説明

オゾン検知シート

【課題】電力を使用せず、容易に携帯可能な状態で、蓄積効果により測定対象のガス中のオゾンの積算量を簡便に検出し、かつ、個人が簡単に携帯可能なオゾン検知シートを提供する。
【解決手段】アリザリンからなる色素と、グリセリンからなる保湿剤とが溶解し、かつ塩基(アルカリ性物質)を溶解させることでアルカリ性とされた水溶液であり、保湿剤の重量%が20%程度とされた検知溶液101を用意し、これに、セルロース濾紙からなるシート状担体103を30秒間浸漬して検知溶液101を含浸させ、検知溶液101が含浸した含浸シート104が形成された状態とする。この後、含浸シート104を検知溶液101より引き上げ、乾燥窒素中で乾燥させることで含浸シート104に含浸されている水分などの溶媒を蒸発させて乾燥させ、オゾン検知シート105が形成された状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気などの気体中に存在するオゾンを退色反応により検出するオゾン検知シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、NOx、SPM(Suspended Particulate Matter)、光化学オキシダントによる大気汚染が生じ、環境に対する影響が問題とされている。例えば光化学オキシダントは、オゾンなどの強い酸化性を持った物質を主成分とし、工場や事業所や自動車から排出されるNOxや炭化水素などの汚染物質が太陽光線の照射を受けて光化学反応により生成されたものであり、光化学スモッグの原因となっている。
【0003】
日本では、これらの物質について、環境基準が設定されており、各地の一般環境大気測定局において測定されている。例えば、光化学オキシダントは、この濃度に環境基準が設定され、各地の一般大気環境観測局で、例えば紫外線吸収法などの自動測定法によりガス濃度測定が行われている。なお、光化学オキシダントについては、環境基準として、1時間あたりに測定される平均値が、0.06ppm以下となっている。
【0004】
上述した自動測定法によるオゾンガス濃度測定では、大気中に存在するオゾンの測定として、中性ヨウ化カリウム溶液に被測定ガスをバブリングさせ、生じるヨウ素の呈色反応を利用して検出する方法や、オゾンの紫外領域での吸収を利用して検出する方法が用いられている。これらの測定方法は、数ppbの微量なガスの測定が可能であるが、装置が大型化し、また複雑な構成となり、簡便な測定が行えないという欠点を有している。また、これらの装置は、高価であり、かつ精度維持のための整備が常に必要となっている。加えて、これら装置による自動測定では、常に電力を必要とし、また定期的な較正(保守)作業が必要なため、維持をするために膨大な経費を必要とし、電源,温度制御された設置環境,及び標準ガスの確保が必要となり、制約が多い。
【0005】
ところで、環境におけるガス濃度の分布調査,地域環境への影響評価,及び人体への被爆の影響評価を精度よく行うためには、個人が容易に携帯可能な測定方法を用いて環境の監視を行う必要がある。このためには、前述したような大がかりな測定装置では対応できず、安価,小型,かつ容易に使用可能な測定装置や測定方法の開発が要望される。
【0006】
また近年、オゾンは、強い殺菌力(酸化力)と、分解した後に酸素になり有害物質が生成されない利点が注目され、水の処理,食品の殺菌,紙の漂白など、様々な産業分野での利用が拡大している。このため、労働環境基準として、オゾン濃度に対して100ppb,8時間の基準値が設定されている。オゾンを使用する工場においては、オゾン警報機の設置はもちろんであるが、各労働者が、労働基準の範囲内で労働している状態を管理する必要があり、このためには、労働者が携帯できる測定器が必要となる。
【0007】
このような中で、現在、半導体ガスセンサー、固体電解質ガスセンサー、電気化学式ガスセンサー、水晶発振式ガスセンサーなど、幅広くオゾンガス測定技術の開発が進んでいる。しかし、これらは、短時間での応答を評価するために開発されたものであり、測定データの蓄積が必要な監視用に開発されたものは少ない。従って、測定データの蓄積が必要な場合には、常時稼働させておく必要がある。また、例えば半導体センサーの場合、検出部を数100℃に保つ必要があり、常時稼働させるためには多くの電力が常に必要とされる。
【0008】
また、上述したセンサーは、検出感度がサブppm程度であるために、例えば10ppbのオゾンの測定など、実環境の濃度には対処できない。半導体センサーの中には、10ppbのオゾンに反応するものもあるが、検出出力は濃度に対して非線形であり、さらに、センサー個体毎に出力値が大きく異なり、異なるセンサーを用いた場合の比較が容易ではない。また、多くの場合、他ガスによる影響が無視できない。
【0009】
また、検知管式気体測定器を使う方法があるが、この方法についても、測定箇所における非常に短い時間の濃度を局所的に測定すること目的として開発されたものであり、測定データの蓄積的な使用は困難である。
【0010】
上述したオゾンガスの分析技術に対し、簡便で高感度なオゾンの分析技術として、デンプン及びヨウ化カリウムが担持されたオゾン検知紙が提案されている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1による技術では、被検知ガスを強制的に吸引するためのポンプや測定のための光源及びこれらで構成された検出器を駆動するための電力が必要となる。また、特殊なシート状の担体が必要となり、1回の測定毎にシートを更新する必要があり、蓄積的な測定が容易ではない。加えて、上記検知紙を用いた測定では、オゾンではなく、光化学オキシダントすべてを検出してしまうという問題がある。また、この方法を用いた場合、生成したヨウ素が徐々に蒸発するために制度や再現性に問題があった。
【0011】
また、簡便で高感度なオゾンガスの分析方法として、インジゴカルミンを担持したオゾン検知紙による技術が提案されている(非特許文献1参照)。しかしながら、このオゾン検知紙の場合、感度が十分ではなく、労働環境基準である100ppb×8時間の蓄積量を十分に測定することができないという問題があった。また、青色のインジゴ色素を担持したオゾン検知シートの表面にメンブレンフィルタを設置し、メンブレンフィルタの厚さを調節することで感度を調節する技術も提案されている(非特許文献2参照)。
【0012】
また、発明者らは、簡便で高度なオゾン検知素子として、オゾンと反応して可視領域の光吸収が変化する色素を孔内に備えた多孔体ガラスを用いたオゾン検知素子を提案している(特許文献2参照)。この技術によれば、大がかりな装置を必要とせずに、高い精度でオゾンガスの測定が可能となる。しかしながら、この技術においても、測定においては、光源や検出器を駆動するための電力が必要となり、また、多孔体ガラスという高価な担体が必要となる。
【0013】
【特許文献1】特許第3257622号公報
【特許文献2】特開2004−144729号公報
【非特許文献1】Anna C. Franklin, et al. ,"Ozone Measurement in South Carolina Using Passive Sampler", Journal of the Air & Waste Measurement Association, Vol.54, pp.1312-1320, 2004.
