説明

オイルリング及び内燃機関

【課題】下側レール部の下面がリング溝の対向面に貼り付くことに起因してオイル消費が増大することを抑制することのできるオイルリング及び内燃機関を提供する。
【解決手段】オイルリング4は、ピストン2の外周面に形成されたリング溝3に装着されている。また、リング溝3において互いに対向する一対の上側対向面31及び下側対向面32上をそれぞれ摺動可能な一対の上側レール部51及び下側レール部52と、これらレール部51,52を連結する連結部53とを有している。連結部53にはオイルリング4の径方向に貫通するオイル戻し孔54が形成されている。オイルリング4の下側レール部52の下面にはリング本体5の径方向における中央位置にリング本体5の全周にわたって延びる全周溝56が形成されている。また、下側レール部52の下面には下側レール部52の内周面と全周溝56とを接続する接続溝57が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機関ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着されるオイルリング及び同オイルリングを備える内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダ内にはピストンが往復動可能に設けられており、このピストンの外周面に形成された複数のリング溝にはピストンリングが装着されている。具体的には、ピストンの軸線方向において燃焼室に近い順に、トップリング、セカンドリング、及びオイルリングがそれぞれ装着されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
トップリング及びセカンドリングは、燃焼室で生じた燃焼ガスがピストンとシリンダとの間から漏れないようにこれらの間をシールする機能を有している。尚、一般に、トップリング及びセカンドリングはコンプレッションリングと総称される。
【0004】
また、オイルリングは、エンジンオイルを必要最小限の量だけシリンダのボア壁面に供給するとともに、余剰のオイルを掻き落とす機能を有している。
図5に示すように、オイルリング404は、リング本体405とリング本体405の内周側に位置してリング本体405を外周側に付勢するコイルエキスパンダ6とを備えている。リング本体405は、リング溝3の上側対向面31上を摺動可能な上側レール部451、上側対向面31に対向する下側対向面32上を摺動可能な下側レール部452、及びこれらレール部451,452を連結する連結部453とを有している。これらレール部451,452は連結部453よりも内周側及び外周側の双方に突出している。すなわち、リング本体405は断面略I字状をなしている。また、連結部453には、オイルリング404の径方向に貫通する複数のオイル戻し孔454が形成されている。尚、オイル戻し孔454はオイルリング404の周方向において所定間隔毎に形成されている。連結部453の内周面は断面円弧状に形成されており、コイルエキスパンダ6が収容される収容部455とされている。
【0005】
こうしたオイルリング404を備える内燃機関では、ピストン2の往復動に伴って上側レール部451及び下側レール部452の外周面がシリンダのボア壁面1上を摺動することにより、ボア壁面1に付着している余剰なオイルが掻き落とされ、オイル戻し孔454を通じてリング溝3内に導入される。そして、リング溝3内のオイルは、リング溝3の底面33に形成された排出通路(図示略)を通じてクランクケースに戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006―322390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図6に期間A1、A2として示すように、ピストン2が上動し、且つピストン2の加速度がプラス、すなわち上方に向かう速度が増大しているときには、リング溝3内のオイルリング404及びオイルは下側対向面32に押し付けられた状態となる。その後、図6に期間B1、B2として示すように、ピストン2が上動し、且つピストン2の加速度がマイナス、すなわち上方に向かう速度が減少するようになると、図7に示すように、リング溝3内のオイルは直ぐさま上側対向面31に向けて相対移動する。このとき、下側レール部452の下面が下側対向面32に密着して貼り付いているため、リング本体405が下側対向面32から離脱するまでに、ある程度の時間を要することとなる。その結果、上側対向面31近傍に移動しているオイルが上側レール部451の上面と上側対向面31との間隙を通じて流出し、ピストン2の外周面とボア壁面1との間隙から上方に流出することで、オイル消費が増大するといった問題が生じる。