説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】植物由来の材料を用いることにより、止水用等として有用な、密着性、耐熱性、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤が、共役二重結合を持つ植物性油脂又は脱水反応により共役二重結合を持たせた植物性油脂を加水分解して得られた脂肪酸に無水マレイン酸を付加したものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止対策の一環として、二酸化炭素の増加原因として懸念される石油資源を用いず、持続的発展可能な循環型社会への移行のための技術的検討が盛んになっている。
【0003】
樹脂分野においても、カーボンニュートラルの観点から石油由来の材料から植物由来の材料への転換が検討されている。特に熱可塑性樹脂に関しては、ポリ乳酸やポリブチレンサクシネート等の生分解性ポリマーの開発が盛んに行われており、すでに実用化されているものもある。
【0004】
一方、熱硬化性樹脂に関しては、植物由来の材料への転換は熱可塑性樹脂ほどには進展していない。このため、植物由来の材料を用いての、高信頼性の熱硬化性樹脂材料の開発が求められている。
【0005】
水廻りの住宅設備機器、例えば、ボウルやシンクとカウンター等の接合部には、エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を軟質化させたものが止水用樹脂として用いられている。このような止水用樹脂としてのポリウレタン樹脂については、その改質剤として、植物由来のポリオール等を用いる提案がなされている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、この場合の植物由来のポリオールは改質剤として添加されるものであり、主原料樹脂の一部として積極的に用いられるものではない。
【0006】
また、ポリウレタン樹脂は、耐熱性、耐薬品性の点で実用的に必ずしも満足できるものではない。
【0007】
このため、止水用をはじめとする諸用途に有用な、植物由来材料を用いた高信頼性の熱硬化性樹脂組成物の開発が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−084370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、まず、密着性、耐熱性、耐薬品性等に優れているエポキシ樹脂に着目する。そして、本発明は、植物由来の材料を主原料樹脂組成の一部として積極的に用いることで、カーボンニュートラルへの貢献を図るとともに、止水用等として有用な優れた性能を有するエポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0011】
第1に、エポキシ樹脂と硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤は、共役二重結合を持つ植物性油脂又は脱水反応により共役二重結合を持たせた植物性油脂を加水分解して得られた脂肪酸に、無水マレイン酸を付加したものである。
【0012】
第2に、上記第1の発明のエポキシ樹脂組成物において、硬化剤として石油由来材料の酸無水物を併用する。
【発明の効果】
【0013】
前記第1の発明によれば、植物由来の材料としての共役二重結合を持つ植物性油脂又は脱水反応により共役二重結合を持たせた植物性油脂を加水分解して得られた脂肪酸に、無水マレイン酸を付加したものを硬化剤としている。このため、本発明は、カーボンニュートラルに大きく貢献する。また、本発明によれば、エポキシ樹脂との組成物であることで、その硬化物は、耐熱性、耐薬品性、そして止水用としても必須な密着性を優れたものとすることができる。
【0014】
また、第2の発明によれば、硬化剤として、石油由来材料からの酸無水物を併用したので、上記第1の発明の効果に加え、耐熱性、耐薬品性をさらに向上させたエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のエポキシ樹脂組成物の使用状態を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前記のとおり、本発明のエポキシ樹脂組成物では、エポキシ樹脂と、硬化剤を必須成分としている。
【0017】
本発明で用いることができるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0018】
また、本発明では、植物由来材料からの硬化剤として、共役二重結合を持つ植物性油脂又は脱水反応により共役二重結合を持たせた植物性油脂を加水分解(けん化)して得られた脂肪酸に、無水マレイン酸を付加して得られたマレイン化脂肪酸を用いる。
【0019】
共役二重結合を持つ植物性油脂としては、例えば、桐油、ザクロ種子油、ゴーヤ種子油等を挙げることができる。
【0020】
また、脱水反応により共役二重結合を持たせることができる植物性油脂としては、例えば、脱水ひまし油等を挙げることができる。
【0021】
脱水反応により植物性油脂に共役二重結合を持たせる方法としては、脱水ひまし油の例のように、ひまし油等の植物性油脂を化学的に脱水して乾性油とする方法を用いることができる。本発明においては、脱水反応により得られる脱水ひまし油が特に好ましい。
【0022】
共役二重結合を持たせた植物性油脂からは、例えばアルカリと反応させ、加水分解、即ちけん化して脂肪酸とグリセリン成分に分離させた後、グリセリン成分を取り除くことにより共役二重結合を持った脂肪酸を得ることができる。
【0023】
この共役二重結合を持った脂肪酸と、無水マレイン酸を付加反応させることによりマレイン化脂肪酸を得ることができる。無水マレイン酸は200℃に近い温度で、共役二重結合を持った脂肪酸と良好なDiels−Alder反応をすることが知られている。このようなマレイン酸の付加反応においては、硬化剤としての性質や硬化物の用途等を考慮して、その付加反応性を適宜に調整することができる。
【0024】
ここで、エポキシ樹脂と以上のような植物由来材料からのマレイン化樹脂酸からなる本発明における硬化剤との化学量論上の当量比(硬化剤当量/エポキシ基当量)については、一般的には0.5〜1.5の範囲内であることが考慮される。好ましくは0.8〜1.2の範囲内である。当量比が0.5未満であると、エポキシ樹脂組成物の硬化特性が低下する場合があり、当量比が1.5を超えると、耐湿性が不十分になる場合がある。
【0025】
また、本発明においては、上記植物由来材料からの硬化剤のほか、石油由来材料からの酸無水物を併用することができる。
【0026】
