説明

エレベータのかご

【課題】エレベータのかごの改修前後または変更前後、さらには周辺機器の交換前後において、変動されたかごの質量および周辺機器の質量の和を相殺し、かごの質量および周辺機器の質量の和を一定にすることが可能な調整おもりを備えるエレベータのかごを得ることを目的とする。
【解決手段】この発明によるエレベータ1のかご5は、かご枠7と、かご枠7に支持固定されたかご室6と、かご室6またはかご枠7の少なくとも一部に構成される調整おもり取り付け部33a,33bと、調整おもり取り付け部33a,33bに着脱可能に取り付けられる調整おもり36a,36bと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータのかごに関し、特にかごやかごに取りつけられる周辺機器の改修や変更を行ったときに、かご側の総質量の変動分を相殺することが可能な調整おもりが取り付けられるエレベータのかごに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータかごのパネルは、かご床上の外縁に沿って配置され、かごの内側方向に取り付け部を有する裏板と、裏板の取り付け部に締結部材によって固定される表板とからなっている。
【0003】
そして、従来のエレベータかごのパネル改修方法は、現在、かごに取り付けられている表板を取り外す工程と、別途、新たに工場で作製されて、取り外した表板と同じ形状寸法を有する表板をかご内に搬入し、裏板に取り付ける工程を有している。これにより、かごへの新たな表板の装着(パネルの改修)が、改修前後でパネルの質量を変更することなく、実現されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の従来のエレベータ天井照明板は、透光性樹脂の照明板を船底形状に作製し、その内面、或いは外面に樹脂基板を化学的な組織変化の害を及ぼさない接着剤付のアートシート、或いはメタルシート、或いはアートメタルを自由に貼り付けることにより、意匠が自由に変更されていた(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−349260号公報
【特許文献2】特開平6−255957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、エレベータにおいては、かごが何らかの原因で最下階を行き過ぎ、昇降路のピットの底に衝突した場合の衝撃を緩和するための緩衝器や、かごを案内するためのガイドレールなどは、かごの質量などを加味して決定される強度基準を満足するように設計されている。
【0007】
従来のエレベータかごのパネルの改修方法や他の従来のエレベータ天井照明板の意匠の変更は、小規模な改修または変更を行っているだけであるので、改修または変更前後において、かごの質量は殆ど変動することはなく、緩衝器やガイドレールの強度基準を満足する範囲内で行われていた。つまり、従来のエレベータおよび他の従来のエレベータは、かごの質量が大きく変動するような大規模な改修や変更には対応できないという課題があった。
【0008】
また、近年、エレベータが設置されている建造物の使用目的や壁のデザインが変更されるときなどは、エレベータのかごなどの改修や変更が、建造物自体の付加価値を維持または向上させる目的で要求されている。このようなエレベータにおけるかごの改修や変更は、パネルや天井照明板のみならず、かご床なども含めた大規模な改修や変更が要求される場合もある。さらに、かごの改修や変更だけでなく、かご戸の開閉を行うかごドア装置など、かごに取りつけられる周辺機器の交換などが必要となる場合などもある。
【0009】
しかしながら、エレベータにおいて、大規模なかごの改修や変更が要求されても、かごの質量や周辺機器の質量の変動が制限されることにより、バラエティーに富んだ改修および変更が制限されるという課題が生じる。
また、改修や変更によってかごの質量が変動したり、交換などによって周辺機器の質量が変動したりした場合には、緩衝器やガイドレールの強度基準を再度検討しなければならないというわずらわしい工程が新たに発生する。