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、下側レール部の下面がリング溝の対向面に貼り付くことに起因してオイル消費が増大することを抑制することのできるオイルリング及び内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、機関ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、前記リング溝において互いに対向する一対の対向面上をそれぞれ摺動可能な一対のレール部と、これらレール部を連結する連結部とを有するリング本体と、同リング本体の内周側に位置して同リング本体を外周側に付勢するコイルエキスパンダとを備えるオイルリングにおいて、前記一対のレール部において当該オイルリングの軸線方向における燃焼室側のものを上側レール部とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側レール部とするとき、前記下側レール部の下面には前記リング本体の全周にわたって凹部が形成されてなることをその要旨としている。
【0010】
同構成によれば、下側レール部の下面に全周にわたって凹部が形成されているため、下側レール部の下面全体が平面状をなす従来構成とは異なり、下側レール部の下面の径方向における幅、すなわちシール幅が小さなものとなる。このため、リング溝の下側対向面に対して下側レール部が密着しにくくなりこれを貼り付かせる力が全周にわたって小さくなる。これにより、下側対向面から下側レール部が早期に脱離するようになる。これらのことから、機関ピストンの加速度が上向きから下向きに反転した後にリング溝内のオイルが上側対向面に向けて相対移動すると、リング本体がこれに追従するようになり、上側レール部の上面が上側対向面に早期に接するようになる。その結果、上側レール部の上面と上側対向面との間を通じてリング溝の内部のオイルが燃焼室側に流出することを抑制することができる。従って、下側レール部がリング溝の対向面に貼り付くことに起因してオイル消費が増大することを抑制することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のオイルリングにおいて、前記凹部は前記下側レール部の下面において前記リング本体の径方向の中央位置に形成され、前記下側レール部の下面には前記下側レール部の内周面及び外周面の少なくとも一方と前記凹部とを接続する接続溝が更に形成されてなることをその要旨としている。
【0012】
下側レール部の下面のシール幅を小さくするほど、リング溝の下側対向面に対して下側レール部が密着しにくくなり、下側対向面に対して下側レール部を貼り付かせる力は小さくなる。しかしながら、下側レール部の下面のシール幅を過度に小さくすると、下側対向面との接触面積が小さくなり、接触面圧が大きくなることで下側対向面或いはリング本体が摩耗しやすくなるといった新たな問題が生じる。
【0013】
また、凹部を下側レール部の外周側端部を含むものとした場合には、機関運転中にリング本体が傾動して姿勢が不安定なものとなるおそれがある。
この点、上記構成によれば、下側レール部の下面がリング溝の下側対向面に密着して貼り付こうとするときに、下側レール部に形成された接続溝を通じて凹部に空気やオイルが導入される。このため、下側対向面に対して下側レール部が密着しにくくなりこれを貼り付かせる力が小さくなる。
【0014】
更に、接続溝を通じて凹部に空気やオイルを導入することが可能となるため、下側対向面に対して下側レール部を貼り付かせる力を小さくしつつも、凹部自体の径方向における幅を小さくすることが可能となる。すなわち、下側レール部の下面のシール幅をある程度大きいものとしても、リング溝の下側対向面に対して下側レール部を貼り付かせる力を的確に小さくすることが可能となる。従って、リング溝の下側対向面或いはリング本体の摩耗を抑制することができる。
【0015】
また、凹部は下側レール部の下面においてリング本体の径方向の中央位置に形成されており、下側レール部の外周側端面はシール面とされているため、機関運転中においてリング本体の姿勢の不安定化を抑制することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のオイルリングにおいて、前記接続溝は前記リング本体の周方向において複数形成されてなることをその要旨としている。
同構成によれば、下側レール部の下面に形成された凹部に対して複数の接続溝を通じて空気やオイルが導入される。これにより、リング溝の下側対向面に対して下側レール部の下面を貼り付かせる力が好適に弱められる。尚、このような貼り付かせる力をオイルリングの周方向において均等に弱める上では、複数の貫通孔をオイルリングの周方向において等間隔にて形成することが望ましい。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のオイルリングにおいて、前記凹部は前記下側レール部の内周側端部を含む内側凹部及び前記下側レール部の外周側端部を含む外側凹部の少なくとも一方を有してなることをその要旨としている。
【0018】
