説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】本発明は、ビフェニル型エポキシ樹脂が含有されてなるエポキシ樹脂組成物において、溶剤に可溶でありながら高い熱伝導率を有するエポキシ樹脂硬化物の形成に有用なエポキシ樹脂組成物を提供することを課題としている。
【解決手段】エポキシ樹脂組成物にかかる本発明は、ビフェニル型エポキシ樹脂が含有されてなるエポキシ樹脂組成物であって、1分子中にグリシジル基と加水分解性アルコキシシラン基とを有するオルガノアルコキシシラン化合物が加水分解されてなる加水分解生成物をビフェニル型エポキシ樹脂存在下で脱水縮合させた縮合重合物が前記ビフェニル型エポキシ樹脂とともに含有されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物に関し、より詳しくは、ビフェニル型エポキシ樹脂が含有されているエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂が含まれてなるエポキシ樹脂組成物は、耐熱性や機械的強度などの点において他の一般的な樹脂組成物に比べて優れていることから種々の用途に用いられており、例えば、耐熱性が求められる部材を形成させる場合などにおいては、通常、このエポキシ樹脂組成物を硬化させて硬化物(エポキシ樹脂硬化物)として用いられている。
【0003】
このエポキシ樹脂組成物は、半導体パッケージの封止材や、回路基板の絶縁材料などといった電子部品用途などに広く用いられており、これらの用途においては、耐熱性とともに優れた熱伝導性を要求されることからエポキシ樹脂組成物に無機物粒子をフィラーとして高充填させて熱伝導性を向上させることが広く行われている。
【0004】
このエポキシ樹脂組成物の熱伝導性については、無機フィラーの充填による対策のみならずエポキシ樹脂そのものの熱伝導率を向上させることが検討されており、例えば、下記非特許文献1には、メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂を用いて結晶性の高い硬化物を形成させることで、一般的なエポキシ樹脂の熱伝導率である0.19W/mKの約5倍もの熱伝導率を有するエポキシ樹脂硬化物を得ることができると報告されている。
【0005】
また、ビフェニル型エポキシ樹脂は、一般的なエポキシ樹脂に比べて高い熱伝導性を示すことから、近年、ビフェニル型エポキシを含有するエポキシ樹脂組成物の応用が広く試みられている(下記特許文献1参照)。
しかし、ビフェニル型エポキシ樹脂は結晶性が高いことから一般的な有機溶剤に対して殆ど溶解せず、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物をワニス状態で用いることが困難となっている。
【0006】
このビフェニル型エポキシ樹脂の可溶化には種々の試みがなされているが、ビフェニル型エポキシ樹脂が有している熱伝導率向上効果を大きく低下させることを抑制しつつ溶剤に可溶なものとする技術はいまだ確立されてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−137971号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】未来材料 vol.7 No.11号「高熱伝導性液晶エポキシ樹脂」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ビフェニル型エポキシ樹脂が含有されてなるエポキシ樹脂組成物において、溶剤に可溶でありながら高い熱伝導率を有するエポキシ樹脂硬化物の形成に有用なエポキシ樹脂組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためのエポキシ樹脂組成物にかかる本発明は、ビフェニル型エポキシ樹脂が含有されてなるエポキシ樹脂組成物であって、1分子中にグリシジル基と加水分解性アルコキシシラン基とを有するオルガノアルコキシシラン化合物が加水分解されてなる加水分解生成物をビフェニル型エポキシ樹脂存在下で脱水縮合させた縮合重合物が前記ビフェニル型エポキシ樹脂とともに含有されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、ビフェニル型エポキシ樹脂が含有されていることから優れた熱伝導率のエポキシ樹脂硬化物を形成しうる。
しかも、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、1分子中にグリシジル基と加水分解性アルコキシシラン基とを有するオルガノアルコキシシラン化合物が加水分解されてなる加水分解生成物をビフェニル型エポキシ樹脂存在下で脱水縮合させた縮合重合物が前記ビフェニル型エポキシ樹脂とともに含有されていることから、例えば、メチルエチルケトンなどの一般的な有機溶媒に可溶なものとなる。
すなわち、本発明によれば、溶剤に可溶でありながら高い熱伝導率を有するエポキシ樹脂硬化物の形成に有用なエポキシ樹脂組成物を提供しうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態における、エポキシ樹脂組成物は、ビフェニル型エポキシ樹脂と1分子中にグリシジル基と加水分解性アルコキシシラン基とを有するオルガノアルコキシシラン化合物が加水分解されてなる加水分解生成物を脱水縮合させた縮合重合物が含有されており、しかも、この縮合重合物は、前記ビフェニル型エポキシ樹脂存在下において前記脱水縮合がなされたものである。
