説明

エラストマーと不規則な粒子形状の高分子量ポリエチレンを含む組成物、それらの製造方法及びそれらの使用

【課題】エラストマーと不規則な粒子形状の超高分子量ポリエチレンを含む組成物、それらの製造方法及びそれらの使用を提供する。
【解決手段】高分子量及び/又は超高分子量ポリエチレンの不規則な形状の粒子の、少なくとも1つの他の相を有する、少なくとも1種類のエラストマー・マトリックスを含む組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の形状を有するポリエチレン粒子を含み、特有のレオロジーを有する多相エラストマー組成物に関する。これらの組成物は多くの産業分野において、例えば、ゴム膜、ダンパー、ガスケット又はコンベヤー・ベルトとして用いることができる。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレン(以下ではUHMWPEとも呼ばれる)の優れた耐磨耗性と摩擦性能は、ゴム混合物中へのそれらの使用を生じている。US−A−6,187,420は、例えばUHMWPE又は低密度ポリエチレン若しくはポリプロピレンのような結晶性ポリオレフィンと、ジエンゴムを含む衝撃吸収性エラストマー混合物を開示している。US−A−4,735,982は、加硫ゴム、UHMWPE及び耐磨耗性滑剤を含む熱可塑性ゴム混合物を開示している。さらに、US−A−6,202,726は、特定の構造(selected geometry)を有し、ゴム及びUHMWPEから作製された成分を含む空気入りタイヤを述べている。
【0003】
高分子量ポリエチレン(以下ではHMWPEとも呼ばれる)と超高分子量ポリエチレンの、従来のプラスチック加工方法を用いた工作(working)又は加工が困難であること、及びこの物質の粒子が種々な形状をとりうることも知られている。例えば、従来のUHMWPE粉末は規則的な形態を有する、即ち、これらの粉末は大体コンパクトな球状によって表されうる。規則的な形態又は実際に球状の形態を有する、この種類の1つの代表的なものはMPC(Mitsui Petrochemicals)からの製品Mipelon220である。
【0004】
ゴムと、HMWPE又はUHMWPEとの、これまでに開示された組み合わせの全ては、規則的な形態を有するHMWPE又はUHMWPEの粒子を用いている。
【0005】
その形状が不規則な構造を有する粒子の形状である高分子量及び超高分子量ポリエチレンも知られている。これらの製品は低いかさ密度を有し、通常は多孔質である。この種類のUHMWPE粒子の例はWO−A−00/18,810に述べられている。
【0006】
エラストマーと、不規則な形状を有する高分子量及び/又は超高分子量ポリエチレンの粒子を含む多相組成物が、例えば高レベルのtanδに表される改良されたエネルギー散逸性能(energy dissipation performance)のような、多くの優れた性質を有することが現在判明している。さらに、HMWPE及び/又はUHMWPEの使用が、知られているように、単にゴム/UHMWPE混合物の耐磨耗性及び摩擦性能を改良するだけでなく、意外にも、引裂き伝播抵抗(tear propagation resistance)をも改良することが判明している。この性質(behavior)は特に、不規則な形態を有する粉末の場合に見出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、良好なレオロジー(高レベルのtanδ)と非常に顕著な引裂き伝播抵抗を有する組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高分子量及び/又は超高分子量ポリエチレンの不規則な形状の粒子の少なくとも1つの他の相を有する、少なくとも1種類のエラストマー・マトリックスを含む組成物に関する。不規則な粒子形状はポリエチレン粉末の極度に低いかさ密度と、対応して大きい比表面積とによって表されうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】特定化合物に関する剪断弾性率及び損失角(tanδ)の温度依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この明細書のために、“エラストマー”なる用語は、エラストマー性質(elastomeric behavior)を有する、好ましくは使用温度未満のガラス転移温度を有するポリマーを意味する。
