説明

エポキシ樹脂組成物の製造方法

【課題】強化繊維に含浸させてプリプレグに用いる際に、良好なタック性およびドレープ性を発揮して作業性を向上させるとともに、製造の効率化を図ることが可能なエポキシ樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】粉砕するポリエーテルスルホン(PES)の粒径を45μm以上95μm以下の範囲にすることによって、粉砕に要する時間、コスト等を抑えつつ、粉砕したPESの収量を確保し、かつ液状のエポキシ樹脂との混合時間の短縮および混合温度の高温化を抑制して液状のエポキシ樹脂の反応進行を抑えて粘度上昇を防止し、エポキシ樹脂組成物のタック性およびドレープ性の低下を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物の製造方法に関し、さらに詳しくは、強化繊維に含浸させてプリプレグに用いる際に、良好なタック性およびドレープ性を発揮して作業性を向上させるとともに、製造の効率化を図ることが可能なエポキシ樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維にマトリックスとなるエポキシ樹脂組成物等を含浸させた成形用中間材料であるプリプレグが知られている。プリプレグは、軽量かつ力学的特性に優れ、航空機、自動車の構造材料等として多岐に渡って使用されている。このプリプレグに用いるエポキシ樹脂組成物は、耐熱性に非常に優れているが硬く脆いので、エポキシ樹脂組成物を製造する際に、混合する熱可塑樹脂の量を多くして靭性を向上させるようにしている。
【0003】
ところで、液状のエポキシ樹脂に混合する固体成分である粉状の熱可塑樹脂および硬化剤の量が増加するに連れて、混合時間が長期化し、混合温度も高温化する。これによって、混合過程においてエポキシ樹脂の自己重合及び硬化剤との反応が進行して、製造されるエポキシ樹脂組成物の粘度が上昇する。このようなエポキシ樹脂組成物は、強化繊維に含浸させる際および含浸させた後のタック性、ドレープ性が低く、プリプレグとしての作業性を悪化させる要因となっている。タック性とはべたつき具合、ドレープ性とはしなやかさ具合である。
【0004】
従来からタック性やドレープ性を向上させてプリプレグの作業性を良好にするエポキシ樹脂組成物の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような化学的手段では、使用する原料を入手する時間、量、コスト等に制約が多く、また、原料仕様を容易に変化させることができずにエポキシ樹脂組成物の製造効率を向上させることが困難であるという問題があった。
【0005】
熱可塑樹脂および硬化剤の粒径は小さい程、早く液状のエポキシ樹脂に均一に混合して溶解させることができ、タック性およびドレープ性の低下を抑制することができる。機械的手段で混合する固体成分を粉砕することは可能であるが、このような混合、溶解し易い粒径(例えば、30μm以下)まで小さく粉砕するには、時間やコスト等が余分に必要となる。特に熱可塑樹脂は物性上、ねばりがあり、このような小さな粒径に粉砕するには時間やコスト等が大幅にアップし、エポキシ樹脂組成物の製造効率を向上するには障害となっている。
【特許文献1】特開2005−89512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、強化繊維に含浸させてプリプレグに用いる際に、良好なタック性およびドレープ性を発揮して作業性を向上させるとともに、製造の効率化を図ることが可能なエポキシ樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法は、液状のエポキシ樹脂に粉状の熱可塑樹脂および硬化剤を混合し、強化繊維に含浸させてプリプレグに用いるエポキシ樹脂組成物の製造方法において、前記熱可塑樹脂を粒径45μm以上95μm以下に粉砕して前記液状のエポキシ樹脂に混合することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法によれば、液状のエポキシ樹脂に粉状の熱可塑樹脂および硬化剤を混合し、強化繊維に含浸させてプリプレグに用いるエポキシ樹脂の製造方法において、熱可塑樹脂の粒径を45μm以上95μm以下に粉砕して液状のエポキシ樹脂に混合するので、短時間に、温度を高くすることなく混合することができる。
【0009】
