説明

エレベータ

【課題】エレベータの巻上機の駆動に伴って伝達される振動を低コストで高精度に抑制する。
【解決手段】実施形態によれば、巻上機と、前記巻上機を支持する支持部材と、前記巻上機から前記支持部材に作用する加振力を演算する加振力演算手段と、前記加振力演算手段による演算結果から、前記巻上機の駆動によって複数の振動モードの振動が発生する前記支持部材の各箇所の振動量を演算する振動量演算手段と、前記支持部材の振動状態を表す振動モデルに最適制御理論を適用して得られるフィードバックゲインを前記振動量演算手段により演算した各箇所の振動量に乗算することで前記支持部材に与える制振力の最適値を演算する制振力演算手段と、前記支持部材に設置され、前記制振力演算手段によって演算した制振力を当該支持部材に与える少なくとも1個の制振装置とをもつ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、巻上機の駆動により乗りかごを昇降動作させるエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータの巻上機の振動が、複数の伝達経路から乗りかごのガイドレールや巻上機支持部材や機械室床を介して居室へ伝達することで居室騒音が発生する場合がある。特に、エレベータが建物内に併設される場合、巻上機の駆動による振動がエレベータに隣接する居室に伝達することで騒音問題の原因となる場合がある。
【0003】
エレベータの巻上機の振動からなる居室騒音を低減するために、ガイドレール支持装置とガイドレールとの間に加振器を設置した上で、巻上機支持部材からガイドレールを介して伝達する振動を検出し、加振器から巻上機の振動と逆位相の振動を発生させて、巻上機から伝達される振動を抑制するものがある。
【0004】
また、巻上機支持部材に振動検出装置およびアクティブ制振装置を設置し、制御装置が、振動センサで検出される振動に基づき、アクティブ制振装置を介して検出振動と逆位相の振動を巻上機支持部材に与えることにより振動を抑制するものがある。
これらの手法では、少なくとも1つ以上の振動検出装置を必要とするが、この振動検出装置は高価であるため、制御システムのコストが高くなる。
【0005】
また、超音波モータの制御において、このモータの回転数に応じてモニタ電圧に補正値を加算し、この値の変化に応じてモータの駆動周波数を制御することで、外部からの負荷等で周波数が変化しても最適な駆動周波数で駆動して、モータの異音を防止するものがある。
【0006】
また、ボリゴンモータの回転速度を利用したクロック信号を用いることで、解像度の変化に対応してモータの回転速度を切り替え、解像度の切り替えを容易に行えるようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−60285号公報
【特許文献2】特開2007−297180号公報
【特許文献3】特開平4−87579号公報
【特許文献4】特開平3−290608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、エレベータの巻上機の振動は、乗りかごの昇降速度を加減速する際に発生し、その振動周波数は乗りかごの走行速度、つまり巻上機の回転数に応じて変化する。一般に、巻上機の支持部材は、複数のH型鋼などのチャンネル材の組み合わせから構成され、この支持部材の上に巻上機本体やロープそらせシーブなどが配置される。
【0009】
支持部材を構成する各チャンネル材の振動は、通常の多自由度振動で表される有限の共振周波数を持つ振動ではなく、連続体として理論上無限の共振周波数を有し、その運動方程式は波動方程式で表現する必要がある。
【0010】
そのため、巻上機から主に検出される数十〜数百Hzの周波数の中に、複数の共振周波数とそれぞれの共振モードが存在する。従って、巻上機の駆動に伴い、各チャンネル材が有する複数の振動周波数が励振されて、その振幅が増大する。
【0011】
前述した、連続体のどこか1箇所の質点に生じる振動モードの振動成分を抑制する方法では、1つの振動モードしか存在しない場合には、その振動成分を制振すれば良いので制振効果が大きい。しかし、連続体のように多数の質点から発生する振動モードの中から、1つの質点に生じる振動モードの振動成分に対して制振力を作用させた場合、当該振動成分を抑制することができるが、逆に、他の質点に生じる振動モードの振動成分が大きく共振し、あるいは制振作用を受けない多数の振動モードが存在するので、機械室などに隣接する居室の振動や騒音を効果的に低減できない。また、各振動モードで振動の大きい箇所の振動量を制御するために、複数の振動検出装置が必要となるため、コストが高くなる。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、巻上機の駆動に伴って伝達される振動を低コストで高精度に抑制するエレベータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態によれば、巻上機と、前記巻上機を支持する支持部材と、前記巻上機から前記支持部材に作用する加振力を演算する加振力演算手段と、前記加振力演算手段による演算結果から、前記巻上機の駆動によって複数の振動モードの振動が発生する前記支持部材の各箇所の振動量を演算する振動量演算手段と、前記支持部材の振動状態を表す振動モデルに最適制御理論を適用して得られるフィードバックゲインを前記振動量演算手段により演算した各箇所の振動量に乗算することで前記支持部材に与える制振力の最適値を演算する制振力演算手段と、前記支持部材に設置され、前記制振力演算手段によって演算した制振力を当該支持部材に与える少なくとも1個の制振装置とをもつ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態におけるエレベータの機械室に設置される巻上機およびその周辺の構造の一例を示す側面図。
