説明

エレクトロクロミック表示素子及びその製造方法

【課題】信頼性に優れた性能を持つエレクトロクロミック表示素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明にかかるエレクトロクロミック表示素子は、表示基板1と、表示基板1とは対向配置された対向基板6を有する。また、エレクトロクロミック表示素子は、表示基板1と対向基板6との間において、複数の画素10を有する表示領域11に形成された第1の隔壁7、及び表示領域11を取り囲み、第1の隔壁7と同一材料により形成された第2の隔壁8を有する。また、第1の隔壁7によって取り囲まれた凹部内には、電解質層4が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレクトロクロミック表示素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスにおけるコンピュータの普及により、文書の保存や伝達用に使用される紙の量は減少してきているが、デジタル情報を閲覧する際、紙に印刷して読む傾向は依然として根強い。したがって、一時的に使用するだけで破棄される紙の量は、逆に近年増加する傾向にある。また、書籍・雑誌・新聞などに日々消費される紙の量は、資源・環境の面から脅威であり、これらは媒体が変わらない限り減少する見込みはない。しかしながら、人間の情報認識方法や思考方法を考慮するとCRT(cathoderay tube:ブラウン管)や透過型液晶に代表されるような"ディスプレイ"に対する"紙"の優位性も無視することはできない。
【0003】
そこで近年では紙に変わる電子媒体として、紙の長所とデジタル情報をそのまま扱えるディスプレイの長所を融合した電子ペーパーの実現が期待されている。電子ペーパーに期待される必要な特性としては、反射型の表示素子であること、高白反射率・高コントラスト比を有すること、高精細な表示が出来ること、表示にメモリ効果があること、低電圧で駆動できること、薄くて軽いこと、安価であることなどが挙げられる。
【0004】
電子ペーパーの表示方式としては、反射型液晶方式、電気泳動方式、2色ボール方式、エレクトロクロミック方式などがある。反射型液晶方式は、液晶の旋光性や複屈折性を利用した偏光板を使用する表示素子であるため暗く、また、金属反射板の性質上白表示がぎらぎらした反射光となるなどの欠点を有する。このため、長時間画面を見つづけると目にかなりの負担を強いることになる。
【0005】
電気泳動方式は、白色顔料や黒色トナーなどが、電界の作用によって電極上に移動する電気泳動という現象を利用したものである。2色ボール表示方式は、半分が白色、半分が黒色などの2色に塗り分けられた球体からなり、電界の作用による回転を利用したものである。どちらの方式も粒状体が入り込めるだけの隙間が必要であり、最密に充填できないことから高コントラストを得ることは難しい。
【0006】
エレクトロクロミック方式は、電界印加によって可逆的な酸化還元反応が起こり、それに伴った発色/消色が起こることを利用したものである。エレクトロクロミック方式は、電気的に発色/消色を繰り返す反射型の表示素子であるため、その他の表示方式に対して、目に与える負担の点やコントラストの点などで有利と言える(特許文献1、2、3、4参照)。
【0007】
このようなエレクトロクロミック方式を用いた表示素子で任意のパターンを表示する方法としては、単純マトリクス駆動方式を用いるのが一般的である。マトリクス駆動方式により表示を行うために、表示素子には、表示電極と対向電極として、複数のストライプ状の透明電極がそれぞれ形成される。そして、それぞれの電極を対向かつ交差するように配する。このような構成のエレクトロクロミック素子で、表示電極と対向電極を1つずつ選択して、その間に適切な電圧を印加する。これにより、選択された電極が交わった画素部分のみにエレクトロクロミズム現象による着色・消色を起こさせることができる。こうした単純マトリクス駆動方法は、エレクトロクロミック表示素子に限るものではなく、液晶表示素子等でも行われる方法である。
【0008】
しかし、単純マトリクス駆動の場合は、電界が電圧を印加している領域の周辺に広がって存在しているため、目的とする画素付近の他の画素にも着色・消色が生じてしまう(クロストーク)という課題がある。従来、エレクトロクロミック素子において、クロストークを排除するための方法としては、アクティブマトリクス駆動を用いる方法がある(例えば特許文献5参照)。アクティブマトリクス駆動の場合、画素の一つ一つにスイッチング素子を接続し、目的とする画素のみを電気的に接続状態にする。また、対象とする画素以外に電界が広がらなくなるように、基板に設けられた溝にエレクトロクロミック溶液を充填する構成が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0009】
しかしながら、これらの方法ではいくつかの課題がある。まず、特許文献5に記載されているようなスイッチング素子を用いたアクティブマトリクス駆動の場合には、画素を駆動するためのスイッチング素子を、画素の一つ一つに設置しなければならず、素子の製造コストが増大するという課題がある。また、スイッチング素子を形成する領域を画素の近傍に設けなければならず、表示に利用できる面積が相対的に減少してしまうという課題もある。
【0010】
一方、特許文献6に記載されるように、基板に設けた凹部の内部に電極を形成することで、対象とする画素以外に電界が広がらないような基板の形状とする方法では高解像度を得るために画素を小さくすることが困難になる。また、パターニング方法としてよく用いられるフォトリソグラフィー技術は平面基板を対象とする技術である。従って、凹部に電極を形成する際にフォトリソグラフィー技術を適用することは困難であり、特別なパターニング方法が必要となる。これは製造コストを増大させる要因となりうる。
