説明

エレクトロウェティング方式を用いた液体光学素子

【課題】エレクトロウェティング現象を用いて光学特性を変化させる液体光学素子において、光学素子として光学装置などに組み込むのに適した、比較的厚さが小さく、応答速度の速い光学素子を提供する。
【解決手段】液体光学素子100は、不混和な導電性液体104と非導電性液体105が封入された容器101、102、103と、導電性液体に対して絶縁された電極108と、導電性液体に接する電極107を有する。容器内に筒状部材110が配され、筒状部材の外壁面110b、或いはそれと対向する内壁面101aの何れか一方に、2液のなす界面116の一端116aを保持する界面保持手段110dが設けられる。界面保持手段を備えた壁面と対向する側の壁面には、第1の電極が設けられ、この壁面に接する界面116の他端116bが、電極107、108間に印加される電圧に対応して筒状部材110の伸長方向と平行な方向に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロウェティング現象を用いて光学特性を変化させることが可能な液体光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2種類の非混和な液体を円筒状容器等に封入し、それぞれの液体の接する界面の形状を、エレクトロウェッティング現象を用いて変化させる光学素子が知られている。こうした光学素子は、従来の固定光学素子のように機械的な移動機構を要することがなく、光学特性を変化させられるため、光学ユニットの小型化や応答速度の高速化に有効である。この液体光学素子は、互いに非混和な導電性の液体と非導電性の液体が密閉容器に封入されている。そして、容器に設けられた絶縁層を介して導電性液体と接する第1の電極と、導電性液体に直接接する第2の電極との間に電圧を印加することで、前記界面の形状を印加電圧に対応させて変化させるというものである。
【0003】
しかしながら、従来のエレクトロウェティング現象を用いた光学素子は、光学特性を変化させる為の界面の駆動を、光学素子として機能させる界面の端部の接触角を印加電圧により変化させることで行っている。そのため、界面の変位は界面端部から始まり界面中心部へと変位して行くことになり中心部の応答が遅れる。したがって、界面変位が完全に終了する前に次の界面の変位動作を行うと、高次モードの界面振動が発生し易く、良好な光学特性が得られないということがある。また、界面を変化させるための駆動力は、液体端部における壁面と液体及び液体相互の界面張力により決まる。すなわち、使用する液体や壁面の物性に依存するため、界面の応答速度を速めるために大きな駆動力を得ようとした場合、問題となることがある。特に、口径の大きい光学素子の高速化において、より問題となりやすい。
【0004】
特許文献1には、光学素子として機能する界面部分とそれを駆動するための駆動力を発生させる部分とを分離した構成のものが開示されている。この従来例は、界面を形成する非混和な液体の流量を、外部に設けたポンプにより変化させることにより、界面の曲面形状を変化させるというものである。また、特許文献2には、次の技術の方法が開示されている。ここでは、光学素子として機能する界面と、この界面を駆動するための駆動力を発生させる界面と、を同じ密閉容器内に形成し、エレクトロウェティング現象を用いて駆動用の界面を変位させる。そして、この駆動用の界面の変位により光学素子とし機能する界面の曲面形状を変化させる。これらの従来例によれば、光学素子として機能する界面の駆動力を別の駆動源から得るようにしているため、この駆動源の駆動速度を速くすることで光学素子としての応答速度を速くすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−500874号公報
【特許文献2】ヨーロッパ特許公開EP−A1−1870741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、光学特性を変化させる界面の駆動力源として、エレクトロウェティング現象を用いたポンプの記載もあるが、外部に設けた構成を用いるため、構造的に大きくなりやすい。その為、カメラ等の光学装置に組み込んで使用するには実用的とは言い難い。
【0007】
