説明

エンジン

【課題】エンジンに関し、部品の汎用性及び耐久性を向上させつつ軽量化を図り、燃費改善に係るコストを削減する。
【解決手段】シリンダの内部で摺動自在に設けられたピストン1と、ピストン1をクランクシャフトに接続するコネクティングロッド2とを備える。
また、ピストン1側に支持された第一軸部4及びコネクティングロッド2側に支持された第二軸部5を有し、ピストン1とコネクティングロッド2とを接続する軸部材3を備える。
さらに、第一軸部4及び第二軸部5間に介装され、ピストン1に作用する圧力に応じて第一軸部4を第二軸部5に対してピストン1の摺動方向に変位させる弾性部材6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮比を可変としたエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンで燃焼する混合気の圧縮比を可変とした可変圧縮比エンジンが開発されている。圧縮比とは、混合気の圧縮後の容積に対する圧縮前の容積の比であり、典型的にはシリンダの最小容量に対する最大容量の比として算出される。また、吸気慣性や吸排気弁の作動状態を考慮して、動的な圧縮比を演算する手法も知られている。
【0003】
一般に、圧縮比が高いほど燃焼室内の混合気が高温,高圧となり、エンジンの熱効率が上昇する。そのため、例えばエンジンが低負荷,低回転の状態では、圧縮比を上昇させることで燃焼安定性及び燃費を改善できる。一方、圧縮比が高いほど混合気の燃焼反応性の上昇に伴いノッキング(異常燃焼)が発生しやすくなる。そのため、例えばエンジンが高負荷,高回転の状態では、圧縮比を低下させることで燃焼安定性を確保できる。
【0004】
このように、従来の可変圧縮比エンジンでは、エンジンの作動状態に応じて圧縮比が変更される。例えば、特許文献1には、エンジンの動作サイクルの各行程で燃焼室の容積を変更する技術が開示されている。この技術では、ピストンピンからピストン上端面までのピストン長さが変化するピストン長可変型ピストンが例示されており、ピストン長は燃焼室内の圧力とばね部材の付勢力とに応じて変化している。
【0005】
また、特許文献2には、ピストンの往復摺動の速度に応じてピストン頂面のキャビティの容積を変更する技術が開示されている。この技術では、ピストンの頂面に凹設されたキャビティ内に可変ピストンを配置し、可変ピストンの下方に潤滑油が充填された圧力室及びばねを設けた構造が例示されている。ピストンの慣性力を利用して圧力室内の潤滑油を排出することで可変ピストンをキャビティ内で下降させ、キャビティの容積を可変としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−50067号公報
【特許文献2】特開平5−272404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の可変圧縮比エンジンは、ピストンの形状を変更することによって圧縮比を可変としている。したがって、ピストンの内部構造が複雑化し、耐久性の高い製品を製造することが難しい。
また、可変圧縮比でないエンジンに可変圧縮比ピストンを適用する場合には、ピストンだけでなくコネクティングロッドやピストンピンの設計も変更する必要が生じ、実質的に既存のエンジンへの適用性に乏しいという課題がある。
さらに、ピストンを駆動するための機構がピストン自体の重量を増加させるため、エンジンの燃焼効率を向上させにくいという課題もある。
【0008】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、可変圧縮比エンジンにおける部品の汎用性及び耐久性を向上させつつ軽量化を図り、燃費改善に係るコストを削減することである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示するエンジンは、シリンダの内部で摺動自在に設けられたピストンと、前記ピストンをクランクシャフトに接続するコネクティングロッドとを備える。また、前記ピストン側に支持された第一軸部及び前記コネクティングロッド側に支持された第二軸部を有し、前記ピストンと前記コネクティングロッドとを接続する軸部材を備える。さらに、前記第一軸部及び前記第二軸部間に介装され、前記ピストンに作用する圧力に応じて前記第一軸部を前記第二軸部に対して前記ピストンの摺動方向に変位させる弾性部材を備える。
