説明

エレクトロルミネッセンス素子及び照明装置

【課題】光取り出し効率の高いエレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】電極1、エレクトロルミネッセンス層2、高屈折率層3(透明電極層3A、中間層3B)及び透光体4がこの順に配置されてなるエレクトロルミネッセンス素子において、高屈折率層3及び透光体4のそれぞれの光取り出し面側に、光散乱機能を有する層5A,5Bを有するエレクトロルミネッセンス素子。高屈折率層3及び透光体4のそれぞれの光取り出し面側に光散乱機能を有する層5A,5Bを設けることにより、透光体4と空気との界面で全反射し、透光体4の内部を面方向に全反射しながら進む導波光と、エレクトロルミネッセンス層2、及び高屈折率層3を含む薄膜内部を面方向に進む導波光を多重散乱させることにより、エレクトロルミネッセンス素子外部へ取り出すことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス素子に係り、詳しくは光取り出し効率に優れたエレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
本発明はまた、このエレクトロルミネッセンス素子を光源とする照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エレクトロルミネッセンスディスプレイやエレクトロルミネッセンス照明に用いられるエレクトロルミネッセンス素子は、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子とがエレクトロルミネッセンス層で再結合し、その再結合エネルギーによって発光中心が励起され、発光するという発光原理を有する。
【0003】
図2は、従来の一般的なエレクトロルミネッセンス素子を示す模式的な断面図であり、電極(陰極)1、エレクトロルミネッセンス層2、透明電極層(陽極)3A及び透光体(透明基板)がこの順で積層されている。
【0004】
エレクトロルミネッセンスディスプレイにおいては、エレクトロルミネッセンス層で発光した光が効率的に取り出されることが好ましいが、発光した光のうち臨界角に近い角度で出射された光は、出射面の透明基板と空気との界面で全反射し、透明基板の内部を面方向に全反射しながら進む導波光(基板モード)となる。また、透明電極層と透明基板との界面で全反射し、透明電極内部、あるいは透明電極とエレクトロルミネッセンス層内部を面方向に進む導波光(薄膜モード)も存在し、これらの導波光は素子内部で吸収されて減衰してしまい、外部へ取り出されない。
【0005】
これらの導波光のために、従来において、エレクトロルミネッセンス素子の透明基板から取り出される光取り出し効率(エレクトロルミネッセンス層で発光した光がエレクトロルミネッセンス素子の外部取り出される割合のこと。)は20%程度と低かった。
【0006】
従来、エレクトロルミネッセンス素子の導波光を減少させるための技術については種々検討がなされており、例えば、特許文献1には、レンズシートからなる光散乱部を透明基板に設ける、若しくは艶消し処理した基板を利用した有機エレクトロルミネッセンス装置が記載されている。しかしながら、この技術では、透光体と空気との界面で全反射し、透光体の内部を面方向に全反射しながら進む導波光は低減するが、透明電極層と透明基板との界面で全反射し、透明電極内部、あるいは透明電極とエレクトロルミネッセンス層内部を面方向に進む導波光を取り出すことはできず、光取り出し効率を十分に高くすることができないという問題があった。
【0007】
また、特許文献2には、光の内部全反射を阻止するフラストレータ要素を配置した情報ディスプレイが記載されている。しかし、この技術では、デバイス内の様々な箇所に嵩拡散体を含むフラストレータを配置することで、光取り出し効率は若干向上するが、凹凸界面と透明電極が隣接してしまった場合、発光面に多数のダークスポットが生じ、素子の寿命にも悪影響を与えてしまうという問題があった。また、特許文献1と同様、透明電極層と透明基板との界面で全反射し、透明電極内部、あるいは透明電極とエレクトロルミネッセンス層内部を面方向に進む導波光を取り出すことはできず、光取り出し効率を十分に高くすることができないという問題があった。
【特許文献1】特許第2931211号公報
【特許文献2】特表2004−513483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電極、エレクトロルミネッセンス層、高屈折率層及び透光体がこの順に配置されてなるエレクトロルミネッセンス素子において、透光体と空気との界面で全反射し、透光体内を面方向に進む導光波のみならず、高屈折率層と透光体との界面で全反射して高屈折率層内部、或いは高屈折率層とエレクトロルミネッセンス層内部を面方向に進む導光波をも低減して、光取り出し効率の高いエレクトロルミネッセンス素子を提供することを課題とする。
【0009】
特に、エレクトロルミネッセンス素子を光源として用いる照明装置に要求される画素端部の輝度低下の防止、さらには取り出し光の指向性の付与が可能なエレクトロルミネッセンス素子を提供することを課題とする。
本発明はまた、このようなエレクトロルミネッセンス素子を光源として用いた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、高屈折率層及び透光体のそれぞれの光取り出し面側に、光散乱機能を有する層を設けることにより、透光体と空気との界面で全反射し、透光体内を面方向に進む導光波のみならず、高屈折率層と透光体との界面で全反射して高屈折率層内部、或いは高屈折率層とエレクトロルミネッセンス層内部を面方向に進む導光波をも低減することができ、エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し効率を、従来に比べて格段に向上させることができることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
高屈折率層及び透光体のそれぞれの光取り出し面側に光散乱機能を有する層を設けることによる光取り出し効率の向上効果の作用機構の詳細は明らかではないが、高屈折率層及び透光体のそれぞれの光取り出し面側に光散乱機能を有する層を設けることにより、透光体と空気との界面で全反射し、透光体の内部を面方向に全反射しながら進む導波光と、エレクトロルミネッセンス層及び高屈折率層を含む薄膜内部を面方向に進む導波光を多重散乱させることにより、エレクトロルミネッセンス素子外部へ取り出すことが可能となることによると推測される。
【0012】
従って、本発明は以下を要旨とするものである。
(1) 電極、エレクトロルミネッセンス層、高屈折率層及び透光体がこの順に配置されてなるエレクトロルミネッセンス素子において、高屈折率層及び透光体のそれぞれの光取り出し面側に、光散乱機能を有する層を有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
