説明

エレベータシャフト製作用鉄骨架構の回転支持装置及びこれを用いたエレベータシャフトの製作方法

【課題】鉄骨架構のクレーンでの移動作業を大幅に減じ、作業の効率化、精度の向上、低コスト化に資するエレベータシャフト製作用の回転支持装置を提供する。
【解決手段】四隅に主柱材22を有する鉄骨架構21の周りに所要部材を取り付けてエレベータシャフトを製作するための鉄骨架構21の回転支持装置1は、一対の回転治具2と回転機3とを具備する。回転治具2は、矩形に組まれた枠材4と、枠材4から突出する把持シャフト5と、各主柱材22の端部にボルト・ナットで結合可能な結合片6とを具備する。回転治具2に、鉄骨架構21の軸心を水平向けた状態で、主柱材22の両端部を支持して、回転治具2を回転機3に装架する。回転機3は、サドル7、機枠8、回転枠9を具備する。サドル7は、レールR上を鉄骨架構21の軸線方向に走行する。回転枠9は、中心部に、回転治具2の把持シャフト5を水平に保持して鉄骨架構21と一体に所望角度回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存建物へ付設されるエレベータにおける昇降路建物、すなわちエレベータシャフトを工場で製作するために用いられる鉄骨架構の回転支持装置と、これを用いたエレベータシャフトの製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、4〜5階建ての既存中低層集合住宅の外部階段室にエレベータを付設する工法が種々提案されている。いずれも、設置費用をできるだけ安く抑え、工事中の居住者の生活への負担を最小限にするために、工事期間を短縮することを目的としている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エレベータシャフトを、4本の鋼製の支柱間を複数のブレースで接合してなる鉄骨架構と、その外側部を囲む波板鋼板からなる側壁で構成することが記載されている。このエレベータシャフトの内部には、従来のエレベータ機構部と同様の搭乗カゴやこれの駆動機構などが組み込まれる。また、エレベータシャフトは、トラックによる搬送上不具合がない場合には、全体を一体的に又は分割されたユニットを工場製作することがある。
上記のようなエレベータシャフトを工場で製作する場合、一般に、4本の鋼製の支柱間を複数のブレースで接合した鉄骨架構を組み立てた後、その周囲に胴縁、エレベータ部品、外壁材下張り、外壁材、コーナーカバー等の多くの部材が取り付けられ、また所要の塗装や検査が行われる。これらの製作作業は、大型で大重量の鉄骨架構や部材を頻繁にクレーンで吊り上げる危険で手間のかかる作業を要する。
【特許文献1】特開2004−244208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなエレベータシャフトを工場で製作する場合にも、完成したエレベータシャフトの現場での組み付けを迅速、正確に行うための高い精度と、経済性が要求される。
したがって、この出願の発明は、エレベータシャフトの工場での製作にあたって、鉄骨架構のクレーンでの吊り上げ作業を大幅に減じ、鉄骨架構の移動を円滑、容易化して精度の高い製作と、これを担保する迅速で正確な検査に資することができ、同じ場所での繰り返し作業を可能とすることにより作業効率を高めることができる鉄骨架構の回転支持装置と、これを用いたエレベータシャフトの製作方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、この出願の発明においては、第1に、四隅の主柱材22を腹材23で結合してなる鉄骨架構21の周りに所要部材を取り付けてエレベータシャフトを製作するための鉄骨架構21の回転支持装置1を、一対の回転治具2と回転機3とを具備させて構成した。一対の回転治具2には、矩形に組まれた枠材4と、枠材4から突出する把持シャフト5と、各主柱材22の端部にボルト・ナットで結合可能な結合片6とを具備させる。この回転治具2に、鉄骨架構21の軸心を水平向けた状態で、主柱材22の両端部を支持するよう構成する。枠材4は、鉄骨架構21と同心となる矩形枠とする。把持シャフト5は、枠材4の中心に、鉄骨架構21と同心にこれと反対方向へ突出するように固定する。結合片6は、枠材4の四隅に固定し、鉄骨架構21の各主柱材22の端部にボルト・ナットで結合できるようにする。一対の回転機3には、サドル7と、サドル上の機枠8と、機枠上の回転枠9とを具備させる。サドル7は、工場の床面に敷設されたレールR上を鉄骨架構21の軸線方向に走行可能とする。回転枠9は、サドル7上の機枠8に水平軸周りに回転自在に支持し、中心部に、回転治具2の把持シャフト5を水平に保持する保持部11を具備させる。一対の回転機3の少なくとも一方には、回転枠9を回転治具2及び鉄骨架構21と一体に所望角度回転させる回転駆動機構12をさらに具備させる。