【図2】実施形態におけるエレベータの機械室に設置される巻上機およびその周辺の構造の一例を示す側面図。
【図3】実施形態におけるエレベータの巻上機に取り付ける制御装置の機能構成の一例を示す図。
【図4】実施形態におけるエレベータの制振制御の処理動作の一例を示すフローチャート。
【図5】実施形態におけるエレベータの巻上機支持部材の3質点モデルの一例を示す図。
【図6】実施形態におけるエレベータのLQR制御を用いた制振制御による周波数−振動数特性の一例を示す図。
【図7】実施形態におけるエレベータのかご位置に基づいた制振制御のON/OFFの切り替えの形態の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1および図2は、実施形態におけるエレベータの機械室に設置される巻上機およびその周辺の構造の一例を示す側面図である。
図1に示すように、実施形態におけるエレベータの機械室は、昇降路上部の機械室を形成するための仕切りとなる機械室床1を有する。この機械室床1上の所要の例えば4箇所には、それぞれ基礎鉄骨2と基礎部材3が連ねた状態で立設される。
【0016】
そして、基礎部材3には、防振ゴム4を介在させて、一般的にマシンベースなどと呼ばれる支持部材5が支持される。本実施形態では、4つの基礎部材3の2つずつに対して、2つの支持部材5が平行に並ぶように支持される。
【0017】
さらに、支持部材5には防振ゴム6を介して当該支持部材5よりも短尺のマシンヘッドとなる支持部材7が支持される。本実施形態では、2つの支持部材5のそれぞれに対して2つの支持部材7が平行に並ぶように支持される。
なお、支持部材5は下位支持部材とも呼称され、支持部材7は上位支持部材とも呼称される。
【0018】
本実施形態では、巻上機8は、2つの上位支持部材7に架け渡すように設置される。巻上機8の回転軸に連結される図示しないシーブにはメインロープ9が架け渡される。メインロープ9の一端部には機械室床1の開口部1aを通って図示しない乗りかごが吊下げられる。メインロープ9の他端部には機械室床1の別の開口部1aを通って、図示しないつりあい重りが吊下される。また、機械室は、居室壁10により居室11と区切られる。
【0019】
従って、巻上機8の駆動によって生じる振動は、上位支持部材7、防振ゴム6、下位支持部材5、防振ゴム4、基礎部材3、機械室床1の基礎鉄骨2を介して機械室床1あるいは機械室近傍の居室11に伝達する構造となっている。
【0020】
図1に示すように、本実施形態では、あらかじめ実施する加振試験のための複数の振動検出装置20が一時的に設置される。
図1に示すように、振動検出装置20は、加振試験の開始から終了までの間、各基礎部材3に支持される下位支持部材5の両端側近傍に設置される。
また、図1に示すように、巻上機8の駆動による居室11への振動や騒音を抑制する制振制御系として、振動検出装置20が設置される下位支持部材5の任意の箇所に少なくとも1個の制振装置21が設置される。
【0021】
振動検出装置20が加速度センサである場合、この振動検出装置は、数十箇所に設置され、巻上機8を加振器として駆動したときの振動量を検出する。なお、連続体の場合には多次数の振動モードが存在するので、振動検出装置20は、共振が生じている全次数の振動モードの発生箇所に設置するのが望ましいが、少なくとも共振の大きな振動モードを選択して設置する形態であっても良い。
【0022】
また、図2に示すように、振動検出装置20は、上位支持部材7における巻上機8の設置箇所近傍に設置してもよい。この場合、制振装置21の設置形態は、振動検出装置20が設置される上位支持部材7の任意の箇所に少なくとも1個の制振装置21を設置する形態であればよい。以下、制振対象が図1に示した下位支持部材5である場合についての制振の手順について説明する。
【0023】
予め行った加振試験では、巻上機8の加振力時刻歴データと、複数振動モードのうち共振の振動値が基準値以上の箇所に設置した複数の振動検出装置20の時刻歴応答データを得て、これらのデータから巻上機支持部材の振動モデルを同定する。振動モデルの同定の詳細については後述する。
【0024】
図3は、実施形態におけるエレベータの巻上機に取り付ける制御装置の機能構成の一例を示す図である。
本実施形態では、加振試験の終了後に、振動検出装置20を取り外すし、制御装置22を制振装置21に取り付ける。
