説明

エレクトロクロミック素子

【課題】大画面スタティックディスプレイおよび自動的に減光可能なバックミラー等の光学変調を必要とする用途に適するエレクトロクロミック素子を提供する。
【解決手段】本発明は、導電性である金属的レベルまでドープし、そして電気的に活性な化合物の化学吸着により任意選択的に修飾されていてもよいナノ構造化金属酸化物フィルムを具備する電極を含んで成るエレクトロクロミック素子に関する。本発明は、また、導電性ナノ構造化金属酸化物フィルムおよびそれを含むエレクトロクロミック素子における使用に適する電極に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック素子に関する。特に、本発明は、導電性である金属的レベルまでドープし、そして電気的に活性な化合物の化学吸着により修飾したナノ構造化金属酸化物フィルム、そのようなナノ構造化フィルムを含んで成る電極、およびそのような電極を含んで成るエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
大画面スタティックディスプレーおよび自動的に減光可能なバックミラー等の光学変調を必要とする用途でのエレクトロクロミック素子の使用はよく知られている。電気的に活性な化合物の化学吸着により修飾された半導電性ナノ構造化金属酸化物フィルムを具備する少なくとも1つの電極を含んで成るエレクトロクロミック素子もよく知られており、例えば国際公開第97/35227号および国際公開第98/35267号を参照されたい。
【0003】
国際公開第97/35227号に開示されている素子は、ナノ構造化半導体電極の表面に化学吸着されたn型またはp型酸化還元クロモフォアを含み、それぞれ可逆的方式で酸化または還元されることができるp型またはn型の電気的に活性な化合物が電解質中に溶解させる。国際公開第98/35267号に開示されている素子において、n型酸化還元クロモフォアを、ナノ構造化半導体電極の表面に化学吸着させ、p型酸化還元プロモーターを電解質中に溶解させる。これらの素子のスイッチング時間は既に知られている素子のスイッチング時間よりも短いが、律速段階が電解質中の電気化学的に活性の化合物の関連する電極への拡散であることから依然として比較的遅い。この化合物を電極(この電極に向かって化合物が拡散する)に吸着させることによりこの律速段階をなくす試みは、ナノ構造化基材の半導電性のためにスイッチング速度のわずかな増加をもたらしたにすぎない。
【0004】
国際公開第97/35227号および国際公開第98/35267号に開示されている素子は、先に述べた用途では適当であるが、より短いスイッチング時間が望ましく、特にダイナミックディスプレイ、プライバシーガラスおよびスマートウインドーが関係する場合に望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術の欠点を解消するかまたは最低限に抑えることである。既知の素子よりもスイッチング時間が短いエレクトロクロミック素子を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、p型もしくはn型の酸化還元プロモーターまたはp型もしくはn型の酸化還元クロモフォアである電気的に活性な化合物が吸着されている導電性金属酸化物を含んで成るナノポーラスナノ結晶質フィルムが提供される。
【0007】
「ナノ結晶質フィルム」は、融合したナノメートルスケールの微結晶で構成されている。導電性フィルムを形成するために、微結晶に適切にドープする。「ナノポーラスナノ結晶質」フィルムにおいて、融合したナノ微結晶のモルフォロジーは、当該フィルムがナノメートルスケールで多孔質であるようなものである。以下で(導電性/半導電性)ナノ構造化フィルムと呼ぶことがあるそのようなフィルムは、典型的には、約3μmの厚さを仮定して約1000の表面粗さを有する。導電性ナノ構造化フィルムは、非導電性基材上の厚さ3μmのナノ構造化SbドープSnO2フィルムの場合に、室温で20キロオーム/□の抵抗率を有する。
【0008】
本明細書において用いる場合に、「導電性金属酸化物」なる用語は、それらのシートの抵抗率が100kΩ/□未満となるようなレベルまで適切にドープした金属酸化物を意味する。
本明細書において用いる場合に、「電気的に活性な化合物」なる用語は、(1)導電性ナノ構造化金属酸化物フィルムの表面に吸着され、酸化された化合物(これらの化合物が酸化されることによって変色する場合に、それらをp型酸化還元クロモフォアと呼び、それらの化合物が変色しないならば、それらをp型酸化還元プロモーターと呼ぶ)、および(2)半導電性または導電性ナノ構造化金属酸化物フィルムの表面に吸着され、還元された化合物(これらの化合物が還元されることによって変色する場合に、それらをn型酸化還元クロモフォアと呼び、それらの化合物が変色しないならば、それらをn型酸化還元プロモーターと呼ぶ)を意味する。
【0009】
本発明は、エレクトロクロミック素子用の電極であって、透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材が導電性コーティングを担持しており、そしてこの導電性コーティングが本発明に係る導電性ナノ構造化金属酸化物フィルムを担持している電極も提供する。
本発明は、さらに、本発明に係る電極を少なくとも1つ含んで成るエレクトロクロミック素子を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のエレクトロクロミック素子は、各々が本発明に係る導電性ナノ構造化金属酸化物フィルムを含んで成る2つの電極を含んで成ることがある。
従って、本発明の1つの態様において、エレクトロクロミック素子は、
(a)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この導電性金属酸化物にn型もしくはp型酸化還元クロモフォアまたはn型もしくはp型酸化還元プロモーターが吸着されている第1電極;
(b)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この導電性金属酸化物にp型もしくはn型酸化還元プロモーターまたはp型もしくはn型酸化還元クロモフォアが吸着されている第2電極または対電極;および
(c)これらの電極の間にある電解質;
を含んで成る。
好ましい態様において、本発明に係るエレクトロクロミック素子は、
(a)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが半導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この半導電性金属酸化物にn型酸化還元クロモフォアが吸着されている第1電極;
(b)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この導電性金属酸化物にp型酸化還元プロモーターが吸着されている第2電極または対電極;および
(c)これらの電極の間にある電解質;
を含んで成る。
【0011】
代わりに、p型酸化還元クロモフォアを導電性金属酸化物に吸着させ、そして、n型酸化還元プロモーターを半導電性金属酸化物に吸着させてもよい。
本発明のエレクトロクロミック素子の特に好ましい態様において、第1電極はカソードであり、その上にコーティングされたナノ構造化フィルムは、式I,IIまたはIIIにより表されるn型酸化還元クロモフォア(以下で定義する)を吸着させたTiO2を含んで成り、第2電極はアノードであり、そして、その上にコーティングされたナノ構造化フィルムは式IV,V,VIまたはVIIにより表されるp型酸化還元プロモーター(以下で定義する)を吸着させたSnO2:Sbを含んで成る。
【0012】
別の態様において、本発明は、
(a)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが導電性または半導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この導電性または半導電性金属酸化物にn型またはp型酸化還元クロモフォアが吸着されている第1電極;
(b)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この導電性金属酸化物に電気的に活性な化合物が吸着されていない第2電極または対電極;および
(c)これらの電極の間にある電解質;
を含んで成るエレクトロクロミック素子を提供する。
【0013】
この態様では、素子は、ナノ構造化フィルムの物理的特性に起因してエレクトロクロミック素子として機能する。第1に、この材料は電子を放出してそれらの電子を(半)導電性金属酸化物電極上での酸化還元クロモフォアの還元のために提供する能力を有し、第2に、このフィルムの大きな粗さ係数に起因して、電解質とフィルムの間に大きな界面が保たれ、素子中での効率的な電荷補償が可能となる。滑らかなフィルムを有する素子では、その性能はより効率の劣るものとなるであろう。
【0014】
本発明のエレクトロクロミック素子において、以下の条件が伴う:
(1)金属酸化物が半導電性金属酸化物である場合に、n型の電気的に活性な化合物が半導電性金属酸化物に吸着されていること;
(2)第1および第2電極が両方とも電気的に活性な化合物を含む場合に、(a)第1電極がn型酸化還元クロモフォアを含むとともに第2電極がp型酸化還元プロモーターを含むか、または第1電極がp型酸化還元プロモーターを含むとともに第2電極がn型酸化還元クロモフォアを含むこと;または(b)第1電極がn型酸化還元プロモーターを含むとともに第2電極がp型酸化還元クロモフォアを含むか、または第1電極がp型酸化還元クロモフォアを含むとともに第2電極がn型酸化還元プロモーターを含むこと;上記の条件(1)にこれら(a)および(b)の条件が加わる;
(3)第1電極および第2電極のうちの一方だけが電気的に活性な化合物を含む場合に、前記化合物はn型またはp型酸化還元クロモフォアであること;上記の条件(1)にこの条件が加わる。
【0015】
本発明のエレクトロクロミック素子中の電極は、好ましくは離間されており、例えば5mm以下の距離、好ましくは50μm〜5mmの距離で離間されている。
本発明の導電性ナノ構造化フィルムにおいていかなる適切なn型またはp型の酸化還元プロモーターまたは酸化還元クロモフォアも使用できる。
好ましいp型酸化還元プロモーターおよび酸化還元クロモフォアは下記式IV〜VIIにより表される化合物である。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
式V中のXはSまたはOであり、R8〜R10はそれぞれ独立に、
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、R11はC1-10アルキルであり、R12〜R15はそれぞれ独立に水素;C1-10アルキル;C1-10アルキレン;任意選択的に置換されていてもよいアリール;ハロゲン;ニトロ;またはアルコール基であり、nは1〜10である)
から選ばれる。
【0021】
一般式V,VIおよびVIIの化合物は新規のもので、本発明に係る導電性ナノ構造化フィルム、電極およびエレクトロクロミック素子の製造におけるそれらの使用とともに、本発明の一部を成す。
式IVの化合物は既知の化合物であり、J. Am. Chem. Soc., 1999, 121, 1324-1336に記載されている常法に従って調製できる。
【0022】
一般式Vの化合物は、フェノチアジンと、適切な連結基の前駆体または適切な連結基を末端基とするハロゲン化アルキルとを反応させることにより調製できる。
一般式VIの化合物は、アルキル置換ジヒドロ−ジアルキルフェナジンと、適切な連結基の前駆体または適切な連結基を末端基とするハロゲン化アルキルとを反応させることにより調製できる。
【0023】
一般式VIIの化合物は、適切な誘導体化フェロセンと、適切な連結基の前駆体または適切な連結基を末端基とするハロゲン化アルキルとを反応させることより調製できる。
一般式Vの特に好ましいp型酸化還元プロモーターはβ−(10−フェノチアジル)プロポキシホスホン酸である。この化合物(化合物VIII)は、後述する反応スキーム1に従って調製できる。
【0024】
本発明のナノ構造化フィルムにおいて使用される導電性金属酸化物は、下記のもののいずれかから選ばれることが好ましい:
(a)F,Cl,Sb,P,AsまたはBをドープしたSnO2
(b)Al,In,Ga,B,F,Si,Ge,Ti,ZrまたはHfをドープしたZnO;
(c)SnをドープしたIn23
(d)CdO;
(e)三元酸化物、例えばZnSnO3,Zn2In25,In4Sn312,GaInO3またはMgIn24
(f)SbをドープしたFe23
(g)TiO2/WO3またはTiO2/MoO3系;および
(h)Fe23/SbまたはSnO2/Sb系。
SbをドープしたSnO2が特に好ましい。
【0025】
本発明のエレクトロクロミック素子で使用できる好ましい半導電性金属酸化物は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、モリブテン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタル、銀、亜鉛、ストロンチウム、鉄(Fe2+またはFe3+)若しくはニッケルの酸化物、またはそれらのペロブスカイト型化合物である。TiO2、WO3、MoO3、ZnOおよびSnO2は特に好ましい。
本発明のエレクトロクロミック素子において使用できる好ましいn型酸化還元クロモフォアまたは酸化還元プロモーターは下記一般式I〜IIIにより表される化合物である。
【0026】
【化4】