【0010】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、エレベータのかごの改修前後または変更前後、さらには周辺機器の交換前後において、変動されたかごの質量および周辺機器の質量の和を相殺し、かごの質量および周辺機器の質量の和を一定にすることが可能な調整おもりを備えるエレベータのかごを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明によるエレベータのかごは、かご枠と、かご枠に支持固定されたかご室とかご室またはかご枠の少なくとも一部に構成される調整おもり取り付け部と、調整おもり取り付け部に着脱可能に取り付けられる調整おもりと、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、かごの改修前後や変更前後、または周辺機器の交換前後において、かごの質量または周辺機器の質量が変動されても、調整おもりを着脱することによって、かごの質量および周辺機器の質量の変動分を相殺し、かごの質量および周辺機器の質量の和を一定にすることができるので、緩衝器やガイドレールなどの強度基準に影響されること無く、バラエティーに富んだ大規模な改修や変更を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るかごを備えるエレベータの構成を示す模式図、図2はこの発明の実施の形態1に係るエレベータのかごにおけるかご室内の主要構成を示す図、図3はこの発明の実施の形態1に係るエレベータのかごの要部構成を示す斜視図、図4はこの発明の実施の形態1に係るエレベータのかごにおけるかご枠に調整おもりが固定された状態を示す拡大正面図、図5はこの発明の実施の形態1に係るエレベータのかごにおけるかご枠に調整おもりが固定された状態を示す拡大側面図である。
なお、図4および図5は、調整おもりのかご枠の上梁への取り付け構造に特化して示しており、取り付け構造に無関係な構成の図示は省略されている。
【0014】
まず、エレベータ1の主要構成について説明する。
図1において、エレベータ1は、昇降路壁2および各階の乗り場戸3に囲まれる昇降路4内を走行可能に配設されるかご5、昇降路4上部に設置される機械室9、そらせ車10、電動モータ(図示せず)が組み込まれた巻上機11、巻上機11に取り付けられた駆動綱車12、エレベータ制御盤13、つり合いおもり14、主ロープ15、緩衝器16およびガイドレール17などを備えている。
【0015】
そして、そらせ車10、巻上機11、駆動綱車12およびエレベータ制御盤13は、機械室9に設置されている。
さらに、主ロープ15が駆動綱車12に掛け渡され、その一端側が昇降路4内に垂下され、その他端側がそらせ車10に巻き掛けられて昇降路4内に垂下されている。
そして、かご5は、かご室6とかご室6を支えるかご枠7などで構成される。主ロープ15の一端は、かご枠7に固着され、また、つり合いおもり14が主ロープ15の他端に固着されている。
【0016】
また、巻上機11の電動モータの回転が、巻上機11に電気的に接続されたエレベータ制御盤13により制御され、かご5は、電動モータのトルクにより回転駆動される駆動綱車12と主ロープ15との間に発生する摩擦力を利用して昇降路4内を昇降される。
【0017】
また、緩衝器16は、昇降路4のピット8の底に設けられ、また、かご5を案内するためのガイドレール17が昇降路4内に配設されている。
【0018】
図2および図3において、かご5は、かご枠7、かご枠7に支持固定されるかご室6およびかご枠7に取り付けられる調整おもり36a,36bを有している。かご室6は、図2に示されるように、かご床18、天井板21、幅木22、かご室壁23、そで壁24a,24b、出入口柱25、出入口26、かご戸27、照明機器28およびかご操作盤29などを有している。
【0019】
そして、かご戸27は、乗り場戸3と対向して開閉自在に備えられている。また、出入口26の両側には出入口柱25が立設されている。さらに、幅木22が、略正方形のかご床18の周縁に沿って、一方の出入口柱25から他方の出入口柱25に至るように延設されている。
【0020】
また、そで壁24a,24bが出入口柱25に隣接して幅木22の上端に立設されている。また、複数のかご室壁23が幅木22の上端に、一方のそで壁24aから他方のそで壁24bに至るように立設されている。そして、天井板21が、かご室壁23およびそで壁24a,24bの上端に固定されている(取り付けられている)。また、照明機器28が、天井板21に取り付けられている。さらに、行き先階ボタン、開閉ボタンなどを有するかご操作盤29がそで壁24aに配設されている。
