説明

オキサゾリンの重合体

【課題】非イオン性界面活性剤、タンパク質改質剤、ハイドロゲル及び薬物の担体として作用するために、表面化学及び生体材料の技術分野で有用な材料である生体親和性ヘテロテレケリック重合体の提供
【解決手段】α末端に三重結合を有するアルキニル基またはプロパギル基を有しヒドロキシル基をω末端に有する単分散性で、生体適合温度に曇点もしくは下部臨界共溶温度(LCST)を示すように温度応答性示す、ポリ(オキサゾリン)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキサゾリンに由来するヘテロテレケリック単独重合体に関し、より具体的には、α末端に置換されていてもよいプロパギル基を有し、ω末端にヒドロキシル基を有する単分散性のポリ(イソプロピルオキサゾリン)に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(オキサゾリン)(以下、POと略記することあり)は、それらが非イオン性界面活性剤、タンパク質改質剤、ハイドロゲル及び薬物の担体として作用するために、表面化学及び生体材料の技術分野で有用な材料であることが近年明らかになってきた。適当な条件下におけるオキサゾリンのカチオン開環重合は、リビング重合プロセスにより進行し、ポリ(N−アシルエチレンイミン)を提供することが知られている。出発オキサゾリンのアルキル置換基か、または末端基を変えることにより多様なPOを製造できる。側鎖2−位に短鎖アルキル(例えば、メチルもしくはエチル基)を有するPOは水溶性である。しかし、POの親水性はアルキル置換基の長さが長くなるにつれて低下し、全ての温度もしくはある一定の温度において水に不溶性になる。POの中でも、特に興味深いものとしては、側鎖2−位にイソプロピルカルボニル基を有するポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)(以下、PPrOと略記することあり)を挙げることができる。これらの重合体は冷水に可溶性であるが、それらの水溶液は生理的条件近辺に曇点を有する(下記にまとめて記載する、特許文献1または非特許文献1参照。この節で引用文献については、以下、同様。)。これは、多種多様な用途を有する代表的な温度応答性重合体のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)に類する性質である。
【0003】
PO同族体であるPPrOの主たる利点は、生体適合温度応答性重合体であることが強く期待できるため、それ自体、生物医学的用途において極めて有用なことにある。例えば、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)で修飾したリポソームは、通常のポリ(エチレングリコール)リポポリマー(例えば、非特許文献2参照)に匹敵する高い生体適合性及び長い血液循環時間を示す(非特許文献3参照)。また、新たな用途分野を開拓することが期待される、温度応答性PPrOとして、α末端とω末端に異なる官能基を有し、上記の曇点として約37℃を有する単分散性のヘテロテレケリック(heterotelechelic)PPrOも提供されている(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−310929号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Uyama,H.et al.,Chem.Lett.1992,1643
【非特許文献2】Kataoka,K.et al.,J.Controlled Releas 1993,24,119
【非特許文献3】Woodle,I.M.et al.,Bioconjugate Chem.1994,5,493
【非特許文献4】Park J.et al.,Macro molecules 2004,37,6786
【発明の概要】
【0006】
特許文献1もしくは非特許文献1に記載のPPrOは一定の温度応答性を示すもの
