説明

エマルジョン破壊および生物学的要素の回収のためのシステムおよび方法

a)組み合わされた水性−油混合物を生成するために、溶媒を使用して、油の連続相内に複数の水性液滴を含むエマルジョンを破壊するステップであって、この溶媒は、水性液滴を破裂させることによって、組み合わされた水性−油混合物中に、基質にそれぞれ固定された複数の生物学的要素を放出するものであるステップと;b)組み合わされた水性−油混合物に無機塩を導入して、水性溶液および生物学的要素を含む第1の相と溶媒および油を含む第2の相とに、混合物の相分離を引き起こさせるステップと;c)第1の相を第2の相から抽出するステップと;d)第1の相から、基質固定化生物学的要素を収集するステップとを含む、エマルジョンから生体材料を抽出するための方法の実施形態が記述される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油相に分散された水性エマルジョン微小液滴を破壊し、その内部に含有される核酸産物を単離するための、システム、方法、試薬、およびキットを提供する。より詳細には、本発明は、熱安定エマルジョンからの増幅核酸産物の単離に関する。
【背景技術】
【0002】
「油中水型」エマルジョンの液滴内で生物学的プロセスを行うための方法およびキットの開発は、ハイスループット分析技術、特に、エマルジョン液滴内で増幅された核酸材料を用いるハイスループット核酸配列決定技術の開発に、驚異的な貢献をしてきた。そのようなエマルジョンは、指向進化と呼ばれるin−vitro転写/翻訳および増幅プロセスを含めたいくつかの用途に、首尾良く用いられてきたことが理解されよう。例えばエマルジョンの各水性液滴は、マイクロコンパートメントまたはマイクロリアクターであり、その内部において、興味の対象であるプロセスを単離の際に実施することができるものであり、この場合、何千もの液滴が大規模並列方式でプロセスを実行する。核酸増幅のより特別な例では、このプロセスは、非常に高い効率でかつ隣接する液滴から汚染されることなく進行することができる。殆どの適用例において、水性エマルジョン液滴で行われる増幅プロセスのタイプは、エマルジョンの高効率熱伝達特性ならびに典型的な油中水型エマルジョンの生物学的適合性の利益を受ける、周知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法である。さらに、配列決定可能な材料を生成させるための多くのエマルジョンの実施形態は、表面に増幅産物を固定することができるマイクロスフェアなどの固相基質(すなわち、ビーズタイプの基質)の包含に適している。これは、エマルジョン液滴が破壊されて産物を回収するときに、各種の産物を他と切り離して保持しかつ引き続きクローン集団として使用することができるように、増幅産物を効率的に隔離する。
【0003】
一般に、生物学的な状況で使用される油中水型エマルジョンは破裂させまたは「破壊され」、次いで液滴から放出される生体材料は、好ましくは生物学的完全性または組成物の破壊または変性なしに、その後の使用のために精製される。伝統的に、油中水型エマルジョンは、イソプロパノールなどの溶媒および遠心分離法により分離された成分を使用して破壊されてきた。増幅核酸集団をビーズに隔離する遠心分離法を用いる実施形態では、油および界面活性剤を除去するのに遠心分離プロセスを数回繰り返し、その後、緩衝溶液で濯ぎ、イソプロパノールを除去するのにさらに遠心分離を行うことが好ましい。伝統的な遠心分離をベースにしたプロセスは、時間がかかり、市販の実験室用自動化プラットフォームに移すのに適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、記述される本発明の目的は、生物学的要素に損傷を与えることなくまたはこの要素の特徴を変化させることなくこの生物学的要素をエマルジョンから抽出するために、より効率的で自動化可能なプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、核酸の配列の決定に関する。より詳細には、本発明の実施形態は、SBSによる核酸の配列決定中に得られたデータの誤差を訂正するための、方法およびシステムに関する。
【0006】
エマルジョンから生体材料を抽出するための方法の実施形態は、a)組み合わされた水性−油混合物を生成するために、溶媒を使用して、油の連続相内に複数の水性液滴を含むエマルジョンを破壊するステップであって、この溶媒は、水性液滴を破裂させることによって、組み合わされた水性−油混合物中に、基質にそれぞれ固定された複数の生物学的要素を放出するものであるステップと;b)組み合わされた水性−油混合物に無機塩を導入して、水性溶液および生物学的要素を含む第1の相と溶媒および油を含む第2の相とに、混合物の相分離を引き起こさせるステップと;c)第1の相を第2の相から抽出するステップと;d)第1の相から、基質固定化生物学的要素を収集するステップとを含むものが記述される。
【0007】
上記実施形態および実装例は、必ずしも互いに包括的または排他的とは限らず、同じまたは異なる実施形態または実装例と関連して示されていても示されていなくても、矛盾することなくかつその他の方法で可能である任意の手法で組み合わせることができる。一実施形態または実装例の記述は、その他の実施形態および/または実装例に関して限定しようとするものではない。また、本明細書の他の箇所に記述されるいずれか1つまたは複数の機能、ステップ、操作、または技法は、代替の実装例において、この課題を解決するための手段に記述されるいずれか1つまたは複数の機能、ステップ、操作、または技法と組み合わせることもできる。このように、上記実施形態および実装例は、限定ではなく例示である。
【0008】
上記およびその他の特徴は、添付図面と併せて解釈する場合、以下の詳細な記述から、より明らかに理解されよう。これらの図面において、同様の符号は同様の構造、要素、または方法ステップを示し、符号の左端の桁は、その参照要素が最初に現れた図の番号を示す(例えば、要素160は、図1に最初に現れる)。しかし、これらの規則の全ては、限定ではなく典型的なものまたは例示であることを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】コンピュータ制御下にある配列決定機器および反応基質の一実施形態の、機能的ブロック図である。
【図2】塩析プロセスを使用してエマルジョンから生物学的要素を抽出するための方法の一実施形態の、機能的ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、より詳細に記述されるように、目下記述される本発明の実施形態は、エマルジョンを破壊しかつその中に含有される生物学的要素を回収するためのシステム、方法、およびキットを含む。特に、本発明の実施形態は、核酸配列決定などのハイスループット技術における使用のための、核酸鋳型分子の増幅と、増幅された集団の回収とに使用される、油中水型エマルジョンに関する。
【0011】
a.概要
「フローグラム」という用語は、一般に、SBS法、特にピロホスフェートをベースにした配列決定法(「ピロシーケンス」とも呼ばれる)によって作成された配列データのグラフ表示を指し、より具体的には「ピログラム」とも呼ぶことができる。
【0012】
本明細書で使用される「リード」または「配列リード」という用語は、一般に、単一の核酸鋳型分子または複数の実質的に同一な鋳型核酸分子の複製物の集団から得られた全配列データを指す。
【0013】
本明細書で使用される「ラン」または「シーケンスラン」という用語は、一般に、1個または複数の鋳型核酸分子の配列決定操作で行われる一連の配列決定反応を指す。
本明細書で使用される「フロー」という用語は、一般に、鋳型核酸分子を含む環境に溶液を添加する連続または反復サイクルを指し、ここでこの溶液は、配列決定反応に用いることができまたは先のフローサイクルからのヌクレオチド種のキャリーオーバーもしくはノイズ効果を低減させるのに用いることができる、新生分子に添加するためのヌクレオチド種または緩衝液や酵素などのその他の試薬を含むことができるものである。
【0014】
本明細書で使用される「フローサイクル」という用語は、一般に、連続した一連のフローを指し、ヌクレオチド種はサイクル中に1回流れる(すなわち、フローサイクルは、T、A、C、Gの順序によるヌクレオチド種の連続添加を含むことができるが、その他の配列組合せも定義の一部と見なされる)。典型的には、フローサイクルは、サイクル間で同じフロー順序を有する反復サイクルである。
【0015】
本明細書で使用される「リード長」という用語は、一般に、信頼性をもって配列決定することができる鋳型分子の長さの上限を指す。システムおよび/またはプロセスのリード長に寄与する数多くの因子があり、この因子には鋳型核酸分子中のGC含量の程度が含まれるが、これに限定されることはない。
【0016】
