説明

エンドトキシン除去剤およびその除去方法

【課題】所定の酸化チタンを用いて、遮光下において、光触媒活性によらずに、血液または血漿中に存在するエンドトキシンを効率的に除去することができるエンドトキシン除去剤およびそれを用いたエンドトキシンの除去方法を提供する。
【解決手段】700〜1300℃で熱処理された平均気孔径0.025〜1μmの酸化チタン焼結体からなるエンドトキシン除去剤を用いて、該エンドトキシンン除去剤に、遮光下で、エンドトキシンを接触させて、血液または血漿中のエンドトキシンを減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液または血漿中に存在するエンドトキシンを効率的に除去するための除去剤およびそれを用いたエンドトキシンの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンは、大腸菌やサルモネラ菌等のグラム陰性菌の細胞表層に存在するリポ多糖類(LPS)であり、細菌が死ぬことにより初めて遊離する毒素である。
このエンドトキシンは、生体レベル、細胞レベル、分子レベル等の様々なレベルにおいて、多様な生物活性を示すが、特に、生体レベルでは、過剰に作用すると免疫系が暴走し、高熱や全身的な血液凝固等が起こり、致死的なショックを招くおそれがある。
【0003】
手術等においてエンドトキシンに感染し、ショック状態に陥ると、致命率が高い。このような場合の多少の有効な処置として、全血交換や血漿交換を行うことも可能である。
しかしながら、これらの処置は、大量の血液や血漿製剤を必要とし、また、それらによる肝炎やAIDS等の感染の可能性等の問題もある。
【0004】
近年、透析治療の現場において、気孔径の大きい高性能透過膜が汎用されるようになり、それに伴って、透析液中から血液中へのエンドトキシンの流入が問題となっている。
また、生物学的製剤へのエンドトキシンの混入も大きな問題となっている。
【0005】
このため、エンドトキシン除去手段の開発が求められており、最近は、透析治療において血液中へのエンドトキシンの流入を防止するために、疎水性ポリスルフォン膜、疎水性ポリエステルスルフォン膜、ポリエステルポリマーアロイ膜を利用したエンドトキシンフィルタが使用されている。
【0006】
また、ポリスチレン誘導体繊維に抗生物質を固定化させた繊維も、エンドトキシンの吸着、除去に利用されている。
前記抗生物質としては、エンドトキシンのミセル構造を可逆的に解離させ、その発熱活性や致死毒性を低下させる作用を有するポリミキシンB(PMB)が使用されている。
【0007】
さらにまた、白金微粒子を担持させた酸化チタンを用いて、水中のエンドトキシンを分解することができることも開示されている(特許文献1参照)。
【0008】
また、本発明者らは、705℃以下の低温で熱処理された特定の結晶構造を有する酸化チタンがエンドトキシンの吸着除去に有効であることを見出し、提案している(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−286757号公報
【特許文献2】特開2005−152486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記エンドトキシンフィルタは、十分なエンドトキシン除去効果を維持することができる耐用期間に限界があり、該フィルタに、大きなエンドトキシン負荷がかかる場合、耐用期間が非常に短く、頻繁に交換を要するという課題を有していた。
【0010】
また、前記ポリスチレン誘導体繊維に抗生物質を固定化させた繊維は、抗生物質を安定化させるために、モジュール内の充填液は酸性(約pH2)にする必要がある。このため、洗浄には4リットル以上の生理食塩水を使用しなければならない。
しかも、PMBは、その腎毒性が強く、生体内投与では使用量が制限され、エンドトキシン除去のために多量に用いることはできないという課題を有していた。
【0011】
上記以外にも、エンドトキシンを除去または無害化(不活性化)させる試みは、数多く検討されているものの、血液または血漿中のエンドトキシンの吸着剤として開発され、実用化されているものとしては、抗生物質ポリミキシンBを繊維に固定させたトレミキシン(東レメディカル株式会社製:登録商標)程度しかなかった。
【0012】
さらにまた、上記特許文献1に記載されている酸化チタンは、血液または血漿中のエンドトキシンを除去するためのものではなく、その光触媒活性により、水中のエンドトキシンを分解するものであった。