の、必ずしも単分散性に近い分散度を示す重合体の集合物とはいえない。他方、非特許文献4によると、重合反応時間は長くなるものの、温和な反応条件を選ぶことにより分散度(M/M)が1.15以下というほぼ単分散性と称すことができ、かつ、水溶液中の重合体濃度により若干変動させることのできる明確な曇点を示す重合体が提供されている。しかし、さらに広範囲に亙るいずれかの温度において明確な曇点もしくは下部臨界共溶温度(LCST)を示すように温度応答性を制御した重合体が提供できると、POの用途分野をさらに拡張できるであろう。
【0007】
本発明者らは、非特許文献4に記載されているような温和な重合反応条件下であっても、異なるモノマー、2−イソプロピル−2−オキサゾリンと2−エチル−2−オキサゾリンが、それらの混合比に実質的に影響を受けることなく、換言すれば両モノマーに由来する、それぞれの、全体的もしくは部分的なブロックセグメント等が形成されることなく、広範囲に亙るいずれかの温度において明確な曇点またはLCSTを示す重合体を提供できることを見いだした。温和な反応条件下では、2−イソプロピル−2−オキサゾリンと2−エチル−2−オキサゾリンのリビング重合プロセスの進行速度が相当異なることが予測されるにも拘わらず、これらのモノマーを使用して上記のようにLCSTを制御した重合体が提供できることは驚くべきことである。
【0008】
本発明は、以上のような知見に基づき完成した。したがって、本発明によれば、下記式(A)で表されるランダム共重合体が提供される。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、Inはカチオン重合開始剤に由来する残基を表し、NPは求核剤に由来する残基を表し、そしてm及びnは、独立して5〜10000の整数であり、かつ、m+nは10〜20000の整数であり、m:nは、モル比で、1:99〜99:1である。
【0011】
また、別の態様の本発明として、a)30℃〜50℃の不活性溶媒中のカチオン重合開始剤の存在下で、モル比として1:99〜99:1の2−エチル−2−オキサゾリンと2−イソプロピル−2−オキサゾリンのモノマー混合物を開環重合させる工程、b)得られたランダム共重合体を求核剤と反応させる工程、c)及び必要により、生成した重合体を単離する工程を、含んでなる前記ランダム共重合体の製造方法が提供される。
【0012】
発明の詳細な記述
式(A)で表されるランダム共重合体にいう、ランダム共重合体の語は、当該技術分野で共通して認識されている概念を表す用語として使用されている。
【0013】
該ランダム共重合体を特定するのに使用されている、直鎖もしくは分岐鎖のC1−20アルキルは、炭素原子を1〜20個有するアルキル基であって、限定されるものでないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、sec−ブチル、ヘ
キシル、オクチル、ドデシル、オクタデシル、エイコシル、及び18−メチルノナデカニル等を包含する。同様に、該ランダム共重合体を特定するのに使用されているC1−5アルキル、並びにC1−10アルコキシ及びアリール−C1−3アルキルにおけるアルキル部分も、上記に例示したアルキル基であって、それぞれ対応する炭素原子を有する基を意味する。また、アリールオキシに言う、アリールは、フェニル、トリル、ナフチル等の芳香族炭化水素の環に結合する水素が1個離脱して生じる基を意味する。
【0014】
式(A)における、Inを特定する、カチオン重合開始剤に由来する残基は、本発明の目的に沿うランダム共重合体を提供できる重合開始剤の残基であれば如何なる基であってもよい。限定されるものでないが、例えば、多種多様なトシラートを、一般式:TsORで表した場合の、R基に該当し、アルカノールまたは置換アルカノールにおける置換されていてもよいアルキル基、であることができる。また、ポリ(オキサゾリン)(またはポリ(N−アシルエチレンイミン))であることもできる。アルキル基は、式(A)における、それぞれ、m及びn個の繰り返した単位からなる、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン−ran−2−イソプロピル−2−オキサゾリン)セグメントの温度応答性に悪影響を及ぼさない限り、炭素原子数や分岐の程度を限定する必要はないが、一般的に、C1−20アルキル基であることができる。好ましくは、所謂、低級アルキル基の範疇に入る基を挙げることができる。
