説明

エレベータ装置

【課題】乗りかごが昇降路の狭隘部を通過するときに発生する空力騒音あるいはカウンタウェイトとすれ違うときに発生する空力騒音を効果的に低減する。
【解決手段】昇降路35内を昇降動作する乗りかご31の上端部と下端部のうちの少なくとも一方の端部の昇降路35の乗場側に対向する面に気流発生装置10a,10bを設置しておき、この気流発生装置10a,10bから走行時に乗りかご31の先端部に形成される剥離流れを抑制して乗りかご31の正面に流れ込む空気の流れを整流化するための気流を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気流発生装置を備えたエレベータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルの高層化に伴い、そこに設置されるエレベータに関しても高速化が進められている。一方、エレベータの定格速度が400m/分以上になるに従い、乗りかご周りの気流によって発生する空力騒音が問題になっている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
なお、エレベータの定格速度は、建築基準法によって、「かごに積載荷重を作用させて上昇するときの最高速度をいう」と規定されている。速度に応じてエレベータを分類すると、定格速度が毎分45m以下のエレベータを「低速」、毎分60m〜105mのエレベータを「中速」、毎分120m以上のエレベータを「高速」、毎分360m以上のエレベータを「超高速」と規定されている。以下では、上記建築基準法で「超高速」または「高速」に分類されるエレベータのことを「高速エレベータ」と呼ぶものとする。
【0004】
高速エレベータの空力騒音低減化の対策として、乗りかごの先端に整風カバーを装着する方法がある(例えば、特許文献1参照)。さらに、エレベータの高速化に対応するため、整風カバーの上に整風スポイラーを取り付ける技術が開発されている(例えば、特許文献2参照)。この整風スポイラーの技術は、世界最高速のエレベータにも適用され(例えば、非特許文献2参照)、成果を上げている。
【0005】
しかしながら、狭い昇降路を高速走行するエレベータにあっては、昇降階に応じて昇降路内にホールシルなどの狭隘部が存在する。乗りかごがこの狭隘部を通過すると、局所的な空力騒音(バフ音)が発生し、乗りかご内の乗客や、乗場で待機している乗客に対して不快感を与える問題が残されている。
【0006】
ここで、走行時におけるエレベータの空力騒音を観測した結果、乗りかごの整風カバー先端部分が昇降路内の狭隘部分に差し掛かった際に、大きな騒音が発生することが明らかになっている(例えば、非特許文献3参照)。
【0007】
また、通常、エレベータは、乗りかご本体と同重量のカウンタウェイト(吊り合い重り)がバランスを取りながら走行している。このため、中央階でカウンタウェイトと乗りかご本体とが高速ですれ違ったときに、乗りかごが狭隘部を通過するのと同様に、乗りかご周りに大きな空力騒音が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−333486号公報
【特許文献2】特開2005−162496号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本機械学会論文集(B編),59巻564号(1993−8),論文No.92−1876.
【非特許文献2】世界最高速1010m/minエレベータ、東芝レビュー,vol.57,No.6,(2002).
【非特許文献3】超高速エレベータの風音低減、日本機械学会技術講演会、No.97−76(1997).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
狭隘部通過時に発生する空力騒音に関しては、上記特許文献2の整風スポイラーを装着することが有効である。特に、楔状の整風スポイラーを取り付けた場合には、狭隘部通過時を問わず、整風スポイラーからかご正面側に流れ込む空気の流れが整流化されるので、圧力変動が緩和され、空力騒音も低減されると考えられる。
【0011】
また、カウンタウェイトとの干渉効果についても、カウンタウェイトの先端形状を工夫しており、カウンタウェイトを複数に分割することによって軽減されると考えられる。
【0012】
しかしながら、このような構造的な改良はコストがかかり、また、昇降路のサイズ的な制約などによっては適用できないことがある。さらに、エレベータの高速化が進み、快適化がますます要求される現状にあっては、このような構造的な改良だけでは空力騒音を効果的に低減できないことがある。
【0013】
本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、乗りかごが昇降路の狭隘部を通過するときに発生する空力騒音あるいはカウンタウェイトとすれ違うときに発生する空力騒音を効果的に低減することのできるエレベータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のエレベータ装置は、昇降路内を昇降動作する乗りかごと、この乗りかごの上端部と下端部のうちの少なくとも一方の先端部の上記昇降路の乗場側に対向する面に設置され、走行時に上記乗りかごの先端部に形成される剥離流れを抑制して上記乗りかごの正面に流れ込む空気の流れを整流化するための気流を発生させる少なくとも1つの気流発生装置とを具備したことを特徴とする。
【0015】
また、本発明のエレベータ装置は、昇降路内を昇降動作する乗りかごと、この乗りかごに連動して上記昇降路内をつるべ式に昇降動作するカウンタウェイトと、このカウンタウェイトの上端部と下端部のうちの少なくとも一方の先端部の上記乗りかご側に設置され、走行時に上記カウンタウェイトの先端部に形成される剥離流れを抑制して上記カウンタウェイトの正面に流れ込む空気の流れを整流化するための気流を発生させる少なくとも1つの気流発生装置とを具備したことを特徴とする。
【0016】
また、本発明のエレベータ装置は、昇降路内を昇降動作する乗りかごと、この乗りかごに連動して上記昇降路内をつるべ式に昇降動作するカウンタウェイトと、上記乗りかごの上端部と下端部のうちの少なくとも一方の先端部の上記昇降路の乗場側に対向する面に設置され、走行時に上記乗りかごの先端部に形成される剥離流れを抑制して上記乗りかごの正面に流れ込む空気の流れを整流化するための気流を発生させる少なくとも1つの第1の気流発生装置と、上記カウンタウェイトの上端部と下端部のうちの少なくとも一方の先端部の上記乗りかご側に設置され、走行時に上記カウンタウェイトの先端部に形成される剥離流れを抑制して上記カウンタウェイトの正面に流れ込む空気の流れを整流化するための気流を発生させる少なくとも1つの第2の気流発生装置とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、乗りかごに気流発生装置を備えることで、乗りかごが昇降路の狭隘部を通過するときに発生する空力騒音を効果的に低減することができる。また、カウンタウェイトに気流発生装置を備えることで、乗りかごとカウンタウェイトとすれ違うときに発生する空力騒音を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は放電プラズマを利用した気流発生装置の構成を示す図である。
【図2】図2は図1の気流発生装置によって発生する誘起流の速度変化の一例を示す図である。
【図3】図3は放電プラズマを利用した気流発生装置の他の構成を示す図である。
【図4】図4は図3の気流発生装置によって発生する誘起流の速度変化の一例を示す図である。
【図5】図5は図3の気流発生装置によって発生する誘起流の速度変化の一例を示す図である。
【図6】図6は本発明の第1の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図6(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【図7】図7は同実施形態における乗りかごの整風カバーの先端部に生じる気流の状態を示す図であり、図7(a)はプラズマOFF、同図(b)はプラズマONの状態を示す図である。
【図8】図8は同実施形態におけるシミュレーション実験によって昇降路内を所定の速度で乗りかごを走行させた場合の圧力変動を測定した結果を示図である。
【図9】図9は同実施形態における気流発生装置の制御系の構成を示したブロック図である。
【図10】図10は同実施形態におけるエレベータ装置の乗りかご走行時における気流発生装置の駆動制御を示すフローチャートである。
【図11】図11は本発明の第2の実施形態に係る乗りかごの構成を示す図である。
【図12】図12は本発明の第3の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図12(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【図13】図13は本発明の第4の実施形態に係るエレベータ装置の乗りかごの構成を示す図である。
【図14】図14は本発明の第5の実施形態に係るエレベータ装置の乗りかごとカウンタウェイトの構成を側面から見た図である。
【図15】図15は同実施形態におけるエレベータ装置のカウンタウェイトの構成を示す図である。
【図16】図16は本発明の第6の実施形態に係るカウンタウェイトの構成を示す図である。
【図17】図17は本発明の第7の実施形態に係るエレベータ装置のカウンタウェイトの構成を示す図である。
【図18】図18は本発明の第8の実施形態に係るエレベータ装置のカウンタウェイトの構成を示す図である。
【図19】図19は本発明の第9の実施形態に係るエレベータ装置の乗りかごとカウンタウェイトの構成を側面から見た図である。
【図20】図20は本発明の第10の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図20(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【図21】図21は同実施形態における乗りかごの落下防止板の先端部に生じる気流の状態を示す図であり、図21(a)はプラズマOFF、同図(b)はプラズマONの状態、同図(c)はプラズマ両面ONの状態を示す図である。
【図22】図22は同実施形態におけるシミュレーション実験によって昇降路内を所定の速度で乗りかごを走行させた場合の圧力変動を測定した結果を示す図である。
【図23】図23は同実施形態におけるシミュレーション実験によって昇降路内を所定の速度で乗りかごを走行させた場合の圧力変動を測定した別の結果を示す図である。
【図24】図24は本発明の第11の実施形態に係るシンセティックジェット装置の構成を示す図である。
【図25】図25は同実施形態における気流発生装置としてシンセティックジェット装置を利用した場合のエレベータ装置の構成を示す図であり、図25(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【図26】図26は本発明の第12の実施形態に係る気流発生装置として小型の送風機を利用した場合のエレベータ装置の構成を示す図であり、図26(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【図27】図27は本発明の第13の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図27(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【図28】図28はエレベータの走行時に発生する空力騒音の観測結果を示す図である。
【図29】図29はエレベータの走行時におけるかご周辺の空気の流れを数値流体解析により再現した図であり、図29(a)は落下防止板の先端部分が昇降路内の狭隘部に差し掛かったときの空気の流れを示し、同図(b)かご正面の流れを部分的に示した図である。