同構成によれば、下側レール部の内周側端部を含む内側凹部や下側レール部の外周側端部を含む外側端部を全周にわたって形成することによって請求項1に記載の凹部を具現化することができる。この場合、例えばリング本体を成形するための型形状を一部変更するだけで凹部を成形することが可能となるため、下側レール部の下面に凹部を設定することに起因してオイルリングの製造工程の複雑化を回避することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のオイルリングにおいて、前記一対の対向面において当該ピストンの軸線方向における燃焼室側のものを上側対向面とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側対向面とするとき、前記上側対向面と前記上側レール部の上面とが当接した際のシール性が前記下側対向面と前記下側レール部の下面とが当接した際のシール性よりも高くなるように前記上側レール部の上面の形状が設定されてなることをその要旨としている。
【0020】
同構成によれば、上側レール部の上面が下側レール部の下面に比べて高いシール性を発揮する形状とされている。このため、上側レール部の上面が上側対向面に当接すると、上側レール部の上面と上側対向面との間が好適にシールされることでリング溝の内部のオイルが燃焼室側に流出することを的確に抑制することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、機関ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、前記リング溝において互いに対向する一対の対向面上をそれぞれ摺動可能な一対のレール部と、これらレール部を連結する連結部とを有するリング本体と、同リング本体の内周側に位置して同リング本体を外周側に付勢するコイルエキスパンダとを備えるオイルリングにおいて、前記一対のレール部において当該オイルリングの軸線方向における燃焼室側のものを上側レール部とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側レール部とするとき、前記下側レール部の下面は前記上側レール部の上面よりも表面粗さが大きくされてなることをその要旨としている。
【0022】
同構成によれば、下側レール部の下面の表面粗さが上側レール部の上面と同一とされる従来構成とは異なり、リング溝の下側対向面に対して下側レール部の下面が当接した状態においてこれらの間を通じてオイルが漏出しやすくなる。これにより、リング溝の対向面に対して下側レール部が密着することが抑制され、当該対向面に対して下側レール部を貼り付かせる力が全周にわたって小さくなる。このため、リング溝の対向面から下側レール部が早期に脱離するようになる。その結果、機関ピストンの加速度が上向きから下向きに反転した後にリング溝内のオイルが上側対向面に向けて相対移動すると、リング本体がこれに追従するようになり、上側レール部の上面が上側対向面に早期に接するようになる。これらのことから、上側レール部の上面と上側対向面との間を通じてリング溝の内部のオイルが燃焼室側に流出することを抑制することができる。従って、下側レール部がリング溝の対向面に貼り付くことに起因してオイル消費が増大することを抑制することができる。
【0023】
また、下側レール部の下面に比べて上側レール部の上面の表面粗さは小さくされているため、上側レール部の上面と上側対向面とが接した際のシール性は高いものとなる。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のオイルリングを備える内燃機関をその要旨としている。
【0024】
同構成によれば、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明の作用効果に準じた作用効果を奏することができる。
請求項8に記載の発明は、機関ピストンと、同機関ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、前記リング溝において互いに対向する一対の対向面上をそれぞれ摺動可能な一対のレール部と、これらレール部を連結する連結部とを有するリング本体と、同リング本体の内周側に位置して同リング本体を外周側に付勢するコイルエキスパンダとを備えるオイルリングとを備える内燃機関において、前記一対のレール部において当該オイルリングの軸線方向における燃焼室側のものを上側レール部とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側レール部とし、前記一対の対向面において当該ピストンの軸線方向における燃焼室側のものを上側対向面とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側対向面とするとき、前記下側対向面と前記下側レール部の下面とが当接した際のシール性が前記上側対向面と前記上側レール部の上面とが当接した際のシール性よりも低くなるように、前記下側対向面、前記下側レール部の下面、前記上側対向面、及び前記上側レール部の上面の表面粗さが設定されてなることをその要旨としている。
