説明

エレクトロクロミック表示装置及び表示駆動装置

【課題】セグメント方式のエレクトロクロミック表示装置において、各表示セグメントの面積に応じた精確な量の電荷を注入することができるエレクトロクロミック表示装置及びそのような表示装置に用いられる表示駆動装置を提供すること。
【解決手段】表示パネル10の各表示セグメントに定電流印加回路20から定電流を印加することにより、各表示セグメントの発色及び消色を行う。この際、定電流印加回路20から各表示セグメントに印加する電流の量を、セグメントプロファイルメモリ30に記憶された各表示セグメントの面積に対応した値に応じて設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック表示装置及び表示駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液に電荷を注入することで、酸化還元反応により電解液中の溶質が析出したり溶解したりする現象を利用した表示装置(以下、エレクトロクロミック表示装置と称する)が各種提案されている。例えば、ビスマス(Bi)を主原料として用いたエレクトロクロミック表示装置の場合は、酸化インジウム錫(ITO)等の透明電極から電解液に負の電荷を注入すると、電解液中のBiイオンが還元されて透明電極上に析出し、その部分が黒く発色する。逆に、透明電極から電解液に正の電荷を注入すると、透明電極上に析出していたBiが酸化されて電解液中に溶解し、その部分が消色する。
【0003】
この種のエレクトロクロミック表示装置においては、電解液に注入した電荷量によって析出する溶質の量が決まるので、表示部の面積が大きければ大きいほど多くの電荷を注入して析出させる溶質の量を多くしなければならない。
【0004】
このように表示部の面積に応じた電荷を注入するために、従来は、矩形波の電圧パルスを印加したり、三角波、のこぎり波の電圧パルスを印加したりして電荷を注入するようにしている。例えば、特許文献1においては、矩形波の電圧パルスを表示部に印加することにより、発色及び消色を行っている。ここで、表示部の表示駆動を行う表示駆動装置から一定時間の矩形波パルスを表示部に印加した場合、表示部までの配線抵抗を無視できれば、発色時の表示部における抵抗値が表示面積に反比例することが知られている。また、消色時においても消色が完了するまでの間は、発色時と同様に抵抗値が表示面積に反比例することも知られている。したがって、一定電圧を一定時間印加すれば、表示面積にほぼ比例した量の電荷を注入することが可能である。
【特許文献1】特開2000−142223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図10は、表示部を発色及び消色させるためにそれぞれ一定の電圧を印加して駆動するときの電圧と電流との関係を示した図である。図10に示すように、発色時においては、負の定電圧を印加することにより、表示部から表示駆動装置に向かって電流が流れ、この電流×印加時間に応じた負の電荷が表示部に注入される。その結果、電解液から溶質が析出して発色が起きる。また、消色の場合には、正の定電圧を印加することにより、発色のときとは逆に表示駆動装置から表示部に向かって電流が流れ、この電流×印加時間に応じた負の電荷が表示部に注入される。これにより、溶質が電解液に溶解して消色する。
【0006】
ところで、消色の場合には、発色の場合と異なり、ある程度の消色が進むと、抵抗値が変化して電流が減少することが知られている(図10参照)。ここで、消色に必要な電荷量は発色のときと同程度の量であるので、電流の減少による電荷量の減少を補償するためには、消色の場合の電圧を発色の場合よりも高くするか、または電圧の印加時間を長くする必要がある。この際には、表示部と表示駆動装置との間の配線抵抗や回路間の接触抵抗等によって電圧降下が生じて流れる電流が大きく変化するので、印加電圧及び印加時間はこれらの影響を考慮して調整する必要がある。しかしながら、一般に配線抵抗や回路間における接触抵抗等の値はばらつきが大きく、これらの値を一定にするのは容易ではない。このため、特に複数の表示セグメントを有するセグメント方式のエレクトクロミック表示装置の各表示セグメントに一定の電圧を印加する構成においては、全ての表示セグメントに注入する電荷量を適正な値にすることは困難である。