【0011】
そこで、これらの課題を解決する方法として、上基板と下基板との間に、多数の貫通孔を有するセパレータを設置し、セパレータ上の貫通孔に電解質を充填することにより、隣接する電極への電界の広がりを防止する方法もある(特許文献7参照)。しかしながら、この方法においてもセパレータに電解質を充填するため、応答速度が遅いといった課題がある。
【0012】
そこで、この課題を解決する表示素子として、各画素に対応する電極の周囲に第1の隔壁を設け、その内部に電解質を充填して対向基板を貼り合せたものが考えられる。これにより、電解質によるクロストークを防止するとともに、画素電極全面に渡って電解質が接触しているため、応答速度が速い素子が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−287173号公報
【特許文献2】特開2006−208862号公報
【特許文献3】特開2006−058617号公報
【特許文献4】特開平7−134317号公報
【特許文献5】特開昭56−165186号公報
【特許文献6】特開平8−137412号公報
【特許文献7】特開2004−226735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来技術に示したエレクトロクロミック表示素子の形成においては、各画素に対応する第1の隔壁内に電解質を充填した後、対向基板を貼り合わせる必要がある。例えば応答速度の速い素子を得るために液状電解質(電解液)を用いた場合、電解液は電極全面に渡って接触するように十分な量を充填する必要がある。この状態で対向基板を貼り合せると第1の隔壁最外周から余剰電解液が溢れてしまう。また、このとき第1の隔壁最外周に基板間を接着するための封止樹脂を設けていた場合、電解液と封止樹脂が接触することで硬化不良を起こす可能性が高い。
【0015】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、信頼性に優れた性能を持つエレクトロクロミック表示素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかるエレクトロクロミック表示素子は、第1の基板と、前記第1の基板とは対向配置された第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間において、複数の画素を有する表示領域に形成された第1の隔壁と、前記第1の基板と前記第2の基板との間において、前記表示領域を取り囲み、前記第1の隔壁と同一材料により形成された第2の隔壁と、前記第1の隔壁によって取り囲まれた凹部内に形成された電解質層とを備えるものである。これにより、EC表示素子は、信頼性に優れた性能を有する。
【0017】
また、上記のエレクトロクロミック表示素子であって、前記第2の隔壁に対して前記第1の隔壁とは反対側に形成され、前記第1の基板と前記第2の基板を貼り合わせる封止樹脂をさらに有することが好ましい。
【0018】
そして、上記のエレクトロクロミック表示素子であって、前記第1の隔壁上及び前記第2の隔壁上のうち少なくともいずれか一方に接着層が形成されることが好ましい。これにより、電解質層の電解質によるクロストークがより起こりにくくなる。これに加え、基板間の接着強度が向上する。
【0019】
さらに、上記のエレクトロクロミック表示素子であって、前記電解質層は、液状の電解質により形成されることが好ましい。これにより、電解質を第1の隔壁内へ充填しやすくなり、さらに、応答速度が速くなる。
【0020】
他方、本発明にかかるエレクトロクロミック表示素子は、第1の基板と、前記第1の基板とは対向配置された第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間において、複数の画素を有する表示領域に形成された第1の隔壁と、前記第1の基板と前記第2の基板との間において、前記表示領域を取り囲む第2の隔壁と、前記第1の隔壁によって取り囲まれた凹部内に形成された電解質層と、前記第2の隔壁に対して前記第1の隔壁とは反対側に形成され、前記第1の基板と前記第2の基板を貼り合わせる封止樹脂とを備えるものである。これにより、EC表示素子は、信頼性に優れた性能を有する。
【0021】
本発明にかかるエレクトロクロミック表示素子の製造方法は、第1の基板上において、複数の画素を有する表示領域に第1の隔壁を形成し、前記第1の隔壁と同一材料により、前記表示領域を取り囲む第2の隔壁を形成する工程と、前記第1の隔壁によって取り囲まれた凹部内に電解質層を形成する工程と、前記第1の基板と第2の基板との間に前記電解質層を挟み込むように、前記第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わせる工程とを備えるものである。これにより、EC表示素子は、信頼性に優れた性能を有する。
【0022】
また、上記のエレクトロクロミック表示素子の製造方法であって、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁とを形成する工程では、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁とを同時に形成することが好ましい。これにより、生産性を向上させることができる。
【0023】
そして、上記のエレクトロクロミック表示素子の製造方法であって、前記電解質層を形成する工程では、インクジェット法により電解質が塗布されることにより前記電解質層を形成することが好ましい。インクジェット法を用いて形成することで、第1の隔壁に囲まれた凹部内への電解質の充填量を制御でき、余分な充填を減少させることができる。
【0024】
