説明

エレベータのドア装置

【課題】高速ドアの先端が前後方向に強く押動された場合でも、高速側レールが前後方向に大きく撓むことがないように改良されたエレベータのドア装置を提供することにある。
【解決手段】高速側レール4が後方に押動されたときに高速側レール4から低速側ハンガ11に押動荷重を伝達して高速側レール4の撓み変形を抑制する押動荷重伝達手段20を備える。高速ドア1に作用する押動荷重を高速側レール4および低速側レール7の両方で受け止めることにより、高速側レール4の前後方向の撓み変形を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右方向に開閉する高速ドアおよび低速ドアを備えるエレベータのドア装置に関し、より詳しくは、高速ドアが前後方向に強く押動された場合に高速側レールが前後方向に大きく撓むことがないように改良する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータの乗降口にはかごドアおよび乗場ドアが設けられ、かごドアの開閉に連動して乗場ドアが開閉するようになっている。
このとき、かごドアおよび乗場ドアには、片側1枚開き、両側2枚開き、片側2枚開き、両側4枚開きといった構造のものがあるが、片側2枚開きおよび両側4枚開きの場合はそれぞれ高速ドアと低速ドアを備え、前者が後者の2倍の開閉速度でかつ2倍の距離を移動するようになっている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【0003】
具体的に説明すると、図6に示した片側2枚開き構造のドア装置においては、高速ドア1および低速ドア2によって乗りかご(図示せず)の乗降口を開閉するようになっている。
そのため、乗りかごの上部に設けられているハンガケース2には、高速側レール4が左右一対の取付部材5,6によって取り付けられるとともに、低速側レール7が左右一対の取付部材8,6によって取り付けられている。
【0004】
また、図7に示したように、高速かごドア1の上端部にはハンガ9が取り付けられ、かつこのハンガ9の上部に回転自在に支持されたハンガローラ10が高速側レール4の上を転動して高速かごドア1を吊り下げ支持している。
同様に、低速ドア2の上端部にはハンガ11が取り付けられ、かつこのハンガ11の上部に回転自在に支持されたハンガローラ12が低速側レール4の上を転動して低速ドア2を吊り下げ支持している。
【0005】
さらに、図6に示したように、ハンガケース2の左端側に設けられたドア駆動モータ13によって回転駆動される駆動プーリ14と、ハンガケース2の右端側に設けられた従動プーリ15とには、無端状の駆動ベルト16が巻回されている。
そして、この駆動ベルト16と各ハンガ9,11は図示されない連動装置を介して接続され、高速ドア1が低速ドア2の2倍の開閉速度でかつ2倍の距離を移動することによって乗りかごの乗降口を開閉するようになっている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−245140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図6に示したように、高速側レール4の全長は低速側レール7の全長の約2倍となっており、かつ高速側レール4の長手方向の中央部はハンガケース3によって支持されていない。
これにより、図8中に矢印Aで示したように、高速ドア1および低速ドア2が閉じ始めたときに、乗りかごに乗り込もうとする乗降客の身体やショッピングカート等が高速ドア1の先端に強く当たると、高速側レール4の長手方向の中央部がハンガケース3の側に大きく撓むことになる。
すると、乗りかご側の高速ドア1が乗りかご内部の側に大きく変位して、かごドアと乗場ドアとが前後方向に離間し、かごドアと乗場ドアの開閉を連動させている開閉連動機構の係合が外れるおそれがある。
【0008】
全く同様に、乗場ホール側の高速ドアおよび低速ドアが閉じ始めたときに、乗りかごから乗場ホールに降りようとする乗降客の身体やショッピングカート等が乗場ホール側の高速ドアの先端に強く当たると、その高速側レールの長手方向の中央部が乗場ホールの側に大きく撓むことになる。
すると、乗場ホール側の高速ドアが乗場ホールの側に大きく変位して、乗場ドアとかごドアとが前後方向に離間し、かごドアと乗場ドアの開閉を連動させている開閉連動機構の係合が外れるおそれがある。
【0009】
そこで本発明の目的は、上述した従来技術が有する問題点を解消し、高速ドアの先端が前後方向に強く押動された場合でも、高速側レールが前後方向に大きく撓むことがないように改良されたエレベータのドア装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する本発明は、
エレベータのドア装置であって、
左右方向に開閉する高速ドアおよび低速ドアと、