【0025】
同構成によれば、下側対向面と下側レール部の下面とが当接した際のシール性が上側対向面と上側レール部の上面とが当接した際のシール性と同一とされる従来構成とは異なり、下側対向面に対して下側レール部の下面が当接した状態においてこれらの間を通じてオイルが漏出しやすくなる。これにより、下側対向面に対して下側レール部が密着することが抑制され、下側対向面に対して下側レール部を貼り付かせる力が全周にわたって小さくなる。このため、下側対向面から下側レール部が早期に脱離するようになる。その結果、機関ピストンの加速度が上向きから下向きに反転した後にリング溝内のオイルが上側対向面に向けて相対移動すると、リング本体がこれに追従するようになり、上側レール部の上面が上側対向面に早期に接するようになる。これらのことから、上側レール部の上面と上側対向面との間を通じてリング溝の内部のオイルが燃焼室側に流出することを抑制することができる。従って、下側レール部がリング溝の対向面に貼り付くことに起因してオイル消費が増大することを抑制することができる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項9に記載の発明によるように、前記下側対向面は前記上側対向面よりも表面粗さが大きくされてなるといった態様をもって具体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るオイルリング及び内燃機関の第1実施形態について、(a)オイルリングを中心としたシリンダの断面構造を示す断面図、(b)(a)中の矢印A方向から視たオイルリングの端面図。
【図2】同実施形態におけるオイルリングの作用を説明するための概略図。
【図3】本発明の第2実施形態について、オイルリングを中心としたシリンダの断面構造を示す断面図。
【図4】本発明の第3実施形態について、オイルリングを中心としたシリンダの断面構造を示す断面図。
【図5】従来のオイルリングを中心としたシリンダの断面構造を示す断面図。
【図6】ピストンの位相、速度、及び加速度の推移を併せ示すタイミングチャート。
【図7】従来のオイルリングの課題を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
以下、本発明に係るオイルリング及び内燃機関を具体化した第1実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
【0029】
尚、以降において、オイルリング4(ピストン2)の軸線方向Cにおいて燃焼室に近接する方向を単に上方と称し、軸線方向Cにおいて燃焼室から離間する方向、すなわちクランクケースに近接する方向を単に下方と称する。
【0030】
図1(a)に示すように、内燃機関のシリンダ内にはピストン2が往復動可能に設けられており、このピストン2の外周面に形成されたリング溝3にはオイルリング4が装着されている。オイルリング4は、所謂、2ピースオイルリングであり、リング本体5とリング本体5の内周側に位置してリング本体5を外周側に付勢するコイルエキスパンダ6とを備えている。
【0031】
リング溝3は、ピストン2の径方向に沿って延びる一対の対向面(上側対向面31,下側対向面32)と、これら対向面31,32の内周側端部の間に形成されて軸線方向Cに沿って延びる底面33とによって形成されている。
【0032】
リング本体5は、リング溝3の上側対向面31上を摺動可能な上側レール部51、下側対向面32上を摺動可能な下側レール部52、及びこれらレール部51,52を連結する連結部53とを有している。これらレール部51,52は連結部53よりも内周側及び外周側の双方に突出している。すなわち、リング本体5は断面略I字状をなしている。また、連結部53には、オイルリング4の径方向に貫通する複数のオイル戻し孔54が形成されている。尚、オイル戻し孔54はオイルリング4の周方向において所定間隔毎に形成されている。連結部53の内周面は断面円弧状に形成されており、コイルエキスパンダ6が収容される収容部55とされている。
【0033】
オイルリング4の下側レール部52の下面にはリング本体5の径方向における中央位置にリング本体5の全周にわたって延びる全周溝56が形成されている。また、下側レール部52の下面には下側レール部52の内周面と全周溝56とを接続する接続溝57が形成されている。
【0034】
図1(b)に示すように、接続溝57はリング本体5の周方向において等間隔にて複数形成されている。すなわち、接続溝57は放射状に形成されている。尚、これら全周溝56及び接続溝57はスタンプ成型によって形成されている。
【0035】
次に、本実施形態の作用について説明する。