また、特許文献2によれば、図6に示すように、電極406、414間に電圧を印加して、容器内に封入された非混和な液体401、402によって形成される界面432をエレクトロウェティング現象により、破線436で示すように移動させる。これにより、光学素子として機能する界面430を破線434に示すように変位させるというものである。この方法によれば、駆動部分が液体光学素子400と一体となった構成となるので、上記特許文献1のものに比べ構造的に小さくしやすい。しかし、この方法では、駆動力を得るための界面432が光軸Lに対しほぼ垂直方向に移動するようになっているため、光学素子400が光軸方向に厚くなってしまいやすい。特に、光学特性の可変範囲を大きくするために界面430の可変量を大きくしようとすると、駆動用界面432による液体の移動量を大きくする必要があり、光軸方向にさらに厚くなりやすい。カメラのズームレンズ等では、不使用時のカメラの厚さを薄くする為、一般的に鏡筒を筺体内に収納させるようになっている。そうしたカメラ装置に組み込む場合、光学素子としては光軸方向の大きさが小さい方が好ましい。すなわち、特許文献2の方法では、そうした要求に対して答えるのが容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明の液体光学素子は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体の2液が封入された容器と、導電性液体に対して絶縁された第1の電極と、導電性液体に接する第2の電極と、を有する。そして、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加することにより2液の界面の状態を制御する。また、容器内に配された筒状部材を有し、筒状部材の外壁面、或いはそれと対向する内壁面の何れか一方に、2液のなす筒状部材の外側の界面の一端を保持する界面保持手段を備える。さらに、界面保持手段を備えた壁面と対向する側の壁面には、導電性液体に対し絶縁された第1の電極が設けられており、該壁面に接する前記界面の他端が、印加電圧に対応して筒状部材の伸長方向と平行な方向に移動するようにされている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体光学素子によれば、上記の如き筒状部材を用いるので、光学素子として光学装置などに組み込むのに適し、光軸方向の厚さを小さくしやすく、応答速度を速くすることが可能な光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施例における概略構成を示す断面図。
【図2】界面保持に関する説明の為の一部断面図。
【図3】駆動用界面の形成方法に関する説明の為の光軸に垂直な断面図、及び界面保持の他の方法に関する説明の為の一部断面図。
【図4】本発明の第2の実施例における概略構成を示す断面図。
【図5】本発明の第3の実施例における概略構成を示す断面図、及び第3の実施例における駆動用界面の説明の為の一部断面図。
【図6】従来例に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特徴は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体が封入された容器内に筒状部材を配し、筒状部材の外側の前記2液の界面を動かして筒状部材の内側の前記2液の界面の状態を制御することで液体光学素子の光学特性を変化させることである。この考え方に基づき、本発明の液体光学素子は、上記課題を解決するための手段のところで述べた様な基本的な構成を有する。この液体光学素子は、典型的には中心軸となる光軸を有する液体可変焦点レンズなどとして構成されるが、これに限られず、中心軸となる光軸のない光学特性を可変なプリズム、光アッテネータなどとして構成することもできる。
【0012】
以下、図1〜図5を用いて本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
図1は第1の実施例における概略の構成を示したもので、(a)は液体光学素子としての液体可変焦点レンズ100を、光軸Lを通る断面で切断した断面図、(b)は(a)のAA断面図である。
【0013】
液体可変焦点レンズ100は、円筒状部材101の両端面を、透明部102a、103aをそれぞれ有する封止部材102、103により接着剤等で封止した構造の密閉容器を備える。この容器の中に導電性液体104と非導電性液体105の2液が封入されている。導電性液体104は、水に塩化ナトリウム或いは臭化ナトリウム等の電解物質を溶解させたものなどであり、非導電性液体105は、導電性液体104と非混和であるシリコーンオイル等からなる。本実施例では、導電性液体104と非導電性液体105は、液体の接する界面においてレンズ効果などを持たせるために互いの屈折率が異なり、さらに重力の影響を受け難くするために同じ密度(略同等の密度)になるように調整されている。
【0014】
容器をなす円筒状部材101には、第1の電極として、金属等の導電性素材からなる第1の電極108が壁面に沿って設けられ、絶縁層106を介して導電性液体104と接触している。したがって、電極108と導電性液体104は電気的に絶縁された状態になっている。107は金属等の導電性素材からなる第2の電極で、導電性液体104に対し直接接し電気的に導通した状態になっている。ここで、第1の電極108は、導電性液体104と非導電性液体105の界面115・116の端部116bが、後述する印加電圧により移動する範囲を少なくともカバーしている。