【0027】
これらの式中、R1は、
【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
のいずれかから選ばれ;
2はC1-10アルキル、N−オキシド、ジメチルアミノ、アセトニトリル、ベンジルおよびフェニルから選ばれるものであって、任意選択的にニトロにより一置換または二置換されていてもよいものであり;
3はC1-10アルキルであり、R4〜R7はそれぞれ独立に水素;C1-10アルキル;C1-10アルキレン;アリールまたは置換アリール;ハロゲン;ニトロ;およびアルコール基から選ばれ;
Xは、電荷の釣り合いをとるイオンであって、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF4-、PF6-およびClO4-から選ばれ、nは1〜10である。
【0031】
式I,IIおよびIIIにより表される化合物は公知であり、Solar Energy Materials and Sollar Cells, 57, (1999), 107-125に記載されている公知の方法で調製できる。
本発明での使用に特に好ましいn型酸化還元クロモフォアは、式Iにより表される化合物、すなわちビス−(2−ホスホノエチル)−4,4’−ビピリジニウムジクロリドである。
導電性および半導電性金属酸化物フィルムを、電気的に活性な化合物の吸着に先立って、水プラズマ流(water plasma stream)に暴露することによって処理することができる。そのような処理は、ヒドロキシル基の濃度を増加させるため、金属酸化物フィルムの表面上のヒドロキシル基との、電気的に活性な化合物の連結基、特にシロキサン基の反応を促進するのに有用である。この処理は、ナノ構造化フィルムの安定性も高める。
電極基材は、ガラスまたはプラスチック材料から適切に形成される。フッ素をドープした酸化錫または酸化インジウム錫の導電性層を被覆したガラスは、本発明のエレクトロクロミック素子に都合よく使用される。
【0032】
本発明において使用される電解質は、好ましくは液状であり、また、好ましくは少なくとも1つの電気化学的に不活性な塩を溶剤中の溶液の形態で含む。適切な塩の例としては、リチウム塩、例えば過塩素酸リチウム(LiClO4)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ヨウ化リチウム(LI)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、ヘキサフルオロ砒酸リチウム(LiAsF6)、スチリルスルホン酸リチウム(LiSS)、リチウムトリフレート(LiCF3SO3)、メタクリル酸リチウム、LI以外のハロゲン化リチウム、例えば塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)等、トリフルオロ酢酸リチウム(CF3COOLi)およびそれらの組み合わせ等が挙げられる。これらの中で、LiClO4、またはLiClO4とLiBF4の組み合わせが好ましい。これらのアルカリ金属イオン源は、電解質中に約0.01M〜1.0Mの濃度で存在することができ、約0.05M〜0.2Mの濃度が好ましい。
【0033】
適切な溶剤は、アセトニトリル、3−ヒドロキシプロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、3−エトキシプロピオニトリル、2−アセチルブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、グリセリンカーボネート、テトラメチレンスルホン、シアノエチルスクロース、γ−ブチロラクトン、2−メチルグルタロニトリル、N,N’−ジメチルホルムアミド、3−メチルスルホラン、グルタロニトリル、3,3’−オキシジプロピオニトリル、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ベンゾイルアセトン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、アセトフェノン、2−メトキシエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、4−エテニル−1,3−ジオキサラン−2−オン、1,2−ブチレンカーボネート、グリシジルエーテルカーボネート[例えば、テキサス州オースチン(Austin)所在のTexaco Chemical Companyから市販されているもの]、およびこれらの組み合わせから選ぶことができ、これらの中で好ましいものとしては、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、テトラメチレンスルホンとプロピレンカーボネートの組み合わせ、および1,2−ブチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの組み合わせが挙げられる。γ−ブチロラクトンが特に好ましい。
【0034】
本発明のエレクトロクロミック素子におけるp型酸化還元プロモーターまたは酸化還元クロモフォアを吸着させた導電性ナノ構造化基材の使用は、吸着されたp型酸化還元プロモーターまたは酸化還元クロモフォアから正のバイアスをかけた基材への電子移動速度を大幅に増加させる。その結果、エレクトロクロミック素子のスイッチング速度は大幅に増加する。さらに、吸着されたp型酸化還元プロモーターまたは酸化還元クロモフォアの利点、すなわち低電力消費および長時間のメモリが維持される。
【実施例】
【0035】
本発明を以下の実施例により例示する。
例1
(a)溶融TiO2ナノ微結晶の厚さ4μmの層からなる2.5cm×2.5cmの透明ナノ構造化半導体フィルムを、ガラス基材(15Ω,厚さ0.5μm,Libby-Owen Ford Tec 15)上の3.3cm×3.3cmのフッ素ドープ酸化錫上に堆積させた。コロイドTiO2分散体を、チタンテトライソプロポキシドの加水分解により調製した。最初に形成された微結晶の平均直径(7nm)は、200℃で12時間のオートクレーブにかけることにより12nmに増大した。オートクレーブにかけた分散体を濃縮して160g/リットルにし、そしてCarbowax(商標)20000(TiO2の40重量%等量)を加えることによって、白色粘稠ゾルを得た(Carbowax 20000は、平均分子量が20000のエチレングリコールポリマーである)。上述のゾルの厚さ4μmの層を、スクリーンプリント技術を使用して導電性ガラス基材に付着させた。得られたゲル−フィルムを空気中で1時間乾燥させ、450℃で12時間焼成し、そして使用まで暗くした真空デシケーター内に貯蔵した。得られた透明ナノ構造化電極は、厚さが4μmであり、約1000の表面粗さを有していた。
【0036】
(b)水(75ml)に4,4’−ビピリジン(4.4g)とジエチル−2−エチルブロモ−ホスホネート(15.0g)を加えることによって、n型酸化還元クロモフォア、ビス−(2−ホスホノエチル)−4,4’−ビピリジニウムジクロリドを調製した。反応混合物を72時間還流させ、そして放冷した。濃塩酸(75ml)を加えた後、反応混合物をさらに24時間還流させた。生成物を回収するために、反応混合物を50mlに濃縮して、イソプロピルアルコール(200ml)を滴下添加し、氷の上で1時間撹拌し、そして濾過した。白色結晶質生成物を冷イソプロピルアルコールで洗浄し、そして空気乾燥して、純粋なビス−(2−ホスホノエチル)−4,4’−ビピリジニウムジクロリド(12.72g、収率84.24%)を得た。ビス−(2−ホスホノエチル)−4,4’−ビピリジニウムジクロリド(C14202Cl262)についての計算値:C,37.77;H,4.53;N,6.29。実験値:C,35.09;H,4.49;N,6.09。1H−NMR(水−d2):δ 2.31〜2.43(m,4H);δ 4.68〜4.80(m,4H);δ 8.33(d,非分裂メタカップリング,4H);δ 8.94(d,非分裂メタカップリング,4H).
【0037】
(c)上述のように調製したTiO2フィルムを、同じく上述のように調製したn型酸化還元クロモフォアの単層を水溶液(0.02mol・dm-3)から24時間かけて化学吸着させることにより修飾し、蒸留イソプロパノールで洗浄し、空気中で乾燥させ、そして使用の前に暗くした真空デシケーター内に48時間貯蔵した。
【0038】
(d)おおむね“Spectroscopy of Highly Doped Nanostructured Tin Dioxide Electrodes”, The Journal of Physical Chemistry, 1999, 103, pp 3093-3098, G. Boschloo and D. Fitzmauriceに記載されているように、3.3cm×3.3cmのフッ素ドープ酸化錫ガラス基材上に2.5cm×2.5cmの透明ナノ構造化SnO2:Sbフィルムを調製した。簡単に述べると、10滴の酢酸(2.0mol・dm-3)を、直径5nmのSbドープSnO2ナノ結晶の水性分散体(50g)(SnO2:Sb15質量%,Alfaにより供給)に攪拌しながら加えた。即座に形成されたゲルを、水(15ml)を添加して稀釈し、そして200℃で12時間オートクレーブにかけた。攪拌しながら8時間かけてCarbowax 20000(3.75g)を添加することにより、琥珀色の粘稠ペーストが得られ、このペーストを塗布に適当なものとなるように水(10ml)で稀釈した。このペーストを、Scotch(商標)テープでマスクした導電性ガラス基材上にガラス棒を使用して塗布した。空気中で1時間乾燥させた後、フィルムを空気中450℃で12時間焼成した。得られた透明ナノ構造化SnO2:Sbフィルムは、3.0μmの厚さおよび約1000の表面粗さを有していた。
【0039】
(e)p型酸化還元プロモーターVIIIをスキーム1に示すように以下の通りにして調製した:
XI:β−(10−フェノチアジル)プロピオニトリル
氷の上のアクリロニトリル(45ml)中のフェノチアジン(X,50g)の溶液にTriton B(ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド;40%水溶液0.6ml)を滴下添加すると激しい反応が起きた。反応混合物を1時間還流させ、そして放冷した。得られた粗生成物を温エタノールとアセトンの30:70混合物から再結晶化し、XIの橙色の結晶(31.27g,49.6%)を得た。
XII:β−(10−フェノチアジル)プロピオン酸
化合物XI(31.27g)をNaOH(35g)の混合溶剤(メタノール350ml,水105ml)溶液に加え、15時間還流させ、そして放冷した。粗生成物を氷水に注ぎ入れ、そして白色沈殿物が形成されるまで硫酸(2mol・dm-3)を添加することにより酸性にした。粗生成物を再結晶化してXII(17.0g,52.26%)を得た。
XIII:β−(10−フェノチアジル)プロピオン酸エステル
エタノールとトルエンの体積比1:2の混合物に化合物XII(17g)を溶解させ、濃硫酸(4ml)を添加することにより酸性にし、そして一晩還流させた。溶液を濃縮(約50mlまで)し、そして水(500ml)を添加することにより稀釈した。粗生成物を酢酸エチル(4×200ml)中に抽出し、水で洗浄し、MgSO4により乾燥させ、濾過し、そして溶剤を減圧下で除去した。冷却によって、XIIIの白色結晶(11.85g,63.9%)が溶液から析出した。
【0040】
XIV:β−(10−フェノチアジル)プロパノール
乾燥ジエチルエーテル(33ml)中の化合物(11.85g)の溶液を、乾燥ジエチルエーテル(70ml)中のLiAlH4(4.74g)の懸濁液に滴下添加し、そして室温で一晩攪拌した。水を滴下添加することにより過剰のLiAlH4を分解させ、そして濾過した。減圧下で溶剤を除去することによって、緑色固形物XIV(5.57g,54.7%)を得た。
XV:β−(10−フェノチアジル)プロポキシホスホン酸ジクロリド
乾燥クロロホルム(60ml)中のXIV(1.0g)およびピリジン(1.0ml)の溶液を−15℃に冷却した。オキシ塩化リン(4.73ml)とピリジン(1.0ml)と乾燥クロロホルム(40ml)の溶液を0.5時間にわたって滴下添加した。反応混合物を−15℃で2時間攪拌し、そして得られた均質溶液を1.5時間かけて室温にした。減圧下でクロロホルムを除去し、そして粗生成物をトルエン(3×50ml)で洗浄して未反応のオキシ塩化リンを除去し、緑色の油状物XV(0.9g、65.2%)を得た。
VIII:β−(10−フェノチアジル)プロポキシホスホン酸
脱イオン水(60ml)中のXV(0.9g)の溶液を一晩攪拌した。粗生成物を酢酸エチル(4×50ml)中に抽出し、水で洗浄し、硫酸ナトリウムにより乾燥させた。形成された白色結晶を濾過により除去し、そして濾液をさらに3回再結晶化して、生成物VIII(0.301g,40%)を得た。
VIII(C15164NSP)についての計算値:C,53.43;H,4.76;N,4.15;P,9.19。実験値:C,63.58;H,5.42;N,4.77;P,1.86。1H−NMR(CDCl3):d 2.24〜2.28(t,2H,J=6.3Hz);d 3.67〜3.70(t,2H,J=6.2Hz);d 4.09〜4.12(t,2H,J=6.5Hz);d 6.91〜7.19(m,8H)。31P−NMR(CDCl3):d 1.69〜1.89(H3PO4);d −11.96.
【0041】
(f)上述のように調製したナノ構造化SnO2:Sbフィルムを、同じく上述のように調製したp型酸化還元プロモーターVIIIの単層をクロロホルム溶液(0.02mol・dm-3)から6時間かけて化学吸着させることにより修飾し、蒸留イソプロパノールで洗浄し、空気中で乾燥させ、そして使用前に暗くした真空デシケーター内に24時間貯蔵した。
【0042】
(g)先に調製した修飾TiO2フィルムおよび修飾SnO2:Sbフィルムから熱可塑性ガスケット(IPBOND 2025, Industria Plastica Monregaleseにより供給)を使用して約400μmの内部間隔を有するセルを作製した。このガスケットは、1つの隅に開口部を有していた。
【0043】
(h)このサンドイッチ型構造体を真空デシケーター内で真空に引き、開口部を電解質溶液に浸し、そして真空デシケーターに空気を流入させることにより充填した。この電解質溶液は、γ−ブチロラクトン中のLiClO4(0.02mol・dm-3)から成っていた。これらLiClO4とγ−ブチロラクトンの両方を入念に精製し、使用前によく乾燥させたことに注意されたい。
【0044】
【化7】