こうしたオイルリング4を備える内燃機関では、ピストン2の往復動に伴って上側レール部51及び下側レール部52の外周面がシリンダのボア壁面1上を摺動することにより、ボア壁面1に付着している余剰なオイルが掻き落とされ、オイル戻し孔54を通じてリング溝3内に導入される。そして、リング溝3内のオイルは、リング溝3の底面33に形成された排出通路(図示略)を通じてクランクケースに戻される。
【0036】
また、先の図6に期間A1、A2として示すように、ピストン2が上動し、且つピストン2の加速度がプラス、すなわち上方に向かう速度が増大しているときには、リング溝3内のオイルリング4及びオイルは下側対向面32に押し付けられた状態となる。ここで、本実施形態では、下側レール部52の下面に全周にわたって全周溝56が形成されているため、下側レール部の下面全体が平面状をなす従来構成とは異なり、下側レール部52の下面の径方向における幅であるシール幅が小さなものとなる。これにより、下側レール部52の下面がリング溝3の下側対向面32に密着して貼り付こうとするときに、下側レール部52に形成された接続溝57を通じて全周溝56に空気やオイルが導入される。従って、リング溝3の下側対向面32に対して下側レール部52が密着しにくくなりこれを貼り付かせる力が全周にわたって小さくなる。
【0037】
その後、図6に期間B1、B2として示すように、ピストン2が上動し、且つピストン2の加速度がマイナス、すなわち上方に向かう速度が減少するようになると、リング溝3内のオイルは直ぐさま上側対向面31に向けて相対移動する。このとき、図2に示すように、下側レール部52の下面がリング溝3の下側対向面32から早期に脱離するようになる。このため、ピストン2の加速度が上向きから下向きに反転した後にリング溝3内のオイルが上側対向面31に向けて相対移動すると、リング本体5がこれに追従するようになり、上側レール部51の上面がリング溝3の上側対向面31に早期に接するようになる。その結果、上側レール部51の上面と上側対向面31との間がシールされることで、リング溝3の内部のオイルが燃焼室側に流出することが抑制されるようになる。
【0038】
以上説明した本実施形態に係るオイルリング及び内燃機関によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)オイルリング4の下側レール部52の下面にはリング本体5の径方向における中央位置にリング本体5の全周にわたって延びる全周溝56が形成されている。また、下側レール部52の下面には下側レール部52の内周面と全周溝56とを接続する接続溝57が形成されている。
【0039】
こうした構成によれば、ピストン2の加速度が上向きから下向きに反転した後にリング溝3内のオイルが上側対向面31に向けて相対移動すると、リング本体5がこれに追従するようになり、上側レール部51の上面がリング溝3の上側対向面31に早期に接するようになる。その結果、上側レール部51の上面と上側対向面31との間を通じてリング溝3の内部のオイルが燃焼室側に流出することを抑制することができる。従って、下側レール部52がリング溝3の下側対向面32に貼り付くことに起因してオイル消費が増大することを抑制することができる。
【0040】
ところで、下側レール部の下面のシール幅を小さくするほど、リング溝3の下側対向面32に対して下側レール部が密着しにくくなり、下側対向面32に対して下側レール部を貼り付かせる力は小さくなる。しかしながら、下側レール部の下面のシール幅を過度に小さくすると、下側対向面32との接触面積が小さくなり、接触面圧が大きくなることで下側対向面32或いはリング本体が摩耗しやすくなるといった問題が生じる。
【0041】
この点、上記実施形態によれば、接続溝57を通じて全周溝56に空気やオイルを導入することが可能となるため、下側対向面32に対して下側レール部52を貼り付かせる力を小さくしつつも、全周溝56自体の径方向における幅を小さくすることが可能となる。すなわち、下側レール部52の下面のシール幅をある程度大きいものとしても、リング溝3の下側対向面32に対して下側レール部52を貼り付かせる力を的確に小さくすることが可能となる。従って、リング溝3の下側対向面32或いはリング本体5の摩耗を抑制することができる。
【0042】
また、全周溝を下側レール部の外周側端部を含むものとした場合には、機関運転中にリング本体が傾動して姿勢が不安定なものとなるおそれがある。
この点、上記実施形態によれば、全周溝56は下側レール部52の下面においてリング本体5の径方向の中央位置に形成されており、下側レール部52の外周側端面はシール面とされているため、機関運転中においてリング本体5の姿勢の不安定化を抑制することができる。
【0043】
(2)接続溝57はリング本体5の周方向において等間隔にて複数形成されている。こうした構成によれば、下側レール部52の下面に形成された全周溝56に対して複数の接続溝57を通じて空気やオイルが導入される。これにより、リング溝3の下側対向面32に対して下側レール部52の下面を貼り付かせる力がオイルリング4の周方向において均等に弱められるられるようになる。
【0044】
