説明

エマルション水溶液の濾過方法

【課題】 使用済みの接着剤、塗料等からのポリマー含有エマルションの回収法として好適な濾過方法の提供。
【解決手段】 ポリマー含有エマルション水溶液を、セルロース系材料からなる中空糸膜により濾過して、濾過後の濾過水を排水し、濃縮液に含まれるポリマー含有エマルションを回収して再利用する濾過方法。前記セルロース系材料は、酢酸セルロース、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、再生セルロース及びこれらの混合物から選ばれるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤、塗料等に使用されているエマルション水溶液の濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機物エマルションを含む、接着剤、塗料等は、品質を高めるための精製乃至は濃縮処理、更には使用済みのエマルション水溶液の回収乃至は濃縮処理には、蒸発、沈殿等の方法のほか、限外濾過を使用する方法が知られている(特許文献1〜4)。
【0003】
特許文献1、2には、水溶性高分子エマルションを限外濾過膜で処理する方法が記載されており、特許文献3には、限外濾過膜等を用いて塗料を回収する方法が記載されており、特許文献4には、限外濾過膜等を用いた膜分離装置により、カチオン電着塗装で生じた廃水を処理する方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭60−38004号公報
【特許文献2】特開昭60−68005号公報
【特許文献3】特開平9−66256号公報
【特許文献4】WO02/002212
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜4には、限外濾過膜の材料として各種ポリマーが記載されており、特許文献1〜3には、セルロース系材料を使用できることが記載されている。しかし、特許文献1〜4には、セルロース系材料からなる限外濾過膜を使用した具体例の記載はない。
【0005】
本発明は、接着剤、塗料等の成分として汎用されている各種ポリマーを含有するエマルション水溶液の精製、濃縮、回収等に使用できるエマルション水溶液の濾過方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、ポリマー含有エマルション水溶液を、セルロース系材料からなる中空糸膜により濾過する濾過方法を提供する。
【0007】
請求項2の発明は、濾過後の濾過水を排水し、濃縮液に含まれるポリマー含有エマルションを回収して再利用する、請求項1記載の濾過方法を提供する。
【0008】
請求項3の発明は、前記セルロース系材料が、酢酸セルロース、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、再生セルロース及びこれらの混合物から選ばれるものである、請求項1又は2記載の濾過方法を提供する。
【0009】
請求項4の発明は、ポリマー含有エマルション水溶液が接着剤又は塗料を含むものである、請求項1〜3のいずれかに記載の濾過方法を提供する。
【0010】
請求項5の発明は、中空糸膜内の線速0.5〜1.0m/秒、透水速度0.5〜5.0m/日で、10〜1500分間濾過運転した後、0.5〜5分間逆圧洗浄する運転を1サイクルとして、これを繰り返して濾過運転する請求項1〜4のいずれかに記載の濾過方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の濾過方法を適用することにより、接着剤や塗料等に使用するポリマーを含有するエマルション水溶液を精製し、濃縮することができ、高濃度でポリマーを含有するエマルションを回収して再利用することができる。更に、本発明の濾過方法を適用して生じた濾過液は、そのまま既設の排水処理設備に排水したり、河川等に排水したりできるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<エマルション水溶液>
本発明の濾過方法において処理対象となるエマルション水溶液は、公知の接着剤や塗料等で使用されているポリマー含有エマルション水溶液である。前記ポリマーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム等を挙げることができる。
【0013】
熱可塑性樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、アクリル系接着剤、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマー、塩素化ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、プラスチゾル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ナイロン、飽和無定形ポリエステル、セルロース誘導体を挙げることができる。
【0014】
熱硬化性樹脂としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができる。