【非特許文献2】"Operating Instructions for Ozone Monitor", Part#380010-10,http://www.kandmenvironmental.com/PDFs/ozone.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上に説明したように、従来では、環境基準に応じてppbオーダーで精度よくオゾンガスを検出しようとすると、効果で大がかりな装置構成が必要となり、手間がかかって容易にオゾンガスが検出できないという問題があった。また、従来の技術では、簡便に測定しようとすると、蓄積量の測定が困難であったり、電力を必要とし、また、特殊な担体を必要とするなどの問題があり、個人が簡単に携帯可能なものがなかった。
【0015】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、電力を使用せず、容易に携帯可能な状態で、蓄積効果により測定対象のガス中のオゾンの積算量を簡便に検出し、かつ、個人が簡単に携帯可能なオゾン検知シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るオゾン検知シートは、繊維より構成されたシート状の担体と、この担体に担持され、例えば、アリザリン又はアリザリンレッドSなどのヒドロキシ基を備えるアントラキノン系の色素と、担体に担持された水溶液がアルカリ性となるアルカリ性物質とから少なくとも構成されたものである。このオゾン検知シートによれば、担持している色素がオゾンと反応すると、色素によるオゾン検知シートの色が変化する。
【0017】
上記オゾン検知シートは、色素が溶解し、かつアルカリ性物質が溶解することでアルカリ性とされた検知溶液に担体を浸漬して検知溶液を担体に含浸させ、かつ乾燥させることで形成されたものであればよい。アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウムを用いればよい。
【0018】
上記担体に、色素とともに担持された保湿剤を備えるようにしてもよい。例えば、保湿剤は、グリセリン,エチレングリコール,及びプロピレングリコールの少なくとも1つであればよい。なお、保湿剤としてグリセリンを用いる場合、検知溶液は、保湿剤の重量%が3〜50%とされたものであればよい。また、この場合、検知溶液は、保湿剤の重量%が20%とされたものが特によい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、 以上説明したように、本発明によれば、繊維より構成されたシート状の担体に、ヒドロキシ基を備えるアントラキノン系の色素及び水溶液がアルカリ性となるアルカリ性物質を担持してオゾン検知シートを構成したので、電力を使用せず、容易に携帯可能な状態で、蓄積効果により測定対象のガス中のオゾンの積算量を簡便に検出し、かつ、個人が簡単に携帯可能なオゾン検知シートが提供できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1におけるオゾン検知シートの製造方法例について説明する工程図である。先ず、図1(a)に示すように、検知溶液101が収容された容器102を用意する。検知溶液101は、アリザリン(1,2−ジヒドロキシアントラキノン:C14102(OH)2)からなる色素と、グリセリン(C383)からなる保湿剤とが溶解し、かつ塩基を溶解させることでアルカリ性とされた水溶液であり、保湿剤の重量%が20%程度とされたものである。
【0021】
検知溶液101は、例えば、アルカリ性物質である塩基として水酸化ナトリウムを溶解させてこの濃度を0.1mol/リットルとした水溶液25mlに、0.025gのアリザリンを溶解させ、これに10gのグリセリンと水とを加え、全量を50gとしたものである。アリザリンは、アントラキノン系の色素(染料)であり、アルカリ性とした溶液にアリザリンを溶解して作製した検知溶液101は、紫色を呈した水溶液となる。検知溶液101の色は、目視による確認が可能である。
【0022】
次に、図1(b)に示すように、所定の寸法のシート状担体103を用意する。シート状担体103は、セルロースなどの繊維より構成されたシートであり、例えば、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)である。シート状担体103は、例えば白色であればよい。次いで、用意したシート状担体103を検知溶液101に浸漬し、例えば30秒間浸漬してシート状担体103に検知溶液101を含浸させ、図1(c)に示すように、検知溶液101が含浸した含浸シート104が形成された状態とする。この状態は、含浸シート104が、染料であるアリザリンにより染色された状態であるといえる。
【0023】
この後、含浸シート104を検知溶液101より引き上げ、乾燥窒素中で乾燥させることで含浸シート104に含浸されている水分などの溶媒(媒質)を蒸発させて乾燥させ、図1(d)に示すように、オゾン検知シート105が形成された状態とする。このように形成されたオゾン検知シート105には、ヒドロキシ基を備えるアントラキノン系の色素であるアリザリンが、アルカリ性物質としての水酸化ナトリウムとともに担持されていることになる。また、オゾン検知シート105には、保湿剤としてのグリセリンも担持されている。得られたオゾン検知シート105は、紫色を呈した(紫色に染色された)状態となり、この色は、目視による確認が可能である。
【0024】
このようにして製造されたオゾン検知シート105は、オゾンが存在する環境に晒すことで、晒している時間とともに紫色の濃度が徐々に薄くなり、最終的に白色の状態に変化する。例えば、オゾン濃度が0.04ppmの環境にオゾン検知シート105を晒して24時間経過すると、白色の状態(もとの濾紙の色)となる。このように、オゾン検知シート105によれば、色の変化によりオゾンの検知が可能であり、また、蓄積的な検出が可能である。この色の変化は、アントラキノン系の色素であるアリザリンのオゾンによる分解に応じた退色によるもと考えられる。
【0025】
