的な問題点を、ビニルシラン処理されたシリカ微粒子を配合することで解決したエポキシ樹脂粉体塗料の配合組成に関するものであり、これにより安定した絶縁被膜を形成させることのできるエポキシ樹脂粉体塗料を提供するものである。
【0008】
以下本発明の詳細について説明を行う。本発明の粉体塗料はエポキシ樹脂及び硬化剤を必須成分とする粉体塗料である。
本発明に用いるエポキシ樹脂としては、特に限定されない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などを用いることができ、これらを単独または混合して用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、塗膜が機械的特性、電気的特性に優れたものになり好ましい。また、これらのエポキシ樹脂の分子量やエポキシ当量なども特に限定されず、粉体塗料の配合や要求される性状に合わせて適宜選択すればよい。一例を挙げると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、エポキシ当量が450〜2000であるものを用いると、粉体塗料の塗装性が優れたものになり好ましい。エポキシ樹脂の配合量についても特に限定されないが、後述する硬化剤と合わせて、塗料全体に対して30〜60重量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜55重量%である。エポキシ樹脂をかかる範囲の配合量とすることで、粉体塗料の塗装性を良好なものにできる。配合量が前記下限値よりも少ないと塗膜の平滑性が低下することがあり、一方、前記上限値よりも多いと塗装後の硬化工程である焼成時にタレやトガリといった外観不良を起こすことがある。
【0009】
本発明に用いる硬化剤としては、ジシアンジアミド類、アジピン酸類、イミダゾール類、アミン系硬化剤、芳香族系酸無水物などが使用される。 これらの必須成分以外に、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、珪酸カルシウム、タルク等の無機充填材、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料顔料、レベリング剤、硬化促進剤等を必要により添加する事も可能である。
【0010】
本発明の粉体塗料はエッジカバー率を向上させる添加剤としてビニルシランで処理されたシリカ微粒子及び/またはシリコーンオイルで処理されたシリカ微粒子を配合することを特徴とする。
本発明の粉体塗料はビニルシラン処理されたシリカ微粒子を添加することにより、静電塗装時の帯電量が増大し、被塗装物エッジ部への付着性が大幅に向上する。また塗装粉体が熱溶融する際にチキソ剤として働くため、ゲル化状態において粘性を高めることができる。このため溶融したエポキシ樹脂の平坦部への広がりを抑えることができエッジ部での絶縁被膜の厚さを高位で安定させることができる。また、シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子は強力な増粘剤として作用し、エッジ部の膜厚をさらに高位で安定できる。またシリカ微粒子は無機粒子であるためエポキシ樹脂の硬化を阻害することや硬化後の特性に影響を与えることも無いと考えられるため樹脂組成の制限を受けない利点もある。
【0011】
本発明で用いるビニルシラン処理されたシリカ微粒子の処理剤としてはトリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン等があげられる。しかし中でもビニルシラン処理されたシリカ微粒子としてはトリエトキシビニルシラン処理シリカ微粒子が好適である。さらにビニルシラン処理されたシリカ微粒子は全エポキシ樹脂粉体塗料中0.01重量%〜1.0重量%であることが望ましく、さらに好ましくは、0.2重量%〜0.4重量%である。ビニルシラン処理されたシリカ微粒子が前記下限値未満ではエッジ部位への付着性が低く、前記上限値を超えるとシリカが多すぎるため塗装物への付着性能が低下し、さらに溶融時のレベリング性が低下し絶縁被膜を形成する際表面がきれいに仕上がらないこともあり好ましくない。また、シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子は、全エポキシ樹脂粉体塗料中0.01重量%〜1.0重量%であることが望ましく、さらに好ましくは、0.03重量%〜0.5重量%である。シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子が前記上限値未満ではエッジ部の膜厚が薄くなり、また、上限値以上ではレベリング性が低下し絶縁皮膜を形成する表面がきれいに仕上がらない。添加するシリカ微粒子の平均一次粒子径は1nm〜100nmであることが好ましい。
【0012】
本発明において粉体塗料を製造する方法は特別に限定されるものではなく、一般的な方法でよい。一例としては、所定の組成比に配合した原料成分をミキサーによって十分に均一混合した後、エクストルーダーや2軸混練機などで溶融混合し、ついで粉砕機により適当な粒度に粉砕、分級して得られる。また、シリカ微粒子は粉砕混合やヘンシェルミキサーなどにより、乾式混合することも可能である。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。原料成分を表1で示す組成比(重量部)でミキサーにより混合し溶融混練後、粉砕機にて粉砕した後、シリカ微粒子をヘンシェルミキサーで乾式混合し、平均粒度40〜60μmのエポキシ樹脂粉体塗料を得た。