【0013】
前記ビフェニル型エポキシ樹脂としては、例えば、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラエチルビフェニル、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラブチルビフェニルなどが挙げられる。
中でも、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルが樹脂組成物の有機溶媒への可溶化の観点から好適に用いられ得る。
一方で、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニルは、結晶配向性が強く、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルと併用することで熱伝導率の高いエポキシ樹脂硬化物の形成により有用となる。
【0014】
すなわち、エポキシ樹脂組成物の有機溶媒への可溶化の観点からは、実質的に4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル以外のビフェニル型エポキシ樹脂を含有させないことが好ましく、エポキシ樹脂硬化物の熱伝導率向上の観点からは、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニルをある程度含有させることが好ましい。
ただし、ビフェニル型エポキシ樹脂全体に占める4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニルの割合があまりに大きくなるとエポキシ樹脂組成物を一旦は有機溶媒に溶解させることができたとしても、経時変化を起こして、析出物を発生させたりするおそれがある。
したがって、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニルのビフェニル型エポキシ樹脂全体に占める割合は、モル数で50%程度とすることが好ましい。
すなわち、有機溶媒への可溶化と硬化物の熱伝導率とのバランスを取る意味からは、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニルと4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルとがモル数で、1:0.9〜0.9:1の範囲の内のいずれかの割合となるようにエポキシ樹脂組成物に含有させることが好ましい。
【0015】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物においては、上記ビフェニル型エポキシ樹脂の他に、一般的な、ビスフェノール型やノボラック型のエポキシ樹脂なども含有させ得るが、これらのエポキシ樹脂を含有させるとビフェニル型エポキシ樹脂が有する効果がこれらのエポキシ樹脂によって希釈される結果となるおそれがあるため、これらのエポキシ樹脂は、加えるとしても、エポキシ樹脂成分全体の50重量%未満とすることが好ましく、25重量%以下とすることがさらに好ましく、全く含有させないことが最も好ましい。
【0016】
前記ビフェニル型エポキシ樹脂とともに本実施形態におけるエポキシ樹脂組成物を構成する重要な要素である1分子中にグリシジル基と加水分解性アルコキシシラン基を有するオルガノアルコキシシラン化合物(以下、特段の記載がない限りにおいて「オルガノアルコキシシラン化合物」との用語は、「1分子中にグリシジル基と加水分解性アルコキシシラン基を有するオルガノアルコキシシラン化合物」を意図して用いる)としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメトキシシランなどを採用することができる。
なかでも、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは、エポキシ樹脂組成物の有機溶媒への溶解性の向上とともに、エポキシ樹脂硬化物の高温時における物性低下の抑制などにも有効である。
【0017】
このオルガノアルコキシシラン化合物を加水分解させてなる加水分解生成物は、通常、オルガノアルコキシシラン化合物を水の存在下においてジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレートなどの加水分解触媒と接触させることによって形成されうる。
そして、この加水分解生成物を脱水縮合させた縮合重合物を得るためには、通常、加水分解生成物を加熱すればよく、例えば、100℃以上の温度に加熱すればよい。
なお、この縮合重合物を得るための脱水縮合は、上記ビフェニル型エポキシ樹脂存在下で実施されることが重要である。
【0018】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物には、前記ビフェニル型エポキシ樹脂を熱硬化させるための硬化剤をさらに含有させうる。