【0021】
かご枠7は、図3に示されるように、たて枠30、調整おもり取り付け部としての上梁33a,33bおよび下梁34a,34bを有している。たて枠30は断面コの字の柱状の鋼材で形成され、側片31aおよび底32aを有している。
そして、2つのたて枠30が、対向するかご室壁23の外壁に沿って立設されている。このとき、両たて枠30は、それぞれのコの字の底32bを該かご室壁23に向けて対向配置されている。
【0022】
また、上梁33a,33bは、同じサイズで同じ形状に形成されている。そして、上梁33a,33bは、断面コの字の柱状の鋼材で形成され、側片31bおよび底32bを有している。そして、上梁33a,33bが、たて枠30を挟持しつつ、両たて枠30の上端の間を連結するように長さ方向を水平にして配置されている。このとき、2つの上梁33a,33bの開口は相反する側に向けられ、たて枠30の両側片31aが、上梁33a,33bの底32bに接している。
【0023】
そして、上梁33a,33bは、たて枠30の両側片31aにボルト37aおよびナット38によって固定されている。また、このとき、平板状の補強板40がたて枠30の両側片31aとそれぞれの上梁33a,33bの底32bとの間に介装されている。また、補強板40の一端は、上梁33a,33bの下部側の側片31bよりたて枠30の長さ方向に沿って下方に延出されている。
そして、補強板40の延出された部分とたて枠30の側片31aとがボルト37aおよびナット38にて固定されている。
【0024】
また、後述するように、それぞれの上梁33a,33bの上部側の側片31bには、調整おもり36aに形成された貫通孔39aに対応する貫通孔39cが、底32bには、調整おもり36bに形成された貫通孔39bに対応する貫通孔39dがそれぞれ複数形成されている(図4および図5参照)。
【0025】
また、下梁34a,34bは、同じサイズで同じ形状に形成されている。下梁34a,34bは、断面コの字の柱状の鋼材で形成され、さらに、その両端に、ボルト37aでたて枠30に固定するための固定部35が下梁34a,34bの長さ方向と垂直に突出している。そして、下梁34a,34bが、両たて枠30を挟持しつつ、たて枠30の下端の間を連結するように長さ方向を水平にして配置されている。そして、固定部35とたて枠30の下部側の側片31aとの間がボルト37aおよびナット38にて固定されている。
【0026】
また、床枠19が、下梁34a,34bの上部に配置され、床枠19とたて枠30の上部側のそれぞれの側片31aとが、筋かい41によって連結されている。そして、かご床18は、ゴムタイルや大理石などを材料として、またはゴムタイルや大理石などで装飾されて形成されるものであり、床枠19の上部に水平方向に配設されている。
【0027】
そして、複数の調整おもり36aが、上梁33a,33bの両端近傍のそれぞれにおける上部側の両側片31bをまたぐように取り付けられている。また、複数の調整おもり36bが、それぞれの上梁33a,33bの両端近傍の底32bに取り付けられている。
【0028】
ここで、かご側の総質量をかご5の質量、機器質量および定格積載量の合計として定義する。
かご5の質量とは、かご床18、天井板21、幅木22、かご室壁23、そで壁24a,24b、出入口柱25、かご戸27照明機器28およびかご操作盤29などによって構成されるかご室6の質量、調整おもり36a,36bおよびかご枠7などの質量を足しあわせたものである。
【0029】
機器質量とは、かご5の外部側に取り付けられる周辺機器の質量を足しあわせたものである。
ここで、周辺機器とは、たて枠30に配設されてガイドレール17と係合し、ガイドレール17に沿ってかご5を案内させるガイドシュー(図示せず)やかご室6の天井板21の外壁に配設されて、かご戸27を開閉させるかごドア装置(図示せず)など、かご室6の外部側でかご5に取り付けられる機器が含まれる。
【0030】
定格積載量とは、かご室6内へ乗り込むまたは運び込むことのできる人や荷物の最大の質量である。
乗用のエレベータの定格積載量はJIS A 4301 により、かご室6内のかご床18の幅および奥行き寸法に対して50kg単位で定められている。一般乗用のエレベータにおける定格積載量は、例えば、かご室6内の幅および奥行き寸法がそれぞれ1400mmおよび1100mmのもので600kgと定められている。