本明細書で使用される「試験断片」または「TF」という用語は、一般に、品質管理、較正、またはその他の関連する目的に用いることができる、既知の配列組成物の核酸要素を指す。
【0017】
本明細書で使用される「プライマー」という用語は、一般に、適切な温度で適切な緩衝液中において、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘発される条件の下で、DNA合成の開始点として働くオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、好ましくは1本鎖オリゴデオキシリボヌクレオチドである。
【0018】
「新生分子」は、一般に、鋳型分子における対応するヌクレオチド種と相補的なヌクレオチド種を組み込むことにより、鋳型依存性DNAポリメラーゼによって伸長するDNA鎖を指す。
【0019】
「鋳型核酸」、「鋳型分子」、「標的核酸」、または「標的分子」という用語は、一般に、そこから配列データまたは情報が作成される、配列決定反応の対象である核酸分子を指す。
【0020】
本明細書で使用される「ヌクレオチド種」という用語は、一般に、典型的には新生核酸分子に組み込まれるプリン(アデニン、グアニン)およびピリミジン(シトシン、ウラシル、チミン)を含む、核酸モノマーのアイデンティティを指す。
【0021】
本明細書で使用される「モノマーリピート」または「ホモポリマー」という用語は、一般に、同じヌクレオチド種(すなわち、反復されたヌクレオチド種)を含む2つ以上の配列位置を指す。
【0022】
本明細書で使用される「均質伸長」という用語は、一般に、実質的に同一な鋳型分子の集団の各メンバーが、反応において同じ伸長ステップを均質に行っている、伸長反応の関係または相を指す。
【0023】
本明細書で使用される「完了効率」という用語は、一般に、所与のフロー中に適正に伸長する新生分子のパーセンテージを指す。
本明細書で使用される「不完全伸長率」という用語は、一般に、全ての新生分子の数に対する、適正に伸長することができなかった新生分子の数の比を指す。
【0024】
本明細書で使用される「ゲノムライブラリー」または「ショットガンライブラリー」という用語は、一般に、生物体または個体の全ゲノム(すなわち、ゲノムの全ての領域)から得られかつ/またはこのゲノムを表す、分子のコレクションを指す。
【0025】
本明細書で使用される「単位複製配列(amplicon)」という用語は、一般に、ポリメラーゼ連鎖反応またはリガーゼ連鎖反応技法から生成されたものなど、選択された増幅産物を指す。
【0026】
本明細書で使用される「バリアント」または「アレル」という用語は、一般に、類似する配列組成物をそれぞれがコードするが互いに差異のある程度にコードする、複数の種の1種を指す。この差異には、一ヌクレオチド多型性(SNP)などの多型性、挿入または欠失(挿入/欠失事象の組合せは「インデル」とも呼ばれる)、反復配列(タンデムリピートとも呼ばれる)の数の相違、および構造変化を含むがそれらに限定するものではない、当業者に公知の任意のタイプの遺伝的変異を含めることができる。
【0027】
本明細書で使用される「アレル頻度」または「アレルの頻度」という用語は、一般に、特定のバリアントを含む集団中の全てのバリアントの割合を指す。
本明細書で使用される「キー配列」または「キー要素」という用語は、一般に、鋳型分子から作成された配列データの品質管理基準として用いられる既知の配列組成物を含んだ既知の部位(すなわち、典型的には連結されたアダプター要素に含まれる)で、鋳型核酸分子に関連付けられた核酸配列要素(典型的には、約4配列位置、すなわちTGAC、またはヌクレオチド種のその他の組合せ)を指す。配列データは、正しい部位でキー要素に関連付けられた既知の配列組成物を含む場合、品質管理に合格する。
【0028】
本明細書で使用される「キーパス」または「キーパスウェル」という用語は、一般に、反応ウェルにおける、既知の配列組成物の全長核酸試験配列(すなわち、上述のような「試験断片」または「TF」)の配列決定を指し、TF配列および/またはTFに関連付けられたキー配列から得られまたは標的核酸に関連付けられたアダプターにおける配列の精度は、TFおよび/またはキーの既知の配列組成物と比較され、配列決定の精度を測定するためにかつ品質管理のために使用される。典型的な実施形態では、シーケンスランにおけるウェルの総数の割合は、いくつかの実施形態で局部的に分布され得るキーパスウェルになる。
【0029】
本明細書で使用される「ブラントエンド」という用語は、当業者の理解に矛盾することなく解釈され、一般に、1対の相補的ヌクレオチド塩基種で終端する末端を有する直鎖状2本鎖核酸分子を指し、1対のブラントエンドは、典型的には互いに対するライゲーションに適合可能なものである。
【0030】
本明細書で使用される「付着末端」または「オーバーハング」という用語は、当業者の理解に矛盾することなく解釈され、一般に、分子の一方の鎖の末端に1種または複数の不対ヌクレオチド種を有する直鎖状2本鎖核酸分子を指し、この不対ヌクレオチド種は、どちらかの鎖に存在することができかつ単一の塩基位置または複数の塩基位置を含むことができる(場合によって、「粘着末端」とも呼ばれる)。
【0031】
本明細書で使用される「ビーズ」または「ビーズ基質」という用語は、一般に、任意の都合の良いサイズのものでありかつセルロース、セルロース誘導体、アクリル樹脂、ガラス、シリカゲル、ポリスチレン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ビニルとアクリルアミドとのコポリマー、ジビニルベンゼンに架橋したポリスチレンなど(例えば、Merrifield、Biochemistry 3(1964)1385〜1390に記載されている)、ポリアクリルアミド、ラテックスゲル、ポリスチレン、デキストラン、ゴム、シリコン、プラスチック、ニトロセルロース、天然スポンジ、シリカゲル、制御多孔質ガラス、金属、架橋デキストラン(例えば、Sephadex(商標))アガロースゲル(Sepharose(商標))、および当業者に公知のその他の固相ビーズ支持体などの任意の数の公知の材料から製作された、任意のタイプのビーズを指す。
【0032】
サンプルの調製および処理、配列データの作成、および配列データの分析に関連したシステムおよび方法のいくつかの例示的な実施形態について、以下に概略的に記述するが、そのいくつかまたは全ては、目下記述される本発明の実施形態と共に使用するのに適している。特に、鋳型核酸分子を調製し、鋳型分子を増幅し、標的特異的単位複製配列および/またはゲノムライブラリーを作成するためのシステムおよび方法、配列決定の方法および機器、およびコンピュータシステムの例示的な実施形態について、記述する。
【0033】
典型的な実施形態において、実験または診断サンプルから得られた核酸分子は、その生の形から、ハイスループット配列決定に適した鋳型分子へと、調製し処理しなければならない。処理方法は、用途ごとに様々である可能性があり、その結果、様々な特徴を含む鋳型分子が得られる。例えば、ハイスループット配列決定のいくつかの実施形態では、少なくとも、特定の配列決定法によって配列データが正確に作成され得るような配列またはリード長を有する、鋳型分子を生成することが好ましい。本実施例では、そのような長さは、約25〜30塩基対、約50〜100塩基対、約200〜300塩基対、約350〜500塩基対、500塩基対超、または特定の配列決定の適用例に適したその他の長さの範囲を含むことができる。いくつかの実施形態では、ゲノムサンプルなどのサンプルからの核酸は、当業者に公知のいくつかの方法を使用して断片化される。好ましい実施形態では、核酸をランダムに断片化する(すなわち、特定の配列または領域に選択しない)方法は、ネブライゼーションまたはソニケーション法と呼ばれるものを含むことができる。しかし、制限エンドヌクレアーゼを使用する消化など、その他の断片化の方法を、断片化の目的で用いてもよいことが理解されよう。また、本実施例では、いくつかの処理方法は、所望の長さの核酸断片を選択的に単離するために、当技術分野で公知のサイズ選択法を用いてもよい。
【0034】
また、いくつかの実施形態では、追加の機能的要素を各鋳型核酸分子に関連付けることが好ましい。この要素は、増幅および/または配列決定法のためのプライマー配列、品質管理要素(すなわち、例えばキー要素またはその他のタイプの品質管理要素)、初期(origin)のサンプルまたは患者のサンプルなどとの様々な関連をコードする固有識別子(多重識別子または「MID」とも呼ばれる)、またはその他の機能的要素を含むがこれらに限定することのない、様々な機能に用いてもよい。
【0035】