本実施形態のエポキシ樹脂組成物に含有させる硬化剤としては、フェノール樹脂系のもの、アミン系のものなど、特に限定されるものではないが、高いガラス転移温度を有するエポキシ樹脂硬化物を得るためには、硬化剤としてフェノール樹脂が用いられることが好ましい。
一方で、ジアミノジフェニルメタンなどのジアミン系硬化剤は、熱伝導率に優れたエポキシ樹脂硬化物が得られやすい点において有利である。
【0019】
この硬化剤として使用されるフェノール樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、一般に使用されている1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール樹脂が挙げられ、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換又は非置換のビフェノール等の1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類、または、α−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。
【0020】
また、フェノール類、または、ナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;パラキシリレン、または、メタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;フェノール類、または、ナフトール類とジシクロペンタジエンから共重合により合成されるジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂;ビフェニル型フェノール樹脂;トリフェニルメタン型フェノール樹脂なども例示される。
これらは、それぞれ単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
なお、上記フェノール樹脂は、前記オルガノアルコキシシラン化合物を出発物質とした縮合重合物と前記エポキシ樹脂との合計100重量部に対して、通常、40〜100重量部のいずれかの量でエポキシ組成物に含有させ得る。
【0022】
また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物には、上記以外の成分として、例えば、キシレン樹脂、石油樹脂、クマロン−インデン樹脂、テルペン樹脂、ロジンなどの粘着付与剤、ポリブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールAなどの臭素化合物、塩素化パラフィン、パークロロシクロデカンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステルなどのリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水和金属化合物、または三酸化アンチモン、ホウ素化合物などの難燃剤、フェノール系、リン系、硫黄系の酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料などの一般的なプラスチック用配合薬品や、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、酸化アルミ、酸化マグネシウム、窒化硼素、窒化珪素、窒化アルミニウムといった無機フィラーなどが挙げられ、これらは、本発明の効果が著しく損なわれない範囲の量でエポキシ樹脂組成物に含有させ得る。
【0023】
次いで、本実施形態のエポキシ樹脂組成物と、このエポキシ樹脂組成物を用いたエポキシ樹脂硬化物の形成方法について説明する。
まず、オルガノアルコキシシラン化合物、加水分解触媒、及び水の混合物を作製し室温、または、若干の加熱条件下で前記オルガノアルコキシシラン化合物の加水分解を実施する。
このオルガノアルコキシシラン化合物の加水分解生成物を含有する液体中に、ビフェニル型エポキシ樹脂を混合して、ビフェニル型エポキシ樹脂の融点以上に加熱してエポキシ樹脂混合液を作製させる。
例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂が4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルである場合には、その融点は、示差走査熱量計(DSC)による測定では、通常、105℃程度であることから、この場合は、例えば、120℃以上の加熱条件を採用してエポキシ樹脂混合液を作製すればよい。
【0024】
そして、この加熱温度を維持させることにより、加水分解生成物の脱水縮合を実施させ得る。
この脱水縮合がビフェニル型エポキシ樹脂の存在下において実施されることにより、加水分解生成物、あるいはその脱水縮合した縮合重合物がビフェニル型エポキシ樹脂と反応してビフェニル型エポキシ樹脂の結晶配向性を緩和させ、得られるエポキシ樹脂組成物を有機溶媒に可溶なものとさせ得る。
特に、この加水分解生成物とエポキシ樹脂との混合液を80℃以上160℃以下のいずれかの温度で1分以上50分以下の時間加熱して脱水縮合を実施させることによって、熱伝導率の向上ならびに有機溶媒に対する溶解性に有利なエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