前記高速ドアの開閉を案内する高速側レールと、
前記高速側レールの後方において前記低速ドアの開閉を案内する低速側レールと、
前記高速ドアを後方に押動する押動荷重を前記高速側レールから前記低速側レールに伝達する押動荷重伝達手段と、
を備えることを特徴とするエレベータのドア装置。
【0011】
すなわち、本発明のエレベータのドア装置においては、高速ドアの先端に乗降客の身体あるいはショッピングカート等が衝突して高速ドアが後方に押動され、高速側レールが後方に変位すると、押動荷重伝達手段が高速側レールから低速側レールに押動荷重を伝達する。
これにより、高速ドアに作用している押動荷重を高速側レールおよび低速側レールの両方によって受け止めることができるので、高速側レールが後方に向かって大きく撓み変形することを抑制できる。
したがって、高速ドアが後方に向かって大きく変位することがないから、かごドアと乗場ドアの開閉を連動させている開閉連動機構の係合が外れることを確実に防止できる。
【0012】
また、押動荷重伝達手段は、高速側レールのうち、高速側レールと低速側レールとの間に位置して低速ドアを低速側レールに吊り下げ支持する低速側ハンガと前後方向に対向する部分に固定することができる。
すなわち、高速ドアが閉じ始めたときに高速ドアの先端に押動荷重が作用し、高速側レールが後方に変位するときには、高速ドアの近傍に低速ドアが位置している。
これにより、高速ドアを後方に押動する荷重を、高速側レールに固定されている押動荷重伝達手段および低速側ハンガを介して低速側レールに伝達し、高速側レールおよび低速側レールの両方によって受け止めることができる。
【0013】
このとき、押動荷重伝達手段は、高速ドアの開閉ストロークのうち、高速ドアが一杯に開いた位置の近傍のストローク範囲において高速側レールに固定することができる。
すなわち、乗降客の身体やショッピングカート等の高速ドアの先端への衝突は、高速ドアが閉じ始めたときに発生する確率がきわめて高い。
そこで、高速側レールの全長にわたって押動荷重伝達手段を設けるのではなく、高速ドアが一杯に開いた位置の近傍において高速側レールに固定することにより、高速側レールの後方への撓み変形を効率よく抑制することができる。
【0014】
また、押動荷重伝達手段は、高速側レールと低速側レールとの間に位置して低速ドアを低速側レールに吊り下げ支持する低速側ハンガのうち、高速側レールに対向する部分に固定することができる。
すなわち、高速ドアが閉じ始めたときに高速ドアの先端に押動荷重が作用し、高速側レールが後方に変位するときには、高速ドアの近傍に低速ドアが位置している。
これにより、高速ドアを後方に押動する荷重を、低速側ハンガに固定されている押動荷重伝達手段および低速側ハンガを介して低速側レールに伝達し、高速側レールおよび低速側レールの両方によって受け止めることができる。
【0015】
さらに、押動荷重伝達手段は、低速側ハンガの表面上あるいは高速側レールの表面上を摺動する低摩擦部材を有することができる。
さらにまた、押動荷重伝達手段は、低速側ハンガの表面上あるいは高速側レールの表面上を転動するローラを有することができる。
これにより、押動荷重伝達手段は、低速側ハンガあるいは高速側レールの表面上を滑らかに摺動しあるいは転動することができるから、高速ドアおよび低速ドアの開閉を妨げることがない。
【0016】
加えて、押動荷重伝達手段は、高速ドアが押動されていないときに相手側との間に前後方向隙間を有する形状に設定することが好ましい。
これにより、高速ドアが押動されていないときは、押動荷重伝達手段は低速側ハンガあるいは高速側レールと接触しないから、高速ドアおよび低速ドアを滑らかに開閉することができる。
【0017】
さらに加えて、押動荷重伝達手段は、高速ドアが押動されていないときに相手側との間に有する前後方向隙間を調整自在に構成することができる。
具体的には、押動荷重伝達手段を高速側レールに取り付けるときにシムを介装し、あるいは押動荷重伝達手段を低速側ハンガに取り付けるときにシムを介装することにより、高速側レールから低速側レールへと押動荷重を伝達し始めるときの高速側レールの変位量を調整することができる。
これにより、かごドアと乗場ドアの開閉を連動させている開閉連動機構の係合の外れを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高速ドアの先端が前後方向に強く押動された場合でも、高速側レールが前後方向に大きく撓むことがないように改良されたエレベータのドア装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図1乃至図5を参照し、本発明に係るエレベータのドア装置の各実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明においては、前述した従来技術を含めて同一の部分には同一の符号を用いるとともに、ドアが開閉する方向を左右方向と、乗客が乗りかごに出入りする方向を前後方向と、鉛直方向を上下方向と言う。