【0045】
スキーム1(VIII)の合成に用いる試薬および条件:
(a)アクリロニトリル,ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(Triton B)の40%水溶液,0℃
(b)還流1時間
(c)メタノール性水酸化ナトリウム,還流15時間
(d)エタノール,濃H2SO4,一晩還流
(e)LiAlH4,ジエチルエーテル(乾燥)
(f)オキシ塩化リン,−15℃で2時間攪拌
(g)1.5時間攪拌して室温にした
(h)H2
【0046】
例2
(a)エレクトロクロミック(EC)窓のスイッチング時間
例1に述べたように組み立てた2.5cm×2.5cmのEC窓の着色速度を、1.2Vの電圧を印可してフェノチアジン修飾SnO2:Sbフィルムに対してビオロゲン修飾ナノ構造化TiO2フィルムを負極としてバイアスをかけた後に求めた。透過率が消色状態の定常状態透過率と着色状態の定常状態透過率との差の3分の2減少するのにかかった時間として定義される着色時間は約450ミリ秒であった。予め着色した素子に印可する電圧の極性を反転することにより同じEC窓の消色速度を求めた。透過率が着色状態の定常状態透過率と消色状態の定常状態透過率との差の3分の2増加するのにかかった平均時間として定義される消色時間は約250ミリ秒であった。
求めた着色時間および消色時間は、本発明者が知る限り、この分野に属するEC窓について報告されている最も短いスイッチング時間であった。
【0047】
(b)EC窓の着色効率
着色および漂白の間に2.5cm×2.5cmのEC窓のピーク電流および定常状態電流も求めた。着色時に求めたピーク電流および定常状態電流は、それぞれ約10mA・cm-2および約30μA・cm-2であった。同じEC窓で消色の際に求めたピーク電流および定常状態電流は、それぞれ約16mA・cm-2および約1μA・cm-2であった。式(1)により定義される550nmでの着色効率CE(λ)は、素子に蓄積した電荷ΔQに対する吸光度増加分ΔA(λ)のプロットの傾きから求められる。求められたCE(550nm)は約110C-1・cm2であった。
【0048】
【数1】

