説明

エンジンのバルブタイミング制御装置

【目的】 動弁の開閉タイミングないしはリフト量を変えることができる簡素でかつコンパクトな構造のエンジンのバルブタイミング制御装置を提供する。
【構成】 夫々カムシャフト3の後端部と圧接係合して一体回転することができる第1,第2回転部材17,20が設けられている。ここで、第1回転部材17と第2回転部材20とは螺合部25で螺合し、これによって両回転部材17,20間に回転位相差が生じたときには、両回転部材17,20が前後方向に相対変位し、カムシャフト3が前後方向に移動する。そして、第1,第2ストッパ27,29で第1,第2回転部材17,20の回転を停止させるだけでカムシャフト3を前後方向に移動させてバルブタイミングを変えることができ、バルブタイミング制御装置7が簡素化される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カムシャフトをその軸線方向に移動させることによって動弁の開閉タイミングないしはリフト量を変化させるエンジンのバルブタイミング制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、エンジンには動弁(吸気弁又は排気弁)を、クランク軸の回転と同期する所定のタイミングで開閉する動弁機構が設けられる。そして、かかる動弁機構を備えたエンジンにおいて動弁の最適な開閉タイミング(バルブタイミング)は、エンジンの運転状態、例えばエンジン負荷、エンジン回転数等によって変化する。そこで、近年、運転状態に応じて動弁の開閉タイミングを変化させるバルブタイミング制御装置を備えたエンジンが種々提案されている。
【0003】例えば、クランク軸と同期して回転するカムシャフトにその軸線方向に広がるテーパ状のカム面を有する回転カムを設ける一方、回転カムと当接し該回転カムの回転に対応して揺動する揺動カムと、揺動カムと当接し該揺動カムの揺動に対応して動弁を上下に移動させて開閉するロッカアームとを設け、揺動カムを油圧機構等を用いてカムシャフト軸線方向に移動させることによりバルブタイミングないしはバルブリフト量を変えるようにしたバルブタイミング制御装置が提案されている(例えば、特公昭58−38603号公報参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、例えば特公昭58−38603号公報に開示されているような従来のバルブタイミング制御装置では、カムシャフトと動弁との間に、揺動カム及びその駆動手段、ロッカアーム及びその支持手段等の複雑な動力伝達機構を設けなければならないので、エンジンの構造が複雑化・大型化するといった問題がある。
【0005】本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、動弁の開閉タイミングないしはリフト量を変えることができる簡素でかつコンパクトな構造のエンジンのバルブタイミング制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の目的を達するため、カムシャフト軸線方向に広がるテーパ状に形成され動弁側に係合するカム面を有するカムシャフトを、その軸線方向に移動させることによって動弁の開閉タイミングを変化させるようにしたエンジンのバルブタイミング制御装置であって、(a)カムシャフト端面に圧接係合してカムシャフトと一体的に回転することができる第1回転部材と、(b)カムシャフトに対してその軸線方向に相対変位可能な状態でカムシャフト端面に圧接係合してカムシャフトと一体的に回転することができ、かつカムシャフト軸線方向の移動が拘束される第2回転部材と、(c)第1回転部材と第2回転部材とを螺合によって結合させ、両回転部材間に相対的な回転位相差が生じたときには両回転部材を互いにカムシャフト軸線方向に相対変位させる回転部材螺合手段と、(d)両回転部材の回転を個別的にかつ自在に拘束することができる回転部材拘束手段と、(e)回転部材拘束手段にいずれか一方の回転部材の回転を拘束させることによって両回転部材間に相対的な回転位相差を生じさせ、第1回転部材をカムシャフト軸線方向に移動させてカムシャフトをその軸線方向に移動させるカムシャフト移動手段とが設けられていることを特徴とするエンジンのバルブタイミング制御装置を提供する。
【0007】
【実施例】以下、本発明の実施例を具体的に説明する。図2に示すように、エンジンEのシリンダヘッド1の上端部近傍には、複数の吸気弁用カム2を備えた吸気弁用カムシャフト3と、複数の排気弁用カム4を備えた排気弁用カムシャフト5とが、夫々、軸線がエンジンEの長手方向(図2では左右方向)を向くようにして並列に配置されている。そして、吸気弁用カムシャフト3に対しては、後で説明するように、エンジンEの運転状態に応じて吸気弁6(図1参照)の開閉タイミングないしはリフト量を変化させるバルブタイミング制御装置7が設けられている。また、排気弁用カムシャフト5にはディストリビュータ8が付設されている。なお、吸気弁用カムシャフト3内には、潤滑油供給通路9が設けられている(図1R>1参照)。吸気弁用カムシャフト3及び吸気弁6は夫々、請求項1に記載されたカムシャフト及び動弁に相当する。
【0008】以下、吸気弁側の動弁機構について説明する。なお、以下では便宜上、カムシャフト軸線方向(図1R>1、図2、図5では左右方向)にみてバルブタイミング制御装置7が設けられている側(図1、図2、図5では右側)をエンジンEの後側であるので単にといい、これと反対側(図1、図2、図5では左側)を単にということにする。また、吸気弁用カムシャフト3を単にカムシャフト3ということにする。
【0009】図1に示すように、各吸気弁用カム2のカム面は夫々、後方に向かって広がるテーパ状とされている。そして、各吸気弁用カム2のカム面は夫々、対応する係合部材11を介して吸気弁6の上端部に設けられた当接部材12と係合するようになっている。具体的には、係合部材の11の上端面は対応する吸気弁用カム2のカム面と係合する傾斜を有する傾斜面とされ、下端面は当接部材12の上端面と係合する非傾斜面(水平方向に広がる平面)とされている。そして、係合部材11の上端面は常時吸気弁用カム2のカム面に当接し、下端面は当接部材12の上端面と当接するようになっている。なお、当接部材12は常時吸気弁6(バルブステム)の上端部と当接している。したがって、カムシャフト3が回転すると、吸気弁用カム2によって、係合部材11と当接部材12とを介して吸気弁6が上下方向に往復移動させられ、これによって吸気弁6が開閉される。
【0010】このように、吸気弁6は、揺動カムあるいはロッカアーム等の複雑なリンク機構を介することなく、単に係合部材11ないしは当接部材12を介してすなわちほぼ直接的に吸気弁用カム2と係合している。したがって、動弁機構ないしはエンジンEの構造が簡素化・コンパクト化される。
【0011】そして、前記したとおり、吸気弁用カム2のカム面が後方に向かって広がるテーパ状に形成されているので、係合部材11の上端面を吸気弁用カム2の前部に当接させるかそれとも後部に当接させるかを切り替えることによってバルブタイミングないしはバルブリフト量を切り替えられることになる。すなわち、カムシャフト3を所定の前方位置に配置すると、係合部材11は吸気弁用カム2の後部、すなわちカム面の径が大きい部分に当接し(図1はこの状態を示している)、このとき吸気弁6は径の大きいカム面後部に対応する所定のバルブタイミング及びバルブリフト量で開閉されることになる。他方、カムシャフト3を所定の後方位置に配置すると、係合部材11は吸気弁用カム2の前部、すなわちカム面の径が小さい部分に当接し、このとき吸気弁6は径の小さカム面前部に対応する所定のバルブタイミング及びバルブリフト量で開閉されることになる。
【0012】以下、カムシャフト3の駆動機構を説明する。カムシャフト3は、シリンダヘッド1に形成された複数の軸受部13によって回転自在に支持されている。そして、カムシャフト3の前端部にはカムスプロケット14が取り付けられ、このカムスプロケット14はシリンダヘッド1に形成された軸受部13によって回転自在に支持されている。ここで、カムシャフト3とカムスプロケット14とは嵌合部15で互いにスプライン嵌合され、両者3,14は一体的に回転するようになっているが、カムシャフト3はカムスプロケット14に対して前後方向(カムシャフト軸線方向)に相対的に変位できるようになっている。なお、カムスプロケット14は、図示していないクランクプーリ、タイミングベルト等を介してクランク軸によってこれと同期して回転駆動されるようになっている。
【0013】以下、バルブタイミング制御装置7について説明する。バルブタイミング制御装置7には、カムシャフト3の後端部に圧接係合してカムシャフト3と一体的に回転することができる第1回転部材17が設けられている。ここで、カムシャフト3の後端部に形成されたカムシャフト側圧接部3aと、第1回転部材17の前端部に形成された第1回転部材側圧接部17aとは直接当接し、両圧接部3a,17aは略円筒状の連結部材18によって適度な圧接力で圧接係合させられている。したがって、カムシャフト3と第1回転部材17とは、基本的には一体的に回転するようになっているが、第1回転部材17の回転が拘束ないしは停止されたときには、両圧接部3a,17aが互いに摺動し、第1回転部材17はカムシャフト3とは一体回転しなくなる。また、カムシャフト3と第1回転部材17とは連結部材18の作用により前後方向(カムシャフト軸線方向)に一体的に移動するようになっている。すなわち、第1回転部材17が前後方向に移動すると、これに伴ってカムシャフト3が前後方向に移動する。
【0014】さらに、バルブタイミング制御装置7には、カムシャフト3側と圧接係合してカムシャフト3と一体的に回転することができる第2回転部材20が設けられている。具体的には、カムシャフト3側には第1圧接部材21が設けられ、第2回転部材20側には第2圧接部材22が設けられ、両圧接部材21,22が圧接係合し、これによって第2回転部材20がカムシャフト3と一体回転できるようになっている。しかしながら、第2回転部材20の回転が拘束ないしは停止されたときには、両圧接部材21,22が互いに摺動し、第2回転部材20はカムシャフト3とは一体回転しなくなる。
【0015】ここで、第1圧接部材21はカムシャフト3とは別体とされ、この第1圧接部材21とカムシャフト後端面3との間に両者を互いに離間する方向に付勢するコイルスプリング23が介設されている。このため、第1圧接部材21は常時カムシャフト3と一体回転するが、前後方向にはコイルスプリング23の付勢力に抗して自在に変位できるようになっている。なお、第2圧接部材22は第2回転部材20に固定されている。このように、第1圧接部材21とカムシャフト3との間にコイルスプリング23が介設されているので、カムシャフト3と第2回転部材20とは、互いに前後方向(カムシャフト軸線方向)に相対的に変位できることになる。しかしながら、第2回転部材20の後端部には移動係止部24が設けられ、この移動係止部24はシリンダヘッド1ないしはエンジン本体によって前後方向の変位が係止されているので、第2回転部材20は前後方向には変位せず、したがってカムシャフト3のみが前後方向に変位して、第2回転部材20とカムシャフト3との間の前後方向の相対変位が生じる。
【0016】そして、第1回転部材17と第2回転部材20とは螺合部25で互いに螺合によって係合している。詳しくは図示していないが、略円柱形の第1回転部材17の軸心部に形成された穴部の内周面に形成されためねじ部と、略円柱形の第2回転部材20の外周部に形成されたおねじ部とが螺合し、これによって両回転部材17,20が係合している。このため、第1回転部材17と第2回転部材20との間に相対的な回転位相差が生じたときには、両回転部材17,20が互いに前後方向に相対変位する。なお、螺合部25は請求項1に記載された回転部材螺合手段に相当する。
【0017】第1回転部材17には第1回転係止部26が設けられ、この第1回転係止部26に対して第1ストッパ27が設けられている。ここで、第1ストッパ27は第1回転係止部26と係合して第1回転部材17の回転を停止させられるようになっている。同様に、第2回転部材20には第2回転係止部28が設けられ、この第2回転係止部28に対して第2ストッパ29が設けられ、この第2ストッパ29は第2回転係止部28と係合して第2回転部材20の回転を停止させられるようになっている。なお、第1,第2ストッパ27,29は請求項1に記載された回転部材拘束手段に相当する。
【0018】ここで、第1ストッパ27によって第1回転部材17の回転が停止させられたときには第1回転部材17はカムシャフト3とは一体回転しなくなるが、第2回転部材20はカムシャフト3と一体回転するので、第1回転部材17と第2回転部材20との間に回転位相差が生じ、両回転部材17,20は前後方向に互いに離間する方向に相対変位する。しかしながら、前記したとおり第2回転部材20の前後方向の変位は係止されているので、結局第1回転部材17が前方に移動し、これに伴ってカムシャフト3も前方に移動する。この場合、係合部材11が吸気弁用カム2の後部に当接し、吸気弁6が径の大きいカム面後部に対応する所定のバルブタイミング及びバルブリフト量で開閉されることになるのは前記したとおりである。
【0019】他方、第2ストッパ29によって第2回転部材20の回転が停止させられたときには第2回転部材20はカムシャフト3とは一体回転しなくなるが、第1回転部材17はカムシャフト3と一体回転するので、第1回転部材17と第2回転部材20との間に回転位相差が生じ、両回転部材17,20は前後方向に互いに接近する方向に相対変位する。しかしながら、第2回転部材20の前後方向の変位は係止されているので、結局第1回転部材17が後方に移動し、これに伴ってカムシャフト3も後方に移動する。この場合、係合部材11が吸気弁用カム2の前部に当接し、吸気弁6が径の小さいカム面前部に対応する所定のバルブタイミング及びバルブリフト量で開閉されることになるのは前記したとおりである。
【0020】以下、第1,第2ストッパ27,29を駆動・制御する油圧式の駆動機構Sについて説明する。なお、駆動機構Sは請求項1に記載されたカムシャフト移動手段に相当する。図3〜図5に示すように、第1,第2ストッパ27,29は夫々駆動機構Sによって駆動・制御され、油圧がかけられたときには第1,第2回転部材17,20の回転を停止させるようになっている。そして、第1,第2ストッパ27,29にかけられる油圧は、第1,第2コントロールバルブ31,32と、第1,第2溝部33,34を備えた連結部材18とによって制御されるようになっている。
【0021】第1コントロールバルブ31は、スプール35とリターンスプリング36とを備えた油圧コントロールバルブであって、油圧供給通路37から供給される油圧を第1油路38に出力するか、それとも第1油路38内の油圧をドレンポート39にドレンするかを切り替えるようになっている。具体的には、第1ソレノイド41がオンされたときには第1コントロール油路42内の油圧がリリースされ、リターンスプリング36によってスプール35が前端位置に配置され(図5はこの状態を示している)、第1油路38がドレンポート39と連通するようになっている。他方、第1ソレノイド41がオフされたときには第1コントロール油路42に油圧がかけられ、この油圧によってスプール35が後端位置に配置され、第1油路38と油圧供給通路37とが連通するようになっている。
【0022】第2コントロールバルブ32はスプール45とリターンスプリング46とを備えた油圧コントロールバルブであって、油圧供給通路37から供給される油圧を第2油路47に出力する一方第3油路48内の油圧をドレンポート49にドレンするか、それとも油圧供給通路37から供給される油圧を第3油路48に出力するかを切り替えるようになっている。具体的には、第2ソレノイド51がオンされたときには第2コントロール油路52内の油圧がリリースされ、リターンスプリング46によってスプール45が前端位置に配置され(図5はこの状態を示している)、第3油路48と油圧供給通路37とが連通するる。他方、第2ソレノイド51がオフされたときには、第2コントロール油路52に油圧がかけられ、この油圧によってスプール45が後端位置に配置され、第2油路47と油圧供給通路37とが連通する一方、第3油路48がドレンポート49と連通する。
【0023】連結部材18は、前記したとおりカムシャフト3と第1回転部材17とを連結しているので、カムシャフト3及び第1回転部材17と一体的に前後方向に移動するが、この前後方向の移動によって第1,第2溝部33,34の位置が前後方向に変わり、これによって第1〜第3入力ポートP1〜P3と第1,第2出力ポートA1,A2との間の連通状態を変化させ、第1,第2ストッパ27,29への油圧の給排を制御するようになっている。なお、第1〜第3入力ポートP1〜P3は夫々第1〜第3油路38,47,48に接続され、第1,第2出力ポートA1,A2は夫々第1,第2油圧出力通路53,54を介して第1,第2ストッパ27,29に接続されている。
【0024】具体的には、図6(a)に示すように、連結部材18(カムシャフト3)が所定の後方位置にあるときには、第1溝部33が第2入力ポートP2と第1出力ポートA1とを連通させる一方、第2溝部34はどのポート同士も連通させないようになっている。なお、図6(a)〜(c)において、D1,D2は夫々、連結部材18(カムシャフト3)が中立位置(移動の原点位置)にあるときの左端部及び右端部の位置を示している。また、図6(b)に示すように、連結部材18(カムシャフト3)が中立位置にあるときには、第1溝部33が第1入力ポートP1と第1出力ポートA1とを連通させる一方、第2溝部34が第3入力ポートP3と第2出力ポートA2とを連通させるようになっている。さらに、図6(c)に示すように、連結部材18(カムシャフト3)が所定の前方位置にあるときには、第2溝部34が第2入力ポートP2と第2出力ポートA2とを連通させる一方、第1溝部33はどのポート同士も連通させないようになっている。
【0025】以下、カムシャフト3の位置の切替制御すなわち吸気弁6の開閉タイミングないしはリフト量の切替制御の制御方法について説明する。カムシャフト3が所定の後方位置で定常状態にあるときには、第1,第2ソレノイド41,51がともにオンされる。この状態においては、第3入力ポートP3(第3油路48)にのみ油圧が供給される。そして、連結部材18が後端位置にあるので、第1溝部33が第2入力ポートP2と第1出力ポートA1とを連通させる(図6(a)参照)。したがって、第1,第2出力ポートA1,A2からはいずれも油圧が出力されず、第1,第2ストッパ27,29は、第1,第2回転部材17,20の回転を何ら拘束しない。
【0026】そして、かかる状態からカムシャフト3を前方に移動させるときには、まず第1ソレノイド41をオンにしたまま第2ソレノイド51をオフする。このとき第2コントロールバルブ32のスプール45が後端位置に配置され、第2入力ポートP2(第2油路47)にのみ油圧が供給される。そして、連結部材18が後端位置にあり、したがって第1溝部33が第2入力ポートP2と第1出力ポートA1とを連通させているので(図6(a)参照)、第1出力ポートA1から油圧が出力され、第1ストッパ27に油圧が供給され第1回転部材17の回転が停止される。したがって、カムシャフト3が前方に移動する。このようにして、カムシャフト3が前方に移動して連結部材18が中立位置に達すると、第1溝部33が第2入力ポートP2と第1出力ポートA1とを連通させなくなるので(図6(b)参照)、第1出力ポートA1から油圧が出力されなくなり、第1ストッパ27は第1回転部材17の回転を拘束しなくなり、カムシャフト3の前方への移動は停止する。カムシャフト3の位置(バルブタイミングないしバルブリフト量)をかかる中立位置に設定する場合はこの状態を保持すればよい。
【0027】次に、第2ソレノイド51をオフしたまま第1ソレノイド41をオフする。これによって第1コントロールバルブ31のスプール35が後端位置に配置され、第1入力ポートP1(第1油路38)に油圧が供給される。なお、第2入力ポートP2にも引き続き油圧が供給されている。そして、連結部材18が中立位置にあり、したがって第1溝部33が第1入力ポートP1と第1出力ポートA1とを連通させているので(図6(b)参照)、第1出力ポートA1から油圧が出力され、第1ストッパ27に油圧が供給され第1回転部材17の回転が停止される。したがって、カムシャフト3がさらに前方に移動する。このようにして、カムシャフト3が前方に移動して連結部材18が所定の前方位置に達したときに第2ソレノイド51をオンする。このとき、第1溝部33が第1入力ポートP1と第1出力ポートA1とを連通させなくなるので、第1出力ポートA1から油圧が出力されなくなり、第1ストッパ27は第1回転部材17の回転を拘束しなくなり、カムシャフト3の前方への移動は停止する。このようにして、カムシャフト3が所定の前方位置に配置される。
【0028】カムシャフト3をかかる所定の前方位置から後方に移動させる場合は、第1ソレノイド41をオンする一方第2ソレノイド51をオフする。このとき、第2入力ポートP2(第2油路47)にのみ油圧が供給される。そして、連結部材18が前方位置にあり、したがって第2溝部34が第2入力ポートP2と第2出力ポートA2とを連通させているので(図6(c)参照)、第2出力ポートA2から油圧が出力され、第2ストッパ29に油圧が供給され第2回転部材20の回転が停止される。したがって、カムシャフト3が後方に移動する。このようにして、カムシャフト3が後方に移動して連結部材18が中立位置に達すると、第2溝部34が第2入力ポートP2と第2出力ポートA2とを連通させなくなるので(図6(b)参照)、第2出力ポートA2から油圧が出力されなくなり、第2ストッパ29は第2回転部材20の回転を拘束しなくなりカムシャフト3の後方への移動は停止する。
【0029】次に、第1ソレノイド41をオンしたまま第2ソレノイド51をオンする。これによって第3入力ポートP3(第3油路48)に油圧が供給される。そして、連結部材18が中立位置にあり、したがって第2溝部34が第3入力ポートP3と第2出力ポートA2とを連通させているので(図6(b)参照)、第2出力ポートA2から油圧が出力され、第2ストッパ29に油圧が供給され第2回転部材20の回転が停止される。したがって、カムシャフト3がさらに後方に移動する。このようにして、カムシャフト3が後方に移動して連結部材18が所定の後方位置に達したときには、第2溝部34が第3入力ポートP3と第2出力ポートA2とを連通させなくなるので(図6(a)参照)、第2出力ポートA2から油圧が出力されなくなり、第2ストッパ29は第2回転部材20の回転を拘束しなくなり、カムシャフト3の後方への移動は停止する。このようにして、カムシャフト3が所定の後方位置に配置される。
【0030】以上、本実施例によれば、簡素かつコンパクトな構成で、カムシャフト3を前後方向(カムシャフト軸線方向)に確実に移動させることができ、吸気弁6の開閉タイミングないしはリフト量を変化させることができる。
【0031】
【発明の作用・効果】本発明によれば、カムシャフトと吸気弁との間に複雑なリンク機構を設けずに吸気弁の開閉タイミングないしはリフト量を変化させることができ、動弁機構ないしはエンジンが簡素化・コンパクト化される。また、第1,第2回転部材のいずれか一方を機械的に拘束(係止)するだけでカムシャフトをその軸線方向に移動させることができるので、バルブタイミング制御装置が簡素化・コンパクト化される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかるバルブタイミング制御装置を備えたエンジンのカムシャフトまわりの一部断面側面立面説明図である。
【図2】 本発明にかかるバルブタイミング制御装置を備えたエンジンのシリンダヘッドまわりの一部断面平面説明図である。
【図3】 バルブタイミング制御装置の平面説明図である。
【図4】 バルブタイミング制御装置の一部断面正面立面説明図である。
【図5】 第1,第2ストッパを駆動・制御するための駆動機構のシステム構成図である。
【図6】 (a),(b),(c)は夫々、連結部材の移動に伴う、入力ポートと出力ポートとの間の連通状態を示す図である。
【符号の説明】
E…エンジン
S…駆動機構
2…吸気弁用カム
3…吸気弁用カムシャフト
6…吸気弁
7…バルブタイミング制御装置
17…第1回転部材
20…第2回転部材
25…螺合部
27,29…第1,第2ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カムシャフト軸線方向に広がるテーパ状に形成され動弁側に係合するカム面を有するカムシャフトを、その軸線方向に移動させることによって動弁の開閉タイミングを変化させるようにしたエンジンのバルブタイミング制御装置であって、カムシャフト端面に圧接係合してカムシャフトと一体的に回転することができる第1回転部材と、カムシャフトに対してその軸線方向に相対変位可能な状態でカムシャフト端面に圧接係合してカムシャフトと一体的に回転することができ、かつカムシャフト軸線方向の移動が拘束される第2回転部材と、第1回転部材と第2回転部材とを螺合によって結合させ、両回転部材間に相対的な回転位相差が生じたときには両回転部材を互いにカムシャフト軸線方向に相対変位させる回転部材螺合手段と、両回転部材の回転を個別的にかつ自在に拘束することができる回転部材拘束手段と、回転部材拘束手段にいずれか一方の回転部材の回転を拘束させることによって両回転部材間に相対的な回転位相差を生じさせ、第1回転部材をカムシャフト軸線方向に移動させてカムシャフトをその軸線方向に移動させるカムシャフト移動手段とが設けられていることを特徴とするエンジンのバルブタイミング制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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