【0015】
置換されている場合の置換基は、本発明に従う、オキサゾリンのカチオン開環リビング重合に悪影響を及ぼさない置換基であれば、いかなる有機基もしくは部分であってもよい。置換基としては、例えば、ハロゲンン原子(好ましくは、フッ素、塩素、臭素)、低級アルコキシ基、エチレン性不飽和基含有基、アセチレン性不飽和基含有基(または、アルキニル)を挙げることができる。限定されるものでないが、好ましい置換基としては、式:
【0016】
【化2】

【0017】
で表され、ここで、R及びRが、独立して、C1−10アルコキシ、アリールオキシもしくはアリール−C1−3アルキルオキシ基を表すか、またはR及びRが、一緒になって、C1−5アルキルで置換されていてもよいエチレンジオキシ(−O−CH(R’)−CH−O−,ここでR’は水素原子もしくはC1−5アルキルである)を表す基を挙げることができる。また、別の、好ましい置換基としては、式:
C≡C−
で表され、ここで、Rが水素原子またはC1−5アルキルを表すアルキニル基を挙げることができる。
【0018】
このような置換基は、上記アルキル基が、結合する繰り返し単位との結合部位からなるべく離れた位置に、好ましくは、式(A)を参照すると、α−末端の水素原子を置換していることができる。このような置換基は、アセタール残基に相当し、温和な条件下での加水分解により、機能性の高いホルミルもしくはアルデヒド基(−CHO)へ容易に転換できることからも好ましい。他方、アルキニル基は、簡単かつ効率よく複数の化合物を結合させることのできるシンプルな末端官能基であり、アジド基を有する種々の化合物(例えば、葉酸、ペプチド(RGDペプチドなど)、酵素、ポリ(エチレングリコール)やポリアミノ酸などの生体適合性高分子)さえ合成しておけば、副反応なしにその部位に選択的にトリアゾール結合が形成でき、標的指向性リガンドの導入やバイオコンジュゲートなど
のクリックケミストリーへの応用に好ましい。最近では、クリックケミストリーを用いて酵素やウイルスの表面に様々な化学修飾や、デンドリマー開発などが報告されており、バイオ医薬品としての人工機能性蛋白質開発への応用も期待されている。
【0019】
式(A)における、NPを特定する、求核剤に由来する残基は、式(A)で表されるランダム共重合体の前駆体となり得る、リビング重合体と直接反応して導入できるか、また、一旦導入した残基を介するさらなる反応により、導入できる基もしくは部分であり得る。限定されるものでないが、このような残基としては、−OH、−SH、−NH、−CN、−COOH、−OCOC(CH)=CH、−OCOCH=CH、−OCHCH=CH、−OCH−Ph−CH=CHを挙げることができる。したがって、求核剤として好ましいものは、上記残基に対応するアニオノイドを生じるアニオノイド試薬を挙げることができる。
【0020】
式(A)における、m及びnは、該ランダム共重合体を構成する2−エチル−2−オキサゾリンに由来する繰り返し単位の数及び2−イソプロピル−2−オキサゾリンに由来する繰り返し単位の数であり、それぞれ独立して、5〜10000の整数を表す。明確なLCSTを示す観点からは、m+nは10〜200であることが好ましいが、一般的なPOの用途に向けることを意図する場合は、これらの整数より遥かに大きな整数であることができる。ランダム共重合体におけるmとnの割合は、m対nが1:99〜99:1のいずれであってもよい。しかし、共重合体であることの特性をより明確にもたらすには、m:nが10:90〜90:10であることが好ましく、さらに20:80〜80:20にあることがより好ましい。
【0021】
以上により特定できる、本発明の共重合体からなる分子集合物は、単分散性であることが好ましいが、しかし、これに限定されない。本発明に言う共重合体からなる分子集合物とは、通常、共重合反応により得られる反応生成物中に含まれる各共重合体分子の集団を意味し、反応生成物から特定の分子量分画等を通じて調製したものを意図していない。単分散性とは、厳密には、分散度(M/M)が1であることを意味するが、本発明についていう場合、単分散性とは、分散度が1.2以下、好ましくは、1.15以下である、分子量分布の狭い、ほぼ単分散である共重合体の性質を意味する。また、所望により、共重合体の1重量%水溶液の曇点が約37℃〜67℃の範囲内のいずれかに制御された共重合体または該共重合体からなる分子集合物が提供できる。
【0022】
したがって、本発明により提供される共重合体または該共重合体からなる分子集合物は、温度応答性を有することのみならず、単分散性等の特性を有することから、品質に一定性が求められる医用材料として特に適している。勿論のこと、既知の一般的なPOが使用される表面化学及び生体材料の技術分野等でも広範に使用できることに変わりない。
【0023】
また、本発明によれば、下記式で表される単独重合体も提供できる。
【0024】
【化3】

【0025】
上記式中、Rは、水素原子またはC1−5アルキルを表し、mは1〜20、好ましくは1〜3の整数を表し、そしてnは、5〜10000、好ましくは10〜1000、特に好ましくは10〜200の整数を表す。
【0026】
式(A)で表される共重合体または該共重合体からなる分子集合物は、都合よくは、もう1つの態様の本発明として提供されるカチオン開環リビング重合によって製造できる。この製造方法では、カチオン重合開始剤の存在する不活性溶媒、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン等の非プロトン性極性溶媒の溶液に2−エチル−2−オキサゾリンと2−イソプロピル−2−オキサゾリンのモノマー混合物を溶解し、反応温度30℃〜50℃にて、重合反応を行う。モノマー混合物は、所望の温度応答性を示す共重合体に応じて、2−エチル−2−オキサゾリン対2−イソプロピル−2−オキサゾリンのモル比を1:99〜99:1、好ましくは10:90〜90:10、さらに好ましくは20:80〜80:20の範囲内で選ぶことができる。本発明の方法によると、リビング重合様式で重合プロセスが進行するので、反応させるために仕込んだ、これらのモノマーの全量が反応できる時間反応させると、得られる共重合体中の各モノマーに由来する繰り返し単位の数は、それぞれ仕込み量比にほぼ匹敵させることができる。
【0027】
反応温度は、30℃未満にすることもできるが、仕込んだモノマーが完全に反応してしまうまでに工業的製造にとって必ずしも実用的とはいえない長時間を要し、逆に、50℃を超えると副反応が起こり分子量分布の広い共重合体が得られる傾向がある。したがって、より好ましくは、35℃〜45℃の反応温度を選ぶのがよい。反応液中のモノマー濃度は、それらが溶媒中に溶解できる濃度であれば、如何なる濃度であってもよいが、15〜50重量%、好ましくは30〜40重量%であることができる。反応液は撹拌しながら行うことが好ましい。反応時間は、必要に応じて、反応液中のモノマーの残存量をそれ自体の既知の分析方法によりトレースしながら、実質的に全てのモノマーが消費される時間とすることが好ましい。反応時間は、通常、約200時間〜約500時間である。
【0028】
こうして得られる反応液に、求核剤を添加し、そのまま式(A)のNPを導入することができる。また、例えば、求核剤またはアニオノイドを生じるアニオノイド試薬として水酸化ナトリウム等でリビング共重合体を処理して、NPとして、OH基を導入した後、必要があれば、共重合体を採取した後、更なる反応により他の所望の官能基に転化してもよい。こうして、式(A)で表される共重合体を製造することができる。共重合体の採取、単離は、当該技術分野で周知の方法により実施できる。
【0029】
また、上記の単独重合体または該重合体からなる分子集合物も、共重合体の製造における、2種のモノマーを使用することに代え、2−イソプロピル−2−オキサゾリンを用い、カチオン重合開始剤として、特に、アルキニル−アルキルトシレートを用いること以外は、共重合体の製造と同様な条件下で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、製造例(参考)1〜3で得られたω−末端に水酸基を有する3種類のランダム共重合体(PEtOx25%iPrOx75%、PEtOx50%iPrOx50%、PEtOx75%iPrOx25%)のGPCダイアグラムである。図中、Aは、310時間反応(重合完了)後のPEtOx25%iPrOx75%を表し、Bは、407時間反応(重合完了)後のPEtOx50%iPrOx50%を表し、Cは、288時間反応(重合完了)後のPEtOx75%iPrOx25%を表す。