なお、この加熱温度の維持は、加水分解生成物のために当初含有させた水の残留、加水分解によって生じるアルコール、脱水縮合において発生する水を系外に揮発させる作用も併せ持つものである。
したがって、脱水縮合は、縮合反応とともにこれらの除去の観点をも加味して加熱温度や加熱時間などの条件設定をされることが好ましい。
【0025】
なお、脱水縮合(水、アルコール分除去)を完了して得られたエポキシ樹脂組成物は、分散させる有機溶媒の沸点以下の温度に冷却した後に有機溶媒に分散させてエポキシ樹脂ワニスとすることができる。
このエポキシ樹脂ワニスへのフェノール樹脂などの硬化剤の添加は、エポキシ樹脂組成物を有機溶媒に分散させる前であっても後であってもよく、分散前において硬化剤を添加する場合には、エポキシ樹脂組成物側に添加しても有機溶媒側に添加してもよく、要すれば、一部をエポキシ樹脂組成物側に添加し、残部を有機溶媒側に添加するようにしてもよい。
また、この硬化剤と同様にして、例えば、無機フィラーなどの他の成分をエポキシ樹脂組成物側や有機溶媒側に添加してエポキシ樹脂ワニスを作製することができる。
このエポキシ樹脂ワニスの作製に用いる有機溶媒は、メチルエチルケトン(MEK)などの一般的なものを採用することができる。
【0026】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、上記のようにワニス状態で用いることができることから、常温での塗工や注型といった工程を実施してエポキシ樹脂硬化物の作製を行うことができるとともにユースポイントへの液送による搬送が容易となることから熱伝導性に優れたエポキシ樹脂硬化物(成形体)を簡便に作製させ得る。
【0027】
例えば、銅箔などの金属箔にエポキシ樹脂ワニスをコーティングして加熱炉などで有機溶剤を除去乾燥させて銅箔上に半硬化なエポキシ樹脂組成物が担持されたプリプレグシートを形成させ、このプリプレグシートをアルミニウム板やステンレス板などと熱プレスして金属ベース回路基板を形成させることができる。
このように本実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物が熱硬化されてなるエポキシ樹脂硬化物で絶縁層が形成された金属ベース回路基板は、銅箔によって形成されている回路層側から、アルミニウム板などによって形成されている金属板層側への熱伝導に優れ、パワートランジスタなどの比較的発熱量の大きい発熱素子を銅箔回路上に搭載した場合においても、発生される熱が絶縁層を通じてすばやく金属板層の側に伝達されて、該金属板層を構成するアルミニウム板などに取り付けた放熱器によって放熱させることができる。
【0028】
また、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物を半導体素子の封止材などに用いた場合も、内部の半導体チップにおいて発生される熱をケース側(外側)にすばやく伝達させることができるためジャンクション温度の低減を図ることができる。
【0029】
なお、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、このような電子部品分野のみならず種々の用途に用いることができ、その場合には、各用途に応じた各種変更を加えることができる。
また、ここでは詳述していない従来エポキシ樹脂組成物において公知の技術事項を、本発明の効果が著しく損なわれない範囲において本発明のエポキシ樹脂組成物にも採用させることができる。
【実施例】
【0030】
次に具体例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(参考試験1)
まず初めに、一般的なエポキシ樹脂硬化物の熱伝導率を確認すべく、JER社製、ビスフェノール型エポキシ樹脂である商品名「JER828」と、同「JER1001」と、昭和高分子社製フェノール樹脂系硬化剤(高分子量ノボラック:商品名「CRM−990」)と、四国化成社製イミダゾール系硬化促進剤(1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール:商品名「2E4MZ−CN」)とを重量で(JER828:JER1001:CRM−990:2E4MZ−CN)=(50:50:40:0.2)となる割合で含むエポキシ樹脂組成物を作製し、(150℃×2時間)+(180℃×2時間)の熱硬化を行った。
得られたエポキシ樹脂硬化物を冷却後、厚み約2mm、直径約50mmの円板状試験片に加工し、この試験片の熱伝導率を熱流型熱伝導測定器(Holometrix社製、「TCA−200」)でASTM E 1530に準拠して測定した。
その結果、このエポキシ樹脂硬化物の熱伝導率は0.195(W/mK)であることがわかった。
【0032】
(実験例1)
次いで、本発明に係るエポキシ樹脂組成物について検討を行った。
エポキシ樹脂組成物の作製には、下記表1に示す配合を用いた。
【0033】
【表1】

【0034】
(混合液Aの作製)
信越化学社製のγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名「KBM403」)と純水と加水分解触媒(ジブチル錫ジラウレート:DBTDL)とを表1の配合割合で混合し、室温で1日間放置してγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解を行い、該加水分解によって生成された生成物を含有する混合液Aを作製した。