【0015】
円筒状部材101と封止部材102、103で密閉された容器内部には、筒状部材である円筒状部材110が配置されている。この円筒状部材110は、図1に示す様に、端部110eにおいて封止部材103の内壁面に設けられた支持部材111により、円筒状部材101の内壁面101a及び封止部材102、103の内壁面に対し一定の間隔を有して固定されている。つまり、円筒状部材110は、液体光学素子の光軸を中心軸として配されている。ここでは、円筒状部材101の内壁面101aとの間隔は、図1(b)に示す様に、光軸Lの周りで一定であり、封止部材102、103の内壁面との上下の間隔は、図1(a)に示す様に、ほぼ同じである。これにより、後述する界面駆動動作を与えた際、容器内部に封入された2種の液体の流れが光軸Lの周りで対称的になって、好ましい。また、上記支持部材111は、界面駆動動作を与えた際、容器内部に封入された2種の液体の流れを出来るだけ妨げないようにするため、図1(b)の矢印Cで示すような流れの方向に対する断面積を小さくすることが望ましい。上記支持部材の形態は一例であって、支持部材を封止部材102の内壁面に設けたり、円筒状部材101の内壁面101aに設けたりする形態なども可能である。
【0016】
円筒部材110の内壁面110a及び外壁面110bには、界面の端面を保持するための後述する界面保持手段としての突起110c、110dが周方向にそれぞれ設けられている。この円筒状部材110の内壁面110a側に、導電性液体104と非導電性液体105の別の界面115が、界面115の端部115aが突起部110cの頂点p1に位置するように形成される。さらに、容器をなす円筒状部材101の内壁面101aと円筒状部材110の外壁面110bの間に、電性液体104と非導電性液体105の界面116が、その端部116aが突起110dの頂点p2に位置するように形成される。120は、第1の電極である電極108と、第2の電極である電極107したがって導電性液体104と、の間に電圧を印加する為の電圧印加部である。
【0017】
ここで、界面保持手段について説明する。図2(a)に示すように、例えば円筒130の内側に互いに非混和な液体132と液体133による界面131が形成された場合、界面131の曲面形状は壁面と液体及び液体相互の界面張力により決まる。この時、界面端部131aでの界面131の接線Cと壁面130aとのなす角である接触角θは一定値を取る。そして、液体132と液体133の液量が変化した場合、界面端部131aは、接触角θは一定のまま、壁面130a上を液量比に応じて矢印A又はB方向に移動する。しかし、壁面の形状が図2(b)示すように突起形状をしており、界面131の界面端部131aが、突起部130bの頂点pの位置にある場合、液体の液量比により接触角θ1が上述した界面張力によって決まる接触角θより大きい場合が生じる。この場合、接触角は上述した様な相互の界面張力により決まる一定値とならず、界面131の接触角θ1は図2(c)のαで示す角度の範囲では液体132と液体133の液量比により決まる値となる。そして液体132と液体133の液量比が変わった時、界面端部131aは移動することなく頂点pで保持され、界面の曲面形状のみ、例えば、実線131cから点線131dのように変化する。
【0018】
但し、接触角θ1が接触角θとなる界面131c又は131dに達した後さらに液量比が変わった場合、接触角はθのままで、界面端部131aは突起130bの壁面130c又は130dに沿って矢印D又はE方向に移動する可能性がある。したがって、図1に示す界面116は、界面端部116aが突起110dの頂点p2に保持された状態で、界面端部116bが、壁面101aと液体及び液体相互の界面張力により決まる接触角となるように形成される。そして、界面端部116bは界面116の表面積が最小となる位置となる。したがって、初期状態で界面116が形成される位置とその曲面形状は、突起110dの位置と、壁面と液体及び液体相互の界面張力から決まる接触角により一意的に決まる。そして、界面116の位置と曲面形状が決まると、円筒状部材110の内壁面110aの突起110cの頂点p1に保持された界面115の曲面形状は、導電性液体104と非導電性液体105の流量比により決まる。
【0019】
