説明

エラストマー組成物、エラストマー成形体及び放熱シート

【課題】低硬度でかつ高い熱伝導性を有するエラストマー成形体及び放熱シートを製造できるエラストマー組成物を提供する。
【解決手段】エラストマー成分と、ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップとを含有するエラストマー組成物であって、上記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの合計含有量は、上記エラストマー組成物中、30容量%以上であり、上記ピッチ系炭素繊維は、長さ150μm〜2mmの短繊維であり、上記グラファイトチップの形状は、厚み10〜150μm、幅100μm〜1mm、長さ150μm〜2mmであるエラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー組成物、エラストマー成形体及び放熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、所望の硬度、高熱伝導性、電磁波シールド性等の性能を付与する目的で各種エラストマー成形体が使用されており、例えば、放熱シートの用途に適用されている。この放熱シートは、電子部品等の発熱体とヒートシンクやヒートパイプ等の放熱体の間に設けて熱を拡散させるもので、プラズマディスプレイ、トランジスター、コンデンサー、パーソナルコンピュータ等の電気機器や電子部品に用いられるIC及びCPU等に適用することによって、発生する熱を放熱し、熱による不具合(部品の動作が不安定になる等)を防止できる。
【0003】
このような放熱シートとして、マトリックス樹脂に熱伝導性フィラーを添加したものが従来から提案され、マトリックス樹脂に熱伝導性の球状マグネシアを適宜、粒状アルミナと組み合わせた組成物からなる放熱シート、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等の熱伝導性フィラーを用いた放熱シート、酸化アルミニウムや酸化チタン等の酸化物粒子、窒化ホウ素等の窒化物粒子、炭化珪素等の炭化物粒子、銅、アルミニウム等の金属粒子を用いた熱伝導性シート等が開示されている。しかし、熱伝導率が低いため、高い放熱効果を望むことはできない。
【0004】
特許文献1には黒鉛質炭素繊維(原料:石油ピッチ等)をマトリックス樹脂中に分散させた放熱シートが開示されているが、使用される炭素繊維として平均アスペクト比が3未満で平均繊維長が10〜25μmのものや平均アスペクト比が10で平均繊維長が100μmのものが示されている。特許文献2には高分子ゲルに炭素繊維(ピッチ系)を配合した熱軟化放熱シートが開示されているが、この炭素繊維の形状は詳細に検討されていない。特許文献3にはシリコーンゴムにグラファイトを配合した放熱用シートが開示されているが、このグラファイトの形状は球状である。
【特許文献1】特開平9−283955号公報
【特許文献2】特許第3712943号公報
【特許文献3】特開平10−298433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、低硬度でかつ高い熱伝導性を有するエラストマー成形体及び放熱シートを製造できるエラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エラストマー成分と、ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップとを含有するエラストマー組成物であって、上記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの合計含有量は、上記エラストマー組成物中、30容量%以上であり、上記ピッチ系炭素繊維は、長さ150μm〜2mmの短繊維であり、上記グラファイトチップの形状は、厚み10〜150μm、幅100μm〜1mm、長さ150μm〜2mmであることを特徴とするエラストマー組成物である。
上記エラストマー成分が硬度25(JIS K6253タイプAデュローメータ)以下のゴム又は高分子ゲルであることが好ましい。
【0007】
本発明はまた、上述のエラストマー組成物から得られるエラストマー成形体であって、上記エラストマー成形体中において、上記ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップが配向していることを特徴とするエラストマー成形体である。
上記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの配向率が80%以上であることが好ましい。
【0008】
本発明はまた、上述のエラストマー組成物から得られる放熱シートであって、上記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップが、上記放熱シートのシート面に対して略垂直方向に配向していることを特徴とする放熱シートである。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明のエラストマー組成物は、エラストマー成分と、特定量のピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップとを含有する。このため、このエラストマー組成物を使用することにより、低硬度(高柔軟性)でかつ高い熱伝導性を有するエラストマー成形体を製造することができる。
