説明

エレクトロクロミック表示体の着色・消色表示における階調や速度の制御方法

【課題】エレクトロクロミック表示体(素子、描画ボード、印字装置等)のその時々の状態に合わせた電圧印加法が必要であり、階調をコントロールした状態で高速表示することが課題である。
【解決手段】エレクトロクロミック薄膜、液体もしくは無機・有機固体電解質からなるエレクトロクロミック表示体の表示に際し、kHzからMHzオーダーの対称性高周波電圧(正弦波、方形波、三角波)をその波高値、周波数、パルス数を制御して、電流方向限定素子を介して前記エレクトロクロミック表示体に印加して階調を調整するエレクトロクロミック表示体の着色・消色表示における階調や速度の制御方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック表示体の着色・消色表示における階調や速度の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック表示体として例えばエレクトロクロミック素子は、エレクトロクロミック薄膜と電解質から構成される。電圧印加によりエレクトロクロミック薄膜に電解質からイオン注入を行い着色、逆電圧により消色する。エレクトロクロミック素子は、表示速度が比較的遅いと認識されており、自動車用防眩ミラーや表示速度を要求されないようなディスプレイへ応用されている。これらの応用の場合、印加電圧は主に直流電圧であり、その電圧の大きさと印加時間で色濃度を決定している。
【特許文献1】特開昭64-31132号公報「エレクトロクロミック素子駆動法」、
【特許文献2】特開2004-29327号公報「表示装置および表示素子駆動方法」、
【特許文献3】特開平10-143125号公報「エレクトロクロミック表示装置」、
【特許文献4】特開2005-99249号公報「エレクトロクロミック素子及び該素子の駆動方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エレクトロクロミック素子は、表示速度が要求されないようなディスプレイへの応用が主である。それは、ミクロンオーダーのエレクトロクロミック薄膜へ着色に十分なイオンを注入する必要があるためである。このイオン注入用電圧として、直流電圧が主に用いられており、色の濃さは印加電圧の大きさと印加時間によりコントロールされている。また、交流電圧で制御するものもあるが、それらにおいては、片極性の交流電圧が使用されている。この場合、そのオフセット分の直流電圧に起因した着色機構となってしまうため、高周波化が難しいといった欠点がある。また、正確な電荷量計測も難しい。
また、エレクトロクロミック素子は抵抗成分とキャパシタ成分からなるが、それらは着色や消色の状態とともに変化する。よって、例えば、十分着色した状態、すなわちエレクトロクロミック薄膜が高抵抗な状態に直流電圧を印加しつづけることは、素子のエレクトロクロミック薄膜と電解質部を通して漏れ電流を引き起こすこととなり、望ましくない。エレクトロクロミック素子のその時々の状態に合わせた電圧印加法が必要であり、階調をコントロールした状態で高速表示することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するものでありその特徴とするところは、エレクトロクロミック薄膜、液体もしくは無機・有機固体電解質からなるエレクトロクロミック表示体(素子、描画ボード、印字装置等)の表示に際し、kHzからMHzオーダーの対称性高周波電圧(正弦波、方形波、三角波)をその波高値、周波数、パルス数を制御して、電流方向限定素子を介して前記エレクトロクロミック表示体に印加して階調を調整するエレクトロクロミック表示体の着色・消色表示における階調や速度の制御方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、エレクトロクロミック薄膜、液体もしくは無機・有機固体電解質とからなるエレクトロクロミック表示素子、描画ボード、印字装置の表示制御に関するものである。直流電圧をエレクトロクロミック素子に印加した際、注入イオン量は印加時間が経つにつれ指数関数的に減少する。つまり、現象的には、時間あたりの注入イオン量が非常に多い領域、すなわち、着色速度が速い領域がある。よって、本発明では、その領域を積極的に使用することを目的としている。kHzからMHzオーダーの対称性高周波電圧(正弦波、方形波、三角波)を印加し、その波高値、周波数、パルス数を制御し、かつ、その電圧を電流方向限定素子と電流計測システムを介してエレクトロクロミック素子に印加することで、瞬時に階調をコントロールした状態で高速表示するものである。片極性の高周波電圧を印加すると、そのオフセット分の直流電圧に起因した着色もしくは消色メカニズムが主体的となってしまうばかりか、正確な電荷量計測が困難になるが、本発明ではオフセットの無い対称性高周波電圧を用い、流れる電流の方向を片極性に限定することで、着色および消色の階調や速度を精度良くコントロールできる。
而して、エレクトロクロミック素子の階調は、連続制御、不連続制御関係なくクロミック膜に注入するイオン電荷の量に依存する。そこで、どれだけ注入されたかを計測する必要がある。
本発明は、高精度な階調制御のための正確な電荷量計測に関するもので、エレクトロクロミック素子がコンデンサ成分を持っていることから、計測システムを挿入すると計測システムを入れない場合(純粋に素子だけの場合)と電荷の流れ方が変わる。印加電圧が直流電圧だとスイッチオンで急峻な電流が流れる。そして、その内訳はイオン電荷なのか色と関係のない電子電荷なのか区別することは困難なため、電荷を計測しても当てにならない。次に、片極性の交流が考えられるが、この場合、印加電圧が例えば+(着色方向)の片極性としても、流れる電荷はマイナスにも流れる。これも、イオン電荷のみを見積もることが非常に困難である。
エレクトロクロミックECに関する他の技術では、この過渡現象を考慮に入れていないものがほとんどである。そこで、本発明は、印加電圧は対称性のもので、流れる電流の向きを限定する。電流の方向を限定しないと着いたり、消えたりを繰り返すだけである。対称性の場合、かつ周波数が高周波だとスイッチオンで、直流の時のような過渡電流がほとんど流れないのでイオン電荷量を見積ることができる。よって、高周波を使うのは単に制御スピードだけの問題だけでなく過渡電流と呼ばれる制御したいイオン電荷とは無関係に流れる電子電荷の影響を極力抑えるためである。また、表示速度の目安は一般に10msといわれており、これを目標に100kHz程度より速い制御を目指すということでkHz-MHzとしている。
図1には、kHzからMHzオーダーの対称性高周波の印加電圧(点線で示す)(図1の場合、正弦波)と実線で示す電流方向限定素子による階調制御の概念図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
エレクトロクロミック現象は、現象的には比較的高速な現象と言える。しかしながら、十分目に見える程度の着色を得るには、エレクトロクロミック薄膜に十分なイオンを注入する必要があり、表示に時間を要すると認識されている。本発明では、その比較的高速な現象を活かし、瞬時に、かつ精度良く階調を制御し、高速表示するものである。
一つの階調を調整する方法は、kHzからMHzオーダーの対称性高周波電圧(正弦波、方形波、三角波)において、その波高値、周波数、パルス数を制御し、電流方向限定素子と電流計測システムを介してエレクトロクロミック素子の両端電極間や印字装置の表示部−描消具間に印加するのである。また、消色時も同様の方法でよい。
片極性の高周波電圧を印加すると、そのオフセット分の直流電圧に起因した着色もしくは消色メカニズムとなってしまい、また、電荷量の計測が困難である。本発明ではオフセットの無い対称性高周波電圧を用い、ダイオードなどを用いて流れる電流の方向を片極性に限定することで、着色および消色の階調や速度を精度良くコントロールするのである。
高周波電圧を連続的に印加しつづけることで、直流電圧を印加した時のようなアナログ表示、コントロールして印加することでデジタル表示が可能である。
ダイオードなどの電流の方向限定素子を外した場合、速度可変の点滅表示も可能である。
様々な階調をある一定の表示時間で表示することも可能である。
【0007】

