説明

エレクトロクロミック素子およびその製造方法

【課題】基材の印刷面上に電極膜、イオン伝導透明膜、発色膜などが設けられてなり、発色性が均一なエレクトロクロミック素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のエレクトロクロミック素子10は、基材11と、基材11の一面11aの少なくとも一部に設けられた印刷層12および印刷層12を覆う受理層13と、受理層13上に順に積層された第一電極層14、電解質層15、発色層16および第二電極層17と、を備え、受理層13は、アクリル樹脂水系ワックスからなり、受理層13の厚みをd、印刷層12の厚みをdとした場合、d>dの関係を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック素子およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、可撓性を向上したエレクトロクロミック素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、表示素子としては、液晶表示素子(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などが広く用いられている。
これらの表示素子は、電圧を印加している間のみ色が変化し、文字や画像を表示することができるが、表示には、比較的高い電圧を必要とするため、消費電力が多く、用途によっては、作動用の電池(バッテリー)の交換を頻繁に行う必要があった。したがって、ICカードなどのように、接着材などによって、ICチップ、表示素子などの内装品が封止された構造のものでは、電池(バッテリー)を随時交換することが難しく、液晶表示素子や有機EL素子は不向きであった。
【0003】
そこで、用途によっては、液晶表示素子や有機EL素子に替わる表示素子として、エレクトロクロミック素子(EC素子)が注目されている。このEC素子は、作動に要する電圧が比較的低く、電子の移動を遮断して酸化還元状態を維持するだけで表示状態を静止できる(メモリー性)を有し、表示状態を維持するために電力が不要であるから、消費電力が少ないという利点がある。
【0004】
このようなEC素子としては、例えば、透明または有色電極膜、無機アモルファスまたは結晶化イオン伝導透明膜、発色イオンドープの無機アモルファス発色膜、透明電極膜を順次積層した構造をなすエレクトロクロミックフィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。このEC素子では、パルスレーザー堆積法(Pulsed Laser Deposition、PLD法)を用いて、プラスチック基板、ガラス基板などの絶縁性基板上に、透明または有色電極膜、アモルファスまたは結晶化LiMnイオン伝導透明膜からなる無機アモルファスまたは結晶化イオン伝導透明膜、LiイオンドープのアモルファスLiWO3−x発色膜からなる発色イオンドープの無機アモルファス発色膜、および、透明電極膜を形成している。
【特許文献1】国際公開第2005/124444号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のEC素子において、基板上に印刷を施して印刷層を形成した後、さらに、この印刷層の上に電極膜、イオン伝導透明膜、発色膜などを積層してEC素子を製造すると、それぞれの膜を均一に形成することができない上に、形成された膜には、印刷層の凹凸に起因する歪みが生じて、EC素子には部分的に発色むらが生じて、発色性が不均一になるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、基材の印刷面上に電極膜、イオン伝導透明膜、発色膜などが設けられてなり、発色性が均一なエレクトロクロミック素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレクトロクロミック素子は、基材と、該基材の一面の少なくとも一部に設けられた印刷層および該印刷層を覆う受理層と、前記受理層上に順に積層された第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層と、を備えたエレクトロクロミック素子であって、前記受理層は、アクリル樹脂水系ワックスからなり、前記受理層の厚みをd、前記印刷層の厚みをdとした場合、d>dの関係を満たすことを特徴とする。
【0008】
本発明のエレクトロクロミック素子の製造方法は、基材と、該基材の一面の少なくとも一部に設けられた印刷層および該印刷層を覆う受理層と、前記受理層上に順に積層された第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層と、を備えたエレクトロクロミック素子の製造方法であって、前記基材の一方の面に印刷層を設ける工程と、前記受理層の厚みをd、前記印刷層の厚みをdとした場合、前記基材の一方の面に、d>dの関係を満たすように、アクリル樹脂水系ワックスを塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて前記受理層を形成する工程と、パルスレーザー堆積法により、前記受理層上に、前記第一電極層、前記電解質層、前記発色層および前記第二電極層を順次形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエレクトロクロミック素子によれば、基材と、該基材の一面の少なくとも一部に設けられた印刷層および該印刷層を覆う受理層と、前記受理層上に順に積層された第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層と、を備えたエレクトロクロミック素子であって、前記受理層は、アクリル樹脂水系ワックスからなり、前記受理層の厚みをd、前記印刷層の厚みをdとした場合、d>dの関係を満たすので、受理層上に、第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層の各層がそれぞれ均一な厚みで設けられているから、各層には印刷層に起因する歪みが生じることなく、EC素子は発色むらが生じることなく、発色性が均一になる。また、受理層は透明性が高いので、印刷層の色を生かすことができるとともに、EC素子の発色を妨げることがない。
【0010】
本発明のエレクトロクロミック素子の製造方法によれば、基材と、該基材の一面の少なくとも一部に設けられた印刷層および該印刷層を覆う受理層と、前記受理層上に順に積層された第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層と、を備えたエレクトロクロミック素子の製造方法であって、前記基材の一方の面に印刷層を設ける工程と、前記受理層の厚みをd、前記印刷層の厚みをdとした場合、前記基材の一方の面に、d>dの関係を満たすように、アクリル樹脂水系ワックスを塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて前記受理層を形成する工程と、パルスレーザー堆積法により、前記受理層上に、前記第一電極層、前記電解質層、前記発色層および前記第二電極層を順次形成する工程と、を有するので、真空状態やレーザー照射により、受理層が収縮するなどの劣化が生じることなく、PLD法によって安定に、第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層を形成することができる。また、受理層をなすアクリル樹脂水系ワックスは、常温、常圧において、印刷塗工可能であるから、EC素子の製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のエレクトロクロミック素子およびその製造方法の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
(エレクトロクロミック素子)
図1は、本発明のエレクトロクロミック素子の一実施形態を示す概略断面図である。
この実施形態のエレクトロクロミック素子(以下、「EC素子」と略すこともある。)10は、基材11と、この基材11の一方の面11aに設けられた印刷層12と、基材11の一方の面11aにおいて、印刷層12を覆うように設けられた受理層13と、この受理層13上に順に積層された第一電極層14、電解質層15、発色層16および第二電極層17(「第一電極層14、電解質層15、発色層16および第二電極層17」を総称して「積層体18」と言う。)と、受理層13上に積層体18を被覆するように設けられた封止材19とから概略構成されている。
【0013】
基材11としては、少なくともその表層部には、ガラス繊維、アルミナ繊維などの無機繊維からなる織布、不織布、マット、紙などまたはこれらを組み合わせたもの、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる織布、不織布、マット、紙などまたはこれらを組み合わせたものや、あるいはこれらに樹脂ワニスを含浸させて成形した複合基材や、ポリアミド系樹脂基材、ポリエステル系樹脂基材、ポリオレフィン系樹脂基材、ポリイミド系樹脂基材、エチレン−ビニルアルコール共重合体基材、ポリビニルアルコール系樹脂基材、ポリ塩化ビニル系樹脂基材、ポリ塩化ビニリデン系樹脂基材、ポリスチレン系樹脂基材、ポリカーボネート系樹脂基材、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合系樹脂基材、ポリエーテルスルホン系樹脂基材などのプラスチック基材や、あるいはこれらにマット処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、フレームプラズマ処理、オゾン処理、または各種易接着処理などの表面処理を施したものなどの公知のものから選択して用いられる。また、紙としては、上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、再生紙、含浸紙、無塵紙、耐水紙、蛍光紙、これらの紙基材上に導電性塗料などにより回路を形成した導電性の紙基材などが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリイミドからなる電気絶縁性のフィルムまたはシートが好適に用いられる。
基材11の色は、発色層16による発色に応じて、適宜調整される。
【0014】
印刷層12は、公地の印刷用インキなどを用い、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、トナー印刷、転写などの印刷方法により、文字、記号、模様または画像などの各種印刷情報が形成された層である。
【0015】
受理層13をなす材料としては、硬化後の表面硬度が高く、真空中で収縮し難く、耐湿性に優れ(吸湿性が低い)、絶縁性が高く、かつ、可視光透過率が高い(透明性が高い)ものが用いられ、例えば、アクリル樹脂水系ワックスが挙げられ、具体的には、荒川塗料工業社製の水性コーティング用塗料、ユニークペーパーワニスA228などが挙げられる。
【0016】