【0010】
エラストマー弾性体において、低硬度(高柔軟性)と高い熱伝導性を実現するために、ピッチ系炭素短繊維(長さ150μm〜2mm)及び/又はグラファイトチップ(厚み10〜150μm、幅100μm〜1mm、長さ150μm〜2mm)の一定量をエラストマー成形体内で一定方向に配向させることによって、繊維やグラファイトチップの配向方向に高い熱伝導性を発現させることができる。よって、このエラストマー成形体を使用することにより、上記ピッチ系炭素短繊維及び/又はグラファイトチップをシート面に対して略垂直方向に配向させた良好な放熱性を有する放熱シートを製造することができる。
また、ピッチ系炭素短繊維及び/又はグラファイトチップが配合されているため、良好な導電性、電磁波シールド性を発現させることも期待できる。
【0011】
〔エラストマー組成物〕
本発明のエラストマー組成物は、エラストマー成分と、ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップを含有する。
上記エラストマー成分としては特に限定されず、例えば、硬度25(JIS K6253タイプAデュロメーター)以下のものを使用することができる。具体的には、シリコンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−α−オレフィンエラストマー、エチレン・プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、水素添加アクリロニトリルゴム等やシリコーンゲル、アクリルゲル、ウレタンゲル等の高分子ゲルを挙げることができる。なかでも、シリコーンゴム、エチレン・プロピレンゴムや高分子ゲルが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレンを除くα−オレフィンとエチレンとジエン(非共役ジエン)との共重合体からなるゴム、エチレンを除くα−オレフィンとエチレンとの共重合体からなるゴム、それらの一部ハロゲン置換物等を挙げることができる。上記エチレンを除くα−オレフィンとしては、好ましくはプロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテンである。上記ジエンとしては、通常、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン又はエチリデンノルボルネン等の非共役ジエンが適宜に用いられる。
【0013】
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーとして、具体的には、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン−ブテンコポリマー(EBM)、エチレン−オクテンコポリマー(EOM)、これらのハロゲン置換物等を挙げることができる。
【0014】
本発明で使用されるピッチ系炭素繊維は、石油ピッチ系又は石炭ピッチ系の炭素繊維で長さが150μm〜2mmの短繊維である。なかでも、メソフェーズピッチを原料として、2000〜3200℃の高温で焼成された黒鉛化性の発達したピッチ系の炭素繊維が熱伝導率を向上させる点から好ましい。ピッチ系の炭素繊維を使用することより、エラストマー成形体において高い熱伝導性を発揮させることができ、略垂直方向に炭素繊維が配向した放熱シートにおいて良好な放熱性を発現させることができる。
【0015】
上記ピッチ系炭素繊維の長さが150μm〜2mmであると、エラストマー成形体の作製時に繊維を略同一方向に良好に分散、配向させることが可能になるとともに、成形体内において配向した繊維を相手材に良好に接触させることができる。その結果、製造した放熱シートにおいて優れた放熱性を発揮させることが可能となる。炭素繊維の長さが150μm未満であると、エラストマー中への配向が困難となる。また、切断してシートを作成する場合、150μm未満にスライスすることは困難である。2mmを超えると、放熱シートとして配向させることができなくなる。また、2mmより長くなると、シートの厚さが2mmを超えることになり、性能が劣るわけではないが、実用上放熱シートとして使用することができなくなる。
【0016】
上記ピッチ系炭素繊維は、アスペクト比(平均)が10〜500であることが好ましい。これにより、低硬度でかつ高熱伝導性を有するエラストマー成形体を得ることができる。10未満であると、繊維をエラストマー中に一軸配向させるのが難しくなるおそれがあり、500を超えると、繊維のエラストマー中への分散が悪くなるおそれがある。上記アスペクト比は、15〜300であることがより好ましい。
【0017】
本発明で使用されるグラファイトチップは、天然黒鉛を原料とするナチュラルグラファイトシート、人造黒鉛を原料とする人造グラファイトシート等のグラファイトシートから得られるもので、厚み10〜150μm、幅100μm〜1mm、長さ150μm〜2mmの形状を有している。なかでも、メソフェーズ小球体と呼ばれる炭素を原料として、1600〜3000℃の高温で焼成されたグラファイトチップを使用することより、エラストマー成形体において高い熱伝導性を発揮させることができ、略垂直方向にグラファイトチップが配向した放熱シートにおいて良好な放熱性を発現させることができる。
