説明

オゾン発生装置及びオゾン発生方法

【課題】オゾンの発生効率を確実に向上させるオゾン発生装置及びオゾン発生方法を提供する。
【解決手段】オゾン発生装置1は、円柱状の内側電極2と、外側電極3と、放電空間6に、軸方向に沿った磁場を発生させるソレノイド状励磁コイル5と、を有する。放電空間6の幅drは、(i) ソレノイド状励磁コイル5によって放電空間6に生じる磁束密度の最大値と、(ii) 放電空間6に生じる電場の最大値と、から決定される、放電空間6における電子の旋回運動の最大幅以上となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理、脱臭、殺菌、有害物質の分解などに用いられる、オゾン発生装置及びオゾン発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来のオゾン発生装置の一例が記載されている。このオゾン発生装置は、同軸円筒形オゾン発生装置の外側電極の外周部に、円筒軸方向の磁界を付与するための励磁コイルを設け、この励磁コイルに対して、電極間における放電電流の周期に同期した交流電流が流れるように構成されている。この装置により、放電柱と酸素分子との衝突が起こりやすくなり、オゾンの生成効率が向上する。
【0003】
【特許文献1】特開平6−305709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているオゾン発生装置においては、電極間距離(放電ギャップ幅)が適切に設定されていないと、電子が陽極に捕捉されて、放電ギャップにおける電子の運動距離が短くなってしまい、電子と酸素分子との衝突頻度が低くなる。
【0005】
そこで、本発明は、オゾンの発生効率を確実に向上させるオゾン発生装置及びオゾン発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係るオゾン発生装置は、円柱状の内側電極と、前記内側電極の径方向外側に配置された外側電極と、前記内側電極及び前記外側電極の間に形成された放電空間に、軸方向に沿った磁場を発生させる磁場発生部材と、を有し、前記放電空間には酸素を含む気体が導入され、前記放電空間における放電によってオゾンが発生し、前記放電空間の幅が、(i) 前記磁場発生部材によって前記放電空間に生じる磁束密度の最大値と、(ii) 前記放電空間に生じる電場の最大値と、から決定される、前記放電空間における電子の旋回運動の最大幅以上となっている。
【0007】
この構成によると、両電極(内側電極及び外側電極)間に放電空間が形成される。そして、この放電空間に酸素を含む気体が導入されることによって、オゾンが発生する。また、両電極間の電子は、磁場発生部材により発生した磁場の影響を受け、ローレンツ力によって旋回運動(サイクロトロン運動)をする。そして、電子の旋回中心は、周方向にドリフト運動する。
【0008】
上記のサイクロトロン運動の最大幅(内側電極からの最大距離)は、(i) 磁場発生部材によって生じる磁束密度と、(ii) 放電空間に生じる電場の大きさと、から決定される。そして、放電空間の幅を、旋回運動の最大幅以上に設定すると、電子の旋回運動及びドリフト運動が妨げられなくなるため、電子の運動距離が長くなる。以上により、酸素分子と電子との衝突頻度が高くなり、オゾンの発生効率が確実に向上する。
【0009】
なお、オゾン発生装置は、両電極間に、誘電体を含んでいても良い。オゾン発生装置に誘電体が含まれる場合、放電空間は、両電極のいずれかと、誘電体との間に形成される。
【0010】
「円柱状」の内側電極には、円筒状の電極も含まれるものとする。また、「軸方向」とは、内部電極の軸方向のことであり、「径方向」とは、内部電極の径方向のことである。
【0011】
オゾン発生装置において発生する磁場に関しては、交番磁場であってもよいし、静磁場であってもよい。静磁場の場合には、放電空間に生じる磁束密度は一定であるので、「磁束密度の最大値」は、この一定の値に等しい。
【0012】
オゾン発生装置において作られる電場に関しては、交番電場であってもよいし、静電場であってもよい。静電場の場合には、放電空間に生じる電場の大きさは一定であるので、「電場の最大値」は、この一定の値に等しい。
【0013】
この考え方に従って放電空間の幅を設定することにより、必要以上に装置を大型化する必要がなくなる。例えば、放電空間の幅を、サイクロトロン運動の最大幅とほぼ等しく(最大幅よりも少し大きめに)設定することにより、電子の運動距離が長くなり、且つ、装置の大型化が抑制される。
【0014】