なお、乗用以外のエレベータにおいては、その用途(例えば車両などの荷物運搬用のエレベータなど)に応じて、かご室6の大きさに対する定格積載量が決定される。
【0031】
そして、緩衝器16や、ガイドレール17などは、かご側の総質量に対して決定される強度基準を満足するように設計されている。
また、かご5の質量と機器質量とを合わせたものを実質量とする。
【0032】
次に、調整おもり36a,36bの固定方法について説明する。
図4および図5において、調整おもり36a,36bのそれぞれは矩形平板状に形成され、上梁33a,33bの貫通孔39c,39dに対応する貫通孔39a,39bが4箇所形成されている。
まず、上梁33a,33bの上部側の側片31bへの調整おもり36aの固定方法について説明する。
【0033】
5枚の調整おもり36aを、順次、上梁33a,33bの一端側における上部側の側片31bにまたがるように、さらに、調整おもり36aの貫通孔39aを上梁33a,33bの貫通孔39cに合わせて配置させる。ボルト37bの先端を上梁33a,33bの開口側から、貫通孔39cを介して最上部に配置された調整おもり36aの貫通孔39aを突き抜けるように挿通させる。そして、ナット38をボルト37bの先端から締め付けて調整おもり36aを上部側の側片31bに固定する。すべての貫通孔39c,39dに対して、ボルト37bを挿通した後、ナット38を螺合させて、調整おもり36aを固定する。
なお、上梁33a,33bの他端側における上部側の側片31bにおいても同様にして、5枚の調整おもり36aを固定する。
【0034】
また、ボルト37bに螺合させたナット38を取り外し、調整おもり36aを取り外したり、取り付けたりした後、再びナット38をボルト37bに螺合させれば、重ねあわさられる調整おもり36aの枚数を任意に変更することができる。
【0035】
次に、両上梁33a,33bの底32bへの調整おもり36bの固定方法について説明する。
まず、上梁33a,33bの一端側における底32bへの調整おもり36bの固定方法について説明する。
あらかじめ、ねじ棒42の一端をかご戸27側(一側)の上梁33aの底32bに形成された貫通孔39dの一つに、上梁33aの開口側から挿通させた後に、2つのナット38をねじ棒42の一端側から挿通させる。そして、対向する他側の上梁33bの貫通孔39dにねじ棒42の一端を挿通させる。これにより、ねじ棒42は上梁33a,33bに支持されて、その両端は上梁33a,33bの開口側に配置される。さらに、ねじ棒42においては、対向する上梁33a,33bの底32bの間にナット38が2つ配置される。
【0036】
上梁33a,33bに形成された他の貫通孔39dにも同様にねじ棒42を挿通させ、上梁33a,33bに支持されたねじ棒42に対して、2つのナット38を対向する上梁33a,33bの底32bの間に配置させる。
そして、上梁33a,33bに支持されたねじ棒42の一端側に、調整おもり36bの貫通孔39bを挿通させ、上梁33bの底32b側に押し込んで調整おもり36bを上梁33bに支持させる。さらに、他の調整おもり36bを、先にねじ棒42に支持された調整おもり36bに重ねて配置する作業を順次繰り返し、上梁33bの底32bに5枚の調整おもり36bを支持させる。
【0037】
また、ねじ棒42の他端側から調整おもり36bの貫通孔39bを挿通させることにより、上梁33aの底32bにも5枚の調整おもり36bを支持させる。そして、新たに、ねじ棒42の両端から螺合したナット38とあらかじめねじ棒42に螺合されて対向する底32bの間に配置されているナット38とで調整おもり36bを上梁33a,33bの底32bに締着固定する。
なお、上梁33a,33bの他端側の底32bにも同様にして調整おもり36bが5枚ずつ取り付けられる。
また、ねじ棒42の両端のナット38を取り外して調整おもり36bを取り外したり、取り付けたりした後、再びナット38を螺合させれば、重ねあわさられる調整おもり36bの枚数を任意に変更することができる。
【0038】
ここで、調整おもり36a,36bはそれぞれ10kgであるものを用いている。つまり、調整おもり36a,36bは、合わせて30枚が取り付けられているので、調整おもり36a,36bの総質量は300kgである。
調整おもり36a,36bは、1枚ずつ取り外し、または取り付けを行うことがきるので、調整おもり36a,36bの着脱により後述するかご側の総質量を、調整おもり36a,36bの一枚ごとの重さを単位として増減させることができる。