【図30】図30は気流発生装置によって剥離流れを抑制した場合の解析結果を示した図であり、図30(a)は落下防止板の先端部分が狭隘部に差し掛かったときの空気の流れを示し、同図(b)かご正面の流れを部分的に示した図である。
【図31】図31はエレベータの走行速度と狭隘部通過時の騒音との関係を示す図である。
【図32】図32は本発明の第14の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図32(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【図33】図33は本発明の第15の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図33(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【図34】図34は本発明の第16の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図34(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0020】
本発明は、走行時に気流発生装置を用いてかご周りの流れを制御することで空力騒音を低減させるものである。気流発生装置として、送風機から二次元噴流を噴出させる装置や、シンセティックジェットを利用した装置などがあるが、装置の小型化と制御性を考慮すると、放電プラズマを利用した気流発生装置が最適であると考えられる。
【0021】
なお、放電プラズマを利用した気流発生装置については、特開2007−317656号公報や特開2008−1354号公報に記載されているため、ここでは基本的な構成のみを説明する。
【0022】
図1は放電プラズマを利用した気流発生装置の構成を示す図である。
【0023】
図1に示すように、気流発生装置10は、誘電体20内に埋設された第1の電極21と、この電極21と誘電体20の表面からの距離を同じにし、かつ誘電体20の表面と水平な方向にずらして離間され、誘電体20内に埋設された第2の電極22と、ケーブル23を介して電極21、22間に電圧を印加する放電用電源24とから構成されている。
【0024】
誘電体20としては、ガラスやポリイミドやゴムなどの電気的絶縁材料が用いられる。また、電極21、22には一般的な銅板を使用できるので、装置自体の厚みを数100μm以下で構成することが容易に可能である。
【0025】
このような構成において、放電用電源24から第1の電極21と第2の電極22との間に電圧を印加し、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極21と第2の電極22の間に放電が起こり、電極付近に誘起流(気流)25が発生する。この誘起流25の大きさや向きは、電極21,22に印加する電圧、周波数、電流波形、デューティ比などの電流電圧特性を変化させることで制御可能である。
【0026】
また、図2に示すように、電極21、22間に交番電圧または交流電圧を印加することで、持続的に誘起流25を発生させることが可能である。図2の例では、電極21側に向かう誘起流(図1では左側に向かう誘起流)と、電極22側に向かう誘起流(図1では右側に向かう誘起流)とが対照的に発生している状態が示されている。また、それぞれに向かう流速はほぼ等しい値である。
【0027】
気流発生装置10を図3のように構成することもできる。
【0028】
図3において、気流発生装置10は、誘電体20の表面と同一面に露出された第1の電極21と、この電極21と誘電体20の表面からの距離を異にし、かつ誘電体20の表面と水平な方向にずらして離間され、誘電体20内に埋設された第2の電極22と、ケーブル23を介して電極21、22間に電圧を印加する放電用電源24とから構成されている。すなわち、図1の構成とは、第1の電極21が誘電体20の表面と同一面に露出されている点で異なる。
【0029】
このような構成において、放電用電源24によって電極21、22間に、所定値以下の周波数の交流電圧や交番電圧を印加すると、図4に示すように、気流発生装置10の表面、すなわち、誘電体20の表面に沿って流れる方向が反転し、かつ、それぞれの方向に向かう流速が異なって振動する誘起流25を発生させることができる。図4の例では、電極22側に向かう誘起流(図3では右側に向かう誘起流)の向きを正の値としている。この場合、電極21側に向かう誘起流(図3では左側に向かう誘起流)と、電極22側に向かう誘起流(図3では右側に向かう誘起流)とが発生するが、それぞれに向かう流速が異なっている。
【0030】
また、印加する電圧値を調整することで、図5に示すように、時間平均的に一方向に流れる誘起流25を発生させることもできる。
【0031】
なお、こうした誘起流によって翼面上の流れを加速制御できることは、下記の文献にも記述されている。また、放電を非定常に制御することで翼廻り流れに対する制御をより効果的に行えることが確認されている。
【0032】
「日本機械学会 第85期 流体工学部門講演会,No.07−16,ISSN 1348−2882,(2007),OS5−1−503」
「日本機械学会論文集(B編),74巻744号,(2008−8),論文 No.08−7006」
次に、上述した気流発生装置10をエレベータ装置に適用した場合の具体的な構成について説明する。
【0033】
(第1の実施形態)
図6は本発明の第1の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図6(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【0034】
本実施形態におけるエレベータ装置は、主として高速エレベータに用いられる流線型の乗りかご31を備える。この乗りかご31は、図示せぬ巻上機の駆動によりロープ34を介して昇降路35内を昇降動作する。
【0035】
昇降路35内には、各階の乗場毎にホールシル36が設けられ、そのホールシル36の上にホールドア38が開閉自在に設けられている。乗りかご31の正面には、かごドア33が開閉自在に設けられている。このかごドア33は、乗りかご31が各階の乗場で停止したときに乗場ドア38に係合して開閉動作する。
【0036】
また、図中の37は昇降路35内にホールシル36の突起によって形成される狭隘部である。乗りかご31がこの狭隘部37を通過すると、局所的な空力騒音(バフ音)が発生し、乗りかご31内の乗客や、乗場で待機している乗客に対して不快感を与える問題がある。
【0037】
このような空力騒音を低減するために、乗りかご31の上端部と下端部を覆う緩やかな曲面を有する整風カバー32a,32bが取り付けられている。この整風カバー32a,32bは、昇降路35の乗場側に対向した面が平坦で、反対側の面が半球状に形成されている。また、乗りかご31の側面には、昇降方向に複数本の溝31aが形成されている。
【0038】
さらに、このような構造的な騒音低減対策とは別に、上述した放電プラズマを利用した気流発生装置10a,10bが用いられている。この気流発生装置10a,10bは、整風カバー32a,32bの先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に取り付けられている。この気流発生装置10a,10bはセラミックなどの絶縁物を基盤としたモジュール構造で構成できるので、整風カバー32a,32bにモジュール部分をねじ止めあるいは接着剤で簡単に固定することができる。
【0039】
この気流発生装置10a,10bは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の上昇時に乗りかご31の上端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご31の下降時に乗りかご31の下端部がホールシル36を通過するときである。
【0040】
すなわち、整風カバー32aに設けられた気流発生装置10aは、乗りかご31の上昇時に整風カバー32aの先端部がホールシル36を通過するときに駆動され、乗りかご31の下降方向に向けて誘起流25を発生する。一方、整風カバー32bに設けられた気流発生装置10bは、乗りかご31の下降時に整風カバー32bの先端部がホールシル36を通過するときに駆動され、乗りかご31の上昇方向に向けて誘起流25を発生する。
【0041】
今、乗りかご31の下降時を想定して、気流発生装置10bの作用効果を説明する。
【0042】
図7は乗りかごの整風カバーの先端部に生じる気流の状態を示す図であり、図7(a)はプラズマOFF、同図(b)はプラズマONの状態を示している。
【0043】
図7(a)に示すように、乗りかご31の下降時に整風カバー32bの先端部がホールシル36などの昇降路35の狭隘部37に差し掛かったときに、整風カバー32bの先端部で堰き止められた空気が乗りかご31の正面に急速に流れ込み、かごドア33の前で局所的な増速流が生じる。その増速流によって大きな圧力変動を生じ、その結果として空力騒音が発生する。
【0044】
ここで、図7(b)に示すように、乗りかご31の下降時に、気流発生装置10bから乗りかご31の移動方向とは逆方向(つまり上昇方向)に誘起流25を発生させると、整風カバー32bの先端部での堰き止め現象が軽減され、先端部から乗りかご31の正面に流れ込む空気の流れを整流化することができる。これにより、圧力変動が緩和され、結果的に空力騒音を抑制することができる。
【0045】
図8にシミュレーション実験によって昇降路内を所定の速度で乗りかごを走行させた場合の圧力変動を測定した結果を示す。横軸は時間、縦軸はかご通過前の圧力に対する変動値を表している。また、図中の実線がプラズマOFF、点線がプラズマONのときの特性を表している。
【0046】
乗りかご31の先端部が昇降路35の狭隘部37を通過したときに急激な圧力変動が生じる。しかし、乗りかご31の移動方向とは逆方向に、プラズマONとして誘起流25を発生させておくと、その圧力変動が緩和され、空力騒音が低減されることが分かる。
【0047】
これは、乗りかご31の上昇時でも同様である。
すなわち、上昇時に整風カバー32aの先端部がホールシル36などの昇降路35の狭隘部37に差し掛かったときに、整風カバー32aの先端部に取り付けた気流発生装置10aから乗りかご31の移動方向とは逆方向(つまり下降方向)に誘起流25を発生させると、整風カバー32aの先端部から流れ込む空気の流れを整流化できる。これにより、圧力変動が緩和され、結果的に空力騒音を抑制することができる。
【0048】
次に、図9および図10を参照して、気流発生装置10a,10bの駆動方法について説明する。
【0049】
図9は気流発生装置の制御系の構成を示したブロック図である。
【0050】
駆動装置11は、乗りかご31上に設置されており、気流発生装置10a,10bの駆動に必要な電力を供給するためのバッテリなどを備える。この駆動装置11は、制御装置12から出力される駆動信号に基づいて気流発生装置10a,10bに電力を供給して駆動する。
【0051】
また、制御装置12は、ビルの機械室などに設置されている。この制御装置12は、CPU、ROM、RAMなどを搭載したコンピュータによって構成され、所定のプログラムの起動によりエレベータ全体の運転制御を行うと共に、ここでは気流発生装置10a,10bの駆動制御を行う。なお、制御装置12と乗りかご31上の駆動装置11は、図示せぬテールコードあるいは無線により電気的に接続されている。
【0052】
かご位置検出装置13は、図示せぬパルスエンコーダから巻上機の回転に同期して出力されるパルス信号に基づいて、昇降路35内を走行中の乗りかご31の位置をリアルタイムで検出する。
【0053】
図10は乗りかご走行時における気流発生装置の駆動制御を示すフローチャートである。
【0054】
乗りかご31が所定の速度で上昇方向に移動中にあるとする(ステップS11のYes)。制御装置12は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し(ステップS12)、乗りかご31の上端部に取り付けられた整風カバー32aの先端部がホールシル36を通過する直前に(ステップS13のYes)、駆動装置11を通じて気流発生装置10aを所定時間だけ駆動する(ステップS14)。なお、上記所定時間は、乗りかご31の先端部分がホールシル36を通過するまでの時間であり、乗りかご31の速度にもよるが、約0.3〜0.5秒程度である。
【0055】
一方、乗りかご31が所定の速度で下降方向に移動中の場合には(ステップS11のNo)、制御装置12は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し(ステップS16)、乗りかご31の下端部に取り付けられた整風カバー32bの先端部がホールシル36を通過する直前に(ステップS17のYes)、駆動装置11を通じて気流発生装置10bを所定時間だけ駆動する(ステップS18)。
【0056】
このように、エレベータ装置において、上昇時には整風カバー32aの先端部がホールシル36を通過するタイミングで気流発生装置10aの駆動を制御し、下降時には整風カバー32bの先端部がホールシル36を通過するタイミングで気流発生装置10bの駆動を制御することで、そのときに生じる圧力変動をプラズマ気流の作用により確実に緩和して、空力騒音を低減することができる。
【0057】
なお、放電プラズマを利用した気流制御は、航空機の分野などの利用が研究され始めている。しかし、通常、移動中の空気抵抗を軽減するために用いられるものであり、常にプラズマがON状態にあるのが一般的である。
【0058】
これに対し、エレベータ装置では、航空機等の移動体と違って、昇降路35といった限られた空間の中で乗りかご31が高速で移動するものであり、その途中に各階毎のホールシル36で急激な圧力変動による空力騒音が発生する。したがって、このような空力騒音を低減するためには、図10で説明したように、昇降路内におけるかご位置を検出しながら、所定のタイミングでプラズマをONするといったエレベータ特有の駆動制御が必要となる。さらに、走行時にプラズマをON/OFF制御することは、省エネルギーの観点からも推奨される。
【0059】
また、プラズマ誘起流の発生はわずか数Wの電力である。したがって、乗りかご31から駆動電力をまかなうことが容易である。駆動装置11も小型なもので良いため、乗りかご31に容易に設置することができる。
【0060】
なお、上記第1の実施形態では、整風カバー32a,32bを有する乗りかご31を想定したが、整風カバー32a,32bが取り付けられていない場合には、乗りかご31の上端部と下端部の昇降路35の乗場側に対向する面に気流発生装置10a,10bを設置することで同様の効果を得ることができる。
【0061】
また、乗りかご31の上端部と下端部のうちの少なくとも一方の先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に気流発生装置10aまたは10bを設置することでも良い。
【0062】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0063】
図11は本発明の第2の実施形態に係るエレベータ装置の乗りかごの構成を示す図である。上記第1の実施形態と同様に、乗りかご31の上端部に整風カバー32aが取り付けられ、下端部に整風カバー32bが取り付けられている。
【0064】
ここで、第2の実施形態では、整風カバー32aの先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に、2つの気流発生装置10a,10bが設けられている。同様に、整風カバー32bの先端部の昇降路35の乗場側に対向する面にも、2つの気流発生装置10c,10dが設けられている。
【0065】
これらの気流発生装置10a〜10b,10c〜10dは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の上昇時に整風カバー32aの先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご31の下降時に整風カバー32bの先端部がホールシル36を通過するときである。
【0066】
駆動装置11は、乗りかご31の上に設置されている。図9に示した制御装置12は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し、乗りかご31が所定の位置を通過するときに駆動装置11を通じて気流発生装置10a〜10b,10c〜10dを駆動制御する。
【0067】
図11の例では、乗りかご31の上昇時に整風カバー32aの先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10a,10bが同時に駆動され、乗りかご31の下降方向に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご31の下降時に整風カバー32bの先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10c,10dが同時に駆動され、乗りかご31の上昇方向に向けて誘起流25を発生する。
【0068】
このように、整風カバー付きの乗りかご31において、整風カバー32a,32bの先端部にそれぞれ気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dを設けておくことで、整風カバー32a,32bの先端部分がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かった際に乗りかご31の正面に流れ込む空気の流れを整流化することができる。これにより、高速走行時に狭隘部37で発生する圧力変動を緩和して、空力騒音の発生を抑制することができる。
【0069】
なお、気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dは、整風カバー32a,32bの先端部に昇降方向に沿ってタンデムに並べて配置しても良いし、図11の例のように、整風カバー32a,32bの先端部の空気を速やかに側面側へ流すように、ハの字状に配置するようにしても良い。
【0070】
「タンデムに並べて配置」とは、気流発生装置10a,10bの例で言えば、この気流発生装置10a,10bから昇降方向に向けて誘起流25が発生するように配置することである。
【0071】
「ハの字状に配置」とは、気流発生装置10a,10bの例で言えば、昇降方向に対して所定の角度を持って互いに逆方向に傾けて配置することである。この場合、気流発生装置10a,10bからは昇降方向に対して所定の角度を持って誘起流25が発生することになる。このときの角度は、走行時に乗りかご31の先端部から乗りかご31の正面に流れ込む空気の流れを効果的に整流化できるように実験等によって決められる。
【0072】
このような配置によれば、整風カバー廻りの流れをさらに効果的に整流化させることができるので、更なる空力騒音の低下が期待できる。
【0073】
また、さらに多数の気流発生装置を用い、これらを整風カバー廻りの流れを整流化させるように配置して、それぞれに所定のタイミングで駆動することでも良い。
【0074】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
【0075】
図12は本発明の第3の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図12(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、図12において、上記第1の実施形態における図6の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
【0076】
乗りかご31の上端部に整風カバー32aが取り付けられ、下端部に整風カバー32bが取り付けられている。さらに、この整風カバー32a,32bの上には、急峻な形状を有する整風スポイラー39a,39bが昇降方向に突出させて設けられている。この整風スポイラー39a,39bは、高速走行時の空力騒音を低減させるための部材であり、昇降方向に突起させるようにして整風スポイラー39a,39bの上にネジ止め等により固定されている。
【0077】
ここで、第3の実施形態では、整風スポイラー39aの先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に、2つの気流発生装置10a,10bが設けられている。同様に、整風スポイラー39bの先端部の昇降路35の乗場側に対向する面にも、2つの気流発生装置10c,10dが設けられている。
【0078】
これらの気流発生装置10a〜10b,10c〜10dは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の上昇時に整風スポイラー39aの先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご31の下降時に整風スポイラー39bの先端部がホールシル36を通過するときである。
【0079】
駆動装置11は、乗りかご31の上に設置されている。図9に示した制御装置12は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し、乗りかご31が所定の位置を通過するときに駆動装置11を通じて気流発生装置10a〜10b,10c〜10dを駆動制御する。
【0080】
図12の例では、乗りかご31の上昇時に整風スポイラー39aの先端部がホールシル36を通過するときに気流発生装置10a,10bが同時に駆動され、乗りかご31の下降方向に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご31の下降時には、整風スポイラー39bの先端部がホールシル36を通過するときに気流発生装置10c,10dが同時に駆動され、乗りかご31の上昇方向に向けて誘起流25を発生する。
【0081】
このように、整風スポイラー付きの乗りかご31において、整風スポイラー39a,39bの先端部にそれぞれ気流発生装置10a,10b、発生装置10c,10dを設けておくことで、整風スポイラー39a,39bの先端部分がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かった際に乗りかご31の正面に流れ込む空気の流れを整流化することができる。これにより、高速走行時に狭隘部37で発生する圧力変動を緩和して、空力騒音の発生を抑制することができる。
【0082】
また、図12の例のように、気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dを整風スポイラー39a,39bの先端部に昇降方向に沿ってタンデムに並べて配置することで、整風スポイラー廻りの流れをさらに効果的に整流化させることができるので、更なる空力騒音の低下が期待できる。
【0083】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0084】
図13は本発明の第4の実施形態に係るエレベータ装置の乗りかごの構成を示す図である。上記第3の実施形態と同様に、乗りかご31の上端部に整風カバー32aと整風スポイラー39aが取り付けられ、下端部に整風カバー32bと整風スポイラー39bが取り付けられている。
【0085】
ここで、第4の実施形態では、気流発生装置が整風スポイラー39a,39bの先端部の他に、整風カバー32aの先端部にも設けられている。すなわち、図13の例では、整風スポイラー39aの先端部に1つの気流発生装置10a、整風カバー32aの先端部に2つの気流発生装置10b,10cがハの字状に配置されている。同様に、整風スポイラー39bの先端部に1つの気流発生装置10d、整風カバー32bの先端部に2つの気流発生装置10e,10fがハの字状に配置されている。