今、第2の電極107を介して第1の電極108(これは、界面保持手段を備えた壁面と対向する側の壁面に設けられている)と導電性液体104との間に電圧印加部120により直流又は交流電圧を印加する。この時、界面116の界面端部116aは、界面保持手段である突起110dの頂点部p2に保持された状態で、エレクトロウェティング現象による上述の接触角の変化に起因して界面端部116b側が壁面101aに沿って移動する。結果として界面115・116は、例えば、図1(a)の実線で示す位置から点線で示す位置に変位する。この界面115・116の移動により、非導電性液体105は図1(a)において上方に押し上げられる。一方、この非導電性液体105の移動により、界面115は図1(a)において下方に押し下げられる。この時、上述したように界面115の端部115aは突起部110cの頂点p1に保持された状態で移動しないので、界面115の曲面形状は、例えば、実線で示す位置から点線で示すように変化し焦点ないしパワーを変化させる。
【0020】
ここで、上述した様に光軸Lの周りで対称的な構造であるので、界面116の変位により発生した液体の圧力は界面115に対し略均一に作用するので、高次の振動モードが界面115上に発生し難い。したがって、より大きい口径のレンズや、高速で界面を変化させるような液体レンズに対し有効である。また、界面115の変位量は界面116の移動による流量変化により決まり、界面116の変位量は、電圧印加部120による第1の電極108と第2の電極107を介する導電性液体104とに印加される電圧により決まる。すなわち、界面115の曲面形状の変位量は電圧印加部120による電圧により制御される。以上のように、界面116は、光学特性を変化させる為の界面115に対し、界面115の曲面形状を変化させるための駆動界面として機能する。したがって、光学素子としての応答速度は、駆動界面116の応答速度により決まる。
【0021】
界面116を形成する円筒状部材101の内壁面101aと円筒状部材110の外壁面110bとの間において、壁面間隔が狭いほど、界面116に対する表面張力の作用が大きくなり応答速度は速くなる。したがって、内側の円筒状部材110の内径すなわち光学素子としての口径が大きくても、円筒状部材110と外側の円筒状部材101の壁面間隔を小さくすることで光学素子としての応答速度を速くすることができる。一方で、両円筒状部材110、101の壁面間隔を小さくすると、界面116の移動による液体流量の変化が小さくなり、光学素子の機能部としての界面115の可変量が小さくなる。しかし、サイズを半径方向に大きくし周方向に長くすることで同じ壁面間隔であっても、界面116の移動による流量の変化を大きくでき、上述の界面115の可変量が小さくなることを補償することができる。
【0022】
また、駆動界面としての界面116は、光軸Lに垂直な断面図である図3(a)、(b)に示すように、楕円形状や、波型形状などであっても良い。特に、駆動界面116を波型形状にすることにより、界面端部の長さを長く取ることができるので、駆動界面の移動による流量を大きくできる。しかも、駆動界面の移動方向が光軸Lの方向(すなわち円筒状部材の伸長方向)にほぼ平行なので、光軸方向の厚さを大きくすることなく流量の増大を達成できる。本発明の筒状部材とは、円筒状部材に加え、このような楕円形状部材や、波型形状部材などを含むものとして定義している。
【0023】
上述した実施例では、界面保持手段として壁面を突起形状にすることを行ったが、図3(c)に示すように、筒状部材140の壁面140aに、2液体142、143に対する濡れ特性の異なる層144、145を設けるような方法によっても良い。図3(c)において、層144は液体143に対し濡れ性の小さい特性を有する層、層145は液体142に対し濡れ性の小さい特性を有する層である。このような構成にすると、液体142と液体143の界面141の端部141aは、144の層と145の層の境界p3で保持され、上述した突起110cや突起110dと同じ効果が得られる。
【0024】
尚、本実施例において、界面116の保持手段である突起を内側の円筒状部材110の外壁面110bに設けたが、外側の円筒状部材101の内壁面側に設け、界面の移動の為の第1の電極を円筒状部材110側に設けるようにしても良い。すなわち、相互に対向する一対の壁面の何れかの側に界面保持手段を設けると共に、その対向面側に界面移動手段としての電極を設けるようにしても良い。また、駆動界面としての界面116のための界面保持手段は必須であるが、界面115のための突起部110cのような界面保持手段は省略できる場合もある。例えば、省略した形態でも、要求される界面115の動きが実現されて光学特性を所望の態様で可変にできれば、省略することができる。
【0025】
(実施例2)
図4は第2の実施例における概略の構成を示したもので、液体光学素子としての液体可変焦点レンズ200を、光軸Lを通る断面で切断した断面図である。液体可変焦点レンズ200は、実施例1で示した円筒状部材101と封止部材102、103により密閉された容器において、別の円筒状部材201を円筒状部材101と円筒状部材110の間に一定の間隔を設けて配置したものである。