(3)上側レール部51の上面において上側対向面31と平行となる部分全体が平面状に形成されている。すなわち、上側対向面31と上側レール部51の上面とが当接した際のシール性が下側対向面32と下側レール部52の下面とが当接した際のシール性よりも高くなるように上側レール部51の上面の形状が設定されている。こうした構成によれば、上側レール部51の上面が下側レール部52の下面に比べて高いシール性を発揮する形状とされている。このため、上側レール部51の上面がリング溝3の上側対向面31に当接すると、上側レール部51の上面と上側対向面31との間が好適にシールされることでリング溝3の内部のオイルが燃焼室側に流出することを的確に抑制することができる。
【0045】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について、図3を参照して説明する。
本実施形態では、リング本体105以外の構成については先の第1実施形態と同一である。従って、第1実施形態の構成と同一の構成については同一の符号を付すことにより重複する説明を割愛する。また、リング本体105の構成において第1実施形態のリング本体5の構成と対応する構成については「100」を加算した符号を付すことにより重複する説明を割愛する。
【0046】
図3に示すように、本実施形態では、リング本体105の下側レール部152の下面には、下側レール部152の内周側端部を含む溝であってリング本体105の全周にわたって延びる内側溝158が形成されている。また、下側レール部152の下面には、外周側端部を含む溝であってリング本体105の全周にわたって延びる外側溝159が形成されている。すなわち、下側レール部152の下面には全周にわたって内側溝158及び外側溝159が形成されている。このため、下側レール部の下面全体が平面状をなす従来構成とは異なり、下側レール部152の下面の径方向における幅であるシール幅が小さなものとされている。
【0047】
以上説明した本実施形態に係るオイルリング及び内燃機関によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(4)リング本体105の下側レール部152の下面には、内周側端部を含む溝であってリング本体105の全周にわたって延びる内側溝158が形成されている。また、下側レール部152の下面には、外周側端部を含む溝であってリング本体105の全周にわたって延びる外側溝159が形成されている。
【0048】
こうした構成によれば、ピストン2の加速度が上向きから下向きに反転した後にリング溝3内のオイルが上側対向面31に向けて相対移動すると、リング本体105がこれに追従するようになり、上側レール部151の上面がリング溝3の上側対向面31に早期に接するようになる。その結果、上側レール部151の上面と上側対向面31との間がシールされることで、リング溝3の内部のオイルが燃焼室側に流出することを抑制することができる。従って、下側レール部152がリング溝3の下側対向面32に貼り付くことに起因してオイル消費が増大することを抑制することができる。
【0049】
また、リング本体105を成形するための引き抜き型の形状を一部変更するだけで内側溝158及び外側溝159を成形することが可能となる。このため、下側レール部152の下面にこれら溝158,159を設定することに起因したリング本体105の製造工程の複雑化を回避することができる。
【0050】
<第3実施形態>
以下、本発明に係る内燃機関を具体化した第3実施形態について、図4を参照して説明する。
【0051】
本実施形態では、リング本体205以外の構成については先の第1実施形態と同一である。従って、第1実施形態の構成と同一の構成については同一の符号を付すことにより重複する説明を割愛する。また、リング本体205の構成において第1実施形態のリング本体5の構成と対応する構成については「200」を加算した符号を付すことにより重複する説明を割愛する。
【0052】
図4に示すように、本実施形態では、リング溝3の上側対向面31及び下側対向面32は互いに同一の表面粗さとなるように加工されている。一方、下側レール部252の下面は上側レール部251の上面よりも表面粗さが大きくされている。
【0053】
次に、本実施形態の作用について説明する。
こうしたオイルリング204を備える内燃機関では、ピストン2の往復動に伴って上側レール部251及び下側レール部252の外周面がシリンダのボア壁面1上を摺動することにより、ボア壁面1に付着している余剰なオイルが掻き落とされ、オイル戻し孔254を通じてリング溝3内に導入される。そして、リング溝3内のオイルは、リング溝3の底面33に形成された排出通路(図示略)を通じてクランクケースに戻される。
【0054】