【0086】
これらの気流発生装置10a〜10c,10d〜10fは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の上昇時に整風スポイラー39aの先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご31の下降時に整風スポイラー39bの先端部がホールシル36を通過するときである。
【0087】
駆動装置11は、乗りかご31の上に設置されている。図9に示した制御装置12は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し、乗りかご31が所定の位置を通過するときに駆動装置11を通じて気流発生装置10a〜10fを駆動制御する。
【0088】
図13の例では、乗りかご31の上昇時に整風スポイラー39aの先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10a,10b,10cが同時に駆動され、乗りかご31の下降方向に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご31の下降時に整風スポイラー39bの先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10d,10e,10fが同時に駆動され、乗りかご31の上昇方向に向けて誘起流25を発生する。
【0089】
このように、整風カバーと整風スポイラー付きの乗りかご31において、整風カバー32a,32bと整風スポイラー39a,39bの先端部にそれぞれ気流発生装置10a〜10cと気流発生装置10d〜10fを設けておくことで、整風スポイラー39a,39bの先端部分がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かった際に乗りかご31の正面に流れ込む空気の流れをより効果的に整流化することができる。これにより、高速走行時に狭隘部37で発生する圧力変動を緩和して、空力騒音の発生を抑制することができる。
【0090】
なお、図13の例では、気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dをそれぞれハの字状に配置したが、昇降方向に沿ってタンデムに配置することでも良い。
【0091】
また、さらに多数の気流発生装置を用い、これらを整風カバー廻りの流れを整流化させるように配置して、それぞれに所定のタイミングで駆動することでも良い。
【0092】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態を説明する。
【0093】
第5の実施形態では、カウンタウェイトの先端部に気流発生装置を設けて、カウンタウェイトと乗りかごがすれ違うときに発生する空力騒音と振動を低減するものである。
【0094】
図14は本発明の第5の実施形態に係るエレベータ装置の乗りかごとカウンタウェイトの構成を側面から見た図である。なお、図14において、上記第1の実施形態における図6の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
【0095】
図14では、乗りかご31の下降時に乗りかご31とカウンタウェイト40とが擦れ違う状態が示されている。カウンタウェイト40は、ロープ34の他端に取り付けられており、図示せぬ巻上機の駆動により乗りかご31と共に昇降路35内をつるべ式に移動する。
【0096】
ここで、昇降路35の中間階で、カウンタウェイト40の先端部が乗りかご31に差し掛かったときに、カウンタウェイト40の先端部に局所的な剥離流れが生じ、大きな圧力変動が生じて空力騒音が発生すると共に、乗りかご31に振動を与える問題がある。
【0097】
この場合、図14に示すように、カウンタウェイト40の先端形状を乗りかご31の背側寄りを平行にした楔状とすることで、すれ違い時に発生する空力騒音および振動をある程度低減することができる。しかし、エレベータの移動速度が増してくると、このような構造的改良では、空力騒音や振動を低減できない。
【0098】
そこで、図15に示すように、カウンタウェイト40の上端部と下端部の乗りかご31に対向する面にそれぞれ気流発生装置10a,10bを設けておく。上述したように、気流発生装置10a,10bはセラミックなどの絶縁物を基盤としたモジュール構造で構成できるので、カウンタウェイト40にモジュール部分をねじ止めあるいは接着剤で簡単に固定することができる。
【0099】
これらの気流発生装置10a,10bは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の上昇時にカウンタウェイト40の下端部が乗りかご31とすれ違うときと、乗りかご31の下降時にカウンタウェイト40の上端部が乗りかご31とすれ違うときである。
【0100】
駆動装置11は、カウンタウェイト40の上に設置されている。図9に示した制御装置12は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し、乗りかご31とカウンタウェイト40とがすれ違うタイミングで、駆動装置11を通じて気流発生装置10a,10bを駆動制御する。なお、制御装置12とカウンタウェイト40上の駆動装置11は、図示せぬケーブルあるいは無線により電気的に接続されている。
【0101】
図14の例では、乗りかご31の上昇時にカウンタウェイト40の下端部が乗りかご31とすれ違うときに、気流発生装置10bが駆動され、カウンタウェイト40の移動方向とは逆方向(上昇方向)に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご31の下降時にカウンタウェイト40の上端部が乗りかご31とすれ違うときに、気流発生装置10aが駆動され、カウンタウェイト40の移動方向とは逆方向(下降方向)に向けて誘起流25を発生する。
【0102】
このように、カウンタウェイト40の上端部と下端部に設けられた気流発生装置10a,10bをカウンタウェイト40の移動方向とは逆方向に発生させると、図7で説明した乗りかご31の場合と同様の理屈で、カウンタウェイト40の先端部から乗りかご31との対向面に流れ込む空気の流れを円滑に整流化することができる。これにより、乗りかご31とカウンタウェイト40とのすれ違い時に発生する圧力変動を緩和して、空力騒音ならびに振動を抑制することができる。
【0103】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。
【0104】
図16は本発明の第6の実施形態に係るカウンタウェイトの構成を示す図である。なお、乗りかごの構成は上記第5の実施形態における図14の構成と同様である。
【0105】
第6の実施形態では、カウンタウェイト40の上端部の乗りかご31と対向する面に、2つの気流発生装置10a,10bが設けられている。同様に、カウンタウェイト40の下端部の乗りかご31と対向する面にも、2つの気流発生装置10c,10dが設けられている。
【0106】
これらの気流発生装置10a〜10b,10c〜10dは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、乗りかご31の上昇時にカウンタウェイト40の下端部が乗りかご31とすれ違うときと、乗りかご31の下降時にカウンタウェイト40の上端部が乗りかご31とすれ違うときである。
【0107】
駆動装置11は、カウンタウェイト40の上に設置されている。図9に示した制御装置12は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し、乗りかご31とカウンタウェイト40とがすれ違うタイミングで、駆動装置11を通じて気流発生装置10a〜10b,10c〜10dを駆動制御する。なお、制御装置12とカウンタウェイト40上の駆動装置11は、図示せぬケーブルあるいは無線により電気的に接続されている。
【0108】
図16の例では、乗りかご31の上昇時にカウンタウェイト40の下端部が乗りかご31とすれ違うときに、気流発生装置10c,10dが同時に駆動され、カウンタウェイト40の移動方向とは逆方向(上昇方向)に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご31の下降時にカウンタウェイト40の上端部が乗りかご31とすれ違うときに、気流発生装置10a,10bが同時に駆動され、カウンタウェイト40の移動方向とは逆方向(下降方向)に向けて誘起流25を発生する。
【0109】
このように、カウンタウェイト40の上端部と下端部にそれぞれ気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dを設けておくことで、乗りかご31とカウンタウェイト41とのすれ違い時にカウンタウェイト41の先端部から乗りかご31との対向面に流れ込む空気の流れを効果的に整流化でき、そのときに発生する圧力変動を緩和して、空力騒音ならびに振動を抑制することができる。
【0110】
なお、気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dは、昇降方向に沿ってタンデムに並べて配置しても良いし、図16の例のように、カウンタウェイト40の先端部の空気を速やかに側面側へ流すように、ハの字状に配置するようにしても良い。このような配置によれば、カウンタウェイト40の先端部廻りの流れをさらに効果的に整流化させることができるので、更なる空力騒音と騒音の低下が期待できる。
【0111】
また、さらに多数の気流発生装置を用い、これらをカウンタウェイト40の先端部廻りの流れを整流化させるように配置して、それぞれに所定のタイミングで駆動することでも良い。
【0112】
(第7の実施形態)
次に、本発明の第7の実施形態について説明する。
【0113】
図17は本発明の第7の実施形態に係るエレベータ装置のカウンタウェイトの構成を示す図である。なお、乗りかごの構成は上記第5の実施形態における図14の構成と同様である。
【0114】
第7の実施形態では、乗りかご31とのすれ違い時の空力騒音を低減するために、左右に2分割された形状を持つカウンタウェイト41が用いられている。このカウンタウェイト41は、昇降方向に延出された2つの柱状の重り部材42a,42bと、その重り部材42a,42bを連結する連結部43とからなる。
【0115】
このカウンタウェイト41の重り部材42a,42bの上端部と下端部に、それぞれ気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dが設けられている。
【0116】
これらの気流発生装置10a〜10b,10c〜10dは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、乗りかご31の上昇時にカウンタウェイト41の下端部が乗りかご31とすれ違うときと、乗りかご31の下降時にカウンタウェイト41の上端部が乗りかご31とすれ違うときである。
【0117】
駆動装置11は、カウンタウェイト41の重り部材41a,42bの間に設置されている。図9に示した制御装置12は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し、乗りかご31とカウンタウェイト41とがすれ違うタイミングで、駆動装置11を通じて気流発生装置10a〜10b,10c〜10dを駆動制御する。なお、制御装置12とカウンタウェイト41上の駆動装置11は、図示せぬケーブルあるいは無線により電気的に接続されている。
【0118】
図17の例では、乗りかご31の上昇時にカウンタウェイト41の下端部が乗りかご31とすれ違うときに、気流発生装置10c,10dが同時に駆動され、カウンタウェイト41の移動方向とは逆方向(上昇方向)に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご31の下降時にカウンタウェイト41の上端部が乗りかご31とすれ違うときに、気流発生装置10a,10bが同時に駆動され、カウンタウェイト41の移動方向とは逆方向(下降方向)に向けて誘起流25を発生する。
【0119】
このように、2分割形状のカウンタウェイト41において、重り部材42a,42bの上端部と下端部にそれぞれ気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dを設けておくことで、乗りかご31とカウンタウェイト41とのすれ違い時にカウンタウェイト41の先端部から乗りかご31との対向面に流れ込む空気の流れを整流化でき、そのときに発生する圧力変動を緩和して、空力騒音ならびに振動を抑制することができる。
【0120】
(第8の実施形態)
次に、本発明の第8の実施形態について説明する。
【0121】
図18は本発明の第8の実施形態に係るエレベータ装置のカウンタウェイトの構成を示す図である。なお、乗りかごの構成は上記第5の実施形態における図14の構成と同様である。
【0122】
第8の実施形態では、乗りかご31とのすれ違い時の空力騒音を低減するために、3分割形状のカウンタウェイト44が用いられている。このカウンタウェイト44は、昇降方向に延出された3つの柱状の重り部材45a,45b,45cと、その重り部材45a,45b,45cを連結する連結部46a,46bとからなる。
【0123】
このカウンタウェイト44の重り部材45a,45b,45cの上端部と下端部に、それぞれ気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dと気流発生装置10e,10fが設けられている。
【0124】
これらの気流発生装置10a〜10fの駆動方法についても、上記第7の実施形態と同様である。すなわち、乗りかご31の上昇時にカウンタウェイト44の下端部が乗りかご31とすれ違うときに気流発生装置10d〜10fが同時に駆動され、カウンタウェイト44の移動方向とは逆方向(上昇方向)に向けて誘起流25を発生する。
【0125】
一方、乗りかご31の下降時には、カウンタウェイト44の上端部が乗りかご31とすれ違うときに気流発生装置10a〜10cが同時に駆動され、カウンタウェイト44の移動方向とは逆方向(下降方向)に向けて誘起流25を発生する。
【0126】
このように、3分割形状のカウンタウェイト44において、重り部材45a,45b,45cの上端部と下端部にそれぞれ気流発生装置10a,10b,10cと気流発生装置10d,10e,10fを設けておくことで、乗りかご31とカウンタウェイト44とのすれ違い時にカウンタウェイト44の先端部から乗りかご31との対向面に流れ込む空気の流れを整流化でき、そのときに発生する圧力変動を緩和して、空力騒音ならびに振動を抑制することができる。
【0127】
その他、さらに多数に分割されカウンタウェイトについても同様であり、昇降方向に延出された各重り部材の上端部と下端部にそれぞれ気流発生装置を設けておくことで、同様の効果が得られる。
【0128】
(第9の実施形態)
次に、本発明の第9の実施形態について説明する。
【0129】
図19は本発明の第9の実施形態に係るエレベータ装置の乗りかごとカウンタウェイトの構成を側面から見た図である。なお、図19において、上記第5の実施形態における図14の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
【0130】
第9の実施形態では、乗りかご31とカウンタウェイト40の両方に気流発生装置が設けられている。すなわち、乗りかご31に対しては、整風スポイラー39aと整風スポイラー39bの先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に気流発生装置10a,10bが設けられている。カウンタウェイト40に対しては、その上端部と下端部の乗りかご31に対向する面に気流発生装置10c,10dが設けられている。
【0131】
乗りかご31に設けられた気流発生装置10a,10bは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご31の走行時に第1の駆動装置11aによって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の上昇時に整風スポイラー39aの先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご31の下降時に整風スポイラー39bの先端部がホールシル36を通過するときである。
【0132】
第1の駆動装置11aは、乗りかご31の上に設置されている。図9に示した制御装置12は、第1の制御手段として、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し、乗りかご31が所定の位置を通過するときに第1の駆動装置11aを通じて気流発生装置10a,10bを駆動制御する。
【0133】
図19の例では、乗りかご31の上昇時に整風スポイラー39aの先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10aが駆動され、乗りかご31の下降方向に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご31の下降時に整風スポイラー39bの先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10bが駆動され、乗りかご31の上昇方向に向けて誘起流25を発生する。
【0134】
また、カウンタウェイト40に設けられた気流発生装置10c,10dは、図1または図3に示したような構造を有し、カウンタウェイト40の走行時に第2の駆動装置11bによって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の上昇時にカウンタウェイト40の下端部が乗りかご31とすれ違うときと、乗りかご31の下降時にカウンタウェイト40の上端部が乗りかご31とすれ違うときである。
【0135】
第2の駆動装置11bは、カウンタウェイト40の上に設置されている。図9に示した制御装置12は、第2の制御手段として、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し、乗りかご31とカウンタウェイト40とがすれ違うタイミングで、第2の駆動装置11bを通じて気流発生装置10c,10dを駆動制御する。なお、制御装置12とカウンタウェイト40上の第2の駆動装置11bは、図示せぬケーブルあるいは無線により電気的に接続されている。
【0136】
図19の例では、乗りかご31の上昇時にカウンタウェイト40の下端部が乗りかご31とすれ違うときに気流発生装置10cが駆動され、カウンタウェイト40の移動方向とは逆方向(上昇方向)に向けて誘起流25を発生する。
【0137】
一方、乗りかご31の下降時には、カウンタウェイト40の上端部が乗りかご31とすれ違うときに気流発生装置10dが駆動され、カウンタウェイト40の移動方向とは逆方向(下降方向)に向けて誘起流25を発生する。
【0138】
このように、乗りかご31とカウンタウェイト40の両方に気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dを設けておけて、それぞれのタイミングで適宜誘起流25を発生させることで、乗りかご31がホールシル36などの狭隘部37を通過する際に発生する空力騒音、ならびに、乗りかご31とカウンタウェイト40がすれ違う際に発生する空力騒音と振動を抑制することができる。これにより、高速走行においても常に快適なエレベータ装置を提供できる。
【0139】
なお、乗りかご31の構成としては、図19の例に限るものではなく、乗りかご31の上端部と下端部に整風カバー32a,32bだけが取り付けられた構成であっても良い。カウンタウェイト40の構成についても同様であり、図17や図18に示したような分割形状であっても良い。
【0140】
(第10の実施形態)
次に、本発明の第10の実施形態について説明する。
【0141】
これまで、整風カバー付きの乗りかごを備えた高速エレベータを想定して説明してきたが、本発明はこのような高速エレベータに限られるものではなく、整風カバーも持たない箱型の乗りかごを備えた通常の低速エレベータにも有効である。なお、ここで言う「低速エレベータ」とは、上述した建築基準法による速度分類で「低速」あるいは「中速」で走行するエレベータのことである。
【0142】
近年では、バリアフリーの観点から乗場と乗りかごの段差を少しでも低減するため、昇降路の狭隘部が30mm以下に設計されている低速エレベータが多い。このような低速エレベータでは、乗りかごが低速で移動したとしても、昇降路の狭隘部を通過するときに大きな空力騒音が発生することがある。
【0143】
以下に、このような低速エレベータを想定して、空力騒音を低減するための構成について説明する。
【0144】
図20は本発明の第10の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図20(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
【0145】
本実施形態におけるエレベータ装置は、主として低速エレベータに用いられる箱型の乗りかご51を備える。この乗りかご51は、図示せぬ巻上機の駆動によりロープ54を介して昇降路35内を昇降動作する。
【0146】
また、この乗りかご51の下端部の乗場側に、通称「エプロン」と呼ばれる落下防止板52が取り付けられている。この落下防止板52は、乗場のホールシル36とかごドア53との間の隙間から物が落下することを防止するための板状部材であって、かごドア53の縁から下降方向に向けて所定の長さを持って延出されている。
【0147】
なお、昇降路35の構成は上記第1の実施形態における図6と同様である。
すなわち、昇降路35には、各階の乗場毎にホールシル36が配設されており、そのホールシル36の上にホールドア38が開閉自在に設けられている。乗りかご51の正面には、かごドア53が開閉自在に設けられており、乗りかご51が各階の乗場で停止したときに、乗場ドア38に係合して開閉動作する。図中の37は昇降路35内のホールシル36によって形成される狭隘部である。
【0148】
ここで、乗りかご51の先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に気流発生装置10aが設けられ、その乗りかご51の下端に取り付けられた落下防止板52の先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に気流発生装置10bが設けられている。上述したように、気流発生装置10a,10bはセラミックなどの絶縁物を基盤としたモジュール構造で構成できるので、乗りかご51と落下防止板52にモジュール部分をねじ止めあるいは接着剤で簡単に固定することができる。
【0149】
この気流発生装置10a,10bは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご51の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご51の上昇時に乗りかご51の先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご31の下降時に落下防止板52の先端部がホールシル36を通過するときである。
【0150】
駆動装置11は、乗りかご31の上に設置されている。図9に示した制御装置12は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご51の位置を検出し、乗りかご51が所定の位置を通過するときに駆動装置11を通じて気流発生装置10a,10bを駆動制御する。
【0151】
図20の例では、乗りかご51の上昇時に乗りかご51の先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10aが駆動され、乗りかご31の下降方向に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご31の下降時に落下防止板52の先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10bが駆動され、乗りかご31の上昇方向に向けて誘起流25を発生する。
【0152】
今、乗りかご51の下降時を想定して、気流発生装置10bの作用効果を説明する。
【0153】
図21は乗りかごの落下防止板の先端部に生じる気流の状態を示す図であり、図21(a)はプラズマOFF、同図(b)はプラズマONの状態、同図(c)はプラズマ両面ONの状態を示している。
【0154】
図21(a)に示すように、乗りかご51の下降時に落下防止板52の先端部がホールシル36などの昇降路35の狭隘部37に差し掛かったときに、落下防止板52の先端部で堰き止められた空気が乗りかご31の正面に急速に流れ込み、かごドア53の前に局所的な増速流が生じる。また、落下防止板52の端部には、非特許文献1に明らかになっているように縦渦55が発生する。その縦渦55によってかごドア53の前の増速流がさらに加速し、これらの増速流によって大きな圧力変動を生じ、その結果として空力騒音が発生する。
【0155】
ここで、図21(b)に示すように、乗りかご51の下降時に、気流発生装置10bから乗りかご51の移動方向とは逆方向(つまり上昇方向)に誘起流25を発生させると、落下防止板52の先端部での堰き止め現象がなくなり、先端部から乗りかご51の正面に流れ込む空気の流れを円滑にかご廻りに整流化することができる。これにより、圧力変動が緩和され、結果的に空力騒音を抑制することができる。
【0156】
図22にシミュレーション実験によって昇降路内を所定の速度で乗りかごを走行させた場合の圧力変動を測定した結果を示す。横軸は時間、縦軸はかご通過前の圧力に対する変動値を表している。また、図中の実線がプラズマOFF、点線がプラズマONのときの特性を表している。
【0157】
乗りかご51の先端部が昇降路35の狭隘部37を通過したときに急激な圧力変動が生じる。しかし、乗りかご51の移動方向とは逆方向に、プラズマONとして誘起流25を発生させておくと、その圧力変動が緩和され、空力騒音が低減されることが分かる。
【0158】
これは、乗りかご51の上昇時でも同様である。
すなわち、上昇時に乗りかご51の先端部がホールシル36などの昇降路35の狭隘部37に差し掛かったときに、乗りかご51の先端部に取り付けた気流発生装置10aから乗りかご51の移動方向とは逆方向(つまり下降方向)に誘起流25を発生させると、乗りかご51の先端部から正面に流れ込む空気の流れを整流化できる。これにより、圧力変動が緩和され、結果的に空力騒音を抑制することができる。
【0159】
なお、一般的には下降時の方が上昇時に比べて圧力変動が大きくなる。これは、建物の構造によるが、通常、昇降路35内では下から上へ空気が吹き抜けており、そこに乗りかご51が下降してくると、ホールシル36などの狭隘部37で落下防止板52の側端部に縦渦55が急成長して回り込んでくるからである。
【0160】
そこで、図20の点線で示すように、落下防止板52の裏面(乗場と反対側の面)に気流発生装置10cを追加して、乗りかご51の下降時に気流発生装置10b,10cを同時に駆動しても良い。このようにすれば、落下防止板52の側端部に発生する縦渦55の働きを弱めることができる。したがって、図21(c)に示すように、先端部から乗りかご51の正面に流れ込む空気の流れをより円滑に整流化して圧力変動を緩和でき、空力騒音の発生を抑制することができる。
【0161】
図23に、落下防止板52の両面に気流発生装置10b,10cを設けた場合の圧力変動の測定結果を示す。落下防止板52の片面だけに気流発生装置10bを設けた構成よりも圧力変動が抑えられているのが分かる。これは、落下防止板52の片面だけに気流発生装置10bを設けた構成では、増速流は緩和されるが、縦渦55については効果的に抑えられないためである。
【0162】
(第11の実施形態)
次に、本発明の第11の実施形態について説明する。
【0163】
上記第1〜10の実施形態では、放電プラズマを利用した気流発生装置をエレベータ装置に適用した場合を想定して説明してきたが、気流発生装置としては、小型の振動膜を利用したシンセティックジェット装置を利用することも可能である。
【0164】
図24は本発明の第11の実施形態に係るシンセティックジェット装置の構成を示す図である。
【0165】
シンセティックジェット装置60は、振動膜61を有し、その振動膜61を駆動装置63によって振動させることで、噴き出し噴流62を発生させる装置である。なお、シンセティックジェット装置自体は公知であるため、ここでは、その具体的な構成の説明は省略する。
【0166】
図25は気流発生装置としてシンセティックジェット装置を利用した場合のエレベータ装置の構成を示す図であり、図25(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、図25において、上記第10の実施形態における図20と同一部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
【0167】
箱型の乗りかご51の先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に2つのシンセティックジェット装置60a,60bが設けられている。また、乗りかご51の下端部に落下防止板52が取り付けられており、その落下防止板52の先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に2つのシンセティックジェット装置60c,60dが設けられている。
【0168】
このような構成において、乗りかご51の下降時に、落下防止板52の先端部がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かったときに、シンセティックジェット装置60c,60dを駆動して、乗りかご51の移動方向とは反対の方向(つまり上昇方向)に噴き出し噴流62を発生させると、かご周りの局所的な増速流の影響を緩和させて、空力騒音を抑制することができる。
【0169】
一方、乗りかご51の上昇時には、乗りかご51の先端部がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かったときに、シンセティックジェット装置60a,60bを駆動して、乗りかご51の移動方向とは反対の方向(つまり下降方向)に噴き出し噴流62を発生させれば、上記同様にして、かご周りの局所的な増速流の影響を緩和させて、空力騒音を抑制することができる。
【0170】
なお、シンセティックジェット装置60a,60bとシンセティックジェット装置60c,60dは、昇降方向に沿ってタンデムに並べて配置しても良いし、図25の例のように、ハの字状に配置するようにしても良い。
【0171】
(第12の実施形態)
次に、本発明の第12の実施形態について説明する。
【0172】
第12の実施形態では、気流発生装置として小型の送風機を利用したものである。
【0173】
図26は本発明の第12の実施形態に係る気流発生装置として小型の送風機を利用した場合のエレベータ装置の構成を示す図であり、図26(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、図26において、上記第10の実施形態における図20と同一部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
【0174】
箱型の乗りかご51の先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に、スリット状の噴出し部を有する薄型のノズル70a,70bが設けられている。また、乗りかご51の下端部に落下防止板52が取り付けられており、その落下防止板52の先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に、スリット状の噴出し部を有する薄型のノズル70c,70dが設けられている。乗りかご51上には、これらのノズル70a,70bとノズル70c,70dに風を送り込むための小型の送風機72と、この送風機72を回転駆動するための駆動装置73が設置されている。
【0175】
このような構成において、乗りかご51の下降時に、落下防止板52の先端部がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かったときに、送風機72を駆動して、ノズル70c,70dから乗りかご51の移動方向とは反対の方向(つまり上昇方向)に噴き出し噴流71を発生させると、かご周りの局所的な増速流の影響を緩和させて、空力騒音を抑制することができる。
【0176】
一方、乗りかご51の上昇時には、乗りかご51の先端部がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かったときに、送風機72を駆動して、ノズル70c,70dから乗りかご51の移動方向とは反対の方向(つまり下降方向)に噴き出し噴流71を発生させれば、上記同様にして、かご周りの局所的な増速流の影響を緩和させて、空力騒音を抑制することができる。
【0177】
なお、ノズル70a,70bとノズル70c,70dは、昇降方向に沿ってタンデムに並べて配置しても良いし、図26の例のように、ハの字状に配置するようにしても良い。
【0178】
(第13の実施形態)
次に、本発明の第13の実施形態について説明する。
【0179】
上記第10の実施形態で説明したような低速エレベータに用いられる箱型の乗りかごの場合、かご形状の関係で、かご上端部に気流発生装置を設置しても、上昇時にあまり騒音低減効果が得られないことがある。第13の実施形態では、このような問題を解消するものである。
【0180】
図27は本発明の第13の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図27(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、上記第10の実施形態における図20と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
【0181】
上記第10の実施形態と異なる点は、乗りかご51の上端部の乗場側の縁に、板状の支持部材56が取り付けられている点である。この板状部材56は、乗りかご51の上端部の乗場側の縁から所定の長さを有して上昇方向に延出されている。気流発生装置10aは、この支持部材56の昇降路35の乗場側に対向する面の先端部に設けられている。
【0182】
このように、乗りかご51の上端部に支持部材56を介して気流発生装置10aを設けておくことで、図21で説明した落下防止板52に気流発生装置10aを設置した場合の同様の理屈で、上昇時にホールシル36などの狭隘部37で生じる圧力変動を緩和して空力騒音を効果的に低減することができる。
【0183】
また、支持部材56の裏面側に別の気流発生装置10dを設置しておき、気流発生装置10aと同様に駆動すれば、さらに騒音低減効果を上げることができる。
【0184】
なお、このような構成は、プラズマを利用した気流発生装置だけでなく、上記第11の実施形態で説明したシンセティックジェット装置(図25参照)や上記第12の実施形態で説明した送風機(図26参照)でも同様であり、低速用の箱形の乗りかごの上端部に支持部材を介して設置することで、上昇時の騒音低減効果を上げることができる。
【0185】
さらに、上記各実施形態において、気流発生装置を乗りかごまたはカウンタウェイトなどに設置して、走行時に発生する気流を制御できることはもちろんのことであり、その気流発生装置の取り付け位置や取付方法、気流発生方法も適宜変更実施できるのはもちろんのことである。
【0186】
また、上記各実施形態では、エレベータの制御装置が気流発生装置の駆動制御を行うものとして説明したが、気流発生装置の駆動制御用の制御装置を別に設け、その制御装置を駆動装置と共に乗りかごやカウンタウェイトに設置しておく構成であっても良い。
【0187】
また、乗りかごの位置検出方法としては、パルスエンコーダを用いる方法に限らず、例えば昇降路内に複数の位置センサを昇降方向に配設しておき、これらの位置センサから出力される信号に基づいて乗りかごの位置を検出することでも良い。
【0188】
(空力騒音の発生メカニズム)
ここで、上述した気流発生装置の補足説明として、エレベータの走行時における空力騒音(バフ音)の発生メカニズムについて、低〜高速のエレベータを例にして詳しく説明する。
【0189】
近年のバリアフリー化に伴い、車椅子やベビーカのタイヤが脱輪しないように、乗場のホールシルと乗りかごとの隙間間隔をより一層狭くすることが要求されている。このため、昇降路内の狭隘部も狭くなり、今までは問題とならなかった低〜高速のエレベータであっても、乗りかごが狭隘部を通過するときに、局所的な空力騒音(バフ音)が発生するようになってきた。
【0190】
低〜高速のエレベータでは、図20で説明したように、箱型形状を有する乗りかご51の下端部の乗場側に、通称「エプロン」と呼ばれる落下防止板52が取り付けられている。この落下防止板52は、かごドア53の縁から下降方向に向けて所定の長さを持って延出されている。
【0191】
このような形状を有する低〜高速のエレベータについて、走行時に発生する空力騒音をかご位置を計測しながら観測した結果を図28に示す。図28において、横軸は時間、縦軸は騒音の大きさを表している。乗りかご51を所定速度で下降させると、落下防止板52の先端部分がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かった瞬間に、大きな圧力変動が生じて空力騒音が発生する(図中の矢印参照)。
【0192】
ここで、エレベータの走行時におけるかご周辺の空気の流れを数値流体解析(CFD:Computational Fluid Dynamics)により再現し、空力騒音の発生原因を特定した図を図29に示す。
【0193】
図29(a)は乗りかご51の下端部に設けられた落下防止板52の先端部分が昇降路内の狭隘部37に差し掛かったときの空気の流れを示しており、同図(b)は図29(a)の点線枠内の流れを部分的に取りして正面から見た図である。
【0194】
落下防止板52の先端部がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かったときに、落下防止板52の先端部分で空気の流れが堰き止められ、これが大きな圧力変動を生じさせることによって空力騒音が発生する。
【0195】
特に、図29(b)に示すように、落下防止板52の先端部分には剥離泡56が存在しており、これが圧力変動を助長していることが数値流体解析によって明らかになった。
【0196】
すなわち、この落下防止板52の先端部分に生じる剥離泡56によって乗りかご51と狭隘部37との間隙の圧力損失が増大し、堰き止め効果が助長される。その結果、落下防止板52の両側から縦渦55が急成長して入り込み、その縦渦55によって先端部からの流れ込みが乗りかご51の正面の中央部分に集約され、これが縮流増速流57となって加速する。これらの縦渦55と縮流増速流57がベルヌーイの定理によってかご正面の圧力を急激に低下させ、大きな圧力変動を生じさせることになる。
【0197】
ここで、図20に示したように、気流発生装置10bによって落下防止板52の先端部に誘起流25を発生させると、その誘起流25によって落下防止板52の先端部の剥離流れが抑制されると共に縦渦55の発生が弱められ、その結果として、かご前の流線の集約が抑制されることになる。
【0198】
図30は落下防止板52の先端部に誘起流25を発生させて剥離流れを抑制した場合の解析結果を示している。誘起流25の発生により、落下防止板52の先端部の剥離泡56が縮小し、それに伴い縦渦55、縮流増速流57が緩和されて整流化されたことが分かる。
【0199】
このように、誘起流25によって落下防止板52の先端部が狭隘部37に差し掛かったときに生じる気流の乱れを整流化することで、圧力変動を抑えて空力騒音を低減することができる。
【0200】
一方、エレベータや自動車の走行時に発生する空力騒音は、走行によって乱された気流中に存在する渦の非定常運動に起因して発生し、走行速度の増加に伴って急激に増大する。こうした空力騒音は、流体の基礎方程式であるナビエ・ストークス方程式を変形することによって得られる波動方程式(Lighthill方程式)から求めることができる。この波動方程式を(1)式に示す。
【数1】

【0201】
上記(1)式において、cは音速、pは圧力、ρは密度、xは座標、vは速度、μは粘性係数、Fは外力、δijはクロネッガーのデルタ、TijはLighthillの音響テンソルである。なお、iは行成分を表しi=1,2,3、jは列成分を表しj=1,2,3である。
【0202】
上記(1)式をさらに変形し、次元解析を行って各項のオーダーを評価することで、空力騒音源からの放射音を次にように表すことができる。
【数2】

【0203】
上記(2)式において、音圧p=cρ、ρは密度の平均値、rは音源からの距離、lは渦のスケール、uは速度である。
【0204】
上記(2)式の第1項は湧き出しや吸込み流れなど気流の体積変化が伴う空力騒音が速度の4乗に比例して発生することを示している。また、第2項は高速走行時の自動車や新幹線騒音のように運動量の変化によって発生する騒音は速度の6乗に比例すること、第3項はジェットエンジンの噴射音のように乱れの非定常運動による騒音は速度の8乗に比例して発生することを示している。
【0205】
低〜高速のエレベータについて、走行速度を変えながら、狭隘部通過時の騒音を計測した結果を図31に示す。横軸は乗りかごの移動速度、縦軸は騒音の大きさを表している。
【0206】
この図から狭隘部通過時の騒音は走行速度の4乗にほぼ比例して大きくなることが分かる。このことは、狭隘部通過時の騒音が、乗りかごの先端部が狭隘部に差し掛かったときの急激な空気の流れ込みによる気流の体積変化に起因していることを示している。したがって、隘部通過時の空力騒音を低減するには、そのときの気流の体積変化つまり圧力変動を緩和させることが効果的であると考えられる。
【0207】
なお、図6などに示した流線型の乗りかご31を有する高速エレベータであっても同様の原理で空力騒音が発生しているものと考えられる。高速エレベータでは、図7でも説明したように、整風カバー32bの先端部で堰き止められた空気が乗りかご31の正面に急速に流れ込むことで、かごドア33の前で局所的な増速流が生じる。その増速流によって大きな圧力変動を生じ、その結果として空力騒音が発生することになる。
【0208】
この場合も、図6に示した気流発生装置10bから誘起流25を上向きに発生させることにより(下降時の場合)、整風カバー32bの先端部に形成される剥離流れを抑制して、かご正面の空気の流れを整流化して圧力変動を抑えることができる。
【0209】
(第14の実施形態)
次に、低〜高速のエレベータにおける気流発生装置の他の設置例について説明する。
【0210】
図32は本発明の第14の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図32(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、上記第10の実施形態における図20と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
【0211】
上記第10の実施形態と異なる点は、気流発生装置の設置範囲である。すなわち、第14の実施形態では、箱型形状を有する乗りかご51の先端部にその幅方向に全体に亘って気流発生装置10aが横向きにして設置されている。同様にして、乗りかご51の下端部に取り付けられた落下防止板52の先端部には、その幅方向に全体に亘って気流発生装置10bが横向きにして設置されている。
【0212】
なお、「横向き」とは、気流発生装置10aと気流発生装置10bがそれぞれに直方体形状である場合に、その装置本体の長手方向を昇降方向とは直交する方向に向けて、気流発生の向きを昇降方向に向けた状態を言う。
【0213】
この気流発生装置10a,10bは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご51の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご51の上昇時に乗りかご51の先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご31の下降時に落下防止板52の先端部がホールシル36を通過するときである。この場合、乗りかご51の上昇時には気流発生装置10aが駆動対象となり、下降時には気流発生装置10bが駆動対象となる。
【0214】
このように、気流発生装置10a,10bを乗りかご51と落下防止板52の幅方向に沿って全体的に設置しておけば、誘起流25の噴射範囲が広がるので、狭隘部37の突入時にかご正面に流れ込む空気の流れをより効果的に整流化して空力騒音を低減することができる。
【0215】
(第15の実施形態)
図33は本発明の第15の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図33(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、上記第10の実施形態における図20と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
【0216】
上記第10の実施形態と異なる点は、気流発生装置の設置箇所である。すなわち、第15の実施形態では、箱形形状を有する乗りかご51の上端部の両側に、それぞれに気流発生装置10a,10bが乗りかご51の外側に向けて誘起流25を噴射するように縦向きにして設置されている。
【0217】
同様にして、乗りかご51の下端部に取り付けられた落下防止板52の先端部の両側には、それぞれに気流発生装置10c,10dが乗りかご51の外側に向けて誘起流25を噴射するように縦向きにして設置されている。
【0218】
なお、「縦向き」とは、気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dがそれぞれに直方体形状である場合に、その装置本体の長手方向を昇降方向に向けて、気流発生の向きを昇降方向とは直交する方向に向けた状態を言う。
【0219】
これらの気流発生装置10a〜10dは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご51の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご51の上昇時に乗りかご51の先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご31の下降時に落下防止板52の先端部がホールシル36を通過するときである。この場合、乗りかご51の上昇時には気流発生装置10a,10bが駆動対象となり、下降時には気流発生装置10c,10dが駆動対象となる。
【0220】
このように、気流発生装置10a〜10dを乗りかご51と落下防止板52の両側に設置して、それぞれに外向きに誘起流25を発生させれば、狭隘部37の突入時に乗りかご51や落下防止板52の両側からの流れ込みの影響を軽減してかご正面での空気の流れを整流化できる。その結果、急激な圧力変動を緩和して、空力騒音を低減することができる。
【0221】
(第16の実施形態)
図34は本発明の第16の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図34(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、上記第10の実施形態における図20と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
【0222】
上記第10の実施形態と異なる点は、気流発生装置の設置箇所である。すなわち、第16の実施形態では、箱形形状を有する乗りかご51の両側に、それぞれに気流発生装置10a,10bと気流発生装置10e,10fが乗りかご51の外側に向けて誘起流25を噴射するように縦向きにして設置されている。
【0223】
同様にして、乗りかご51の下端部に取り付けられた落下防止板52の先端部の両側には、それぞれ気流発生装置10c,10dが乗りかご51の外側に向けて誘起流25を噴射するように縦向きにして設置されている。
【0224】
なお、「縦向き」とは、気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dと気流発生装置10e,10fがそれぞれに直方体形状である場合に、その装置本体の長手方向を昇降方向に向けて、気流発生の向きを昇降方向とは直交する方向に向けた状態を言う。
【0225】
これらの気流発生装置10a〜10fは、図1または図3に示したような構造を有し、乗りかご51の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご51の上昇時に乗りかご51の先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご51の下降時に落下防止板52の先端部がホールシル36を通過するときである。この場合、乗りかご51の上昇時には気流発生装置10a,10bが駆動対象となり、下降時には気流発生装置10c,10dが駆動対象となる。
【0226】
また、気流発生装置10e,10fについては、上昇時および下降時の両方で用いるものとする。これにより、上昇時には気流発生装置10a,10bと気流発生装置10e,10fが駆動され、下降時には気流発生装置10c,10dと気流発生装置10e,10fが駆動されることになる。
【0227】
このように、気流発生装置10a〜10fを乗りかご51と落下防止板52の両側に昇降方向に沿って設置して、それぞれに外向きに誘起流25を発生させれば、狭隘部37の突入時に乗りかご51や落下防止板52の両側からの流れ込みの影響を軽減してかご正面での空気の流れを整流化できる。その結果、急激な圧力変動を緩和して、空力騒音を低減することができる。
【0228】
さらに、中間位置に設置されている気流発生装置10e,10fを上昇時と下降時の両方に用いれば、乗りかご51や落下防止板52の両側からの流れ込みをより効果的に阻止できるので、空力騒音の低減効果を上げることができる。
【0229】
なお、例えば図32と図33の例を組み合わせて、乗りかご51の先端部と落下防止板52の先端部に、それぞれ気流発生装置をコの字状に配置して、昇降方向と昇降方向とは直交する方向の2方向に誘起流25を発生させるような構成であっても良い。
【0230】
また、図示せぬカウンタウェイトに対しても、上記同様に気流発生装置を配置することでも良い。
【0231】
また、図6などに示した流線型の乗りかご31に対しても、上記同様に気流発生装置を配置することでも良い。
【0232】
また、上記第14乃至第16の実施形態では、放電プラズマを利用した気流発生装置を想定して説明してきたが、気流発生装置としては、上記第11の実施形態で説明したシンセティックジェット装置や、上記第12の実施形態で説明したシンセティックジェット装置であっても同様である。
【0233】
要するに、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0234】
10,10a〜10f…気流発生装置、11…駆動装置、11a…第1の駆動装置、11b…第2の駆動装置、12…制御装置、13…かご位置検出装置、20…誘電体、21…電極、22…電極、23…ケーブル、24…放電用電源、25…誘起流、31…乗りかご、31a…溝、32a,32b…整風カバー、33…かごドア、34…ロープ、35…昇降路、36…ホールシル、37…狭隘部、38…乗場ドア、39a,39b…整風スポイラー、40…カウンタウェイト、41…カウンタウェイト、42a,42b…重り部材、43…連結部、44…カウンタウェイト、45a〜45c…重り部材、46a,46b…連結部、51…乗りかご、52…落下防止板、53…かごドア、54…ロープ、55…縦渦、56…支持部材、60,60a〜60d…シンセティックジェット装置、61…振動膜、62…噴き出し噴流、63…駆動装置、70a,70b…ノズル、71…噴き出し噴流、72…送風機、73…駆動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内を昇降動作する乗りかごと、
この乗りかごの上端部と下端部のうちの少なくとも一方の先端部の上記昇降路の乗場側に対向する面に設置され、走行時に上記乗りかごの先端部に形成される剥離流れを抑制して上記乗りかごの正面に流れ込む空気の流れを整流化するための気流を発生させる少なくとも1つの気流発生装置と
を具備したことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】
上記乗りかごの位置を検出する位置検出手段と、
この位置検出手段によって検出された位置に基づいて、上記乗りかごの先端部が上記昇降路内のホールシルを通過するタイミングで上記気流発生装置を駆動制御する制御手段と、
この制御手段から出力される駆動信号に基づいて上記気流発生装置に電力を供給する駆動手段と
を具備したことを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項3】
上記乗りかごの上端部と下端部を覆う整風カバーを備え、
上記気流発生装置は、上記整風カバーの先端部の上記昇降路の乗場側に対向する面に設置されていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項4】
上記乗りかごの上端部と下端部を覆う整風カバーと、
この整風カバーの先端部に突出させて設けられた整風スポイラーとを備え、
上記気流発生装置は、上記整風カバーおよび上記整風スポイラーの少なくとも一方の先端部の上記昇降路の乗場側に対向する面に設置されていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項5】
上記気流発生装置は、上記乗りかごの昇降方向に沿ってタンデムに複数個設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のエレベータ装置。
【請求項6】
上記気流発生装置は、上記乗りかごの昇降方向に対して傾けて配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のエレベータ装置。
【請求項7】
上記乗りかごの下端部のドアの縁から下降方向に延出された落下防止板を備え、
上記気流発生装置は、上記落下防止板の上記昇降路の乗場側に対向する面に設置されていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項8】
上記乗りかごの下端部のドアの縁から下降方向に延出された落下防止板を備え、
上記気流発生装置は、上記落下防止板の上記昇降路の乗場側に対向する面とその反対側の面の両方に設置されていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項9】
上記気流発生装置は、放電プラズマの作用で気流を発生することを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項10】
昇降路内を昇降動作する乗りかごと、
この乗りかごに連動して上記昇降路内をつるべ式に昇降動作するカウンタウェイトと、
このカウンタウェイトの上端部と下端部のうちの少なくとも一方の先端部の上記乗りかご側に設置され、走行時に上記カウンタウェイトの先端部に形成される剥離流れを抑制して上記カウンタウェイトの正面に流れ込む空気の流れを整流化するための気流を発生させる少なくとも1つの気流発生装置と
を具備したことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項11】
上記乗りかごの位置を検出する位置検出手段と、
この位置検出手段によって検出された位置に基づいて、上記カウンタウェイトの先端部が上記乗りかごとすれ違うタイミングで上記気流発生装置を駆動制御する制御手段と、
この制御手段から出力される駆動信号に基づいて上記気流発生装置に電力を供給する駆動手段と
を具備したことを特徴とする請求項10記載のエレベータ装置。
【請求項12】
上記気流発生装置は、上記カウンタウェイトの昇降方向に沿ってタンデムに複数個設けられていることを特徴とする請求項10記載のエレベータ装置。
【請求項13】
上記気流発生装置は、上記カウンタウェイトの昇降方向に対して所定の角度を有して傾けて設けられていることを特徴とする請求項10記載のエレベータ装置。
【請求項14】
上記気流発生装置は、放電プラズマの作用で気流を発生することを特徴とする請求項10記載のエレベータ装置。
【請求項15】
乗りかごと
昇降路内を昇降動作する乗りかごと、
この乗りかごに連動して上記昇降路内をつるべ式に昇降動作するカウンタウェイトと、
上記乗りかごの上端部と下端部のうちの少なくとも一方の先端部の上記昇降路の乗場側に対向する面に設置され、走行時に上記乗りかごの先端部に形成される剥離流れを抑制して上記乗りかごの正面に流れ込む空気の流れを整流化するための気流を発生させる少なくとも1つの第1の気流発生装置と、
上記カウンタウェイトの上端部と下端部のうちの少なくとも一方の先端部の上記乗りかご側に設置され、走行時に上記カウンタウェイトの先端部に形成される剥離流れを抑制して上記カウンタウェイトの正面に流れ込む空気の流れを整流化するための気流を発生させる少なくとも1つの第2の気流発生装置と
を具備したことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項16】
上記乗りかごの位置を検出する位置検出手段と、
この位置検出手段によって検出された位置に基づいて、上記乗りかごの先端部が上記昇降路内のホールシルを通過するタイミングで上記第1の気流発生装置を駆動制御する第1の制御手段と、
この第1の制御手段から出力される駆動信号に基づいて上記第1の気流発生装置に電力を供給する第1の駆動手段と、
上記位置検出手段によって検出された位置に基づいて、上記カウンタウェイトの先端部が上記乗りかごとすれ違うタイミングで上記第2の気流発生装置を駆動制御する第2の制御手段と、
この第2の制御手段から出力される駆動信号に基づいて上記第2の気流発生装置に電力を供給する第1の駆動手段と
を具備したことを特徴とする請求項15記載のエレベータ装置。
【請求項17】
上記気流発生装置は、放電プラズマの作用で気流を発生することを特徴とする請求項15記載のエレベータ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate


【公開番号】特開2010−132453(P2010−132453A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120311(P2009−120311)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】