また、本発明に係るオゾン発生装置は、前記内側電極及び前記外側電極の少なくとも一方を、周方向に回転させる回転機構をさらに有していてもよい。これによると、電極(陰極)の表面において、電荷が局所的に蓄積されることがないので、電極表面からの放電が、局所的に妨げられることがなくなり、放電が起こり易くなる。
【0015】
なお、「周方向」とは、内側電極の周方向のことである。また、外側電極が複数の電極を含む場合には、本発明には、外側電極全体が、内側電極を中心として回転することが含まれる。
【0016】
内側電極及び外側電極の回転に関しては、電極表面において、電荷が局所的に蓄積されないように回転すればよい。例えば、内側電極だけ、又は、外側電極だけを回転させてもよいし、内側電極及び外側電極の両方を回転させてもよい。また、内側電極及び外側電極を、互いに逆方向に回転させても良いし、これらを同じ方向に回転させてもよい。また、電子のドリフト方向に対して、内側電極を同じ方向に、且つ、電子のドリフト速度よりも速く回転させてもよい。また、電子のドリフト方向に対して、陰極(内側電極又は外側電極)を、相対的に逆方向に回転させてもよい。
【0017】
また、本発明に係るオゾン発生装置において、前記外側電極は、前記内側電極に対して同心配置された円筒状電極であってもよい。これによると、オゾン発生装置の構成を簡素化することができる。
【0018】
また、本発明に係るオゾン発生装置において、前記外側電極は複数の円柱状電極から成り、前記複数の円柱状電極のそれぞれにおける軸方向が、前記内側電極の軸方向に平行であってもよい。これによると、内側電極と外側電極との間に局所的な電場が形成されるので、両電極間の放電が起こり易くなり、さらにオゾンの発生効率が向上する。なお、「円柱状」の外側電極には、円筒状の電極も含まれるものとする。
【0019】
また、本発明に係るオゾン発生装置において、前記磁場発生部材は、前記外側電極の径方向外側において、前記内側電極及び前記外側電極に対して同心に配置されたソレノイド状励磁コイルであってもよい。これによると、放電空間において、安定且つ均一な磁場を形成できる。なお、励磁コイルには、強磁性体コイル及び電磁石コイルが含まれる。
【0020】
また、本発明に係るオゾン発生装置において、前記磁場発生部材には、超伝導マグネットが含まれていてもよい。これによると、装置運転時の消費電力を低くすることができる。また、強力な磁場を発生させることができるので、サイクロトロン運動の最大幅を小さくすることができ、装置を小型化できる。また、放電空間において、安定且つ均一な磁場を、容易に形成できる。なお、磁場発生部材の少なくとも一部が超伝導マグネットであればよく、磁場発生部材の全てが超伝導マグネットであってもよい。
【0021】
また、上記の課題を解決するために、本発明に係るオゾン発生方法は、円柱状の内側電極と、前記内側電極の径方向外側に配置された外側電極と、前記内側電極及び前記外側電極の間に形成された放電空間に、軸方向に沿った磁場を発生させる磁場発生部材と、を有するオゾン発生装置を用いるオゾン発生方法であって、前記放電空間に、酸素を含む気体を導入し、前記放電空間における放電によってオゾンを発生させるオゾン発生工程を有し、前記オゾン発生工程においては、前記放電空間の幅が、(i) 前記磁場発生部材によって前記放電空間に生じる磁束密度の最大値と、(ii) 前記放電空間に生じる電場の最大値と、から決定される、前記放電空間における電子の旋回運動の最大幅以上となっている。
【0022】
この方法により、放電空間の幅を、旋回運動の最大幅以上に設定すると、電子の旋回運動及びドリフト運動が妨げられなくなるため、電子の運動距離が長くなる。そのため、酸素分子と電子との衝突頻度が高くなり、オゾンの発生効率が確実に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(全体構成について)
次に、本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るオゾン発生装置の構造を示す断面図である。図2は、図1のA−A’位置における断面図である。図3は、図2の主要部を拡大して示す断面図である。なお、以下の説明において、「軸方向」、「径方向」及び「周方向」は、内側電極を基準とした、軸方向、径方向及び周方向を示す(図中の矢印方向参照)。
【0024】
まず、本実施形態に係るオゾン発生装置1の全体構成について説明する。図1に示すように、オゾン発生装置1は、内側電極2と、外側電極3と、誘電体4と、ソレノイド状励磁コイル5と、モーター8と、を含んで構成されている。また、オゾン発生装置1は、交流電源7a及び直流電源7bに対して電気的に接続されている。