これによって、液状のエポキシ樹脂の反応進行を抑制してエポキシ樹脂組成物の粘度上昇を防止し、タック性およびドレープ性の低下を抑制することができ、プリプレグの作業性を向上させることが可能となる。
【0010】
また、物性上、ねばりがあって小さく粉砕することが困難な熱可塑樹脂を粒径45μm以上95μm以下の範囲に粉砕することにより、粉砕するために必要な時間およびコスト等の大幅なアップを回避することができ、エポキシ樹脂組成物の製造の効率化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法を実施形態に基づいて説明する。
図1は、本発明の製造方法を例示するフロー図であり、製造過程が示されている。図1に示すように、所定量のエポキシ樹脂を加熱混合容器で所定温度に加熱し、液状のエポキシ樹脂を用意する。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、パラアミノフェノール型エポキシ樹脂等が用いられるが、これに限らない。この際の加熱温度を例えば、100℃〜150℃にする。
【0012】
この温度の液状のエポキシ樹脂に所定量の粉状の熱可塑樹脂を均一になるように混合、溶解する。熱可塑樹脂を混合することによって、エポキシ樹脂組成物をプリプレグとして使用する際の靭性を向上させることができる。熱可塑樹脂としては、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、フェノキシ樹脂等を例示することができる。
【0013】
熱可塑樹脂を混合、溶解した後に、硬化剤を均一になるように混合する。硬化剤としては、4,4’−ジアミノジフェニルサルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルサルフォン、ジシアンジアミド等を用いる。
【0014】
以上の製造過程によって、エポキシ樹脂組成物が製造される。このエポキシ樹脂組成物は、プリプレグとして用いる際に、加熱して強化繊維に含浸させる。強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を例示できる。プリプレグは、裁断、積層等の加工工程を経て加熱硬化させて各種構造材料等となる。
【0015】
上記のエポキシ樹脂組成物の製造過程において、混合する熱可塑樹脂および硬化剤は粒径が小さい程、時間を短く、温度を上昇させることなく混合して溶解させることができる。これによって、混合による液状のエポキシ樹脂の自己重合及び硬化剤との反応の進行を抑制して粘度上昇を防止できる。したがって、プリプレグとして用いる際のエポキシ樹脂組成物のタック性およびドレープ性の低下を防止して、プリプレグの良好な作業性を確保することができる。
【0016】
図2に、ポリエーテルスルホンを粉砕機で粉砕する際の粒径と収量との関係を例示する。図2のグラフ図の横軸は粉砕する粒径、縦軸は単位時間当たりに得られる質量を収量として指数で示している。曲線Aに示すように粒径を小さくするに連れて、収量が少なくなり、エポキシ樹脂組成物の製造効率を向上させることが困難になる。例えば、粒径を30μm以下にできれば、非常に早く液状のエポキシ樹脂に混合、溶解させることができる。しかしながら、ポリエーテルスルホン等の熱可塑樹脂は特性上、ねばりがあり、粉砕機で小さく粉砕するには、多くの時間、コストが必要となる。そこで、このような小さな粒径に短時間で粉砕しようとすれば、特別な装置等が必要となる。
【0017】
一方、粉砕する粒径が大きくなると、液状のエポキシ樹脂に混合、溶解させる時間の長期化、温度の高温化を招来し、プリプレグとして用いる際に、タック性およびドレープ性が低下して作業性を悪化させる。
【0018】
そこで、粉砕する粒径を45μm以上95μm以下の範囲にすることによって、粉砕に要する時間、コスト等を抑えつつ、粉砕したポリエーテルスルホンの収量を確保してエポキシ樹脂組成物の製造効率の向上を可能にし、かつ液状のエポキシ樹脂との混合時間の短縮および混合温度を高温にすることを回避して、エポキシ樹脂組成物のタック性およびドレープ性の低下を防止する。
【0019】
硬化剤の粒径も小さい程、混合し易くなるので好ましく、例えば、粒径を30μm以下にする。硬化剤をこの粒径に小さく粉砕するには、熱可塑樹脂ほど困難さはなく、比較的容易に粉砕できる。混合する熱可塑樹脂の量が多い場合は、複数に分けて混合することにより、より短時間に、温度を高くせずに均一に混合、溶解させることができる。