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、セグメント方式のエレクトロクロミック表示装置において、各表示セグメントの面積に応じた精確な量の電荷を注入することができるエレクトロクロミック表示装置及びそのような表示装置に用いられる表示駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様によるエレクトロクロミック表示装置は、電解液と、前記電解液に電荷を注入するための電極と、を有し、酸化還元反応により前記電極を介して前記電解液に電荷が注入されることにより発色し、前記電解液に前記電荷と逆極性の電荷が注入されることにより消色する少なくとも1つの表示部が配置された表示手段と、定電流を出力し、前記表示部の電極に該定電流を印加して前記電解液に電荷を注入する少なくとも1つの定電流印加手段と、前記定電流印加手段により前記表示部の電極に印加する前記定電流の電流値を、当該電極の面積に比例した値にする電流値設定手段とを具備することを特徴とする。
【0009】
また、上記の目的を達成するために、本発明の第2の態様による表示駆動装置は、電解液と、前記電解液に電荷を注入するための電極と、を有し、酸化還元反応により前記電極を介して前記電解液に電荷が注入されることにより発色し、前記電解液に前記電荷と逆極性の電荷が注入されることにより消色する少なくとも1つの表示部が配置された表示手段の表示駆動を行う表示駆動装置であって、定電流を出力し、前記表示部の電極に該定電流を印加して前記電解液に電荷を注入する少なくとも1つの定電流印加手段と、前記定電流印加手段により前記表示部の電極に印加する前記定電流の電流値を、当該電極の面積に比例した値にする電流値設定手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少なくとも1つの表示部を有するエレクトロクロミック表示装置において、表示部の電極に定電流を印加して駆動し、表示部に印加する定電流の電流値を電極の面積に比例した値にすることにより、電極の単位面積当たりに注入される電荷量を一定として、表示部の電極の面積によらず、均一に発色及び消色させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る表示駆動装置が適用されたエレクトロクロミック表示装置の構成を示すブロック図である。また、図2は、表示パネルの表示セグメントの配置例を示す図である。図1に示すエレクトロクロミック表示装置は、表示パネル10と、定電流印加回路20と、セグメントプロファイルメモリ30と、システムインターフェース40とから構成されている。そして、本実施形態に係わるエレクトロクロミック表示装置においては、図1に示すように、表示パネル10が複数の表示セグメントを有し、各表示セグメントに定電流印加回路20より定電流を印加して駆動するものであり、特に、各表示セグメントに印加する電流の電流値を、セグメントプロファイルメモリ30に記憶された値に基づいて、各表示セグメントの面積に比例した電流値に設定する構成を有している。
【0012】
表示手段としての表示パネル10はセグメント方式の表示パネルであり、表示部としての複数の表示セグメントが例えば図2に示すようにして配置されて構成されている。ここで、図2の例は、表示パネル10を、アルファベットや数字等の表示パターンを表示するための表示パネルとして利用する際の表示セグメントの配置例であり、7個の表示セグメント(表示セグメント10−1〜10−7)が8字状に配置されている。なお、表示セグメントの形状、数、及びその配置は図2で示したものに限るものではなく、表示パネルとして要求される仕様等に応じて適宜変更することが可能である。
【0013】
図3は、図2の表示セグメントの構成について説明するためのA−A線断面図である。ここで、図2の断面図は表示セグメント10−1の断面図であるが、他の表示セグメントの構成も図3で説明するものと基本的には同様である。