ここで、用いることができる色素としては、アリザリンに限らず、アリザリンレッドS(9,10-Dihydro-3,4-dihydroxy-9,10-dioxo-2-anthracenesulfonic acid, sodium salt:C14102(OH)2SO3Na)などの、ベンゼン環(アントラセン)に結合するヒドロキシ(−OH)基を備えたアントラキノン系の色素(染料)を用いることができる。このようなアントラキノン系の色素は、オゾンによりキノン環が分解され、色素分子の構造と電子状態が変化して可視領域の光吸収が変化して色(色相)が変化し、この結果、上述した色の変化(退色)が起こるものと考えられる。
【0026】
また、上記色素は、水酸化ナトリウムなどを用いてアルカリ性とされている状態では、ベンゼン環に結合しているヒドロキシ基の水素が脱離し、ベンゼン環(アントラセン)に結合した−O-基が存在した状態となる。このようにベンゼン環に結合した−O-基が存在すると、この部分にオゾンが取り込まれ(引き寄せられ)やすくなり、色素とオゾンとの反応が起こりやすくなるものと考えられる。これらの結果、ベンゼン環に結合するヒドロキシ基を備えたアントラキノン系の色素を用いることで、オゾン検知を行うことが可能となる。
【0027】
また、図1に示した製造方法によるオゾン検知シート105によれば、重量%が20程度とされた保湿剤が含まれている検知溶液101を含浸させて形成されていることにより、前述した、オゾンの存在による色の変化(オゾンの検知能力)が、より効果的に発現されるものとなる。保湿剤が含まれている(担持されている)ことにより、オゾン検知シート105における色素とオゾンとの反応が促進されるものと考えられる。ただし、検知溶液における保湿剤の濃度が例えば50%を超えるなど高すぎる場合、乾燥に要する時間が膨大となり、再現性のある検知シートを作製することが困難となる。
【0028】
この、保湿剤の量と、オゾンの存在によるオゾン検知シートの色の変化との関係について以下に説明する。以下では、検知溶液101における保湿剤の量(含有量)を変えて作製した複数の試料(オゾン検知シート)による比較について説明する。
【0029】
先ず、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、水を加えて全量を50gとし、検知溶液Aを調整(作製)する。保湿剤としてのグリセリンは含まずに作製する。この検知溶液Aにより前述同様にオゾン検知シートAを作製する。オゾン検知シートAは、紫色を呈した状態に形成される。
【0030】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン5gに水を加えて50gとし、検知溶液Bを作製する。この検知溶液Bにより前述同様にオゾン検知シートBを作製する。オゾン検知シートBは、紫色を呈した状態に形成される。
【0031】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン10gに水を加えて50gとして検知溶液Cを作製し、この検知溶液Cにより前述同様にオゾン検知シートCを作製する。オゾン検知シートCは、紫色を呈した状態に形成される。
【0032】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン15gに水を加えて全量を50gとした検知溶液Dを作製し、この検知溶液Dにより前述同様にオゾン検知シートDを作製する。オゾン検知シートDは、紫色を呈した状態に形成される。
【0033】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン20gに水を加えて全量を50gとした検知溶液Eを作製し、この検知溶液Eにより前述同様にオゾン検知シートEを作製する。オゾン検知シートEは、紫色を呈した状態に形成される。
【0034】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン25gに水を加えて全量を50gとした検知溶液Fを作製し、この検知溶液Fにより前述同様にオゾン検知シートFを作製する。オゾン検知シートFは、紫色を呈した状態に形成される。
【0035】
上述した各試料(オゾン検知シートA,B,C,D,E,F)について、各々、以下の表1に示す条件において、25℃、湿度60%の条件で所定の濃度のオゾンが充満している箱の内部に設置しオゾンガスに暴露し、変色性について肉眼で観察した。なお、箱の容積は200リットルであり、内部オゾン濃度の分析のため2リットル/分で内部空気を吸引し、2リットル/分で所定濃度のオゾンを含んだ空気を供給する。このようにして被検出対象の空気に晒し、各オゾン検知シートの色の変化を目視により観察する。
【0036】
色の変化の観察では、アルカリ性とされたアリザリンが光吸収を示す波長500〜600nm付近の光吸収強度が、5段階に変化しているカラーチャートを用意し、このカラーチャートとの比較により、各オゾン検知シートにおける色の変化を、5段階で評価する。この評価では、評価結果「1」は、色の変化が観察されない場合を示す。また、評価結果「2」,「3」,「4」は、この順に、紫色の濃度が薄く観察された場合を示す。また、評価結果「5」は、変化後のオゾン検知シートの色が、アリザリンによる色が脱色して白色を呈している状態に観察された場合を示す。また、4段階のカラーチャートとの比較において、各段階の中間に観察される場合、例えば、「2」と「3」との中間に観察される場合は、評価結果を「2.5」とする。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示す結果より、保湿剤を含む検知シートBから検知シートFでは、オゾン濃度が0.04ppmと低くても暴露5時間の積算により確実に検知できることがわかる。さらに0.04ppmに5時間暴露した結果と0.075ppmに5時間暴露した結果とでは、明らかに色の違いを見分けることが可能なため、個人が1日に携帯した場合、色の様子からおおよその被爆量を推定することが可能となる。
【0039】
また、0.lppm×5時間の暴露条件で暴露前と暴露後の光の反射率を測定し、この差と、グリセリンの検知溶液に対する含有量との関係をプロットした特性図を図2に示す。光の反射率の測定は、反射ユニット付き日立分光光度計を用いた。なお、図2では、光の反射率の変化を脱色の割合として示している。この結果より、オゾン検知シートを作製するときに用いた検知溶液における保湿剤(グリセリン)の量により、作製されたオゾン検知シートをオゾンに暴露したときの単位時間あたりの反射率の変化量が異なることがわかる。
【0040】
保湿剤としてグリセリンの含有量が〜20%の範囲では、グリセリン含有量が増えるほど単位時間あたりの反射率の変化量が大きくなる。なお、脱色の割合が30%以上あれば目視により色の変化を確認することが可能であるため、オゾン検知シートを作製するための検知溶液におけるグリセリン含有量は、3〜50%が適しているものと考えられる。ただし、10ppmレベルの高濃度のオゾンを検出する場合、グリセリンの含有量を3%以下(グリセリンを含まない場合も含む)とした方がよい場合がある。
【0041】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2における他のオゾン検知シートについて説明する。以下では、前述したアリザリンの代わりに、アントラキノン系の色素としてアリザリンレッドS(別名モーダンレッド3)を用いた場合について説明する。先ず、0.03gのアリザリンレッドSを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、水を加えて全量を50gとし、検知溶液Gを作製する。保湿剤としてのグリセリンは含まずに作製する。この検知溶液Gにより前述同様にオゾン検知シートGを作製する。オゾン検知シートGは、紫色を呈した状態に形成される。
【0042】
また、0.03gのアリザリンレッドSを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン5gと水を加えて50gとし、検知溶液Hを作製する。この検知溶液Hにより前述同様にオゾン検知シートHを作製する。オゾン検知シートHは、紫色を呈した状態に形成される。
【0043】
また、0.03gのアリザリンレッドSを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン10gと水を加えて50gとし、検知溶液Iを作製する。この検知溶液Iにより前述同様にオゾン検知シートIを作製する。オゾン検知シートIは、紫色を呈した状態に形成される。
【0044】
また、0.03gのアリザリンレッドSを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン15gと水を加えて50gとし、検知溶液Jを作製する。この検知溶液Jにより前述同様にオゾン検知シートJを作製する。オゾン検知シートJは、紫色を呈した状態に形成される。
【0045】
また、0.03gのアリザリンレッドSを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン20gと水を加えて50gとし、検知溶液Kを作製する。この検知溶液Kにより前述同様にオゾン検知シートKを作製する。オゾン検知シートKは、紫色を呈した状態に形成される。
【0046】
また、0.03gのアリザリンレッドSを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのグリセリン25gと水を加えて50gとし、検知溶液Lを作製する。この検知溶液Lにより前述同様にオゾン検知シートLを作製する。オゾン検知シートLは、紫色を呈した状態に形成される。
【0047】
このようにして作製したオゾン検知シートGからオゾン検知シートLを、以下の表2に示す条件下で、25℃、湿度60%の条件で所定の濃度のオゾンが充満している箱の内部に設置し、オゾンガスに暴露して変色性について肉眼で観察した。箱の容積は200リットルであり、内部オゾン濃度の分析のため2リットル/分で内部空気を吸引し、2リットル/分で所定濃度のオゾンを含んだ空気を供給する。色の変化の観察では、アルカリ性とされたアリザリンレッドSが光吸収を示す波長500〜600nmの光吸収強度が5段階に変化しているカラーチャートを用意し、このカラーチャートとの比較により、各オゾン検知シートにおける色の変化を5段階で評価した。このカラーチャートは、アリザリンレッドSにより着色(染色)された色を基本としたものである。
【0048】
【表2】

【0049】
この評価では、評価結果「1」は、色の変化が観察されない場合を示す。また、評価結果「2」、「3」、「4」はこの順に、アリザリンレッドSによる色の濃度が薄く観察された場合を示す。また、評価結果「5」は、変化後のオゾン検知シートの色がアリザリンレッドSによる色ではなく、アリザリンレッドSの色が脱色して白色を呈している状態に観察された場合を示す。また、カラーチャートとの比較において、各段階の中間に観察される場合は、例えば、「2」と「3」との中間に観察される場合は、評価結果を「2.5」とする。
【0050】
表2の結果より、検知シートI〜Jでは、オゾン濃度が0.04ppmと低くても暴露5時間の積算により確実に検知可能であることがわかる。さらに0.04ppmに5時間暴露した結果と、0.075ppmに5時間暴露した結果とでは、検知シートH〜Lにおいて明らかに色の違いを見分けることが可能であり、個人が1日に携帯した場合、色の様子からおおよその被爆量を推定することが可能である。
【0051】
なお、上述した実施の形態では、保湿剤としてグリセリンを用いるようにしたが、これに限るものではなく、以下に示すように、エチレングリコール,プロピレングリコールなどを用いることができる。また、前述した色素が溶解する他の保湿剤であってもよい。
【0052】
次に、アルカリ性としていない状態で検知シートを作製した比較例について説明する。以下では、担体としてシート状の濾紙を用いたオゾン検知シートを例にして説明する。
【0053】
[比較例1]
先ず、実施の形態1と同様のアントラキノン系の色素としてのアリザリンを、アルカリ性とせずに用いた場合について説明する。先ず、0.025gのアリザリンをエタノール20mlに溶解し、水を加えて全量を50gとし、検知溶液A−1を調整(作製)する。保湿剤としてのグリセリンは含まずに作製する。この検知溶液A−1により前述同様にオゾン検知シートA−1を作製する。オゾン検知シートA−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0054】
オゾン検知シートA−1の作製について簡単に説明すると、先ず、作製した検知溶液A−1に所定の寸法のシート状担体を約30秒間浸漬し、シート状担体に検知溶液A−1を含浸させ、次いでこれを乾燥(風乾)させる。シート状担体としては、例えば、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)を用いればよい。作製されたオゾン検知シートA−1は、黄色を呈した(黄色に染色された)状態となり、この色は目視による確認が可能である。
【0055】
また、0.025gのアリザリンをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン5gと水を加えて50gとし、検知溶液B−1を作製する。この検知溶液B−1により前述同様にオゾン検知シートB−1を作製する。オゾン検知シートB−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0056】
また、0.025gのアリザリンをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン10gと水を加えて50gとし、検知溶液C−1を作製する。この検知溶液C−1により前述同様にオゾン検知シートC−1を作製する。オゾン検知シートC−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0057】
また、0.025gのアリザリンをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン15gと水を加えて50gとし、検知溶液D−1を作製する。この検知溶液D−1により前述同様にオゾン検知シートD−1を作製する。オゾン検知シートD−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0058】
また、0.025gのアリザリンをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン20gと水を加えて50gとし、検知溶液E−1を作製する。この検知溶液E−1により前述同様にオゾン検知シートE−1を作製する。オゾン検知シートE−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0059】
また、0.025gのアリザリンをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン25gと水を加えて50gとし、検知溶液F−1を作製する。この検知溶液F−1により前述同様にオゾン検知シートF−1を作製する。オゾン検知シートF−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0060】
上述したようにすることで作製したオゾン検知シートA−1から検知シートF−1を、以下の表3に示す条件下で、また、25℃・湿度60%の条件で所定の濃度のオゾンが充満している箱の内部に設置しオゾンガスに暴露し、変色性について肉眼で観察した。箱の容積は200リットルであり、内部オゾン濃度の分析のために、2リットル/分で内部空気を吸引し、2リットル/分で所定濃度のオゾンを含んだ空気を供給する。
【0061】
【表3】

【0062】
色の変化の観察では、中性とされたアリザリンが光吸収を示す波長450nmの光吸収強度が5段階に変化している黄色のカラーチャートを用意し、このカラーチャートとの比較により、各オゾン検知シートにおける色の変化を5段階で評価した。この評価では、評価結果「1」は、色の変化が観察されない場合を示す。また、評価結果「2」、「3」、「4」はこの順にアリザリンによる色の濃度が薄く観察された場合を示す。また、評価結果「5」は、変化後のオゾン検知シートの色がアリザリンによる色ではなく、アリザリンの色が脱色して白色を呈している状態に観察された場合を示す。また、カラーチャートとの比較において、各段階の中間に観察される場合は、例えば、「2」と「3」との中間に観察される場合は、評価結果を「2.5」とする。
【0063】
表3の結果より、中性としたアリザリンにおいては、オゾンの暴露量が最も多い0.075ppm・24時間の条件で、わずかな色の変化が観察されたが、他の条件では色の退色は観察されない。このように、アントラキノン系の染料であるアリザリンを中性として状態で用いた検知シートでは、0.1ppm以下の低濃度のオゾンの簡便な検出が行えない。
【0064】
[比較例2]
次に、他のアントラキノン系の色素であるアリザリンレッドSを用いた場合について説明する。以下では、担体としてシート状の濾紙を用いたオゾン検知シートを例にして説明する。先ず、0.033gのアリザリンレッドSをエタノール20mlに溶解し、水を加えて50gとし、検知溶液G−1を作製する。検知溶液G−1は、保湿剤としてのグリセリンは含まずに作製する。この検知溶液G−1により、前述同様にオゾン検知シートG−1を作製する。オゾン検知シートG−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0065】
また、0.033gのアリザリンレッドSをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン5gと水を加えて50gとし、検知溶液H−1を作製する。この検知溶液H−1により、前述同様にオゾン検知シートH−1を作製する。オゾン検知シートH−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0066】
また、0.033gのアリザリンレッドSをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン10gと水を加えて50gとし、検知溶液I−1を作製する。この検知溶液I−1により、前述同様にオゾン検知シートI−1を作製する。オゾン検知シートI−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0067】
また、0.033gのアリザリンレッドSをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン15gと水を加えて50gとし、検知溶液J−1を作製する。この検知溶液J−1により、前述同様にオゾン検知シートJ−1を作製する。オゾン検知シートJ−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0068】
また、0.033gのアリザリンレッドSをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン20gと水を加えて50gとし、検知溶液K−1を作製する。この検知溶液K−1により、前述同様にオゾン検知シートK−1を作製する。オゾン検知シートK−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0069】
また、0.033gのアリザリンレッドSをエタノール20mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン25gと水を加えて50gとし、検知溶液L−1を作製する。この検知溶液L−1により、前述同様にオゾン検知シートL−1を作製する。オゾン検知シートL−1は、黄色を呈した状態に形成される。
【0070】
上述したことにより作製したオゾン検知シートG−1からオゾン検知シートL−1を、以下の表4に示す条件下で、また、25℃・湿度60%の条件で所定の濃度のオゾンが充満している箱の内部に設置しオゾンガスに暴露し、変色性について肉眼で観察した。箱の容積は200リットルであり、内部オゾン濃度の分析のため2リットル/分で内部空気を吸引し、2リットル/分で所定濃度のオゾンを含んだ空気を供給する。
【0071】
【表4】

【0072】
色の変化の観察では、アルカリ性としていない(中性の)アリザリンレッドSが光吸収を示す波長450nmの光吸収強度が5段階に変化している黄色(アリザリンレッドSによる色)のカラーチャートを用意し、このカラーチャートとの比較により、各オゾン検知シートにおける色の変化を5段階で評価した。この評価では、評価結果「1」は、色の変化が観察されない場合を示す。また、評価結果「2」、「3」、「4」は、この順に黄色の濃度が薄く観察された場合を示す。また、評価結果「5」は、変化後のオゾン検知シートの色が黄色ではなく、アリザリンレッドSによる色が脱色して白色を呈している状態に観察された場合を示す。また、カラーチャートとの比較において、各段階の中間に観察される場合は、例えば、「2」と「3」との中間に観察される場合は、評価結果を「2.5」とする。
【0073】
表4の結果より、アルカリ性としていないアリザリンレッドSにおいては、いずれのオゾン検知シート(試料)においても、また、いずれの暴露条件においても、色の退色は観察されない。このように、アントラキノン系の染料であるアリザリンレッドSを中性として状態で用いた検知シートでは、0.1ppm以下の低濃度のオゾンの簡便な検出が行えない。
【0074】
[比較例3]
次に、実施の形態1と同様のアントラキノン系の色素としてのアリザリンを、酸性として用いた場合について説明する。先ず、0.025gのアリザリンを酢酸40mlに溶解し、水を加えて全量を50gとし、検知溶液A−2を調整(作製)する。保湿剤としてのグリセリンは含まずに作製する。この検知溶液A−2により前述同様にオゾン検知シートA−2を作製する。オゾン検知シートA−2は、赤褐色を呈した状態に形成される。
【0075】
オゾン検知シートA−2の作製について簡単に説明すると、先ず、作製した検知溶液A−2に所定の寸法のシート状担体を約30秒間浸漬し、シート状担体に検知溶液A−2を含浸させ、次いでこれを乾燥(風乾)させる。シート状担体としては、例えば、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.2)を用いればよい。作製されたオゾン検知シートA−2は、赤褐色を呈した(赤褐色に染色された)状態となり、この色は目視による確認が可能である。
【0076】
また、0.025gのアリザリンを酢酸40mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン5gと水を加えて50gとし、検知溶液B−2を作製する。この検知溶液B−2により前述同様にオゾン検知シートB−2を作製する。オゾン検知シートB−2は、赤褐色を呈した状態に形成される。
【0077】
また、0.025gのアリザリンを酢酸40mlに溶解し、保湿剤としてのグリセリン10gと水を加えて50gとし、検知溶液C−2を作製する。この検知溶液C−2により前述同様にオゾン検知シートC−2を作製する。オゾン検知シートC−2は、赤褐色を呈した状態に形成される。
【0078】
上述したようにすることで作製したオゾン検知シートA−2から検知シートC−2を、以下の表5に示す条件下で、また、25℃・湿度60%の条件で所定の濃度のオゾンが充満している箱の内部に設置しオゾンガスに暴露し、変色性について肉眼で観察した。箱の容積は200リットルであり、内部オゾン濃度の分析のために、2リットル/分で内部空気を吸引し、2リットル/分で所定濃度のオゾンを含んだ空気を供給する。
【0079】
【表5】

【0080】
色の変化の観察では、酸性とされたアリザリンが光吸収を示す波長450〜480nmの光吸収強度が5段階に変化している赤褐色のカラーチャートを用意し、このカラーチャートとの比較により、各オゾン検知シートにおける色の変化を5段階で評価した。この評価では、評価結果「1」は、色の変化が観察されない場合を示す。また、評価結果「2」、「3」、「4」はこの順に酸性とされたアリザリンによる色の濃度が薄く観察された場合を示す。また、評価結果「5」は、変化後のオゾン検知シートの色が酸性とされたアリザリンによる色ではなく、アリザリンの色が脱色して白色を呈している状態に観察された場合を示す。また、カラーチャートとの比較において、各段階の中間に観察される場合は、例えば、「2」と「3」との中間に観察される場合は、評価結果を「2.5」とする。
【0081】
表5の結果より、酸性としたアリザリンにおいては、オゾンの暴露量が最も多い0.075ppm・24時間の条件で、わずかな色の変化が観察されたが、他の条件では色の退色は観察されない。このように、アントラキノン系の染料であるアリザリンを酸性として状態で用いた検知シートでは、0.1ppm以下の低濃度のオゾンの簡便な検出が行えない。
【0082】
[実施の形態3]
次に、保湿剤としてエチレングリコールを用いた場合について説明する。先ず、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのエチレングリコール5gに水を加えて50gとし、検知溶液Mを作製する。この検知溶液Mにより前述同様にオゾン検知シートMを作製する。オゾン検知シートMは、紫色を呈した状態に形成される。
