説明

エンジントルク計測装置およびエンジントルク計測方法

【課題】本発明は、エンジンの状態が時間的に変化する場合であっても外力トルクを計測してエンジンを適切に制御することが可能なエンジントルク計測装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によるエンジントルク計測装置は、計測時刻における内燃機関のクランク角を計測するクランク角計測手段11と、クランク角および計測時刻に基づいて内燃機関のクランク角加速度を算出するクランク角加速度取得手段12と、予め求めた関数または予め求めた表に基づいてクランク角に対する内燃機関の慣性モーメントを取得する慣性モーメント取得手段13と、クランク角の特異角度において、クランク角加速度と慣性モーメントとからクランク軸が受ける軸トルクを算出し、軸トルクから特異角度における燃焼トルクおよび慣性トルクを減じて外力トルクを取得する特異クランク角度トルク取得手段14とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのトルク計測に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを適切に制御するためには、エンジンの燃焼状態を計測し、計測結果をフィードバック制御する方法が有効である。エンジンの燃焼状態を計測するためには、エンジントルクの計測が重要である。エンジントルクを推定するためにクランク角を測定する方式がある。例えば、外力トルクの一部であるフリクショントルクついて機関回転数および冷却水温に対するマップを予め作成しておき、運転時における機関回転数および冷却水温をマップに当てはめることによって外力トルクを推定する方式がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−61371号公報(第12頁、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、フリクショントルク以外の外力トルクである負荷トルクが0であることが判っている場合か、傾きセンサなど他の計測手段によって負荷トルクが推定できる場合に限定されるという問題があった。また、フリクショントルクの推定について、機関回転数と冷却水温とが同一の条件下では常に同じ値を示すため、エンジン個々による差異、経年変化、整備不良などによってエンジンの状態が変化した場合に、フリクショントルク推定の誤差が大きくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、時間的に変化する場合であっても外力トルクを計測してエンジンを適切に制御することが可能なエンジントルク計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明によるエンジントルク計測装置は、計測時刻における内燃機関のクランク角を計測するクランク角計測手段と、クランク角および計測時刻に基づいて内燃機関のクランク角加速度を算出するクランク角加速度取得手段と、予め求めた関数または予め求めた表に基づいてクランク角に対する内燃機関の慣性モーメントを取得する慣性モーメント取得手段と、クランク角の特異角度において、クランク角加速度と慣性モーメントとからクランク軸が受ける軸トルクを算出し、軸トルクから特異角度における燃焼トルクおよび慣性トルクを減じて外力トルクを取得する特異クランク角度トルク取得手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、請求項1に記載のように、クランク角計測手段は計測時刻における内燃機関のクランク角を計測し、クランク角加速度取得手段はクランク角および計測時刻に基づいて内燃機関のクランク角加速度を算出し、慣性モーメント取得手段は予め求めた関数および/または、予め求めた表に基づいてクランク角に対する内燃機関の慣性モーメントを取得し、特異クランク角度トルク取得手段はクランク角の特異角度においてクランク角加速度と慣性モーメントとからクランク軸が受ける軸トルクを算出し、軸トルクから特異角度における燃焼トルクおよび慣性トルクを減じて外力トルクを取得するので、時間的に変化する場合であっても適切に外力トルクの計測が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施形態について、図面を用いて以下に説明する。
【0009】
〈実施形態1〉
図1は、本発明の実施形態1によるエンジントルク計測装置の構成図である。図1に示すように、クランク角計測手段11は、計測時刻における内燃機関のクランク角を計測する。クランク角加速度取得手段12は、クランク角計測手段11にて計測されたクランク角および計測時間に基づいて作成された標本を複数用いて、取得時間におけるクランク角加速度を算出する。慣性モーメント取得手段13は、予め計測した内燃機関の物理特性から内燃機関の慣性モーメントをクランク角の関数として表すか、または表にすることによって、クランク角に対する慣性モーメントを取得する。なお、クランク角計測手段11およびクランク角加速度取得手段12は、公知のものを用いてもよい。
【0010】
内燃機関における燃焼トルクおよび慣性トルクの各値が予め求まるときのクランク角度を特異角度という。図2は、本発明の実施形態1による特異角度の一例を示す図である。直列4気筒エンジンの場合、例えば特異角度は、0°、180°、270°、360°、・・・、がある。クランク角(図2の横軸)が特異角度であるときのガス圧(図2の縦軸)は、幾何学的な配置からクランクにトルクを与えないため予め0である。また、慣性トルクについても、幾何学的な配置からクランクにトルクを与えないため予め0である。なお、特異角度は上記の例に限るものではない。
【0011】
特異クランク角度トルク取得手段14は、クランク角の特異角度において、クランク角加速度取得手段12にて算出されたクランク角加速度と慣性モーメント取得手段13にて取得された慣性モーメントとを乗じてクランク軸が受ける軸トルクを算出し、軸トルクから特異角度における燃焼トルクおよび慣性トルクを減じて外力トルクを取得する。図3は、本発明の実施形態1による角加速度(図3の縦軸)を示す図である。図3の横軸はクランク角を示している。
【0012】
外力トルク取得手段15は、特異角度における外力トルクとそのときの時刻とからなる標本の集合から、外力トルクの時間変化、平均値、短時間平均値など、内燃機関を制御するための情報を取得する。すなわち、特異角度におけるトルク値とその時刻とからなる標本の集合から内燃機関を制御するための情報を取得する。
【0013】
以上のことから、外力トルクがフリクショントルク以外を含む場合であっても計測することが可能となる。また、時間的に変化する場合であっても外力トルクを計測してエンジンを適切に制御することができる。
【0014】
〈実施形態2〉
クランク角計測手段11は、クランク軸の回転と同期して回転する歯車の形状を有するローターまたは、磁気的なパターンが記録されたローターと、ローターの歯車のエッジまたは、磁気的なパターンを検出するセンサとから構成されてもよい。このとき、センサにより歯車のエッジまたは、磁気的なパターンが位置するクランク角度θk(k=1、2、・・・)を検知した時刻をTkとして、時刻Tkにおけるクランク角加速度を式(1)で近似してもよい。
【0015】
【数1】

【0016】
以上のことから、クランク角計測手段を上記のような構成とすることによって、新たなセンサを追加して備えることなく、既存のクランク角センサに対しての修正を最小限に抑えてエンジントルクの推定をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1によるエンジントルク計測装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態1による特異角度の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態1による角加速度を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
11 クランク角計測手段、12 クランク角加速度取得手段、13 慣性モーメント取得手段、14 特異クランク角度トルク取得手段、15 外力トルク取得手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測時刻における内燃機関のクランク角を計測するクランク角計測手段と、
前記クランク角および前記計測時刻に基づいて前記内燃機関のクランク角加速度を算出するクランク角加速度取得手段と、
予め求めた関数または予め求めた表に基づいて前記クランク角に対する前記内燃機関の慣性モーメントを取得する慣性モーメント取得手段と、
前記クランク角の特異角度において、前記クランク角加速度と前記慣性モーメントとからクランク軸が受ける軸トルクを算出し、前記軸トルクから前記特異角度における燃焼トルクおよび慣性トルクを減じて外力トルクを取得する特異クランク角度トルク取得手段と、
を備える、エンジントルク計測装置。
【請求項2】
前記特異角度におけるトルク値とその時刻とからなる標本の集合から前記内燃機関を制御するための情報を取得する外力トルク取得手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のエンジントルク計測装置。
【請求項3】
前記クランク角計測手段は、
クランク軸の回転と同期して回転する歯車の形状を有するローターまたは磁気的なパターンが記録されたローターと、
前記ローターの歯車のエッジまたは磁気的なパターンを検出するセンサと、
から構成され、
前記センサにより前記歯車のエッジまたは磁気的なパターンが位置するクランク角度θk(k=1、2、・・・)を検知した時刻をTkとして、時刻Tkにおけるクランク角加速度を、
【数1】

によって近似が可能であることを特徴とする、請求項1に記載のエンジントルク計測装置。
【請求項4】
計測時刻における内燃機関のクランク角を計測する工程と、
前記クランク角および前記計測時刻に基づいて前記内燃機関のクランク角加速度を算出する工程と、
予め求めた関数または予め求めた表に基づいて前記クランク角に対する前記内燃機関の慣性モーメントを取得する工程と、
前記クランク角の特異角度において、前記クランク角加速度と前記慣性モーメントとからクランク軸が受ける軸トルクを算出し、前記軸トルクから前記特異角度における燃焼トルクおよび慣性トルクを減じて外力トルクを取得する工程と、
を備える、エンジントルク計測方法。
【請求項5】
前記特異角度におけるトルク値とその時刻とからなる標本の集合から前記内燃機関を制御するための情報を取得する工程をさらに備えることを特徴とする、請求項4に記載のエンジントルク計測方法。
【請求項6】
前記クランク角を計測する工程は、
クランク軸の回転と同期して回転する、歯車の形状を有するローターの歯車のエッジまたは磁気的なパターンが位置するクランク角度θk(k=1、2、・・・)を検知した時刻をTkとして、時刻Tkにおけるクランク角加速度を、
【数2】

によって近似が可能であることを特徴とする、請求項4に記載のエンジントルク計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−144515(P2009−144515A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319407(P2007−319407)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】