この出願の発明においては、第2に、主柱材22がH型鋼材からなる鉄骨架構21に適用する回転支持装置1として、回転治具2の結合片6を、主柱材22のH型鋼材における一方のフランジ22aの側面に接合される位置に配置し、主柱材22の端部に予め形成されたボルト挿通孔に対応するボルト挿通孔を有するものとする。
この出願の発明においては、第3に、回転治具2の把持シャフト5を、角型鋼管で構成し、回転機3の保持部11には、上下左右から把持シャフトの4面を把持する把持機構を具備させる。
この出願の発明においては、第4に、上記回転支持装置1を用いたエレベータシャフトの新しい製作方法を提供する。この方法は、四隅の主柱材22を腹材23で結合して鉄骨架構21を製作する工程と、この鉄骨架構21における主柱材22の両端に一対の回転治具2を結合する工程と、鉄骨架構21の軸心を水平に向けた状態で一対の回転治具2における把持シャフト5を回転機3の保持部11に保持する工程と、回転機3の回転枠9を回転治具2と一体に所望角度回転させることにより鉄骨架構21を軸周りに適宜回転させつつ、当該鉄骨架構21の四面に必要な部材を組み付ける工程とを含む。
【発明の効果】
【0006】
エレベータシャフトの工場での製作にあたって、この出願の発明を適用することにより、鉄骨架構のクレーンでの吊り上げ作業を大幅に減じ、作業の安全性と効率を高めることができる。また、鉄骨架構の移動を円滑、容易化して精度の高い製作と、これを担保する迅速で正確な検査に資することができる。同じ場所での繰り返し作業が可能となり、作業効率を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の回転支持装置の正面図、図2は本発明の回転支持装置の側面図、図3は回転治具の正面図、図4は回転治具の側面図、図5は回転治具の斜視図、図6は回転機の側面図である。
【0008】
図1において、エレベータシャフトの鉄骨架構21は、四隅の主柱材22を梁、筋交い等の腹材23で結合してなる。鉄骨架構21の周りに、図示しない胴縁、エレベータ部品、外壁材下張り、外壁材、コーナーカバー等の多くの部材が取り付けられ、箱形のエレベータシャフトが製作される。
【0009】
エレベータシャフトを工場で製作するにあたって、まず四隅の主柱材22を腹材23で結合して直方体枠状の鉄骨架構21が組み立てられる。例えば、その寸法は、2m×2m×13mに及ぶ。主柱材22は、H型鋼材からなり、両端部に接続用のボルト挿通孔を有する。
【0010】
組み立てられた鉄骨架構21には、回転治具2と回転機3を有する回転支持装置1上でさらに必要な部材が付設される。すなわち、まず鉄骨架構21における主柱材22の両端に一対の回転治具2が結合される。鉄骨架構21の軸心を水平に向けた状態で、結合された一対の回転治具2における把持シャフト5が回転機3に保持される。回転機3により、鉄骨架構21を軸周りに所望角度回転させつつ、当該鉄骨架構21の四面に必要な部材が組み付けられる。
【0011】
回転支持装置1について説明する。図1,図2において、回転支持装置1は、一対の回転治具2と回転機3とを具備する。回転治具2は、図3ないし図5に示すように、枠材4と、把持シャフト5と、結合片6とを具備する。枠材4は、角形鋼管を矩形に組んでなる矩形枠4aに、ブレース4bをわたしてなる。把持シャフト5は、角形鋼管からなり、矩形枠4aの矩形の中心においてブレース4bから軸線方向へ突出する。結合片6は、枠材4の四隅に固着され、各主柱材22の端部にボルト・ナットで結合可能である。すなわち、結合片6は、主柱材22のH型鋼材における一方のフランジ22aの側面に接合できる位置に配置され、主柱材22の端部に予め形成されたボルト挿通孔に対応するボルト挿通孔を有する。以上のように構成された回転治具2の枠材4は、鉄骨架構21の軸心を水平に向けた状態で、その軸心と中心を一致させて主柱材22の両端部を支持することができる。
【0012】
図1,図2において、一対の回転機3は、サドル7と、サドル上の機枠8と、機枠上の回転枠9とを具備する。サドル7は、工場の床面に敷設されたレールR上を電動車輪10で鉄骨架構21の軸線方向に走行可能とする。
回転枠9は、サドル7上の機枠8に水平軸周りに回転自在に支持される。回転枠9の中心部には、回転治具2の把持シャフト5を水平に保持する保持部11が設けられる。図6に示すように、保持部11は、上下左右から把持シャフト5の4面を把持する把持機構を具備する。一対の回転機3には、回転枠9を回転治具2及び鉄骨架構21と一体に所望角度回転させる2基同期運転可能な回転駆動機構12が設けられる。