他方、本発明にかかるエレクトロクロミック表示素子の製造方法は、第1の基板上において、複数の画素を有する表示領域に第1の隔壁を形成し、前記表示領域を取り囲む第2の隔壁を形成する工程と、前記第1の隔壁によって取り囲まれた凹部内に電解質層を形成する工程と、前記第1の基板と第2の基板との間に前記電解質層を挟み込むように、前記第2の隔壁に対して前記第1の隔壁とは反対側に形成された封止樹脂を介して、前記第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わせる工程とを備えるものである。これにより、EC表示素子は、信頼性に優れた性能を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、信頼性に優れた性能を持つエレクトロクロミック表示素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施の形態にかかるEC表示素子の構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態にかかるEC表示素子の他の構成を示す概略断面図である。
【図3】実施の形態にかかるEC表示素子の製造方法を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
実施の形態
エレクトロクロミック表示素子とは、第1の電極層と第2の電極層との間に、エレクトロクロミック(以下、ECと称す。)特性を示す発色層及び電解質層を形成したものである。EC表示素子は、電極に順電圧・逆電圧をかけることによって、発色/消色を繰り返す反射型の表示素子である。まず、図1を参照して、EC表示素子の構成について説明する。図1(a)は、EC表示素子の構成を示す概略上面図である。なお、図1(a)において、表示電極及び対向電極を点線で表す。図1(b)は、図1(a)のIB−IB概略断面図である。
【0028】
図1(a)に示すように、複数の第1の電極層(表示電極)2は、一定間隔を隔ててそれぞれ平行に形成されている。同様に、複数の第2の電極層(対向電極)5は、一定間隔を隔ててそれぞれ平行に形成されている。表示電極2と対向電極5とは交差する。具体的には、表示電極2と対向電極5とは直交する。この表示電極2と対向電極5とが交差する部分が画素10となる。画素10は、アレイ状に配置される。
【0029】
第1の隔壁7は、表示領域11に形成される。表示領域11は、複数の画素10がアレイ状に配置された領域である。第1の隔壁7は、各画素10を取り囲むように形成される。すなわち、第1の隔壁7は、画素10を画定するように形成される。第2の隔壁8は、第1の隔壁7の最外周に全ての画素10を取り囲むように形成される。すなわち、第2の隔壁8は、表示領域11を取り囲むように形成される。第2の隔壁8の内側に、第1の隔壁7がある。封止樹脂9は、第2の隔壁8を取り囲むように形成される。封止樹脂9は、第2の隔壁8に対して第1の隔壁7とは反対側に形成される。すなわち、封止樹脂9の内側に、第1の隔壁7及び第2の隔壁8がある。
【0030】
図1(b)に示すように、絶縁性基板である表示基板1上に表示電極2が形成される。表示電極2上には、第1の隔壁7、第2の隔壁8、封止樹脂9が形成される。第1の隔壁7及び第2の隔壁8は、例えば表示基板1側に形成され、後述する対向基板6とは接着しない。第1の隔壁7及び第2の隔壁8は、基板間間隔と同程度の高さを有する。すなわち、第1の隔壁7の上端及び第2の隔壁8の上端にはほとんど隙間がない。また、第1の隔壁7及び第2の隔壁8は、同一材料によって形成することができる。
【0031】
第1の隔壁7によって取り囲まれる凹部内には、発色層(EC材料層)3、電解質層4が順次設けられる。EC材料層3は、電気活性を有し、かつ電気化学的な酸化もしくは還元により変色する発色層である。また、EC材料層3は、画素10ごとに形成される。画素10ごとに、例えば減法混色に用いられるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の発色が可能な色素をEC材料層3に適用してそれぞれに塗り分け、並置混合法によりフルカラー表示を行うことができる。電解質層4は、液状、ゲル状、固体状等の電解質によって形成される。
【0032】
また、絶縁性基板である対向基板6は、表示基板1に対向配置される。対向基板6の表示基板1側には、対向電極5が形成される。それぞれの画素10において、表示電極2と対向電極5とは対向配置される。そして、それぞれの画素10において、EC材料層3及び電解質層4は、表示電極2及び対向電極5によって挟み込まれる。このように、それぞれの画素10では、視認側から順に、表示電極2、EC材料層3、電解質層4、対向電極5が形成される。なお、表示電極2とEC材料層3、EC材料層3と電解質層4、及び電解質層4と対向電極5は、直接接する。
【0033】
また、封止樹脂9は、表示基板1と対向基板6を貼り合わせる。すなわち、封止樹脂9は、基板間を貼り合わせ、封止する。具体的には、封止樹脂9には、表示基板1、表示電極2、対向電極5、及び対向基板6が接着される。EC表示素子は、以上のように構成される。
【0034】
本実施の形態にかかるEC表示素子は、電解質層4を各画素10に分離するための第1の隔壁7を有する。このため、クロストークなく単独で発色/消色を行うことができる。また、表示領域11を取り囲むように第2の隔壁8を設けている。このため、画素10内に充填した電解質が溢れたとしても素子外へ溢れることはほとんどない。すなわち、第1の隔壁7から溢れた電解質が第2の隔壁8によって塞き止められる。これにより、本実施の形態にかかるEC表示素子は、信頼性に優れた性能を持つ。
【0035】
また、第2の隔壁8に対して第1の隔壁7とは反対側に封止樹脂9を設けることで、溢れた電解質が封止樹脂9と接触しにくくなる。これにより、封止樹脂9の硬化不良が起こりにくくなり、基板同士を良好に接着することができる。
【0036】