これに対して、本発明者らは、遮光下でも、血液または血漿中のエンドトキシン除去効果を得ることができ、また、上記特許文献2に記載されている酸化チタンよりも強度特性に優れたエンドトキシン除去剤を見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、所定の酸化チタンを用いて用いることで、遮光下において、光触媒活性によらずに、血液または血漿中に存在するエンドトキシンを効率的に除去することができるエンドトキシン除去剤およびそれを用いたエンドトキシンの除去方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るエンドトキシン除去剤は、700〜1300℃で熱処理された平均気孔径0.025〜1μmの酸化チタン焼結体からなることを特徴とする。
上記のような酸化チタンであれば、比表面積が大きく、エンドキシンが含まれる血漿成分の浸透性、エンドキシンの吸着性に優れ、かつ、強度特性にも優れており、血液または血漿中のエンドトキシンの優れた吸着除去能を発揮し得る。
【0015】
前記酸化チタン焼結体は粒径0.1〜5mmの顆粒状であることが好ましい。
エンドトキシン吸着除去能および取扱い容易性等の観点から、上記範囲内の粒径の顆粒が好適に用いられる。
【0016】
また、本発明に係るエンドトキシンの除去方法は、上記エンドトキシン除去剤を用いて、該エンドトキシンン除去剤に、遮光下で、血液または血漿エンドトキシンを接触させて、該血液または血漿中のエンドトキシンを減少させることを特徴とする。
このように、エンドトキシン吸着剤として上記のような酸化チタンを用いることにより、光触媒活性を利用せずに、血液または血漿中のエンドトキシンを効率的に除去することができる。
【発明の効果】
【0017】
上述したとおり、本発明に係るエンドトキシン除去剤は、比表面積が大きく、エンドキシンが含まれる血漿成分の浸透性、エンドキシンの吸着性に優れ、かつ、強度特性にも優れており、血液または血漿中のエンドトキシンの優れた吸着除去能を発揮し得る。
このようなエンドトキシン除去剤を用いた本発明に係るエンドトキシンの除去方法によれば、血液または血漿中に存在するエンドトキシンを、遮光下で、光触媒活性によらずに、効率的に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係るエンドトキシン除去剤は、酸化チタン焼結体からなるものであり、エンドトキシンを含有する血液または血漿を接触させる態様で用いられる。
具体的に、前記エンドトキシン除去剤を血液または血漿を接触させる方法には、バッチ式と循環(灌流)式とがある。
バッチ式では、通液性を有する容器等に前記エンドトキシン除去剤を充填し、該容器をタンクにセットし、エンドトキシンを含む血液または血漿をこのタンク内に供給し、その血液または血漿を所定時間撹拌することにより、血液または血漿と酸化チタンを接触させる。
一方、循環式では、エンドトキシン除去剤を収容したカラム等の容器にエンドトキシンを含有する血液または血漿を流通させることにより、該エンドトキシン除去剤を血液または血漿に接触させ、前記容器から排出される血液または血漿を循環させて再び容器に通して、エンドトキシン除去剤に血液または血漿を再接触させる処理を所定時間行う。
【0019】
本発明に係るエンドトキシン除去剤は、700〜1300℃で熱処理された平均気孔径0.025〜1μmの酸化チタン焼結体からなるものである。
前記平均気孔径が0.025μm未満である場合、血漿成分の浸透性が悪くなり、吸着性が低下する。
一方、平均気孔径が1μmを超える場合、比表面積の大きい酸化チタンを得ることが困難となる。血漿中のエンドトキシンとの接触性が悪くなり、吸着性が低下する。
また、本発明に係る酸化チタン焼結体を得るための熱処理温度が700℃以下である場合、酸化チタンの焼結強度に劣り、血液または血漿と接触している間に破壊するおそれがあり、また、構成粒子が脱粒して、血液または血漿に混入するおそれがある。
一方、熱処理温度が1300℃を超える場合、比表面積が著しく低下し、十分なエンドトキシンの吸着除去能を得るためには、多量の酸化チタンが必要となる。0.025〜1μmの気孔径を得るのが非常に困難になる。
【0020】
また、前記酸化チタン焼結体は、エンドトキシンを含有する血液または血漿を接触させることができればよく、その形状およびサイズは、微粒子状、粉末状、顆粒状であってもよく、また、ペレット状や不定形塊状であってもよい。
なお、上述した循環式においては、前記酸化チタン焼結体が、血漿または血液が流通可能な状態で、容器内に収容されていればよく、柱状多孔質体とすることもできる。この場合、柱状多孔体の長手方向の一端から他端へ血漿または血液が通過するような構成とし、該柱状多孔質体のサイズおよび気孔率は、許容圧力損失および所望のエンドトキシン吸着除去能を考慮して適宜決定すればよい。
同様に、板状多孔質体として、その厚さ方向に通液させる構成とすることもできる。
【0021】
前記酸化チタン焼結体は、特に、粒径0.1〜5mmの顆粒状であることが好ましい。
前記酸化チタン焼結体からなるエンドトキシン除去剤は、血液または血漿に接触させる際、血液または血漿への分散を回避する、あるいはまた、分散後に分離回収する手段を設ける必要があるが、エンドトキシン吸着除去能および取扱い容易性等の観点から、上記範囲内の粒径の顆粒が好適に用いられる。
特に、上述した循環式においては、上記のような酸化チタン粒子であれば、比表面積の大きい状態で、所望の吸着除去能を確保しながら、液循環の圧力損失を抑制して、カラム等の容器に充填することができるため好ましい。
【0022】
なお、酸化チタン自体(酸化チタン原料)の製造方法は、一般に、硫酸チタンを加水分解して焼成する硫酸法、四塩化チタンを高温で酸化する塩素法、焼成時に揮発する酸性またはアルカリ性化合物の水溶液中でチタンアルコキシド化合物を処理して酸化チタンを沈殿物として得るゾル‐ゲル合成法等がある。本発明においては、これらのいずれの製造方法による酸化チタン原料を用いても、良好なエンドトキシン吸着除去性能が得られる。
本発明においては、血液または血漿中におけるエンドトキシンを除去する医用目的で使用するため、また、エンドトキシン除去効果の観点から、塩素や有機物の含有量が少ないことが好ましく、このため、硫酸法またはそれに類する方法により得られるものを用いることが好ましい。
【0023】
上記のような本発明に係る酸化チタン焼結体からなるエンドトキシン除去剤を用いれば、該エンドトキシン除去剤に、遮光下で、血液または血漿中エンドトキシンを接触させて、血液または血漿中のエンドトキシンを減少させることができる。
すなわち、酸化チタンを用いて、光触媒活性によることなく、より効率的に、血液または血漿中のエンドトキシン濃度の低減化を図ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
酸化チタン原料としてTAF1500J(富士チタン工業株式会社製)150g、水300gをポットに入れ、樹脂ボールを用いて、ポットミルにてスラリーを調製した。
このスラリーを室温乾燥し、得られた酸化チタンの塊を、粉砕し、粒径0.5〜1.2mmに分級した後、大気中で200℃/hrで昇温し、700℃で2時間保持する熱処理を行い、酸化チタン顆粒を得た。
得られた酸化チタンの細孔径分布を水銀ポロシメータ(マイクロメトリックス社製オートポア9500)で測定した結果、平均気孔径は0.035μmであった。
【0025】
上記により作製された酸化チタン顆粒について、以下の方法により、エンドトキシン除去能の評価を行った。
前記酸化チタン顆粒を直径15mmのカラムに充填し、このカラムを、循環ポンプを備えた回路に設置した。この回路にエンドトキシン(E.coli O111B4由来Invivogen社製)を添加したC型肝炎血漿70mlを15ml/minで灌流し、一定時間毎に溶液を採取し、エンドトキシン濃度を測定した。
【0026】
[比較例1]
ブランクとして、実施例1で説明した酸化チタンをカラムに充填せずに、実施例1と同様の方法で、エンドトキシンを添加したC型肝炎血漿を灌流し、エンドトキシン濃度の経時変化を測定した。
【0027】
[比較例2]
敗血症治療用として臨床使用されているエンドトキシン吸着除去モジュール(東レメディカル社製トレミキシン PMX−05R)を、実施例1と同様の方法で、エンドトキシンを添加したC型肝炎血漿360mlを灌流し、エンドトキシン濃度の経時変化を測定した。
【0028】
図1に、実施例1および比較例1,2におけるエンドトキシン濃度の経時変化のグラフを示す。
図1から分かるように、本発明に係る酸化チタンを用いた場合(実施例1)の血漿中のエンドトキシン濃度は、比較例1,2に比べて大きく低下しており、酸化チタンの吸着作用により血漿中のエンドトキシンを除去することができることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1および比較例1,2における血漿中のエンドトキシン濃度の経時変化を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
700〜1300℃で熱処理された平均気孔径0.025〜1μmの酸化チタン焼結体からなることを特徴とするエンドトキシン除去剤。
【請求項2】
前記酸化チタン焼結体が粒径0.1〜5mmの顆粒状であることを特徴とする請求項1記載のエンドトキシン除去剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のエンドトキシン除去剤を用いて、該エンドトキシンン除去剤に、遮光下で、血液または血漿エンドトキシンを接触させて、該血液または血漿中のエンドトキシンを減少させることを特徴とするエンドトキシンの除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−272149(P2008−272149A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118121(P2007−118121)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】