例えば、記述される本発明のいくつかの実施形態は、既知のかつ識別可能な配列組成物を有するMID要素の1つまたは複数の実施形態を、サンプルに関連付けるステップと、MID要素の実施形態を、関連付けられたサンプルからの鋳型核酸分子に結合させるステップとを含む。いくつかの異なるサンプルからのMID結合鋳型核酸分子を、後に効率的に処理することができる単一の「多重」サンプルまたは組成物中にプールして、各MID結合鋳型核酸分子ごとの配列データを作成する。各鋳型核酸ごとの配列データを解析して、結合MID要素の配列組成物および識別された初期サンプルとの関連を識別する。本実施例において、多重組成物は、約384サンプル、約96サンプル、約50サンプル、約20サンプル、約16サンプル、約10サンプル、またはその他の数のサンプルの代表例を含んでいてもよい。各サンプルには、研究の意味で、異なる実験条件、治療、化学種、または個体を関連付けることができる。同様に、各サンプルには、診断の意味で、異なる組織、細胞、個体、状態、薬物、またはその他の治療を関連付けることができる。当業者なら、上記列挙されたサンプルの数は例示を目的とするものであり、したがって限定するものと見なすべきではないことが理解されよう。
【0036】
好ましい実施形態では、各MID要素の配列組成物は、容易に識別可能でありかつ配列決定プロセスから導入された誤差に耐えられる。MID要素のいくつかの実施形態は、天然に生ずる配列に対して最小限の配列相同性を有する核酸種の、固有の配列組成物を含む。あるいは、MID要素の実施形態は、天然に生ずる配列に対してある程度の配列相同性を含んでいてもよい。
【0037】
また、好ましい実施形態では、各MID要素の位置は、鋳型核酸分子および/またはこの鋳型分子に結合されたアダプター要素のいくつかの特徴に関して既知である。各MIDの既知の位置を有することは、配列データ中にMID要素を見出すために、また可能性ある誤差およびその後の初期サンプルとの関連に関してMID配列組成物を解釈するのに有用である。
【0038】
例えば、MID要素に対する位置関係のアンカーとして有用ないくつかの特徴には、鋳型分子の長さ(すなわち、MID要素は、5’または3’末端から非常に多くの配列位置にあることが知られている)、MID要素に隣接して位置決めされたキー要素および/または1つもしくは複数のプライマー要素などの認識可能な配列マーカーを含めることができるが、これらに限定するものではない。本実施例では、キーおよびプライマー要素は、典型的には多重組成物においてサンプルごとに変化せず、かつMID要素を探索する位置基準として用いることができる、既知の配列組成物を一般に含む。アプリケーション135により実施される分析アルゴリズムはコンピュータ130で実行することができ、各MID結合鋳型ごとに作成された配列データを分析して、より容易に認識可能なキーおよび/またはプライマー要素を識別し、これらの位置から外挿してMID要素の配列を含むことが推定される配列領域を識別することができる。次いでアプリケーション135は、推定領域の、またおそらくはフランキング領域でいくらか離れている配列組成物を処理して、MID要素およびその配列組成物をポジティブに識別することができる。
【0039】
記述される機能的要素のいくつかまたは全ては、ある処理ステップでヌクレオチド配列に結合されたアダプター要素に組み合わせることができる。例えば、いくつかの実施形態は、相補的配列組成物を含むプライミング配列要素または領域を、増幅および/または配列決定に用いられるプライマー配列に関連付けることができる。さらに、この同じ要素は、「鎖選択」と呼ぶことができるものに、また固相基質への核酸分子の固定化に用いることができる。いくつかの実施形態では、2組のプライミング配列領域(以下、プライミング配列A、およびプライミング配列Bと呼ぶ)を鎖選択に用いることができ、プライミング配列Aの1つの複製物およびプライミング配列Bの1つの複製物を有する1本鎖のみが選択され、調製されたサンプルとして含まれる。代替の実施形態では、アダプター要素の設計特性により、鎖選択の必要性がなくなる。同じプライミング配列領域は、増幅し固定化するための方法を用いてもよく、例えばプライミング配列Bを固体基質上に固定化することができ、そこから増幅産物を伸長させる。
【0040】
断片化、鎖選択、ならびに機能的要素およびアダプターの付加のためのサンプル処理の追加の例は、2004年1月28日に出願された「Method for preparing single−stranded DNA libraries」という名称の、US−2004−0185484−A1として公開された米国特許出願;2008年5月29日に出願された「System and Method for Identification of Individual Samples from a Multiplex Mixture」という名称の、US2009−0105959−A1として公開された米国特許出願;および2009年2月23日に出願された「System and Method for Improved Processing of Nucleic Acids for Production of Sequencable Libraries」という名称の、米国特許出願第12/380,139号に記載されており、これらのそれぞれは、その全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれるものである。
【0041】
実質的に同一な複製物の集団が生成されるように鋳型核酸分子の増幅を行うための、システムおよび方法の様々な例について、記述される。SBSのいくつかの実施形態では、1種または複数のヌクレオチド種が、鋳型分子の複製物に関連付けられた各新生分子内に組み込まれるときに、より強いシグナルを発生させるため、各核酸要素の多くの複製物を生成することが望ましいことが当業者に明らかにされよう。例えば、細菌ベクターと呼ばれるものを使用する増幅、「ローリングサークル」増幅(上記にて参照により組み込まれる米国特許第6,274,320号および第7,211,390号に記載されている)、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法などであって、これらの技法のそれぞれが目下記述される本発明と共に使用するのに適用可能なものである、核酸分子の複製物を生成するための当技術分野で公知の多くの技法がある。ハイスループットの適用例に特に適している、あるPCR技法は、エマルジョンPCR法と呼ばれるものを含む(emPCR(商標)法とも呼ばれる)。
【0042】
エマルジョンPCR法の典型的な実施形態は、内部で反応を引き起こすことができる水性液滴を生成する、2種の非混和性物質の安定なエマルジョンを生成するステップを含む。特に、PCR法で使用するのに適したエマルジョンの水性液滴は、典型的には何らかのタイプの油を含む疎水性流体などの別の流体(連続相とも呼ばれる)中に、液滴として懸濁されまたは分散された水ベースの流体などの第1の流体(不連続相とも呼ばれる)を含んでいてもよい。用いてもよい油の例には、鉱油、シリコーンベースの油、またはフッ素化油が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0043】
さらに、いくつかのエマルジョンの実施形態は、エマルジョンを安定化するように働く界面活性剤を用いることができ、これはPCRなどの特定の処理方法で特に有用なものとなり得る。界面活性剤のいくつかの実施形態は、シリコーンまたはフッ素化界面活性剤の1種または複数を含んでいてもよい。例えば、1種または複数の非イオン性界面活性剤は、ソルビタンモノオレエート(Span(商標)80とも呼ばれる)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween(商標)80とも呼ばれる)、またはいくつかの好ましい実施形態ではジメチコンコポリオール(Abil(登録商標)EM90とも呼ばれる)、ポリシロキサン、ポリアルキルポリエーテルコポリマー、ポリグリセロールエステル、ポロキサマー、およびPVP/ヘキサデカンコポリマー(Unimer U−151とも呼ばれる)、またはより好ましい実施形態ではシクロペンタシロキサン中に高分子量シリコーンポリエーテル(Dow Corningから入手可能なDC 5225Cとも呼ばれる)を含むがこれらに限定されないものを用いることができる。
【0044】
エマルジョンの液滴は、コンパートメント、マイクロカプセル、マイクロリアクター、マイクロ環境、または関連する技術分野で一般に使用されるその他の名称で呼ぶこともできる。水性液滴のサイズは、エマルジョン成分または組成物の組成、その内部に含有される内容物、および用いられる形成技法に応じて変動してもよい。記述されるエマルジョンは、PCRなどの化学反応を行うことができるマイクロ環境を生成する。例えば、鋳型核酸および所望のPCR反応を行うのに必要な全ての試薬は、カプセル封入することができ、かつエマルジョンの液滴中に化学的に単離することができる。追加の界面活性剤またはその他の安定化剤を、上述のような液滴のさらなる安定性を促進させるため、いくつかの実施形態で用いてもよい。PCR法に典型的な熱サイクル操作は、カプセル封入された核酸鋳型を増幅するために液滴を使用して実行することができ、その結果、鋳型核酸の、多くの実質的に同一な複製物を含んだ集団が生成される。いくつかの実施形態では、液滴内の集団を、「クローン的に単離された」、「コンパートメント化された」、「隔離された」、「カプセル封入された」、または「局在化した」集団と呼ぶことができる。また本実施例では、記述される液滴の一部または全ては、鋳型および鋳型の増幅複製物、鋳型に相補的な増幅複製物、またはこれらの組合せを取着させるためのビーズなどの固体基質を、さらにカプセル封入することもできる。さらに固体基質は、その他のタイプの核酸、試薬、標識、または問題となっているその他の分子を取着できると考えられる。
【0045】
目下記述される本発明で有用なエマルジョンの実施形態は、記述される化学反応を大規模並列方式で行うことを可能にする、非常に高密度の液滴またはマイクロカプセルを含むことができる。増幅に用いられるエマルジョンおよび配列決定の適用例でのその使用の追加の例は、米国特許第7,638,276号;第7,622,280号;およびUS−2005−0079510−A1として公開された米国特許出願;およびUS−2005−0227264−A1として公開された米国特許出願に記載されており、これらのそれぞれは、その全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれるものである。
【0046】
また、配列決定のために標的特異的単位複製配列を生成する、場合によっては超深度配列決定と呼ばれる実施形態は、目下記述される本発明と共に用いることができ、標的核酸を含むサンプルから選択された1つまたは複数の標的領域を増幅するために、何組かの特定の核酸プライマーを使用するステップが含まれる。さらにサンプルは、サンプル中の配列バリアントの分布を増幅するのにかつその手掛かりとするのにプライマーを用いることができる、研究または診断の有用性に関連付けられた配列組成物を含む、配列バリアントを含有することが知られておりまたは含有すると考えられている核酸分子の集団を含むことができる。例えば、核酸サンプル中の多数のアレルの特異的な増幅および配列決定によって配列バリアントを識別するための方法を、行ってもよい。核酸には、まず、問題となっている領域または核酸集団に共通のセグメントを取り囲む領域を増幅するよう設計された、1対のPCRプライマーによって増幅が行われる。PCR反応の産物(第1の単位複製配列)のそれぞれを、引き続き、上述のエマルジョンベースの容器など、個別の反応容器内で個々にさらに増幅する。それぞれが単位複製配列の第1の集団の1つのメンバーから誘導されて得られた単位複製配列(本明細書では第2の単位複製配列と呼ぶ)の配列決定をし、配列のコレクションを使用して、存在する1種または複数のバリアントのアレルの頻度を決定する。重要なことは、この方法が、存在するバリアントの予備知識を必要としないことであり、典型的には、核酸分子の集団において<1%の頻度で存在するバリアントを識別することができる。
【0047】
記述される標的特異的増幅および配列決定法のいくつかの利点には、既に実現されたものよりも高いレベルの感受性が含まれる。さらに、例えば454 Life Sciences Corporationにより提供されたウェルのPicoTiterPlate(登録商標)アレイ(場合によっては、PTP(商標)プレートまたはアレイとも呼ばれる)と呼ばれるものを用いる実施形態など、ハイスループット配列決定機器を用いる実施形態では、記述される方法を用いて、ランまたは実験当たり100,000超、300,000超、500,000超、または1,000,000超の核酸領域に関して配列組成物を生成することができ、これは少なくとも一部では、ガスケットの使用などによって可能になるレーン構成などのユーザ選択に応じて変化する可能性がある。また、記述される方法は、1%以下のアレルバリアントを示すことができる、豊富ではないアレルの検出の感受性も提供する。この方法の別の利点は、分析された領域の配列を含んだデータを作成するステップを含む。重要なことは、分析される位置の配列に関して予備知識を持つ必要がないことである。
【0048】
配列決定するための標的特異的単位複製配列の追加の例は、2005年4月12日に出願された「Methods for determining sequence variants using ultra−deep sequencing」という名称の、米国特許出願第11/104,781号;2008年3月14日に出願された「System and Method for Detection of HIV Drug Resistant Variants」という名称の、WO2008/115427;および2009年6月17日に出願された「System and Method for Detection of HIV Tropism Variants」という名称の、US−2010−0003687として公開された米国特許出願に記載されており、これらのそれぞれは、その全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれるものである。
【0049】
さらに、配列決定の実施形態は、Sangerタイプの技法、ハイブリダイゼーションによる配列決定(SBH)、ライゲーションによる配列決定(SBL)、または取込みによる配列決定(Sequencing by Incorporation)(SBI)技法と一般に呼ばれる技法を含むことができる。さらに、配列決定技法は、ポロニー配列決定技法;ナノ細孔、導波、およびその他の単一分子検出技法;または可逆的ターミネーター技法と呼ばれるものを含むことができる。上述のように、好ましい技法は、合成による配列決定(Sequencing by Synthesis)法を含むことができる。例えば、いくつかのSBSの実施形態は、核酸鋳型の実質的に同一な複製物の集団を配列決定し、典型的には、サンプル鋳型分子またはこの鋳型分子に接続された1つもしくは複数のアダプターの所定の相補的な位置にアニールするよう設計された、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプライマーを用いる。プライマー/鋳型複合体は、核酸ポリメラーゼ酵素の存在下でヌクレオチド種と共に存在する。ヌクレオチド種が、オリゴヌクレオチドプライマーの3’末端に直接隣接するサンプル鋳型分子上の配列位置に対応する核酸種と相補的な場合、ポリメラーゼは、ヌクレオチド種を有するプライマーを伸長することになる。あるいは、いくつかの実施形態では、プライマー/鋳型複合体は、一度に、興味の対象である複数のヌクレオチド種(典型的には、A、G、C、およびT)と共に存在し、オリゴヌクレオチドプライマーの3’末端に直接隣接するサンプル鋳型分子上の、対応する配列位置に相補的なヌクレオチド種が組み込まれる。記述される実施形態のいずれかにおいて、ヌクレオチド種は、さらなる伸長が妨げられるように化学的に遮断することができ(3’−O位など)、次の合成ラウンド前に脱遮断する必要がある。新生分子の末端にヌクレオチド種を付加するプロセスは、プライマーの末端に付加するための上述の場合と実質的に同じであることも理解されよう。
【0050】
上述のように、ヌクレオチド種の組込みは、当技術分野で公知の様々な方法によって、例えば、光を生成する酵素反応プロセスを使用してピロホスフェート(PPi)の放出を検出することによって、またはPH変化の検出を介して(例は、そのそれぞれの全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,210,891号;第6,258,568号;および第6,828,100号に記載されている)、またはヌクレオチドに結合された検出可能な標識を介して、検出することができる。検出可能な標識のいくつかの例には、質量タグ、および蛍光または化学発光標識が含まれるが、これらに限定するものではない。典型的な実施形態では、組み込まれていないヌクレオチドは、例えば洗浄によって除去される。さらに、いくつかの実施形態では、そのそれぞれの全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれている2008年6月27日に出願された「System and Method for Adaptive Reagent Control in Nucleic Acid Sequencing」という名称の、US2009/0053724として公開された米国特許出願;および2009年1月29日に出願された「System and Method for Improved Signal Detection in Nucleic Acid Sequencing」という名称の、US−2009−0203086−A1として公開された米国特許出願に記載されるように、組み込まれていないヌクレオチドを、例えばアピラーゼまたはピロホスファターゼ酵素を使用した分解などの酵素的分解に供することができる。
【0051】
検出可能な標識が使用される実施形態では、この標識は、後で行われる合成サイクルの前に、典型的には不活性にしなければならなくなる(例えば、化学的切断または光退色によって)。次いで鋳型/ポリメラーゼ複合体における次の配列位置については、上述のように、別のヌクレオチド種または問題となっている複数のヌクレオチド種に関して照会することができる。ヌクレオチドの付加、伸長、シグナル獲得、および洗浄の反復サイクルの結果、鋳型鎖のヌクレオチド配列が決定される。本実施例を続けることにより、多数のまたは集団の実質的に同一な鋳型分子(例えば、10、10、10、10、または10分子)は、信頼性ある検出をするのに十分強力なシグナルを実現するために、典型的にはいずれか1つの配列決定反応で同時に分析される。
【0052】
さらに、いくつかの実施形態では、「ペアードエンド」配列決定ストラテジーと呼ばれ得るものを用いることによって、リード長の能力および配列決定プロセスの品質を改善することが有利と考えられる。例えば、配列決定法のいくつかの実施形態は、高品質の信頼性あるリードを生成することができる分子の全長に、限度がある。言い換えれば、信頼性あるリード長に関する配列位置の総数は、用いられる配列決定の実施形態に応じて25、50、100、または500塩基を超えることができない。ペアードエンド配列決定ストラテジーは、リンカー配列によって中心に接合された各末端に当初の鋳型核酸分子の断片を含む分子の各末端(場合によっては「タグ」末端と呼ばれる)を、個別に配列決定することによって、信頼性あるリード長を伸長する。鋳型断片の当初の位置関係は知られており、したがって配列リードからのデータは、より長い高品質のリード長を有する単一リードに再度組み合わせることができる。ペアードエンド配列決定の実施形態のその他の例は、「Paired end sequencing」という名称の米国特許第7,601,499号;および2009年1月28日に出願された「Paired end sequencing」という名称の、US−2009−0233291−A1として公開された米国特許出願に記載されており、これらのそれぞれは、その全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれるものである。
【0053】
SBS装置のいくつかの例は、上述の方法のいくつかまたは全てを実施することができ、電荷結合デバイス(すなわち、CCDカメラ)や共焦点型アーキテクチャなどの検出デバイス、マイクロ流体チャンバーもしくはフローセル、反応基質、および/またはポンプ、およびフローバルブの1つまたは複数を含んでいてもよい。ピロホスフェートをベースにした配列決定の例をとると、装置の実施形態は、本質的に低レベルのバックグラウンドノイズをもたらす化学発光検出ストラテジーを用いることができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、配列決定するための反応基質は、スライド型基質、イオン感受性電界効果トランジスタ(「ISFET」とも呼ばれる)、またはいくつかの実施形態ではウェル型構造を含んでいてもよい導波型反応基質などの、平面基質を含むことができる。別の反応基質は、実質的に同一の鋳型分子の集団をそれぞれが保持することができる何十万以上もの非常に小さなウェルが得られるように酸食された(すなわち、いくつかの好ましい実施形態は、70×75mmのPTP(商標)アレイ上に、ウェル同士のピッチ35μmで約3.3百万ウェルを含む)光ファイバ表面プレートから形成された、上述の454 Life Sciences Corporationから入手可能なPTP(商標)アレイと呼ばれるものを含むことができる。いくつかの実施形態では、実質的に同一の鋳型分子の各集団を、ビーズなどの固体基質上に配置することができるが、そのそれぞれは、前記ウェルの1つに配置できるものである。例えば装置は、PTPプレートホルダならびにPTPプレート上の各ウェルから放出された光の光子を収集可能なCCD型検出デバイスに流体試薬を供給するための、試薬送達要素を含むことができる。改善されたシグナル認識の特徴を含む反応基質の例は、その全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれている2005年8月30日に出願された「THIN−FILM COATED MICROWELL ARRAYS AND METHODS OF MAKING SAME」という名称の、米国特許第7,682,816号に記載されている。SBS型配列決定およびピロホスフェート配列決定を行うための装置および方法のその他の例は、どちらも上記参照により組み込まれている米国特許第7,323,305号および米国特許第7,575,865号に記載されている。
【0055】
さらに、上述のemPCR(商標)プロセスなど、1つまたは複数のサンプル調製プロセスを自動化するシステムおよび方法を用いてもよい。例えば、自動化システムは、emPCR処理用にエマルジョンを生成し、PCR熱サイクル操作を行い、配列決定用に首尾良く調製された核酸分子集団を豊富にするための、効率的な解決策を提供するのに用いることができる。自動化サンプル調製システムの例は、その全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれている2005年1月28日に出願された「Nucleic acid amplification with continuous flow emulsion」という名称の、US−2005−0227264−A1として公開された米国特許出願に記載されている。
【0056】
また、目下記述される本発明の実施形態のシステムおよび方法は、コンピュータシステム上で実行するために格納されたコンピュータ可読媒体を使用した、何らかの設計、分析、またはその他の操作の実施を含むことができる。例えばいくつかの実施形態は、処理および分析の実施形態がコンピュータシステム上で実施可能であるSBSシステムおよび方法を使用して、検出されたシグナルを処理しかつ/または作成されたデータを分析することが、以下に詳述される。
【0057】
目下記述される本発明と共に使用されるコンピュータシステムの例示的な実施形態は、ワークステーション、パーソナルコンピュータ、サーバ、または任意のその他の現在または将来のコンピュータなど、任意のタイプのコンピュータプラットフォームを含むことができる。しかし当業者なら、本明細書に記述される前述のコンピュータプラットフォームは、記述される本発明の特殊な操作を行うように特に構成されており、汎用コンピュータとは見なされないことが理解されよう。コンピュータは、典型的には、プロセッサ、オペレーティングシステム、システムメモリ、メモリ記憶デバイス、入出力コントローラ、入出力デバイス、およびディスプレーデバイスなどの公知の構成要素を含む。また当業者なら、コンピュータの、多くの可能性ある構成および構成要素があり、キャッシュメモリ、データバックアップユニット、および多くのその他のデバイスを含んでいてもよいことが理解されよう。
【0058】
ディスプレーデバイスは、視覚情報を提供するディスプレーデバイスを含んでいてもよく、この情報は、典型的には、画素アレイとして論理的にかつ/または物理的に組織化することができる。入出力インターフェースを提供する様々な公知のまたは将来のソフトウェアプログラムのいずれかを含んでいてもよい、インターフェースコントローラを含めることもできる。例えばインターフェースは、ユーザに1つまたは複数のグラフィック描写を提供する「グラフィカル・ユーザ・インターフェース」(しばしば、GUIと呼ばれる)と一般に呼ばれるものを含むことができる。インターフェースは、典型的には、当業者に公知の選択または入力の手段を使用して、ユーザ入力を受け取ることが可能である。
【0059】
同じまたは代替の実施形態において、コンピュータ上のアプリケーションは、「コマンドライン・インターフェース」(しばしば、CLIと呼ばれる)と呼ばれるものを含むインターフェースを用いることができる。CLIは、典型的には、アプリケーションとユーザとの間でテキストベースの対話を提供する。典型的には、コマンドライン・インターフェースは、ディスプレーデバイスを通して、テキスト行として出力を提示し入力を受信する。例えば、いくつかの実装例は、当業者に公知のユニックスシェル、またはMicrosoft.NETフレームワークなどのオブジェクト指向型プログラミングアーキテクチャを用いるマイクロソフト・ウィンドウズ・パワーシェルなど、「シェル」と呼ばれるものを含むことができる。
【0060】
当業者なら、インターフェースが1つまたは複数のGUI、CLI、またはこれらの組合せを含んでいてもよいことが、理解されよう。
プロセッサは、Intel Corporation製のCeleron(登録商標)、Core(商標)、またはPentium(登録商標)プロセッサ、Sun Microsystems製のSPARC(登録商標)プロセッサ、AMD corporation製のAthlon(商標)、Sempron(商標)、Phenom(商標)、またはOpteron(商標)プロセッサなどの市販のプロセッサを含むことができ、または入手可能でありもしくは入手可能になるその他のプロセッサの1つであってもよい。プロセッサのいくつかの実施形態は、マルチコアプロセッサと呼ばれるものを含むことができ、かつ/またはシングルもしくはマルチコア構成で並列処理技術を用いることが可能である。例えばマルチコア・アーキテクチャは、典型的には、2つ以上のプロセッサ「実行コア」を含む。本実施例では、各実行コアは、マルチプルスレッドの並列実行が可能な独立プロセッサとして実施することができる。さらに当業者なら、プロセッサは、32もしくは64ビットアーキテクチャと一般に呼ばれるもの、または現在公知のもしくは将来開発することができるその他のアーキテクチャ構成に構成できることが理解されよう。
【0061】
プロセッサは、例えばMicrosoft Corporation製のWindows(登録商標)型オペレーティングシステム(Windows(登録商標)XP、Windows Vista(登録商標)、またはWindows(登録商標)_7など);Apple Computer Corp.製のMac OS Xオペレーティングシステム(Mac OS X v10.6「Snow Leopard」オペレーティングシステムなど);多くのベンダーまたはいわゆるオープンソースから入手可能なUnix(登録商標)またはLinux型オペレーティングシステム;別のまたは将来のオペレーティングシステム;またはこれらのいくつかの組合せであり得るオペレーティングシステムを典型的には実行する。オペレーティングシステムは、周知の手法でファームウェアおよびハードウェアとインターフェースをとり、プロセッサが、様々なプログラミング言語で書くことができる様々なコンピュータプログラムの機能を調整し実行するのを容易にする。典型的にはプロセッサと協働するオペレーティングシステムは、コンピュータのその他の構成要素の機能を調整し実行する。オペレーティングシステムは、全て公知の技法によるスケジューリング、入出力制御、ファイルおよびデータ管理、メモリ管理、および通信制御、および関連するサービスも提供する。
【0062】
システムメモリは、様々な公知のまたは将来のメモリ記憶デバイスのいずれかを含むことができる。その例には、任意の一般に入手可能なランダム・アクセス・メモリ(RAM)、常駐ハードディスクやテープなどの磁気媒体、読み書き用コンパクトディスクなどの光学媒体、またはその他のメモリ記憶デバイスが含まれる。メモリ記憶デバイスは、コンパクトディスク・ドライブ、テープドライブ、リムーバブル・ハードディスクドライブ、USB、またはフラッシュドライブ、またはディスケットドライブを含む様々な公知のまたは将来のデバイスのいずれかを含むことができる。そのようなタイプのメモリ記憶デバイスは、典型的には、それぞれコンパクトディスク、磁気テープ、リムーバブル・ハードディスク、USB、またはフラッシュドライブ、またはフロッピーディスケットなどのプログラム記憶媒体(図示せず)から読み取りかつ/またはこの媒体に書き込む。これらのプログラム記憶媒体、または現在使用されておりもしくは後で開発することができるその他の媒体のいずれも、コンピュータ・プログラム・プロダクトと見なすことができる。理解されるように、これらのプログラム記憶媒体は、典型的にはコンピュータソフトウェアプログラムおよび/またはデータを記憶する。コンピュータ制御ロジックとも呼ばれるコンピュータソフトウェアプログラムは、典型的には、システムメモリおよび/またはメモリ記憶デバイスと連動して使用されるプログラム記憶デバイスに記憶される。
【0063】
いくつかの実施形態では、内部に制御ロジック(プログラムコードを含むコンピュータソフトウェアプログラム)が記憶されている、コンピュータが使用可能な媒体を含むコンピュータ・プログラム・プロダクトが記述される。制御ロジックは、プロセッサにより実行される場合、本明細書に記述される機能をプロセッサに実施させる。その他の実施形態では、いくつかの機能は、例えばハードウェア・ステート・マシンを使用して、主にハードウェアで実施される。本明細書に記述される機能を実施するようなハードウェア・ステート・マシンの実装例は、当業者に明らかにされよう。
【0064】
入出力コントローラは、人であろうとマシンであろうと、またローカルであろうとリモートであろうと、ユーザからの情報を受け取りかつ処理するための様々な公知のデバイスのいずれかを含むことができる。そのようなデバイスは、例えば、モデムカード、ワイヤレスカード、ネットワーク・インターフェース・カード、サウンドカード、また様々な公知の入力デバイスのいずれかのためのその他のタイプのコントローラを含む。出力コントローラは、人であろうとマシンであろうと、またローカルであろうとリモートであろうと、ユーザに情報を提示するための様々な公知のディスプレーデバイスのいずれかのためのコントローラを含むことができる。目下記述される実施形態において、コンピュータの機能的要素は、システムバスを介して互いに通信する。コンピュータのいくつかの実施形態は、ネットワークまたはその他のタイプの遠隔通信を使用して、いくつかの機能的要素と通信することができる。
【0065】
当業者に明らかにされるように、機器制御および/またはデータ処理アプリケーションは、ソフトウェアで実施された場合、システムメモリおよび/またはメモリ記憶デバイスにロードされ、そこから実行することができる。機器制御および/またはデータ処理アプリケーションの全てまたは一部は、メモリ記憶デバイスのリード・オンリー・メモリまたは同様のデバイス内に常駐していてもよく、そのようなデバイスは、機器制御および/またはデータ処理アプリケーションが入出力コントローラを通して最初にロードされることを必要としないものである。機器制御および/またはデータ処理アプリケーション、またはその一部は、実行するのに有利なように、公知の手法でプロセッサによってシステムメモリに、またはキャッシュメモリに、またはその両方にロードしてもよいことが、当業者に理解されよう。
【0066】
またコンピュータは、システムメモリに記憶された1つまたは複数のライブラリーファイル、実験データファイル、およびインターネットクライアントを含むこともできる。例えば実験データは、検出されたシグナル値、または1つもしくは複数のSBS実験もしくはプロセスに関連したその他の値など、1つまたは複数の実験またはアッセイに関するデータを含むことができる。さらに、インターネットクライアントは、ネットワークを使用して、別のコンピュータでのリモートサービスにアクセス可能なアプリケーションを含むことができ、例えば、「ウェブブラウザ」と一般に呼ばれるものを含むことができる。本実施例において、いくつかの一般に用いられるウェブブラウザは、Microsoft Corporationから入手可能なMicrosoft(登録商標)Internet Explorer 8、Mozilla Corporation製のMozilla Firefox(登録商標)3.6、Apple Computer Corp.製のSafari 4、Google(商標)Corporation製のGoogle Chrome、または当技術分野で現在公知でありまたは将来開発されるその他のタイプのウェブブラウザを含む。また、同じまたはその他の実施形態では、インターネットクライアントは、生物学的適用例のためのデータ処理アプリケーションなど、ネットワークを介して遠隔情報にアクセス可能な専用ソフトウェアアプリケーションを含むことができまたはそのアプリケーションの要素にすることができる。
【0067】
ネットワークは、当業者に周知の多くの様々なタイプのネットワークの1つまたは複数を含むことができる。例えばネットワークは、通信するためのTCP/IPプロトコル群と一般に呼ばれているものを用いるローカルエリアまたは広域ネットワークを含むことができる。ネットワークは、インターネットと一般に呼ばれる相互接続されたコンピュータネットワークの世界的なシステムを含み、または様々なイントラネットアーキテクチャを含むこともできる、ネットワークを含んでいてもよい。当業者なら、ネットワーク化された環境にある一部のユーザは、ハードウェアおよび/またはソフトウェアシステムへのかつこのシステムからの情報トラフィックを制御するために、「ファイヤウォール」(場合によって、パケットフィルタ、またはボーダー・プロテクション・デバイスとも呼ばれる)と一般に呼ばれるものを用いることを好む可能性があることも理解されよう。例えばファイヤウォールは、ハードウェアもしくはソフトウェア要素、またはこれらのいくつかの組合せを含むことができ、例えばネットワーク管理などのユーザによって所定位置に導入されたセキュリティポリシーを強化するように、典型的には設計される。
【0068】
b.目下記述される本発明の実施形態
上述のように、記述される本発明の実施形態は、内部に含有される生物学的産物が安全にかつ効率的に抽出されるよう、エマルジョンを処理するための、改善されたシステム、方法、およびキットを対象とする。記述される実施形態は、「塩析」効果と呼ばれるものを通して、イソプロパノールまたはその他の有機溶媒を使用して破壊されたエマルジョン系から、水性相(または非水性相)を回収するのに適用することができる。記述される実施形態は、非常に効率的であり、生物学的完全性を維持し、かつ自動化/ロボット型プラットフォームにより実行するのに適しているので、伝統的な方法に勝る実質的な処理の改善を提供することが理解されよう。
【0069】
典型的な配列決定の実施形態では、1つまたは複数の機器要素を用いて、1つまたは複数のプロセスステップを実行することができる。例えば、配列決定法の実施形態は、いくつかまたは全てのプロセスステップを自動化し実施するための機器を使用して、実施することができる。図1は、光シグナルの獲得を必要とする配列決定プロセスのため、反応基質105上で生じる配列決定反応およびデータ獲得を実行するための光学サブシステムおよび流体サブシステムを典型的には含む、配列決定機器100の例示的な実施例を提供する。しかし、その他のデータ獲得モード(すなわち、PH、温度、電気化学など)を必要とする配列決定プロセスでは、当業者に公知のデータ獲得モード用のサブシステムを用いることができることが理解されよう。配列決定プロセスを実行するのに用いられる配列決定機器100の実施形態は、いくつかの機能のローカル制御用のマイクロプロセッサおよび/またはマイクロコントローラの構成要素など、図1に示されていない様々な追加の構成要素をさらに含むことができる。
【0070】
いくつかの実施形態では、サンプルは、機器100を使用して配列決定するために、必要な調製のいくつかまたは全てを行うよう構成されたサンプル調製機器180を使用して、自動化されまたは部分的に自動化された手法で配列決定するために、任意選択で調製することができる。サンプル調製機器の例は、Hamilton Robotics、Beckman Coulter、またはCaliper Life Sciencesから入手可能なものなどの、ロボットプラットフォームを含むことができる。さらに、図1に示されるように、配列決定機器100は、例えば、配列決定機器100またはサンプル調製機器180および/またはデータ分析機能などの機器の1つまたは複数の機器制御を行うことができるアプリケーション135などのシステムソフトウェアまたはファームウェアを実行することができるコンピュータ130など、1つまたは複数の外部コンピュータの構成要素に、操作可能に連結されていてもよい。コンピュータ130はさらに、機器システムの遠隔操作と、記憶および処理が可能なシステムへの大量のデータのエクスポートとを可能にすることができるネットワーク150を介して、その他のコンピュータまたはサーバに操作可能に接続することができる。本実施例では、配列決定機器100および/またはコンピュータ130は、概略的に既に記述された実施形態の構成要素および特徴のいくつかまたは全てを含むことができる。
【0071】
生体材料を含有するエマルジョンを破壊するための伝統的な方法は、一般に、イソプロパノールまたはその他の無毒性溶媒の使用を用いて、生物学的に適合可能な油に乳化した水性液滴の完全性を損ない、したがって各液滴中の内容物を溶液中に放出し、このプロセスを典型的にはエマルジョン「破壊」と呼ぶ。生体材料が何らかの方法で隔離されない場合(すなわち、基質への取着または隔離のその他の手段によって)、体積全体を通して全ての生体材料が混合される結果になることが理解されよう。したがって好ましい実施形態では、生体材料は、放出される前に液滴内で基質に隔離され、次いでビーズ基質などの基質を、エマルジョンの成分から分離することができるが、この基質はさらなる使用(すなわち、油、界面活性剤など)に必要ではないか、またはそのような使用に有害なものである。記述される伝統的な実施形態では、エマルジョンからビーズを抽出するのに、高速遠心分離が一般に適用されている。典型的には、このステップは、油および界面活性剤の材料がビーズから切り離されるように、数回繰り返す必要があり、その後、緩衝液で濯ぎ、さらに遠心分離ステップを行って、溶媒を除去する。したがって、伝統的な方法は非常に時間がかかり、遠心分離ステップの要件が、低コストの実験室用自動化プラットフォームを用いる能力に制限を課すことが理解されよう。
【0072】
記述される本発明の実施形態は、当業者に塩析効果と呼ばれるものによって水性相から溶媒を抽出するために、イソプロパノールまたは同様に有効な溶媒で破壊した後に水性相が油相から分離されるよう、容易で迅速なかつ費用効果のある手段を提供する。その結果、核酸結合基質の効率的な単離を可能にする完全な相分離が得られる。例えば、本発明のいくつかの実施形態は、相分離ステップ後に水性相中に優先的に残る親水性ビーズを用い、このビーズはフィルタチューブおよび真空ポンプ装置で回収することができるものである。本実施例では、市販のプラットフォームを使用する実験室の自動化が、実現可能になる。
【0073】
水性溶液からイソプロパノールを塩析するプロセスは、イソプロパノールを分離し濃縮する一方法として一般に受け入れられることが、当業者に理解される。その例は、その全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれるZhigangら、J.Chemical Technology & Biotechnology 76(2001)757〜763に記載されている。しかし、記述される本発明で用いられる塩析プロセスは、生体材料を回収する目的で水性相から溶媒、界面活性剤、および油を強制的に分離するのに用いられる点が、従来技術の方法とは異なる。例えば、生物学的処理ステップがエマルジョンにおいて終了したら、イソプロパノールまたはその他の適合可能な溶媒を添加して、液滴を破壊しかつ生体材料を放出させる。本実施例では、破壊されたエマルジョン混合物に無機塩が添加され、油と水性相との分離がもたらされる。いくつかの実施形態では、顆粒状無機塩を用いることができるが、代替の実施形態では、溶液相中にある(すなわち、水に溶解している)塩を添加することが好ましいと考えられ、そのような添加により、破壊されたエマルジョン混合物内での塩の拡散が改善されかつ相分離の速度が速くなる。溶液全体に塩を完全に分布させるため、塩の添加後に、渦流撹拌または振盪などによって溶液を機械的に混合することも一般に望ましい。記述される実施形態では、イソプロパノールやエタノールなど、様々な生物学的に適合可能な溶媒を用いることができる。さらに、少なくとも一部には使用される溶媒のタイプに応じて、任意のタイプの無機塩が効果的であり、その塩にはNaCl、KCl、LiCl、NaSO、炭酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを含むがこれらに限定するものではない。
【0074】
破壊されたエマルジョン混合物に無機塩を添加した場合、上記の実施例を継続することにより、水分子は塩イオンに引き付けられ、したがって溶媒と相互作用することがそれほど可能ではなく、その結果、水性/塩(すなわち、水性相)から溶媒および油/界面活性剤(すなわち、油相)を明確に区別される状態で分離する。好ましい実施形態では、親水性ビーズは、このビーズの表面特性により水性相中に存在する。水性相の密度は油相の密度よりも低く、したがって水性相が上層として得られ、油相が下層として得られることに留意することが重要である。さらに、多くの実施形態におけるビーズの密度は、典型的には水性相よりも高くかつ油相よりも低く、したがって相分離後は、ビーズは一般に、上層と下層との間の相界面にまたは相界面付近に位置決めされ、そこでは後で行われるビーズの回収が比較的容易になされる。いくつかの実施形態では、真空ポンプおよびフィルタチューブを使用して水性相を除去し、かつ流体を通過させることが可能なフィルタ要素にビーズを捕捉することができるが、これは、Beckman Coulter,Inc.から入手可能なBiomek(登録商標)FX実験室自動化ワークステーション、Caliper Life Sciencesから入手可能なSciclone ALH 3000液体処理ワークステーション、またはその他の適合可能な実験室用自動化プラットフォームを含めた市販されているロボットプラットフォームなどの、自動化処理プラットフォームで実施することができる。また、水性相の完全な回収があるので、ビーズおよび価値ある生物資源を失う機会は小さい。
【0075】
いくつかの実施形態では、水性相の抽出を改善する追加のステップを付加してもよい。例えば、水性相と油相との分離後、第3相の層を、第1の水性相と第2の油相との間に導入して、追加の相「ギャップ」を生成するようにすることができる。重要なことは、「ギャップ」相を生成するよう導入された材料は、これらの相の間で明確に区別された分離が得られるように、水性相または油相のいずれかと混合するのに不適合であるべきである。本実施例では、塩析プロセスによって水性相と油相とが分離された後、ある体積の高粘度シリコーン油を、ピペット分取など当技術分野で公知の方法を使用して、水性相と非水性相との間にゆっくり導入することができる。これより、水性相中のビーズが油相からさらに分離され、ビーズのより容易な抽出がもたらされて、ギャップ相の一部を、その殆どがフィルタ要素を容易に通過するビーズと共に無難に回収することができる。ギャップ相を形成するよう導入された材料の体積は、容器の容積に対する所望のギャップのサイズまたは程度に依存する可能性がある。いくつかの実施形態では、ギャップ相として導入される油の組成は、エマルジョンを生成するのに使用される油と同じであってもよく、これは生物学的に適合可能でありかつ典型的には利用可能な濾過装置との使用に適していることが知られているものであるが、エマルジョン油相(すなわち、溶媒および界面活性剤)中の追加の成分により油相とギャップ相との間で密度の差が依然存在しており、したがって第3のギャップ相と第2の油相との間の混合が阻害されるものである。同様に、第1の水性相と第3のギャップ相との間の混合は、密度の差により阻害され、典型的にはビーズ基質は水性相中に残る。いくつかの実施形態では、回収された核酸結合基質をさらに濯いで、望ましくない残留成分を全て除去することも望ましいと考えられる。例えば、ギャップ相を使用する場合、回収された基質を緩衝溶液で濯いで、残留油を全て除去することが望ましいと考えられる。いくつかの実施形態では、残留油および/またはその他の残留成分の除去を助けるために、緩衝液と界面活性剤(エマルジョンで使用されるタイプの界面活性剤など)とを組み合わせることも望ましいと考えられる。
【0076】
例えば図2は、塩析プロセスを使用して核酸ビーズをエマルジョンから抽出するための方法の、例示的な実施例を提供する。ステップ210に示されるように、単一鋳型分子から増幅された核酸分子の固定化集団を有する親水性ビーズを含有している個々の液滴を含むPCR後エマルジョンは、約1:1の体積比でイソプロパノールと完全に混合される。エマルジョンの大多数の水性液滴が破壊された後、5M NaClなどのある体積の無機塩溶液を添加し、ステップ230に示されるように全体積を混合し、相分離プロセスが引き起こされる間そのままにする(約5分)。必要な無機塩溶液の濃度および/または体積は、破壊されたエマルジョン成分の体積に応じて様々に変えることができ、組み合わせた混合物中の無機塩の最終濃度は、完全相分離(すなわち、水性相が「乳状」の外観を持たない)により示される重要な因子である。ステップ250は、分離した水性相と油相とに20cst(cstまたはセンチストークは、動粘度の尺度である)のシリコーン油を低速導入して、水性相と油相との間に所望の距離のギャップ相を生成するという任意選択のステップを示す。次にステップ270に示すように、全水性相および場合によってはギャップ相の一部の抽出を行う。次いで生体材料は、抽出された水性溶液が希釈されるように脱イオン水(DIとも呼ばれる)添加することによって、かつ真空ポンプを使用して5μmフィルタでビーズ基質を捕捉することによって、ステップ290に示されるように収集することができる。
【実施例1】
【0077】
塩析効果を通したエマルジョン破壊および溶媒除去
濃縮:(対照:伝統的な遠心分離プロトコル;新:塩析プロトコル)
塩析プロトコルで回収されたビーズは、伝統的なプロトコルで回収されたビーズと十分同等にまたはそれよりも良好に濃縮された。
【0078】
【表1】

【0079】
濃縮率は、emPCRプロセスに添加されたビーズの総数 対 増幅核酸産物と共に回収されたビーズの数を指す
回収されたビーズからの増幅核酸集団の配列決定:
塩析プロトコルおよび伝統的なプロトコルで回収されたビーズは、同等の配列決定結果を示す
【0080】
【表2】

【0081】
サンプル1および4は対照(control)であり、サンプル2、3、5、および6は新(new)であるが、これらは既知の配列組成の断片を使用したものであり、既知の組成物と比較したサンプルから決定された配列組成の少なくとも≧95%および≧98%の精度で実証されるように、新サンプルは、対照サンプルと同等の配列決定精度であることを実証している。
【0082】
様々な実施形態および実装例について述べてきたが、前述の内容は単なる例示であって限定するものではなく、単なる例示として示されていることが、当業者に明らかにされるべきである。例示される実施形態の様々な機能的要素の間で機能を分布させるための多くのその他のスキームが可能である。任意の要素の機能は、代替の実施形態で様々な方法により実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)組み合わされた水性−油混合物を生成するために、溶媒を使用して、油の連続相内に複数の水性液滴を含むエマルジョンを破壊するステップであって、前記溶媒は、水性液滴を破裂させることによって、組み合わされた水性−油混合物中に、基質にそれぞれ固定された複数の生物学的要素を放出するものであるステップと;
b)組み合わされた水性−油混合物に無機塩を導入して、水性溶液および生物学的要素を含む第1の相と溶媒および油を含む第2の相とに、混合物の相分離を引き起こさせるステップと;
c)前記第1の相を前記第2の相から抽出するステップと;
d)前記第1の相から、基質固定化生物学的要素を収集するステップと
を含む、エマルジョンから生体材料を抽出するための方法。
【請求項2】
前記溶媒が、イソプロパノールおよびエタノールからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物学的要素が、ビーズ基質に固定化される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ビーズ基質が親水性である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記生物学的要素が核酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
複数の基質がそれぞれ、水性液滴の1つ中で1種の核酸から増幅された核酸の集団を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
e)複数の核酸の配列決定をするステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記無機塩が、NaCl、KCl、LiCl、NaSO、炭酸カリウム、および硫酸アンモニウムからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記無機塩が、顆粒状形態で導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記無機塩が、溶液形態で導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップb)が、無機塩と、組み合わされた水性−油混合物とを混合するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ギャップ相が生成されるように、第1の相と第2の相との間に材料を導入するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記材料が油を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記油がシリコーン油を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記基質固定化生物学的要素が、フィルタ要素を使用して収集される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
エマルジョンから生体材料を回収するためのシステムであって、請求項1に記載の方法を実施するための実験室用自動化プラットフォームを含むシステム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−507108(P2013−507108A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532493(P2012−532493)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006140
【国際公開番号】WO2011/042189
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Linux
2.フロッピー
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】