【0035】
(エポキシ樹脂混合液の作製)
先の混合液Aにエポキシ樹脂を加えて140℃に加熱して攪拌し加えたエポキシ樹脂を混合液Aに分散させエポキシ樹脂混合液を作製した。
より具体的には、混合液Aにエポキシ樹脂を加えた混合物を室温から1時間かけて140℃になるまで加熱しつつ攪拌し、140℃の温度に到達した後、5分以内に水冷して再び室温に戻す動作を行った。
この140℃での加熱によってγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解性生物をエポキシ樹脂存在下において脱水縮合させて縮合重合物を形成させるとともに、当該縮合重合において発生する水分や、先の加水分解において発生したアルコール等をエポキシ樹脂混合液から揮発除去させることによりエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0036】
(エポキシ樹脂ワニスの作製)
得られたエポキシ樹脂組成物は、硬化剤や硬化促進剤とともにメチルエチルケトンに、固形分濃度が60重量部となるように分散させた。
このとき固形分が全量可溶となるかどうかを肉眼にて観察し、可溶であったものを「可溶」として判定した。結果を、表1に併せて示す。
また、このエポキシ樹脂ワニスに、室温での保管中に析出物が見られるかどうかを観察し溶液安定性を判定した。析出物の観察されない場合を「○」、析出物が観察された場合を「×」として判定した。結果を、表1に併せて示す。
【0037】
この表1に示すように、「YX1−1」〜「YX4−2」のエポキシ樹脂組成物は、MEKに可溶な状態であった。
ただし、「YX3−1」、「YX4−1」については、溶液安定性が他のものに比べて低く、室温での保管中に析出物が観察される結果となった。
【0038】
なお、上記においては140℃×(5分以下)となる加熱条件でγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解性生物の脱水縮合を行ったが、同じく、140℃に加熱後、4時間、140℃の温度を維持させた場合についても検討を行ったが、上記の結果と殆ど同じ結果であり、140℃×(5分以下)を超えての加熱処理を必要としていないことがわかった。
【0039】
(実験例2)
次に、実験例1とは、異なるビフェニル型エポキシ樹脂(4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル」と、「4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニル」との約 1:1(モル比)混合物)を用いて検討を行った。
ここでのエポキシ樹脂組成物の作製には、下記表2に示す配合を用いた。
【0040】
【表2】

【0041】
この表2に示す配合のエポキシ樹脂組成物を実験例1と同様に評価したところ、室温でのエポキシ樹脂ワニスの保管中に析出物が観察され、溶液安定性が実験例1の場合に比べて低いことが確認された。
言い換えれば、エポキシ樹脂の内の90重量%以上を、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルとすることで溶液安定性に優れた状態とすることができるといえる。
【0042】
(実験例3)
実験例1の「YX1−1」、「YX1−2」、「YX2−1」、「YX2−2」の硬化系を変更した「YX1−3」、「YX1−4」、「YX2−3」、「YX2−4」、「YX2−5」を作製した。
具体的には、下記表3に示す配合でエポキシ樹脂組成物を作製し、先の実験例と同様に評価を行った。
【0043】
【表3】

【0044】
この表3に示す配合のエポキシ樹脂組成物を実験例1と同様に評価したところ、硬化系によらず室温でのエポキシ樹脂ワニスの安定性は良好であることが確認された。
【0045】
また、このエポキシ樹脂ワニスを、ポリテトラフロロエチレン製のポリビーカーに採取し、約100℃の乾燥機内で加熱した後に、真空チャンバーに移し、真空ホンプでの減圧脱気を実施した。
そして、乾燥機内での加熱と、減圧脱気とを、脱気において樹脂ワニスから気泡の発生が観察されなくなるまで繰り返して実施した後に、さらに、約100℃で14時間加熱して、(150℃×2時間)+(180℃×2時間)の熱硬化を行った。
得られたエポキシ樹脂硬化物を冷却後、厚み約2mm、直径約50mmの円板状試験片に加工し、この試験片の熱伝導率を熱流型熱伝導測定器(Holometrix社製、「TCA−200」)でASTM E 1530に準拠して測定した。
結果を、表3に示す。
【0046】
この表3にも示すように、本発明にかかるエポキシ樹脂組成物を用いたエポキシ樹脂硬化物は、一般的なエポキシ樹脂硬化物の熱伝導率として先の非特許文献1に記載されている0.19W/m・Kに比べて高い値を有していることがわかる。
【0047】
(実験例4)
実験例1の「YX3−1」、「YX3−2」、「YX4−1」、「YX4−2」の硬化系を実験例3と同様に変更して検討を実施した。具体的には、下記表4に示すように、昭和高分子社製の「CRM−990」を用いた「YX3−3」、「YX4−3」の配合についてこれまでと同様の評価を行った。