なお、図1(b)においては、発明の理解を容易にするため、対向電極5等を厚く示しているが、実際は100nm程度に形成される。このため、対向電極5の厚みは、第1の隔壁7及び第2の隔壁8の高さ(10μm以上)に対して無視できる程度である。従って、第1の隔壁7及び第2の隔壁8のそれぞれにおいて高さを均一にしても、第1の隔壁7と対向基板6との間、又は第2の隔壁8と対向基板6との間に隙間はほとんどない。このため、第2の隔壁8から電解質が溢れ出ることはほとんどない。
【0037】
表示基板1は、観察者からEC材料層3を視認できる必要があるため、透明である必要があり、70%以上の全光線透過率を有することが望ましい。さらに好ましくは80%以上の全光線透過率を有することが望ましい。表示基板1としては、ガラス基板や、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体(MS)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、などの樹脂基板を用いることができる。フレキシブル性を重視するならば、樹脂基板を用いることが好ましく、樹脂基板の中でもPENが耐溶剤性や寸法安定性の点から好ましい。
【0038】
表示電極2は、上記と同様の理由によって、透明である必要があり、70%以上の全光線透過率を有することが望ましい。さらに好ましくは80%以上の全光線透過率を有することが望ましい。表示電極2としては、インジウム−錫酸化物(ITO)、アンチモンドープ錫酸化物(ATO)、アンチモンドープ亜鉛酸化物(AZO)、酸化亜鉛(ZnO)などの一般的に使用される金属酸化物からなる透明導電性膜を用いてもよい。さらには、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)などの導電性炭化物、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体などの導電性高分子を透過率を低下させない程度に薄く積層したものを用いてもよい。
【0039】
EC材料層3には、酸化または還元により変色するエレクトロクロミックを呈する材料であれば任意の材料を使用することができる。この材料としては、例えば、IrO、NiO、WO、MoO、TiOなどの無機系の材料が挙げられる。また、表示品位のよい変色を実現するためには、π共役系導電性高分子が好適である。π共役系導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリ−p−フェニレンオキシド、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリ−p−フェニレンビニレン、ポリナフチレンビニレン、ポリイソチアナフテン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェンビニレン、ポリアルキルチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリプロピレンジオキシチオフェン、ポリアニリン、ポリペリナフタレン、ポリオキサジアゾール、ポリチアジル、ポリアセン、ポリフラン、ポリアルキルフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリアミノピレン、ポリフェナントレン、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリイソキサゾール、ポリイソチアゾール、ポリベンゾトリアゾール、ポリフルオレン、主鎖の一部がホウ素で置換されたポリマー、ポリピリジン、ポリピリダジン、ポリピリミジン、ポリピラジン、ポリキノリンに代表される芳香環の一部の炭素が窒素に置換されたポリマー、ポリピランに代表される芳香環の一部の炭素が酸素に置換されたポリマー群から選択される共役ポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
電解質層4としては、どのような形態の電解質であっても構わない。例えば溶液状のものならばイオン伝導度が大きいために応答速度を速くし、駆動電圧・電流を小さくすることが出来る。また、ゲル状及び固体状のものならばより漏洩しにくくなり、より信頼性の高い素子を提供することが出来る。溶液状の電解質としては、アセトニトリル、ブチロラクトン、炭酸プロピレンなどの有機溶媒に、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBFといったリチウム塩などを溶解させたものを用いることが一般的である。
【0041】
また、最近では、電解質層4として、効率向上や安全性向上を目的に常温溶融塩(イオン液体)を用いることもある。イオン液体としては、以下に示すアニオン及びカチオンの、任意の組み合わせのものを用いることが出来る。アニオンとしては、例えばテトラフルオロボーレート、トリフルオロメチルスルフォニルイミド、ペンタフルオロエチルスルフォニルイミドなどを有する化合物が挙げられる。カチオンとしては、例えば、エチルメチルイミダゾリウムやメチルブチルイミダゾリウムなどのイミダゾリウム系カチオン、ブチルメチルピロリジニウムやブチルピリジニウムなどのピロリジニウム系カチオン、ブチルトリメチルアンモニウムやジエチルメトキシエチルメチルアンモニウムなどのアンモニウム系カチオンなどを有する化合物が挙げられる。イオン液体を用いることで、高速応答性、良好なメモリ性を実現することが出来る。
【0042】
また、固体状の電解質としては、Ta、MgFなどの固体電解質が用いられる。また、高分子固体電解質としては、マトリクス(母材)高分子材料中に支持電解質を分散させたものを用いてもよい。マトリクス高分子としては、骨格ユニットがそれぞれ−(C−C−O)−、−(C−C−N)−、−(C−C−S)−で表されるポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルフィドが挙げられる。これらを主鎖構造として、枝分かれがあってもよい。また、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデンクロライド、ポリカーボネートなども好ましい。