また、先の図6に期間A1、A2として示すように、ピストン2が上動し、且つピストン2の加速度がプラス、すなわち上方に向かう速度が増大しているときには、リング溝3内のオイルリング204及びオイルは下側対向面32に押し付けられた状態となる。ここで、本実施形態では、下側レール部の下面の表面粗さが上側レール部の上面と同一とされる従来構成とは異なり、リング溝3の下側対向面32に対して下側レール部252の下面が当接した状態においてこれらの間を通じてオイルが漏出しやすくなる。これにより、リング溝3の下側対向面32に対して下側レール部252の下面が密着することが抑制され、下側対向面32に対して下側レール部252を貼り付かせる力が全周にわたって小さくなる。
【0055】
その後、図6に期間B1、B2として示すように、ピストン2が上動し、且つピストン2の加速度がマイナス、すなわち上方に向かう速度が減少するようになると、リング溝3内のオイルは直ぐさま上側対向面31に向けて相対移動する。このとき、下側レール部252の下面がリング溝3の下側対向面32から早期に脱離するようになる。このため、ピストン2の加速度が上向きから下向きに反転した後にリング溝3内のオイルが上側対向面31に向けて相対移動すると、リング本体205がこれに追従するようになり、上側レール部251の上面がリング溝3の上側対向面31に早期に接するようになる。その結果、上側レール部251の上面と上側対向面31との間がシールされることで、リング溝3の内部のオイルが燃焼室側に流出することを抑制することができる。
【0056】
以上説明した本実施形態に係るオイルリング及び内燃機関によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(5)下側レール部252の下面は上側レール部251の上面よりも表面粗さが大きくされている。こうした構成によれば、ピストン2の加速度が上向きから下向きに反転した後にリング溝3内のオイルが上側対向面31に向けて相対移動すると、リング本体205がこれに追従するようになり、上側レール部251の上面がリング溝3の上側対向面31に早期に接するようになる。その結果、従って、下側レール部252がリング溝3の下側対向面32に貼り付くことに起因してオイル消費が増大することを抑制することができる。
【0057】
また、下側レール部252の下面に比べて上側レール部251の上面の表面粗さは小さくされているため、上側レール部251の上面とリング溝3の上側対向面31とが接した際のシール性は高いものとなる。
【0058】
尚、本発明に係るオイルリング及び内燃機関は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
【0059】
・上記第3実施形態では、下側レール部252の下面の表面粗さを上側レール部251の上面の表面粗さよりも大きく設定することにより、下側対向面32と下側レール部252の下面とが当接した際のシール性が上側対向面31と上側レール部251の上面とが当接した際のシール性よりも低くなるようにした。これに代えて、リング本体の下側レール部の下面の表面粗さと上側レール部の上面の表面粗さとを同一とする一方、リング溝の下側対向面の表面粗さを上側対向面の表面粗さよりも大きくするようにしてもよい。この場合であっても、第3実施形態の作用効果(5)に準じた作用効果を奏することができるようになる。更に、第3実施形態と同様に下側レール部の下面の表面粗さを上側レール部の上面の表面粗さよりも大きくするとともに、リング溝の下側対向面の表面粗さを上側対向面の表面粗さよりも大きくするようにしてもよい。要するに、下側対向面と下側レール部の下面とが当接した際のシール性が上側対向面と上側レール部の上面とが当接した際のシール性よりも低くなるように、下側対向面、下側レール部の下面、上側対向面、及び上側レール部の上面の表面粗さが適宜設定されているものであればよい。
【0060】
・上記第2実施形態では、リング本体105の下側レール部152の下面に内周側端部を含む内側溝158と、外周側端部を含む外側溝159との双方を設けるようにした。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、内周側端部を含む内側溝のみを形成するようにしても良いし、外周側端部を含む外側溝のみを形成するようにしても良い。
【0061】
・上記第1実施形態によるように、接続溝57をリング本体5の周方向において等間隔にて複数形成することが、リング溝3の下側対向面32に対して下側レール部52の下面を貼り付かせる力をオイルリング4の周方向において均等に弱めるようにする上では望ましい。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、こうした接続溝を不等間隔にて形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…ボア壁面、2…ピストン、3…リング溝、31…上側対向面、32…下側対向面、33…底面、4,104,204,404…オイルリング、5,105,205,405…リング本体、6…コイルエキスパンダ51,151,251,451…上側レール部、52,152,252,452…下側レール部、53,153,253,453…連結部、54,154,254,454…オイル戻し孔、55,155,255,455…収容部、56…全周溝(凹部)、57…接続溝、158…内側溝(内側凹部)、159…外側溝(外側凹部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、前記リング溝において互いに対向する一対の対向面上をそれぞれ摺動可能な一対のレール部と、これらレール部を連結する連結部とを有するリング本体と、同リング本体の内周側に位置して同リング本体を外周側に付勢するコイルエキスパンダとを備えるオイルリングにおいて、