(2) 光散乱機能を有する層が、不規則な凸凹構造界面であることを特徴とする(1)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(3) 光散乱機能を有する層が、透明粒子を含有する層であることを特徴とする(1)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(4) 高屈折率層及び透光体のそれぞれの光取り出し面側の光散乱機能を有する層がいずれも透明粒子を含有する層であって、高屈折率層の光取り出し面側の光散乱機能を有する層に含有される透明粒子の屈折率が1.6以上であり、かつ透光体の光取り出し面側の光散乱機能を有する層に含有される透明粒子の屈折率が1.7以下であることを特徴とする(3)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(5) 高屈折率層と透光体との間に、透光体よりも屈折率の低い層を有することを特徴とする(1)〜(4)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(6) 透光体よりも屈折率の低い層の屈折率が1.3以下であることを特徴とする(5)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(7) 透光体の光取り出し面側の光散乱機能を有する層の屈折率が透光体の屈折率よりも高いことを特徴とする(1)〜(6)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(8) 高屈折率層が、透明電極層及び透明電極層と同等の屈折率を有する中間層とを有することを特徴とする(1)〜(7)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(9) 透明電極層と中間層との間に、ガスバリア層を有することを特徴とする(8)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(10) 照明の光源として用いられることを特徴とする(1)〜(9)に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
(11) 光源が、(1)〜(9)に記載のエレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする照明装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子によれば、
(1) 従来品に比べて、光取り出し効率が大幅に向上する。
(2) 光の干渉によって生じる視野角に対する発光色及び輝度の変化を低減することができる。特に、白色発光素子(電子輸送層発光型素子、正孔輸送層/電子輸送層発光型素子、タンデム型素子)においては、視野角に対する発光色及び輝度変化が顕著であるが、本発明によればこれを大幅に低減することができる。
(3) エレクトロルミネッセンス素子における各層の膜厚の均一性への精度が緩和されると共に、素子の大画面化、量産化、低コスト化が容易となる。
(4) 素子の温度特性や劣化による発光状態の変化を軽減できる。従って、照明装置における劣化素子の際の一部交換時においても、交換前後で違和感を与えることはない。
(5) 照明装置における画素端部の輝度低下を抑制することで、照明として均一な発光を実現することができる。
(6) 光を高輝度に取り出すと共に、取り出し光に指向性を付与することができる。
といった効果が奏される。
【0014】
このような本発明のエレクトロルミネッセンス素子によれば、低い電流量で高い輝度を得られることから、長寿命の素子を提供することができる。また、高い輝度が得られることで、ディスプレイ用途、照明用途、その他発光体として可能なエレクトロルミネッセンス素子となる。
【0015】
特に、本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、画素端部における輝度低下の抑制、さらには取り出し光の指向性の付与が可能であるため、照明用途として最適なエレクトロルミネッセンス素子である。
【0016】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は自発光素子であり、かつ透光体を有するフィールドエミッションディスプレイやプラズマディスプレイなどにも利用することができ、その工業的有用性は非常に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明のエレクトロルミネッセンス素子及び照明装置の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0018】
[エレクトロルミネッセンス素子の構成]
図1を参照して本発明のエレクトロルミネッセンス素子の構成を説明する。
【0019】
図1は本発明のエレクトロルミネッセンス素子の実施の形態を示す模式的な断面図である。
【0020】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、電極1、エレクトロルミネッセンス層2、高屈折率層3及び透光体4がこの順に配置されてなり、高屈折率層3と透光体4のそれぞれの光取り出し面側に光散乱機能を有する層5A,5Bが設けられているものである。
【0021】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子はこの積層順の構成であれば、本発明の効果を損なわない限り各構成層間に任意の他の層を有していても良い。
【0022】
以下に本発明のエレクトロルミネッセンス素子の各構成要素について説明する。
【0023】
(1)電極
電極1は、通常陰極として機能する。陰極として用いられる材料は、仕事関数の低い金属又はその化合物が好ましい。陰極は、通常、アルミニウム、錫、マグネシウム、インジウム、カルシウム、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、白金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等で形成される。特にアルミニウムで形成することが好ましい。
【0024】
陰極の厚さは、特に限定されないが、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、さらに好ましくは50nm以上で、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。
【0025】
陰極は、蒸着やスパッタリング等の真空成膜プロセスにより形成することができる。
【0026】
低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、エレクトロルミネッセンス層と反対となる側にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す上で有効である。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。さらに、陰極とエレクトロルミネッセンス層との界面にLiF、MgF、LiO等の極薄絶縁膜(膜厚0.1〜5nm)を挿入することにより、素子の効率を向上させることができる。
【0027】
なお、酸化インジウムやインジウムを添加した酸化亜鉛等の透明電極材料で陰極を形成し、陰極側から光を取り出す構成としてもよい。その場合、高屈折率層及び透光体の光取出し面側とは、陰極側となる。
【0028】
(2)エレクトロルミネッセンス層