【0043】
固体状の電解質によって電解質層4を形成する際には、上記のマトリクス高分子に所要の可塑剤を加えることが好ましい。好ましい可塑剤としては、マトリクス高分子が親水性の場合には、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびこれらの混合物等が好ましい。マトリクス高分子が疎水性の場合には、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、スルフォラン、ジメトキシエタン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルフォルムアルデヒド、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドンおよびこれらの混合物が好ましい。
【0044】
また、上記のマトリクス高分子中に分散せしめる支持電解質としては、LiCl、LiBr、LiI、LiBF、LiClO、LiPF、LiCFSOなどのリチウム塩;KCl、KI、KBrなどのカリウム塩;NaCl、NaI、NaBrなどのナトリウム塩;或いはホウフッ化テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、ホウフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハライドなどのテトラアルキルアンモニウム塩を挙げることが出来る。上述の4級アンモニウム塩(テトラアルキルアンモニウム塩)のアルキル鎖長は不揃いでもよい。
【0045】
対向電極5としては、透明であっても不透明であってもよく、種々の金属材料、高分子材料、セラミック材料および半導体材料などの導電性材料を用いることができる。一般的に高い電気伝導率に起因して、対向電極5として金属材料を用いることが好ましい。金属材料としては、例えば、リチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、銀、金、銅、ニッケル、パラジウム、白金、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、ニッケル、コバルトおよびこれらの酸化物ならびにそれらの組み合わせまたは合金を用いることができる。もちろん、対向電極5の材料は、これらに限定されない。特に金、銀及び銅は高導電性及び化学的不活性なため、より好適である。
【0046】
また、対向電極5の上に高反射率の材料を積層させてもよい。これにより、外部から入射した光の対向電極5側での光反射効率を向上させることができる。そして、EC表示素子の視認性を向上させることができる。
【0047】
対向基板6としては、透明であっても不透明であってもよく、種々の材料を用いることができる。対向基板6として、例えば、絶縁性の金属材料、高分子材料、セラミック材料、半導体材料を用いることができる。また、対向基板6として、例えば、石英ガラス基板、白板ガラス基板などのガラス基板、セラミック基板、紙基板、木材基板を用いることが可能である。さらに、これらに限定されず、対向基板6として、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、酢酸セルロースなどのセルロースエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン−コヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素ポリマー、ポリオキシメチレンなどのポリエーテル、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、メチルペンテンポリマーなどのポリオレフィン、およびポリイミド−アミドやポリエーテルイミドなどのポリイミドなどの合成樹脂を用いることができる。これら合成樹脂を基板として用いる場合には、容易に曲がらないような剛性基板状にすることも可能であるが、可撓性をもったフィルム状の構造とすることも可能である。もちろん、対向基板6としては、表示基板1と同様のものを用いることもできる。
【0048】
第1の隔壁7及び第2の隔壁8としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂などの一般的な樹脂または無機酸化物またはそれらのハイブリッド材料からなるものを用いることができる。電解質に対する耐性の点で好ましくは光硬化性のエポキシ樹脂が用いられる。
【0049】
封止樹脂9としては、紫外線硬化型接着剤に限定されず、例えば、2液性エポキシ接着剤のような2液性接着剤を用いることが出来る。また紫外線硬化型接着剤としては、アクリル系接着剤を用いることが出来る。
【0050】
次に、上記のEC表示素子の受動駆動(単純マトリクス駆動)方法について説明する。まず、時系列的に表示電極2及び対向電極5を順次選択し、例えば、表示電極2に走査電圧、対向電極5に表示電圧を印加する。これにより、選択された表示電極2と対向電極5とが交差した画素10に順電圧・逆電圧が印加される。そして、電解質層4を通してEC材料層3のEC材料にイオンがドープ・脱ドープされ、発色/消色が繰り返される。
【0051】
具体的には、電圧を印加し、アニオンがドープされると、EC材料が酸化される。そして、逆方向に電圧を印加し、ドープされたアニオンが脱ドープされると、酸化されたEC材料が還元される。このように、電界印加によって可逆的な酸化還元反応が起こり、それに伴った発色/消色が起こる。EC材料には保持性があるため、電圧を切ったとしても発色/消色が変化することはない。これにより、画素10ごとにEC材料層3の色が変化し、表示を変化させることができる。すなわち、C、M、Y、それぞれに塗り分けられた各画素10を独立に駆動させることにより、表示を変化させることができる。