【0020】
第1実施形態
まず最初に図1および図2を参照し、第1実施形態のエレベータのドア装置について説明する。
【0021】
本第1実施形態のドア装置100は、左右方向に開閉する高速ドア1および低速ドア2と、高速ドア1の開閉を案内する高速側レール4と、高速側レール4の後方において低速ドア2の開閉を案内する低速側レール7と、高速側レール4の前方に位置して高速ドア4を高速側レール9に吊り下げ支持する高速側ハンガ9と、高速側レール4の後方に位置して低速ドア2を低速側レール11に吊り下げ支持する低速側ハンガ11と、図2中に矢印Aで示したように高速側レール4が後方に押動されたときに高速側レール4から低速側ハンガ11に押動荷重を伝達して高速側レール4の後方への撓み変形を抑制する押動荷重伝達手段20と、を備えている。
【0022】
このとき、押動荷重伝達手段20は、高速ドア1の開閉ストロークL0のうち、高速ドア1が一杯に開いた状態から約20〜30パーセントのストローク範囲L1において高速側レール4に固定された、断面形状コ字形のブラケット21となっている。
【0023】
なお、このブラケット21は、ボルトナット22を用いて高速側レール4に固定することができるが、図示されないシムを両者の間に介装することにより、ブラケット21の先端21aと低速側ハンガ11の表面11aとの間の隙間寸法L2の値を最適に調整することができる。
これにより、高速ドア1が後方に押動されない通常状態においてはブラケット21の先端21aが低速側ハンガ11の表面11aに接触することはないが、高速ドア1が後方に押動されたときにはブラケット21の先端21aが低速側ハンガ11の表面11aに直ちに当接し、高速側レール4から低速側ハンガ11に押動荷重を伝達するようにして、ドア連動機構の係合外れを確実に防止することができる。
【0024】
第2実施形態
次に図3を参照し、第2実施形態のエレベータのドア装置について説明すると、このドア装置110は、 図3中に矢印Aで示したように高速側レール4が後方に押動されたときに高速側レール4から低速側ハンガ11に押動荷重を伝達して高速側レール4の後方への撓み変形を抑制する押動荷重伝達手段30を備えている。
【0025】
押動荷重伝達手段30は、上述した第1実施形態のドア装置100におけるブラケット21と同様なブラケット31の内側に、低摩擦性の樹脂材料であるポリテトラフルオロエチレンのブロック32を装着したものとなっている。
これにより、この押動荷重伝達手段30は、低速側ハンガ11の表面11a上を滑らかに摺動することができるから、高速側レール4から低速側ハンガ11に押動荷重を伝達するときにも高速ドア1および低速ドア2の開閉を妨げることがない。
【0026】
また、ブラケット31と高速側レール4との間に図示されないシムを介装することにより、低摩擦樹脂製のブロック32の表面32aと低速側ハンガ11の表面11aとの間の隙間寸法L2の値を最適に調整することができる。
【0027】
第3実施形態
次に図4を参照し、第3実施形態のエレベータのドア装置について説明すると、このドア装置120は、 図4中に矢印Aで示したように高速側レール4が後方に押動されたときに高速側レール4から低速側ハンガ11に押動荷重を伝達して高速側レール4の後方への撓み変形を抑制する押動荷重伝達手段40を備えている。
【0028】
押動荷重伝達手段40は、上述した第1実施形態のドア装置100におけるブラケット21と同様なブラケット41に、上下方向に延びる支軸42の回りに回転自在なローラ43を設けたものである。
これにより、このローラ43は、低速側ハンガ11の表面11a上を滑らかに転動することができるから、高速側レール4から低速側ハンガ11に押動荷重を伝達するときにも高速ドア1および低速ドア2の開閉を妨げることがない。
【0029】
なお、ブラケット41と高速側レール4との間に図示されないシムを介装することにより、ローラ43の外周面と低速側ハンガ11の表面11aとの間の隙間寸法L2の値を最適に調整することができる。
【0030】
第4実施形態
次に図5を参照し、第4実施形態のエレベータのドア装置について説明すると、このドア装置130は、図5中に矢印Aで示したように高速側レール4が後方に押動されたときに高速側レール4から低速側ハンガ11に押動荷重を伝達して高速側レール4の後方への撓み変形を抑制する押動荷重伝達手段50を備えている。
【0031】
この押動荷重伝達手段50は、上述した第3実施形態のドア装置120における押動荷重伝達手段40と同一のものを、高速側レール4にではなく、低速側ハンガ11のうち高速側レール4と前後方向に対向する部分に固定したものである。
これにより、この押動荷重伝達手段50のローラ43は、高速側レール4の背面4a上を滑らかに転動することができるから、高速側レール4から低速側ハンガ11に押動荷重を伝達するときにも高速ドア1および低速ドア2の開閉を妨げることがない。
【0032】
なお、ブラケット41と低速側ハンガ11との間に図示されないシムを介装することにより、ローラ43の外周面と高低速レール4の背面4aとの間の隙間寸法L2の値を最適に調整することができる。
【0033】
以上、本発明のエレベータのドア装置の各実施形態ついて詳しく説明したが、本発明は上述した実施形態によって限定されるものではなく、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した第1および第2実施形態の各押動荷重伝達手段20,30を、第4実施形態と全く同様に高速側レール4の背面4aに固定できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態のエレベータのドア装置を模式的に示す斜視図。
【図2】図1中に示したII−破断線に沿った断面図。
【図3】第2実施形態のエレベータのドア装置における図2と同様な断面図。
【図4】第3実施形態のエレベータのドア装置における図2と同様な断面図。
【図5】第3実施形態のエレベータのドア装置における図2と同様な断面図。
【図6】従来のエレベータのドア装置をドア全閉状態で示す斜視図。
【図7】図6に示したVI−破断線に沿った断面図。
【図8】図6に示した高速ドアが閉じ始めた状態を示す斜視図。
【符号の説明】
【0035】
1 高速ドア
2 低速ドア
4 高速側レール
7 低速側レール
9 高速側ハンガ
11 低速側ハンガ
20 第1実施形態の押動荷重伝達手段
21 ブラケット
30 第2実施形態の押動荷重伝達手段
31 ブラケット
32 低摩擦樹脂製のブロック
40 第2実施形態の押動荷重伝達手段
41 ブラケット
42 支軸
43 ローラ
100 第1実施形態のエレベータのドア装置
110 第2実施形態のエレベータのドア装置
120 第3実施形態のエレベータのドア装置
130 第4実施形態のエレベータのドア装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのドア装置であって、
左右方向に開閉する高速ドアおよび低速ドアと、
前記高速ドアの開閉を案内する高速側レールと、
前記高速側レールの後方において前記低速ドアの開閉を案内する低速側レールと、
前記高速ドアを後方に押動する押動荷重を前記高速側レールから前記低速側レールに伝達する押動荷重伝達手段と、
を備えることを特徴とするエレベータのドア装置。
【請求項2】
前記高速側レールと前記低速側レールとの間に位置して前記低速ドアを前記低速側レールに吊り下げ支持する低速側ハンガをさらに備え、
前記押動荷重伝達手段は、前記高速側レールのうち前記低速側ハンガと前後方向に対向する部分に固定されていることを特徴とする請求項1に記載したエレベータのドア装置。
【請求項3】
前記高速側レールと前記低速側レールとの間に位置して前記低速ドアを前記低速側レールに吊り下げ支持する低速側ハンガをさらに備え、
前記押動荷重伝達手段は、前記低速側ハンガのうち前記高速側レールと前後方向に対向する部分に固定されていることを特徴とする請求項1に記載したエレベータのドア装置。
【請求項4】
前記押動荷重伝達手段は、押動荷重を伝達するときに相手側の表面上を摺動可能な低摩擦部材を有していることを特徴とする請求項2または3に記載したエレベータのドア装置。
【請求項5】
前記押動荷重伝達手段は、押動荷重を伝達するときに相手側の表面上を転動可能なローラを有していることを特徴とする請求項2に記載したエレベータのドア装置。
【請求項6】
前記押動荷重伝達手段は、前記高速ドアが押動されていないときに相手側との間に前後方向隙間を有する形状に設定されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載したエレベータのドア装置。
【請求項7】
前記押動荷重伝達手段は、前記前後方向隙間の寸法を調整自在に構成されていることを特徴とする請求項6に記載したエレベータのドア装置。
【請求項8】
前記押動荷重伝達手段は、前記高速ドアの開閉ストロークのうち、前記高速ドアが一杯に開いた位置の近傍のストローク範囲において前記高速側レールに固定されていることを特徴とする請求項2に記載したエレベータのドア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−208741(P2010−208741A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54702(P2009−54702)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】