而して、本発明において、エレクトロクロミック表示体とは、エレクトロクロミック薄膜、液体もしくは無機・有機固体電解質からなるエレクトロクロミック表示素子、エレクトロクロミック描画ボード、エレクトロクロミック印字装置等を言う。
本発明において、印加する対称性高周波電圧(正弦波、方形波、三角波)のkHzからMHzオーダー範囲とその意義は、表示スピードの目安が10msか、もしくは更なる高速表示を実現するための周波数。加えて、電荷量計測において過渡現象を極力避けることができる周波数帯。
本発明において、対称性高周波電圧の波高値、周波数、パルス数を制御する意義は、直流電圧を用いた場合は、過渡電流の影響が大きい。片極性の場合、そのオフセット分に起因した着色を示すが、イオン電荷量を見積もることが困難。
本発明において、対称性高周波電圧を電流方向限定素子を介して印加する意義は、対称性の場合、着色消色を繰り返してしますため、そのどちらかに限定する手段。
本発明において、電流方向限定素子とは、スイッチング機構を要しないダイオードなどのシンプルなもの。ただし、ダイオードの場合、高周波用で逆特性が少ないものが良い。
本発明において、エレクトロクロミック表示体の着色・消色表示における階調を調整するとは
連続制御であろうが、ステップ制御であろうが、高周波電圧を用いる。それは、注入電荷量を正確に測ることが最も大切であるからである。
【実施例1】
【0008】
ITO付きガラス上にレーザーアブレーション法でWO3薄膜を室温成膜し、スペーサーを介して対向ITO付きガラスを張り合わせた後、WO3薄膜にLiClO4液体電解質を注入し、エレクトロクロミック素子を作製した。WO3薄膜の厚さは、300nmと非常に薄い。
上記のエレクトロクロミック素子の両ITO電極間にファンクションジェネレーターでダイオードと電流計測用抵抗を介して対称性高周波電圧を印加した。図2は高周波正弦波電圧のパルス数を増加させた時の、エレクトロクロミック素子の着色における階調性を700nm光の透過率と時間の関係で示すグラフである。この場合、10段階に階調制御したが、更に細かく制御することも可能であり、その精度を利用すればアナログ的表示も可能である。表示速度はミリ秒のオーダーである。なお、現象そのもの(イオン注入)は、1MHzの正弦波でも起こりうることを実験で確認しており、極微量単位(μC/cm2オーダー)でイオン量を制御できる。超薄膜エレクトロクロミック素子の場合、さらなる高速表示ができる。
【実施例2】
【0009】
ITO付きガラス上にレーザーアブレーション法でLiMn2O4、その上にWO3薄膜を室温成膜した。描消具とITO間にファンクションジェネレーターを用いて、ダイオードを介して高周波電圧を印加し、描画した。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明は前記の優れた効果を有し、携帯電話ディスプレイ、街頭広告パネル、球場スコア
ーボード、携帯表示ペーパー等の表示物に幅広く活用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】対称性高周波電圧と電流方向限定素子による階調制御の概念図である。
【図2】実施例1における10段階階調を700nm光の透過率と時間の関係で示すグラフである。
【符号の説明】
【0012】
(特に無し)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明は、エレクトロクロミック薄膜、液体もしくは無機・有機固体電解質からなるエレクトロクロミック表示体の表示に際し、kHzからMHzオーダーの対称性高周波電圧をその波高値、周波数、パルス数を制御して、電流方向限定素子と電流計測システムを介して前記エレクトロクロミック表示体に印加して階調を調整することを特徴とするエレクトロクロミック表示体の着色・消色表示における階調や速度の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−39873(P2008−39873A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210598(P2006−210598)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【Fターム(参考)】