【0026】
円筒状部材201の内壁面側には、金属等の導電性素材からなる電極208が壁面に沿って設けられ、絶縁層206を介して導電性液体104と接触している。したがって、電極208と導電性液体104は電気的に絶縁された状態になっている。円筒状部材201の外壁面201bには界面保持手段としての突起201cが設けられている。また、円筒状部材201は、実施例1で述べた円筒状部材110と同様、容器内の各壁面から一定の間隔となるべく、端部201eにおいて、絶縁性素材からなる支持部材211により支持されている。この支持部材211は、実施例1において述べたのと同様、液体の流れを妨げないように流れの方向に対する断面積を出来るだけ小さくすることが望ましい。支持部材211の内部には導電性を有する金属等の電極207が設けられ、電圧印加部120からの電圧を円筒状部材201の電極208にも印加できるようになっている。
【0027】
最も内側の円筒状部材110の外壁面110bに設けられた界面保持手段としての突起110dと円筒状部材201の内壁面201aとの間には、実施例1で述べた駆動用の界面216が形成される。同様に、円筒状部材201の外壁面201bの界面保持手段としての突起201cと容器をなす円筒状部材101の内壁面101aとの間には、駆動用の界面217が形成される。電圧印加部120で導電性液体104と円筒状部材201の電極208との間に電圧を印加すると、界面216は端部216aが保持された状態で円筒状部材201の内壁面201a上を光軸Lの方向に、例えば、実線で示す位置から点線で示す位置に移動する。
【0028】
同様に、導電性液体104と円筒状部材101の電極108との間に電圧を印加すると、界面217は、端部217aが保持された状態で円筒部材101の内壁面101a上を光軸Lの方向に、例えば、実線で示す位置から点線で示す位置に移動する。これらの界面216、217の移動により、非導電性液体105は、実施例1で述べたように図4において上方に押し上げられる。そして、押し上げられた液量に対応して光学素子の機能面としての界面115は下方に押し下げられ、界面115の曲面形状は、例えば、実線で示す位置から点線で示す位置に変化する。
【0029】
上述した様に、本実施例では、容器内に設けられた筒状部材の外側に、容器の内壁面及びこの筒状部材の外壁面に対して離間させて少なくとも1つ(上記構成では1つ)の別の筒状部材を略同心円状に設ける。そして、容器の内壁面及び最も内側の筒状部材の外壁面を含む相互に対向する各一対の壁面の何れか一方の壁面に、2液の界面の一端を保持する界面保持手段をそれぞれ備える。また、界面保持手段を備えた壁面と対向する側の壁面を有する筒状部材または容器に、導電性液体に対して絶縁された第1の電極を設ける。こうして、界面保持手段を備えた壁面と対向する側の壁面に接する界面の他端が、印加電圧に対応して筒状部材の伸長方向と平行な方向に移動するようにされる。
【0030】
以上のように、実施例2では、実施例1と比較して、光学素子の機能面としての界面115を駆動界面216、217の2つの界面で駆動することになる。したがって、駆動界面の移動による液量の変化量を、界面の形成される壁面間隔を変えずに大きくすることができる。筒状部材は任意に増やすことができるので、壁面間隔を小さくして応答速度を速めることによる、各駆動界面の移動で生じる液量の変位量の低下を補うことができる。つまり、本実施例によれば、液体や容器の物性によらず光学素子としての特性を変化させる為の界面の駆動力及び液体の変位量を任意に増やすことができ、応答速度の高速化と変位量の増加の両方を両立させることができる。
【0031】
(実施例3)
図5(a)は第3の実施例における概略の構成を示したもので、液体光学素子としての液体可変焦点レンズ300を、光軸Lを通る断面で切断した断面図である。実施例3は、円筒状部材301の内壁面301aの側を凹面形状にしたものである。
【0032】
図5(b)に示すように、実施例1に示す円筒状部材101の内壁面101aの場合、円筒状部材110の突起部110dの頂点p2との間にできた駆動界面116は、初期状態(電圧が0Vの時)では界面端部116bが接触角θとなるT1の位置にある。それに対し、内壁面を凹面形状301aにした場合に形成される駆動界面は、接触角θは等しいので316に示すようになり、界面端部316bの位置がT1より下方のT2に示す位置となる。そして、同じ印加電圧を加えた場合、内壁面の形状が101aの場合、駆動界面は点線で示す117となり、その界面端部117bはT3で示す位置になる。一方、内壁面が凹面形状301aである場合、同様に接触角は同じであるので、駆動界面は点線で示す317となり、その界面端部はT4で示す位置になる。そして、駆動界面116が117に変位したことによる液量の変化と、駆動界面316が317に変位したことによる液量の変化との差は、図5(b)において斜線で示すS1とS2を足したものから網線で示すS3とS4を引いたものになる。すなわち、図から明らかなように、駆動界面が形成される壁面の間隔eが略同じで印加電圧も同じ場合、界面端部の壁面を凹面にした方が、円筒状部材の半径方向の大きさがほぼ同じでも液量の変化量を大きくできる。