【0010】
前記弾性部材の付勢力は、前記ピストンに作用する圧力(燃焼圧力,筒内圧力)に対抗するように第一軸部及びピストンに作用する。つまり、前記ピストンの前記コネクティングロッドに対する相対位置は、前記弾性部材の付勢力と燃焼圧力とに応じて変化する。
なお、前記弾性部材としては、例えば板ばねや皿ばね,コイルばねといった金属ばねや、耐熱樹脂ばね,セラミックばねといった非金属ばねや、空気ばね、磁気ばね等を用いることが考えられる。
【0011】
(2)また、前記弾性部材が、前記第一軸部を前記ピストンのヘッド側に付勢し、前記第二軸部を前記クランクシャフト側に付勢することが好ましい。この場合、前記ピストンに作用する圧力が大きいほど、前記ピストンと前記コネクティングロッドとの距離が減少することになる。
(3)また、前記第一軸部が、前記ピストンの摺動方向に平行な第一ガイド面を有し、前記第二軸部が、前記第一ガイド面に対向する第二ガイド面を有することが好ましい。
【0012】
(4)また、前記第一軸部が、前記ピストンの摺動方向に非平行な第一ストッパ面を有し、前記第二軸部が、前記第一ストッパ面に対向する第二ストッパ面を有することが好ましい。
(5)また、前記第二軸部が、前記コネクティングロッドに対して揺動自在に支持されることが好ましい。
【0013】
(6)また、前記第一軸部が、前記ピストンに対して固定支持されることが好ましい。
(7)また、前記第一軸部及び前記第二軸部が、中空に形成され、前記弾性部材が、前記第一軸部及び前記第二軸部の前記中空に内挿されていることが好ましい。
【0014】
(8)また、前記弾性部材が、第一当接部,第二当接部及び第三当接部を有することが好ましい。
前記第一当接部とは、前記第一軸部の内筒面に当接し、前記第一軸部を前記ピストンのヘッド側へと付勢するものである。また、前記第二当接部とは、前記第二軸部の内筒面に当接し、前記第二軸部を前記コネクティングロッド側へと付勢するものである。さらに、前記第三当接部とは、前記第一軸部又は前記第二軸部の内筒面に当接し、前記第一軸部に対する前記第二軸部の変位の最大値を制限するものである。
【発明の効果】
【0015】
開示のエンジンによれば、第一軸部と第二軸部との間に弾性部材を介装することで、燃焼室内の圧力に応じて圧縮比を変更することができる。また、ピストン及びコネクティングロッドを変更する必要がないため、構成が簡素であり、エンジンの重量増加を回避することができるとともに、ピストンの耐久性を確保することができる。さらに、軸部材で変位が生じる構造のため汎用性が高く、従来のピストン及びコネクティングロッドに対して容易に適用することができ、コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係るエンジンに適用されたピストン及びピストンピンを切断して内部構造を例示する斜視図である。
【図2】ピストンの断面図である。
【図3】ピストンピンを示す図であり、(a)は分解斜視図、(b),(c)はアウタ部及びインナ部の側面図である。
【図4】ピストン及びピストンピンの縦断面を例示する断面図であり、(a)は低燃焼圧力時の状態を示し、(b)は高燃焼圧力時の状態を示す。
【図5】筒内圧力とアウタ部及びインナ部間の相対変位との関係を例示するグラフである。
【図6】変形例としてのエンジンに適用されたピストン及びピストンピンを切断して内部構造を例示する斜視図である。
【図7】ピストン及びピストンピンの縦断面を例示する断面図であり、(a)は低燃焼圧力時の状態を示し、(b)は高燃焼圧力時の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0018】
[1.部品構造]
[1−1.ピストン]
本実施形態のエンジンに適用されるピストン1及びコネクティングロッド2(以下コンロッドと呼ぶ)の接続構造を、図1に示す。ここでは、ピストン1の摺動方向を鉛直に配置した姿勢を基準の姿勢とした構造を説明する。この接続構造は、スプリング6を内蔵したピストンピン3でピストン1及びコンロッド2を揺動自在に接続するものである。図1では、ピストン1を縦に切断した状態を示す。