【0048】
【表4】

【0049】
ここでも実験例3と同じようにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を熱硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物の熱伝導率(表4参照)を測定したところ、優れた値を有していることが確認できた。
【0050】
(実験例5)
実験例3と同様にして、実験例2の4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル」と、「4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニル」との約 1:1(モル比)混合物を用いた系で硬化剤を変更した場合について検証を行った。
ここでは実験例2の「YL1−1」、「YL1−2」、「YL2−1」、「YL2−2」の硬化系を変更した「YL1−3」、「YL1−4」、「YL2−3」、「YL2−4」を下記表5に示す配合で作製し、得られたエポキシ樹脂組成物ならびにエポキシ樹脂硬化物に対してこれまでと同様の評価を行った。
結果を、表5に併せて示す。
【0051】
【表5】

【0052】
この実験例でもこれまでの実験例と同じく、MEKへの溶解性、溶剤安定性を評価するとともに、エポキシ樹脂硬化物を作製して、先の実験例と同様に熱伝導率の評価を行った。
なお、溶液安定性については向上されなかった。
【0053】
(実験例6)
続けて、実験例2の「YL3−1」、「YL3−2」、「YL4−1」、「YL4−2」の硬化系を変更して下記表6に示す配合でエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0054】
【表6】

【0055】
この実験例6でも硬化剤による溶液安定性の向上は確認することができなかった。
なお、この実験例5、6の検討で得られたエポキシ樹脂硬化物の熱伝導率の値は、実験例3、4の検討で得られたものに比べて総じて高く、ビフェニル系エポキシ樹脂を、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルと、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニルとの混合系で用いる方が、溶液安定性の点では不利になるものの硬化物の熱伝導率の点で有利であった。
特に、先の実験例5において、ジアミノジフェニルメタンによる硬化おこなった系(YL2−4)では、0.368W/mKもの優れた熱伝導率を有するエポキシ樹脂硬化物を得ることができた。
【0056】
(実験例7)
続けて、「YL2−1」と同様の配合を基にして、ビフェニル型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)の添加について検討を行った。
具体的には、下記表7に示す系統配合でエポキシ樹脂組成物を作製し検討を行った。
【0057】
【表7】

【0058】
この実験例7でも溶液安定性の向上は見られなかった。
なお、この実験例7の検討で得られたエポキシ樹脂硬化物の熱伝導率の値は、これまでの実験例の検討で得られたものに比べて総じて高く0.439W/mKもの優れた熱伝導率を有するエポキシ樹脂硬化物を得ることができた。
【0059】
以上のごとく、一連の実験例の検討結果からは、発明によれば、溶剤に可溶でありながら高い熱伝導率を有するエポキシ樹脂硬化物の形成に有用なエポキシ樹脂組成物の提供が可能となることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフェニル型エポキシ樹脂が含有されてなるエポキシ樹脂組成物であって、
1分子中にグリシジル基と加水分解性アルコキシシラン基とを有するオルガノアルコキシシラン化合物が加水分解されてなる加水分解生成物をビフェニル型エポキシ樹脂存在下で脱水縮合させた縮合重合物が前記ビフェニル型エポキシ樹脂とともに含有されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビフェニル型エポキシ樹脂として、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルが用いられている請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルに加えて、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニルが前記ビフェニル型エポキシ樹脂として用いられている請求項2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記オルガノアルコキシシラン化合物がγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−229295(P2010−229295A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78569(P2009−78569)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】