【0039】
上記のように構成されたエレベータ1が納入された後、例えば、以下に示すようなかご室6の大規模の改修が行われることを想定する。
初回納入時のエレベータ1のかご室6は、かご室壁23およびかご戸27の材料は鋼板塗装仕上げであり、かご床18の敷物(装飾)は、ゴムタイルであったものを、改修によって、かご室壁23およびかご戸27は化粧木仕上げとし、かご床18の敷物を大理石にする。
【0040】
そして、エレベータ1のかご室6の改修前(エレベータの初回納入時)のかご室6の質量は700kgであったものが、改修によって900kgに増量されたものとする。
【0041】
かご室6の質量が重くなった場合には、前述したように緩衝器16やガイドレール17などの強度に影響を及ぼすので、実質量が改修の前後で変動することを制限する必要がある。上記の改修例では、実質量が、かご室6の改修前後において200kg増量されているので、調整おもり36a、36bを200kg分、つまりは、調整おもり36a,36bを20枚分取り外せば、かご室6の改修を行った後の実質量を、改修を行う前の実質量と同じにすることができる。
【0042】
上記はかご室6の改修前後で実質量が重くなった時に、かご室6の質量の変動がガイドレール17や緩衝器16の強度に影響を及ぼすことについて説明したが、以下には、実質量が軽くなった時にも、かご室6の質量の変動が及ぼす影響について説明する。
具体的なかご室6の改修例は示さないが、定格積載量が600kgのかご室6の改修によって、かご室6の質量が200kg減量されたことを想定する。
また、この例ではかご室6の改修を行う前の実質量は1500kgであったものとする。
前述したように、かご5は、巻上機11の電動モータのトルクにより回転駆動される駆動綱車12と主ロープ15との間に発生する摩擦力を利用して昇降路4内を昇降する。
ここで、駆動綱車12の駆動力がいかに効率よく主ロープ15へ伝達されるかの指標として、トラクション能力が用いられる。
トラクション能力は、主ロープ15のかご5側張力と主ロープ15のつり合いおもり側張力との比によって決定される。つまりは、実質量およびかご室6に乗り込んだエレベータ1の利用者(荷物も含む)の質量の和(稼動時実質量)とつり合いおもり14の質量の比によって決定される。
また、つり合いおもり14の質量は、実質量に定格積載量の半分の質量を加えた値に調整されることが一般的である。
【0043】
トラクション能力の値Aは、例えば、特開平5−155568号公報で示されているように、以下の数1で算出される。
【0044】
【数1】

【0045】
T1は、主ロープ15のかご側張力、T2は、主ロープ15のおもり側張力、Lは、かご室6の定格積載量、Mは、かご室6に乗り込んだ利用者の質量、Wは実質量(かごの重量)、gは、エレベータ1のかご5の運転加速度である。
なお、特開平5−155568号公報では、エレベータのかご室に定格積載量の利用者が乗り込んでいることが想定されているので、かご室の利用者の重量が増減される場合に対応できるように数1にMが追加されている。
ここで、(1+g)/(1−g)の係数(M+W)/(0.5L+W)の値が、1に近い程、トラクション能力が向上されることが知られている。
【0046】
次に、改修前後におけるかご室6の質量の変動分に応じてつり合いおもり14の質量を減らして、実質量とつり合いおもり14とのバランスを調整した場合を想定する。
ここで、かご室6の改修を行う前の実質量は1500kgであり、かご室6の改修を行った後の実質量は、かご室6の質量が200kg減量されるので、1300kgである。
一方、つり合いおもり14は、改修前においては、実質量1500kgに定格積載量600kgの半分の質量を足して1800kgに調整されていたものを、改修後は、実質量1300kgに定格積載量600kgの半分の質量を足して1600kgに調整する必要がある。
【0047】
また、エレベータ1のかご室6に乗り込む利用者の質量は、0kg〜600kgに変動される。
これにより、稼動時実質量は、かご室6の改修前では、1500kg〜2100kgまでの値をとり、かご室6の改修後では、1300kg〜1900kgまでの値をとる。
【0048】
つまり、実質量が変動すると、同じ質量の利用者がかご室6に乗り込んだ場合でも、主ロープ15のかご5側張力(T1)と主ロープ15のつり合いおもり14側張力(T2)との比が、かご室6の改修前後で異なるものとなる。すなわち、トラクション能力がかご室6の改修前後で異なるものとなる。