【0018】
上記グラファイトチップが上記特定の厚み、幅及び長さを有していると、エラストマー成形体の作製時にグラファイトチップを略同一方向に良好に配向させることが可能になるとともに、成形体内において分散、配向したグラファイトチップを相手材に良好に接触させることができる。その結果、製造した放熱シートにおいて優れた放熱性を発揮させることが可能となる。
【0019】
厚みが10μm未満であると、エラストマー中での配向が困難であり、150μmを超えると、エラストマー中で形状を維持するのが困難となる。幅が100μm未満であると、エラストマー中で形状を維持するのが困難となり、1mmを超えると、エラストマー中での分散が不均一となる。長さが150μm未満であると、エラストマー中での配向が困難であり、2mmを超えると、放熱シートとして、維持、配向できなくなる。
【0020】
なお、上記ピッチ系炭素繊維の長さ及びアスペクト比、グラファイトチップの厚み、幅及び長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から測定できる。具体的には、SEM写真撮影を行い、任意の数個(5個)について、炭素繊維の長さ及びアスペクト比〔長径(長さ)/繊維の直径〕、グラファイトチップの厚み、幅及び長さを測定し、この算術平均値によって得ることができる。本発明の効果が得られる観点から、上記ピッチ系炭素繊維やグラファイトチップの形状は極めて重要である。
【0021】
本発明のエラストマー組成物において、上記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの合計含有量は、エラストマー組成物(100容量%)中、30容量%以上である。30容量%以上配合したエラストマー成形体を製造し、その成形体内でピッチ系炭素繊維やグラファイトチップを一定方向に配向させると、その配向方向に高い熱伝導性を発現させることができる。このため、このエラストマー成形体を用いて製造した放熱シートにおいて、高い熱伝導性が得られ、良好な放熱性を付与できる。上記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの合計含有量は、好ましくは30〜70容量%、より好ましくは40〜60容量%である。なお、ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの量が多くなると、成形性の問題で加工できなくなるおそれがある。また、シートの平滑性に劣りかつ放熱シートとしての硬度を低くできなくなり、結果として、シートの接触が問題になり、熱伝導率が悪くなるおそれがある。
【0022】
以上のように、本発明では、上記のピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップを一定量配合しているため、低硬度でかつ高い熱伝導性を有するエラストマー成形体を得ることができ、また、放熱シートに良好な放熱性を付与することが可能となる。
【0023】
本発明のエラストマー組成物には、弾性を発揮させるための加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤等、公知の添加剤を添加してもよい。
上記加硫剤としては、硫黄;ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物等を使用することができる。上記加硫助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等が挙げられる。上記加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBDC)等が挙げられる。
また、補強のための充填剤、加工のための加工助剤等を含んでもよい。
【0024】
本発明のエラストマー組成物の製造方法としては特に限定されず、従来公知の方法により製造でき、例えば、上述した成分を公知の方法を用いて、所定の容量比で混合、混練する、等の方法で製造することができる。
【0025】
〔エラストマー成形体〕
本発明のエラストマー成形体は、上記本発明のエラストマー組成物から得られるもので、上記エラストマー成形体中において、上記ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップが配向している。
以下、本発明のエラストマー成形体を図1を用いて具体的に説明する。
【0026】
図1は、本発明のエラストマー成形体1の概略図の一例であり、ピッチ系炭素繊維2を使用したものである。
図1のエラストマー成形体1は、成形体内において、ピッチ系炭素繊維2が配向方向3に略均一に配向している。即ち、本発明のエラストマー成形体において、「ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップが配向している」とは、エラストマー成形体中においてピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップが略同一方向に揃って配置されている状態を意味する。
【0027】
エラストマー成形体中において、各ピッチ系炭素繊維や各グラファイトチップの配向方向がなす角度(エラストマー成形体中のあるピッチ系炭素繊維やグラファイトチップが配向している方向と、それ以外のピッチ系炭素繊維やグラファイトチップが配向している方向とがなす角度)が鋭角であることが好ましく、30°以下であることがより好ましく、10°以下であることが更に好ましい。なお、上記「略均一に配向している」場合、この角度は10°以下である。
【0028】
図1のエラストマー成形体1において、ピッチ系炭素繊維12以外の部分は、主としてエラストマー成分からなる。
なお、グラファイトチップが配向している本発明のエラストマー成形体は、図2の拡大概略図で示した形状のグラファイトチップ4がピッチ系炭素繊維2に代わって配向したものである。図2は、厚み5、幅6、長さ7のグラファイトチップ4を示している。
【0029】
本発明のエラストマー成形体1は、ピッチ系炭素繊維2及びグラファイトチップ4の配向率が80%以上であることが好ましい。本発明において、「配向率が80%以上」とは、エラストマー成形体1内に配置されている全ピッチ系炭素繊維2及び全グラファイトチップ4の両方のうち、略同一方向に揃って配置されているピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの合計割合が80%以上(個数割合)であることを意味する。90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。上記配向率は、例えば、エラストマー成形体1を切断し、その切断面を電子顕微鏡により観察し、画像処理により求めることができる。
【0030】
本発明のエラストマー成形体の製造方法としては、得られるエラストマー成形体内においてピッチ系炭素繊維やグラファイトチップを略均一方向に配向させることが可能な方法であれば特に限定されず、例えば、以下の方法により製造することができる。
エラストマー成分、必要に応じて適宜添加剤を配合し、これをエラストマー配合用ロールにて混練する。次いで、得られた混練ゴムにピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップを添加し、混練して、配合ゴムとしてエラストマー組成物を得、更に、得られた配合ゴムのシート成形を行うことにより本発明のエラストマー成形体(エラストマーシート)を製造できる。本発明において、シート成形の方法としては、例えば、カレンダー成形、押出成形等を用いることができる。
【0031】
〔放熱シート〕
本発明の放熱シートは、上記本発明のエラストマー組成物から得られるものであって、上記ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップが上記放熱シートのシート面に対して略垂直方向に配向している。
以下、本発明の放熱シートを図3を用いて具体的に説明する。
【0032】
図3は、本発明の放熱シート11の概略図の一例であり、ピッチ系炭素繊維12を使用したものである。
図3の放熱シート11は、シート内において、ピッチ系炭素繊維12がシート面14に対して略垂直方向(配向方向13)に略均一に配向している。即ち、本発明の放熱シート11は、シートの厚さ方向にピッチ系炭素繊維12が略均一に配向している。また、本発明の放熱シート11は、シート面14においてピッチ系炭素繊維12が露出している。図3の放熱シート11において、ピッチ系炭素繊維12以外の部分は、主としてエラストマー成分からなる。
なお、グラファイトチップが配向している放熱シートは、図2の拡大概略図で示した形状のグラファイトチップ4がピッチ系炭素繊維12に代わって配向したものである。
【0033】
放熱シートのシート面14とは、放熱シート11の表面及び裏面を意味する。放熱シート11では、使用時において、一方のシート面が発熱体に接して発熱体から熱を受け取る受熱面として機能し、他方のシート面が放熱体に接して放熱体へ熱を渡す放熱面として機能する。本発明の放熱シート11では、シート面14に露出し、シート厚さ方向に配向しているピッチ系炭素繊維12(及びグラファイトチップ)により高い熱伝導性が発揮される。
【0034】
更に、放熱シート11は、エラストマー成分の硬度が25以下であるため、シート全体が柔軟性に優れている。従って、放熱シート11の使用時において、シート面14の表面及びシート面14に露出したピッチ系炭素繊維12(及び/又はグラファイトチップ)を、発熱体と放熱体に良好に接触させることができる。また、ピッチ系炭素繊維やグラファイトチップは150μm〜2mmと、シート厚さと比較してもかなりの長さを保有している。よって、本発明では、放熱シート11に高い熱伝導性を付与し、良好な放熱性を発現させることができる。
【0035】
本発明の放熱シート11は、高熱伝導性フィラーを含むものであってもよい。
上記高熱伝導性フィラーとしては、従来から用いられている各種の材料を用いることができ、例えば、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、二酸化珪素、二酸化チタン、マイカ、チタン酸カリウム、酸化鉄、タルク等の酸化物粒子、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物粒子、炭化珪素等の炭化物粒子、銅、アルミニウム等の金属粒子等を挙げることができる。また、硬化剤、加工助剤、特性改良剤等、従来から用いられている添加剤を適宜配合してもよい。これらの成分は、従来公知の方法を用いてシート中に配合することができる。