【0033】
以上の様に、本実施例では、容器の内壁面の形状、または最も内側の筒状部材の外側に略同心円状に設けた少なくとも1つの筒状部材の内壁面の形状と容器の内壁面の形状の少なくとも1つ、を凹面形状にすることができる。1つの円筒状部材110を備えた上記構成では、前者のように容器の内壁面の形状を凹面形状にしているが、複数の円筒状部材を備えた図4に示す構成などでは、後者のようにすることができる。こうした構成によれば、光学特性を変化させる為の界面を駆動させる界面の移動量を大きくとれ、光学素子の半径方向の形状を大きくして界面移動量を増やす必要がなく、小型化することができる。
【符号の説明】
【0034】
100・・液体光学素子、101、110・・筒状部材(円筒状部材、容器)、101a・・筒状部材の外壁面と対向する内壁面、102、103・・封止部材(容器)、104・・導電性液体、105・・非導電性液体、106・・絶縁層、107・・第2の電極、108・・第1の電極、110b・・筒状部材の外壁面、110d・・筒状部材の外側の界面の一端を保持する界面保持手段、115・・界面、116・・界面(駆動界面)、120・・電圧印加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに不混和な導電性液体と非導電性液体の2液が封入された容器と、
前記導電性液体に対して絶縁された第1の電極と、
前記導電性液体に接する第2の電極と、
を有し、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することにより前記2液の界面の状態を制御する液体光学素子であって、
前記容器内に配された筒状部材を有し、
前記筒状部材の外壁面、或いはそれと対向する内壁面の何れか一方に、前記2液のなす前記筒状部材の外側の界面の一端を保持する界面保持手段を備え、
前記界面保持手段を備えた壁面と対向する側の壁面には、前記導電性液体に対し絶縁された前記第1の電極が設けられており、該壁面に接する前記界面の他端が、前記印加電圧に対応して前記筒状部材の伸長方向と平行な方向に移動するようにされたことを特徴とする液体光学素子。
【請求項2】
前記筒状部材の内壁面に、前記2液のなす前記筒状部材の内側の界面の端部を保持する別の界面保持手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の液体光学素子。
【請求項3】
前記筒状部材は、当該液体光学素子の光軸を中心軸として配された円筒状部材であり、
前記界面の他端が、前記印加電圧に対応して前記光軸と平行な方向に移動するようにされたことを特徴とする請求項1または2に記載の液体光学素子。
【請求項4】
前記容器内に設けられた前記筒状部材の外側に、前記容器の内壁面及び前記筒状部材の外壁面に対して離間させて少なくとも1つの別の筒状部材を略同心円状に設け、
前記容器の内壁面及び前記最も内側の筒状部材の外壁面を含む相互に対向する各一対の壁面の何れか一方の壁面に、前記2液の界面の一端を保持する前記界面保持手段をそれぞれ備えると共に、前記界面保持手段を備えた壁面と対向する側の壁面を有する前記筒状部材または容器に、前記導電性液体に対して絶縁された第1の電極を設けて、
前記界面保持手段を備えた壁面と対向する側の壁面に接する前記界面の他端が、前記印加電圧に対応して前記筒状部材の伸長方向と平行な方向に移動するようにされたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液体光学素子。
【請求項5】
前記容器の内壁面及び前記最も内側の筒状部材の外壁面を含む相互の対向する各一対の壁面の間にそれぞれ形成された前記界面の移動を制御する為の印加電圧を、前記界面毎にそれぞれ別々に印加し、制御するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の液体光学素子。
【請求項6】
前記容器の内壁面の形状、または前記最も内側の筒状部材の外側に略同心円状に設けた少なくとも1つの筒状部材の内壁面の形状と前記容器の内壁面の形状の少なくとも1つ、を凹面形状にしたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の液体光学素子。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate