説明

オキシランモノマーを含有する歯科用組成物

オキシランベースの歯科用組成物に使用されるエポキシ官能性エーテルモノマー(即ち、オキシランモノマー)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
オキシランモノマーを含む歯科用組成物。
【背景技術】
【0002】
グラスアイオノマー以外、今日までの全ての有機ベース歯科用修復材は、メタクリレート/アクリレート化学をベースにしており、これは、重合収縮が非常に大きいため、硬化時に許容されないほど高い応力を示す。オキシラン化学は、市販されている最良のメタクリレートベースの材料よりも低い収縮および低い重合応力を示すことが実証された。
【0003】
しかし、今日まで、特定のオキシラン系の屈折率は、好ましいフィラー(石英/放射線不透過性溶融ガラス/放射線不透過性ゾルゲルフィラー)の屈折率(RI)に理想的には合致しない。そのため、このようなオキシラン系を用いて製造されたコンポジットの半透明性(審美性)は、所望するほど高くない。
【0004】
また、特定のオキシラン修復材系の重合応力およびポストゲル収縮(歪ゲージ法)は、今日市販されている収縮が最も小さいメタクリレートベースの修復材料のものの約半分しかない。
【0005】
このようにして、良好な審美性、機械的特性および低収縮を有する、オキシランベースの歯科用組成物に添加され得る又は単独で使用され得る新規な成分が依然として必要とされている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,187,836号明細書
【特許文献2】米国特許第6,084,004号明細書
【特許文献3】米国特許第6,245,828号明細書
【特許文献4】米国特許第5,037,861号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/035899号明細書
【特許文献6】米国特許第3,018,262号明細書
【特許文献7】国際公開第01/51540号パンフレット
【特許文献8】米国特許出願公開第2005−0113477A1
【特許文献9】欧州特許第0 897 710号明細書
【特許文献10】米国特許第5,856,373号明細書
【特許文献11】米国特許第6,187,833号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2003/0166737号明細書
【特許文献13】米国特許第4,695,251号明細書
【特許文献14】米国特許第4,503,169号明細書
【特許文献15】米国特許第6,465,641号明細書
【特許文献16】米国特許第6,387,981号明細書
【特許文献17】米国特許第6,572,693号明細書
【特許文献18】国際公開第01/30305号パンフレット
【特許文献19】国際公開第01/30306号パンフレット
【特許文献20】国際公開第01/30307号パンフレット
【特許文献21】国際公開第03/063804号パンフレット
【特許文献22】米国特許出願第10/847,782号明細書
【特許文献23】米国特許出願第10/847,781号明細書
【特許文献24】米国特許出願第10/847,803号明細書
【特許文献25】国際公開第2002/066535号パンフレット
【非特許文献1】「エポキシ樹脂のハンドブック」リーおよびネヴィル著、マグローヒル出版社、ニューヨーク(1967年)(“Handbook of Epoxy Resins” by Lee and Neville, McGraw−Hill Book Co., New York(1967))
【非特許文献2】接触応力に対する食物の剪断作用の影響およびそれに伴って起こる応力負担コンポジットの磨耗、P.パラブら、歯科研究誌、1993年1月(Influence of Shearing Action of Food on Contact Stress and Subsequent Wear of Stress−bearing Composites, P.Pallav, et al., Journal of Dental Research, Jan. 1993)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、歯科用組成物に使用されるエポキシ官能性エーテルモノマー(即ち、オキシランモノマー)を提供する。重要なことには、本発明のモノマーの1種類以上を他のオキシラン化合物と組み合わせて使用するとき、コンポジットの収縮又は他の物理的特性に著しく悪影響を及ぼすことなく、以下、即ち、改善された審美性、改善された機械的強度、および高い転化率の1つ以上を提供することができる。
【0008】
エポキシ官能性エーテルモノマーは、好ましくは、次式(I)の構造を有し:
【化1】

式中、Aは、それぞれ炭素原子数が1〜30で、1つ以上の炭素および/又は水素原子が任意に1つ以上のBr、Cl、N又はO原子若しくはこれらの組み合わせで置換されている、直鎖又は分岐鎖のアルキレン、シクロアルキレン、アリールアルキレン又はアリールシクロアルキレンを表し;各Rは、独立してアルキル、アリール又はエポキシアルキルを表し;nは0〜4であり;aは2〜4である。
【0009】
これらのモノマーは、歯科用組成物に樹脂系として単独で、又は、典型的には芳香族基、脂肪族基、脂環式基およびこれらの組み合わせを含むエポキシ化合物などのオキシランベースの系に使用される他の樹脂系反応性成分と組み合わせて使用することができる。
【0010】
本組成物は、典型的には、開始剤系も含む。開始剤系は、1種類以上の開始剤を含んでもよい。このような開始剤は、好ましくは、カチオン開環重合反応を誘導することができる。
【0011】
特定の実施形態では、歯科用組成物は、フィラー系も含む。他の任意成分としては、例えば、着色剤、界面活性剤、香味剤、薬剤、安定剤、粘度調整剤、希釈剤、流れ調整添加剤、チキソトロープ剤、抗微生物剤、およびポリマー増粘剤が挙げられる。
【0012】
所望の効果を得るため、本明細書に列挙される各成分の様々な組み合わせを使用することができる。
【0013】
「含む(comprises)」の用語およびその変形は、これらの用語が説明および特許請求の範囲に記載される場合、限定的な意味を有していない。
【0014】
本明細書で使用される時、「1(a)」、「1(an)」、「その(the)」、「少なくとも1」および「1以上」は互換的に使用される。このようにして、例えば、「1種類の」オキシラン含有モノマーを含む歯科用組成物は、歯科用組成物が「1種類以上の」オキシラン含有モノマーを含むことを意味するものと解釈され得る。同様に、「1種類」のフィラーを含む組成物は、組成物が「1以上の」種類のフィラーを含むことを意味するものと解釈され得る。
【0015】
また本明細書では、端点による数値範囲の記載は、その範囲に包含される全ての数値を含む(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0016】
本発明の前記要約は、本発明の開示される各実施形態又はあらゆる実施を記載することを意図していない。以下の説明は、例証の実施形態をより詳細に例示する。出願全体の幾つかの箇所では実施例の列挙により手引きするが、実施例は様々な組み合わせで使用され得る。各場合において、記載される列挙は代表的な群の役割をするに過ぎず、排他的な列挙と解釈されるべきではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、歯科用組成物に使用されるエポキシ官能性エーテルモノマーを提供する。これらのモノマーを、歯科用組成物に樹脂系として単独で、又は、典型的には芳香族基、脂肪族基、脂環式基およびこれらの組み合わせを含むエポキシ化合物などのオキシランベースの系に使用される他の樹脂系反応性成分と組み合わせて使用することができる。
【0018】
エポキシ官能性エーテルモノマーおよびその調製
本発明の好ましいエポキシ官能性エーテルモノマーは、式(I)の構造を有し:
【化2】

式中、Aは、それぞれ炭素原子数が1〜30で、1つ以上の炭素および/又は水素原子が任意に1つ以上のBr、Cl、N又はO原子若しくはこれらの組み合わせで置換されている、直鎖又は分岐鎖のアルキレン、シクロアルキレン、アリールアルキレン又はアリールシクロアルキレンを表し;各Rは、独立してアルキル、アリール又はエポキシアルキル(n=0でRが存在しない場合、芳香環の開いている炭素(open carbon)は、H原子で置換されている)を表し;nは0〜4であり;aは2〜4である。ここで、R基はハロゲンを含まないことが当業者に明らかである。
【0019】
好ましくは、aは3であり、より好ましくはaは2である。好ましくは、nは0である(および、開いている炭素原子は全てH原子で置換されている)。好ましくは、Aはハロゲンを含まない。更に好ましくは、Aはアルキレンを表す。
【0020】
式(I)によれば、次の化合物はエポキシ官能性エーテル誘導体の好ましい例である:
【化3】


【0021】
化合物の調製
本発明のエポキシ官能性エーテルモノマーは、(例えば、ミズーリ州セントルイス、シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich, St.Louis, MO)から)一般に市販されている2−アリルフェノールおよびその誘導体を出発材料として、およびオレフィン部分をエポキシドに転化するためMCPBA(m−クロロ過安息香酸)を使用し、次のスキームにより調製することができる。スキームは、式(II)(即ち、a=2のときの式(I))で表されるような化合物の概略的な調製を示す。
【化4】

【0022】
実施例の項の実施例1〜4(化合物A〜D)で、式(II)(式中、n=0、およびA=(CH2x、式中、それぞれx=3、5、6、又は10)の調製を詳述する。
【0023】
エポキシ官能性エーテルモノマーを歯科用コンポジットに配合することができ、この歯科用コンポジットは、総体積の2.0%以下の重合収縮(典型的には、1.0〜2.0%の収縮)を示す(ここで、パーセンテージは、硬化前の組成物の体積を基準にする)と同時に、好ましくは、優れた物理的特性を維持する。
【0024】
本発明のモノマーを、組成物の使用に応じて、歯科用組成物中100%までの量で使用することができる。好ましくは、歯科用組成物中のエポキシ官能性エーテルモノマーの総量は、組成物の総重量を基準にして少なくとも1重量%(wt%)、より好ましくは少なくとも3重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%である。好ましくは、エポキシ官能性エーテルモノマーの総量は、組成物の総重量を基準にして80重量%以下、より好ましくは60重量%以下、最も好ましくは40重量%以下である。
【0025】
オキシラン樹脂系
本発明のエポキシ官能性エーテルモノマーは、歯科用組成物に樹脂系として単独で、又は、典型的には芳香族基、脂肪族基、脂環式基およびこれらの組み合わせを含むエポキシ化合物などのオキシランベースの系に使用される他の樹脂系反応性成分と組み合わせて使用され得る。
【0026】
好適な樹脂系反応性成分(即ち、光重合性材料および組成物)としては、エポキシ樹脂(カチオン活性エポキシ基を含有する)、ビニルエーテル樹脂(カチオン活性ビニルエーテル基を含有する)、エチレン性不飽和化合物(フリーラジカル活性不飽和基を含有する)およびこれらの組み合わせを挙げてもよい。有用なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、およびこれらの組み合わせが挙げられる。単一の化合物中にカチオン活性エポキシ基とフリーラジカル活性官能基の両方を含有する重合性材料も好適である。例としては、エポキシ官能性アクリレート、エポキシ官能性メタクリレート、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0027】
樹脂系反応性成分としては、フリーラジカル活性官能基を有する化合物を挙げてもよく、これには1つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマーおよびポリマーを挙げてもよい。好適な化合物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を含有し、付加重合を経ることができる。このようなフリーラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリレート(即ち、アクリレートおよびメタクリレート)および(メタ)アクリルアミド(即ち、アクリルアミドおよびメタクリルアミド)が挙げられる。具体例としては、(特許文献1)(オックスマン(Oxman)ら)に記載されているようなモノ、ジ、又はポリ−アクリレートおよびメタクリレートが挙げられる。
【0028】
樹脂系反応性成分としては、カチオン重合性エポキシ樹脂などのカチオン活性官能基を有する化合物を挙げてもよい。このような重合性材料としては、開環により重合可能なオキシラン環を有する有機化合物が挙げられる。これらの材料としては、モノマーのエポキシ化合物およびポリマータイプのエポキシが挙げられ、脂肪族、脂環式、芳香族、又は複素環とすることができる。これらの化合物は、一般に、平均で、1分子当たり少なくとも1つの重合性エポキシ基を有し、幾つかの実施形態では、少なくとも約1.5、他の実施形態では、1分子当たり少なくとも約2つの重合性エポキシ基を有する。ポリマーのエポキシドとしては、末端エポキシ基を有する直鎖ポリマー(例えば、ポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル)、骨格オキシラン単位を有するポリマー(例えば、ポリブタジエンポリエポキシド)、および、ペンダントのエポキシ基を有するポリマー(例えば、グリシジルメタクリレートポリマー又はコポリマー)が挙げられる。エポキシドは、純粋な化合物であってもよく、又は、1分子当たり1つ、2つ又はそれより多くのエポキシ基を含有する化合物の混合物であってもよい。1分子当たりのエポキシ基の「平均」数は、エポキシ含有材料中のエポキシ基の総数を、存在するエポキシ含有分子の総数で除することによって決定される。
【0029】
これらのエポキシ含有材料は、低分子量モノマー材料から高分子量ポリマーまで様々であってよく、骨格基および置換基の性質が様々であってよい。許容できる置換基の例としては、ハロゲン、エステル基、エーテル、スルホン酸基、シロキサン基、カルボシラン基、ニトロ基、およびリン酸基等が挙げられる。エポキシ含有材料の分子量は、約58〜約100,000以上まで様々であってよい。
【0030】
本発明の樹脂系反応性成分として有用な、好適なエポキシ含有材料は、(特許文献1)(オックスマン(Oxman)ら)および(特許文献2)(ワインマン(Weinmann)ら)に列挙されている。
【0031】
樹脂系反応性成分として有用な、他の好適なエポキシ樹脂としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、および、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペートに代表されるエポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどのシクロヘキサンオキサイド基を含有するものが挙げられる。この性質を有する有用なエポキシドの更に詳細な列挙については、(特許文献3)(ワインマン(Weinmann)ら)、および(特許文献4)(クリベロ(Crivello)ら)および(特許文献5)(クレッケ(Klettke)ら)を参照されたい。本発明の組成物に有用となり得る他のエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテルモノマーが挙げられる。例としては、多価フェノールを過剰量のクロロヒドリン(エピクロロヒドリンなど)と反応させることによって得られる多価フェノールのグリシジルエーテル(例えば、2,2−ビス−(2,3−エポキシプロポキシフェノール)プロパンのジグリシジルエーテル)がある。このタイプのエポキシドの他の例は、(特許文献6)(シュレーダー(Schroeder))、および、(非特許文献1)に記載されている。
【0032】
樹脂系反応性成分として有用な特に好適なエポキシドはケイ素を含有するものであり、その有用な例は、(特許文献7)(クレッケ(Klettke)ら)に記載されている。
【0033】
多数の市販のエポキシドを含む、樹脂系反応性成分として有用な追加の好適なエポキシドは、2005年5月26日に公開された(特許文献8)に記載されている。
【0034】
様々なエポキシ含有材料のブレンドも想到される。このようなブレンドの例は、低分子量(200未満)、中程度の分子量(約200〜10,000)および高分子量(約10,000超)などのエポキシ含有化合物の2つ以上の重量平均分子量分布を含む。代替として、又は追加で、エポキシ樹脂は、異なる化学的性質(脂肪族および芳香族など)又は官能性(極性および非極性など)を有するエポキシ含有材料のブレンドを含有してもよい。
【0035】
カチオン活性官能基を有する他の種類の有用な樹脂系反応性成分としては、ビニルエーテル、オキセタン、スピロ−オルトカーボネート、およびスピロ−オルトエステル等が挙げられる。
【0036】
必要に応じて、単一の分子中にカチオン活性官能基とフリーラジカル活性官能基の両方を含有してもよい。例えば、ジ−又はポリ−エポキシドを1当量以上のエチレン性不飽和カルボン酸と反応させることによってこのような分子を得てもよい。このような材料の一例には、UVR−6105(ユニオンカーバイド(Union Carbide)から入手可能)と1当量のメタクリル酸との反応生成物がある。エポキシおよびフリーラジカル活性官能基を有する市販の材料としては、日本、ダイセル化学工業(株)(Daicel Chemical, Japan)から入手可能なCYCLOMER(サイクロマー)M−100、M−101、又はA−200などのCYCLOMER(サイクロマー)シリーズ、および、ジョージア州アトランタ、ラドキュア・スパシャルティーズ、UCBケミカルズ(Radcure Specialties, UCB Chemicals, Atlanta, GA)から入手可能なエベクリル(EBECRYL)−3605が挙げられる。
【0037】
カチオン硬化型樹脂系反応性成分は、更に、ヒドロキシル含有有機材料を含んでもよい。好適なヒドロキシル含有材料は、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのヒドロキシル官能基を有する任意の有機材料であってもよい。好ましくは、ヒドロキシル含有材料は、2つ以上の一級又は二級脂肪族ヒドロキシル基を含有する(即ち、ヒドロキシル基は、非芳香族炭素原子に直接結合している)。ヒドロキシル基は、末端に位置しても、又は、ポリマー若しくはコポリマーのペンダント基であってもよい。ヒドロキシル含有有機材料の分子量は、非常に低いもの(例えば、32)から非常に高いもの(例えば、100万以上)まで様々であってよい。好適なヒドロキシル含有材料は、低分子量(即ち、約32〜約200)、中程度の分子量(即ち、約200〜約10,000)又は高分子量(即ち、約10,000超)を有し得る。本明細書に記載する場合、分子量は全て重量平均分子量である。
【0038】
ヒドロキシル含有材料は、本質的に非芳香族であってもよく、又は芳香族官能基を含有してもよい。ヒドロキシル含有材料は、任意に、分子の主鎖に窒素、酸素、およびイオウ等のヘテロ原子を含有してもよい。ヒドロキシル含有材料は、例えば、天然又は合成で調製されたセルロース材料から選択されてもよい。ヒドロキシル含有材料は、熱又は光分解に不安定となり得る基を実質的に含まないものでなければならない、即ち、材料は約100℃未満の温度で、又は重合性組成物に対する所望の光重合条件で受ける場合がある化学線の存在下で分解してはならない、又は揮発性成分を遊離してはならない。
【0039】
本発明に有用な、好適なヒドロキシル含有材料は、(特許文献1)(オックスマン(Oxman)ら)に列挙されている。
【0040】
重合性組成物に使用されるヒドロキシル含有有機材料の量は、ヒドロキシル含有材料とカチオン重合性成分および/又はフリーラジカル重合性成分との適合性、ヒドロキシル含有材料の当量および官能性、最終組成物に所望される物理的特性、並びに所望の重合速度等の要因に応じて広範囲にわたり様々であってよい。
【0041】
様々なヒドロキシル含有材料のブレンドを使用してもよい。このようなブレンドの例は、低分子量(約200未満)、中程度の分子量(約200〜約10,000)および高分子量(約10,000超)などのヒドロキシル含有化合物の2つ以上の分子量分布を含む。代替として、又は追加で、ヒドロキシル含有材料は、異なる化学的性質(脂肪族および芳香族などの)又は官能性(極性および非極性など)を有するヒドロキシル含有材料のブレンドを含有してもよい。追加の例として、2種類以上の多官能性ヒドロキシ材料の混合物、又は1種類以上の一官能性ヒドロキシ材料と多官能性ヒドロキシ材料との混合物を使用してもよい。
【0042】
樹脂系反応成分は、また、単一の分子中にヒドロキシル基とフリーラジカル活性官能基を含有してもよい。このような材料の例としては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートなどのヒドロキシアルキルアクリレートおよびヒドロキシアルキルメタクリレート;グリセロールモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリトリトールモノ−、ジ−、およびトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−(メタ)アクリレート;および、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパンが挙げられる。
【0043】
樹脂系反応性成分は、単一の分子中にヒドロキシル基およびカチオン活性官能基を含有してもよい。一例には、ヒドロキシル基とエポキシ基の両方を含む単一の分子がある。
【0044】
開始剤系
本発明の組成物は、オキシラン樹脂系を硬化(例えば、重合および/又は架橋)させるのに好適な開始剤系、即ち、1種類の開始剤又は2種類以上の開始剤の混合物を含む。
【0045】
このような開始剤は、光硬化型又は化学硬化型又はレドックス硬化型とすることができる。このような開始剤の例には、例えば、BF3又はそのエーテル付加物(BF3・THF、BF3・Et2Oなど)、AlCl3、FeCl3、HPF6、HAsF6、HSbF6、又はHBF4などの重合を開始するルイス酸若しくはブレンステッド酸、又はこのような酸を遊離する化合物、又は、例えば、(η6−クメン)(η5−シクロペンタジエニル)鉄ヘキサフルオロホスフェート、(η6−クメン)(η5−シクロペンタジエニル)鉄テトラフルオロボレート、(η6−クメン)(η5−シクロペンタジエニル)鉄ヘキサフルオロアンチモネート、置換ジアリールヨードニウム塩およびトリアリールスルホニウム塩などのUV若しくは可視光による照射後、又は、熱および/又は圧力により重合を開始する物質がある。使用できる促進剤には、過酸エステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ハイドロパーオキサイドタイプのパーオキシ化合物がある。好ましくはハイドロパーオキサイドが使用される。クメンハイドロパーオキサイドの約70%〜90%クメン溶液が特に好ましい促進剤として使用される。光開始剤対クメンハイドロパーオキサイドの比は、1:0.001〜1:10までの広い範囲で様々であってよいが、好ましく使用される比は、1:0.1〜1:6、最も好ましくは1:0.5〜1:4である。シュウ酸、8−ヒドロキシキノリン、エチレンジアミン四酢酸および芳香族ポリヒドロキシ化合物などの錯化剤の使用も可能である。
【0046】
カチオン光重合性組成物を重合させるのに好適な光開始剤としては、二元系および三元系が挙げられる。典型的な三元光開始剤は、(特許文献9)(ワインマン(Weinmann)ら)に;(特許文献10)(カイサキ(Kaisaki)ら)、(特許文献2)(ワインマン(Weinmann)ら)、(特許文献11)(オックスマン(Oxman)ら)、および、(特許文献1)(オックスマン(Oxman)ら)に;(特許文献12)(デデ(Dede)ら)に;および、2005年5月26日に公開された(特許文献8)に記載されているように、ヨードニウム塩、光増感剤、および電子供与化合物を含む。
【0047】
好適なヨードニウム塩としては、トルイルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トルイルクミルヨードニウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)−フェニル)ボレート、およびジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、およびジフェニルヨードニウムヘキサフルオロボレートが挙げられる。好適な光増感剤には、約450ナノメートル(nm)〜約520nm(好ましくは、約450nm〜約500nm)の範囲内の何らかの光を吸収するモノケトンおよびジケトンがある。より好適な化合物には、約450nm〜約520nm(より好ましくは、約450nm〜約500nm)の範囲内の何らかの光を吸収するα−ジケトンがある。好ましい化合物には、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、および、他の環状α−ジケトンがある。最も好ましいのはカンファーキノンである。好適な電子供与化合物としては、置換アミン、例えば、エチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエートおよび2−ブトキシエチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート;および、重縮合芳香族化合物(例えば、アントラセン)が挙げられる。
【0048】
開始剤系は、所望の硬化(例えば、重合および/又は架橋)速度を提供するのに十分な量で存在する。光開始剤では、この量は、一部には、光源、放射エネルギーに露光される層の厚さ、および光開始剤の吸光係数に依存する。好ましくは、開始剤系は、組成物の重量を基準にして、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.03重量%、最も好ましくは少なくとも0.05重量%の総量で存在する。好ましくは、開始剤系は、組成物の重量を基準にして、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、最も好ましくは2.5重量%以下の総量で存在する。
【0049】
フィラー系
本発明の組成物は、任意に、フィラー系(即ち、1種類以上のフィラー)を含んでもよい。フィラー系に使用されるフィラーは、樹脂系に組み込まれる様々な従来のフィラーから選択されてもよい。好ましくは、フィラー系は、例えば、現在、歯科用修復材組成物に使用されているフィラーなどの、医療用途に使用される組成物に組み込むのに好適な1種類以上の従来の材料を含む。このようにして、本発明の組成物に使用されるフィラー系を樹脂系に組み込む。
【0050】
フィラーは、本質的に粒子状であっても又は繊維状であってよい。粒子状フィラーは、一般に、長さ対幅の比、又はアスペクト比が20:1以下、より一般的には10:1以下であるものと定義され得る。繊維は、アスペクト比が20:1より大きく、より一般的には100:1より大きいものと定義され得る。粒子の形状は、球状〜エリプソイド、又は、より平面的(フレーク若しくはディスクなど)なものにわたって様々であってよい。巨視的特性は、フィラー粒子の形状、特に形状の均一性に大きく依存し得る。
【0051】
好ましい粒子状フィラーは、微粉砕されており、平均粒子サイズ(好ましくは、直径)が10マイクロメートル(即ち、ミクロン)未満である。
【0052】
好ましいミクロンサイズの粒子状フィラーは、平均粒子サイズが少なくとも0.2ミクロン〜1マイクロメートルである。ナノスコピック(nanoscopic)粒子は、平均一次粒子サイズが200nm(0.2ミクロン)未満である。フィラーは、単峰型又は多峰型(例えば、双峰型)の粒子サイズ分布を有してもよい。
【0053】
ミクロンサイズの粒子は、ポストキュア磨耗特性を改善するのに非常に有効である。対照的に、ナノスコピックフィラーは、一般に粘度およびチキソトロピー調整剤として使用される。これらの材料は、サイズが小さく、表面積が大きく、水素結合で会合するため、集合して凝集した網目構造になることが既知である。この種の材料(「ナノスコピック(nanoscopic)」材料)は、平均一次粒子サイズ(即ち、最大寸法、例えば、非凝集材料の直径)が1000ナノメートル(nm)以下である。好ましくは、ナノスコピック粒子状材料は、平均一次粒子サイズが少なくとも2ナノメートル(nm)、好ましくは少なくとも7nmである。好ましくは、ナノスコピック粒子状材料は、平均一次粒子サイズが50nm以下、より好ましくは20nm以下のサイズである。このようなフィラーの平均表面積は、好ましくは、1グラム当たり少なくとも20平方メートル(m2/g)、より好ましくは少なくとも50m2/g、最も好ましくは少なくとも100m2/gである。
【0054】
フィラー系は、無機材料を含んでもよい。これは、また、重合性樹脂に不溶性で、任意に無機フィラーで充填されている架橋有機材料を含んでもよい。フィラー系は、好ましくは、一般に非毒性であり、口内で使用するのに好適である。
【0055】
好適なフィラーは、放射線不透過性、放射線透過性、又は非放射線不透過性とすることができる。歯科用途に使用されるフィラーは、典型的には、本質的にセラミックである。好適な無機フィラーの例には、石英、窒化物(例えば、窒化ケイ素)、例えば、Ce、Sb、Sn、Zr、Sr、Ba、又はAlに由来するガラス、コロイダルシリカ、長石、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、チタニア、および亜鉛ガラス、ジルコニア−シリカフィラーなどの天然材料又は合成材料;並びに、(特許文献32)(ランドクレーフ(Randklev))に記載されているものなどの低モース硬度のフィラーがある。好適な有機フィラー粒子の例としては、充填又は無充填の微粉状ポリカーボネート、およびポリエポキシド等が挙げられる。好ましいフィラー粒子には、石英、サブミクロンシリカ、および、(特許文献33)(ランドクレーフ(Randklev))に記載されている種類の非ガラス質微粒子がある。また、これらのフィラーの混合物、並びに、有機および無機材料から製造されたコンビネーションフィラーを使用してもよい。
【0056】
好適なフィラーの一例には、放射線不透過性のための三フッ化イットリウムを有するIOTA−6フィラー(ノースカロライナ州スプルースパイン、ユニミン社(Unimin Corp., Spruce Pine, NC))(ミル粉砕された石英)がある。カチオン重合性組成物に有用な放射線不透過フィラー、放射線不透過フィラーの組み合わせ、および、放射線不透過フィラーと非放射線不透過フィラーとの組み合わせの記載は、(特許文献15)(ブレッチャー(Bretscher)ら)にも提供されている。
【0057】
フィラー系と樹脂系との結合を向上させるため、任意に、フィラー粒子の表面はシランカップリング剤などの表面処理剤で処理されてもよい。カップリング剤はエポキシ、(メタ)アクリレート等の反応性硬化基で官能化されてもよい。
【0058】
他の好適なフィラーは、(特許文献34)(チャン(Zhang)ら)および(特許文献35)(ウー(Wu)ら)、並びに、(特許文献36)(チャン(Zhang)ら)、(特許文献37)(ウィンディッシュ(Windisch)ら)、(特許文献38)(チャン(Zhang)ら)および(特許文献39)(ウー(Wu)ら)に開示されている。これらの参考文献に記載のフィラー成分には、ナノサイズのシリカ粒子、ナノサイズの金属酸化物粒子、およびこれらの組み合わせが含まれる。ナノフィラーは、「ナノジルコニアフィラーを含有する歯科用組成物」(“Dental Compositions Containing Nanozirconia Fillers,”)と題された米国特許出願である(特許文献40);「ナノフィラーを含有する歯科用組成物および関連する方法」(“Dental Compositions Containing Nanofillers and Related Methods,”)と題された米国特許出願である(特許文献41);および、「歯科用組成物の屈折率を調整するためのナノ粒子の使用」(“Use of Nanoparticles to Adjust Refractive Index of Dental Compositions,”)と題された米国特許出願である(特許文献42)にも記載されており、これらは3つとも全て2004年5月17日に出願された。
【0059】
好ましくは、フィラー系の総量は、組成物の総重量を基準にして50重量%より多く、更に好ましくは60重量%より多く、最も好ましくは70重量%より多い。好ましくは、フィラー系の総量は、組成物の総重量を基準にして95重量%以下、更に好ましくは80重量%以下である。
【0060】
他の添加剤
組成物は、更に、着色剤(例えば、シェード調整のために従来使用されている顔料又は染料)、界面活性剤、香味剤、薬剤、安定剤((BHT)など)、粘度調整剤、希釈剤、流れ調整添加剤、チキソトロープ剤、抗微生物剤、およびポリマー増粘剤等の任意選択的試剤を含んでもよい。必要に応じて、これらの任意選択的添加剤の様々な組み合わせを使用することができる。このような試剤は、それらが樹脂と共重合するように、任意に反応性官能基を含んでもよい。
【0061】
好ましくは、任意選択的成分の総量は、組成物の総重量を基準にして、5.0重量%以下、より好ましくは約2.5重量%以下、最も好ましくは1.5重量%以下である。
【0062】
使用方法
前述のオキシラン含有モノマーを硬化性の歯科用組成物の成分として使用することができる。本発明の歯科用組成物を、例えば、歯科用修復材又は補綴デバイス、又は歯科矯正器具(例えば、ブラケットおよびバンド)用の接着剤として使用することができる。修復材の例としては、歯科用コンポジット、充填材料、シーラント、接着剤、および根管充填材が挙げられる。補綴デバイスの例としては、歯冠(特に、予備形成された化学歯冠)、ブリッジ、ベニア、インレー、アンレー、ポスト、およびピン等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下の実施例で本発明の目的および利点を更に例証するが、これらの実施例に記載される特定の材料およびその量、並びに、他の条件および詳細は、本発明を不当に限定するものと解釈されるべきではない。別途明記しない限り、部およびパーセンテージは全て重量を基準にしており、水は全て脱イオン水であり、分子量は全て重量平均分子量である。
【0064】
試験方法
圧縮強度(CS)試験方法
改定米国規格協会(ANSI/ASA)規定27番(1993年)に従って、試験サンプルの圧縮強度を測定した。サンプルを3.2ミリメートル(mm)(内径)のプレキシガラス管に充填し、この管にシリコーンゴム栓で蓋をし、約0.28メガパスカル(Mpa)で5分間、軸方向に圧縮した。次いで、サンプルを、対向配置された2つのビジルクス(VISILUX)モデル2500青色光ガン(ミネソタ州セントポール、3M社(3M Co., St.Paul, MN))に露光することにより90秒間光硬化させた。圧縮強度を測定するため、硬化したサンプルをダイヤモンドソーで切断し、長さ6〜7mmの円筒状プラグを形成した。試験する前にプラグを37℃の蒸留水中に24時間貯蔵した。インストロン(Instron)試験機(インストロン(Instron)4505、マサチューセッツ州カントン、インストロン社(Instron Corp. Canton, MA))で10キロニュートン(kN)のロードセルを用いて1mm/分のクロスヘッド速度で測定を実施した。硬化したサンプルの5本の円筒を準備して測定し、その結果を5つの測定の平均としてMPaで報告した。
【0065】
ポストキュア曲げ強度(FS)および曲げ弾性率(FM)試験方法
以下の試験手順に従って、曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。ペーストサンプルをデルリン(Delrin)型内で室温で1平方インチ当たり1万ポンド(kpsi)(69MPa)で5分間加圧し、2mm×2mm×25mmの試験片を形成した。試験片を直ぐに、上面の3つの重なり合う位置で2つのビジルクス(Visilux)2500歯科用キュアリングライト(3M社(3M Company))を用いて合計120秒間硬化させ、更に、底面の2つの重なり合う位置で2つのビジルクス(Visilux)2500歯科用キュアリングライトを用いて更に合計60秒間硬化させた。
【0066】
次いで、試験片を600グリットのサンドペーパーで軽く研磨し、成形プロセスによるバリを除去した。37℃の蒸留水中に24時間貯蔵した後、インストロン(Instron)試験機(インストロン(Instron)4505、マサチューセッツ州カントン、インストロン社(Instron Corp. Canton, MA))で、ANSI/ADA(米国規格協会/米国歯科協会)規定27番(1993年)に従って0.75mm/分のクロスヘッド速度で試験片の曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。硬化したペーストコンポジットの5本の試験片を準備して測定し、結果を5つの測定の平均としてメガパスカル(MPa)で報告した。
【0067】
ゲル化時間試験方法
ゲル化時間は、スパチュラの先端を用いて容易に手でへこませることができないようにペーストサンプルが固体に変わるのに要する最短時間と定義された。試験手順は以下のとおりであった。
【0068】
試験ペーストサンプル(50〜70ミリグラム(mg))を1枚の白色ワックス紙上に載せ、混合棒を用いて丸め、球にした。次いで、サンプルがゲル化するまで、エリパー・トライライト(Elipar Trilight)歯科用キュアリングライト(3M社(3M Company))上のタイマーを使用して連続的な2秒間の照射にサンプルを露光させた。ライトをサンプルのできるだけ近くに、接触しないように配置した。ペーストが最初にゲル化する(容易にへこませられない点まで硬化する)時間をゲル化時間として記録した。
【0069】
ポストゲル収縮試験方法
サンプルをポリコートされた紙パッド上でスパチュラ又は歯科用配置器具を用いて丸めることにより、試験ペーストサンプル(約20mg)をボールに成形した。球状のペーストサンプルを、モデル2120信号調整器(ノースカロライナ州ローリー、マイクロ・メジャメンツ・グループ社(Micro−Measurements Group Inc., Raleigh, NC))に接続された非結合二軸歪ゲージ(CEA−06−032WT−120)上に載置した。ペーストを僅かに平坦にし、ペーストが歪ゲージ能動回路素子に十分に接着したことが確実になるように操作した。XL−2500光ガイド(3M社(3M Company)の先端をサンプルのできるだけ近くに、ペーストに接触しないように(約1mmの距離)位置決めした。XL−2500光ガイドを用いてペーストサンプルを60秒間硬化させ、照射1時間後に歪ゲージが示した微小歪収縮を記録した。
【0070】
エポキシ当量(EEWg/モル)試験方法
0.0001グラム(g)の精度までペースト又は樹脂サンプルの重量を測定し、滴定用ビーカーに入れた。200〜300EEWを有する樹脂ではサンプル0.2グラムを使用し、フィラー又は高充填ペーストではサンプル4.0グラムを使用した。過塩素酸の0.1規定(N)氷酢酸溶液を用いて滴定する間、変曲点で1〜9ミリリットル(ml)の容積が分注されているようにサンプルの重量を調整した。滴定用ビーカーにアセトニトリル(25ml)をピペットを用いて添加し、次いでそれをパラフィルムで被覆し、室温で2分間超音波処理した。ソニケータの液位はサンプル溶液の高さであった。氷酢酸(25ml)と、テトラブチルアンモニウムブロマイドの20%氷酢酸溶液(20ml)をピペットを用いてビーカーに逐次的に添加した。得られた溶液を、攪拌棒を用いて2分間混合した後、メトラーDL21滴定装置(Mettler DL21 Titrator)およびメトラーDG111−SC電極(Mettler DG 111−SC Electrode)を使用して、過塩素酸の0.1N氷酢酸溶液で滴定した。サンプルのEEWを次のように計算した:
EEW=サンプルのmg/((総ml−ブランクのml)×HClO4滴定剤の規定度)
【0071】
ACTA三体磨耗試験方法
フィルテックZ250万能修復材(3M社)(FILTEK Z250 Universal Restorative(3M Company))と比較した試験サンプルのACTA三体磨耗試験を、次の参考文献、(非特許文献2)に記載されているのと全く同じように行った。
【0072】
光示差走査熱量計(DSC)試験方法
樹脂(10mg)又はペースト(25mg)の試験サンプルの重量を測定してDSC皿に入れ、その重量を±0.00001グラム(g)まで記録した。未硬化のサンプルをサンプルセル上に載置し、同じ公称重量のプレキュアしたサンプルをTAインスツルメンツ2920光DSC(デラウェア州ニューカッスル、TAインスツルメンツ)(TA Instruments 2920 Photo DSC(TA Instruments, New Castle, DE))の対照セル上の同じタイプのDSCパンに入れた。5分間緩速な窒素パージを用いて37℃で平衡になるように光DSCプログラムを設定し、同じ緩速な窒素パージを使用し37℃の恒温における照射時間を1時間に設定した。得られた熱流(1グラム当たりのワット(ワット/g))対時間の曲線から、最大反応速度の時間(ピーク最大時間)、反応の開始(誘導時間)および反応のエンタルピー(1時間照射する間の曲線の下の面積)を記録した。
【0073】
【表1】




【0074】
実施例1
1,10−ビス[2−(2,3−エポキシプロピル)フェノキシ]デカン(化合物A)の合成
【化5】


メチルエチルケトン(MEK)150ml中に2−アリルフェノール(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))35グラム、1,10−ジブロモデカン(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))39グラム、および炭酸カリウム36グラムを含有する混合物を80℃に24時間加熱し、続いて水200mlおよびヘキサン200mlを添加した。得られた混合物は有機相と水相に分離した。有機相を水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を除去し、真空下で残留液体を蒸留した。210〜215℃(0.1mmHg、13パスカル)で沸騰する物質を捕集し、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)により1,10−ビス(2−アリルフェノキシ)へキサンであることが特徴付けられた液体26グラムを得た。
【0075】
塩化メチレン210ml中に1,10−ビス(2−アリルフェノキシ)へキサン(21グラム)を溶解させた溶液に、77%m−クロロ過安息香酸(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))41.6グラムを添加した。m−クロロ過安息香酸の溶解によって起こる初期冷却の後、僅かな発熱反応があり、低温の水浴で反応温度を25〜26℃に保持した。混合物を6時間攪拌した。ガスクロマトグラフィーによる反応混合物の分析は、所望の生成物が92%であることを示した。水150mlとヘキサン200ml中に水酸化ナトリウム40グラムを含有する溶液に反応混合物を注ぎ入れた。得られた混合物を攪拌し、氷浴で10℃に冷却した。有機層を取り出し、5%のヒドロ亜硫酸ナトリウム溶液100mlで洗浄し、10%の塩化カリウム溶液100mlで3回洗浄した。溶媒を除去し、残留物をシリカゲルカラムに通し、へキサン75%/酢酸エチル25%の混液で溶離し、色のほとんどを除去した。得られた油を、10%酢酸エチル含有ヘキサン100mlに溶解させ、塩基性酸化アルミニウム3グラムと共に攪拌して処理し、更に色を除去した。濾過して酸化アルミニウムを除去し、溶媒を分離し、核磁気共鳴分光法(NMR)により、1,10−ビス[2−(2,3−エポキシプロピル)フェノキシ]デカン(化合物A)であることが特徴付けられた液体13グラムを得た。
【0076】
実施例2
1,3−ビス[2−(2,3−エポキシプロピル)フェノキシ]プロパン(化合物B)の合成
1,10−ジブロモデカンの代わりに1,3−ジブロモプロパン(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))を使用したこと以外、実施例1に記載の手順で1,3−ビス[2−(2,3−エポキシプロピル)フェノキシ]プロパン(化合物B)を合成した。両方の工程の全収率は48%であり、化合物Bの構造はNMRで確認された。
【0077】
実施例3
1,5−ビス[2−(2,3−エポキシプロピル)フェノキシ]ペンタン(化合物C)の合成
1,10−ジブロモデカンの代わりに1,5−ジブロモペンタン(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))を使用したこと以外、実施例1に記載の手順で1,5−ビス[2−(2,3−エポキシプロピル)フェノキシ]ペンタン(化合物C)を合成した。両方の工程の全収率は38%であり、化合物Cの構造はNMRで確認された。
【0078】
実施例4
1,6−ビス[2−(2,3−エポキシプロピル)フェノキシ]へキサン(化合物D)の合成
1,10−ジブロモデカンの代わりに1,6−ジブロモへキサン(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))を使用したこと以外、実施例1に記載の手順で1,6−ビス[2−(2,3−エポキシプロピル)フェノキシ]へキサン(化合物D)を合成した。両方の工程の全収率は25%であり、化合物Dの構造はNMRで確認された。
【0079】
調製化合物(化合物E)
【化6】

ビスフェノールA50グラム、エチレンカーボネート42.4グラム、およびトリエチルアミン24グラムを含有する混合物を105℃に24時間加熱した。水流アスピレータで真空にして、混合物を110℃に加熱し、トリエチルアミンのほとんどを除去した。混合物を冷却し、酢酸エチル300ml中に溶解させ、5%HCl水100mlで洗浄した。次いで、有機相を水100ml、5%炭酸カリウム100ml、および塩化カリウム溶液100mlで洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を除去すると油が得られ、これは放置すると一部結晶化した。一部結晶化した油を酢酸エチル100ml中に再溶解させ、濁るまでヘキサンを添加した。2日間放置してこの物質を結晶化させ、濾過して2−(4−{1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−1−メチル−エチル}−フェノキシ)エタノール25.8グラムを得た。
【0080】
前記で調製した2−(4−{1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−1−メチル−エチル}−フェノキシ)エタノール11グラム、1−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)−エタノン(ERL414、ダウケミカル、ミッドランドケミカル(Dow Chemical,Midland Chemical))11.8グラム、および酢酸ナトリウム0.3グラムを含有する混合物を、メタノールの除去を助けるため、攪拌しながら窒素パージ下で120℃に加熱した。3時間後、薄層クロマトグラフィーで示されたように反応は完了した。混合物を酢酸エチル中に溶解させ、水で洗浄した。真空下で溶媒を除去し、残留物を高温のヘキサンで4回抽出した。残留溶媒を除去し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーで1:5の酢酸エチル/塩化メチレンで溶離させて残留物を精製し、透明で粘稠な液体として生成物10.6グラムを得た。化合物Eの構造はNMRで確認された。
【0081】
実施例5〜19および比較例1〜4(C1〜C4)
オキシランモノマーを含むモノマーの混合物
オキシランモノマーを他のオキシランモノマーを組み合わせて、又はケイ素含有オキシランモノマーと組み合わせて含有する一連のモノマー混合物を調製した。目的は、屈折率(RI)の値が石英フィラーのもの(約1.54)に近いモノマー混合物を形成することであった。重合時に期待されるRIの約0.01増加を加味して、モノマー混合物の目標RI値は1.535付近であった。
【0082】
調製されたモノマー混合物のそれぞれに、光開始剤系を添加し、表示される重量パーセンテージで次の成分から構成される樹脂組成物を得た:EDMAB(0.3%)、CPQ(0.5%)、ローダーシル(Rhodorsil)2074(3.0%)、ポリTHF(poly−THF)(3.0%)、シラキュア(Cyracure)UVR6105(2.2%)、およびオキシランモノマー混合物(91.0%)。得られた樹脂組成物のそれぞれに、エポキシ官能性シラン処理石英フィラー(IOTA−6、平均粒子サイズ1マイクロメートル、ノースカロライナ州スプルースパイン、ユニミン社(Unimin Corp., Spruce Pine, NC))を添加し、樹脂組成物30%とフィラー70%の重量比のペースト状の光硬化型(重合性)組成物を得た。DAC150FVZスピード・ミキサー(Speed Mixer)(サウスカロライナ州ランドラム、フラクテック(Flakteck, Landrum, SC))を用いて、毎分3000回転(rpm)で、混合中の過剰な熱の発生を回避するため短い混合サイクルで樹脂成分とフィラー成分の混合を達成した。得られた重合性ペースト組成物は実施例5〜19と称され、参照化合物しか含有しない比較例C1〜C4と共に表1に列挙されている。実施例16〜19および比較例C1は、光開始剤系のCPQおよびEDMAB成分の溶媒として使用されたシラキュア(Cyracure)UVR6105以外、単一のエポキシ官能性モノマー(それぞれ、化合物A〜Dおよび化合物F)しか含有しなかったことに留意されたい。表1は、組成物に使用されるモノマーの相対的な量、および、光開始剤系を添加した後で、且つフィラーを添加する前の混合物の対応するRI値を記載している。(対応する樹脂組成物は、実施例5R〜19Rおよび比較例C1−R〜C4−Rと称された。)
【0083】
【表2】

【0084】
評価
エイムス変異原性
カンザス市のミズーリ大学(UMKC)、薬学部によって化合物A〜Dのエイムス変異原性試験評価が実施された。今日までの結果は、化合物A、CおよびDがTA100株およびTA97A株で陰性であることを示した。化合物Bは、TA100株、TA1535株、TA98株、TA102株で陰性であり、TA97A株では僅かに陽性であった。
【0085】
硬化度(光示差走査熱量計(DSC))
実施例5〜19および比較例1〜4の光DSCの結果を表2(フィラーを含まない樹脂組成物としての実施例)および表3(フィラーを有する重合性ペースト組成物としての実施例)に示す。また、表2および表3に、
1.樹脂およびペーストの測定されたエポキシ当量(EEW)、エポキシ基1モル当たりの材料のグラムの単位、および
2.樹脂およびペーストの計算されたエンタルピー、材料中のエポキシ基1モル当たりのジュール(J/モル)
も示す。
EEW=エポキシ基1モル当たりのグラム(滴定測定値から)
ジュール/エポキシ基のモル=(ジュール/グラム)×(グラム/モル)=J/g×EEW
ジュール/モルの値は、低強度照射(1平方センチメートル当たり約3ミリワット(mw/cm2)、セントポール(St.Paul)、3M ESPE、TA2920光DSCに特徴的)で得ることができる相対的な反応の程度(転化率)を示す
【0086】
機械的特性
実施例5〜19および比較例1〜4(フィラーを有する重合性ペースト組成物としての実施例)の圧縮強度、曲げ強度、および曲げ弾性率を本明細書に記載の試験方法に従って評価したが、その試験結果を表4に示す。
【0087】
ゲル化時間、ポストゲル収縮、およびACTA三体磨耗
実施例5〜19および比較例1〜4(フィラーを有する重合性ペースト組成物としての実施例)のゲル化時間、ポストゲル収縮、およびACTA三体磨耗を本明細書に記載の試験方法に従って評価したが、その試験結果を表4に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
本明細書に引用される特許、特許文献、および出版物の完全な開示は、参照により、それぞれが個々に組み込まれるかのごとく、その内容全体が組み込まれる。当業者には、本発明の範囲および趣旨を逸脱することなく、本発明の様々な修正および変更が明らかである。本発明は、本明細書に記載される例証の実施形態および実施例によって不当に限定されるものではなく、このような実施例および実施形態は例示の目的で示されるに過ぎず、本発明の範囲は前述の特許請求の範囲によってのみ限定されることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、
Aは、それぞれ炭素原子数が1〜30で、1つ以上の炭素および/又は水素原子が任意に1つ以上のBr、Cl、N若しくはO原子又はこれらの組み合わせで置換されている、直鎖又は分岐鎖のアルキレン、シクロアルキレン、アリールアルキレン又はアリールシクロアルキレンを表し、
各Rは独立してアルキル、アリール又はエポキシアルキルを表し、
nは0〜4であり、そして
aは2〜4である)
の構造を有するエポキシ官能性エーテルモノマー、および
開始剤系、
を含む歯科用組成物。
【請求項2】
aが3である、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
aが2である、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
Aがアルキレンを表す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
Aが炭素原子数3〜10のアルキレンを表す、請求項4に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
nが0である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
芳香族基、脂肪族基、脂環式基およびこれらの組み合わせを含むエポキシ化合物からなる群から選択される副次的樹脂系反応物質を更に含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記副次的樹脂系がケイ素含有反応物質を更に含む、請求項7に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
フィラー系を更に含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
着色剤、界面活性剤、香味剤、薬剤、安定剤、粘度調整剤、希釈剤、流れ調整添加剤、チキソトロープ剤、抗微生物剤、およびポリマー増粘剤、および、これらの組み合わせからなる群から選択される添加剤を更に含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科用組成物。

【公表番号】特表2008−506697(P2008−506697A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521601(P2007−521601)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/024822
【国際公開番号】WO2006/019797
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】