図3に示すように、表示セグメントは、2枚の電極10−11と電極10−12とが平行配置され、これら電極10−11と電極10−12との間に電解液10−13が満たされ、これらが封止材10−14で封止されて構成されている。更に電極10−11の裏面には、表示セグメントを保護するためのガラス基板10−15が貼り付けられている。ここで、電極10−11は透明性を有する透明電極であり、例えば酸化インジウム錫(ITO)電極が用いられる。また、電極10−12は、透明な電極でも不透明な電極でも良い。この電極10−12には、例えば銅(Cu)電極が用いられる。更に、電解液10−13は、例えばBi、Cuが溶解した電解液である。なお、ここで示した材料は一例であり適宜変更可能である。例えば、電解液に溶解させる溶質はBiに限らず銀(Ag)等でも良い。さらに、金属だけでなく、ビオロゲン化合物のような有機物を用いることも可能である。また、BiやCuを溶解させるための溶液も臭酸や塩酸等、種々のものを用いることができる。更には、電極10−11と電極10−12との間の電解液10−13は、電解液を保持させたウエットケーキシートを用いるようにしても良い。
【0014】
図3のような構成の表示セグメントに負の電荷を注入すると、電解液中のBiイオンが還元されて電極10−11上に析出する。これにより表示セグメントが黒く発色する。逆に、表示セグメントに正の電荷を注入すると、電極10−11上に析出していたBiが酸化されて電解液中に溶解する。これにより黒く発色していた表示セグメントが消色する。
【0015】
定電流印加回路20は表示パネル10を構成する複数の表示セグメントの各々に対応して、表示セグメントの数だけ設けられ、各表示セグメントに定電流を印加することにより、表示セグメントを発色又は消色させるための電荷を注入する。ここで、図1に示すように定電流印加回路20は、発色パルス発生器20−1と、消色パルス発生器20−2と、定電流ドライバ20−3とから構成されている。これら定電流印加回路20の各回路及びその動作については後で詳しく説明する。
【0016】
セグメントプロファイルメモリ30は、各表示セグメントの面積の値、あるいは、各表示セグメントの面積に対応した適正な発色をさせるために必要な電流値指定データを、各表示セグメントに対応して記憶しておくためのメモリである。なお、以下においては、セグメントプロファイルメモリ30に各表示セグメントの面積に対応した電流値指定データが記憶されているものとするが、各表示セグメントの面積の値が記憶され、例えば発色パルス発生器20−1や消色パルス発生器20−2において、対応する電流値指定データに変換する機能を備えるものであってもよい。そして、セグメントプロファイルメモリ30は、システムインターフェース40からのアドレス信号を受けて、そのアドレスに記憶された電流値指定データを、対応する表示セグメントに接続された定電流印加回路20内の発色パルス発生器20−1及び消色パルス発生器20−2に出力する。なお、セグメントプロファイルメモリ30はEPROMやフラッシュROM等の不揮発性メモリであることが好ましい。セグメントプロファイルメモリ30を不揮発性メモリで構成することで、回路の電源がオフされた場合であっても記憶内容を保持しておくことが可能である。
【0017】
システムインターフェース40は、図示しないCPUからの表示パネル10の表示又は非表示の指示を受けて、その指示に該当する表示セグメントを発色又は消色させる。このためにシステムインターフェース40は、該当する定電流印加回路20内の発色パルス発生器20−1及び消色パルス発生器20−2にパルス幅指定データを出力すると共に、発色又は消色させる表示セグメントに対応した電流値指定データが格納されているアドレスに対応するアドレス信号をセグメントプロファイルメモリ30に出力する。
【0018】
次に、定電流印加回路20について更に詳しく説明する。
図4は、発色パルス発生器20−1を順序論理回路で構成した場合の回路ブロック図の一例である。図4に示すように、発色パルス発生器20−1は、パルス幅レジスタ20−11と、電流値レジスタ20−12と、DAコンバータ20−13と、ダウンカウンタ20−14と、アナログスイッチ20−15とから構成されている。
【0019】
パルス幅レジスタ20−11は、システムインターフェース40から発色パルスのパルス幅を指定するためのパルス幅指定データを受けて、そのデータを保持する。このように発色パルスのパルス幅を可変とすることで、表示セグメントを完全な発色状態と完全な消色状態のみでなく、その中間の状態で発色させることもできる。これにより、グレースケール表示が可能となる。
【0020】
電流値レジスタ20−12は、セグメントプロファイルメモリ30から各表示セグメントに対応する電流値指定データを受けて、そのデータを保持する。DAコンバータ20−13は、電流値レジスタ20−12に保持された電流値指定データをアナログの電圧信号に変換する。
【0021】