【図2】図2は、製造例(参考)1で得られたω−末端に水酸基を有するランダム共重合体PEtOx25%iPrOx75%H−NMR(CDCl,400MH)スペクトラムである。
【図3】図3は、製造例(参考)2で得られたω−末端に水酸基を有するランダム共重合体PEtOx50%iPrOx50%H−NMR(CDCl,400MH)スペクトラムである。
【図4】図4は、製造例(参考)3で得られたω−末端に水酸基を有するランダム共重合体PEtOx75%iPrOx25%H−NMR(CDCl,400MH)スペクトラムである。
【図5】図5は、製造例(参考)1〜3で得られたω−末端に水酸基を有する3種類のランダム共重合体のMALDI−TOF−MSスペクトルである。図中、Aは、PEtOx25%iPrOx75%のスペクトルを表し、Bは、PEtOx50%iPrOx50%のスペクトルを表し、Cは、PEtOx75%iPrOx25%のスペクトルを表す。
【図6】図6のAは、1wt%(10mg/mL)の重合体濃度、0.5deg/minの昇温速度において、透過率が低下する温度(曇点、Tcp)を測定した図である。図6のBは、ランダム共重合体中の2−エチル−2−オキサゾリン(EtOx)の割合(25%、50%、75%)に対する曇点の変化を測定した図である。図中、◆(150mM塩共存)、◇(塩無し)は、ω−末端に水酸基を有するiPrOxの単一重合体(PiPrOx100%)を表し、●(150mM塩共存)、○(塩無し)は、ω−末端に水酸基を有するランダム共重合体PEtOx25%iPrOx75%を表し、▲(150mM塩共存)、△(塩無し)は、ω−末端に水酸基を有するランダム共重合体PEtOx50%iPrOx50%を表し、■(150mM塩共存)、□(塩無し)は、ω−末端に水酸基を有するランダム共重合体PEtOx75%iPrOx25%を表す。
【図7】図7は、製造例(本発明)4で得られたPropargyl−PiPrOx−OHのGPCダイアグラムである。
【図8】図8は、製造例(本発明)4で得られたPropargyl−PiPrOx−OHのH−NMRスペクトラムである。(CDCl,400MHz)
【図9】図9は、製造例(本発明)4で得られたPropargyl−PiPrOx−OHのMALDI−TOF−MSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、具体例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
参考製造例1:2−イソプロピル−2−オキサゾリン(iPrOx)のカチオン開環重合から、ポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)(PiPrOx)ホモポリマーの合成
【0032】
【化4】

【0033】
乾燥アルゴン雰囲気下、アセトニトリル30mLの溶媒中、開始剤メチルトシラート0.186g(1mmol)とモノマーiPrOx10g(88.4mmol)を加え、カチオン開環重合を行った。(仕込み分子量=10000、仕込み重合度=[iPrOx]/[メチルトシラート]=88.4)恒温槽42℃という最適反応温度にて約506時間反応させた後、室温に冷却した。ポリマーの停止末端に水酸基を導入するため、1M NaOH・メタノール混合溶媒を10mL入れて30分間停止反応をさせた。そして、水透析により精製後、減圧乾燥にてポリマー約9g(収率90%)を回収した。最終的に得られたポリマーの分子量(Mn=9700)は仕込み量とよく一致しており、かつ、分子量分布(Mw/Mn=1.02)は非常に狭かった。ポリマーの構造解析は、H−NMRスペクトラムを用い、また、MALDI−TOF−MSスペクトルを用いた末端分析から、上記式で示されるような構造を有することが確認された。
【0034】
参考製造例2:2−エチル−2−オキサゾリン(EtOx)のカチオン開環重合から、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)(PEtOx)ホモポリマーの合成
【0035】
【化5】

【0036】
乾燥アルゴン雰囲気下、アセトニトリル30mLの溶媒中、開始剤メチルトシラート0.186g(1mmol)とモノマーEtOx8.92mL(88.4mmol)を加え、カチオン開環重合を行った。(仕込み分子量=8800、仕込み重合度=[EtOx]/[メチルトシラート]=88.4)恒温槽42℃という最適反応温度にて約315時間反応させた後、室温に冷却した。ポリマーの停止末端に水酸基を導入するため、1M NaOH・メタノール混合溶液を10mL入れて30分間停止反応をさせた。そして、水透析により精製後、減圧乾燥にてポリマー約8.3g(収率95%)を回収した。最終的に得られたポリマーの分子量(Mn=8300)は仕込み量とよく一致しており、かつ、分子量分布(Mw/Mn=1.01)は非常に狭かった。ポリマーの構造解析は、H−NMRスペクトラムを用い、また、MALDI−TOF−MSスペクトルを用いた末端分析から、停止末端には定量的に水酸基が導入されていることも確認され、上記の構造式で示される重合体が得られたことが確認できる。
【0037】
参考製造3:3,3−ジエトキシ−1−プロピルトシレート(AceOTs)開始による2−イソプロピル−2−オキサゾリン(iPrOx)のカチオン開環重合から、α−アセタール、ω−ヒドロキシ基を有するポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)(Acetal−PiPrOx−OH)ホモポリマーの合成
乾燥アルゴン雰囲気下、アセトニトリル30mLの溶媒中、開始剤メチルトシラート0.3g(1mmol)とモノマーiPrOx9.74g(86mmol)を加え、カチオン開環重合を行った。(仕込み分子量=10000、仕込み重合度=[iPrOx]/[メチルトシレート]=86)恒温槽45℃という最適反応温度にて約240時間反応させた後、室温に冷却した。ポリマーの停止末端に水酸基を導入するため、1M NaOH・メタノール混合溶媒を20mL入れて30分間停止反応をさせた。そして、水透析により精製後、減圧乾燥にてポリマー約8g(収率80%)を回収した。最終的に得られたポリマーの分子量(Mn=9600)は仕込み量とよく一致しており、かつ、分子量分布(Mw/Mn=1.15)は非常に狭かった。ポリマーの構造解析は、H−NMRスペクトラムを用い、また、MALDI−TOF−MSスペクトラムを用いた末端分析から、停止末端には定量的に水酸基が導入されていることも確認された。
【0038】
製造例(参考)1〜3:iPrOxとEtOxの混合モノマーのカチオン開環重合から、3種類のランダム共重合体(PiPrOx−ran−PEtOx)の合成
【0039】
【化6】

【0040】
iPrOx(モノマー)とEtOx(親水性コモノマー)を様々な割合(EtOx:iPrOx=25%:75%、EtOx:iPrOx=50%:50%、EtOx:iPrOx=75%25%)で混ぜ、それぞれの混合モノマーを精密にランダムイオン共重合させた。乾燥アルゴン雰囲気下、アセトニトリル30mLの溶媒中、開始剤メチルトシラート0.15mL(1mmol)と混合モノマー(EtOx+iPrOx=2.19g+7.502g=9.692g、EtOx+iPrOx=4.3815g+5g=9.3815g、EtOx+iPrOx=6.57g+2.5g=9.07g)をそれぞれ加え、カチオン開環重合を行った。(仕込み重合度m+n=[混合モノマー]A,B,C/[メチルトシラート]=88.4)恒温槽42℃という最適反応温度にて、それぞれ310時間(A)、407時間(B)及び288時間(C)反応させた後、室温に冷却した。ポリマーの停止末端に水酸基を導入するため、1M NaOH・メタノール混合溶液を10mL入れて30分間停止反応をさせた。そして、水透析により精製後、減圧乾燥にてポリマー(PEtOxiPrOx:約8.4g(収率87%)、PEtOxiPrOx:約8.5g(収率91%)、PEtOxiPrOx:約7.7g(収率85%))を回収した。重合時間に対するポリマーの分子量が経時的に変化していることがGPCダイアグラム(図1)から確認された。最終的に得られたポリマーの重合度(m+n)(PEtOxiPrOx:81.8、PEtOxiPrOx:88、PEtOxiPrOx:85.9)は仕込み量とよく一致しており、かつ、
分子量分布(Mw/Mn)(PEtOxiPrOx:1.00、PEtOxiPrOx:1.01、PEtOxiPrOx:1.01)は非常に狭かった。ポリマーの構造解析は、H−NMRスペクトラムを用いた(図2、3及び4参照)。また、MALDI−TOF−MSスペクトルを用いた末端分析から、各ポリマーはランダムに共重合されたことが確認された(図5参照)。
【0041】
製造例4(本発明):開始末端にプロパギル基と停止末端に水酸基を有するポリ(2−プロパルギルイソプロピル−2−オキサゾリン)(Propargyl−PiPrOx−OH)ホモポリマーの合成
【0042】
【化7】

【0043】
乾燥アルゴン雰囲気下、アセトニトリル5mLの溶媒中、プロパルギルトシレート(開始剤)0.0486g(0.231mmol)と2−イソプロピル−2−オキサゾリン(モノマー)1.25g(11mmol)を加え、カチオン開環重合を行った。(仕込み分子量=5400、仕込み重合度=[iPrOx]/[メチルトシレート]=47.6)恒温槽42℃という最適反応温度にて約227時間反応させた後、室温に冷却した。ポリマーの停止末端には水酸基を導入するため、1M NaOH・メタノール混合溶媒を5mL入れて30分間停止反応をさせた。そして、水透析により精製後、減圧乾燥にてポリマー約1.13g(収率90%)を回収した。最終的に得られたポリマーの分子量(Mn=5500)は仕込み量とよく一致しており、かつ、分子量分布(Mw/Mn=1.04)は非常に狭いことをGPCダイアグラムから確認した(図7)。ポリマーの構造解析は、H−NMRスペクトラムを用いた(図8)。また、MALDI−TOF−MSスペクトルを用いた末端分析から、開始末端のプロパルギル基と停止末端の水酸基が両方とも定量的に導入されたことが確認できた(図9)。
【0044】
試験例1:濁度変化に伴う透過率測定から、ポリマーの曇点(Cloud Point Temperature;Tcp)決定
製造例(本発明)1〜3によって製造したポリマーを用い、温度変化による水中でのポリマーの曇点を測定し、評価した。合成したiPrOxの単一重合体(PiPrOx100%)と3種類のランダム共重合体(PEtOx25%iPrOx75%、PEtOx50%iPrOx50%、PEtOx75%iPrOx25%)の曇点をそれぞれ測定した〔図6−(A)、(B)〕。その結果、iPrOxとEtOxの混合比のバリエーションに伴い、温度応答性PiPrOxの曇点の精確なコントロールが、広い温度範囲(約37℃〜67℃)にわたって達成されることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、α末端に三重結合を有するアルキニル基またはプロパギル基を有する単分散性で、生体適合温度に曇点もしくは下部臨界共溶温度(LCST)を示すように温
度応答性示す重合体が提供できる。当該α末端基は、簡単かつ効率よく複数の化合物と結合させることができるので、例えば、アジド基を有する種々の化合物(例えば、葉酸、ペプチド、(RGDペプチドなど)と復反応なしにバイオコンジュゲートを形成できるので、医療材料製造業または医療用器具の加工業等で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される単独重合体:
【化1】

上記式中、Rは、水素原子またはC1−5アルキルを表し、mは1〜20の整数を表し、そしてnは、5〜10000の整数を表す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−229435(P2012−229435A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158680(P2012−158680)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2007−533377(P2007−533377)の分割
【原出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】