制御装置22は、予め実施した加振試験の結果から算出した連続体に生じる多次数の振動モードの振動状態を近似的に表す振動モデルを作成し、その振動モデルから得られる状態変数ベクトルを用いて、最適制御理論のもとに求められるフィードバックゲインを用いて、多次数の振動モードの振動成分に対して最適な制振力を与える。
【0025】
制御装置22で制振装置21に与える制振力は、同定した振動モデルに最適制御理論を適用して算出したフィードバックゲインを用いて、振動モデルから予測した各箇所の振動量から最適な制振力を算出するので、加振試験後の制振制御では振動検出装置20は不要となる。
【0026】
制御装置22に用いる各箇所の予測振動量は、巻上機8からの加振力を振動モデルに入力し算出されるが、巻上機8から支持部材に作用する加振力は、巻上機8の電流検出装置から得られた情報をもとに巻上機の出力トルクを求め、出力トルクから加振力を算出する。
【0027】
制振装置21としては、アクティブ型の制振装置の他、従来一般に使用されている各種のアクチュエータが用いられる。制振装置21の設置箇所としては、巻上機8の支持部材5,7の構造上から限られる場合があるが、多次数の振動モードの振動モデルを用いてシミュレーションを実施することにより、振動を効果的に制振できる箇所が挙げられる。
また、複数個の振動検出装置20の中の一つについては、例えば巻上機8の設置近傍である巻上機上部または当該巻上機8を覆うカバーに設置してもよい。
【0028】
制御装置22は、振動検出装置20が設置された下位支持部材5上の例えば3箇所の振動量を演算し、巻上機8の駆動に伴う支持部材5,7に発生する多次数の振動モードに対して最適な制振力を取り出すものであって、汎用のマイコンやDSP(ディジタル・シグナル・プロセッサ)などが用いられる。
【0029】
図4に示すように、制御装置22は、振動検出装置20が設置された下位支持部材5上の共振の振動値が基準値以上の3箇所を振動モデルに組み込んだ場合、巻上機8の電流センサであるA/D変換部23、加振力演算部24、振動量演算部25、ハイパスフィルタ26、ゲイン調整部27、この制振力演算部28で求めた制振力をアナログ信号に変換するD/A変換部29及び必要に応じて増幅部30を有する。
【0030】
図4は、実施形態におけるエレベータの制振制御の処理動作の一例を示すフローチャートである。
まず、制御装置22のA/D変換部23は、巻上機8の電流情報を検出すると(ステップS1)、この電流情報をディジタル振動信号に変換する(ステップS2)。
【0031】
加振力演算部24は、A/D変換部23からのディジタル振動信号をもとに加振力を演算する(ステップS3)。振動量演算部25は、振動モデルを内部メモリに保持しており、演算された加振力の値を振動モデルに入力することで各箇所の振動量を予測する(ステップS4)。
【0032】
ハイパスフィルタ26は、振動量演算部25により予測された各箇所の振動量の振動成分から、所定周波数、例えば50Hz以上の振動成分を抽出する(ステップS5)。ゲイン調整部27は、多次数の振動モードを有する連続体の振動モデルから求められるフィードバックゲインを内部メモリに保持しており、このフィードバックゲインを、ハイパスフィルタ26で抽出された各箇所の所定周波数以上の振動成分に乗じて制御信号を生成し、この生成した制御信号を制振力演算部28に出力する(ステップS5)。
【0033】
制振力演算部28は、各ゲイン調整部27から得られた制御信号を用い、結果として連続体に生じる多次数の振動モードによる振動成分を打ち消すように位相が調整された振動成分に相当する駆動信号、つまり制振力振動信号を生成する(ステップS8)。
【0034】
D/A変換部29は、制振力演算部28により生成した駆動信号をD/A変換し(ステップS9)、増幅部(AMP)30を介して制振装置21に供給する(ステップS10)。制振装置21は、制御装置22からの信号に基づき、多次数の振動モードによる振動成分を実際に打ち消す駆動信号を発生し、制振対象となる下位支持部材5に対して制振のための振動を与える(ステップS11)。
これにより、巻上機8からの振動が相殺され、巻上機8から支持部材5,7及び機械室床1を介して居室11に伝達される振動・騒音を大幅に抑制できる。
【0035】
次に、連続体に生じる多次数の振動モードの近似的な振動モデルを作成し、制御装置22のゲイン調整部27に設定するためのフィードバックゲインを計算する処理について説明する。
【0036】
例えば、下位支持部材5上に巻上機8を設置した連続体では、多次数の振動モードを有する質点系を構成しているが、ここでは説明の便宜上、下位支持部材5の3質点モデルを例に挙げ、近似的な振動モデルを作成する。
【0037】
図5は、実施形態におけるエレベータの巻上機支持部材の3質点モデルの一例を示す図である。
図5に示したXi(i=1〜3)は各質点の垂直方向の変位である。この3質点モデルは、近似的な振動モデルとして、各質点同士が互いにダンパや弾性部材で連結されたモデルと考えることができる。一般的に振動モデルは以下のように計算できる。
【0038】
振動の速度dXiと変位Xiから状態変数ベクトルXは以下の式(1)で定義できる。
【数1】

【0039】
そこで、以上の状態変数ベクトルXを用いて状態方程式を表すと、以下の式(2)のようになる。
【数2】

【0040】
式(2)中のAは状態(各質点の現在の速度と変位の状態)を表す行列(A行列)で、Bは制振力を与える位置を表す行列(B行列)で、Cは状態変数ベクトルから出力Yへの変換行列である。式(2)中のuは制振装置21に与える制振力の値で、制振制御における制御入力ともなる。
【0041】
そこで、A行列およびB行例に関して行列式で表すと、
【数3】

【0042】
とすると、
11=−c/M、A12=−K/M、
【数4】

【0043】
かつ、u={f
となる。cはダンパを表すパラメータである。Kは弾性部材を表すパラメータである。Mは質量を表すパラメータである。
【0044】
ここでf(i=1〜3)は、i番目の質点に制振装置21を設置した場合の制振力(制御入力)であるが、ここでは、図1に示すように下位支持部材5の2番目の質点、つまり居室壁10に近い方の質点近傍に制振装置21を設置した場合について述べる。
【0045】
本実施形態では、前述した式(2)の状態方程式を用いて、例えば以下の評価関数の式(4)の値を最小にする最適制御理論(LQR(Linear-quadratic state-feedback Regulator)制御)に基づいて制振制御のための制御系を設計する。なお、LQR制御とは、状態変数ベクトルを用いて、重み行列Q、Rから評価関数が最小となるようなフィードバックゲインKを計算する制御である。
【数5】

【0046】
u=−R−1PX=−KX …式(4)
ここで、式(3)の制御入力uは、リカッチ方程式から得られるPから上記の式(4)に基づいて決定できる。式(3)のQは状態変数ベクトルXに対する重み行列を表し、Rは制御入力uに対する重み行列を表す。従って、状態フィードバックゲインKは、上記の式(4)から求めることができる。
【0047】
しかし、ここでは、一般的な振動モデルと違い、振動量の検出装置がなくても式(2)に示した状態空間方程式の出力Yの各成分が予測でき、式(4)に示す制御入力uの計算は、状態変数ベクトルXではなく、出力Yで計算する。
【0048】
本実施形態では、予め巻上機を加振器として用いて加振試験を実施し、巻上機8の加振力と加速度応答の時刻歴データを収集する。そして、加振試験で得られた入出力データを用いて、システム同定法によってシステムの伝達関数を予測することで、振動モデルの状態空間方程式を計算できる。
【0049】
具体的には、時刻tにおける加振力をu(t)とし、加速度応答をy(t)する。このu(t)を入力とし、y(t)を出力とする時不変線形システムを以下の式(5)に表す。
【0050】
y(t)=G(z,θ)u(t)+H(z,θ)e(t) …式(5)
式(5)のG(z,θ)はプラントの伝達関数である。式(5)のH(z,θ)e(t)は観測雑音である。式(5)のe(t)は白色雑音であり、θは振動モデルのすべてのパラメータからなるベクトルである。式(5)のzはシフトオペレーションとし、プラントの伝達関数G(z,θ)は、以下の式(6)に示される。
【数6】

【0051】
従って、上記の式(5)は、以下の式(7)のように表すことができる。
【数7】

【0052】
パラメータベクトルを以下の式(8)とし、回帰ベクトルを以下の式(9)にすると、上記の式(7)は、以下の式(10)となる。
【0053】
θ=[a,…,a,b,…,b …式(8)
ψ(t)=(−y(t−1),−y(t−2),…,−y(t−n),−u(t−1),−u(t−2),…,−u(t−m)) …式(9)
y(t)=ψ(t)θ+e(t) …式(10)
最小2乗法で評価関数
【数8】

【0054】
を最小にするθの推定値は、以下の式(11)となる。
【数9】

【0055】
本実施形態では、評価関数が最小になるまで繰り返し計算し、振動モデルの状態空間方程式を同定する。
【0056】
式(2)から状態変数ベクトルXと出力Yは、X=[CC]−1Yという関係があるので、制御装置22で計算する最適制御入力uを示す式(4)は以下の式(12)のようになる。
【0057】
u=K[CC]−1Y …式(12)
フィードバックゲインの設計について、状態変数ベクトルXに対する重み行列Qも同様に出力Yに対して設計する。
【0058】
図6は、実施形態におけるエレベータのLQR制御を用いた制振制御による周波数−振動数特性の一例を示す図である。
図6は、多次数の振動モードの振動成分を発生する支持部材5に対し、制振制御を行わなかった場合と、加振力から各箇所の振動量を予測し、最適制御入力を算出して制振制御を行った場合の、制御入力に対する振動量(G/N)を示す図である。
【0059】
すなわち、制振制御無しの場合には、各次数の振動モードが大きく共振している。一方、前述したように加振力から各箇所の振動量を予測して制振制御を行った場合は、各次数の振動モードが抑制され、巻上機の支持部材全体の振動が抑制されて、高精度の制振効果が得られる。
【0060】
すなわち、本実施形態では、予め行なう加振試験のデータから同定した振動モデルをもとに、巻上機の加振力から各箇所の振動量を予測することで、加振試験の終了後は、共振の振動値が基準値以上である各箇所に振動検出装置を設置すること必要なしに、振動を抑制するのに最適な制御入力を算出して、高精度に振動を抑えることができる。
【0061】
以上のように、本実施形態では、巻上機8を支持する下位支持部材5または上位支持部材7に発生する多次数の振動モードの発生する箇所の振動を予め行う加振試験のデータから同定した振動モデルに最適制御理論を適用して得られるフィードバックゲインを、加振力から予測した各箇所の振動量に乗算することで制振力を計算して、この制振力を制振装置21が支持部材5,7に与えることにより、当該支持部材の複数個所の振動を抑えることができる。これにより巻上機8が加減速する際に当該巻上機8からの振動が支持部材5,7及び機械室1を介して伝達される居室11の振動騒音を大幅に抑えることができる。
【0062】
また、制御装置22から制振装置21に与える制振力は、制御装置22がリアルタイムで計算して制振制御を行うことで振動を常に抑制することが望ましいが、予め実施した加振試験で、支持部材への加振力が基準値未満となる巻上機8の回転速度を示す情報を制振力演算部28が保持し、制振力演算部28は、巻上機の回転速度検出装置からの検出値が、前述したように保持した情報において所定の基準値未満の加振力に対応する値である場合に、制振装置21への制御量の出力を停止するようにしてもよい。
【0063】
図7は、実施形態におけるエレベータのかご位置に基づいた制振制御のON/OFFの切り替えの形態の一例を示す図である。
また、予め実施した加振試験で、支持部材への加振力が基準値未満となる、乗りかごの位置を示す情報を制振力演算部28が保持し、制振力演算部28は、乗りかごの位置の検出値が、前述したように保持した情報において所定の基準値未満の加振力に対応する位置である場合に、図7に示すように、制振装置21への制御量の出力を停止するようにしてもよい。
【0064】
これらの各実施形態によれば、巻上機の駆動に伴って伝達される振動を低コストで高精度に抑制することが可能になるエレベータを提供することができる。
発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1…機械室床、1a…開口部、2…基礎鉄骨、3…基礎部材、4,6…防振ゴム、5,7…支持部材、8…巻上機、9…メインロープ、10…居室壁、11…居室、20…振動検出装置、21…制振装置、22…制御装置、23…A/D変換部、24…加振力演算部、25…振動量演算部、26…ハイパスフィルタ、27…ゲイン調整部、28…制振力演算部、29…D/A変換部、30…アンプ(AMP)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機と、
前記巻上機を支持する支持部材と、
前記巻上機から前記支持部材に作用する加振力を演算する加振力演算手段と、
前記加振力演算手段による演算結果から、前記巻上機の駆動によって複数の振動モードの振動が発生する前記支持部材の各箇所の振動量を演算する振動量演算手段と、
前記支持部材の振動状態を表す振動モデルに最適制御理論を適用して得られるフィードバックゲインを前記振動量演算手段により演算した各箇所の振動量に乗算することで前記支持部材に与える制振力の最適値を演算する制振力演算手段と、
前記支持部材に設置され、前記制振力演算手段によって演算した制振力を当該支持部材に与える少なくとも1個の制振装置と
を備えることを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
前記支持部材の振動モデルは、
前記巻上機を加振器として予め行なった加振試験で得られた当該巻上機の加振力時刻歴データと当該加振試験の時に前記支持部材に設けた複数の振動検出装置の時刻歴応答データから同定した、各振動モードで振動量が基準値以上の箇所の振動モデルである
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記加振力演算手段は、
前記巻上機の電流をもとに当該巻上機の出力トルクを演算して、当該出力トルクから前記巻上機が前記支持部材に作用する加振力を演算する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項4】
前記振動量演算手段は、
前記加振力演算手段により算出した加振力を前記支持部材の振動モデルに入力することで各箇所の振動量を予測することで当該振動量を演算する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項5】
前記制振力演算手段は、
前記振動量演算手段による演算結果をフィードバックすることからなる状態変数ベクトルを用いた最適制御理論を適用して得られる制御量を前記制振装置による制御量として演算する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項6】
前記制振力演算手段は、
前記巻上機の回転速度と前記加振力との関係を示す情報を保持し、
前記巻上機の回転速度の検出値が、前記保持した情報において所定の基準値未満の前記加振力に対応する値である場合に、前記制振装置への制御量の出力を停止する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項7】
前記制振力演算手段は、
乗りかごの位置と前記加振力との関係を示す情報を保持し、
乗りかごの位置の検出値が、前記保持した情報において所定の基準値未満の前記加振力に対応する位置である場合に、前記制振装置への制御量の出力を停止する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−166917(P2012−166917A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30109(P2011−30109)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】