これらの酸無水物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の芳香族酸無水物、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、アルケニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物等の環状脂肪族酸無水物、脂肪族酸無水物、ハロゲン化酸無水物等を用いることができ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。このような石油由来材料からの硬化剤を併用する場合には、その配合量は、前記の植物由来材料からの硬化剤に対して、質量比が0.5未満とするのが好ましい。0.5以上である場合には、植物由来材料からの硬化剤を用いる本発明の特徴が後退することになる。
【0027】
そして、本発明においては、必要に応じて硬化促進剤を添加配合してもよい。この硬化促進剤としては、通常、エポキシ樹脂組成物の硬化促進剤として用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン等の有機ホスフィン系硬化促進剤、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン7、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン等の3級アミン系硬化促進剤等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0028】
上記の硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、一般的には、0.5〜10質量部、好ましくは1〜5質量部の範囲内である。0.5質量部未満であると、硬化促進剤としての効果を得ることができないおそれがあり、10質量部を超えると耐湿性が低下するおそれがある。
【0029】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物においては、さらに他の成分、例えば、難燃剤、着色剤、シリコーン可とう剤等を適宜配合することができる。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記のエポキシ樹脂、硬化剤及び硬化促進剤、さらに必要に応じてその他の成分を配合して、常温もしくは加温してミキサー、ブレンダー等を用いて十分均一に混合して製造することができる。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば止水用樹脂組成物として有用である。その硬化物は、例えば、人工大理石からなるカウンターにステンレス製等のシンクを取付けた場合の取付け接合部での止水に良好な性能を発揮する。また、例えば、人工大理石からなるカウンターに陶器製洗面ボウルを取付けた場合においても同様である。
【0032】
そこで以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。もちろん、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
<配合成分>
使用した各配合成分を以下に示す。
植物由来材料からの酸無水物:脱水ひまし油脂肪酸−無水マレイン酸付加物 伊藤製油社製 HIMALEIN D−20(エポキシ樹脂硬化剤当量:約392g/eq)
石油由来材料からの酸無水物:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸 新日本理化社製 リカシッド(登録商標)MH
エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂 DIC社製 エピクロン850(エポキシ樹脂硬化剤当量:約190g/eq)
硬化促進剤:N,N−ジメチルベンジルアミン 和光純薬工業社製
<実施例1>
上記配合成分のうちの、植物由来材料からの酸無水物200質量部、エポキシ樹脂100質量部、硬化促進剤2質量部を混合して止水用のエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0034】
添付の図1に示すように、ビニルエステル系人造大理石カウンター1にステンレスシンク2を金具4により取付けたシンク付きキッチンカウンターを逆さまにした状態で、ステンレスシンク2の接合部と桟木3の間に、前記調整済みの止水用エポキシ樹脂組成物5を充填して、恒温槽にて110℃、4時間加熱硬化させた。
<実施例2>
上記配合成分のうちの、植物由来材料からの酸無水物100質量部、石油由来材料からの酸無水物44.2質量部、エポキシ樹脂100質量部、硬化促進剤2質量部を混合して止水用エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0035】
図1に例示した実施例1でのシンク付きキッチンカウンターと同様にして、不飽和ポリエステル系人造大理石カウンターに陶器製洗面ボウルを金具により取付けた洗面ボウル付きカウンターを逆さまにした状態で、陶器製洗面ボウルの接合部と桟木の間に、止水用エポキシ樹脂組成物を充填して、恒温槽にて110℃、4時間加熱硬化させた。
<評価方法>
[密着性(止水性)及び耐熱性の評価]
実施例1のシンク付きキッチンカウンター及び、実施例2の洗面ボウル付きカウンターを水平に固定して、排水口及びオーバーフロー口を塞ぎ、70℃の温水をカウンター面まで満たして24時間室温にて放置後、接合面からの水漏れの有無を目視にて評価した。
[耐薬品性の評価]
実施例1のシンク付きキッチンカウンター及び実施例2の洗面ボウル付きカウンターを裏返して、止水用エポキシ樹脂組成物充填部に白色ワセリンを用いて高さ20mmのガラス管を固定し、ガラス管内に1%炭酸ナトリウム、5%酢酸の薬品を満たした。その状態で室温にて24時間放置した後、薬品、ガラス管及びワセリンを除去し、止水用エポキシ樹脂組成物5の硬化物の、薬品が接触していた部分の外観上の異変を目視にて評価した。
<評価結果>
実施例1のシンク付きキッチンカウンター及び実施例2の洗面ボウル付きカウンターの止水用エポキシ樹脂組成物5の硬化物は、優れた密着性(止水性)、耐熱性及び耐薬品性を示し、本発明のエポキシ樹脂組成物が止水用として十分に実用に耐えうるものであることが確認された。
【符号の説明】
【0036】
1 ビニルエステル系人造大理石カウンター
2 ステンレスシンク
3 桟木
4 金具
5 止水用エポキシ樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤が、共役二重結合を持つ植物性油脂又は脱水反応により共役二重結合を持たせた植物性油脂を加水分解して得られた脂肪酸に無水マレイン酸を付加したものであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
硬化剤として、石油由来の酸無水物を併用することを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−173962(P2011−173962A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37716(P2010−37716)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】