【0083】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのエチレングリコール10gに水を加えて50gとして検知溶液Nを作製し、この検知溶液Nにより前述同様にオゾン検知シートNを作製する。オゾン検知シートNは、紫色を呈した状態に形成される。
【0084】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのエチレングリコール15gに水を加えて全量を50gとした検知溶液Oを作製し、この検知溶液Oにより前述同様にオゾン検知シートOを作製する。オゾン検知シートOは、紫色を呈した状態に形成される。
【0085】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのエチレングリコール20gに水を加えて全量を50gとした検知溶液Pを作製し、この検知溶液Pにより前述同様にオゾン検知シートPを作製する。オゾン検知シートPは、紫色を呈した状態に形成される。
【0086】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのエチレングリコール25gに水を加えて全量を50gとした検知溶液Qを作製し、この検知溶液Qにより前述同様にオゾン検知シートQを作製する。オゾン検知シートQは、紫色を呈した状態に形成される。
【0087】
上述した各試料(オゾン検知シートM,N,O,P,Q)について、各々、以下の表6に示す条件において、25℃、湿度60%の条件で所定の濃度のオゾンが充満している箱の内部に設置しオゾンガスに暴露し、変色性について肉眼で観察した。なお、箱の容積は200リットルであり、内部オゾン濃度の分析のため2リットル/分で内部空気を吸引し、2リットル/分で所定濃度のオゾンを含んだ空気を供給する。このようにして被検出対象の空気に晒し、各オゾン検知シートの色の変化を目視により観察する。
【0088】
色の変化の観察では、アルカリ性とされたアリザリンが光吸収を示す波長500〜600nm付近の光吸収強度が、5段階に変化しているカラーチャートを用意し、このカラーチャートとの比較により、各オゾン検知シートにおける色の変化を、5段階で評価する。この評価では、評価結果「1」は、色の変化が観察されない場合を示す。また、評価結果「2」,「3」,「4」は、この順に、紫色の濃度が薄く観察された場合を示す。また、評価結果「5」は、変化後のオゾン検知シートの色が、アリザリンによる色が脱色して白色を呈している状態に観察された場合を示す。また、4段階のカラーチャートとの比較において、各段階の中間に観察される場合、例えば、「2」と「3」との中間に観察される場合は、評価結果を「2.5」とする。
【0089】
【表6】

【0090】
表6に示す結果より、保湿剤を含む検知シートMから検知シートQでは、オゾン濃度が0.04ppmと低くても5時間の積算により確実に検知できることがわかる。さらに0.04ppmに5時間暴露した結果と0.075ppmに5時間暴露した結果とでは、明らかに色の違いを見分けることが可能なため、個人が1日に携帯した場合、色の様子からおおよその被爆量を推定することが可能となる。
【0091】
[実施の形態4]
次に、保湿剤としてエチレングリコールを用いた場合について説明する。先ず、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのプロピレングリコール5gに水を加えて50gとし、検知溶液Rを作製する。この検知溶液Rにより前述同様にオゾン検知シートRを作製する。オゾン検知シートRは、紫色を呈した状態に形成される。
【0092】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのプロピレングリコール10gに水を加えて50gとして検知溶液Sを作製し、この検知溶液Sにより前述同様にオゾン検知シートSを作製する。オゾン検知シートSは、紫色を呈した状態に形成される。
【0093】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのプロピレングリコール15gに水を加えて全量を50gとした検知溶液Tを作製し、この検知溶液Tにより前述同様にオゾン検知シートTを作製する。オゾン検知シートTは、紫色を呈した状態に形成される。
【0094】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのプロピレングリコール20gに水を加えて全量を50gとした検知溶液Uを作製し、この検知溶液Uにより前述同様にオゾン検知シートUを作製する。オゾン検知シートUは、紫色を呈した状態に形成される。
【0095】
また、0.025gのアリザリンを、0.1mol/リットルとした水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させ、保湿剤としてのプロピレングリコール25gに水を加えて全量を50gとした検知溶液Vを作製し、この検知溶液Vにより前述同様にオゾン検知シートVを作製する。オゾン検知シートVは、紫色を呈した状態に形成される。
【0096】
上述した各試料(オゾン検知シートR,S,T,U,V)について、各々、以下の表7に示す条件において、25℃、湿度60%の条件で所定の濃度のオゾンが充満している箱の内部に設置しオゾンガスに暴露し、変色性について肉眼で観察した。なお、箱の容積は200リットルであり、内部オゾン濃度の分析のため2リットル/分で内部空気を吸引し、2リットル/分で所定濃度のオゾンを含んだ空気を供給する。このようにして被検出対象の空気に晒し、各オゾン検知シートの色の変化を目視により観察する。
【0097】
色の変化の観察では、アルカリ性とされたアリザリンが光吸収を示す波長500〜600nm付近の光吸収強度が、5段階に変化しているカラーチャートを用意し、このカラーチャートとの比較により、各オゾン検知シートにおける色の変化を、5段階で評価する。この評価では、評価結果「1」は、色の変化が観察されない場合を示す。また、評価結果「2」,「3」,「4」は、この順に、紫色の濃度が薄く観察された場合を示す。また、評価結果「5」は、変化後のオゾン検知シートの色が、アリザリンによる色が脱色して白色を呈している状態に観察された場合を示す。また、4段階のカラーチャートとの比較において、各段階の中間に観察される場合、例えば、「2」と「3」との中間に観察される場合は、評価結果を「2.5」とする。