【0014】
【表1】

【0015】
(使用材料)
1.エポキシ樹脂
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量850)
2.硬化剤及び硬化促進剤
・3,3−4,4−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
・2−フェニルイミダゾール
3.無機充填材
・炭酸カルシウム(平均粒径22μm)
4.シリカ微粒子
・トリエトキシビニルシラン処理シリカ微粒子(平均粒径20nm)
・ジメチルシリコーンオイル処理シリカ微粒子(平均粒径20nm)
・ ビニルシラン処理、シリコーンオイル処理共にされていないシリカ微粒子(平均粒径20nm)
【0016】
(試験方法)
1.塗装条件:鋼棒(12.5×12.5×50mm)に絶縁被膜の厚さが平坦部で約250mmとなるように静電塗装機により塗装
2.硬化条件:300kHzの高周波により60秒で230℃まで加熱
3.エッジカバー性の評価:塗装物を切断して、平坦部、エッジ部の皮膜厚さを顕微鏡観察により測定し、次式によりエッジカバー率を算出
エッジカバー率(%)=エッジ部皮膜厚さ/平坦部皮膜厚さ×100
4.ゲル化時間:200℃、0.1g、針法
5.流れ性:0.5gの粉体塗料を10mmφの金型に入れ成形後150℃の乾燥機中で30分間加熱、加熱前後の錠剤径の変化から次式により算出
流れ率(%)=加熱後の錠剤径/10×100
6.塗膜外観:塗装後の試料の塗膜表面を観察し、塗膜表面の平滑性に優れているものを◎、平滑性はそれほど優れていないが問題ないレベルのものを○、細かな凹凸が見られるものを△で表記した。
【0017】
実施例1は、エポキシ樹脂40部に対して硬化剤2.9部、充填材57部、硬化促進剤0.1部を配合した粉体塗料を製作後、ビニルシラン処理されたシリカ微粒子を0.3部配合したものであり、実施例2はシリコーンオイル処理されたシリカ微粒子を0.3部配合したものであり、実施例3はビニルシラン処理されたシリカ微粒子とシリコーンオイル処理されたシリカ微粒子をそれぞれ0.15部添加したものである。比較例1はシリカ微粒子なしの場合、比較例2はビニルシラン処理、シリコーンオイル処理されていないシリカ微粒子を0.3部添加したものである。
【0018】
実施例1ではエッジカバー率が優れており、塗装外観の良好な皮膜を得ることができた。また実施例2ではエッジカバー性も向上しているが実施例1と比較すると値はやや低くなっている。また、塗装外観も実施例1と比べて多少低下した。これはビニルシラン処理されたシリカ微粒子を添加しなかったため、エッジ部位への付着量が減少したことと、また、シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子が増加し、増粘効果が増大したため表面平滑性が低下したと考えられる。さらに実施例3ではエッジカバー率は非常に高くなっているが、これはビニルシラン処理されたシリカ微粒子、シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子を併用したため良好な特性が得られたものである。一方、比較例1、2では実施例1に比べてエッジカバー率は低くなっている。これらの実施例及び比較例から帯電性を向上させてエッジ部位への付着性を高めるビニルシラン処理、及びまたは増粘効果を付与するシリコーンオイル処理されたシリカ微粒子を配合することにより、エッジカバー率向上に大きな効果が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂及び硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂粉体塗料であって、該エポキシ樹脂粉体塗料はさらにビニルシラン処理されたシリカ微粒子及び/またはシリコーンオイル処理されたシリカ微粒子を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項2】
粉体塗料総重量に対する前記ビニルシラン処理されたシリカ微粒子、シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子の添加量がそれぞれ0.01〜1.0重量%である請求項1に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項3】
前記ビニルシラン処理されたシリカ微粒子、シリコーンオイル処理されたシリカ微粒子の平均一次粒子径がともに1〜100nmである請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。

【公開番号】特開2007−291356(P2007−291356A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75066(P2007−75066)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】