エレクトロルミネッセンス層2は、電界が印加されることにより発光現象を示す物質により成膜されたものであり、単層構造であっても、機能分離した多層構造であってもよい。多層構造の場合、有していてもよい層としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などが挙げられる。エレクトロルミネッセンス層に使用される物質としては、従来使用されているエレクトロルミネッセンス物質を用いることができる。例えば、付活酸化亜鉛ZnS:X(但し、Xは、Mn、Tb、Cu,Sm等の付活元素である。)、CaS:Eu、SrS:Ce、SrGa:Ce、CaGa:Ce、CaS:Pb、BaAl:Eu等の従来使用されている無機エレクトロルミネッセンス物質、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体、芳香族アミン類、アントラセン単結晶等の低分子色素系の有機エレクトロルミネッセンス物質、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾールなどの共役高分子系の有機エレクトロルミネッセンス物質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの発光性化合物だけではなく、三重項状態からの燐光発光が可能な材料、若しくはこれらの蛍光色素由来の化合物を用いることもできる。
【0029】
エレクトロルミネッセンス層2の厚さは、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、さらに好ましくは50nm以上で、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。
【0030】
エレクトロルミネッセンス層2は、蒸着やスパッタリング等の真空成膜プロセス、あるいはクロロフォルム等を溶媒とする塗布プロセスにより形成することができる。
【0031】
(3)高屈折率層
本発明でいう高屈折率層3とは、エレクトロルミネッセンス層2を含む薄膜内部を面方向に進む導波光を取り出すために設けられる、屈折率が通常1.55以上、好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上、最も好ましくは1.9以上、特に好ましくは2.0以上、通常2.5以下、好ましくは2.2以下の層をいう。高屈折率層は複数の層から形成されてもよく、その場合、屈折率は層の平均値を示す。なお、本発明における屈折率は分光エリプソメーター(波長範囲:350〜900nm)で測定されたものを言う。ただし、試料によって測定、解析が困難なものの場合には、プリズムカップラーを使用する。
【0032】
高屈折率層3は、少なくとも透明電極層3Aを有する。高屈折率層3は、透明電極層3Aの一層からなるものであってもよく、また、図1に示す如く、透明電極層3Aとこれと同等の屈折率を有する中間層3Bとが組み合わされてなる層であってもよい。
【0033】
本発明においては、エレクトロルミネッセンス層2を含む薄膜内の導波光を高屈折率層3内へも移動させるため、高屈折率層3は、透明電極層3Aと透明電極3Aと同等の屈折率を有する中間層3Bとからなる層であることが好ましい。なお、本明細書において、「屈折率が同等」とは、一方の屈折率と他方の屈折率との差が0.3未満、好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下、最も好ましくは0.02以下であることをいう。
【0034】
高屈折率層3の厚さは、通常200nm以上、好ましくは600nm以上で、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。この厚さが200nm未満では、透明電極層3Aと中間層3Bとの界面を制御することが困難であり、発光時の黒点、寿命の低下を引き起こす可能性があり、50μmを超えると、透過率の低下や発光滲みの原因となる可能性があるため、高屈折率層3は以下に記載するような好適な表面平滑性を得るために十分な膜厚であれば良い。
【0035】
高屈折率層の表面(透明電極層側面)は平滑であることが好ましく、表面粗さRaが80nm以下であることが好ましく、50nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。表面粗さRaが80nmを超えるとエレクトロルミネッセンス発光時の黒点や寿命低下の原因となる可能性がある。ただし、表面粗さRaが0.1より小さい表面性を形成することは困難であり、従って、表面粗さRaは0.1nm以上であることが好ましい。高屈折率層3の表面粗さRaは接触式段差・表面粗さ・微細形状測定装置(ケーエルビー・テンコール社)により確認することができる。
【0036】
〈1〉透明電極層
透明電極層3Aとは、通常エレクトロルミネッセンス素子の陽極として作用する。透明電極層3Aとしては、錫を添加した酸化インジウム(通称ITOと呼ばれている。)、アルミニウムを添加した酸化亜鉛(通称AZOと呼ばれている。)、インジウムを添加した酸化亜鉛(通称IZOと呼ばれている。)等の複合酸化物薄膜が好ましく用いられる。特にITOであることが好ましい。
【0037】
後述の光散乱機能を直接形成したものではない透明電極層の場合、可視光波長領域における平行光線透過率は大きいほど好ましく、通常50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0038】
また、透明電極層3Aの電気抵抗は、面抵抗値として小さいほど好ましいが、通常1〜100Ω/□(=1cm)であり、その上限値は好ましくは70Ω/□、さらに好ましくは50Ω/□である。
【0039】
透明電極層3Aの厚さは、上述した光線透過率及び面抵抗値を満足する限りにおいて、通常0.01〜10μmであるが、導電性の観点から、0.03μm以上が好ましく、0.05μm以上がさらに好ましい。一方、光線透過率の観点から、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。
【0040】
透明電極層3Aを形成するための塗布液組成としては例えばITO微細粒子を導電性ポリマーあるいはその他の樹脂バインダーと共に有機溶媒に分散させたもの、あるいは導電性ポリマー材料などが使用できるが、これに限定されない。透明電極層3Aは、この塗布液を用い、フォトリソグラフィ法、インクジェット等により、エレクトロルミネッセンス素子の電極として必要なパターンに形成される。パターンニング後の線幅は1〜10μm程度が標準的であるが、これに限定されるものではない。
【0041】
〈2〉透明電極層と同等の屈折率を有する中間層(以下、中間層と称す。)
中間層3Bは透明電極層3Aに対して、図1に示す如く、光取り出し面側に設けても、エレクトロルミネッセンス層2側に設けても良い。或いはこれらの両方に設けても良い。中間層3Bを透明電極層3Aの光取り出し面側に設ける場合は、中間層3Bが絶縁性を有することが好ましく、中間層3Bをエレクトロルミネッセンス層2側に設ける場合は、導電性を有することが好ましい。ただし、図1に示す如く、絶縁性の中間層3Bを透明電極層3Aの光取り出し面側に設ける方がより好ましい。
【0042】
中間層3Bとしては、ゾルゲル反応によって形成した膜や真空プロセスにより形成した膜が用いられ、その材料としては、SiN(xおよびyはそれぞれ0以上の任意の数)、TiO、ZrO、ゼオライトなどの無機酸化物材料、熱硬化性樹脂、UV硬化性樹脂、伝導性樹脂などの有機材料、又はこれらの複合材料が挙げられる。中間層3Bは、これらの材料の積層体であってもよい。中間層3Bの材料は特に限定されないが、透明電極層3Aと同等の屈折率であることが重要であるため、樹脂やシリケートなどのマトリックス中にTiO、Al、ZrO、Taなどの高屈折率微粒子を分散させることで、屈折率を調節したものであっても良い。これら微粒子は1種を用いても2種以上を用いてもよい。ここで、マトリックスを構成する樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ジアクリルフタレート樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、その他の熱可塑性樹脂や、これらの樹脂を構成する単量体の2種以上の共重合体が挙げられる。