【0098】
【表7】

【0099】
表7に示す結果より、保湿剤を含む検知シートRから検知シートVでは、オゾン濃度が0.04ppmと低くても5時間の積算により確実に検知できることがわかる。さらに0.04ppmに5時間暴露した結果と0.075ppmに5時間暴露した結果とでは、明らかに色の違いを見分けることが可能なため、個人が1日に携帯した場合、色の様子からおおよその被爆量を推定することが可能となる。
【0100】
ところで、グリセリンなどの保湿剤を用いていない検知シートの場合、表1の検知シートA及び表2の検知シートGに実験結果を示したように、目視では色の変化が確認し難い状態となる。特に、アリザリンレッドSを用いた検知シートGでは、実験の範囲内では目視による色の変化が確認されていない。前述したように、保湿剤により色素とオゾンとの反応が促進されるものと考えられ、保湿剤を用いないと、色素とオゾンとの反応があまり促進されず、目視の状態で確認可能な範囲では色が変化しないもとの考えられる。ただし、グリセリンなどの保湿剤を用いない場合であっても、反射の吸光光度法などのより高精度な光測定方法を用いることで退色の測定は可能である。
【0101】
例えば、オゾンにより滅菌を行う場合、高濃度のオゾンガスが用いられるが、この場合、オゾンガスは所定値以上の高濃度とされている必要がある。このような高濃度のオゾンガスの状態を検知する場合、前述した高感度なオゾン検知シート105では、対応が不可能である。高感度なオゾン検知シートでは、所定濃度以下の状態でも、オゾン検知シートの色が変化してしまうためである。これに対し、グリセリンなどの保湿剤を用いない低感度なオゾン検知シートは、所定濃度以下ではオゾン検知シートの色が変化しにくいため、高濃度のオゾンガスの検出には適用可能と考えられる。
【0102】
なお、上述では、オゾン検知シートに対して測定対象ガスを強制的に通過させてはいないが、ポンプなどを用いて強制的に測定対象ガスを通過させるようにしてもよい。このようにすることで、より短い時間でオゾンの積算量を測定することができる。また、オゾン検知シートのいずれかの面に接着剤を塗布することで、オゾン検知シールとして用いることも可能である。
【0103】
また、上述では、濾紙を用いるようにしたが、これに限るものではない。通常の紙などの、セルロースの繊維より構成されたシート状のものであれば、シート状担体として利用可能である。また、セルロースに限らず、ナイロンやポリエステルなどの他の繊維より構成されたシート状のもの(不織布など)であっても、シート状担体として利用可能である。また、シート状担体は、白色であることが好適であるが、これに限るものではない。アリザリンなどアントラキノン系の色素で染色された状態の色の変化が確認可能であれば、他の色の状態であってもよい。
【0104】
また、上述では、水溶液がアルカリ性となるアルカリ性物質として、水酸化ナトリウムを用いるようにしたが、これに限るものではない。例えば、水酸化カリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物などの塩基であっても良い。また、塩であっても、炭酸水素ナトリウムなどの水溶液がアルカリ性となるアルカリ性物質であれば、アリザリンなどのヒドロキシ基を備えるアントラキノン系の色素をアルカリ性の状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の実施の形態におけるオゾン検知シートの製造方法例について説明する工程図である。
【図2】アントラキノン系の色素としてアリザリンを用いたオゾン検知シートにおいて、0.lppm×5時間の暴露条件で暴露前と暴露後の光の反射率を測定し、この差と、グリセリンの検知溶液に対する含有量との関係をプロットした特性図である。
【符号の説明】
【0106】
101…検知溶液、102…容器、103…シート状担体、104…含浸シート、105…オゾン検知シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維より構成されたシート状の担体と、
この担体に担持され、ヒドロキシ基を備えるアントラキノン系の色素と、
前記担体に担持された水溶液がアルカリ性となるアルカリ性物質と
から少なくとも構成されたことを特徴とするオゾン検知シート。
【請求項2】
請求項1記載のオゾン検知シートにおいて、
前記アルカリ性物質は、水酸化ナトリウムであることを特徴とするオゾン検知シート。
【請求項3】
請求項1又は2記載のオゾン検知シートにおいて、
前記オゾン検知シートは、
前記色素が溶解し、かつ前記アルカリ性物質が溶解することでアルカリ性とされた検知溶液に前記担体を浸漬して前記検知溶液を前記担体に含浸させ、かつ乾燥させることで形成されたものである
ことを特徴とするオゾン検知シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のオゾン検知シートにおいて、
前記担体に、前記色素とともに担持された保湿剤を備える
ことを特徴とするオゾン検知シート。
【請求項5】
請求項4記載のオゾン検知シートにおいて、
前記保湿剤は、グリセリン,エチレングリコール,及びプロピレングリコールの少なくとも1つである
ことを特徴とするオゾン検知シート。
【請求項6】
請求項5記載のオゾン検知シートにおいて、
前記保湿剤はグリセリンであり、前記検知溶液は、前記保湿剤の重量%が3〜50%とされたものである
ことを特徴とするオゾン検知シート。
【請求項7】
請求項5記載のオゾン検知シートにおいて、
前記保湿剤はグリセリンであり、前記検知溶液は、前記保湿剤の重量%が20%とされたものである
ことを特徴とするオゾン検知シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の記載のオゾン検知シートにおいて、
前記色素は、アリザリン又はアリザリンレッドSである
ことを特徴とするオゾン検知シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−89405(P2008−89405A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270622(P2006−270622)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】