ダウンカウンタ20−14は、発色時にシステムインターフェース40からSTARTパルスを受けてパルス幅レジスタに保持された値を読み出し、この値を一定時間毎にカウントダウンしながら、ON又はOFF信号をアナログスイッチ20−15に出力する。つまり、ダウンカウンタ20−14は、カウント値が0でないときにON信号を出力し、カウント値が0になったときにOFF信号を出力する。アナログスイッチ20−15はDAコンバータ20−13と負の電源−Vとに接続され、ダウンカウンタ20−14からON信号を受けたときにONしてDAコンバータ20−13の出力を定電流ドライバ20−3に入力し、OFF信号を受けたときに電圧値−Vを定電流ドライバ20−3に入力する。
【0022】
このような構成により、ダウンカウンタ20−14がカウントを行っている間のみアナログスイッチ20−15がONするので、結果としてDAコンバータ20−13で得られた電圧値及びパルス幅指定データで指定されたパルス幅を有する発色パルスが定電流ドライバ20−3に入力される。そして、ダウンカウンタ20−14がカウントを終了した時点でアナログスイッチ20−15がOFFして、電圧値−Vが定電流ドライバ20−3に入力される。
【0023】
なお、図4は、発色パルス発生器20−1の構成であるが、消色パルス発生器20−2も発色パルス発生器20−1とほぼ同様の回路構成で実現できる。ただし、消色パルス発生器20−2においては、アナログスイッチに接続される電源を負の電源ではなく、正の電源+Vとする。また、発色パルス発生器20−1及び消色パルス発生器20−2の機能は、マイクロコンピュータ等の演算処理によって実現するようにしても良い。
【0024】
図5は、定電流ドライバ20−3を構成する回路の一例を示す図である。また、図6は、定電流印加回路と表示セグメントとの間の配線抵抗について示す図である。定電流ドライバ20−3は、演算増幅器20−31と、MOSトランジスタ20−32と、抵抗20−33とからなる負方向定電流印加手段と、演算増幅器20−34と、MOSトランジスタ20−35と、抵抗20−36とからなる正方向定電流印加手段とを備える。
【0025】
図5において、演算増幅器20−31の非反転入力端子には発色パルス発生器20−1からの出力(発色パルス又は−V)が入力される。そして、演算増幅器20−31の出力端子はMOSトランジスタ20−32のゲートに接続され、MOSトランジスタ20−32のソースは演算増幅器20−31の反転入力端子と抵抗20−33の一端とに接続されている。更に、抵抗20−33の他端は負の電源−Vに接続されている。また、演算増幅器20−34の非反転入力端子には消色パルス発生器20−2からの出力(消色パルス又は+V)が入力される。また、演算増幅器20−34の出力端子はMOSトランジスタ20−35のゲートに接続され、MOSトランジスタ20−35のソースは演算増幅器20−34の反転入力端子と抵抗20−36の一端とに接続されている。更に、抵抗20−36の他端は正の電源+Vに接続されている。
【0026】
また、MOSトランジスタ20−32及び20−35のドレインは共通に定電流ドライバ20−3の出力端子に接続されている。そして、定電流ドライバ20−3の出力端子は図6に示すようにして表示セグメント10−1に接続されている。なお参照符号10−16で示す抵抗は、定電流ドライバ20−3と表示セグメント10−1との間の配線抵抗や接触抵抗等による抵抗である。
【0027】
以下、定電流ドライバ20−3の動作について説明する。なお、負方向定電流印加手段と正方向定電流印加手段とは入力される電圧の極性や出力される電流の方向が逆なだけで、基本的な動作は同じであるので、ここでは負方向定電流印加手段の動作のみについて説明する。
【0028】
図5に示す構成において、表示セグメントの発色時には、演算増幅器20−31の非反転入力端子に発色パルス発生器20−1からの発色パルスが入力される。この発色パルスの入力により、演算増幅器20−31の出力がMOSトランジスタ20−32のゲートに印加され、MOSトランジスタ20−32がON状態となる。これにより、発色パルスの電圧値に応じた電流が、定電流ドライバ20−3の出力端子から負の電源−Vに向かって(即ち、表示セグメント10−1から定電流ドライバ20−3に向かって)流れる。ここで、負方向定電流印加手段が定電流ドライバを構成しているので、表示セグメント10−1における電圧の変化等によらず、印加される電流の量は一定となる。このようにして、表示セグメント10−1に負の電荷が注入される。
【0029】
また、発色パルス発生器20−1から−Vが入力された場合には、演算増幅器20−31の出力が0となるので、これに伴ってMOSトランジスタ20−32がOFF状態となり、定電流ドライバ20−3からの電流出力が0となる。
【0030】
なお、正方向定電流印加手段に消色パルス発生器20−2から消色パルスが入力された場合には、正の電源+Vから定電流ドライバ20−3の出力端子に向かって(即ち、定電流ドライバ20−3から表示セグメント10−1に向かって)電流が流れることになる。
【0031】
ここで、発色時又は消色時に流す電流の量は、この電流によって表示セグメントに発生する電圧が、表示セグメントを発色又は消色させるために必要な閾値電圧よりも高く、かつ表示セグメントが破壊しない限界の電圧である限界電圧よりも低くなるようにする。表示セグメントに発生する電圧は、印加電流×表示セグメントの抵抗値によって設定され、また表示セグメントの抵抗値は、その面積に反比例する。これに対し、発色時又は消色時に流す電流の量を、セグメントプロファイルメモリ30に記憶された電流値指定データに対応した表示セグメントの面積に比例した量とすることで、表示セグメントと定電流ドライバ20−3との間の配線抵抗の大きさに関わりなく、表示セグメントに発生する電圧の量を所望の量とすることが可能である。
【0032】
図7は、発色時及び消色時に、定電流印加回路20から表示セグメントに印加される電流及びこの電流によって発生する電圧の変化を示すタイミングチャートである。なお、同図においては図面上側を正方向、図面下側を負方向としている。
【0033】
図7に示すように、パルス幅指定データによって指定されたパルス幅及び電流値指定データによって指定された負の定電流(表示セグメント10−1から定電流ドライバ20−3の方向の電流)パルスが印加されたときに、その印加電流×印加時間に相当する負の電荷が表示セグメントに注入され、発色が起きる。ここで、表示セグメントを適正に発色させるのに必要な電荷量は、AgやBiを主原料とする電解液の場合は、約30mC/cmであるが、第1の実施形態では、表示セグメントに印加する電流の印加時間を可変とすることで表示セグメントに注入される電荷量を精確にコントロールすることが可能である。また、パルス幅指定データによって指定されたパルス幅及び電流値指定データによって指定された正の定電流(定電流ドライバ20−3から表示セグメント10−1の方向の電流)パルスが印加されたときに、その印加電流×印加時間に相当する正電荷が表示セグメントに注入され、消色が起きる。この際に必要な電荷量は、発色時に注入された電荷量に基づいて設定する。具体的には、図8に示すように発色時の電荷量S_writeと消色時の電荷量S_eraseとを等しくする。これにより、発色によって析出した溶質を全て溶解させて正しく消色を行うことができる。
【0034】
また、消色時においては、消色がある程度進んだ時点で表示セグメントの抵抗値が増加して電圧が上昇してしまうが、表示セグメントに印加される電流は定電流印加回路20の作用によって一定である。したがって、注入電荷量が変化することはない。ただし、印加する電流量は、表示セグメントにおいて発生する消色時の最大電圧が上記限界電圧を超えないように設定する必要がある。このため、消色時には電流量を低く、印加時間を長くするようにする。
【0035】
以上説明したように、第1の実施形態によれば、表示セグメントに定電流を印加することで電荷注入を行うようにしたので、配線抵抗の影響を考慮することなく、精確な量の電荷を表示セグメントに注入することが可能である。これにより、発色時の電荷量と消色時の電荷量とを精確に等しくすることができ、発色と消色のバランスを保つことが可能である。なお、発色時の電荷量と消色時の電荷量は必ずしも同じである必要がなく、例えば発色時の電荷量:消色時の電荷量=2:3のような一定の比率を保つように制御しても良い。このような制御を行う場合も印加電流量及び印加時間を制御するだけで良い。
【0036】
また、配線抵抗の影響を受けずに、表示セグメントに電圧が加わるようにできるので、表示セグメントに発生する電圧を、発色閾値電圧よりも高く限界電圧よりも低くすることができる。
【0037】
更には、セグメントプロファイルメモリ30に各表示セグメントの面積に応じた電流値指定データを記憶させているので、面積の異なる複数の表示セグメントに対しても、単位面積当たりに注入される電荷量が同じとなる電流を印加し、それぞれの表示セグメントを均一に発色及び消色させることが可能である。