【0025】
誘電体4、外側電極3及びソレノイド状励磁コイル5は、内側電極2と同心に配置されており、内側電極2及び誘電体4の間には、放電空間6が形成されている(図1及び図2参照)。そして、この放電空間6に、酸素を含む気体を導入し、両電極(内側電極2及び外側電極3)の間に電圧(電位差)を与えると、両電極間に無声放電が発生し、この放電によって気体中の酸素がオゾンに変換される。
【0026】
(電極)
次に、両電極(内側電極2及び外側電極3)について説明する。内側電極2は、アルミ製であり、円柱状に形成されている。外側電極3は、アルミ製であり、円筒状に形成され、内側電極2に対して同心配置されている。また、外側電極3は、内側電極2の径方向外側に配置されており、内側電極2の外周面と、外側電極3の内周面との間には、一定の間隔が設けられている。
【0027】
内側電極2及び外側電極3には、交流電源(電場発生用電源)7aが接続されている。交流電源7aの電源周波数は、例えば、50Hz又は60Hzとなっている。そして、内側電極2及び外側電極3のそれぞれは、陽極又は陰極として機能し、それぞれの電極における極性(陽極及び陰極)は、時間の経過に伴って、周期的に入れ替わる(内側電極2及び外側電極3が同電位になるタイミングも存在する)。図1乃至図3は、内側電極2が陰極で、外側電極3が陽極となっている状態を示している(極性が逆の状態になることもある)。図1乃至図3の場合(内側電極2が陰極の場合)には、両電極間に、外側電極3から内側電極2へ向かう、径方向に沿った電場Eが発生する(電場の方向については、図1及び図2の矢印E方向参照)。
【0028】
なお、内側電極の材料は、アルミの他、ステンレス、銅などであってもよいし、外側電極の材料は、アルミの他、ステンレス、銅などであってもよい。また、磁場発生部材が電磁石である場合には、透磁率が大きい磁性材料(軟磁性材料)の芯があることが望ましく、そのため、内側電極及び外側電極のいずれかが、軟磁性材料であることが望ましい。
【0029】
(誘電体)
両電極間には、誘電体4が配置されている(図1及び図2参照)。具体的には、外側電極3の内面部に、円筒状の誘電体4が配置されている。誘電体4は絶縁体であり、オゾン発生装置1においては、誘電体4としてガラスが用いられている。誘電体4を両電極間に配置することにより、均一な放電を実現できる。具体的には、誘電体4表面では電流が流れないため、誘電体4の表面全体において、均一に放電させることができる。なお、誘電体の材料としては、ガラス以外の他のセラミックス、プラスチック材料なども利用可能である。また、誘電体はなくてもよい。
【0030】
(放電空間)
内側電極2及び外側電極3の間には放電空間(放電ギャップ)6が形成されている。詳細には、放電空間6は、内側電極2と誘電体4との間に形成されている。また、オゾン発生装置1において、放電空間6には、酸素分子(O)を含む気体が導入され、放電空間6における放電によってオゾン(O)が発生する。図1に示すように、オゾン発生装置1においては、酸素分子を含む気体は、図1の下方から導入され、発生したオゾンを含む気体は、図1の上方へと放出される。放電空間6は環状空間であり、オゾン発生装置1の使用時には、オゾンを発生させるために、放電空間6に大気などが供給される。
【0031】
なお、本実施形態のようにオゾン発生装置に誘電体が含まれる場合には、放電空間は、両電極のいずれかと、誘電体との間に形成される。すなわち、誘電体は、内側電極の外面部に配置されていてもよい。この場合には、放電空間が、誘電体と、外側電極との間に形成されることになる。
【0032】
(磁場発生部材)
外側電極3の径方向外側には、ソレノイド状励磁コイル5(磁場発生部材)が配置されている。ソレノイド状励磁コイル5には、直流電源(磁場発生用電源)7bが接続されている。また、ソレノイド状励磁コイル5は、放電空間6に、軸方向に沿った磁場を発生させるように構成されている。より詳細には、ソレノイド状励磁コイル5に直流電流を流すと、ソレノイド状励磁コイル5の周囲に磁場が発生する結果として、放電空間6では、軸方向に沿った磁場が発生する。本実施形態においては、放電空間6に、図1の上から下へ向かう静磁場が発生する(磁場の方向については、図1及び図2の矢印B方向参照)。また、ソレノイド状励磁コイル5は、内側電極2及び外側電極3に対して同心に配置されている。なお、本装置においては、磁場の方向(軸方向)と電場の方向(径方向)とが垂直になっている。
【0033】
ソレノイド状励磁コイル5は、超伝導マグネットによって形成されている。すなわち、ソレノイド状励磁コイル5は、超伝導電磁石である。より具体的には、ソレノイド状励磁コイル5は、超伝導物質から成る線材を、ソレノイド状(円筒状)に巻くことによって形成されている。超伝導物質としては、ニオブチタン(NbTi)、ニオブスズ(NbSn)その他の高温超電導物質を用いることができる。
【0034】
ソレノイド状励磁コイル5は超伝導磁石であるため、ソレノイド状励磁コイル5の冷却材(図示せず)が必要となる。ソレノイド状励磁コイル5の冷却剤は、ソレノイド状励磁コイル5の超伝導状態を維持できるものであればよく、ヘリウムガスのような気体であってもよいし、液体ヘリウム、液体水素のような液体であってもよい。
【0035】
なお、本実施形態では、磁場発生部材が電磁石(励磁コイル)であるが、磁場発生部材として永久磁石を用いてもよいし、電磁石と永久磁石とを併用してもよい。また、磁場発生部材は、軸方向に沿った磁場を放電空間6に発生させるものであればよく、コイルには限られない。例えば、オゾン発生装置の軸方向両端に配置される、二つの磁石であってもよい。また、超伝導物質の線材ではなく、超電導物質の薄膜を用いて、コイルを形成してもよい。
【0036】
(回転機構)
モーター(回転機構)8は、図示しない電源装置に接続されており、内側電極2を周方向に回転させる(図2及び図3の矢印G参照)。なお、回転機構は、内側電極及び外側電極の少なくとも一方を、周方向に回転させるものであればよく、外側電極のみを回転させるものであってもよいし、内側電極及び外側電極の両方を回転させるものであってもよい。また、回転機構はなくてもよい。
【0037】
(放電空間の幅について)
次に、放電空間6の幅について説明する。なお、放電空間6の幅とは、放電空間6の径方向長さのことである。図3に示すように、オゾン発生装置1における放電空間6の幅drは、電子の旋回運動(サイクロトロン運動)の最大幅以上であり、より具体的には、幅drは、電子の旋回運動の最大幅に等しい。また、電子の旋回運動の最大幅は、(i) ソレノイド状励磁コイル5によって放電空間6に生じる磁束密度の最大値と、(ii) 放電空間6に生じる電場の最大値と、から決定される。
【0038】
なお、本実施形態では、周方向に関する全ての位置において、放電空間6の幅が一定であるが、放電空間の幅が一定でない場合には、放電空間の最小幅が、電子の旋回運動の最大幅以上であればよい。
【0039】
ソレノイド状励磁コイル5に直流電流を流すことにより、放電空間6には軸方向に沿った静磁場が発生する。そのため、陰極(図1乃至図3では内側電極2)から放出された電子は、電子の運動方向及び磁場の両方に垂直な力(ローレンツ力)を受ける。その結果、電子は、磁場に垂直な方向に旋回運動(サイクロトロン運動)をする。図3の円11は、電場Eがないと仮定した場合であって、電子が初速を与えられた場合における、電子の旋回運動(サイクロトロン運動)の軌跡を表わしたものである。
【0040】
図3の円11の半径、すなわち、電子の旋回運動の半径(Larmor半径)rは、次の式に従って計算される。
=(mv)/(eB) (式1)
ここで、v、m、e、及び、Bは、それぞれ、真空(10−4Pa以下)中における電子の旋回運動の、磁場に垂直な方向に関する速度成分、電子の質量、電気素量、及び、放電空間6の磁束密度である。また、ここで、vは、陰極(図1乃至図3の状態では内側電極2、極性が逆の状態では外側電極3)に最も近い位置における速度成分である。また、vは、電子が陰極より放出されたときの、磁場に垂直な方向に関する、電子の速度成分である。
【0041】
実際には、オゾン発生装置1には、内側電極2及び外側電極3の間に、電場Eが生じる。すなわち、オゾン発生装置1には、電子に対して作用する、磁場以外の外力が存在している。そして、磁場の他に電場Eが存在している結果、電子は周方向にドリフト運動をする。ドリフト運動とは、磁場中を動く荷電粒子の旋回運動(円11参照)の中心(旋回中心という)が、磁場と垂直な方向に移動する動きのことを指す。オゾン発生装置1におけるドリフト運動の方向は、磁場及び電場に対して垂直な方向、すなわち周方向となる。
【0042】
その結果、電子が旋回運動をしており、且つ、旋回中心がドリフト運動をすることになるので、一つの電子の軌跡は、軌跡10のようになる(図2及び図3参照)。具体的には、陰極である内側電極2から放出された電子は、軌跡10に沿って、陽極である外側電極3側へ移動し、その後、陰極(内側電極2)側へ戻る。この移動の間、電子は、ドリフト運動により、周方向にも移動している。そして、陰極(内側電極2)付近まで戻った電子は、斥力により再び陽極(外側電極3)側へ移動する。
【0043】
なお、ドリフト運動の速度(ドリフト速度)Vdは、次の式に従って計算される。
Vd=(E×B)/B (式2)
ここで、Vd、及び、Eは、それぞれ、ドリフト速度、及び、電場である。なお、式2において、E、B、及び、Vdはベクトル量である。
【0044】
また、電子の旋回運動の最大幅は、陰極表面と電子との間の最大距離であり、電子の旋回運動の直径(円11参照)に等しい。そして、放電空間の幅drは、以下の式を満たすように設定すればよい。
dr≧2r (式3)
【0045】
装置の大型化を防止する観点からは、drはできるだけ小さいほうがよいため、放電空間6の幅が、電子の旋回運動の直径に等しいことが望ましい。放電空間の幅drが式3を満たさない場合、すなわち、放電空間の幅が、電子の旋回運動の直径よりも小さい場合には、電子は、旋回運動の途中で陽極へ到達してしまい、電子の放電空間における運動距離が短くなってしまう(図2の軌跡10a参照)。
【0046】
ここで、電場の大きさは、陰極付近と陽極付近とで異なるため、陰極付近における電子のドリフト速度と、陽極付近における電子のドリフト速度とは異なる。そのため、式2におけるVdの値は一定ではなく、内側電極2付近では大きく、外側電極3付近では小さくなる。
【0047】
また、装置の大型化を防止し、且つ、電子と陽極との接触を、より確実に防止する観点からは、幅drは、装置が大型化しない程度に、電子の旋回運動の直径よりも大きいことが望ましい。例えば、幅drを、次式を満たすように設定してもよい。
2r< dr < (2r + r/10) (式4)
【0048】
なお、上記のように、内側電極2及び外側電極3には、交流電流が流れており、内側電極2及び外側電極3は、それぞれ、時間の経過と共に、陰極及び陽極の一方へ交互に変化する。図1においては、一例として、内側電極2が陰極であり、外側電極3が陽極になっている状態を示しているが、内側電極2が陽極で、外側電極3が陰極になることもある。
【0049】
また、オゾン発生装置1においては、ソレノイド状励磁コイル5として超伝導マグネットを使用しているために、磁束密度Bが大きい。この条件下において、両電極における陽極及び陰極の変化の周期は、サイクロトロン運動の周期に比べて大きい。そのため、サイクロトロン運動の速度に対して、両電極における極性は、変化せずに停止しているとみなせる。従って、オゾン発生装置1の設計の際には、電極における極性の変化については考えず(例えば、図1乃至図3の極性で固定されたものとして)、電子の運動のみに着目して、上記の式を用いて、放電空間6の幅を設定すればよい。
【0050】
上記のように、放電空間6の幅drを、式1及び式3を用いて適切に設定することができる。すなわち、幅drは、v、m、e、及び、Bを用いて設定される。ここで、定数である m 及び e を除くと、幅drは、v、及び、Bに基づいて設定される。また、vは、電場Eの大きさによって定まる。すなわち、幅drは、(i)交流電源7aによって放電空間6に生じる電場Eの大きさ(最大値)、及び、(ii)直流電源7bによって放電空間6に生じる磁束密度B、に基づいて決定される。
【0051】
また、例えば、以下のような条件においては、drを0.1[mm]以上に設定すればよい。
(1)ソレノイド状励磁コイルによる磁束密度B:1.7[T]
(2)電極間の電場Eの最大値:2.17×10 [V/m]
【0052】
(オゾン発生装置の動作について)
以上のように構成されたオゾン発生装置1に交流電流を流すと、すなわち、内側電極2及び外側電極3の間に交流高電圧を印加すると、放電空間6において、無声放電が起こる。そして、放電空間6における放電により、オゾンが発生する。具体的には、放電空間6に、酸素分子(O)を含む気体が導入され、放電空間6における放電によって、電子と酸素分子とが衝突し、酸素分子から、ラジカルの酸素原子又はラジカルの酸素分子が生じる。そして、酸素分子と酸素原子との結合により、オゾン(O)が発生する。
【0053】
また、オゾン発生装置1の動作中は、内側電極2が回転する。具体的には、図2及び図3において、ドリフト運動の方向が時計回りであるのに対し、内側電極2は、反時計回りに回転する(図2及び図3の矢印G方向参照)。
【0054】
放電空間6において、電子の旋回中心が、周方向に沿ってドリフト運動を長く続けることができれば、一つの電子に関して、酸素分子との衝突回数が多くなる。その結果、一回の放電によって変換される酸素分子の数が多くなるため、オゾンの発生効率が向上する。そして、オゾン発生装置1においては、放電空間6の幅が適切に設定されていることにより、電子の旋回中心は、ドリフト運動を長く続けることができる。そのため、オゾン発生装置1においては、放電空間6において、陰極(図1乃至図3においては内側電極2)から放出された電子が、放出直後に、陽極(図1乃至図3においては外側電極3)まで到達してしまうようなことがない。そのため、電子が、放出直後に陽極に捉えられてしまうことがない。
【0055】
(オゾン発生方法について)
次に、本実施形態に係るオゾン発生方法について、オゾン発生装置1を用いて説明する。このオゾン発生方法では、オゾン発生装置1が用いられる。
【0056】
本発生方法においては、放電空間6に酸素分子を含む気体を導入し、放電空間6における放電によってオゾンを発生させる(オゾン発生工程)。このオゾン発生工程においては、放電空間6の幅drが、放電空間6における電子の旋回運動の最大幅以上となっている(上記の式3参照)。
【0057】
(効果)
次に、本実施形態に係るオゾン発生装置1及びオゾン発生方法の効果について説明する。オゾン発生装置1は、円柱状の内側電極2と、内側電極2の径方向外側に配置された外側電極3と、内側電極2及び外側電極3の間に形成された放電空間6に、軸方向に沿った磁場を発生させるソレノイド状励磁コイル(磁場発生部材)5と、を有し、放電空間6には酸素を含む気体が導入され、放電空間6における放電によってオゾンが発生し、放電空間6の幅drが、(i) ソレノイド状励磁コイル5によって放電空間6に生じる磁束密度の最大値と、(ii) 放電空間6に生じる電場の最大値と、から決定される、放電空間6における電子の旋回運動の最大幅以上となっている。
【0058】
この構成によると、両電極(内側電極2及び外側電極3)間に放電空間6が形成される。そして、この放電空間6に酸素を含む気体が導入されることによって、オゾンが発生する。また、両電極間の電子は、ソレノイド状励磁コイル5により発生した磁場の影響を受け、ローレンツ力によって旋回運動(サイクロトロン運動)をする。そして、電子の旋回中心は、周方向にドリフト運動する。
【0059】
上記のサイクロトロン運動の最大幅(内側電極からの最大距離)は、(i) 磁場発生部材によって生じる磁束密度と、(ii) 放電空間に生じる電場の大きさと、から決定される。そして、放電空間6の幅を、旋回運動の最大幅以上に設定すると、電子の旋回運動及びドリフト運動が妨げられなくなるため、電子の運動距離が長くなる。以上により、酸素分子と電子との衝突頻度が高くなり、オゾンの発生効率が確実に向上する。
【0060】
また、オゾン発生装置1は、内側電極2を、周方向に回転させるモーター8をさらに有する。これにより、電極(陰極)の表面において、電荷が局所的に蓄積されることがないので、電極表面からの放電が、局所的に妨げられることがなくなり、放電が起こり易くなる。
【0061】
また、オゾン発生装置1において、外側電極3は、内側電極2に対して同心配置された円筒状電極である。これにより、オゾン発生装置の構成を簡素化することができる。
【0062】
また、オゾン発生装置1において、磁場発生部材は、外側電極3の径方向外側において、内側電極2及び外側電極3に対して同心に配置されたソレノイド状励磁コイル5である。これにより、放電空間6において、安定且つ均一な磁場を形成できる。
【0063】
また、オゾン発生装置1において、ソレノイド状励磁コイル5には、超伝導マグネットが含まれる。これにより、装置運転時の消費電力を低くすることができる。また、強力な磁場を発生させることができるので、サイクロトロン運動の最大幅を小さくすることができ、装置を小型化できる。また、放電空間6において、安定且つ均一な磁場を、容易に形成できる。
【0064】
また、本発明に係るオゾン発生方法は、円柱状の内側電極2と、内側電極2の径方向外側に配置された外側電極3と、内側電極2及び外側電極3の間に形成された放電空間6に、軸方向に沿った磁場を発生させるソレノイド状励磁コイル5と、を有するオゾン発生装置1を用いるオゾン発生方法であって、放電空間6に、酸素を含む気体を導入し、放電空間6における放電によってオゾンを発生させるオゾン発生工程を有し、オゾン発生工程においては、放電空間6の幅が、(i)ソレノイド状励磁コイル5によって放電空間6に生じる磁束密度の最大値と、(ii) 放電空間6に生じる電場の最大値と、から決定される、放電空間6における電子の旋回運動の最大幅以上となっている。
【0065】
この方法により、放電空間6の幅を、旋回運動の最大幅以上に設定すると、電子の旋回運動及びドリフト運動が妨げられなくなるため、電子の運動距離が長くなる。そのため、酸素分子と電子との衝突頻度が高くなり、オゾンの発生効率が確実に向上する。
【0066】
また、オゾン発生装置1において、磁場を静磁場とすることにより、交番磁場とする場合に比べて、消費電力を低くすることができる。
【0067】
また、内側電極2及び外側電極3の間には交流電流が流れているため、放電電流の方向は、周期的に反転する。そのため、直流電流が流れている場合に比べて、電子と酸素分子との衝突頻度が増大し、オゾン生成効率が向上する。
【0068】
なお、図1においては省略しているが、オゾン発生装置1には、酸素を含む気体を供給するための供給管、及び、オゾンを含む気体を放出するための放出管が設けられていてもよい。また、オゾン発生装置1には、放電空間6に対して酸素を含む気体を供給するための、酸素供給装置が設けられていてもよい。
【0069】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るオゾン発生装置について、上記の実施形態と異なる部分を中心に説明する。なお、上記の実施形態と同様の部分については、図に同一の符号を付してその説明を省略する。図4は、本発明の第2実施形態に係るオゾン発生装置の構造を示す断面図である。図4において、符号103、106、110を付した部分は、それぞれ、上記の実施形態において符号3、6、10を付した部分に相当する。
【0070】
本実施形態に係るオゾン発生装置101では、外側電極は、複数の円柱状電極103から成る。また、複数の円柱状電極103のそれぞれにおける軸方向が、内側電極2の軸方向に平行である。また、本実施形態においては、誘電体が配置されていない。オゾン発生装置はこのように構成されていてもよい。なお、誘電体が配置されていてもよく、その場合に、誘電体は、円筒状であってもよいし、複数の円柱状電極103のそれぞれを包囲するように形成されていてもよい。
【0071】
上記のように、本実施形態に係るオゾン発生装置101においては、外側電極は複数の円柱状電極103から成り、複数の円柱状電極103のそれぞれにおける軸方向が、内側電極2の軸方向に平行である。これにより、内側電極2と外側電極との間に局所的な電場が形成されるので、両電極間の放電が起こり易くなり、さらにオゾンの発生効率が向上する。
【0072】
以上、本発明について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の範囲内において様々に変更して実施することができる。
【0073】
例えば、オゾン発生装置には、ソレノイド状励磁コイルへ励磁電流を付与するための回路が設けられていてもよく、これにより、コイルへ流す励磁電流の方向を、両電極に流す交流電流の周期に合わせて切り換えるようにしてもよい。
【0074】
また、上記の実施形態では、外側電極の外側に、一つの励磁コイルが配置されているが、この励磁コイルが、分割した複数個のコイルから成り、それぞれのコイルに流れる電流が異なるようにしてもよい。
【0075】
また、オゾン発生装置の放電方法は、上記の実施形態のような放電方法には限られない。例えば、以下のような放電によってオゾンを発生させてもよい。(a)沿面放電:セラミックス、ガラスなどの誘電体の表面に面状電極を配置し(または誘電体の内部に電極を埋め込み)、誘電体の表面に複数の線状電極を配置する。そして、電極間に電位差を与えて誘電体表面の電子を加速し、そこに酸素を含む気体を供給してオゾンを発生させる。(b)金属細線充填放電:棒状の陽極金属と、それを囲む円筒状の陰極金属との間にガラス容器を設置する。また、このガラス容器と陽極金属との間の空間に、金属細線を充填する。金属細線の周囲で放電させ、ここに酸素を含む気体を供給してオゾンを発生させる。
【0076】
オゾン発生装置は、例えば、以下のようにして、最適条件(電子の運動距離が長くなる条件)で使用することができる。ここでは、装置に交番電場、及び、交番磁場を発生させる場合について説明する。(1)装置の使用条件として、電場Eの最大値(Esとする)、及び、磁束密度Bの最大値(Bsとする)が固定されている場合:予め、Es及びBsが得られるように、電場発生用電源、及び、磁場発生用電源の仕様を決定しておき、Es及びBsに基づいてdrを決定する。
【0077】