【0049】
上記のピーク電流および定常状態電流はともに非常に小さく、このことは、EC窓の電力消費が小さいことと、EC窓が長期のメモリを有するであろうことを示唆している。
電力消費に関し、例1で作製した2.5cm×2.5cmのEC窓は、着色状態において約30μAの準定常状態電流を有するであろう。これは、電荷消費速度が約2.4×10-3C・s-1または約1.5×1016電子・s-1であることを意味する。
長期メモリに関し、1.2Vの電圧をEC窓に60秒間印可し、回路を開いた場合に、EC窓はまず着色し、そして数時間の時間スケールで消色する。より定量的に述べると、608nmで求めたEC窓の吸光度は最初に求めた値に戻るまで約3時間かかり、一方、着色状態での最低透過率が5%増加するのにかかった時間は600秒間であった。
【0050】
(c)EC窓の安定性
例1で作製した2.5cm×2.5cmのEC窓の安定性を、そのEC窓を10,000回のエレクトロクロミックサイクルにかけることにより周囲条件の下で試験した。各エレクトロクロミックサイクルは、フェノチアジン修飾電極に対してビオロゲン修飾ナノ構造化電極を負極としてバイアスをかける1.2Vの電圧を15秒間印可し、そして0.00Vの電圧を15秒間印可することから成っていた。セルの性能を特徴づけるために用いるパラメーターを、1、10、100、1,000および10,000エレクトロクロミックサイクルの後に求め、表1にまとめた。
【0051】
【表1】

【0052】
(a)この試験は、例1に記載したように組み立てた2.5cm×2.5cmの素子に対して周囲条件下で行った。
(b)各エレクトロクロミックサイクルは、フェノチアジン修飾電極に対してビオロゲン修飾ナノ構造化電極を負極としてバイアスをかける1.2Vの電圧を15秒間印可し、そして0.0Vの電圧を15秒間印可することを伴った。
【0053】
別の観点の安定性は、EC窓を着色状態に保つことができる期間である。この観点の安定性は、1.2Vの電圧を印可してフェノチアジンナノ構造化SnO2:Sb電極に対してビオロゲン修飾ナノ構造化TiO2電極を負極としてバイアスをかけ、素子を着色させることにより調べた。この電圧を15秒間印可し、そして最低透過率が5%増加するのにかかった時間を求めたところ180秒間であった。この電圧を、180秒毎に15秒間印可した。これによりEC窓を全体にわたって着色状態に保った。500時間後に有意な劣化は確認されなかった。
概して、表1にまとめた結果から、例1に記載したように組み立てた2.5cm×2.5cmのEC窓が周囲実験室条件で10,000回のエレクトロクロミックサイクルの間比較的安定であることが明らかであるとともに、上記のまとめた結果から同じ窓が着色状態で500時間安定であることが明らかである。
【0054】
例3
β−(10−フェノチアジル)プロピル−ホスホン酸の調製(スキーム2に例示)
スキーム2の工程(i)〜(v)を例1(e)におけるスキーム1と関連して説明する。
XVa:β−(10−フェノチアジル)プロピル−ホスホネート
β−(10−フェノチアジル)プロピルクロリドIX(5g,1.8×10-2M)を5当量の亜リン酸トリエチル中で48時間還流させた。未反応の亜リン酸トリエチルを減圧蒸留により除去して粗生成物XVaを得た。この粗生成物を、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 1.17〜1.22(t,6H,J=7.1Hz),δ 1.79〜1.92(m,2H),δ 2.03〜2.13(m,2H),δ 3.92〜4.14(m,6H),δ 6.84〜7.17(m,8H,芳香族).
XVI:β−(10−フェノチアジル)プロピルホスホノ−トリメチルシリルエステル
CHCl3(乾燥)中のXVa(0.15g,4×10-4M)の氷冷溶液に、CHCl3(乾燥)中のブロモトリメチルシラン(0.18g,1.2×10-3M)の冷溶液を加えた。反応混合物を攪拌(0℃,1時間)し、次に室温で16時間攪拌した。溶剤を減圧下で除去して粗製シリルエステルXVIを得た。この粗製シリルエステルは、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 0.00〜0.39(s,18H),δ 1.75〜1.90(m,2H),δ 2.00〜2.20(m,2H),δ 3.84(m,2H),δ 6.80〜7.20(m,8H,芳香族).
XVII:β−(10−フェノチアジル)プロピル−ホスホン酸
1,4−ジオキサン:H2O(1:1)の室温の混合物中でXVIを2時間攪拌した。得られた沈殿物を濾過し、乾燥させて粗生成物XVIIを得た。
1H−NMR(メチルスルホキシド−d6):δ 1.55〜1.67(m,2H),δ 1.78〜1.84(t,2H),δ 3.91〜3.96(t,2H,J=7.0Hz),δ 6.8〜7.3(m,8H,芳香族).
【0055】
【化8】

【0056】
スキーム2(XVI)の合成に用いる試薬および条件:
(i)アクリロニトリル,Triton B(40%水溶液),0℃;還流1時間
(ii)メタノール性水酸化ナトリウム,還流15時間;
(iii)エタノール−トルエン,濃H2SO4,還流12時間;
(iv)ジエチルエーテル(乾燥),LiAlH4
(v)ピリジン−クロロホルム(乾燥),オキシ塩化リン,−15℃で2時間攪拌;室温で1.5時間攪拌;
(vi)亜リン酸トリエチル,還流48時間;
(vii)乾燥クロロホルム,0℃;ブロモトリメチルシラン,乾燥クロロホルム,0℃;室温で16時間攪拌;
(viii)1,4−ジオキサン/H2O(1:1),室温で2時間攪拌
【0057】
例4
β−(10−フェノチアジル)プロピオネートホスホン酸の調製(スキーム3に例示)
XXVI:β−(10−フェノチアジル)プロピオニトリル
アクリロニトリル(45ml)中のフェノチアジン(XXV,50g)の氷冷溶液にTriton B(40%水溶液0.6ml)を加えた。時々、激しい反応が起きた。反応混合物をスチームバスで2時間加熱し、そして放冷した。得られた粗製固形物を温エタノール−アセトン(30:70)混合物から結晶化してXXVIの橙色結晶を得た。
XXVII:β−(10−フェノチアジル)プロピオン酸
化合物XXVI(20g)を450mlのメタノール性水酸化ナトリウム(メタノール:水350:105ml)中で15時間還流させた。粗生成物を氷水に注ぎ入れ、そして硫酸(2mol・dm-3)を添加することにより酸性にした。粗生成物をエタノールから結晶化してXXVIIを得た。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 2.66〜2.67(t,2H,J=7.9Hz);δ 4.04〜4.09(t,2H,J=7.9Hz),δ 6.76〜7.05(m,8H,芳香族).
XXVIII:β−(10−フェノチアジル)プロピオン酸クロリド
XXVII(1.0g)を10mlの塩化オキサジル中で3時間還流させた。減圧下で塩化オキサジルを除去することによって、粗製酸塩化物XXVIIIを得た。この粗製酸塩化物を、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 3.40〜3.45(t,2H,J=7.9Hz);δ 4.27〜4.32(t,2H,J=7.9Hz),δ 6.87〜7.25(m,8H,芳香族).
XXIX:β−(10−フェノチアジル)プロピオネートホスフェートエステル
XXVIII(1.0g)を、少量のピリジンを含む乾燥クロロホルム中に溶解させた。ジエチルヒドロキシメチルホスホネートを加え、そして反応混合物を室温で一晩攪拌した。減圧下で溶剤を除去することによって粗生成物XXIXを得た。この粗生成物を、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 1.32〜1.37(t,2H,J=7.9Hz);δ 2.93〜2.98(t,2H,J=7.9Hz),δ 4.12〜4.28(m,6H,J=7.9Hz);δ 4.41〜4.44(d,2H,J=7.9Hz);δ 6.89〜7.22(m,8H,芳香族).
【0058】
XXX:β−(10−フェノチアジル)プロピオネートホスホノ−トリメチルシリルエステル
CHCl3(乾燥)中のXXIX(1.0g)の氷冷溶液に、CHCl3(乾燥)中のブロモトリメチルシラン(0.18g,1.2×10-3M)の冷溶液を加えた。この反応混合物を攪拌(0℃,1時間)し、次に室温で16時間攪拌した。溶剤を減圧下で除去して粗製シリルエステルXXXを得た。この粗製シリルエステルを、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 0.00(s,18H);δ 2.93〜2.98(m,2H),δ 4.23〜4.26(m,4H,J=7.9Hz);δ 7.11〜7.19(m,8H,芳香族).
XXXI:β−(10−フェノチアジル)プロピオネートホスホン酸
XXX(0.1g)を1,4−ジオキサン:H2O(1:1)混合物中で室温で2時間攪拌した。得られた析出物を濾過し、乾燥させて、粗生成物XXXIを得た。
1H−NMR(メチルスルホキシド−d6):δ 2.93〜2.98(m,2H);δ 4.23〜4.26(m,4H);δ 7.11〜7.19(m,8H,芳香族).
【0059】
【化9】

【0060】
試薬および条件:
(i)Triton B,0℃,2時間;還流2時間
(ii)NaOH,CH3OH,還流15時間
(iii)塩化オキサジル,還流3時間
(iv)ジエチルヒドロキシメチルホスホネート,乾燥CHCl3/ピリジン,室温で攪拌
(v)ブロモトリメチルシラン,乾燥CHCl3,0℃,室温で16時間攪拌
(vi)1,4−ジオキサン/H2O(1:1),室温で2時間攪拌
【0061】
例5
(1−フェロセニル)イミド−ベンジルメチルホスホン酸の調製(スキーム4に例示)
XXXII:(1−フェロセニル)イミノ−ベンジルジエチルホスホネート
フェロセンアルデヒド(2.5g,1.1×10-2M)をトルエン(80ml)に溶解させた。4−アミノベンジルホスホネート(2.6g,1.2×10-2M)および触媒量のパラトルエンスルホン酸(0.13g)を加え、そして反応混合物をDean-Stark装置で3時間還流させた。溶剤を減圧濃縮して粗生成物XXXIIを得た。この粗生成物を、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 1.25〜1.3(t,6H,J=7.0Hz);d 3.13〜3.20(d,2H,J=21Hz),δ 3.98〜4.09(q,4H,J=7.0Hz);d 4.26〜4.83(m,9H);d 7.12〜7.33(dd,4H,芳香族),d 8.35(s,1H).
XXXIII:(1−フェロセニル)イミド−ベンジルジエチルホスホネート
メタノール(80ml)中のXXXII(5.39g,1.2×10-2M)の温(50℃)溶液に固体NaBH4(0.5g,1.2×10-2M)を加えた。激しい反応が起こり、反応混合物を3時間還流させた。反応混合物を室温に冷却し、16時間攪拌した。溶剤を減圧下で除去し、そして粗生成物をクロロホルム(4×50ml)中に抽出し、乾燥させた。クロロホルム層を水で洗浄し、乾燥させた。溶剤を除去することによって、粗生成物が得られた。この粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(100%CHCl3)を使用して精製し、XXXIIIを得た。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 1.25〜1.30(t,6H,J=7.0Hz);d 3.04〜3.11(d,2H,J=21Hz),δ 3.99〜4.05(q,4H,J=7.0Hz);d 4.05〜4.26(m,11H);d 6.62〜6.65(d,2H,芳香族),d 7.13〜7.16(d,2H,芳香族).
【0062】
XXXIV:(1−フェロセニル)イミド−ベンジルジエチルトリメチルシリルエステル
CHCl3(乾燥,10ml)中のXXXIII(1.0g,2×10-3M)の氷冷溶液に、CHCl3(乾燥,4ml)中のブロモトリメチルシラン(2.0g,1.3×10-2M)の冷溶液を加えた。反応混合物を攪拌(0℃,1時間)し、次に室温で16時間攪拌した。溶剤を減圧下で除去して粗製シリルエステルXXXIVを得た。この粗製シリルエステルを、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):d 0.00(s,18H),d 2.94(d,2H,J=21Hz);d 4.17〜4.19(m,11H);d
6.79〜6.85(d,2H,芳香族);d 7.09〜7.20(d,2H,芳香族).
XXXV:(1−フェロセニル)イミド−ベンジルメチルホスホン酸
XXXIVを室温のDMF/H2O(1:1)混合物中で4時間攪拌した。析出した粗生成物を濾過し、H2Oで洗浄し、そして減圧下で乾燥させてXXXVを得た。
1H−NMR(メチルスルホキシド−d6):d 2.71〜2.78(d,2H,J=21Hz),d 3.93〜4.26(m,11H);d 6.53〜6.55(d,2H,J=7.9Hz);d 6.92〜6.95(d,2H,J=7.1Hz).
31P−NMR(メチルスルホキシド−d6):d 24.4.
【0063】
【化10】

【0064】
試薬および条件
(i)トルエン,パラ−トルエンスルホン酸,還流4時間
(ii)水素化ホウ素ナトリウム,CH3OH,還流3時間
(iii)ブロモトリメチルシラン,乾燥CH3Cl,0℃,0.5時間;室温12時間
(iv)ジメチルホルムアミド/H2O(1:1),室温4時間
【0065】
例6
β−(10−フェノキサジル)プロピオネートホスホン酸の調製(スキーム5に例示)
XIX:β−(10−フェノキサジル)プロピオニトリル
アクリロニトリル(45ml)中のフェノキサジン(XVII,50g)の氷冷溶液にTriton B(40%水溶液0.6ml)を加えた。時々、激しい反応が起きた。反応混合物をスチームバスにより2時間加熱し、そして放冷した。得られた粗製固形物を温エタノール−アセトン30:70混合物から結晶化してXIXの橙色結晶を得た。
XX:β−(10−フェノキサジル)プロピオン酸
化合物XIXを450mlのメタノール性水酸化ナトリウム(メタノール:水,350:105ml)中で15時間還流させた。粗生成物を氷水に注ぎ入れ、そして硫酸(2mol・dm-3)を添加することにより酸性にした。粗生成物をエタノールから結晶化してXXを得た。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 2.74〜2.80(t,2H,J=7.9Hz);δ 3.90〜3.96(t,2H,J=7.9Hz);δ 6.54〜6.88(m,8H,芳香族).
XXI:β−(10−フェノキサジル)プロピオン酸クロリド
XX(1.0g)を10mlの塩化オキサジル中で3時間還流させた。減圧下での塩化オキサジルの除去によって、粗製酸塩化物XXIを得た。この粗製酸塩化物を、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 3.19〜3.28(t,2H,J=7.9Hz);δ 3.90〜3.99(t,2H,J=7.9Hz);δ 6.47〜6.90(m,8H,芳香族).
【0066】
XXII:β−(10−フェノキサジル)プロピオネートホスフェートエステル
XXI(1.0g)を、少量のピリジンを含む乾燥クロロホルムに溶解させた。ジエチルヒドロキシメチルホスホネートを加え、そして反応混合物を室温で一晩攪拌した。減圧下で溶剤を除去することによって、粗生成物XXIIを得た。この粗生成物を、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 1.35〜1.42(t,6H,J=6.9Hz);δ 2.77〜2.82(d,2H,J=7.3Hz);δ 3.91〜3.96(d,2H,J=7.6Hz);δ 4.11〜4.28(m,4H);δ 4.41〜4.44(d,2H,J=8.8Hz),δ 6.55〜6.87(m,8H,芳香族).
XXIII:β−(10−フェノキサジル)プロピオネートホスホノトリメチルシリルエステル
CHCl3(乾燥)中のXXII(1.0g)の氷冷溶液に、CHCl3(乾燥)中のブロモトリメチルシラン(0.18g,1.2×10-3M)の冷溶液を加えた。反応混合物を攪拌(0℃,1時間)し、次に室温で16時間攪拌した。溶剤を減圧下で除去して粗製シリルエステルXXIIIを得た。この粗製シリルエステルを、さらに精製することなく次の工程に使用した。
1H−NMR(クロロホルム−d):δ 0.0(s,18H);δ 2.65〜2.70(t,2H,J=7.6Hz);δ 3.80〜3.86(m,2H);δ 4.25〜4.36(t,2H,J=10.0Hz);δ 6.44〜6.80(m,8H,芳香族).
XXIV:β−(10−フェノキサジル)プロピオネートホスホン酸
XXIII(0.1g)を室温の1,4−ジオキサン:H2O(1:1)混合物中で2時間攪拌した。得られた析出物を濾過し、そして乾燥させて粗生成物XXIVを得た。
1H−NMR(メチルスルホキシド−d6):δ 2.60〜2.67(m,4H);δ 3.66〜4.20(t,2H,J=7.0Hz);δ 6.49〜6.86(m,8H,芳香族).
31P−NMR(メチルスルホキシド−d6):24.5.
【0067】
【化11】

【0068】
試薬および条件:
(i)Triton B,0℃,2時間;還流2時間
(ii)NaOH,CH3OH,還流15時間
(iii)塩化オキサジル,還流3時間
(iv)ジエチルヒドロキシメチルホスホネート,乾燥CHCl3/ピリジン,室温で攪拌
(v)ブロモトリメチルシラン,乾燥CHCl3,0℃,室温で16時間攪拌
(vi)1,4−ジオキサン/H2O(1:1),室温で2時間攪拌
【0069】
例7
安定性試験
ナノ構造化電極の作製
ガラス全体を、使用前に徹底的に清浄にした。各シートを、洗剤を使用して手で洗浄し、水を使用して洗剤を徹底的にすすぎ落とした。次に、各シートをアセトンで洗浄して存在する水を全て除去し、そして熱空気を使用してアセトンを蒸発させた。ドクターブレード法を使用して各フィルムを堆積した。5mmの周辺部を残すのに必要な幾何学的配置を生じさせるように接着剤ステンシルを各ガラス電極上に載せた。ガラス表面を、堆積前にイソプロパノールで清浄にし、空気乾燥させた。ゾルの堆積物をガラスの一端に載せ、ガラス棒(直径7mm)を使用してガラスの向かい側の端の方に手作業で引き延ばし、ゾルの一様な堆積物を残した。カソードは50mm×50mm四方のTEC 15ガラスシートであり、窓中央部の40mm×40mm四方の領域にナノポーラスナノ結晶質二酸化チタンを被覆(フィルムを熱空気で乾燥させ、空気中で1時間焼成したことを除き、例1(a)におけるように作製)し、シール材のための露出した0.5cmの周辺部を残した。アノードは50mm×50mm四方のTEC 15ガラスシートであり、窓中央部の40mm×40mm四方の領域にナノポーラスナノ結晶質アンチモンドープ酸化錫を被覆(フィルムを熱空気で乾燥させ、1時間焼成したことを除き、例1(d)におけるように作製)し、シール材のための露出した0.5cmの周辺部を残した。
【0070】
ナノ構造化電極の修飾
酸化還元化合物により修飾する前に、ナノ構造化カソードおよびアノードを350℃のオーブン内に入れて、全ての水蒸気または有機物質を除去した。電極を、酸化還元化合物溶液に入れる前に、約80℃まで放冷した。ナノ構造化TiO2作用電極からなる全てのカソードを、0.1M LiClO4を含む水溶液(1×10-2mol・dm-3)からビオロゲンビス−(2−ホスホノエチル)−4,4’−ビピリジニウムジクロリドを2時間かけて化学吸着させることにより修飾した。誘導体化に続いて、各フィルムをエタノール洗浄浴中に水平に1分間入れた。誘導体化し洗浄した電極を、熱空気を使用して乾燥させた。
【0071】
アンチモンドープ酸化錫電極からなる全てのアノードを、以下に大要を述べるように一連の6つの酸化還元プロモーターにより誘導体化し、6つで1組の窓を6組得た。
A組:アンチモンドープ酸化錫電極に酸化還元プロモーターは化学吸着されていない。
B組:例6におけるように調製したβ−(10−フェノキサジル)プロピオネートホスホン酸の溶液(アセトニトリル中に約1×10-3M、および6×10-3M LiPF6)を調製し、この溶液に6つの窓を2時間浸漬した。
C組:例1(e)におけるように調製したβ−(10−フェノチアジル)プロポキシホスホン酸の溶液(アセトニトリル中に約1×10-3M、および6×10-3M LiPF6)を調製し、この溶液に6つの窓を2時間浸漬した。
D組:例3におけるように調製したβ−(10−フェノチアジル)プロピルホスホン酸の溶液(クロロホルム中に約1×10-3M、および6×10-3M LiPF6)を調製し、この溶液に6つの窓を2時間浸漬した。
E組:例4におけるように調製したβ−(10−フェノチアジル)プロピオネートホスホン酸の溶液(クロロホルム/アセトニトリル(4:1)中に約1×10-3M、および6×10-3M LiPF6)を調製し、この溶液に6つの窓を2時間浸漬した。
F組:例5におけるように調製した(1−フェロセニル)イミド−ベンジルメチルホスホン酸の溶液(1:1クロロホルム:ジメチルスルホキシド中に約1×10-3M、および6×10-3M LiPF6)を調製し、この溶液に6つの窓を2時間浸漬した。
【0072】
誘導体化プロセスの次に、各フィルムを、誘導体化に用いた各溶剤の洗浄浴中に水平に1分間入れた。誘導体化し洗浄した電極を熱空気を使用して乾燥させた。乾燥直後に窓を封止した。カソードとアノードを、外部オーミック接触のための領域を設けるためにそれらの電極の2つの対向する端部を2〜3mmずらしたオフセット構成で配置して貼り合わせた。
各素子(A〜F)のスイッチング時間および安定性を例2に記載のように試験した。結果を表2〜7に示す。Hewlett-Packard 8452Aダイオードアレイ分光光度計を使用して光吸収スペクトルを記録した。Solartron SI 1287定電位電解装置を使用して電位−電流特性を記録した。報告する試験は全て室温で行った。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
【表7】

【0079】
表に示した結果は、以下のように説明できる:
消色状態での透過率(%):着色状態の素子を透過する光の百分率。
着色状態での透過率(%):着色状態の素子を透過する光の百分率。
定常状態電流(SSC):電流が平衡に達したときの電流の値。
【0080】
概して、表2〜7にA〜Fについてまとめた結果から、上記のように組み立てた40×40mmのEC窓が周囲実験室条件のもとで7000エレクトロクロミックサイクルの間安定であることが判る。無色状態での透過率の値は、各試験を通して一貫している。このことは入射光の大部分が7000サイクル後でも各素子を透過することを示している。これは、フィルムの光学的劣化が実質的にないことを示している。着色状態での透過率の値も概して一貫している。無色状態での透過率と着色状態での透過率の間のダイナミックレンジは大きく、このことは、EC素子としての性能が優れていることを示している。着色状態でのSSC値は、概して、25μA・cm-2未満である。この値は、漏れ電流が非常に小さいことを示している。各場合における消色状態でのSSCは1μA・cm-2のオーダーである。これらの小さい電力消費量は、組み立てた素子のメモリ効果を示している。さらに、各素子は、着色状態と無色状態の両方で短いスイッチング時間を示した。着色時間は30ms/cm2から75ms/cm2までにおよび、消色時間は25ms/cm2から50ms/cm2までに及ぶ。これらの時間は、スイッチング時間が少なくとも1秒/cm2である従来の素子によって得られるものよりもかなり短い。
従来のEC素子を凌駕する本発明のEC素子の利点は以下の通りである。
1.本発明のEC素子はスイッチングが速い。
2.本発明のEC素子はより濃い着色を提供する。
3.色の範囲がより大きい。
4.本発明のEC素子の定常状態電流は小さい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属酸化物を含んで成り、その導電性金属酸化物にp型もしくはn型の酸化還元プロモーターまたはp型もしくはn型の酸化還元クロモフォアである電気的に活性な化合物が吸着されているナノポーラスナノ結晶質フィルム。
【請求項2】
導電性金属酸化物が、
(a)F,Cl,Sb,P,AsまたはBをドープしたSnO2
(b)Al,In,Ga,B,F,Si,Ge,Ti,ZrまたはHfをドープしたZnO;
(c)SnをドープしたIn23
(d)CdO;
(e)三元酸化物、例えばZnSnO3,Zn2In25,In4Sn312,GaInO3またはMgIn24
(f)TiO2/WO3またはTiO2/MoO3系;
(h)SbをドープしたFe23;および
(g)Fe23/SbまたはSnO2/Sb系;
のいずれかから選ばれる請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
前記導電性金属酸化物がSbをドープしたSnO2である請求項2記載のフィルム。
【請求項4】
前記電気的に活性な化合物がp型酸化還元プロモーターまたはp型酸化還元クロモフォアである請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記電気的に活性な化合物が下記式IV〜VII:
【化1】

[式V中のXはSまたはOであり、R8〜R10はそれぞれ独立に、
【化2】

(式中、R11はC1-10アルキルであり、R12〜R15はそれぞれ独立に水素;C1-10アルキル;C1-10アルキレン;任意選択的に置換されていてもよいアリール;ハロゲン;ニトロ;またはアルコール基であり、nは1〜10である)
から選ばれる]
の化合物から選ばれる請求項4記載のフィルム。
【請求項6】
前記電気的に活性な化合物が、
(1)β−(10−フェノチアジル)プロポキシホスホン酸;
(2)β−(10−フェノチアジル)プロピル−ホスホン酸;
(3)β−(10−フェノキサジル)プロピオネートホスホン酸;
(4)β−(10−フェノチアジル)プロピオネートホスホン酸;および
(5)(1−フェロセニル)イミド−ベンジルメチルホスホン酸;
から選ばれる請求項5記載のフィルム。
【請求項7】
前記電気的に活性な化合物がn型酸化還元プロモーターまたはn型酸化還元クロモフォア、好ましくは下記一般式I〜III:
【化3】

(式中、R1は、
【化4】

のいずれかから選ばれ;
2はC1-10アルキル、N−オキシド、ジメチルアミノ、アセトニトリル、ベンジルおよびフェニルから選ばれるものであって、任意選択的にニトロにより一置換または二置換されていてもよいものであり;
3はC1-10アルキルであり、R4〜R7はそれぞれ独立に水素;C1-10アルキル;C1-10アルキレン;アリールまたは置換アリール;ハロゲン;ニトロ;およびアルコール基から選ばれ;
Xは、電荷の釣り合いをとるイオンであって、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF4-、PF6-およびClO4-から選ばれ、nは1〜10である)
の化合物から選ばれるn型酸化還元クロモフォア、特にビス−(2−ホスホノエチル)−4,4’−ビピリジニウムジクロリドである請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項8】
エレクトロクロミック素子における使用に適する電極を製造するための請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルムの使用。
【請求項9】
透明または半透明基材を含んで成り、前記透明または半透明基材が導電性コーティングを担持しており、次いで前記導電性コーティングが請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性ナノ構造化金属酸化物フィルムを担持しているエレクトロクロミック素子用電極。
【請求項10】
エレクトロクロミック素子の製造における請求項9記載の電極の使用。
【請求項11】
少なくとも1つの請求項9記載の電極を含んで成るエレクトトクロミック素子。
【請求項12】
(a)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが導電性または半導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この導電性または半導電性金属酸化物にn型もしくはp型酸化還元クロモフォアまたはn型もしくはp型酸化還元プロモーターが吸着されている第1電極、但し、前記金属酸化物が半導電性金属酸化物である場合に、n型酸化還元クロモフォアまたはプロモーターが前記金属酸化物に吸着されている;
(b)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この導電性金属酸化物にp型もしくはn型酸化還元プロモーターまたはp型もしくはn型酸化還元クロモフォアが吸着されている第2電極または対電極、但し、前記第1電極がn型酸化還元クロモフォアまたはプロモーターを含む場合に、この第2電極がp型酸化還元プロモーターまたはクロモフォアを含むか、または前記第1電極がp型酸化還元クロモフォアまたはプロモーターを含む場合に、この第2電極がn型酸化還元プロモーターまたはクロモフォアを含む;および
(c)これらの電極の間にある電解質;
を含んで成る請求項11記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項13】
第1電極のナノ構造化フィルムが半導電性金属酸化物を含み、この半導電性金属酸化物にn型酸化還元クロモフォアが吸着されているとともに、第2電極が導電性金属酸化物を含んで成り、この導電性金属酸化物にp型酸化還元プロモーターが吸着されている請求項12記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項14】
前記半導電性金属酸化物が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、モリブテン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタル、銀、亜鉛、ストロンチウム、鉄(Fe2+またはFe3+)若しくはニッケルの酸化物、またはそれらのペロブスカイト型化合物、好ましくはTiO2、WO3、MoO3、ZnOおよびSnO2から選ばれる請求項12または13に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項15】
前記第1電極がカソードであり、前記第1電極上にコーティングされたナノ構造化フィルムがTiO2を含んで成り、このTiO2に請求項7で定義した式I,IIまたはIIIにより表されるn型酸化還元クロモフォアが吸着されており、そして前記第2電極がアノードであり、前記第2電極上にコーティングされたナノ構造化フィルムがSnO2:Sbを含んで成り、このSnO2:Sbに請求項5で定義した式IV,V,VIまたはVIIにより表されるp型酸化還元プロモーターが吸着されている請求項12〜14のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項16】
(a)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが導電性または半導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この導電性または半導電性金属酸化物にn型またはp型酸化還元クロモフォアが吸着されている第1電極、但し、前記金属酸化物が半導電性金属酸化物である場合に、n型酸化還元クロモフォアが前記金属酸化物に吸着されている;
(b)透明または半透明基材を含んで成り、この透明または半透明基材がその内側表面に導電性コーティングを担持しており、次いでこの導電性コーティングが導電性金属酸化物を含んで成るナノ構造化フィルムを担持しており、この導電性金属酸化物に電気的に活性な化合物が吸着されていない第2電極または対電極;および
(c)これらの電極の間にある電解質;
を含んで成るエレクトロクロミック素子。
【請求項17】
前記第1電極のナノ構造化フィルムが半導電性金属酸化物を含んで成り、この半導電性金属酸化物に請求項7で定義したn型酸化還元クロモフォアが吸着されている請求項16記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項18】
電極が、ガラスまたはプラスチック材料から、好ましくはフッ素をドープした酸化錫または酸化インジウム錫でコーティングされたガラスから形成された、請求項12〜17のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項19】
電極が5mm以下の距離、好ましくは50μm〜5mmの距離で離間されている請求項12〜18のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項20】
前記電解質が液状であり、溶剤中の溶液の形態で少なくとも1種の電気化学的に不活性な塩、特にγ−ブチロラクトン中に過塩素酸リチウムを好ましくは含む請求項12〜19のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項21】
(a)導電性のナノ構造化金属酸化物フィルム、適切であれば導電性のナノ構造化金属酸化物フィルムおよび半導電性のナノ構造化金属酸化物フィルムを用意し;
(b)得られたフィルムを、適切であればp型またはn型の電気的に活性な化合物の化学吸着により修飾し;
(c)第1電極と第2電極の内側表面に前記(修飾された)フィルムを適用し;そして
(d)前記電極の間に電解質が配置されるように電解質を加えること;
を含む請求項12〜20のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子の製造方法。
【請求項22】
前記導電性/半導電性金属酸化物フィルムを、電気化学的に活性な化合物の化学吸着に先立って水プラズマ流に暴露することにより処理する請求項21記載の方法。
【請求項23】
エレクトロクロミック窓およびディスプレイにおける請求項11〜20のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子の使用。
【請求項24】
請求項5で定義した式V,VIまたはVIIのいずれか1つにより表される化合物。
【請求項25】
(1)β−(10−フェノチアジル)プロポキシホスホン酸;
(2)β−(10−フェノチアジル)プロピル−ホスホン酸;
(3)β−(10−フェノチアジル)プロピオネートホスホン酸;および
(4)β−(10−フェノキサジル)プロピオネートホスホン酸;
から選ばれる式Vにより表される請求項23記載の化合物。
【請求項26】
(1−フェロセニル)イミド−ベンジルメチルホスホン酸である式VIIにより表される請求項24記載の化合物。
【請求項27】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルムを製造するため、請求項9記載の電極を製造するため、または請求項11〜20のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子を製造するための請求項24〜26のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属酸化物を含んで成り、その導電性金属酸化物にp型もしくはn型の酸化還元プロモーターまたはp型もしくはn型の酸化還元クロモフォアである電気的に活性な化合物が吸着されているナノポーラスナノ結晶質フィルム。
【請求項2】
導電性金属酸化物が、
(a)F,Cl,Sb,P,AsまたはBをドープしたSnO2
(b)Al,In,Ga,B,F,Si,Ge,Ti,ZrまたはHfをドープしたZnO;
(c)SnをドープしたIn23
(d)CdO;
(e)三元酸化物、例えばZnSnO3,Zn2In25,In4Sn312,GaInO3またはMgIn24
(f)SbをドープしたFe23;および
(g)TiO2/WO3またはTiO2/MoO3
(h)Fe23/SbまたはSnO2/Sb系;
のいずれかから選ばれる請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
前記導電性金属酸化物がSbをドープしたSnO2である請求項2記載のフィルム。
【請求項4】
前記電気的に活性な化合物がp型酸化還元プロモーターまたはp型酸化還元クロモフォアである請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記電気的に活性な化合物が下記式IV〜VII:
【化1】

[式V中のXはSまたはOであり、R8〜R10はそれぞれ独立に、
【化2】

(式中、R11はC1-10アルキルであり、R12〜R15はそれぞれ独立に水素;C1-10アルキル;C1-10アルキレン;任意選択的に置換されていてもよいアリール;ハロゲン;ニトロ;またはアルコール基であり、nは1〜10である)
から選ばれる]
の化合物から選ばれる請求項4記載のフィルム。
【請求項6】
前記電気的に活性な化合物が、
(1)β−(10−フェノチアジル)プロポキシホスホン酸;
(2)β−(10−フェノチアジル)プロピル−ホスホン酸;
(3)β−(10−フェノキサジル)プロピオネートホスホン酸;
(4)β−(10−フェノチアジル)プロピオネートホスホン酸;および
(5)(1−フェロセニル)イミド−ベンジルメチルホスホン酸;
から選ばれる請求項5記載のフィルム。
【請求項7】
前記電気的に活性な化合物がn型酸化還元プロモーターまたはn型酸化還元クロモフォア、好ましくは下記一般式I〜III:
【化3】

(式中、R1は、
【化4】

のいずれかから選ばれ;
2はC1-10アルキル、N−オキシド、ジメチルアミノ、アセトニトリル、ベンジルおよびフェニルから選ばれるものであって、任意選択的にニトロにより一置換または二置換されていてもよいものであり;
3はC1-10アルキルであり、R4〜R7はそれぞれ独立に水素;C1-10アルキル;C1-10アルキレン;アリールまたは置換アリール;ハロゲン;ニトロ;およびアルコール基から選ばれ;
Xは、電荷の釣り合いをとるイオンであって、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF4-、PF6-およびClO4-から選ばれ、nは1〜10である)
の化合物から選ばれるn型酸化還元クロモフォア、特にビス−(2−ホスホノエチル)−4,4’−ビピリジニウムジクロリドである請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項8】
エレクトロクロミック素子における使用に適する電極を製造するための請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルムの使用。
【請求項9】
透明または半透明基材を含んで成り、前記透明または半透明基材が導電性コーティングを担持しており、次いで前記導電性コーティングが請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性ナノ構造化金属酸化物フィルムを担持しているエレクトロクロミック素子用電極。
【請求項10】
エレクトロクロミック素子の製造における請求項9記載の電極の使用。
【請求項11】
少なくとも1つの請求項9記載の電極を含んで成るエレクトトクロミック素子。
【請求項12】
請求項5で定義した式V,VIまたはVIIのいずれか1つにより表される化合物。
【請求項13】
(1)β−(10−フェノチアジル)プロポキシホスホン酸;
(2)β−(10−フェノチアジル)プロピル−ホスホン酸;
(3)β−(10−フェノチアジル)プロピオネートホスホン酸;および
(4)β−(10−フェノキサジル)プロピオネートホスホン酸;
から選ばれる式Vにより表される請求項12記載の化合物。
【請求項14】
(1−フェロセニル)イミド−ベンジルメチルホスホン酸である式VIIにより表される請求項12記載の化合物。

【公開番号】特開2006−309216(P2006−309216A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−103394(P2006−103394)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【分割の表示】特願2001−530641(P2001−530641)の分割
【原出願日】平成12年10月11日(2000.10.11)
【出願人】(501389497)ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン (1)
【Fターム(参考)】