ピストン1は、エンジンのシリンダ内を上下に往復摺動する筒状の部材であり、例えば鍛造されたアルミニウム系合金で形成される。このピストン1には、燃焼室側に設けられるヘッド部1aと、ピストン1にコンロッド2を接続するためのピンボス部1bと、ヘッド部1aの下方の側面をなすスカート部1cとが設けられる。
【0019】
ヘッド部1aは、燃焼室の底面となる部位であり、外形はほぼ円筒状である。図1中の符号C1はヘッド部1aの筒面の中心軸を示す。ピストン1は、中心軸C1の延在方向に沿って往復摺動する。ヘッド部1aの筒面には、図示しないピストンリングを取り付けるためのリング溝1dが刻設されている。ピストンリングとは、ピストン1とシリンダとの隙間を塞ぐための部材であり、ピストン1の熱をシリンダ側へ伝達するとともに燃焼室の圧力低下やオイル漏れを抑制するように機能する。また、ヘッド部1aの下面はヘッド部1aの内側(図1中の上方)に向かって凹設され、コンロッド2との干渉が防止されている。
【0020】
ピンボス部1bは、コンロッド2に接続される一対の中空円筒状の部位である。図1中の符号C2は、各ピンボス部1bの内筒面の中心軸を示す。一方のピンボス部1bの中心軸C2は、他方のピンボス部1bの中心軸C2に一致している。ピンボス部1bの内径は、後述するピストンピン3の外径に応じた大きさであり、各ピンボス部1bの内筒面にピストンピン3が挿通される。これらのピンボス部1bは、図2に示すように、その中心軸C2がヘッド部1aの中心軸C1からわずかにオフセットした位置を通るように配置されている場合もある。なお、ピンボス部1bの中心軸C2からヘッド部1aの頂面までの距離をh1とする。
【0021】
スカート部1cは、ヘッド部1aから下方に向かって延設された部位であり、シリンダの内周面上を摺動する筒面をなす部位である。図2に示すように、スカート部1cは、ピンボス部1bの中心軸C2を挟んで互いに対向して一対設けられる。なお、ピストン1のシリンダに対する面圧は、ピンボス部1bの中心軸C2に対して垂直な方向に強く作用する傾向がある。そのため、図2中に破線で示すヘッド部1aの筒面の輪郭のうちピンボス部1bの中心軸C2と交差する部位の近傍では、スカート部1cの形成が省略され、ピストン1の軽量化が図られている。
【0022】
[1−2.コンロッド]
コンロッド2は、ピストン1をエンジンのクランクシャフトに接続するリンク部材であり、例えばニッケルクロム鋼やクロムモリブデン鋼等の特殊鋼を型打鍛造して形成される。ピストン1のシリンダ内での往復運動は、コンロッド2を介してクランクシャフトの回転運動に変換される。
コンロッド2の上端部(スモールエンド)には、中空円筒状のピンボス孔2aが穿孔される。このピンボス孔2aの内径は、後述するピストンピン3の外径に応じた大きさであり、ピンボス孔2aの内筒面にピストンピン3が挿通される。以下、ピンボス孔2aの内筒面の中心軸をC3と表記する。
【0023】
[1−3.ピストンピン]
ピストンピン3(軸部材)は、ピストン1とコンロッド2とを接続する軸状の部材であり、ピストン1及びコンロッド2間に軸装される。このピストンピン3は、ピンボス部1b及びピンボス孔2aの内部に挿通され、ピストン1とコンロッド2とを互いに回動自在に軸支するように機能する。図3(a)に分解して示すように、本実施形態のピストンピン3は三つの部位に分割形成されており、両端部に位置する一対のアウタ部4とこれらの間に設けられるインナ部5とを備えている。
【0024】
アウタ部4及びインナ部5は、ピストン1とコンロッド2との距離を変更するように互いに相対変位する部位である。これらのアウタ部4及びインナ部5はともに中空の円筒形状に形成され、その外径は同一である。また、内筒面の中心軸と外筒面の中心軸は一致している。以下、アウタ部4の中心軸をC4と表記し、インナ部の中心軸をC5と表記する。
【0025】
アウタ部4(第一軸部)は、ピストン1におけるピンボス部1bの内筒面に支持される部位である。一対のアウタ部4は同一形状である。アウタ部4のインナ部5側の端面4aは、中心軸C4に対して垂直かつ平滑に形成される。また、アウタ部4の端面4aには、図3(b)に示すように、二つのへこみ部4b,4cが設けられる。
【0026】
一方のへこみ部4bは、アウタ部4の内筒面側から外筒面側へ向かって凹設された形状であり、中心軸C4を通る平面に対して平行な平面として形成された一対の第一ガイド面4dと、第一ガイド面4dに対して垂直な平面として形成された第一ストッパ面4eとを有する。一対の第一ガイド面4d間の寸法はd1である。なお、一対の第一ガイド面4dはピストン1の摺動方向(ピストン1の中心軸C1の延在方向)と平行に配置され、第一ストッパ面4eはピストン1の摺動方向に対して非平行に配置される。
【0027】
これに対し、他方のへこみ部4cは、アウタ部4の内筒面側から外筒面側まで貫通するように凹設された形状であり、第一ガイド面4dに平行な一対の第三ガイド面4fのみを有する。また、他方のへこみ部4cは、中心軸C4を挟んで一方のへこみ部4bに対向する位置に配置されている。第三ガイド面4f間の寸法はd2である。
【0028】
インナ部5(第二軸部)は、コンロッド2におけるピンボス孔2aの内筒面に支持される部位である。インナ部5のアウタ部4側の端面5aには、アウタ部4のへこみ部4b,4cのそれぞれに対応するように突出部5b,5cが設けられる。
【0029】
一方の突出部5bは、インナ部5の内筒面に連続する曲面から外筒面側に向かって突設された形状であり、中心軸C5を通る平面に平行な平面として形成された一対の第二ガイド面5dと、第二ガイド面5dに対し垂直な平面として形成された第二ストッパ面5eとを有する。第二ガイド面5dは、アウタ部4の第一ガイド面4dに対向する部位であり、第二ストッパ面5eは第一ストッパ面4eに対向する部位である。第二ガイド面5d間の寸法は、第一ガイド面4d上を円滑に滑動しうるように、d1よりもわずかに小さく設定することが好ましい。なお、図1に示す例では、この突出部5bの下端面5gが後述するスプリング6の形状に合わせて傾斜した形状に形成されている。
【0030】
また、他方の突出部5cは、インナ部5の内筒面に連続する曲面から、外筒面に連続する曲面にかけて突設された形状であり、第二ガイド面5dに平行な一対の第四ガイド面5fのみを有する。一対の第四ガイド面5f間の寸法は、d2よりもわずかに小さく形成することが好ましい。
【0031】
これらの一対のアウタ部4及びインナ部5は、それぞれの端面4a,5a同士が面接触した状態で組み合わされて、ピストン1のピンボス部1bとコンロッド2のピンボス孔2aとに挿通される。これにより、ピストンピン3のアウタ部4はインナ部5に対して滑動自在に変位する。このとき、ピンボス部1bの中心軸C2はアウタ部4の中心軸C4に一致し、ピンボス孔2aの中心軸C3はインナ部の中心軸C5に一致する。また、アウタ部4の第一ストッパ面4eとインナ部5の第二ストッパ面5eとが面接触した状態のとき、アウタ部4の中心軸C4はインナ部の中心軸C5に一致する。
【0032】
また、アウタ部4及びインナ部5同士の相対変位の方向は、それぞれの端面4a,5aに沿った方向であって、第一ガイド面4d及び第二ガイド面5dに沿った方向(第三ガイド面4f及び第四ガイド面5fに沿った方向と同一)である。したがって、第一ガイド面4d及び第二ガイド面5dがピストン1の中心軸C1に平行であれば、アウタ部4がインナ部5に対して中心軸C1方向に滑動可能となる。
【0033】
[1−4.スプリング]
スプリング6(弾性部材)は、アウタ部4とインナ部5との間に介装される部材であり、ピストンピン3の中空の内部に挿入されている。このスプリング6は、図1に示すように、棒状の部材を波形に屈曲させた形状であり、ピストンピン3の内部で各アウタ部4の内周面上部に接触する第一当接部6aと、インナ部5の内周面下部に第二当接部6bとを有する。
【0034】
第一当接部6aは、波形の極大点に相当する部位であり、アウタ部4に対してピストン1側(ピストン1のヘッド側)への押圧力を作用させる。一方、第二当接部6bは、波形の極小点に相当する部位であり、インナ部5に対してコンロッド2側(クランクシャフト側)への押圧力を作用させる。二つの第一当接部6aを通る直線と第二当接部6bとの距離は、アウタ部4及びインナ部5の内径よりも大きく形成される。これにより、アウタ部4はインナ部5に対してピストン1の方向に向かって付勢され、他の外力が加えられない限りインナ部5との間に変位を生じさせる。一方、スプリング6の付勢力に対抗する外力が作用した場合には、その外力とスプリング6の付勢力とに応じて変位の大きさが変化する。したがって、スプリング6は、ピストン1に作用する圧力に応じてアウタ部4をインナ部5に対してピストン1の滑動方向に変位させる弾性部材として機能する。
【0035】
また、スプリング6の第一当接部6aよりも第二当接部6b側の位置には、アウタ部4とインナ部5との変位の最大値を制限する第三当接部6cが設けられる。この第三当接部6cは、アウタ部4に対してコンロッド2側へと変位したインナ部5と接触する部位である。図1に示す例では、突出部5bの下端面5gがスプリング6の第三当接部6cに当接した状態が示されている。アウタ部4とインナ部5との変位の最大値h0は、アウタ部4及びインナ部5の滑動方向についての第一当接部6aから第三当接部6cまでの距離に相当する。
【0036】
[2.接続構造]
ピストンピン3のピストン1及びコンロッド2に対する接続の態様としては、以下の三通りが考えられる。上記のピストン1及びコンロッド2間の接続構造では、何れの接続態様も利用可能である。
〔1〕ピストン1に対して浮動、かつ、コンロッド2に対して浮動
〔2〕ピストン1に対して固定、かつ、コンロッド2に対して浮動
〔3〕ピストン1に対して浮動、かつ、コンロッド2に対して固定
【0037】
例えば、上記の〔1〕は、アウタ部4の外筒面とピンボス部1bの内筒面とを摺動自在に設け、かつ、インナ部5の外筒面とピンボス孔2aの内筒面とを摺動自在に設けたもの(すなわち、フルフロートタイプのもの)である。また、上記の〔2〕はアウタ部4をピンボス部1bに圧入し、コンロッド2とインナ部5との結合をルーズにしたものである。これらの場合、コンロッド2の揺動がインナ部5との摺動面で吸収されるため、ピストンピン3自体の揺動が抑制される。
上記の〔3〕は、ピストン1とピストンピン3との結合をルーズにし、インナ部5をピンボス孔2aに圧入したものである。この場合、ピストンピン3はコンロッド2とともに揺動するが、この揺動はピンボス部1bとの摺動面で吸収される。
【0038】
[3.作用]
[3−1.圧縮比の変更]
図4(a),(b)を用いて、上記の〔1〕の接続態様が適用されたピストンピン3を備えたエンジンにおけるピストン1の動作を説明する。なお、ここでは摺動面の軸受やピストンピン3の抜け落ちを防止するためのサークリップ等の記載を省略する。
【0039】
燃焼室内の圧力が比較的低圧である場合には、ピストン1の上面に作用する筒内圧力が低く、スプリング6の付勢力の方が優位に作用する。これにより、図4(a)に示すように、ピストンピン3のアウタ部4がインナ部5に対して図中の上方向に押圧される。このとき、アウタ部4では第一ストッパ面4eがインナ部5の第二ストッパ面5eから離間し、インナ部5では突出部5bの下端面5gがスプリング6に当接した状態となる。インナ部5の中心軸C5(すなわち、コンロッド2のピンボス孔2aの中心軸C3)からピストン1の頂面までの距離は、h1+h0となる。
【0040】
一方、燃焼室内の圧力が上昇すると、ピストン1の上面に作用する筒内圧力が増加するため、スプリング6の付勢力よりも筒内圧力の方が優位となる。これにより、図4(b)に示すように、ピストンピン3のアウタ部4がインナ部5に対して図中の下方向に押圧される。このとき、筒内圧力が十分に大きければ、アウタ部4の第一ガイド面4dがインナ部5の第二ガイド面5dに沿って滑動し、アウタ部4の第一ストッパ面4eがインナ部5の第二ストッパ面5eに当接した状態となる。したがって、インナ部5の中心軸C5からピストン1の頂面までの距離は、h1となる。
【0041】
これにより、図4(a)に示す状態と比較して、燃焼室の容積がシリンダの断面積に距離h0を乗じた分だけ増大し、圧縮比が減少する。なお、圧縮比の減少量は距離h0及びシリンダ断面積に依存する。車両用の典型的なエンジン(例えば、自動車用エンジン)を想定した試算では、距離h0を0.5〜1.0[mm]とすることで、圧縮比が1〜2程度減少することが確認された。
【0042】
[3−2.アウタ部とインナ部との滑動性]
ピストンピン3がピストン1及びコンロッド2の双方に対して浮動する接続構造では、コンロッド2の揺動がピストンピン3に入力されない。これにより、アウタ部4の第一ガイド面4dとインナ部5の第二ガイド面5dとの面圧が低下し、アウタ部4とインナ部5との円滑な滑動性が確保される。また、仮に中心軸C5を中心とした回転方向の力がインナ部5に作用したとしても、その力がコンロッド2側に伝達されるおそれがない。アウタ部4においても同様であり、仮に中心軸C4を中心とした回転方向の力がアウタ部4に作用したとしても、その力はピストン1側に伝達されない。
【0043】
なお、アウタ部4とピストン1との結合をルーズとした場合、アウタ部4及びインナ部5の滑動方向がピストン1の摺動方向(上下方向)に対して傾く可能性がある。しかしながら、ピストンピン3はフルフロートの状態であるから、スプリング6の付勢力によってアウタ部4及びインナ部5の変位が増大する方向にピストンピン3が回転し、傾きが修正される。したがって、ピストンピン3のアウタ部4及びインナ部5の位置は、図4(a),(b)に示すような状態へと自動的に修正される。
【0044】
[4.効果]
このように、上記のエンジンによれば、ピストンピン3のアウタ部4とインナ部5との間にスプリングを介装することで、燃焼室内の圧力に応じて圧縮比を変更することができる。また、ピストン1及びコンロッド2を変更する必要がないため、エンジンの重量増加を回避することができるとともに、ピストン1の耐久性を確保することができる。さらに、ピストンピン3の内部で変位が生じる構造のため、汎用性が高く、従来のピストン1及びコンロッド2に対して容易に適用することができ、エンジンの製造コストを削減することができる。
【0045】
また、上記のエンジンでは、アウタ部4がピストン1のヘッド部1a側に付勢され、インナ部5がクランクシャフト側に付勢されている。これにより、燃焼室の圧力が低い状態では、圧縮比が高い状態を維持して燃焼安定性及び燃費を改善でき、燃焼室の圧力が高くなると、圧縮比を低下させてノッキングの発生を抑制し燃焼安定性を確保することができる。
【0046】
また、上記のエンジンでは、ピストンピン3のアウタ部4,インナ部5のそれぞれに、ピストン1の摺動方向に平行な第一ガイド面4d,第二ガイド面5dが形成されている。これにより、インナ部5に対するアウタ部4の相対変位の方向をピストン1の摺動方向に矯正することができ、確実に圧縮比を変更することができる。
なお、前述の通り、ピストンピン3がフロフロートタイプである場合には、第一ガイド面4d,第二ガイド面5dの傾斜方向がピストン1の摺動方向に平行でなかったとしても、スプリング6の付勢力によって自動的に傾斜を補正することができ、確実に圧縮比を変更することができる。
【0047】
また、上記のエンジンでは、ピストンピン3のアウタ部4,インナ部5のそれぞれに、ピストン1の摺動方向に垂直な第一ストッパ面4e,第二ストッパ面5eが形成されている。これにより、インナ部5に対するアウタ部4の相対変位の上限を設定することができ、圧縮比を正確に変更することができる。例えば、燃焼室内の圧力が比較的低圧である低負荷状態での圧縮比を固定することができる。
さらに、上記の〔1〕の接続態様が適用されたピストンピン3を備えたエンジンでは、コンロッド2とインナ部5との摺動面でコンロッド2側の揺動が吸収されるため、ピストンピン3の揺動を確実に防止することができる。これにより、アウタ部4とインナ部5との相対変位をより確実に、ピストン1の摺動方向に矯正することができる。
【0048】
また、上記のピストンピン3は、アウタ部4及びインナ部5の双方が中空に形成されており、その中空部分にスプリングを挿入した形状であるから、ピストン1やコンロッド2の設計変更や加工が不要であり、簡素な構成で容易にアウタ部4及びインナ部5に付勢力を与えることができる。
さらに、上記のピストンピン3は、スプリング6に三種類の当接部6a,6b及び6cを形成することで、容易に圧縮比を変更する構造を実現することができる。すなわち、第一当接部6a及び第二当接部6bにより燃焼室容積を減少させておくことができるとともに、燃焼圧力の上昇時に燃焼室容積を増大させることができる。また、第三当接部6cにより、燃焼室容積を増大させたときの変位を固定することができ、圧縮比を維持することができる。
【0049】
なお、筒内圧力とアウタ部4の第一ストッパ面4e及びインナ部5の第二ストッパ面5eの距離(すなわち、アウタ部4とインナ部5との間の相対変位)との関係は、図5に例示するように、スプリング6の付勢力に応じて変化する。したがって、筒内圧力の増加に対して距離が減少し始める圧力P1や距離が0となる圧力P2,距離の変化勾配等は、エンジンの筒内圧力に係るパラメータを考慮してスプリング6の付勢力を定めることで、任意に設定することができる。
【0050】
[5.変形例]
[5−1.第二スプリング]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
図6に示すピストン1及びコンロッド2の接続構造は、図1に示すスプリング6の形状を変更したものである。ここで使用されている第二スプリング7は、棒状の部材を側面視におけるドアノブの輪郭状に屈曲した形状の弾性部材であり、第一拡径部7a,くびれ部7b及び第二拡径部7cを備えて構成される。
【0051】
第一拡径部7aは、アウタ部4に内挿される部位であり、アウタ部4の内周面を拡径方向に付勢する部位である。これにより、第一拡径部7aはアウタ部4内に固定される。一方、第二拡径部7cは、インナ部5に内挿され、インナ部5の内周面を拡径方向に付勢する部位である。これにより、第二拡径部7cはインナ部5内に固定される。
また、くびれ部7bは、第一拡径部7aによって固定されるアウタ部4の中心軸C4の位置と、第二拡径部7cによって固定されるインナ部5の中心軸C5の位置とを相違させたまま、第一拡径部7aと第二拡径部7cとを接続する部位である。また、くびれ部7bは、弾性変形により第一拡径部7aと第二拡径部7cとの相対変位を許容するように機能する。これにより、第二スプリング7が内挿されたピストンピン3は、他の外力が作用しない限りアウタ部4及びインナ部5の各中心軸C4,C5が変位した状態で固定される。
【0052】
第二スプリング7が適用されたエンジンにおけるピストン1の動作を図7(a),(b)に示す。燃焼室内の圧力が比較的低圧である場合には、くびれ部7bによって与えられるアウタ部4とインナ部5との間の変位が維持される。変位量は、図7(a)中に示すように、第一拡径部7aとアウタ部4の内周面上部との接触部から、第二拡径部7cとインナ部5の内周面上部との接触部までの距離に対応する。またこの距離は、くびれ部7bによって許容される変位方向について、第二スプリング7の成形時における第一拡径部7aから第二拡径部7cまでの距離に相当する。つまり、第二スプリング7の成形形状に応じた大きさの変位がアウタ部4とインナ部5との間に維持される。
【0053】
これにより、アウタ部4の第一ストッパ面4eがインナ部5の第二ストッパ面5eから離間し、アウタ部4によってピストン1が燃焼室側に押し上げられた姿勢となる。アウタ部4とインナ部5との変位量をh0とおくと、インナ部5の中心軸C5からピストン1の頂面までの距離は、上述の実施形態と同様に、h1+h0と表現することができる。
【0054】
一方、燃焼室内の圧力が上昇すると、第一拡径部7aと第二拡径部7cとのずれを減少させる方向の外力がくびれ部7bに作用し、筒内圧力が十分に大きければアウタ部4とインナ部5との変位量が0となる。すなわち、アウタ部4の第一ストッパ面4eがインナ部5の第二ストッパ面5eに面接触し、インナ部5の中心軸C5からピストン1の頂面までの距離は、h1となる。これにより、図7(a)に示す状態と比較して、燃焼室の容積がシリンダの断面積に距離h0を乗じた分だけ増大し、圧縮比が減少する。
【0055】
このように、第二スプリング7が適用されたエンジンにおいても、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。また、第二スプリング7は、アウタ部4及びインナ部5のそれぞれの内周面を付勢するようにばね力を作用させる形状であるから、スプリング6と比べてピストンピン3内での固定状態を維持しやすいというメリットがある。
【0056】
[5−2.その他]
なお、上記の何れの接続態様においても、筒面同士の摺動面には任意の軸受を介装することで浮動させることが可能である。また、固定面には、圧入や嵌入,溶接といった任意の固定手段を適用することができるほか、外形を筒面形状とする代わりに角柱形状にしてもよく、あるいは予め一体形成しておくことも可能である。例えば、上記の〔2〕の接続態様を適用する際に、ピストンピン3のアウタ部4とピストン1とを一体形成してもよい。
【0057】
このような構成により、ピストン1とアウタ部4と間の相対回転が確実に防止され、すなわちアウタ部4の揺動を防止できる。これにより、アウタ部4のインナ部5に対する滑動方向をピストン1の摺動方向に一致させやすくすることができ、アウタ部4とインナ部5との相対変位をより確実に、ピストン1の摺動方向に矯正することができる。
【0058】
また、上述の実施形態では、棒状の部材を屈曲形成したスプリング6を例示したが、これに代えて、あるいは加えて、アウタ部4及びインナ部5間に相対変位を生じさせる任意の弾性部材を用いることができる。例えば、板ばねや皿ばね,コイルばねといった金属ばねや、耐熱樹脂ばね,セラミックばねといった非金属ばねや、空気ばね、磁気ばね等を用いてもよい。
【0059】
なお、上記のピストン1及びコンロッド2間の接続構造の適用対象となるエンジンの種類は任意であり、ガソリンエンジン,ディーゼルエンジンの双方に適用することができる。少なくとも、コンロッド2を介してピストン1の往復摺動をクランクシャフトの回転運動に変換する形式のエンジンであれば、ピストン1及びコンロッド2間に上記のピストンピン3を軸装することで、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【符号の説明】
【0060】
1 ピストン
2 コネクティングロッド(コンロッド)
3 ピストンピン(軸部材)
4 アウタ部(第一軸部)
4d 第一ガイド面
4e 第一ストッパ面
5 インナ部(第二軸部)
5d 第二ガイド面
5e 第二ストッパ面
6 スプリング(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダの内部で摺動自在に設けられたピストンと、
前記ピストンをクランクシャフトに接続するコネクティングロッドと、
前記ピストン側に支持された第一軸部及び前記コネクティングロッド側に支持された第二軸部を有し、前記ピストンと前記コネクティングロッドとを接続する軸部材と、
前記第一軸部及び前記第二軸部間に介装され、前記ピストンに作用する圧力に応じて前記第一軸部を前記第二軸部に対して前記ピストンの摺動方向に変位させる弾性部材と
を備えたことを特徴とする、エンジン。
【請求項2】
前記弾性部材が、前記第一軸部を前記ピストンのヘッド側に付勢し、前記第二軸部を前記クランクシャフト側に付勢する
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジン。
【請求項3】
前記第一軸部が、前記ピストンの摺動方向に平行な第一ガイド面を有し、
前記第二軸部が、前記第一ガイド面に対向する第二ガイド面を有する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のエンジン。
【請求項4】
前記第一軸部が、前記ピストンの摺動方向に非平行な第一ストッパ面を有し、
前記第二軸部が、前記第一ストッパ面に対向する第二ストッパ面を有する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のエンジン。
【請求項5】
前記第二軸部が、前記コネクティングロッドに対して揺動自在に支持される
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジン。
【請求項6】
前記第一軸部が、前記ピストンに対して固定支持される
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のエンジン。
【請求項7】
前記第一軸部及び前記第二軸部が、中空に形成され、
前記弾性部材が、前記第一軸部及び前記第二軸部の前記中空に内挿されている
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載のエンジン。
【請求項8】
前記弾性部材が、
前記第一軸部の内筒面に当接し、前記第一軸部を前記ピストンのヘッド側へと付勢する第一当接部と、
前記第二軸部の内筒面に当接し、前記第二軸部を前記コネクティングロッド側へと付勢する第二当接部と、
前記第一軸部又は前記第二軸部の内筒面に当接し、前記第一軸部に対する前記第二軸部の変位の最大値を制限する第三当接部と、を有する
ことを特徴とする、請求項7記載のエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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