説明

エンド−β−1,4−グルカナーゼ、酵素組成物、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド構造体、組換プラスミド、形質転換微生物、及びエンド−β−1,4−グルカナーゼの製造方法

【課題】中温〜高温、弱酸性〜弱アルカリ性、弱イオン強度〜高イオン強度といった幅広い条件で安定に存在し、活性を示すエンド−β−1,4−グルカナーゼ、それを含む酵素組成物、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド構造体、組換プラスミド、形質転換微生物、及びエンド−β−1,4−グルカナーゼの製造方法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列によりコードされるポリペプチドからなり、pH5〜9.5、28℃〜70℃において活性を示すことを特徴とするエンド−β−1,4−グルカナーゼである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンド−β−1,4−グルカナーゼ、酵素組成物、エンド−β−1,4−グルカナーゼをコードするポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド構造体、組換プラスミド、形質転換微生物、及びエンド−β−1,4−グルカナーゼの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは自然に最も多く存在するバイオマスのひとつであり酸によって分解することが可能である。しかし、酸による分解法は中和の際に発生する大量の石膏や分解時に生ずる黒液の処理等の問題がある。一方、酵素を用いた方法によればこのような処理問題を伴うことなく分解を行うことができる。
【0003】
セルロース分解酵素としては、セルロースのβ−1,4−グルカン結合を加水分解するエンド−β−1,4−グルカナーゼが知られている。エンド−β−1,4−グルカナーゼは、材料・食品等の製造、並びに衣料用洗浄剤、古紙の漂白剤等として有用である。エンド−β−1,4−グルカナーゼは、カビや細菌などの多くの微生物により生産される。
【0004】
所定の微生物により生産されたセルラーゼは、エキソセロビオヒドロラーゼ(EC3.2.1.91)(CBH)、エンド−β−1,4−グルカナーゼ(EC3.2.1.4)(EG)、β-グルコシダーゼ(EC3.2.1.21)(BG)として同定されたものを含むいくつかの異なった酵素群からなる(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
ところで、通常、酵素は37℃前後、中性、低イオン強度といったマイルドな条件でその最適活性を示し、高温、酸性、高イオン強度といった条件では酵素が安定に存在できず、活性を示さない。このため、このような条件下で活性を示す酵素の探索が行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、30〜60℃、pH3〜5において活性を示すβ−グルコシダーゼが記載されている。特許文献2には、30〜35℃、pH5〜7において活性を示すセルラーゼが記載されている。特許文献3には、70℃、pH5.6〜8.5において活性を示すセルラーゼが記載されている。特許文献4には、50〜95℃、pH5.4〜6において活性を示すエンド−β−1,4−グルカナーゼが記載されている。特許文献5には、60℃以下、pH5〜6において活性を示すセルラーゼが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−28912号公報
【特許文献2】特許第4050060号
【特許文献3】特開2008−193990号公報
【特許文献4】特許第4257979号
【特許文献5】特許第3030349号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ウッド等著、Methods in Enzymology 160、25、234頁(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、セルロースが有するグリコシド結合は非常に強固であり、マイルドな条件では十分な分解効率が得られず、時間、エネルギー的に非常に不利である。
【0010】
本発明は以上のような技術的背景の下になされたものであり、中温〜高温、弱酸性〜弱アルカリ性、弱イオン強度〜高イオン強度といった幅広い条件で安定に存在し、活性を示すエンド−β−1,4−グルカナーゼ、それを含む酵素組成物、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド構造体、組換プラスミド、形質転換微生物、及びエンド−β−1,4−グルカナーゼの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一の態様は、配列番号1に示す塩基配列によりコードされるポリペプチドからなり、pH5〜9.5、28℃〜70℃において活性を示すことを特徴とするエンド−β−1,4−グルカナーゼである。
【0012】
本発明のエンド−β−1,4−グルカナーゼは、Caldivirga maquilingensis JCM10307の内部で発現していてもよい。
【0013】
また、本発明の他の態様は、配列番号2に記載のアミノ酸配列、または、配列番号2に記載のアミノ酸配列から1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたポリペプチドからなり、pH5〜9.5、28℃〜70℃において活性を示すことを特徴とするエンド−β−1,4−グルカナーゼである。
【0014】
本発明のエンド−β−1,4−グルカナーゼは、酵素の精製が可能な条件下で培養された宿主細胞により生成することができる。
【0015】
本発明の他の態様は、前記エンド−β−1,4−グルカナーゼを含有することを特徴とする酵素組成物である。
【0016】
本発明の他の態様は、配列番号1に示す塩基配列、または、配列番号1に示す塩基配列の縮重塩基配列、のいずれかを含み、エンド−β−1,4−グルカナーゼ活性を示すポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチドである。
【0017】
本発明の他の態様は、配列番号2のアミノ酸配列と99%以上同一であるアミノ酸配列からなり、エンド−β−1,4−グルカナーゼ活性を示すポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチドである。
【0018】
本発明の他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含むことを特徴とするポリヌクレオチド構造体である。
【0019】
本発明の他の態様は、(a)前記ポリペプチドと、(b)転写ターミネーターと、を含むことを特徴とする組換プラスミドである。
【0020】
本発明の他の態様は、前記組換プラスミドを保持することを特徴とする形質転換微生物である。
【0021】
本発明の他の態様は、前記形質転換微生物を培養し、得られた培養物からエンド−β−1,4−グルカナーゼを抽出することを特徴とするエンド−β−1,4−グルカナーゼの製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、中温〜高温、弱酸性〜弱アルカリ性、弱イオン強度〜高イオン強度といった幅広い条件で安定に存在し、活性を示すエンド−β−1,4−グルカナーゼ、それを含む酵素組成物、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド構造体、組換プラスミド、形質転換微生物、及びエンド−β−1,4−グルカナーゼの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】反応温度と吸光度との関係を示すグラフである。
【図2】pHと吸光度との関係を示すグラフである。
【図3】イオン強度と吸光度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のエンド−β−1,4−グルカナーゼは、配列番号1に示す塩基配列(Cmaq_1621遺伝子)によりコードされ、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる。
【0025】
本発明のエンド−β−1,4−グルカナーゼは、CMAQ_1621と命名されたタンパク質であり、セルロースのβ−1,4−グルカン結合の加水分解反応を触媒する活性を持つ。この酵素をコードするCmaq_1621遺伝子は好酸好熱菌Caldivirga maquilingensis JCM10307のゲノム中に含まれ、Caldivirga maquilingensis JCM10307の内部で発現している。Cmaq_1621遺伝子によってコードされる酵素を生産し活性を調べたところ、その酵素は幅広い条件で使用することが可能でより高効率なセロオリゴ糖の生産方法であることが見出された。
【0026】
なお、配列番号1に示す塩基配列の縮重塩基配列も、配列番号1に示す塩基配列と同様に、エンド−β−1,4−グルカナーゼをコードする。配列番号1に示す塩基配列または配列番号1に示す塩基配列の縮重塩基配列を含むポリヌクレオチドはDNAであり、原核生物、好ましくは古細菌のDNAライブラリーから単離され、あるいはDNAライブラリーに基づいて生成される。
【0027】
また、配列番号2に記載のアミノ酸配列からセルロースのβ−1,4−グルカン結合の加水分解活性を失わせない程度に、1もしくは複数個のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加といった変異を導入してもよい。このような変異は自然界において生じる変異の他に、人為的な変異も含む。例えば、His-Tag等を付加してもよい。人為的変異を生じさせる手段としては部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができるがこれに限定されるわけではない。変異したアミノ酸の数は、前記した活性を失わせない限り、その個数は制限されないが、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは5アミノ酸以内である。
【0028】
本発明のエンド−β−1,4−グルカナーゼは、セルロース等、一般式(1)で表される化合物の分解処理に利用することができ、セロビオースやセロトリオースのようなセロオリゴ糖を効率的に生成することができる。
【0029】
【化1】

【0030】
本発明のエンド−β−1,4−グルカナーゼは、例えば以下の方法により調整することができる。
まず、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAを調整する。次に、これを転写ターミネーターを含むプラスミド等のベクターに挿入する。次に、ベクターを大腸菌、酵母、カビ等の微生物に導入し、形質転換する。その後、形質転換微生物を培養し、得られた培養液からエンド−β−1,4−グルカナーゼを抽出する。
このようにして得られたエンド−β−1,4−グルカナーゼは、中温〜高温、弱酸性〜弱アルカリ性、弱イオン強度〜高イオン強度といった幅広い条件で安定に存在し、活性を示すため、
【0031】
なお、Caldivirga maquilingensis JCM10307を培養し、培養液をそのままエンド−β−1,4−グルカナーゼの用途に用いてもよい。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAを調整し、これを転写ターミネーターを含むプラスミドベクターpET28a(Novargen社製)に挿入し、これを用いてE.coli BL21株を形質転換した。
形質転換を行った菌をLB培地とともに200ml/500mlのバッフルフラスコに入れ、37℃、200rpmの往復振盪で3〜4時間培養した。
その後、O.D.600=0.8〜1.0にてIPTGによる発現誘導を行った。
その後、温度を15℃に下げて同様に24時間培養し、遠心分離により菌体を回収した。
得られた菌体を超音波破砕し、遠心分離を行った上清より、Ni-affinity columnを用いて、目的となるセルロース分解酵素CMAQ_1621を含む純度95%の精製溶液(酵素組成物)を得た。
上記粗精製溶液を用いて、温度、pH、イオン強度を変えてセルロース分解酵素の反応を計測した。
基質としてカルボキシメチルセルロースを用い、カルボキシメチルセルロースの分解により生じた還元糖の定量をSomogyi-Nelson法により行った(参考文献:福井作蔵著、「還元糖の定量法」、学会出版センター、ソモギ(Somogyi)・M著、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)、195巻、19号)。すなわち、生成したモリブデンブルーによる660nmの波長の吸光度を計測した。標準試料グルコースの濃度とSomogyi-Nelson法による吸光度との関係を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
〔温度依存性〕
(1) 粗精製溶液を以下の濃度となるように調整した。
・Tris-HCl(pH7.5):100mM
・DTT:2mM
・カルボキシメチルセルロース:1%
全体で500μLとした。
(2) 表1に示す各温度で12時間反応させた後、還元糖の定量を行った。
結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
図1は反応温度と吸光度との関係を示すグラフである。CMAQ_1621の至適温度は60℃以上であり、28℃〜68℃においても活性を示すことがわかる。
【0037】
〔pH依存性〕
(1) pHを2〜6.5の範囲で0.5ずつ変えた粗精製溶液を調整した。粗精製溶液は以下の濃度となるように調整した。
・クエン酸緩衝液(pH2〜6.5):100mM
・カルボキシメチルセルロース:1%
全体で500μLとした。
(2) 37℃で12時間反応させた後、カルボキシメチルセルロースの分解により生じた還元糖の定量を行った。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
図2はpHと吸光度との関係を示すグラフである。CMAQ_1621の至適pHは5.5〜6であるが、pH4.5〜9.5においてもエンド−β−1,4−グルカナーゼ活性を示すことがわかった。
【0040】
〔イオン強度依存性〕
(1) KClの濃度を0〜1Mの間で変えた粗精製溶液を調整した。粗精製溶液は以下の濃度となるように調整した。
・Tris-HCl(pH5.5またはpH7.5):100mM
・DTT:2mM
・カルボキシメチルセルロース:1%
・KCl:0mM〜1M
全体で500μLとした。
また、コントロールとして、KCl及び基質であるカルボキシメチルセルロースを含有しない粗精製溶液を調整した。
(2) 37℃、または58℃で12時間反応させた後、カルボキシメチルセルロースの分解により生じた還元糖の定量を行った。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
図3はイオン強度と吸光度との関係を示すグラフである。CMAQ_1621の反応はイオン強度に依存しないことがわかる。
【実施例2】
【0043】
Caldivirga maquilingensis JCM10307をpH3、60℃で嫌気的に16時間培養した。その後、Caldivirga maquilingensis JCM10307の培養液上清をpH6.5の1%カルボキシメチルセルロースの溶液に入れ、50℃で3時間反応させた後、カルボキシメチルセルロースの分解により生じた還元糖の定量を行った。
(結果)
【0044】
【表5】

【0045】
エンド−β−1,4−グルカナーゼがCaldivirga maquilingensis JCM10307の内部で発現しており、それにより還元糖が生じていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示す塩基配列によりコードされるポリペプチドからなり、
pH5〜9.5、28℃〜70℃において活性を示すことを特徴とするエンド−β−1,4−グルカナーゼ。
【請求項2】
Caldivirga maquilingensis JCM10307の内部で発現していることを特徴とする請求項1に記載のエンド−β−1,4−グルカナーゼ。
【請求項3】
配列番号2に記載のアミノ酸配列、または、配列番号2に記載のアミノ酸配列から1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたポリペプチドからなり、
pH5〜9.5、28℃〜70℃において活性を示すことを特徴とするエンド−β−1,4−グルカナーゼ。
【請求項4】
酵素の精製が可能な条件下で培養された宿主細胞により生成されることを特徴とする請求項1または3に記載のエンド−β−1,4−グルカナーゼ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のエンド−β−1,4−グルカナーゼを含有することを特徴とする酵素組成物。
【請求項6】
配列番号1に示す塩基配列、または、配列番号1に示す塩基配列の縮重塩基配列、
のいずれかを含み、エンド−β−1,4−グルカナーゼ活性を示すポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号2のアミノ酸配列と99%以上同一であるアミノ酸配列からなり、エンド−β−1,4−グルカナーゼ活性を示すポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項6または7に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするポリヌクレオチド構造体。
【請求項9】
(a)請求項6または7に記載のポリペプチドと、
(b)転写ターミネーターと、
を含むことを特徴とする組換プラスミド。
【請求項10】
請求項9に記載の組換プラスミドを保持することを特徴とする形質転換微生物。
【請求項11】
請求項10に記載の形質転換微生物を培養し、得られた培養物からエンド−β−1,4−グルカナーゼを抽出することを特徴とするエンド−β−1,4−グルカナーゼの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−109937(P2011−109937A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267144(P2009−267144)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】