【0043】
中間層3Bは、透明電極層3Aとの屈折率を近づけることが重要であり、屈折率差が0.3以上になるとエレクトロルミネッセンス層2を含む薄膜内の導波光を十分に取り出せないことから、透明電極層3Aと中間層3Bとの屈折率差は0.3未満、好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下、とりわけ好ましくは0.02以下となるようにすることが重要である。
【0044】
中間層3Bの厚さは、通常250nm以上、好ましくは600nm以上で、通常50μm以下、好ましくは10μm以下である。
【0045】
中間層3Bは、通常、スピンコート、ディップコート、ダイコートなどの塗布プロセスあるいは、蒸着、スパッタ等の真空プロセスにより形成することができる。
【0046】
中間層3Bの表面は平滑であることが好ましく、表面粗さRaが100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。表面粗さが100nmを超えるとエレクトロルミネッセンス発光時の黒点や寿命低下の原因となる可能性がある。ただし、中間層3Bを表面粗さRa=0.05nmより小さい表面性に形成することは困難であることから、通常、中間層3Bの表面粗さRaは0.05nm以上である。中間層3Bの表面粗さRaは接触式段差・表面粗さ・微細形状測定装置(ケーエルビー・テンコール社)により確認することができる。
【0047】
〈3〉ガスバリア層
本発明においては、特に高屈折率層3が透明電極層3A及び透明電極層3Aと同等の屈折率を有する中間層3Bを有する場合には、中間層3Bなどの高屈折率層3の一部、もしくは全体が、透明電極層3Aに化学的悪影響を及ぼし、エレクトロルミネッセンス発光時の黒点発生、寿命低下の恐れがあることから、透明電極層3Aと中間層3Bとの間にガスバリア層を有することが好ましい。
【0048】
ガスバリア層の形成材料としては、ZrC、TiO、Al、CeO、TiN、Ta、SiO、SiN、SiO、SnO、Sb、Y、La、Inなど、あるいはこれらの混合物が挙げられるが、これらに制限はなく、可視で吸収が無いか少なくとも緻密な膜構造であればいずれも使用でき、特に無機化合物を主成分とすることが好ましい。
【0049】
ガスバリア層の厚さは特に制限はないが、バリア特性を考慮し、通常5nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上、特に好ましくは100nm以上で、通常10μm以下、好ましくは1μm以下、特に好ましくは400nm以下である。例えば、5nm以上400nm以下、好ましくは10nm以上300nm以下、具体的には30nm程度の無機材料を含有するガスバリア層を設けることが好ましい。
【0050】
このガスバリア層は、例えば蒸着法やスパッタ法などの真空プロセスで形成される。ガスバリア層の屈折率は透明電極層3Aと同等であることが好ましいが、膜厚200nm以下であれば、低屈折率材料を用いることも可能である。この場合の低屈折率材料としては、例えば、MgF、NaF、NaFなどのフッ化物化合物、ナノ多孔質材料などが挙げられる。
【0051】
(4)透光体
透光体4は通常エレクトロルミネッセンス素子の基板となるものである。
【0052】
透光体4としては、高屈折率層3の屈折率と同等、若しくはそれよりも高いものが好ましいが、その屈折率は通常1.4以上、好ましくは1.45以上、さらに好ましくは1.47以上で、通常1.9未満、好ましくは1.80未満、さらに好ましくは1.75未満である。透光体4の屈折率はエリプソメーター、反射率測定、プリズムカップラーなどの光学的手法で測定されるが、特に限定されるものではない。
【0053】
こうした屈折率を有する透光体4としては、汎用材料からなる透明基板を用いることができる。例えば、BK、SF11、LaSFN、BaK、Fなどの各種ショットガラス、合成フェーズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、サファイヤガラス、ソーダガラス、無アルカリガラスなどのガラス、ポリメチルメタクリレートや架橋アクリレートなどのアクリル樹脂、ピスフェノールAポリカーボネートなどの芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリシクロオレフィンなどの非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレンなどのスチレン樹脂、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などの合成樹脂などが挙げられ、これらの積層体であってもよい。これらのうち、ショットガラス、合成フェーズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、ソーダガラス、無アルカリガラス、アクリル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂が好ましい。
【0054】
なお、これらの透光体4の光取り出し側(後述の光散乱機能を有する層のさらに光取り出し面側)には、目的と用途に応じて反射防止フィルム、円偏光フィルム、位相差フィルムなどの光学フィルムを形成、若しくは張り合わせてもよい。
【0055】
透光体4の厚さは、通常0.1mm以上10mm以下である。機械的強度やガスバリア性の観点から好ましくは0.2mm以上であり、軽量化、光線透過率の観点からは通常5mm以下、好ましくは3mm以下である。
【0056】
透光体4は透明基板であることが好ましいが、この基板の代わりに高屈折率層上に保護カバーを設けたトップエミッション型素子であってもよく、この場合、透光体4が保護カバーになることが好ましい。保護カバーの材料は、透明であれば特に制限はなく、硬化性樹脂などの各種樹脂材料やゾルゲル膜などのコーティング材料が挙げられる。
【0057】
(5)光散乱機能を有する層
本発明は、高屈折率層3及び透光体4のそれぞれの光取り出し面側に、光散乱機能を有する層5A,5Bを有することを特徴とする。
【0058】
ここで、光散乱機能とは、発光光線をMie散乱による多重散乱させることである。この光散乱機能により、エレクトロルミネッセンス層2を含む薄膜内での導波光もしくは導波光の滲み出し光を光取り出し方向に散乱させることができる。効率的に多重散乱させるためには、散乱体若しくは散乱形状と散乱体若しくは散乱形状周辺のマトリックスとの屈折率差と、散乱体若しくは散乱形状のサイズを最適に調整する必要がある。例えば、散乱体間の距離が散乱体サイズと同等、若しくはそれ以下であることが好ましく、散乱体サイズの1/2以下であることがより好ましい。また散乱体間の距離が波長の1/10以上であることが好ましい。なお、これらのサイズは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡による断面観察、若しくはX線散乱測定により確認することができる。
【0059】
ここで、散乱体とは、下記の透明粒子のことを指し、散乱形状とは、凸凹界面の形状のことを指し、マトリックスとは、具体的には、透明粒子を含有する層の場合は、中間層3Bで記載したマトリックスと同様のもののことをいい、凸凹構造界面の場合は、隣接する層の材料や空気などのことをいう。
【0060】
高屈折率層3及び透光体4のそれぞれの光取り出し面側とは、通常、高屈折率層3と透光体4の界面、及び透光体4と空気との界面というように、屈折率差が大きくなる面であることが多い。