【0052】
具体的には、外部からEC表示素子内に入射した光がEC材料層3を通過して対向基板6側で反射する。そして、反射した光は、再びEC材料層3を通過して視認側に出射する。EC材料層3を通過して視認側に光が出射することにより、EC材料層3の色が表示される。ドープ又は脱ドープによって、例えばEC材料層3のC、M、Yが発色した場合、これらが混色され黒表示される。そして、逆方向に電圧を印加することによって、例えばEC材料層3のC、M、Yが消色した場合、白等の背景色が表示される。このように、画素ごとにEC材料層3を酸化・還元させ、マトリクス状に配置された画素10ごとに色を変化させることにより、所望の表示を得ることができる。
【0053】
また、EC表示素子は、図2に示される構成とすることも可能である。図2は、本実施の形態にかかるEC表示素子の他の構成を示す概略断面図である。なお、図2は、図1(b)と同様の箇所における概略断面図を示す。
【0054】
図2に示されるEC表示素子は、図1に示されるEC表示素子に接着層12を追加した構成を有する。接着層12は、第1の隔壁7上及び第2の隔壁8上のうち、少なくともいずれか一方に設けられる。図2においては、接着層12は、第1の隔壁7上及び第2の隔壁8上に設けられる。接着層12によって、第1の隔壁7と対向基板6、及び第1の隔壁7と対向電極5が接着される。同様に、接着層12によって、第2の隔壁8と対向基板6、及び第2の隔壁8と対向電極5が接着される。
【0055】
接着層12を設けることによって、電解質層4を形成する電解質の分離がより確実に行われる。すなわち、電解質の区画がより明確に行われ、電解質によるクロストークがより起こりにくくなる。これに加え、基板間の接着強度が向上し、基板をプラスチック材料などのフレキシブル基板に変更しても電解質の分離が確実に行える。接着層12としては、紫外線硬化型や熱硬化型の粘接着剤を用いられるが、好ましくは電解質に不溶の紫外線硬化型アクリル系粘接着剤が用いられる。
【0056】
なお、本実施の形態では、製造コスト等の点から単純マトリクス駆動のEC表示素子を例に挙げて説明したがこれに限られない。例えば、アクティブマトリクス駆動のEC表示素子に第2の隔壁を形成してもよい。この場合でも、電解質が溢れることを抑制でき、信頼性に優れた性能を持つEC表示素子とすることが可能である。また、クロストークの点から各画素10を取り囲むように第1の隔壁7を形成することが好ましいがこれに限られない。例えば、1列分の画素10を取り囲むように第1の隔壁7を形成してもよい。この場合でも、第2の隔壁を形成することにより、電解質が溢れることを抑制でき、信頼性に優れた性能を持つEC表示素子とすることが可能である。
【0057】
次に、図3を参照して、図2に示されたEC表示素子の製造方法について説明する。図3は、EC表示素子の製造方法を示す概略断面図である。
【0058】
まず、表示基板1上に、所定パターンの表示電極2を形成する。表示電極2は、直線状に複数形成される。また、表示電極2を積層させる手法としては特に限定されないが、公知手法が適用され得る。例えば、金属、金属酸化物、導電性炭化物、導電性高分子などを含む溶媒をインクとして、ベーパーデポジション、スピンコート、スリットコート、ナイフコート、リップコート、ダイコート、ディップコート、スプレーコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷などの湿式コーティングや、蒸着、スパッタ、乾式コーティングなどの手法が挙げられる。
【0059】
次に、表示電極2上に、第1の隔壁7及び第2の隔壁8を形成する。第1の隔壁7及び第2の隔壁8は、別々の工程で形成してもよいが、同一工程により同時に形成することが好ましい。これにより、製造工程が簡略化し、生産性が向上する。第1の隔壁7及び第2の隔壁8は、表示電極2上に、ポリエステル樹脂溶液等をロールコーターやグラビアコーターで塗工後、乾燥、硬化させることにより形成してもよい。ロールコーターやグラビアコーターは、あらかじめ一定量に計量された塗工溶液を基材に転写させて規定の塗工厚みを得る形式である。一定量の塗工液がそのまま基材に塗工されるため厳密には基材の厚みムラがそのまま塗工後も残るが、塗工液のロスが少ない。塗工液は、低粘度が必要で厚膜塗工には向いていない。
【0060】
これに限らず、第1の隔壁7及び第2の隔壁8は、表示電極2上に硬化前の樹脂を塗布し、画素10に対応する凹凸を有する冶具を押し付けた状態で樹脂材料を硬化させることにより形成してもよい。さらには、第1の隔壁7及び第2の隔壁8は、スクリーン印刷やインクジェットなどの方法を用いて直接画素10の配列パターンを形成することにより形成してもよい。すなわち、第1の隔壁7及び第2の隔壁8のパターンを直接形成してもよい。スクリーン印刷は、パターニングされたメッシュ状のスクリーン上に塗工液をスキージで加圧して充填後、基板に転写させることにより膜を得る方式である。高粘度のものでもスキージを加圧することで膜形成が可能なため、厚膜を得るのに適した方式である。
【0061】
また、表示電極2に影響を及ぼさない感光性材料を用いてフォトリソグラフィー法により画素10の配列パターンを形成させてもよい。これらの形成方法の中で、光硬化性のエポキシ樹脂を用いてフォトリソグラフィー法により第1の隔壁7及び第2の隔壁8を形成することが好ましい。本実施の形態では、フォトリソグラフィー法により表示電極2上に直接第1の隔壁7及び第2の隔壁8を形成する。
【0062】