このEC素子10では、受理層13の厚みをd、印刷層12の厚みをdとした場合、d>dの関係を満たしている。すなわち、基材11の一方の面11aを基端とした場合、受理層13の厚みをdは印刷層12の厚みdよりも厚くなっており、印刷層12は受理層13によって完全に覆われている。
【0017】
印刷層12が、スクリーン印刷により形成された場合、その厚みは5μm〜20μm程度である。また、印刷層12が、グラビア印刷により形成された場合、その厚みは2μm〜40μm程度である。また、印刷層12が、インクジェット印刷により形成された場合、その厚みは0.3μm〜1μm程度である。また、印刷層12が、オフセット印刷により形成された場合、その厚みは1μm〜2μm程度である。また、印刷層12が、トナー印刷により形成された場合、トナー粒子の粒子径が5μm〜8μm程度であるから、その厚みは5μm〜8μm程度である。
【0018】
したがって、受理層13の厚みは、0.5μm以上、10μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上、5μm以下である。
受理層13の厚みが0.5μm以上、10μm以下であることが好ましい理由は、この厚みが0.5μm未満では、受理層13により、印刷層12によって生じた基材11の一方の面11aにおける凹凸を相殺することができず、受理層13上に形成された積層体18に歪みが生じて、EC素子10の発色性が低下するからであり、一方、この厚みが10μmを超えると、印刷層12の厚みに対して受理層13の厚みが厚すぎて、効果に差が無くなるばかりでなく、受理層13自体の透過率が低下し、第二電極層17の最表面側からEC素子10の発色を視認し難くなるとともに、EC素子10の可撓性が低下するからである。
【0019】
第一電極層14、第二電極層17としては、スズドープ酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)などから構成される透明電極層が挙げられる。
【0020】
電解質層15としては、アモルファスまたは結晶化LiMn、LiCoO、LiNiO、LiCrOなどの遷移金属ドープ酸化リチウムからなるイオン伝導透明層が挙げられる。
【0021】
発色層16としては、リチウム(Li)イオンドープのアモルファスLiWO3−x、ナトリウム(Na)イオンドープのアモルファスNaWOなどからなる発色層が挙げられる。
【0022】
封止材19としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、硬化剤として、ポリチオール系硬化剤および/または第3級アミン系硬化剤を含有したものが挙げられる。
【0023】
このEC素子10によれば、基材11の一方の面11aにおいて、この面に設けられた、アクリル樹脂水系ワックスからなる受理層13の厚みをd、印刷層12の厚みをdとした場合、d>dの関係を満たしているので、受理層13上に、第一電極層14、電解質層15、発色層16および第二電極層17の各層がそれぞれ均一な厚みで設けられているから、各層には印刷層12に起因する歪みが生じることなく、EC素子10は発色むらが生じることなく、発色性が均一になる。また、受理層13は透明性が高いので、印刷層12の色を生かすことができるとともに、EC素子10の発色を妨げることがない。さらに、受理層13は封止材19との密着性に優れている上に、積層体18が受理層13と封止材19によって封止された構造をなしているので、このEC素子10は、酸素や水分によって劣化し難くなり、長寿命化することができる。
【0024】
なお、この実施形態では、受理層13が基材11の一方の面11aの全面に設けられたEC素子10を例示したが、本発明のEC素子はこれに限定されない。本発明のEC素子にあっては、少なくとも基材の一方の面において、第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層からなる積層体を設ける部分で、かつ、印刷層が設けられている部分に受理層が設けられていればよい。
また、この実施形態では、積層体18が封止材19により被覆されたEC素子10を例示したが、本発明のEC素子はこれに限定されない。本発明のEC素子にあっては、積層体が封止材により被覆されていなくてもよい。
【0025】
(エレクトロクロミック素子の製造方法)
次に、図1を参照して、この実施形態のEC素子の製造方法を説明する。
先ず、基材11の一方の面11aに、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、トナー印刷、転写などの印刷方法により、印刷層12を形成する。
次いで、基材11の一方の面11aに、印刷層12を覆うようにアクリル樹脂水系ワックスを塗布して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させて、所定の厚みの受理層13を形成する。
次いで、PLD法により、この基材11に設けられた受理層13上に、積層体18を形成する。この積層体18の各層の形成方法を、以下に示す。なお、積層体18の各層は、真空室内で、常温にて形成される。
【0026】
第一電極層14を形成するには、受理層13が設けられた基材11を真空室内に配置して、この基材11を常温に維持する。
次いで、受理層13の最表面から所定の離間位置に、スズドープ酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズなどの第一電極層14用ターゲットを配置し、真空室内の酸素雰囲気圧を4Pa〜6Paに保持する。