特に、透光体4の光取り出し面側に設けられる光散乱機能を有する層5Bは、透光体4の屈折率よりも高いことが、基板モードを効率的に取り出せる点で好ましい。透光体4の屈折率と光散乱機能を有する層5Bとの屈折率差は通常0.02以上で1.5以下程度であることが好ましい。
【0061】
光散乱機能を有する層5A,5Bとは、高屈折率層3及び透光体4のそれぞれの層と異なる層が形成されたものであってもよいし、高屈折率層3或いは透光体4のそれぞれの層の表面にブラスト処理などの研磨により凹凸表面を施したものであってもよいが、特に不規則な凸凹構造界面や透明粒子を含有する層が好ましい。
【0062】
光散乱機能を有する層5A,5Bの膜厚方向の厚さは通常100nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましい。この厚さが100nm未満では、多重散乱性が低下し、散乱の異方性が強くなることで、輝度の視野角依存性が現れる恐れがある。また、光散乱機能を有する層5A,5Bの厚さは50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。50μmを超えると、発光光線が光散乱機能を有する層を通る光路により、散乱特性が変化し、前記と同様、輝度の視野角依存性が現れる恐れがある。
【0063】
光散乱機能を有する層5A,5Bの光散乱機能は、通常、光線透過率で90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。また、多重散乱による発光光線のロスを考慮すると、通常25%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。例えば、D65光において、それぞれの光散乱機能を有する層5A,5Bの平行光線透過率が30%以上80%以下であることが好ましい。
【0064】
〈1〉不規則な凸凹構造界面よりなる光散乱機能を有する層
ここで、不規則な凸凹構造界面とは非周期的な凸凹構造界面をいい、発光光線がその界面での全反射を軽減するために、表面粗さRaは10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。また、発光滲みの観点から10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。従来、フォトニクス結晶マイクロレンズを含む高度な粗面構造が提案されているが、コスト面だけでなく、散乱の異方性の観点からも凸凹構造は不規則であることが重要である。この表面粗さRaはJIS B0601:2001に規定されている基準に基づき、ケーエルエー・テンコール社製P−15型接触式表面粗さ計を用いて、1走査距離0.5μmの条件で、数回測定した平均値を算出して求めたものである。
【0065】
光散乱機能を有する層としての不規則な凸凹構造界面は、ブラストなどの研磨処理でも施すことは可能であるが、界面に透明粒子を施すことでも形成できる。
【0066】
〈2〉透明粒子を含有する層よりなる光散乱機能を有する層
ここで、透明粒子とは、可視光の領域で吸収のない、若しくは少ない粒子(前記吸収が通常30%以下)で、例えば、TiO、SiO、ZrO、Al、Ta、ZnO、Sb、ZrSiO、ゼオライト又はそれらの多孔性物質やそれらを主成分とした無機粒子やアクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などの有機粒子が挙げられる。特に、無機粒子が好ましく、中でもTiO、SiO、多孔質SiO、ZrO、Al、ゼオライトよりなるものが好ましい。また、透明粒子は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0067】
通常、有効なMie散乱をさせるために粒子サイズは100nm以上、好ましくは250nm以上、より好ましくは300nm以上であり、通常20μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0068】
特に、光散乱機能を有する層5Aにおいては、粒子サイズは80〜700nmであることが好ましく、光散乱機能を有する層5Bにおいては、粒子サイズは150nm〜8μmであることが好ましい。
【0069】
また、マトリックスと散乱体である透明粒子との屈折率差は、通常0.01以上が好ましく、さらに好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上であり、上限値は2未満が好ましく、より好ましくは1.5未満、さらに好ましくは1未満である。この屈折率差が低すぎると有効なMie散乱を得ることが困難になり、屈折率差が大きすぎると後方散乱が増大し、光取り出し率が十分に得られない恐れがある。
【0070】
薄膜モードを取り出すにはマトリックスの屈折率(N)と散乱体である透明粒子の屈折率(N)との差ΔN(=N−N)が−1.8〜−0.3であることが好ましい。さらに散乱体の屈折率(N)が1.8以上であることが好ましい。一方、基板モードを取り出すにはマトリックスと散乱体との屈折率差ΔNが−0.3〜1.5であることが好ましい。さらには散乱体の屈折率(N)が1.7以下であることが好ましい。
【0071】
また、本発明においては、高屈折率層3の光取り出し面側の光散乱機能を有する層5Aに含まれる散乱体である透明粒子の屈折率は1.6以上、好ましくは1.8以上であり、透光体4の光取り出し面側の光散乱機能を有する層5Bに含まれる散乱体である透明粒子の屈折率は1.7以下であることが好ましく、さらに1.57以下であることが好ましい。これは、透明粒子の散乱特性が異なる方が好ましいことによる。
【0072】
なお、透明粒子は異なる材質又は異なる粒径のものを2種以上併用しても良い。また、透明粒子を含有する層よりなる光散乱機能を有する層は異なる透明粒子及び/又はマトリックスを用いた積層膜であっても良い。
【0073】
透明粒子を含有する層は、通常、マトリックス前駆体に透明粒子を分散させた塗布液を塗布することにより形成される光多重散乱層である。
【0074】
マトリックスと透明粒子との屈折率差は、上述の如く、通常、0.01以上が好ましく、さらに好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上であり、上限値は2未満が好ましく、より好ましくは1.5未満、さらに好ましくは1未満であり、また、薄膜モードを取り出すにはマトリックスの屈折率と透明粒子の屈折率との差ΔN(=N−N)が−1.8〜−0.3であることが好ましく、基板モードを取り出すにはマトリックスと散乱体との屈折率差ΔNが−0.3〜1.5であることが好ましいため、用いるマトリックス前駆体は、分散させる透明粒子により変えることができるが、汎用材料として、例えば、シリケートオリゴマーなどのゾルゲル前駆体、熱硬化性樹脂やUV硬化性樹脂のモノマーなどの反応性前駆体、又は樹脂の溶融体、若しくはこれらを主成分とする前駆体が挙げられる。
【0075】
塗布液中の透明粒子含有量は、形成される透明粒子を含有する層においてMie散乱が多重散乱するよう調整する必要がある。
【0076】
この塗布液の塗布方法としては、スピンコート、ディップコート、ダイコート、キャスト、スプレーコート、グラビアコートなどが挙げられる。これら手段のうち、膜の均質性の観点から、スピンコート、ディップコート、ダイコートが好ましい。
【0077】
その他〈1〉,〈2〉以外にも、本発明では発光光線が凸凹構造界面での全反射を軽減することが重要であるため、その凸凹構造は屈折率差による不規則な凸凹構造界面であってもよい。
【0078】
(6)その他の層