【0049】
例えば、利用者が、定格積載量(600kg)だけかご室6に乗りこんだ場合を想定する。かご室6の改修前のトラクション能力の値A(=T1/T2)は、数1のL、MおよびWにそれぞれ、600kg,600kgおよび1500kgを代入すると、1.1667・(1+g)/(1−g)、かご室6の改修後のトラクション能力の値Aは、L、MおよびWにそれぞれ、600kg,600kgおよび1300kgを代入すると、1.1875・(1+g)/(1−g)が導き出される。従って、改修後の方が(1+g)/(1−g)の係数が1から離れているので、改修後のトラクション能力は劣化されているのがわかる。
【0050】
また、利用者がエレベータ1に乗り込まない場合など、他の条件でのトラクション能力の計算においても、改修後の(1+g)/(1−g)の係数を改修前の(1+g)/(1−g)の係数と比べると、改修後の係数の方が1から離れることがわかる。
【0051】
従って、実質量が改修によって減少すると、トラクション能力が低下され、エレベータ1のかご5を昇降させるための巻上機11による駆動綱車12の駆動力が主ロープ15に伝達されづらくなる。即ち、かご5の昇降において、駆動綱車12と主ロープ15との間の摩擦力が減少し、巻上機11による巻き上げ性能が低下される。
【0052】
よって、かご室6の改修によりかご室6の質量が軽くなった時には、巻上機11の巻上げ性能が低下されるので、かご室6の改修の前後で実質量の変動を制限する必要がある。例えば、上記のように、実質量がかご室6の改修前後において200kg減量される場合は、調整おもり36a、36bを200kg分、つまりは、10kgの調整おもり36a,36bを20枚分だけかご枠7に追加して取り付ければ、かご室6の改修を行った後の実質量を、改修を行う前の実質量と同じにすることができる。
【0053】
また、定格積載量が同じであり、調整おもり36a,36bを除いた実質量が異なる複数のエレベータを納入する場合には、調整おもり36a,36bの合計質量を調整して、複数のエレベータにおける調整おもり36a,36bを含む実質量が同一になるようにすれば、緩衝器16やガイドレール17は、定格積載量ごとに同じ強度基準を満たすものを用いることができる。
【0054】
また、かご室6の大きさが同じで、調整おもり36a,36bを除く実質量が異なる乗用以外の複数のエレベータを納入する場合には、調整おもり36a,36bの合計質量を調整して、複数のエレベータにおける調整おもり36a,36bを含む実質量が同一になるようにすれば、緩衝器16やガイドレール17は、かご室6の大きさごとに同じ強度基準を満たすものを用いることができる。
【0055】
この実施の形態1では、予め、かご5に調整おもり36a,36bが取り付けられたエレベータ1の納入後に、かご室6の改修が行われて実質量が増減された場合、かご室6の質量の変動分だけ調整おもり36a,36bを取外し、または取り付けることにより、実質量をかご室6の改修前後で一定にすることができる。
また、エレベータ1の初回納入時においては、エレベータ1の緩衝器16やガイドレール17などは、かご側の総質量によって決定される強度基準を満足するようにその強度が設定されている。
【0056】
従って、この実施の形態1によれば、実質量はかご室6の改修前後で一定にすることができるので、緩衝器16やガイドレール17などの機器の強度に制限されずにバラエティーに富んだ大規模なかご室6の改修や変更を行うことができる。
さらに、主ロープ15と駆動綱車12との間の摩擦力の変動もなくなるので、巻き上げ機11による巻き上げ性能の低下を抑制することができる。
【0057】
また、定格積載量が同じで調整おもり36a,36bを除く実質量が異なる複数のエレベータを納入する場合には、乗用のエレベータでは定格積載量によって、乗用以外のエレベータにおいてはかご室6の大きさによって、実質量が同一になるように各エレベータ毎の調整おもり36a,36bの合計質量を調整しておけば、緩衝器16やガイドレール17などの機器は、同じ強度基準のものを用いることができ、あらかじめ定格積載量やかご室6の大きさごとに緩衝器16やガイドレール17を量産しておけば、生産性が向上するとともにコストダウンをはかることができる。
【0058】
実施の形態2.