前記一対のレール部において当該オイルリングの軸線方向における燃焼室側のものを上側レール部とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側レール部とするとき、
前記下側レール部の下面には前記リング本体の全周にわたって凹部が形成されてなる
ことを特徴とするオイルリング。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルリングにおいて、
前記凹部は前記下側レール部の下面において前記リング本体の径方向の中央位置に形成され、
前記下側レール部の下面には前記下側レール部の内周面及び外周面の少なくとも一方と前記凹部とを接続する接続溝が更に形成されてなる
ことを特徴とするオイルリング。
【請求項3】
請求項2に記載のオイルリングにおいて、
前記接続溝は前記リング本体の周方向において複数形成されてなる
ことを特徴とするオイルリング。
【請求項4】
請求項1に記載のオイルリングにおいて、
前記凹部は前記下側レール部の内周側端部を含む内側凹部及び前記下側レール部の外周側端部を含む外側凹部の少なくとも一方を有してなる
ことを特徴とするオイルリング。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のオイルリングにおいて、
前記一対の対向面において当該ピストンの軸線方向における燃焼室側のものを上側対向面とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側対向面とするとき、
前記上側対向面と前記上側レール部の上面とが当接した際のシール性が前記下側対向面と前記下側レール部の下面とが当接した際のシール性よりも高くなるように前記上側レール部の上面の形状が設定されてなる
ことを特徴とするオイルリング。
【請求項6】
機関ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、前記リング溝において互いに対向する一対の対向面上をそれぞれ摺動可能な一対のレール部と、これらレール部を連結する連結部とを有するリング本体と、同リング本体の内周側に位置して同リング本体を外周側に付勢するコイルエキスパンダとを備えるオイルリングにおいて、
前記一対のレール部において当該オイルリングの軸線方向における燃焼室側のものを上側レール部とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側レール部とするとき、
前記下側レール部の下面は前記上側レール部の上面よりも表面粗さが大きくされてなる
ことを特徴とするオイルリング。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のオイルリングを備える内燃機関。
【請求項8】
機関ピストンと、同機関ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、前記リング溝において互いに対向する一対の対向面上をそれぞれ摺動可能な一対のレール部と、これらレール部を連結する連結部とを有するリング本体と、同リング本体の内周側に位置して同リング本体を外周側に付勢するコイルエキスパンダとを備えるオイルリングとを備える内燃機関において、
前記一対のレール部において当該オイルリングの軸線方向における燃焼室側のものを上側レール部とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側レール部とし、
前記一対の対向面において当該ピストンの軸線方向における燃焼室側のものを上側対向面とするとともに同軸線方向における燃焼室とは反対側のものを下側対向面とするとき、
前記下側対向面と前記下側レール部の下面とが当接した際のシール性が前記上側対向面と前記上側レール部の上面とが当接した際のシール性よりも低くなるように、前記下側対向面、前記下側レール部の下面、前記上側対向面、及び前記上側レール部の上面の表面粗さが設定されてなる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項9】
請求項8に記載の内燃機関において、
前記下側対向面は前記上側対向面よりも表面粗さが大きくされてなる
ことを特徴とする内燃機関。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate