説明

エンドデフレクタ方式のボールねじ

【課題】エンドデフレクタ方式のボールねじを、小ストロークで運転した場合や自動給脂装置でグリースをナット内部に供給した場合でも、グリースによる良好な潤滑性能が得られるようにする。
【解決手段】基油の40℃での動粘度が30mm2 /s以上40mm2 /s以下であり、混和ちょう度が300以上330以下であるグリースで潤滑する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンドデフレクタ方式のボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。
エンドデフレクタ方式のボールねじは、前記ボール戻し経路が、前記ナットに形成された軸方向に貫通するボール戻し通路と、その両端に接続されたエンドデフレクタに形成された湾曲路とにより、ナットの内部に形成されているものである。エンドデフレクタ方式のボールねじの従来例としては、例えば、特許文献1に記載されたものが挙げられる。
【0003】
ボールねじを小ストローク(有効巻数の2倍以下の回転に相当するストローク)で運転する際に、基油粘度の高いグリースで潤滑を行うと、ボールねじの発熱量が大きいために高温になって潤滑性能が低下し易くなる。特に、エンドデフレクタ方式のボールねじは、ナットの径方向に貫通する穴がない構造であることからナットの内部に熱がこもりやすいため、十分な対策を講じる必要がある。
さらに、自動給脂装置でグリースをナット内部に供給する際に、混和ちょう度の低いグリースを使用すると、グリースに高圧がかかることで基油と増ちょう剤に分離され易くなるため、グリースによる良好な潤滑性能が得られない恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−48845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、エンドデフレクタ方式のボールねじを、小ストロークで運転した場合や自動給脂装置でグリースをナット内部に供給した場合でも、グリースによる良好な潤滑性能が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明のエンドデフレクタ方式のボールねじは、基油の40℃での動粘度が30mm2 /s以上40mm2 /s以下であり、混和ちょう度が300以上330以下であるグリースで潤滑されていることを特徴とする。
この発明のエンドデフレクタ方式のボールねじによれば、基油の40℃での動粘度が40mm2 /s以下である粘性抵抗が低いグリースを使用することで、小ストロークで運転した場合にボールねじの発熱量が小さくなるため、潤滑性能の低下が抑制される。また、使用するグリースの基油の40℃での動粘度が30mm2 /s未満であると、油膜の強度が強くなって攪拌抵抗が増加することで発熱する場合がある。
【0007】
また、使用するグリースの混和ちょう度を300以上にすることで、グリースを自動給脂装置で給脂した場合にグリースが分離することが抑制され、330を超えるとグリースが流れ易くなり過ぎて、ナット内部にグリースがとどまり難くなる場合がある。
エンドデフレクタ方式のボールねじとは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動するボールねじであって、前記ボール戻し経路が、前記ナットに形成された軸方向に貫通するボール戻し通路と、その両端に接続されたエンドデフレクタに形成された湾曲路とにより、ナットの内部に形成されているものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明のボールねじによれば、特定のグリースで潤滑されていることにより、小ストローク(有効巻数の2倍以下の回転に相当するストローク)で運転した場合や自動給脂装置でグリースをナット内部に供給した場合でも、グリースによる良好な潤滑性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態のボールねじを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、この実施形態のボールねじは、ナット1と、ねじ軸2と、ボール3と、リング状の非接触シール4と、エンドデフレクタ5で構成されている。ナット1の内周面に螺旋溝1aが形成され、ねじ軸2の外周面に螺旋溝2aが形成されている。ナット1の螺旋溝1aとねじ軸2の螺旋溝2aで形成される軌道の間に、ボール3が配置されている。ナット1の軸方向一端にはフランジ11が形成されている。
【0011】
ナット1には、軸方向に延びる貫通穴13が形成されている。ナット1の貫通穴13の両端部に、エンドデフレクタ5を配置する凹部15が形成されている。すなわち、このボールねじのボール戻し経路は、貫通穴13からなるボール戻し通路と、その両端に接続されたエンドデフレクタ5に形成された湾曲路51とにより、ナット1の内部に形成されている。エンドデフレクタ5は接線すくい上げ形状のものを用いている。ナット1の軸方向両端に、非接触シール4が取り付けられている。
【0012】
ナット1には、さらに、内部に潤滑剤を供給する給脂穴6が形成されている。給脂穴6は、ナット1のフランジ11が形成されていない部分の隣り合う螺旋溝1aの間となる位置に、径方向に貫通する貫通穴として形成されている。給脂穴6のナット外周側は拡径されて、給脂配管の先端を挿入して取り付ける取付穴61となっている。
このボールねじを使用する際には、ナット1の給脂穴6の取付穴61に自動給脂装置の給脂配管の先端を取り付けて、給脂穴6からナット1の内部にグリースを供給する。グリースとしては、基油の40℃での動粘度が30mm2 /s以上40mm2 /s以下であり、混和ちょう度が300以上330以下であるグリースを用いる。これにより、小ストローク(有効巻数の2倍以下の回転に相当するストローク)で運転した場合でも、グリースによる良好な潤滑性能が得られる。
【実施例】
【0013】
図1の構造と下記の仕様を有するボールねじを、日本精工(株)製のボールねじ耐久試験機にかけて、下記の条件で耐久試験を行った。
<ボールねじの仕様>
ねじ軸の直径:40mm、BCD(ボール中心直径):41mm、リード:16mm、ボールの直径:6.35mm、予圧荷重:2100N、潤滑剤:グリースNo. 1〜14のいずれか。
グリースNo. 1〜7:混和ちょう度が300〜330の範囲にあり、基油の40℃での動粘度が30、35、40、50、70、130、170mm2 /sの各値であるグリース。
グリースNo. 8〜14:基油の40℃での動粘度が30〜40mm2 /sの範囲にあり、混和ちょう度が270、280、290、300、310、320、330の各値であるグリース。
【0014】
<試験条件>
ストローク:32mm(有効巻数の2倍の回転に相当)
最高回転速度:1000min-1
10体ずつ同じグリースを供給して同じ条件で試験を行い、2週間毎に潤滑不良による破損が生じている試験体の数を調べて、破損確率(%)を算出した。なお、破損確率が小さいほど良好な耐久性を有するものと言えるが、破損確率が0.1%より小さいと特に優れた耐久性を有し(○)、0.1以上であっても0.5未満であれば問題なく(△)、0.5以上であると問題がある(×)という評価ができる。その結果を下記の表1および表2に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
この結果から、使用するグリースの基油の40℃での動粘度が30mm2 /s以上40mm2 /s以下であり、混和ちょう度が300以上330以下であると、エンドデフレクタ方式のボールねじを有効巻数の2倍の回転に相当する小ストロークで運転し、自動給脂装置でグリースを供給した場合でも、良好な耐久性が得られることが分かる。また、このような運転条件および給脂条件であっても、使用するグリースの基油の40℃での動粘度が30mm2 /s以上35mm2 /s以下であり、混和ちょう度が310以上330以下であると、特に優れた耐久性が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0018】
1 ナット
1a ナットの螺旋溝
11 フランジ
13 ボール戻し通路をなす貫通穴
15 エンドデフレクタ取り付け用の凹部
2 ねじ軸
2a ねじ軸の螺旋溝
3 ボール
4 非接触シール
5 エンドデフレクタ
51 湾曲路
6 給脂穴
61 取付部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、
前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動するボールねじであって、
前記ボール戻し経路は、前記ナットに形成された軸方向に貫通するボール戻し通路と、その両端に接続されたエンドデフレクタに形成された湾曲路とにより、ナットの内部に形成され、
基油の40℃での動粘度が30mm2 /s以上40mm2 /s以下であり、混和ちょう度が300以上330以下であるグリースで潤滑されていることを特徴とするエンドデフレクタ方式のボールねじ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−2554(P2013−2554A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134259(P2011−134259)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】