【0038】
ここで、図1においてはセグメントプロファイルメモリ30を1つのメモリで構成しているが、個々の表示セグメントの面積に対応した電流値指定データをそれぞれ記憶する複数のメモリを、それぞれ対応する定電流印加回路20の発色パルス発生器20−1及び消色パルス発生器20−2に接続するように構成しても良い。
【0039】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図9は、第2の実施形態に係る表示駆動装置が適用されたエレクトロクロミック表示装置の構成を示すブロック図である。なお、図9において図1と同様の構成については同一の参照符号を付すことで説明を省略する。
【0040】
図9に示すエレクトロクロミック表示装置は、定電流印加回路20が1つのみ設けられており、この1つの定電流印加回路20と各表示セグメントとを、アナログスイッチ50を介して接続している点が異なっている。切り替え手段としてのアナログスイッチ50の各スイッチには、システムインターフェースからのON又はOFF信号が入力されるようになっている。
【0041】
このような構成においては、制御手段としてのシステムインターフェース40からON信号を受けたアナログスイッチのみがONする。したがって、1つの定電流印加回路20からの出力をアナログスイッチがONしている表示セグメントに振り分けて入力することが可能となる。
【0042】
以上説明したような第2の実施形態によれば、表示セグメントの数だけ定電流印加回路20を設ける必要がないため、第1の実施形態の効果に加え、発色パルス発生器20−1、消色パルス発生器20−2、及び定電流ドライバ20−3の回路資源を節約し、コストダウンを図ることが可能である。
【0043】
ここで、図9では定電流印加回路20が1つのみであるがこの数は表示セグメントの数よりも少なければ特に限定されるものではない。この場合、個々の表示セグメントの面積に対応した電流値指定データをそれぞれ記憶する複数のメモリを、それぞれ対応する定電流印加回路20の発色パルス発生器及び消色パルス発生器に接続するように構成しても良い。
【0044】
また、セグメントプロファイルメモリ30のデータを図9の外部のシステムに記憶させておき、システムインターフェース40からアナログスイッチ50のON又はOFF信号を入力するときに、対応する表示セグメントの面積に対応した電流値指定データも同時に入力するようにしても良い。
【0045】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0046】
更に、上記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、上述した課題が解決でき、上述した効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る表示駆動装置が適用されたエレクトロクロミック表示装置の構成を示すブロック図である。
【図2】表示セグメントの配置例を示す図である。
【図3】表示セグメントの構成について説明するための断面図である。
【図4】発色パルス発生器を順序論理回路で構成した場合の回路ブロック図の一例である。
【図5】定電流ドライバを構成する回路の一例を示す図である。
【図6】定電流印加回路と表示セグメントとの間の配線抵抗について示す図である。
【図7】発色時及び消色時に、定電流印加回路から表示セグメントに印加される電流及びこの電流によって発生する電圧の変化を示すタイミングチャートである。
【図8】発色時及び消色時における電荷量の制御について示す図である。
【図9】第2の実施形態に係る表示駆動装置が適用されたエレクトロクロミック表示装置の構成を示すブロック図である。
【図10】従来の定電圧印加による発色及び消色時に、表示セグメントに印加される電圧及びこの電圧によって流れる電流の変化を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0048】