(2)装置の使用条件として、電場Eの最大値、又は、磁束密度Bの最大値が固定されておらず、これらのうち少なくとも一方が可変(調節可能)である場合:drの値を、所定のEs(電場Eの最大値)及び所定のBs(磁束密度Bの最大値)に基づいて、予め設定しておく。そして、電場Eの最大値、及び、磁束密度Bの最大値を、手動で、Es及びBsに設定操作できるように、調節機構にガイドを設ける(例えば、調節機構がダイヤルである場合に、Es及びBsを示す目盛の位置に特殊な指示線を付ける、又は、Es及びBsの位置でダイヤルが軽く止まるようにする)。または、スイッチを操作すると、電場Eの最大値、及び、磁束密度Bの最大値が、自動的にEs及びBsに切り替わるようにしてもよい。また、ユーザーに、予めEs及びBsの値を知らせておき、ユーザーが、電場Eの最大値、及び、磁束密度Bの最大値を、手動で、Es及びBsに設定操作できるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係るオゾン発生装置及びオゾン発生方法は、工場廃水の処理(循環水の処理、工場外へ排出する水の脱臭・脱色)、その他、食品の製造ラインにおける殺菌(食品工場内での一括殺菌処理)などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1実施形態に係るオゾン発生装置の構造を示す断面図。
【図2】図1のA−A’位置における断面図。
【図3】図2の主要部を拡大して示す断面図。
【図4】本発明の第2実施形態に係るオゾン発生装置の構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0080】
1 オゾン発生装置
2 内側電極
3 外側電極
4 誘電体
5 ソレノイド状励磁コイル(磁場発生部材)
6 放電空間
7a 交流電源
7b 直流電源
8 モーター(回転機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の内側電極と、
前記内側電極の径方向外側に配置された外側電極と、
前記内側電極及び前記外側電極の間に形成された放電空間に、軸方向に沿った磁場を発生させる磁場発生部材と、を有し、
前記放電空間には酸素を含む気体が導入され、前記放電空間における放電によってオゾンが発生し、
前記放電空間の幅が、(i) 前記磁場発生部材によって前記放電空間に生じる磁束密度の最大値と、(ii) 前記放電空間に生じる電場の最大値と、から決定される、前記放電空間における電子の旋回運動の最大幅以上であることを特徴とするオゾン発生装置。
【請求項2】
前記内側電極及び前記外側電極の少なくとも一方を、周方向に回転させる回転機構をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載のオゾン発生装置。
【請求項3】
前記外側電極は、前記内側電極に対して同心配置された円筒状電極であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のオゾン発生装置。
【請求項4】
前記外側電極は複数の円柱状電極から成り、
前記複数の円柱状電極のそれぞれにおける軸方向が、前記内側電極の軸方向に平行であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のオゾン発生装置。
【請求項5】
前記磁場発生部材は、前記外側電極の径方向外側において、前記内側電極及び前記外側電極に対して同心に配置されたソレノイド状励磁コイルであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のオゾン発生装置。
【請求項6】
前記磁場発生部材には、超伝導マグネットが含まれていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のオゾン発生装置。
【請求項7】
円柱状の内側電極と、前記内側電極の径方向外側に配置された外側電極と、前記内側電極及び前記外側電極の間に形成された放電空間に、軸方向に沿った磁場を発生させる磁場発生部材と、を有するオゾン発生装置を用いるオゾン発生方法であって、
前記放電空間に、酸素を含む気体を導入し、前記放電空間における放電によってオゾンを発生させるオゾン発生工程を有し、
前記オゾン発生工程においては、前記放電空間の幅が、(i) 前記磁場発生部材によって前記放電空間に生じる磁束密度の最大値と、(ii) 前記放電空間に生じる電場の最大値と、から決定される、前記放電空間における電子の旋回運動の最大幅以上であることを特徴とするオゾン発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−6615(P2010−6615A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163951(P2008−163951)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】