本発明においては、高屈折率層3へ移行した発光光線を透光体4からより効率良く取り出す為に、高屈折率層3と透光体4との間に、透光体4よりも屈折率の低い層(以下、低屈折率層とよぶ)を設けることが好ましく、低屈折率層を設けることにより、取り出し光に指向性を付与することができる。
【0079】
低屈折率層を設ける場合、低屈折率層としては、屈折率が通常1.05以上、特に1.1以上で、通常1.5以下、好ましくは1.35以下、特に好ましくは1.3以下のシリカ、環状テフロン等のフッ化物樹脂、フッ化マグネシウムなどを含有する層が好適であるが、特に多孔性シリカを含有する層が好適である。低屈折率層の屈折率は透光体よりも低いことが重要である。ただし低過ぎると機械強度に問題が発生し易く、また高くなると光取り出し効率が低下する。また、シリカには必要に応じて疎水化、柔軟性付与、クラック防止等を目的に有機成分を導入してもよい。なお、トップエミッションタイプに限っては、低屈折率層はエアー(空隙)であってもデバイス構成上問題無い。この場合の屈折率は1.0である。
【0080】
[照明装置の構成]
本発明の照明装置は、上述のような本発明のエレクトロルミネッセンス素子を光源とするものである。
【0081】
即ち、本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、画素端部の輝度低減を抑制することができ、また、取り出し光に指向性を付与することができ、照明として均一な発光を得ることができる等の利点を有し、照明装置の光源として有用である。
【0082】
本発明の照明装置は、被照明物の前面に、複数のエレクトロルミネッセンス素子からなる画素を配置してなるものである。特に面状の照明として使用されることが好ましい。
【実施例】
【0083】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
〈参考例1〉
旭硝子(株)製無アルカリガラス(屈折率1.5)の光取り出し面の反対側に、ITOを膜厚100nm程度で常温スパッタして透明電極層を形成し、さらに正孔注入層及び正孔輸送層を形成した後、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体を膜厚150nm程度で蒸着し、発光層を形成する。その後、発光層上にAlを膜厚100nm程度蒸着し、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する。
【0085】
このエレクトロルミネッセンス素子の発光時の0.5mm径以上の黒点は5cm角中に3個以下程度である。
【0086】
〈実施例1〉
透光体(基板)として、旭硝子(株)製無アルカリガラスの光取り出し面に、(株)アドマテックス製シリカ粒子SO−G2(平均粒径600nm,屈折率1.5)をシリケートオリゴマー(オリゴマー硬化後の屈折率1.5)に分散した前駆体塗布液をスピンコートし、250℃で硬化し、光散乱機能を有する層を形成する。この光散乱機能を有する層の表面粗さRaは200nm程度であり、光線透過率は50%程度である。
【0087】
このガラス基板のもう一方の面に鋳型法による多孔質シリカ膜を形成し、低屈折率層とする。この多孔質シリカ膜は分光エリプソメーターから膜厚830nm程度、屈折率1.2程度である。
【0088】
この多孔質シリカ膜上に第一稀元素化学工業(株)製ジルコニア粒子RC−100(平均粒径1.9μm,屈折率2.0)をシリケートオリゴマーに分散した前駆体塗布液をスピンコートし、250℃で硬化し、光散乱機能を有する層とする。この光散乱機能を有する層の表面粗さRaは350nm程度であり、光線透過率は50%(光散乱機能を有する層のみで)である。
【0089】
さらに透明電極層側となる面に石原産業(株)製チタニア粒子TTO−55D(平均粒径30nm,屈折率2.4)を分散した三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー(硬化後の屈折率1.6)塗布液をスピンコートした後、UV硬化し、高屈折率層とする。プリズムカプラーにより、このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層は屈折率1.8程度、膜厚10μm程度、表面粗さRaは1nm程度である。
【0090】
このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層上にITOを膜厚100nm程度で常温スパッタし、透明電極層を形成し、さらに正孔注入層及び正孔輸送層を形成し、この上にトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体を膜厚150nm程度で蒸着し、発光層を形成する。その後、発光層上にAlを膜厚100nm程度蒸着し、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する。
【0091】
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の初期輝度は参考例1のものと比べ、2.5倍程度の光取り出し率である。なお、発光時の0.5mm径以上の黒点は5cm角中に5個以下程度である。
【0092】
〈実施例2〉
透光体(透明基板)として旭硝子(株)製無アルカリガラスの両面に、(株)アドマテックス製シリカ粒子SO−G2(平均粒径600nm)をシリケートオリゴマーに分散した前駆体塗布液をディップコートし、250℃で硬化し、光散乱機能を有する層を形成する。この光散乱機能を有する層の表面粗さRa、片面だけでの光線透過率は実施例1と同様と考えられる。
【0093】
透明電極層側となる面に石原産業(株)製チタニア粒子TTO−55D(平均粒径30nm)を分散した三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー塗布液をスピンコートし、硬化して、高屈折率層とする。プリズムカプラーにより、このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層は屈折率1.8程度、膜厚7μm程度で、表面粗さRaは2nm程度である。
【0094】
このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層上にITOを膜厚100nm程度で常温スパッタして透明電極層を形成し、さらに正孔注入層及び正孔輸送層を形成し、この上にトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体を膜厚150nm程度で蒸着し、発光層を形成する。その後、発光層上にAlを膜厚100nm程度蒸着し、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する。
【0095】
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の初期輝度は参考例1のものと比べ、1.8倍程度の光取り出し率である。
【0096】
〈実施例3〉
実施例1において、多孔質シリカ膜上に、ジルコニア粒子をシリケートオリゴマーに分散した前駆体塗布液の代りに、昭和電工(株)製チタニア粒子TS−01(平均粒径215nm,屈折率2.6)及び石原産業(株)製チタニア粒子TTO−55D(平均粒径30nm)を三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー塗布液に分散した前駆体塗布液をスピンコートした後、UV硬化して、光散乱機能を有する層を形成する。プリズムカプラーにより、このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層は屈折率1.8程度、膜厚6μm程度で、表面粗さRaは1nm程度である。光線透過率は70%程度(光散乱機能を有する層のみで)である。
【0097】
このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層上にITOを膜厚100nm程度で常温スパッタして透明電極層を形成し、さらに正孔注入層及び正孔輸送層を形成し、この上にトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体を膜厚150nm程度で蒸着し、発光層を形成する。その後、発光層上にAlを膜厚100nm程度蒸着し、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する。
【0098】
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の初期輝度は参考例1のものと比べ、2.3倍程度の光取り出し率である。なお、発光時の0.5mm径以上の黒点は5cm角中に5個以下程度である。
【0099】
〈参考例2〉
旭硝子(株)製無アルカリガラス(透光体)の光取り出し面の反対側に、ITOを膜厚130nmで常温スパッタして透明電極層を形成した。さらにこの透明電極層上に塗布型正孔注入層を膜厚30nmで、正孔輸送層(PPD:p−フェニレンジアミン)を膜厚45nmでそれぞれ形成した後、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体を膜厚60nmで蒸着して発光層を形成することにより、エレクトロルミネッセンス層を形成した。その後、エレクトロルミネッセンス層上に電極(陰極)としてLiF及びAlをそれぞれ膜厚0.5nm、80nmで蒸着して有機エレクトロルミネッセンス素子を形成した。
【0100】
この素子の光取り出し率を、以下の実施例4〜7、比較例1,2の素子に対して、1とする。
【0101】
〈実施例4〉透光体表面に凹凸構造を有し、裏面に透明粒子含有層を有する素子の作製
旭硝子(株)製無アルカリガラス(透光体)の光取出し面側をブラスト処理することで、表面に凹凸構造を形成し、光散乱機能を有する層とした。このブラスト処理面の表面粗さRaは560nmであり、平行光線透過率は10%であった。
【0102】
次いで、このガラス基板のブラスト処理面と反対(エレクトロルミネッセンス層)側に、堺化学工業(株)製ルチル型チタニア粒子R−61N(平均分散粒径250nm,屈折率2.6)を三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー塗布液に分散した前駆体塗布液をスピンコートした後、UV硬化して、光散乱機能を有する層を形成した。この光散乱機能を有する層は膜厚3.5μm、屈折率1.62、表面粗さRa1.5nm、平行光線透過率56%である。
【0103】
このようにして、ガラス基板の両面に光散乱機能を有する層を形成したこと以外は参考例2と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を形成した。
【0104】
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の初期輝度は、発光領域5mm角に対して測定範囲1mm角(評価条件1)と10mm角(評価条件2)とした場合、参考例2のものと比べ、それぞれ0.96倍(評価条件1)と1.34倍(評価条件2)の光取り出し率であり、また、素子端部での輝度低下を抑制しており、全体の輝度も向上した。
【0105】
〈実施例5〉透光体の両面にそれぞれ透明粒子含有層を有する素子の作製
旭硝子(株)製無アルカリガラスの光取り出し面に、(株)アドマテックス製シリカ粒子SO−G5(平均分散粒径530nm)をシリケートオリゴマーに分散した前駆体塗布液をディップコートし、150℃、15分、さらに250℃、15分で硬化し、光散乱機能を有する層を形成した。この光散乱機能を有する層は表面粗さRa355nmで、平行光線透過率54%であった。
【0106】
次いで、このガラス基板の反対(エレクトロルミネッセンス層)側に堺化学工業(株)製ルチル型チタニア粒子R−61N(平均分散粒径250nm,屈折率2.6)を三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー塗布液に分散した前駆体塗布液をスピンコートした後、UV硬化して、光散乱機能を有する層を形成した。この光散乱機能を有する層は膜厚3.5μm、屈折率1.62、表面粗さRa1.5nm、平行光線透過率56%であった。
【0107】
このようにして、ガラス基板の両面に光散乱機能を有する層を形成したこと以外は参考例2と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を形成した。
【0108】
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の初期輝度は、発光領域5mm角に対して測定範囲1mm角(評価条件1)と10mm角(評価条件2)とした場合、参考例2のものと比べ、それぞれ0.99倍(評価条件1)と1.39倍(評価条件2)の光取り出し率であり、また、素子端部での輝度低下を抑制しており、全体の輝度も向上している。
【0109】
〈実施例6〉透光体の両面にそれぞれ透明粒子含有層を有し、さらに低屈折率層を有する素子
旭硝子(株)製無アルカリガラスの光取出し面側に、実施例5の基板の光取り出し面側と同様の光散乱機能を有する層を形成した。
【0110】
次に、トリブロックポリマーPluronicを部分加水分解したアルコキシシランに溶解した前駆体溶液を、基板の反対側に塗布し、450℃で焼成し、多孔質シリカ層を形成した。この多孔質シリカ膜は分光エリプソメーターから膜厚830nm、波長550nmにおいて屈折率1.15であり、これを低屈折率層とした。
【0111】
さらに前記低屈折率層上に堺化学工業(株)製ルチル型チタニア粒子R−61N(平均分散粒径250nm)を三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー塗布液に分散した前駆体塗布液をスピンコートし、UV硬化して、光散乱機能を有する層を形成した。この光散乱機能を有する層は膜厚3.5μm、屈折率1.62、表面粗さRa1.5nm、平行光線透過率56%である。
【0112】
このようにして、2層の透明粒子含有層と低屈折率層を形成したこと以外は参考例2と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を形成した。
【0113】
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の初期輝度は、発光領域5mm角に対して測定範囲1mm角(評価条件1)と10mm角(評価条件2)とした場合、参考例2のものと比べ、それぞれ1.22倍(評価条件1)と1.39倍(評価条件2)の光取り出し率であった。
この素子では、低屈折率層を組み合わせることにより高い輝度と取り出し光の正面への指向性を両立することができた。
【0114】
〈実施例7〉透光体の両面にそれぞれ透明粒子含有層を有し、さらに低屈折率層を有する素子
旭硝子(株)製無アルカリガラスの光取り出し面に、(株)アドマテックス製シリカ粒子SO−G5(平均分散粒径408nm)を三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー塗布液に分散した前駆体塗布液をスピンコートし、UV硬化して、光散乱機能を有する層を形成した。この光散乱機能を有する層の表面粗さRaは61nmであり、平行光線透過率は54%であった。
【0115】
次に、トリブロックポリマーPluronicを部分加水分解したアルコキシシランに溶解した前駆体溶液を、基板の反対側に塗布し、450℃で焼成し、多孔質シリカ層を形成した。この多孔質シリカ膜は分光エリプソメーターから膜厚830nm、波長550nmにおいて屈折率1.15であり、これを低屈折率層とした。
【0116】
さらに前記低屈折率層上に堺化学工業(株)製ルチル型チタニア粒子R−61N(平均分散粒径250nm)を三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー塗布液に分散した前駆体塗布液をスピンコートし、UV硬化して、光散乱機能を有する層を形成した。この光散乱機能を有する層は膜厚3.5μm、屈折率1.62、表面粗さRa1.5nm、平行光線透過率56%であった。
【0117】
このようにして2層の透明粒子含有層と低屈折率層を形成したこと以外は参考例2と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を形成した。
【0118】
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の初期輝度は、発光領域5mm角に対して測定範囲1mm角(評価条件1)と10mm角(評価条件2)とした場合、参考例2のものと比べ、それぞれ1.17倍(評価条件1)と1.50倍(評価条件2)の光取り出し率であった。
【0119】
〈比較例1〉透光体の光取出し面のみに透明粒子含有層を有する素子
光散乱機能を有する層の光取り出し面に、(株)アドマテックス製シリカ粒子SO−G5(平均粒径408nm)をシリケートオリゴマーに分散した前駆体塗布液をディップコートし、150℃、15分、さらに250℃、15分で硬化し、光散乱機能を有する層を形成したこと以外は参考例2と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を形成した。この光散乱機能を有する層の表面粗さRaは355nmであり、平行光線透過率は54%であった。
【0120】
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の初期輝度は、発光領域5mm角に対して測定範囲1mm角(評価条件1)と10mm角(評価条件2)とした場合、参考例2のものと比べ、それぞれ0.91倍(評価条件1)と1.00倍(評価条件2)の光取り出し率であった。
【0121】
〈比較例2〉高屈折率層の光取出し面のみに透明粒子含有層を有する素子
旭硝子(株)製無アルカリガラスのエレクトロルミネッセンス層側に堺化学工業(株)製ルチル型チタニア粒子R−61N(平均分散粒径250nm)を三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー塗布液に分散した前駆体塗布液をスピンコートし、UV硬化して、光散乱機能を有する層を形成したこと以外は参考例2と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を形成した。この光散乱機能を有する層は、膜厚3.5μm、屈折率1.62、表面粗さRa1.5nm、平行光線透過率56%であった。
【0122】
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の初期輝度は、発光領域5mm角に対して測定範囲1mm角(評価条件1)と10mm角(評価条件2)とした場合、参考例2のものと比べ、それぞれ1.03倍(評価条件1)と1.31倍(評価条件2)の光取り出し率であった。この素子では、基板内への導波光が閉じ込められるため、十分な輝度が得られず、素子端部での輝度低下抑制も十分でない。
【0123】
以上の実施例4〜7及び比較例1,2の結果を下記表1にまとめる。
【0124】
【表1】

【0125】
以上の結果より、特に評価条件2のデータにおいて高い光取り出し効率を示していることから、画素端部でも十分な輝度が得られ、複数の画素をならべても均一な発光を実現できるため、本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、照明装置の光源として有用であることが分かる。また、低屈折率層の挿入で、取り出し光が指向性を有するようになることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】実施の形態に係るエレクトロルミネッセンス素子の模式的な断面図である。
【図2】一般的なエレクトロルミネッセンス素子の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0127】
1 電極(陰極)
2 エレクトロルミネッセンス層
3 高屈折率層
3A 透明電極層(陽極)
3B 中間層
4 透光体(透明基板)
5A,5B 光散乱機能を有する層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極、エレクトロルミネッセンス層、高屈折率層及び透光体がこの順に配置されてなるエレクトロルミネッセンス素子において、
高屈折率層及び透光体のそれぞれの光取り出し面側に、光散乱機能を有する層を有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
光散乱機能を有する層が、不規則な凸凹構造界面であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
光散乱機能を有する層が、透明粒子を含有する層であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
高屈折率層及び透光体のそれぞれの光取り出し面側の光散乱機能を有する層がいずれも透明粒子を含有する層であって、
高屈折率層の光取り出し面側の光散乱機能を有する層に含有される透明粒子の屈折率が1.6以上であり、かつ透光体の光取り出し面側の光散乱機能を有する層に含有される透明粒子の屈折率が1.7以下であることを特徴とする請求項3に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
高屈折率層と透光体との間に、透光体よりも屈折率の低い層を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
透光体よりも屈折率の低い層の屈折率が1.3以下であることを特徴とする請求項5に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
透光体の光取り出し面側の光散乱機能を有する層の屈折率が透光体の屈折率よりも高いことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
高屈折率層が、透明電極層及び透明電極層と同等の屈折率を有する中間層とを有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
透明電極層と中間層との間に、ガスバリア層を有することを特徴とする請求項8に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
照明の光源として用いられることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
光源が、請求項1ないし9のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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