【0013】
回転支持装置1を用いてエレベータシャフトを工場内で製作する場合には、鉄骨架構21を軸周りに適宜回転させながら、4面を高精度で、順次連続的に仕上げることができる。鉄骨架構21を床置きしないので、屋内クレーンでの反転作業を大幅に減じることができ、作業の安全性と効率を高め、大幅な工期短縮とコスト削減に資することができる。また、回転機3がレールR上を移動するので、同じ場所での繰り返し作業が可能となり、作業効率を一層高めることができる。完成後の検査も、回転支持装置1上で、迅速かつ正確に行うことができ、品質の向上につながる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
この発明は、例えば既存建物へ付設されるエレベータにおける昇降路建物、すなわちエレベータシャフトを工場で製作するために、その鉄骨架構を支持する装置として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の回転支持装置の正面図である。
【図2】本発明の回転支持装置の側面図である。
【図3】回転治具の正面図である。
【図4】回転治具の側面図である。
【図5】回転治具の斜視図である。
【図6】回転機の側面図である。
【符号の説明】
【0016】
1 回転支持装置
2 回転治具
3 回転機
4 枠材
4a 矩形枠
4b ブレース
5 把持シャフト
6 結合片
7 サドル
8 機枠
9 回転枠
10 電動車輪
11 保持部
12 回転駆動機構
21 鉄骨架構
22 主柱材
22a フランジ
R レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四隅の主柱材を腹材で結合してなる鉄骨架構の周りに所要部材を取り付けてエレベータシャフトを製作するための鉄骨架構の回転支持装置であって、
前記鉄骨架構の軸心を水平向けた状態で、主柱材の両端部を支持する一対の回転治具と、各回転治具を鉄骨架構の軸心周りに回転可能に支持する回転機とを具備し、
前記一対の回転治具は、前記鉄骨架構と同心となる矩形に組まれた枠材と、この枠材の中心に鉄骨架構と同心にこれと反対方向へ突出するように固定された把持シャフトと、枠材の四隅に固定され鉄骨架構の各主柱材の端部にボルト・ナットで結合可能な結合片とを具備し、
前記一対の回転機は、床面に敷設されたレール上を前記鉄骨架構の軸線方向に走行可能なサドルと、このサドル上に支持された機枠と、この機枠に水平軸周りに回転自在に支持され中心部に前記回転治具の把持シャフトを水平に保持する保持部を備える回転枠とを具備し、
前記一対の回転機の少なくとも一方は、前記回転枠を所望角度回転させる回転駆動機構をさらに具備することを特徴とするエレベータシャフト製作用鉄骨架構の回転支持装置。
【請求項2】
前記鉄骨架構の主柱材がH型鋼材からなり、前記回転治具の結合片が、主柱材のH型鋼材における一方のフランジの側面に接合される位置に配置され、主柱材の端部に予め形成されたボルト挿通孔に対応するボルト挿通孔を有することを特徴とする請求項1に記載のエレベータシャフト製作用鉄骨架構の回転支持装置。
【請求項3】
前記回転治具の把持シャフトが、角型鋼管からなり、前記回転機の保持部が、上下左右から把持シャフトの4面を把持する把持機構を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載のエレベータシャフト製作用鉄骨架構の回転支持装置。
【請求項4】
四隅の主柱材を腹材で結合して前記鉄骨架構を製作する工程と、この鉄骨架構における主柱材の両端に前記一対の回転治具を結合する工程と、鉄骨架構の軸心を水平に向けた状態で一対の回転治具における把持シャフトを前記回転機の保持部に保持する工程と、回転機の前記回転枠を所望角度回転させることにより鉄骨架構を軸周りに適宜回転させつつ当該鉄骨架構の四面に必要な部材を組み付ける工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の回転支持装置を用いたエレベータシャフトの製作方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−210785(P2007−210785A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35202(P2006−35202)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(599139556)綿半テクノス株式会社 (7)
【Fターム(参考)】