【0015】
ゴムとしては、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、ポリイソブチレン−ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンRTV、塩化ゴム、臭化ゴム、クラフトゴム、ブロック共重合体、液状ゴムを挙げることができる。
【0016】
本発明の濾過方法は、アクリル系ポリマー及び/又はメタクリル系ポリマーを含有するエマルション水溶液の濾過に適している。
【0017】
アクリル系ポリマーは、アクリル酸又はその誘導体のホモポリマー又はコポリマー、前記アクリル酸又はその誘導体と共重合可能な他のモノマーとのコポリマー、前記ホモポリマーやコポリマーと他のポリマーとの混合物である。
【0018】
アクリル酸の誘導体としては、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、アクリル酸アミド、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル等を挙げることができる。
【0019】
メタクリル系ポリマーは、メタクリル酸又はその誘導体のホモポリマー又はコポリマー、前記メタクリル酸又はその誘導体と共重合可能な他のモノマーとのコポリマー、前記ホモポリマーやコポリマーと他のポリマーとの混合物である。
【0020】
メタクリル酸の誘導体としては、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)、メタクリル酸アミド、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等を挙げることができる。
【0021】
アクリル酸又はその誘導体とメタクリル酸又はその誘導体と共重合可能なモノマーとしては、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル系モノマー(ビニル基含有モノマー)を挙げることができる。
【0022】
前記他のポリマーとしては、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができる。
【0023】
エマルション水溶液の固形分濃度は、0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜5質量%、更に好ましくは0.3〜3質量%である。
【0024】
<中空糸膜>
本発明の濾過方法で使用する中空糸膜は、セルロース系材料からなるものである。セルロース系材料としては、セルロース誘導体単独、セルロース誘導体と他の親水性ポリマー及び/又は疎水性ポリマーとの混合物を挙げることができる。
【0025】
セルロース誘導体としては、酢酸セルロース、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、再生セルロース及びこれらの混合物から選ばれるものを挙げることができる。
【0026】
セルロース誘導体以外の他の親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0027】
疎水性ポリマーとしては、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアラミド、ポリプロピン、ポリエチレン等を挙げることができる。
【0028】
中空糸膜は、内径0.3〜3.0mmが好ましく、0.5〜1.0mmがより好ましく、外径0.4〜5.0mmが好ましく、0.7〜1.7mmがより好ましい。
【0029】
中空糸膜は、分画分子量3,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、100,000以上が更に好ましい。
【0030】
中空糸膜は、エマルション水溶液の処理量等に応じて、必要な本数を束ねた1束又は2束以上の中空糸膜束としてもよく、前記中空糸膜束をモジュールケースに収容した中空糸膜モジュールとしてもよい。
【0031】
<濾過運転条件>
本発明の濾過運転では、平均濾過圧力は特に制限されるものではない。平均濾過圧力が小さいと、エマルション粒子が膜面に押し付けられ、膜つまりを生じさせることが抑制されるために好ましいが、高い圧力であっても、必要に応じて薬液(次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤)を使用して、逆圧洗浄、循環洗浄又は浸漬洗浄等をすることにより、濾過性能を回復することができる。本発明では、平均濾過圧力が50kPa以下で濾過することができる。
【0032】
濾過時間や濾過流量等は適宜設定することができるが、中空糸膜内の線速0.5〜1.0m/秒、透水速度0.5〜5.0m/日で、10〜1500分間濾過運転した後、0.5〜5分間洗浄する運転を1サイクルとして、これを繰り返して濾過運転する方法を適用することができる。
【0033】