図6はこの発明の実施の形態2に係るエレベータのかごにおけるかご枠に調整おもりが固定された状態を示す拡大側面図である。
【0059】
図6において、調整おもり36bが、それぞれの上梁33a,33bの両端近傍の底32bにボルト37cおよびナット38を用いて取り付けられている。
なお、他の構成は、上記実施の形態1と同様に構成されている。
【0060】
次に上梁33aの一端側の底32bに取り付けられる調整おもり36bの固定方法ついて説明する。
あらかじめ、一側の上梁33aの底32bに形成された4つの貫通孔39dに、上梁33aの底32b側からボルト37cの先端を挿通させる。そして、上梁33bの開口側に配置されたボルト37cの先端側から、調整おもり36bの貫通孔39bを挿通させ、調整おもり36bを、ボルト37cを介して上梁33aに支持させる。
【0061】
同様に、先に上梁33aに支持された調整おもり36bに重ねて順次、他の調整おもり36bをボルト37cの先端側から挿通させ、5枚の調整おもりを一側の上梁33aの底32bに配置させる。そして、ボルト37cの先端をナット38で固定することにより、5枚の調整おもり36bが上梁33aの底32bに固定される。
【0062】
また、上梁33aの他端側の底32bについても同様に5枚の調整おもり36bが固定される。また、他側の上梁33bの両端側の底32bについても同様に5枚ずつの調整おもりが固定される。
【0063】
この実施の形態2によれば、予め、かご5に調整おもり36a,36bが取り付けられたエレベータ1の納入後に、かご室6の改修によってかご側の総質量が増減された場合、かご室6の質量の変動分だけ調整おもり36a,36bを取外し、または取り付けることにより、実質量をかご室6の改修前後で一定にすることができる。
従って、この実施の形態2によれば実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0064】
なお、各実施の形態によれば、上梁33a,33bの側片31bや底32bに貫通孔39c,39dなどの加工を施し、上梁33a,33bを調整おもり取り付け部として用いるものとして説明したが、調整おもり取り付け部は、上梁33a,33bを加工したものを用いることに限定されるものではない。下梁34a,34bやかご室6の天井板21やかご室壁23の外壁を調整おもり36a,36bが取り付け可能なように加工し、調整おもり取り付け部として用いたり、調整おもり36a,36bを固定するための新たな部材を、上梁33a,33b、下梁34a,34b、天井板21、かご室壁23などに配設して調整おもり取り付け部として用いたりしてもよい。
【0065】
また、調整おもり36a,36bはそれぞれ質量が10kgのものを用いるものとして説明したが、調整おもり36a,36bの質量は10kgに限定されるものではなく、他の質量の調整おもりを用いてもよい。
また、かご室6のみが改修されて、かご室6の質量が増大するのに伴って実質量が増大するものとして説明さたが、かご室6の質量の変動に加えて、例えば既設のドア装置を新規ドア装置に交換して機器質量も変動した場合には、かご室6の質量の変動分と機器質量の変動分を足した分だけ調整おもり36a,36bの取外し、または取り付けを行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】この発明の実施の形態1に係るかごを備えるエレベータの構成を示す模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るエレベータのかごにおけるかご室内の主要構成を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るエレベータのかごの要部構成を示す斜視図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るエレベータのかごにおけるかご枠に調整おもりが固定された状態を示す拡大正面図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るエレベータのかごにおけるかご枠に調整おもりが固定された状態を示す拡大側面図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係るエレベータのかごにおけるかご枠に調整おもりが固定された状態を示す拡大側面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 エレベータ、5 かご、6 かご室、7 かご枠、33a,33b 上梁(調整おもり取り付け部)、36a,36b 調整おもり。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご枠と、
上記かご枠に支持固定されたかご室と、
上記かご室または上記かご枠の少なくとも一部に構成される調整おもり取り付け部と、
上記調整おもり取り付け部に着脱可能に取り付けられる調整おもりと、
を備えることを特徴とするエレベータのかご。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−37548(P2008−37548A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212316(P2006−212316)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】