【0036】
上記放熱シート11は、厚み15が0.2〜1.5mmであることが好ましい。0.2mm未満であると、ピッチ系炭素繊維やグラファイトチップの厚さ方向への配向性と平滑性が劣るおそれがあり、1.5mmを超えると、熱伝導性が低下するおそれがある。
また、上記放熱シート11において、シート内のピッチ系炭素繊維12(及び/又はグラファイトチップ)の配向率は上記エラストマー成形体(エラストマーシート)と同様であることが好ましい。
本発明の放熱シートの熱伝動率は、60〜400W/mkであることが好ましい。これにより、高い放熱性が得られる。
【0037】
以下、上記本発明の放熱シートの製造方法について説明する。
放熱シートの製造方法としては、図3に示したシートが得られる方法であれば特に限定されないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。
上記エラストマー成分、並びに、上記ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップを含有し、上記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの合計含有量が30容量%以上であるエラストマー組成物を得る工程(I)と、上記工程(I)で得られたエラストマー組成物を用いて、上記ピッチ系炭素繊維、グラファイトチップがシート面方向に配向しているエラストマーシートを得る工程(II)と、上記工程(II)で得られたエラストマーシートを積層してエラストマー積層体を得る工程(III)と、上記工程(III)で得られたエラストマー積層体を、積層体におけるエラストマーシートのシート面に対して略垂直方向に切断する工程(IV)とを含む製造方法によって本発明の放熱シートを製造することができる。
【0038】
以下、上記放熱シートの製造方法を図1〜4を用いて具体的に説明する。
上記製造方法においては、先ず、上記工程(I)が行われ、次いで、上記工程(II)が行われる。工程(I)は、上述したエラストマー組成物の製造方法と同様の方法で行うことができる。また、工程(II)は、上述したエラストマー成形体(エラストマーシート)の製造方法と同様の方法によりピッチ系炭素繊維、グラファイトチップがシート面方向に配向しているエラストマーシートを得ることができる。上記工程(II)では、ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの両方を使用する場合は両方を配向させ、いずれかのみを使用する場合はそれを配向させる。上記製造方法の工程(I)及び(II)を行うことで、図1で示したようなエラストマー成形体1(エラストマーシート)を製造することができる。
【0039】
上記製造方法では、上記工程(II)の後、上記工程(II)で得られたエラストマーシートを積層してエラストマー積層体を得る工程(III)が行われる。
図4は、工程(III)で得られたエラストマー積層体21の概略図の一例であり、エラストマーシート22が積層されたものが示されている。エラストマーシート22は、図1で示したエラストマー成形体1(エラストマーシート)と同様のものである。
【0040】
エラストマーシート22を積層してエラストマー積層体21を製造する方法としては、従来公知の積層方法を用いて行うことができる。
例えば、エラストマー組成物を用い、上記工程(I)及び(II)によって未加硫のエラストマーシート22を多数製造し、そのシートを積層し、公知の手段にて加硫することにより、エラストマー積層体21(加硫済み)を得ることができる。
【0041】
上記製造方法では、上記工程(III)の後、上記工程(III)で得られたエラストマー積層体を、積層体におけるエラストマーシートのシート面に対して略垂直方向に切断する工程(IV)が行われる。即ち、図4において、エラストマー積層体21において、積層体を構成するエラストマーシートのシート面23に対して、略垂直方向24(切断方向)に切断される。以上のように、工程(I)〜(IV)を行うことにより、図3に示した本発明の放熱シート11を製造することができる。
【0042】
上記切断方法としては、例えば、ワイヤ、レーザー切断機、ウォータージェット切断機等を使用する方法を挙げることができる。
【0043】
上記放熱シートの製造方法として、以下の方法を使用することもできる。
容器内に上記ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップを略同一方向に配向させる工程(i)と、上記ピッチ系炭素繊維、グラファイトチップを配向させた容器内に、上記エラストマー成分を上記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの合計含有量が30容量%以上となるように注型して成形物を得る工程(ii)と、得られた成形体を、上記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの配向方向に対して略垂直方向に切断する工程(iii)とを含む製造方法によっても本発明の放熱シートを製造することができる。
【0044】
上記工程(i)は上記ピッチ系炭素繊維、グラファイトチップを容器内に配向させることができる方法であれば特に限定されず、例えば、容器の底面に、当該底面に対して略垂直方向となるように上記ピッチ系炭素繊維、グラファイトチップを設置する方法等を使用できる。上記容器としてはピッチ系炭素繊維、グラファイトチップの設置が可能なものであれば特に限定されず、形状、材質等も問わない。
【0045】
上記工程(ii)のエラストマー成分の注型は公知の方法を特に制限されることなく用いることができ、これにより、ピッチ系炭素繊維、グラファイトチップを略同一方向に配向させた成形体を得ることができる。更に、上記工程(iii)の切断は、上述の工程(IV)と同様に方法を用い、ピッチ系炭素繊維、グラファイトチップの配向方向に対して略垂直方向の切断となるように調整して行うことができ、これにより、本発明の放熱シートを製造することができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明のエラストマー組成物は、低硬度でかつ高い熱伝導性を有するエラストマー成形体を製造することができる。また、このエラストマー組成物を使用することにより、放熱性に優れた放熱シートを得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0048】
実施例1 放熱シートの製造
以下の配合組成からなる(A)組成物、(B)ピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイバー製チョップドファイバー、長さ25mm、径7μm)を、8インチ2本ロール機により、(A):(B)=70:30の容量比で混合させた。
混合させた後に、ロール間隙を0.7mmに設定してシート出しを行い、(B)を配向させた。
次いで、得られたシートを積層し、5cm幅×10cm長さ×20mm厚に成形して加硫した(加硫条件160℃×60分)。
得られた成形物を、渋谷工業製ウォータージェットマシーンを用いて垂直方向に1.0mmに切断して放熱シートを作製した。このときのピッチ系炭素繊維の長さは1mmとなる。
【0049】
〔(A)組成物〕
EP98;(油展エチレンプロピレンゴム、JSR社製)175部
プロセスオイルPW−90:100部
SRFカーボンブラック:10部
亜鉛華3号;5部
ステアリン酸;1部
加硫促進剤;Zinc di−n−butyl dithiocarbamate(ZnBDC) 0.5部
加硫促進剤;Tetra methyl thiuramdisulfide(TMTD) 0.5部
加硫促進剤:Dibenzothiazyldisulfide(MBTS) 1.5部
イオウ;1.5部
なお、組成物(A)の硬度は11であった。
【0050】
実施例2 放熱シートの製造
5cm×5cm×高さ25mmのポリエチレン製容器に(B)ピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイバー製チョップドファイバー、長さ25mm、径7μmを垂直に並べ、そこへ(A)シリコーンゲル(信越化学製KE−1056、硬度1以下)を、(A)、(B)の容量比を50:50で注型し、得られた成形物を、渋谷工業製ウォータージェットマシーンを用いて垂直方向に1.0mmに切断して放熱シートを作製した。このときのピッチ系炭素繊維の長さは1mmとなる。
【0051】
実施例3 放熱シートの製造
実施例1で得られた成形物を渋谷工業性ユニバーサルスライディングマシーンを用いて垂直方向に0.2mmに切断して放熱シートを作製した。このときのピッチ系炭素繊維の長さは0.2mmとなる。
【0052】
比較例1 放熱シートの製造
(A)、(B)の容量比を(A):(B)=80:20した以外は、実施例1と同様にして放熱シートを製造した。
【0053】
比較例2 放熱シートの製造
(B)にピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイバー製ミルドファイバー、長さ50μm、径7μm)を使用した以外は、実施例2と同様にして放熱シートを製造した。
【0054】
実施例4 放熱シートの製造
(B)ピッチ系炭素繊維の代わりに(C)グラファイトチップ(厚み50μm、幅0.5mm、長さ25mm)を使用した以外は、実施例1と同様にして放熱シートを製造した。このときのグラファイトチップの長さは1mmとなる。
【0055】
実施例5 放熱シートの製造
(B)ピッチ系炭素繊維の代わりに(C)グラファイトチップ(厚み50μm、幅0.5mm、長さ25mm)を使用した以外は、実施例2と同様にして放熱シートを製造した。このときのグラファイトチップの長さは1mmとなる。
【0056】
実施例6 放熱シートの製造
実施例4で得られた成形物を渋谷工業性ユニバーサルスライディングマシーンを用いて垂直方向に0.2mmに切断して放熱シートを作製した。このときのグラファイトチップの長さは0.2mmとなる。
【0057】
比較例3 放熱シートの製造
(A)、(C)の容量比を(A):(C)=80:20とした以外は、実施例3と同様にして放熱シートを製造した。
【0058】
比較例4 放熱シートの製造
(C)グラファイトチップの代わりに球状グラファイト(平均粒子径又は平均長さ6μm)を使用した以外は、実施例3と同様にして放熱シートを製造した。
【0059】
評価
〔熱伝導率〕
実施例、比較例で得られた放熱シートの熱伝導率について、熱伝導度測定機(カトーテック社製サーモラボ2)による定常熱伝導測定法で測定した。結果を表1〜2に示した。
(測定条件)
ウォーターボックス中に室温下の水を流し、ボックス上に5×5cmのサンプルを乗せ、更に試料上の、BTボックスの熱板を試料にあてて載せる。定常に達した後、BTボックスの熱流損失(W)をパネルメーターで読みとる。
定常状態における熱流損失(W)は、以下の式で表すことができることから、熱伝導率が求められる。
W=K×(A・ΔT/D)
W:定常状態における熱流損失
D:試料厚み
ΔT:試料温度差
A:BT熱板面積
K:熱伝導率
【0060】
〔硬さ〕
実施例、比較例で得られた放熱シートの硬さを、JIS K6253のデュロメータ硬さ試験のタイプAにより測定した。結果を表1〜2に示した。
【0061】
〔ピッチ系炭素繊維、グラファイトチップの配向率〕
実施例、比較例で得られた放熱シート内のピッチ系炭素繊維、グラファイトチップの配向率は、放熱シートを切断し、その切断面を電子顕微鏡により観察し、画像処理により測定した。結果を表1〜2に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1〜2から、実施例1、3、4及び6で得られた放熱シートは、低硬度で柔軟性に優れており、高い熱伝導率を示した。また、実施例2及び5で得られた放熱シートの熱伝導率は更に高い熱伝導率を示した。一方、比較例1及び3で得られた放熱シートは、熱伝導材料が少ないため、熱伝導率が劣っていた。比較例2及び4で得られた放熱シートは、短い長さの繊維が使用されていること、球状グラファイトが使用されていることから、厚み方向へのつながりが悪く、熱伝導率は大幅に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の放熱シートは、電気機器や電子部品に用いられるIC及びCPU等の発熱体の放熱のために好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のエラストマー成形体の概略図である。
【図2】本発明におけるグラファイトチップの拡大概略図である。
【図3】本発明の放熱シートの概略図である。
【図4】本発明の放熱シートの製造方法における工程(III)で得られたエラストマー積層体の概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1 エラストマー成形体(エラストマーシート)
2、12、25 ピッチ系炭素繊維
3 ピッチ系炭素繊維の配向方向(エラストマーシートのシート面に略平行)
4 グラファイトチップ
5 グラファイトチップの厚み
6 グラファイトチップの幅
7 グラファイトチップの長さ
11 放熱シート
13 ピッチ系炭素繊維の配向方向(放熱シートのシート面に略垂直方向)
14 放熱シートのシート面
15 放熱シートの厚み
21 エラストマー積層体
22 未加硫のエラストマーシート
23 積層体を構成するエラストマーシートのシート面
24 エラストマー積層体の切断方向(積層体を構成するエラストマーシートのシート面に略垂直方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー成分と、ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップとを含有するエラストマー組成物であって、
前記ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの合計含有量は、前記エラストマー組成物中、30容量%以上であり、
前記ピッチ系炭素繊維は、長さ150μm〜2mmの短繊維であり、
前記グラファイトチップの形状は、厚み10〜150μm、幅100μm〜1mm、長さ150μm〜2mmである
ことを特徴とするエラストマー組成物。
【請求項2】
エラストマー成分が硬度25(JIS K6253タイプAデュローメータ)以下のゴム又は高分子ゲルである請求項1記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエラストマー組成物から得られるエラストマー成形体であって、
前記エラストマー成形体中において、ピッチ系炭素繊維及び/又はグラファイトチップが配向している
ことを特徴とするエラストマー成形体。
【請求項4】
ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップの配向率が80%以上である請求項3記載のエラストマー成形体。
【請求項5】
請求項1又は2記載のエラストマー組成物から得られる放熱シートであって、
ピッチ系炭素繊維及びグラファイトチップが、前記放熱シートのシート面に対して略垂直方向に配向している
ことを特徴とする放熱シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−149769(P2009−149769A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329100(P2007−329100)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】