洗浄は、水又は薬液を用いた逆圧洗浄、循環洗浄及び浸漬洗浄をそれぞれ単独で又は組み合わせて適用することができる。洗浄方法を組み合わせる場合には、逆圧洗浄と循環洗浄の組み合わせ、逆圧洗浄と浸漬洗浄の組み合わせが好ましい。本発明では、水又は薬液(例えば、濃度3〜300ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液)を用い、流量1〜20m/日で行う逆圧洗浄と、濃度0.1〜2質量%の界面活性剤水溶液を用い、中空糸膜内線速0.2〜2m/秒で行う循環洗浄を組み合わせることが好ましい。
【0034】
本発明の濾過方法は、ポリマーを含有するエマルション水溶液を含む接着剤、塗料等の製造工程における精製及び濃縮方法として適用することができるほか、使用済みの塗料等から高濃度のポリマー含有エマルションを回収する方法としても適用することができる。
【実施例】
【0035】
(純水透過能力)
作製したモジュールを、98kPa の圧力下で純水を内圧にてデッドエンド濾過し、単位時間、単位膜面積(内表面積換算)あたりに透過する純水量を測定した。さらに、ろ過液の水温を測定し、水温25℃の水の粘度を基準として、測定水温の粘度の比率を測定した純水量にかけて、純水透過能力とした。
【0036】
実施例1
酢酸セルロース中空糸膜(FUC1582;内径0.8mm,外径1.3mm、分画分子量15万ダルトン)を20本束ね、内径20mmの長さ30cmのモジュールケースに収納し、両端をウレタン接着剤で封止したモジュールを作成した。このモジュールの膜面積は、0.0132mであった。このモジュールの純水透過能力を内圧全量濾過で測定したところ、601L/m・hr(25℃、98kPa換算)であった。
【0037】
このモジュールを用いて、水溶性アクリルエマルジョン塗料(商品名;カンペパピオ社製、パピオフレッシュ、オフホワイト)の使用残りが2倍に水で希釈された液1Lを濾過した。平均濾過圧力(モジュール入口圧力とモジュール濃縮側出口の圧力の平均から、モジュールろ過側出口の圧力を引いた圧力)40kPa、温度20℃、中空糸膜内線速度0.8m/秒で循環濃縮濾過して、1.4倍まで濃縮した。この間の平均濾過流量は12L/m・hrであった。水道水で置換した後、モジュールの純水透過能力を水溶性アクリルエマルジョン塗料の濾過前と同様に測定したところ、325L/m・hrであった。
【0038】
これは、初期の純水透過能力の54%であった。更に、水道水を用い、圧力150kPaで逆圧洗浄したところ、純水透過能力は、419L/m・hrまで回復した。これは初期の純水透過能力の70%であった。更に、界面活性剤(ウルトラジル53, エコラボ社製)の0.5%水溶液で循環洗浄を1時間実施した。その後、同様に純水透過能力を測定したところ、595L/m・hrとなった。これは初期の純水透過能力の99%であった。
【0039】
比較例1
膜をポリエーテルサルホン製(FUS1582;内径0.8mm,外径1.3mm,分画分子量15万ダルトン)に変更した以外は、全く同様にしてモジュールを作製し、全く同様の濾過処理を行った。その結果、平均濾過流量は、5L/m・hrであった。初期の純水透過能力1860L/m・hrに対し、濾過直後は14%まで低下し、逆圧洗浄後は40%までしか回復しなかった。更に界面活性剤を用いた循環洗浄後は、63%までしか回復しなかった。
【0040】
比較例2
膜を純水透過能力が350L/m・hrの、酢酸セルロース製(FUC1581; 内径0.8mm,外径1.3mm、分画分子量15万ダルトン)にした以外は、実施例1と全く同様にして実施した。その結果、平均濾過流量は8L/m・hrであった。初期の純水透過能力350L/m2・hrに対し、濾過直後は43%まで低下し、逆圧洗浄後は、56%までしか回復しなかった。更に界面活性剤を用いた循環洗浄後は、89%まで回復した。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー含有エマルション水溶液を、セルロース系材料からなる中空糸膜により濾過する濾過方法。
【請求項2】
濾過後の濾過水を排水し、濃縮液に含まれるポリマー含有エマルションを回収して再利用する、請求項1記載の濾過方法。
【請求項3】
前記セルロース系材料が、酢酸セルロース、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、再生セルロース及びこれらの混合物から選ばれるものである、請求項1又は2記載の濾過方法。
【請求項4】
ポリマー含有エマルション水溶液が接着剤又は塗料を含むものである、請求項1〜3のいずれかに記載の濾過方法。
【請求項5】
中空糸膜内の線速0.5〜1.0m/秒、透水速度0.5〜5.0m/日で、10〜1500分間濾過運転した後、0.5〜5分間逆圧洗浄する運転を1サイクルとして、これを繰り返して濾過運転する請求項1〜4のいずれかに記載の濾過方法。
【請求項6】
セルロース系材料からなる中空糸膜の純水透過流量が、500リットル/時間(25℃、膜間差圧98kPa)以上である、請求項1〜5のいずれか記載の濾過方法。




【公開番号】特開2008−183514(P2008−183514A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19077(P2007−19077)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【Fターム(参考)】