【0020】
熱可塑樹脂を液状のエポキシ樹脂に混合する際に、混合したすべての量を溶解させずに、一部を懸濁状態とすることもできる。例えば、混合する量の10%〜90%程度を懸濁状態とし、懸濁している熱可塑樹脂は、プリプレグとして強化繊維に含浸させる際の加熱によって溶解させるようにする。これによって、液状のエポキシ樹脂に熱可塑樹脂を混合する際のさらなる時間短縮および高温化抑制が可能となり、エポキシ樹脂組成物のタック性およびドレープ性の低下を防ぐことができる。即ち、プリプレグの作業性を一層、向上させることが可能となる。
【実施例】
【0021】
図1に例示した製造過程によって、表1に示した配合で液状のエポキシ樹脂、熱可塑樹脂および硬化剤を混合し、熱可塑樹脂の粒径のみを変えて5種類のエポキシ樹脂組成物(実施例1、2および比較例1〜3)を製造し、それぞれのエポキシ樹脂組成物について所定の混合時間での熱可塑樹脂の溶解性および混合時間120分で得られたエポキシ樹脂組成物のタック性およびドレープ性を評価し、その結果を表1に示す。
【0022】
表1におけるエポキシ樹脂は、クリシジルアミン型エポキシ樹脂(住友化学社製)ELM−434、パラアミノフェノール型エポキシ樹脂(HUNTSMAN社製)MY−0510、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成社製)YD−128である。硬化剤は、3,3’−DAS(小西化学社製)を用いて、この粉状体を衝撃スクリーン式粉砕機により平均粒径30μmに粉砕した。
【0023】
熱可塑樹脂は、ポリエーテルスルホン(PES)としてPES5003P(住友化学社製)を用い、この粉状体を高速ハンマー式衝撃式粉砕機によって、室温環境下の冷凍しない状態で、それぞれの平均粒径(50、80、100、140μm)に粉砕してものである。尚、各粒径のPES5003Pの収量は、ほぼ図2に示すとおりであった。
【0024】
[溶解性]
PES5003Pの溶解具合を混合時間60分、90分、120分の時点で確認し、粒子の残留がなく完全に溶解した場合を○、サンプリングによっては粒子の残留がわずかにある場合を△、粒子が明らかに残留している場合を×、粒子の残留が顕著な場合を××で示した。尚、比較例3は、混合温度が140℃では極めて溶解具合が悪いため180℃にて混合を行なった。
【0025】
[タック性]
エポキシ樹脂組成物のべたつき具合であり、作業者がプリプレグ作業をする際に感覚的に評価をした。べたつきがなく作業が困難な場合を×、べたつきがあり支障なく作業ができる場合を○で示した。
【0026】
[ドレープ性]
エポキシ樹脂組成物のしなやかさ具合であり、作業者がプリプレグ作業をする際に感覚的に評価をした。しなやかさがなく硬すぎて作業が困難である場合を×、しなやかさがあり支障なく作業ができる場合を○で示した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果から、熱可塑樹脂(PES5003P)を本発明で規定した粒径の範囲に粉砕した実施例1、2では、混合時間60分の時点で、ほぼすべてを溶解させることができ、この範囲よりも大きい粒径の比較例1〜3に対して、短時間で混合により溶解可能であることが確認できた。また、実施例1、2では製造したエポキシ樹脂組成物のタック性およびドレープ性の低下がなく、プリプレグの良好な作業性が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のエポキシ樹脂組成物の製造過程を例示するフロー図である。
【図2】粉砕する熱可塑樹脂(ポリエーテルスルホン)の粒径と収量との関係を例示するグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状のエポキシ樹脂に粉状の熱可塑樹脂および硬化剤を混合し、強化繊維に含浸させてプリプレグに用いるエポキシ樹脂組成物の製造方法において、前記熱可塑樹脂を粒径45μm以上95μm以下に粉砕して前記液状のエポキシ樹脂に混合するエポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑樹脂をポリエーテルスルホンとする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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