次いで、ターゲットにレーザー光を照射して、受理層13上に、第一電極層14を積層する。
【0027】
電解質層15を形成するには、第一電極層14の最表面から所定の離間位置に、アモルファスまたは結晶化LiMn、LiCoO、LiNiO、LiCrOなどの遷移金属ドープ酸化リチウムからなる電解質層15用ターゲットを配置し、真空室内の酸素雰囲気圧を19Pa〜21Paに保持する。
次いで、ターゲットにレーザー光を照射して、第一電極層14上に、電解質層15を積層する。
【0028】
発色層16を形成するには、電解質層15の最表面から所定の離間位置に、リチウムイオンドープのアモルファスLiWO3−x、ナトリウムイオンドープのアモルファスNaWOなどの発色層16用ターゲットを配置し、真空室内の酸素雰囲気圧を6Pa〜8Paに保持する。
次いで、ターゲットにレーザー光を照射して、電解質層15上に、発色層16を積層する。
【0029】
第二電極層17を形成するには、発色層16の最表面から所定の離間位置に、スズドープ酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズなどの第二電極層17用ターゲットを配置し、真空室内の酸素雰囲気圧を4Pa〜6Paに保持する。
次いで、ターゲットにレーザー光を照射して、発色層16上に、第二電極層17を積層し、積層体17を得る。
【0030】
次いで、受理層13上に、積層体18を被覆するように、硬化剤を含有するビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる封止材を塗布し、この封止材を加熱して硬化させ、受理層13上で封止材19により積層体18が被覆されたEC素子10を得る。
【0031】
この実施形態のEC素子の製造方法によれば、基材11の一方の面11aに、印刷層12を形成した後、さらに、この印刷層12を覆うように受理層13を形成し、PLD法により、この受理層13上に、第一電極層14、電解質層15、発色層16および第二電極層17を順次形成するので、真空状態やレーザー照射により、受理層13が収縮するなどの劣化が生じることなく、安定に、第一電極層14、電解質層15、発色層16および第二電極層17を形成することができる。
また、受理層13をなすアクリル樹脂水系ワックス、および、封止材18をなすビスフェノールA型エポキシ樹脂は、常温、常圧において、印刷塗工可能であるから、EC素子の製造コストを低減することができる。
【0032】
(非接触型データ受送信体)
図2は、本発明のエレクトロクロミック素子を備えた非接触型データ受送信体の一実施形態を示す概略断面図である。
図2において、図1に示したエレクトロクロミック素子の構成要素と同じ構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
この実施形態の非接触型データ受送信体20は、EC素子10と、ICチップなどの電子部品21と、スイッチ22と、導電部(回路)23と、基材11と同様の材質からなる基材24とから概略構成されている。
【0033】
この非接触型データ受送信体20では、EC素子10の構成部材である基材11が、カード大をなしており、その一方の面11aには、電子部品21と、EC素子10を作動させるためのスイッチ22と、これらの部品を接続する導電部(回路)23とが設けられている。
また、上記の部品が設けられた基材11と基材24とが、封止材19を介して対向するように接合され、基材11と基材24との間に、封止材19により被覆されたEC素子10、電子部品21、スイッチ22、導電部23などが内装されている。
【0034】
さらに、第二電極層17の最表面は、基材24をその厚み方向に貫通するように設けられた窓部24aと重なるように配置され、その最表面は封止材19により封止されている。これにより、基材24の外表面24b側から、EC素子10を視認することができる。
【0035】
この非接触型データ受送信体20では、スイッチ22を押すことにより、EC素子10が作動し、このEC素子10の発色(表示)を基材24の窓部24aを介して視認することができるようになっている。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
「実施例1」
プラスチック基材(厚み100μm)の一方の面に、インクジェット印刷法により、厚み0.5μmの印刷層を形成した。
次いで、プラスチック基材の一方の面に、印刷層を覆うようにアクリル樹脂水系ワックスを塗布して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させて、厚み2μmの受理層を形成した。
次いで、受理層が設けられたプラスチック基材を真空室内に配置して、このプラスチック基材を常温に維持し、PLD法により、受理層上に、スズドープ酸化インジウムからなる厚み0.05μmの第一電極層を積層した。この時、真空室内の酸素雰囲気圧を4Pa〜6Paに保持した。
次いで、PLD法により、第一電極層上に、アモルファスLiMnからなる厚み0.05μmの電解質層を積層した。この時、真空室内の酸素雰囲気圧を19Pa〜21Paに保持した。
次いで、PLD法により、電解質層上に、リチウムイオンドープのアモルファスLiWO3−xからなる厚み0.25μmの発色層を積層した。この時、真空室内の酸素雰囲気圧を6Pa〜8Paに保持した。
次いで、PLD法により、発色層上に、スズドープ酸化インジウムからなる厚み0.05μmの第二電極層を積層した。この時、真空室内の酸素雰囲気圧を4Pa〜6Paに保持した。
次いで、受理層上に、第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層からなる積層体を被覆するように、硬化剤としてポリチオール系硬化剤および第3級アミン系硬化剤を含有するビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる封止材を塗布し、この封止材を加熱して硬化させて、図1に示す、実験例1のEC素子を作製した。
【0038】
「実施例2」
封止材を設けなかった以外は実施例1と同様にして、実施例2のEC素子を作製した。
【0039】
「比較例1」
受理層を設けなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1のEC素子を作製した。
【0040】
「比較例2」
受理層および封止材を設けなかった以外は実施例1と同様にして、比較例2のEC素子を作製した。
【0041】
実施例1、2および比較例1、2のEC素子について、以下に示す評価方法により、発色性、消色性およびメモリー性を評価した。
また、実施例1、2および比較例1、2のEC素子を、温度23℃、湿度50%の環境に曝露し、曝露開始から所定時間経過後(表1参照)、以下に示す評価方法により、発色性、消色性およびメモリー性を評価した。
(1)発色性
EC素子に3Vの電圧を1秒間印加し、その時の発色むらの有無によってEC素子の発色性を評価した。
EC素子の発色性を下記の4段階で評価した。
◎:発色むらなし
○:発色むら多少あり
△:発色むらかなりあり
×:発色しなかった
結果を表1に示す。
【0042】
(2)消色性
上記の(1)に示すように電圧を印加して発色させたEC素子に3Vの電圧を1秒間印加し、色の消え方のむらの有無によってEC素子の消色性を評価した。
EC素子の消色性を下記の4段階で評価した。
◎:消色むらなし
○:消色むら多少あり
△:消色むらかなりあり
×:消色しなかった
結果を表1に示す。
【0043】
(3)メモリー性
EC素子に3Vの電圧を1秒間印加して発色させ、電圧の印加を止めてから、その色が消えるまでの時間を測定してEC素子のメモリーを評価した。
EC素子の発色性を下記の4段階で評価した。
◎:5分以上
○:1分〜5分
△:1分以下
×:変化しなかった
結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から、実施例1のEC素子は、曝露開始から60日後も、発色および消色にむらがなく、十分に機能することが確認された。
また、実施例2のEC素子は、曝露開始から14日後には劣化が始まり、28日後には完全に劣化することが確認された。
一方、比較例1、2のEC素子は、作製直後から発色性、メモリー性が十分得られず、曝露開始から7日後には劣化が始まり、14日後には完全に劣化することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のエレクトロクロミック素子の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明のエレクトロクロミック素子を備えた非接触型データ受送信体の一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10・・・エレクトロクロミック素子、11・・・基材、12・・・印刷層、13・・・受理層、14・・・第一電極層、15・・・電解質層、16・・・発色層、17・・・第二電極層、18・・・積層体、19・・・封止材、20・・・非接触型データ受送信体、21・・・電子部品、22・・・スイッチ、23・・・導電部、24・・・基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の一面の少なくとも一部に設けられた印刷層および該印刷層を覆う受理層と、前記受理層上に順に積層された第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層と、を備えたエレクトロクロミック素子であって、
前記受理層は、アクリル樹脂水系ワックスからなり、
前記受理層の厚みをd、前記印刷層の厚みをdとした場合、d>dの関係を満たすことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
基材と、該基材の一面の少なくとも一部に設けられた印刷層および該印刷層を覆う受理層と、前記受理層上に順に積層された第一電極層、電解質層、発色層および第二電極層と、を備えたエレクトロクロミック素子の製造方法であって、
前記基材の一方の面に印刷層を設ける工程と、前記受理層の厚みをd、前記印刷層の厚みをdとした場合、前記基材の一方の面に、d>dの関係を満たすように、アクリル樹脂水系ワックスを塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて前記受理層を形成する工程と、パルスレーザー堆積法により、前記受理層上に、前記第一電極層、前記電解質層、前記発色層および前記第二電極層を順次形成する工程と、を有することを特徴とするエレクトロクロミック素子の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−198584(P2009−198584A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37669(P2008−37669)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Fターム(参考)】