好ましいエラストマーの例は、アクリレートゴム(ACM)、ポリエステル−ウレタンゴム(AU)、臭素化ブチルゴム(BIIR)、ポリブタジエン(BR)、塩素化ブチルゴム(CIIR)、塩素化ポリエチレン(CM)、エピクロロヒドリンホモポリマー(CO)、ポリクロロプレン(CR)、硫化ポリエチレン(CSM)、エチレン−アクリレートゴム(EAM)、エピクロロヒドリンコポリマー(ECO)、硫黄架橋した若しくはペルオキシド架橋したエチレン−プロピレンコポリマー(EPDM/S、EPDM/P及びEPM/P)、ポリエーテル−ウレタンゴム(EU)、エチレン−酢酸ビニルコポリマー(EVM)、フッ素化ゴム(FKM)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ブチルゴム(IIR)、ビニル含有ジメチルポリシロキサン(VMQ)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR、IR)、チオプラスチック(OT)、ポリフルオロホスファゼン(PNF)、ポリノルボルネン(PNR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシ基含有ニトリルゴム(X−NBR)である。
【0011】
天然ゴム、EPDM、SBR及びNBRの使用が実際に特に好ましい。
高分子量ポリエチレンなる用語は、粘度測定法によって測定されるそのモル質量が少なくとも3x105g/mol、特に3x105〜1x106g/molであるポリエチレンに対して用いられる。超高分子量ポリエチレンは、粘度測定法によって測定されるそのモル質量が少なくとも1x106g/mol、特に2.5x106〜1x107g/molであるポリエチレンであると理解される。粘度測定法によって分子量を測定する方法は、例えばCZ-Chemische Technik, 4 (1974), 129頁に説明されている。
【0012】
高分子量ポリエチレン、特に超高分子量ポリエチレンの好ましい例は、非常に多様な形態、好ましくは粉末の形態の線状ポリエチレンである。
これまでに知られているUHMWPEエラストマー用途の全ては、規則的形態を有するUHMWPEを用いている。規則的又は実際に球状の形態を有する製品(Mipelon)は商業的に入手可能であり、特に添加剤として用いられる。
【0013】
規則的又は実際に球状の形態を有する粒子の他に、特定の不規則な形態を有するHMWPE及びUHMWPE粒子も知られている。これらの粒子を含む製品は0.35g/cm3未満、好ましくは0.01〜0.32g/cm3、特に0.10〜0.30g/cm3、極めて特に好ましくは0.15〜0.28g/cm3の低いかさ密度を有し、一般に多孔質構造を有する。
【0014】
本発明によって用いる高分子量又は超高分子量ポリオレフィンは通常、1〜600μm、好ましくは20〜300μm、特に30〜200μmのメジアン粒度D50を有する。
【0015】
本発明によって用いる高分子量又は超高分子量ポリオレフィンの製造は、例えばWO−A−00/18,810又はDE−A−1,595,666に述べられている。
【0016】
本発明の組成物は、エラストマーブレンド・テクノロジーに通常用いられる他の添加剤を含むことができる。
本発明の組成物は、それ自体慣用的である方法によって製造することができる。
【0017】
本発明はまた、上記で定義した組成物の製造方法であって、(a)高分子量及び/又は超高分子量ポリエチレンをエラストマー中に、適当な場合には、他の慣用的なエラストマー添加剤と共に混入する工程と、(b)得られた混合物をそれ自体知られた方法で加硫する工程とを包含する前記方法を提供する。
【0018】
ブレンド中の不規則な形状の粒子の濃度は通常1〜50phr(ゴム100部当りの部数)、好ましくは5〜30phr、特に5〜20phrである。
不規則な形状の粒子とエラストマーとは二相ブレンドを形成し、不規則な形状の粒子は分散相中に存在する。本発明の組成物は高い粘度と靭性を有し、これらがブレンドに改良された引裂き伝播抵抗を与える。
【0019】
本発明の組成物は多くの産業分野において用いられることができる。好ましい用途分野は膜、ガスケット、ダンパー又はコンベヤー・ベルトとしての使用である。
【0020】
これらの使用も同様に本発明によって提供される。
【実施例】
【0021】
改良されたレオロジー、さらに、改良された引裂き伝播抵抗は以下の実施例において、本発明を限定することなく、例証される。製造される混合物はHMWPE若しくはUHMWPE/EPDM、又はHMWPE若しくはUHMWPE/NBR、又はHMWPE若しくはUHMWPE/SBRの混合物であった。これらの混合物は多方面に役立つゴム混合物中のHMWPE又はUHMWPEの使用を代表するように意図される。本発明の組成物の有利な性質はHMWPE又はUHMWPE/SBRの混合物に関して実証される。用いたHMWPEとUHMWPEはTicona GmbHからのGUR等級であった。
【0022】
EPDM混合物の製造−混合プロセス
Werner & Pfleiderer GK1,5E実験室密閉式ミキサーにおいて、混合物を2段階で製造した(段階1:ベース混合物;段階2:混合物の他の成分の混入)。
【0023】
混合パラメーター(段階1)
【0024】
【表1】

【0025】
混合パラメーター(段階2)
70℃の開始温度と、80〜100rpmの回転翼回転速度を用いて、ベース混合物を約130〜140℃の温度に加熱した。これらの温度に達したときに初めて、ラムが沈降した(ram settled)、即ち、混合物が塑性になり、そのため加工可能になった。次に、回転翼回転速度を60rpmに下げて、硫黄/促進剤(accelerator)を45秒間にわたって混入した。混合物の取り出し時の温度は、GUR等級とGUR濃度とに依存して、約110〜130℃であった。ニーダー充填レベルは65%であった。
【0026】
SBR及び/又はNBRの混合物の製造、混合プロセス
Werner & Pfleiderer GK1,5E実験室密閉式ミキサーにおいて、混合物を製造した。次に、実験室ロールミル上で硫黄と加硫促進剤とを混合した。
【0027】
密閉式ミキサーの混合パラメーター
【0028】
【表2】

【0029】
ロールミルの混合パラメーター
【0030】
【表3】

【0031】
加硫
混合物を160℃(SBR及びNBR)又は170℃(EPDM)において加硫した。加硫時間は供試体厚さの1mmにつきt90+1分間であった。
【0032】
EPDM混合の詳細
65 Shore A標準混合物を、ニトロソアミンを含まないように調整した促進剤系と共に用いた。
【0033】
【表4】

【0034】
SBR混合の詳細
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
NBR混合の詳細
【0038】
【表7】

【0039】
実施例1:SBR/GUR混合物の引裂き伝播抵抗
不規則的形態を有するGUR等級と規則的形態を有するGUR等級とを上記ブレンドに用いた。生成物はメジアン粒度と分子量においても異なった。混合物の全てに対してDIN53507Aに関する引裂き伝播抵抗を測定した。
【0040】
下記表は粒子の性質と、さらに試験結果をもリストする。
【0041】
【表8】

【0042】
不規則的GUR等級の場合の静的引裂き伝播抵抗の増加は、引裂きがGUR粒子に遭遇すると、応力が分割されるので、応力の散逸によって説明することができる。次には、引裂き伝播抵抗増加の効果が不規則的GUR等級の場合に最も顕著に見られる。これは恐らく、これらの生成物の大きい粒子体積の結果であると思われる。
【0043】
実施例2:30μm(ミドル粒度)を有するSBR/GUR混合物における改良されたエネルギー散逸
種々なGUR形態(規則的及び不規則的形状の粒子)を有するSBR/GUR混合物に対する温度の関数として、周波数1Hz及び0.5%歪みにおける動的剪断弾性率の測定を行なった。図1は、特定化合物に関する剪断弾性率及び損失角(loss angles)(tanδ)の温度依存性を示す。
【0044】
規則的形状のGUR粒子を用いる場合に(曲線3)、対照混合物に比べて弾性率の増加に並行した、減衰性能(damping performance)(tanδ)に対する顕著な効果は見られなかった。
【0045】
不規則的形状のGUR粒子を用いる場合には、10phr程度の低い濃度が30〜120℃の温度範囲内で、弾性率の増加に並行して、tanδの増加をもたらした(曲線1参照)。20phr加硫物のtanδ曲線の形状は、この効果が系統的であることを明確に示す(曲線2参照)。tanδの値は、濃度の倍増を表すレベルまで上昇している。この異なる性質の理由は、不規則な形態を有するGUR粉末の異なる形態と異なる圧縮性に在る。多孔質粒子構造は、ブレンド成分として用いられる不規則的形状の粒子を有するGURが動的応力下でエネルギーを吸収することを可能にし、このことは更なる、幅広いtanδ最大値に表される。異なる粒度を有する生成物は、この性質の異なるレベルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子量及び/又は超高分子量ポリエチレンの不規則な形状の粒子の少なくとも1つの他の相を有する、少なくとも1種類のエラストマー・マトリックスを含む組成物。
【請求項2】
エラストマーがアクリレートゴム(ACM)、ポリエステル−ウレタンゴム(AU)、臭素化ブチルゴム(BIIR)、ポリブタジエン(BR)、塩素化ブチルゴム(CIIR)、塩素化ポリエチレン(CM)、エピクロロヒドリンホモポリマー(CO)、ポリクロロプレン(CR)、硫化ポリエチレン(CSM)、エチレン−アクリレートゴム(EAM)、エピクロロヒドリンコポリマー(ECO)、硫黄架橋した若しくはペルオキシド架橋したエチレン−プロピレンコポリマー(EPDM/S、EPDM/P及びEPM/P)、ポリエーテル−ウレタンゴム(EU)、エチレン−酢酸ビニルコポリマー(EVM)、フッ素化ゴム(FKM)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ブチルゴム(IIR)、ビニル含有ジメチルポリシロキサン(VMQ)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR、IR)、チオプラスチック(OT)、ポリフルオロホスファゼン(PNF)、ポリノルボルネン(PNR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシ基含有ニトリルゴム(X−NBR)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
エラストマーが天然ゴム、EPDM、SBR及びNBRから成る群から選択されることを特徴とする、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
ポリエチレンが超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)であることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
多孔質構造を有し、0.35g/cm3未満のかさ密度を有する不規則な粒子を含むことを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
粒度が1〜600μm、好ましくは20〜300μm、特に30〜200μmである不規則な粒子を含むことを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
(a)高分子量及び/又は超高分子量ポリエチレンをエラストマー中に、適当な場合には、他の慣用的なエラストマー添加剤と共に混入する工程と、(b)得られた混合物をそれ自体知られた方法で加硫する工程とを包含する、請求項1記載の組成物の製造方法。
【請求項8】
膜、ガスケット、ダンパー又はコンベヤー・ベルトとしての、請求項1記載の組成物の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2010−280913(P2010−280913A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209364(P2010−209364)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【分割の表示】特願2003−61140(P2003−61140)の分割
【原出願日】平成15年3月7日(2003.3.7)
【出願人】(598029656)ティコナ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (32)
【氏名又は名称原語表記】Ticona GmbH
【Fターム(参考)】