10…表示パネル、10−1〜10−7…表示セグメント、10−11,10−12…電極、10−13…電解液、10−14…封止材、10−15…ガラス基板、20…定電流印加回路、20−1…発色パルス発生器、20−2…消色パルス発生器、20−3…定電流ドライバ、20−11…パルス幅レジスタ、20−12…電流値レジスタ、20−13…DAコンバータ、20−14…ダウンカウンタ、20−15…アナログスイッチ、20−31,20−34…演算増幅器、20−32,20−35…MOSトランジスタ、20−33,20−36…抵抗、30…セグメントプロファイルメモリ、40…システムインターフェース、50…アナログスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液と、前記電解液に電荷を注入するための電極と、を有し、酸化還元反応により前記電極を介して前記電解液に電荷が注入されることにより発色し、前記電解液に前記電荷と逆極性の電荷が注入されることにより消色する少なくとも1つの表示部が配置された表示手段と、
定電流を出力し、前記表示部の電極に該定電流を印加して前記電解液に電荷を注入する少なくとも1つの定電流印加手段と、
前記定電流印加手段により前記表示部の電極に印加する前記定電流の電流値を、当該電極の面積に比例した値にする電流値設定手段と、
を具備することを特徴とするエレクトロクロミック表示装置。
【請求項2】
前記定電流印加手段より、前記表示部を発色させる際に前記表示部の電極に印加する前記定電流の電流値を、該定電流の印加によって前記表示部に発生する電圧が、前記表示部を発色させるのに必要な発色閾値電圧よりも高く、かつ、前記表示部に印加できる限界の電圧である限界電圧よりも低くなる値とする手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項3】
前記表示部は所定の表示パターンを形成するための表示セグメントであって、前記表示手段に複数配置され、
前記電流値設定手段は、前記各表示部の電極の面積に対応した値を記憶する少なくとも1つの記憶手段を含み、前記定電流印加手段により前記各表示部の電極に印加する前記定電流の電流値を、前記記憶手段に記憶された前記各表示部の電極の面積に対応した値に基づく値に設定する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項4】
前記定電流印加手段は、
前記記憶手段に記憶された表示部の電極の面積に対応した値に応じた発色信号を発生する発色信号発生手段と、
前記発色信号発生手段に接続され、前記発色信号発生手段から前記発色信号が入力された場合に、該入力された発色信号に応じた電流値の負方向の電流を前記表示部に印加する負方向定電流印加手段と、
前記記憶手段に記憶された表示部の電極の面積に対応した値に応じた消色信号を発生する消色信号発生手段と、
前記消色信号発生手段に接続され、前記消色信号発生手段から前記消色信号が入力された場合に、該入力された消色信号に応じた電流値の正方向の電流を前記表示部に印加する正方向定電流印加手段と、
を備え、
前記表示部は、前記負方向定電流印加手段から負方向の電流が印加された場合に発色し、前記正方向定電流印加手段から正方向の電流が印加された場合に消色することを特徴とする請求項3に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項5】
前記定電流印加手段が、前記複数の表示部の各々に対応して複数設けられていることを特徴とする請求項3に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項6】
前記定電流印加手段が1つ又は前記表示部の数より少ない数だけ設けられ、
更に、前記定電流印加手段と前記複数の表示部との間に設けられ、前記定電流印加手段から出力される前記定電流を選択的に前記各表示部に印加する切り替え手段と、
前記切り替え手段の制御を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項7】
前記記憶手段が、前記定電流印加手段の各々に対応して複数設けられていることを特徴とする請求項5又は6に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項8】
前記定電流印加手段より前記表示部を発色させる際に注入した電荷量に基づいて前記表示部を消色する際に注入する電荷量を設定する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項9】
前記定電流印加手段より前記表示部を発色させる際に注入した電荷量と前記表示部を消色する際に注入する電荷量とが等しくなるように、前記表示部を消色する際に注入する電荷量を設定する手段を備えることを特徴とする請求項7に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項10】
電解液と、前記電解液に電荷を注入するための電極と、を有し、酸化還元反応により前記電極を介して前記電解液に電荷が注入されることにより発色し、前記電解液に前記電荷と逆極性の電荷が注入されることにより消色する少なくとも1つの表示部が配置された表示手段の表示駆動を行う表示駆動装置であって、
定電流を出力し、前記表示部の電極に該定電流を印加して前記電解液に電荷を注入する少なくとも1つの定電流印加手段と、
前記定電流印加手段により前記表示部の電極に印加する前記定電流の電流値を、当該電極の面積に比例した値にする電流値設定手段と、
を具備することを特徴とする表示駆動装置。
【請求項11】
前記表示駆動装置は、前記定電流印加手段より、前記表示部を発色させる際に前記表示部の電極に印加する前記定電流の電流値を、該定電流の印加によって前記表示部に発生する電圧が、前記表示部を発色させるのに必要な発色閾値電圧よりも高く、かつ、前記表示部に印加できる限界の電圧である限界電圧よりも低くなる値とする手段を備えることを特徴とする請求項10に記載の表示駆動装置。
【請求項12】
前記各表示部の電極の面積を記憶する少なくとも1つの記憶手段を含み、前記定電流印加手段により前記各表示部の電極に印加する前記定電流の電流値を、前記記憶手段に記憶された前記各表示部の電極の面積に対応した値に基づく値に設定する手段を備えることを特徴とする請求項10に記載の表示駆動装置。
【請求項13】
前記定電流印加手段は、
前記記憶手段に記憶された表示部の電極の面積に対応した値に応じた発色信号を発生する発色信号発生手段と、
前記発色信号発生手段に接続され、前記発色信号発生手段から前記発色信号が入力された場合に、該入力された発色信号に応じた電流値の負方向の電流を前記表示部に印加する負方向定電流印加手段と、
前記記憶手段に記憶された表示部の電極の面積に対応した値に応じた消色信号を発生する消色信号発生手段と、
前記消色信号発生手段に接続され、前記消色信号発生手段から前記消色信号が入力された場合に、該入力された消色信号に応じた電流値の正方向の電流を前記表示部に印加する正方向定電流印加手段と、
を備え、
前記表示部は、前記負方向定電流印加手段から負方向の電流が印加された場合に発色し、前記正方向定電流印加手段から正方向の電流が印加された場合に消色することを特徴とする請求項12に記載の表示駆動装置。
【請求項14】
前記表示部は前記表示手段に複数配置され、
前記定電流印加手段が、前記表示手段の前記複数の表示部の各々に対応して複数設けられていることを特徴とする請求項12に記載の表示駆動装置。
【請求項15】
前記表示部は前記表示手段に複数配置され、
前記定電流印加手段が1つ又は前記表示手段の前記複数の表示部の数より少ない数だけ設けられ、
更に、前記定電流印加手段と前記表示手段の前記複数の表示部との間に設けられ、前記定電流印加手段から出力される前記定電流を選択的に前記各表示部に印加する切り替え手段と、
前記切り替え手段の制御を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項12に記載の表示駆動装置。
【請求項16】
前記記憶手段が、前記複数の定電流印加手段の各々に対応して複数設けられていることを特徴とする請求項14又は15に記載の表示駆動装置。
【請求項17】
前記定電流印加手段より前記表示部を発色させる際に注入した電荷量に基づいて前記表示部を消色する際に注入する電荷量を設定する手段を備えることを特徴とする請求項10に記載の表示駆動装置。
【請求項18】
前記定電流印加手段より前記表示部を発色させる際に注入した電荷量と前記表示部を消色する際に注入する電荷量とが等しくなるように、前記表示部を消色する際に注入する電荷量を設定する手段を備えることを特徴とする請求項17に記載の表示駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−188036(P2007−188036A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158901(P2006−158901)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】