第1の隔壁7及び第2の隔壁8を形成後、第1の隔壁7によって囲まれた凹部内において、表示電極2上に、EC材料層3を形成する。EC材料層3の形成方法としては、表示電極2をEC材料が溶解した電解質溶液に浸漬して電解重合することで成膜してもよい。この場合、EC材料層3と電解質層4を同時に形成することができる。これに限らず、EC材料溶液をインクジェット法、エレクトロスピニング法、スクリーン印刷法などにより直接形成してもよい。以上の工程により、図3(a)に示す構成となる。
【0063】
次に、第1の隔壁7および第2の隔壁8上に接着層12を形成する。接着層12の形成方法としては、転写法、スクリーン印刷法、インクジェット法などが挙げられる。この中でも、生産性や接着層物性の点からスクリーン印刷法が好適に用いられる。また、接着層12を第1の隔壁7上及び第2の隔壁8上に形成しているが、これに限らない。たとえば、貼り合わせる対向基板6側の隔壁に対応する部分に形成してもよい。
【0064】
そして、表示電極2上に封止樹脂9を形成する。封止樹脂9の形成法としては、画素10の最外周にのみ形成すればよいので、ディスペンサー法によって形成することが望ましい。なお、封止樹脂9としては、すくなくとも第1の隔壁7の材料及び第2の隔壁8の材料よりも接着性が高い樹脂が用いられる。
【0065】
そして、第1の隔壁7内に電解質層4を形成する。電解質層4を形成する電解質としては、第1の隔壁7内への充填のしやすさや応答速度の点で液状の電解質(電解液)を用いることが望ましい。また、その形成方法としては、ウェットコーティング法が好ましい。ウェットコーティング法としては、スリットコート、ナイフコート、リップコート、ダイコート、ディップコート、スクリーン印刷、インクジェット法、フレキソ印刷、グラビア印刷、などの湿式コーティングなどの手法が挙げられる。また、インクジェット法を用いて形成することで、第1の隔壁7に囲まれた凹部内への電解質の充填量を制御でき、余分な充填を減少させることができる。なお、接着層12、封止樹脂9、電解質層4の形成はどの順番でもよい。以上の工程により、図3(b)に示す構成となる。
【0066】
そして、対向基板6上に、所定パターンの対向電極5を形成する。対向電極5は、直線状に複数形成される。これは、表示電極2と同様の方法により形成することができる。そして、封止樹脂9及び接着層12によって、表示基板1と対向基板6とを貼り合わせる。このとき、表示電極2と対向電極5を向かい合うように貼り合わせる。また、表示電極2と対向電極5とが互いに交差するように貼り合わせる。これらを貼り合わせる方法としては、ガラス基板のようなリジッドな基板の場合は大気中のエア噛みをなくすため真空貼り合わせを行う必要がある。また、プラスチック材料のようなフィルム基板の場合はラミネート法を用いることが出来る。
【0067】
次に、本発明の好ましい特定の実施例を比較例とともに記載するが、上記の記載および続く実施例は例示であり、これらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
ITO基板(ジオマテック製)上にネガレジスト(TMMF−S2000:東京応化製)を塗布した。ここで、ITO基板とは、表示電極2としてのITOを所定のパターンに形成された表示基板1に相当する。そして、塗布したネガレジストを露光、現像するフォトリソグラフィー工程を行った。これにより、所望の形状にネガレジストがパターニングされ、厚み30μmの第1の隔壁7及び第2の隔壁8が形成された。次に、インクジェット法により、EC材料の分散液を第1の隔壁7内のITO上に塗布してEC材料層3を形成した。この分散液としては、20質量%のポリアニリンスルホン酸と80質量%純水とを分散させたポリアニリン分散液(Aqua−PASS:三菱レイヨン社製)を用いた。すなわち、EC材料層3としてポリアニリン膜を成膜した。
【0069】
次に、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(NH−PF)(和光純薬製)の水溶液を第1の隔壁7内のITO上に製膜されたポリアニリン膜上にインクジェット法で注入した。これにより、電解質層4を形成した。そして、上記の構成を有するITO基板に他のITO基板を重ね合わせた。ここで、他のITO基板とは、対向電極5としてのITOを所定のパターンに形成した対向基板6に相当する。ここでは、互いのITOが向かい合うようにして、EC材料層3及び電解質層4を挟み込んだ。以上のようにして、EC表示素子を作製した。
【0070】
作製したEC表示素子において、所望の画素10に対応する電極に順電圧・逆電圧を反転させると、ポリアニリン膜がエレクトロクロミック性を示した。具体的には、ポリアニリン膜が紫色〜黄色〜緑色の色変化を示した。そして、クロストークによる所望の画素以外の色変化はほとんど見られなかった。また、作製した素子の外周から電解質が溢れることがなかった。
【0071】
[実施例2]
本実施例では、封止樹脂9を形成した点を除いて、実施例1と同様の方法でEC表示素子を作製した。封止樹脂9は、ディスペンサーを用いて、第2の隔壁8に対して第1の隔壁7とは反対側に、第2の隔壁8を取り囲むように塗布した。封止樹脂9としては、光硬化性封止樹脂(XNR5516ZHV:ナガセケムテックス製)を用いた。そして、実施例1と同様、ITO基板同士を重ね合わせた後、UV照射装置を用いて、封止樹脂9に対して18J/cm(波長365nm)の照射量でUV照射することにより封止樹脂9を硬化させた。また、封止樹脂9の硬化の際には、第2の隔壁8があることにより封止樹脂9は電解質に接触しなかった。このため、封止樹脂9の硬化を完全に行うことができ、力を加えても基板間の剥がれは起きなかった。
【0072】
作製したEC表示素子において、所望の画素10に対応する電極に順電圧・逆電圧を反転させると、ポリアニリン膜がエレクトロクロミック性を示した。具体的には、ポリアニリン膜が紫色〜黄色〜緑色の色変化を示した。そして、クロストークによる所望の画素以外の色変化はほとんど見られなかった。また、作製した素子の外周から電解質が溢れることがなかった。
【0073】
[実施例3]
本実施例では、接着層12を形成した点を除いて、実施例2と同様の方法でEC表示素子を作製した。接着層12は、スクリーン印刷法を用いて、第1の隔壁7上及び第2の隔壁8上に形成した。接着層12としては、スリーボンド1549(スリーボンド製)を用いた。実施例2のEC表示素子に加えて第1の隔壁7上及び第2の隔壁8上に接着層12が形成されているため、基板間の接着は実施例2よりも強固となった。
【0074】
また、実施例2と同様に、作製したEC表示素子において、所望の画素10に対応する電極に順電圧・逆電圧を反転させると、ポリアニリン膜がエレクトロクロミック性を示した。具体的には、ポリアニリン膜が紫色〜黄色〜緑色の色変化を示した。そして、クロストークによる所望の画素以外の色変化は、実施例2よりもさらに見られなかった。また、作製した素子の外周から電解質が溢れることがなかった。
【0075】
[比較例1]
本比較例では、第2の隔壁8を設けない点を除いて、実施例1と同様の方法でEC表示素子を作製した。作製したEC表示素子において、第1の隔壁7の外周から余分な電解質が溢れた。
【0076】
[比較例2]
本比較例では、第2の隔壁8を設けない点を除いて、実施例2と同様の方法でEC表示素子を作製した。作製したEC表示素子において、第1の隔壁7から溢れた電解質が封止樹脂9と接触したことにより、硬化が不十分となり、力を加えると剥がれが発生した。
【符号の説明】
【0077】
1 表示基板、2 表示電極、3 EC材料層、4 電解質層、5 対向電極、
6 対向基板、7 第1の隔壁、8 第2の隔壁、9 封止樹脂、10 画素、
11 表示領域、12 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板とは対向配置された第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間において、複数の画素を有する表示領域に形成された第1の隔壁と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間において、前記表示領域を取り囲み、前記第1の隔壁と同一材料により形成された第2の隔壁と、
前記第1の隔壁によって取り囲まれた凹部内に形成された電解質層とを備えるエレクトロクロミック表示素子。
【請求項2】
前記第2の隔壁に対して前記第1の隔壁とは反対側に形成され、前記第1の基板と前記第2の基板を貼り合わせる封止樹脂をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項3】
前記第1の隔壁上及び前記第2の隔壁上のうち少なくともいずれか一方に接着層が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項4】
前記電解質層は、液状の電解質により形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項5】
第1の基板と、
前記第1の基板とは対向配置された第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間において、複数の画素を有する表示領域に形成された第1の隔壁と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間において、前記表示領域を取り囲む第2の隔壁と、
前記第1の隔壁によって取り囲まれた凹部内に形成された電解質層と、
前記第2の隔壁に対して前記第1の隔壁とは反対側に形成され、前記第1の基板と前記第2の基板を貼り合わせる封止樹脂とを備えるエレクトロクロミック表示素子。
【請求項6】
第1の基板上において、複数の画素を有する表示領域に第1の隔壁を形成し、前記第1の隔壁と同一材料により、前記表示領域を取り囲む第2の隔壁を形成する工程と、
前記第1の隔壁によって取り囲まれた凹部内に電解質層を形成する工程と、
前記第1の基板と第2の基板との間に前記電解質層を挟み込むように、前記第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わせる工程とを備えるエレクトロクロミック表示素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1の隔壁と前記第2の隔壁とを形成する工程では、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁とを同時に形成することを特徴する請求項6に記載のエレクトロクロミック表示素子の製造方法。
【請求項8】
前記電解質層を形成する工程では、インクジェット法により電解質が塗布されることにより前記電解質層を形成することを特徴とする請求項6又は7に記載のエレクトロクロミック表示素子の製造方法。
【請求項9】
第1の基板上において、複数の画素を有する表示領域に第1の隔壁を形成し、前記表示領域を取り囲む第2の隔壁を形成する工程と、
前記第1の隔壁によって取り囲まれた凹部内に電解質層を形成する工程と、
前記第1の基板と第2の基板との間に前記電解質層を挟み込むように、前記第2の隔壁に対して前記第1の隔壁とは反対側に形成された封止樹脂を介して、前記第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わせる工程とを備えるエレクトロクロミック表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−224240(P2010−224240A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71737(P2009−71737)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】