説明

オフセット印刷機による印刷方法及びオフセット印刷機

【課題】オフセット印刷機による印刷方法及びオフセット印刷機に関し、新聞用紙のように低白色度印刷用紙に水性の下地処理剤で下地処理を行なって印刷品質を向上させることができるようにするものにおいて、印刷用紙のカールの発生を抑制することを目的とする。
【解決手段】印刷用紙の印刷面に水性の下地処理剤を供給し、この下地処理剤の供給と同時もしくはその後に印刷面の裏面に水分を供給し、その後、印刷用紙にオフセット印刷を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新聞輪転機による印刷及び新聞輪転機に用いて好適の、オフセット印刷機による印刷方法及びオフセット印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カラー写真等の絵柄の印刷品質が大幅に向上している。これは、印刷技術の向上や印刷用インキの品質向上もあるが、印刷用紙の品質向上も大きく寄与している。逆にいえば、例えば新聞印刷のように、印刷用紙が限定される場合には、要求される印刷絵柄品質を十分に得られないことがある。
つまり、新聞輪転機に用いられる新聞用紙は、白色度(或いは明度)が他の印刷用紙に比べて低い。また、新聞用紙の場合、搬送性を考慮して坪量の低い軽量な用紙が用いられている。しかも、多ページ化の流れに応じて用紙の更なる軽量化が進められており、このため、用紙の不透明性も他の印刷用紙に比べて低下している。
【0003】
このように新聞用紙の白色度や不透明性が低いことは、記事部分の印刷には大きな支障にはならないが、カラー写真等のカラー印刷の場合やある程度の広さに高画線の印刷領域がある場合などには、不具合を招く。つまり、カラー印刷における白色は、用紙自体の色に頼ることになるため、用紙の白色度が低いと、少なくともこの白色部分においては、要求される色調とは異なった色調となってしまう。また、用紙の不透明性が低いと、高画線の印刷部分の裏側に裏抜けなどの印刷障害が生じ易くなる。特に、カラー印刷における各版(全4版)のインキ総量が250%を越えると、こうした裏抜けなどの印刷障害が起こりやすくなる。裏抜けが生じれば色再現性が低下する。
【0004】
また、新聞のカラー印刷では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各カラーインキとして、鮮明な色を再現できる有機顔料を用いるが、有機顔料には隠ぺい力が弱い特性があるため下地の色の影響を受けやすくなる。
その結果、新聞のカラー印刷では、下地の新聞用紙の灰色がかった色の影響を受けCMYの各色がくすんでしまい、色再現性の良い有機顔料を用いながら、色再現範囲が狭くなって、十分な色再現性が得られなくなってしまう。
【0005】
また、上記のような裏抜け発生には至らなくても、一般的な新聞用紙では紙面上のインキ(特に顔料)が印刷後数時間の間に紙繊維の隙間に沈み込み、印刷濃度が低下する現象(ドライダウン)が起こることは避けられない。このドライダウンも色再現範囲を狭くする一因と考えられる。
さらに、新聞用紙の場合、紙面の平滑性が充分でないため、インキが紙面に均一に付着できず素抜けが発生しやすいことも、印刷濃度の低下、すなわち色再現範囲を狭くする一因と考えられる。
【0006】
また、新聞用紙の場合、紙の表面でCMYKインキが繊維の配向に沿った形で滲んで広がるため、特に網点面積率30〜60%程度の中間調の領域でドットゲインが顕著となり、網点面積として15〜30%程度太る傾向が生じる。このことも階調再現性低下に繋がり、高画質化の妨げとなっている。
そこで、現状では、高画質が要求されるカラー印刷箇所など、通常の新聞用紙では白色部分の要求に対応できない部分や、裏抜けが生じ易い部分に対しては、白色度の高い新聞用紙を必要部分に差し替えることで画質要求に対応している。
【0007】
しかし、白色度の高い新聞用紙の場合、新聞用紙の白色度を向上させるために、製紙段階で白色材の微塗工や塗布を行なって製造するため、値段の高いものになり、コスト増を招く。特に、上述のように用紙を差し替えると、例えば、用紙差し替えの不要な裏面や、同一面であっても記事などの用紙差し替えの不要な部分についても値段の高い白色度の高いものにすることになる。
【0008】
また、新聞紙とは別の広告用の白色度が高い印刷用紙に広告を印刷して、新聞に折り込み広告としている例もあるが、用紙が高いことに加えて新聞紙への折り込みに手間がかかりコストアップは避けられない。
これに対して、特許文献1には、新聞用紙等の平滑度や不透明性や白色度が低い用紙を用いて、文字と写真とを同一紙面上に印刷する場合に、紙面状の写真印刷個所に、平滑度や不透明性や白色度を高める紙面改良剤を印刷方式で部分的に加工した上で印刷を行なうことで、新聞用紙等を用いながら写真をより鮮明に印刷する技術が提案されている。
【0009】
また、特許文献2には、白色度が低い通常の新聞用紙に対して、写真や広告を印刷する個所に、予め白色系のインキを載せて処理しておき、その後印刷を行なうことで、新聞用紙を用いながら広告や写真等を求められた色調に印刷しようとする技術が提案されている。
【特許文献1】特公昭45−25649号公報
【特許文献2】特開平2−117877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述の特許文献1,2にかかる従来技術では、予め紙面に塗布する紙面改良剤(特許文献1)或いは白色系のインキ(特許文献2)といった紙面の下地を形成するもの(下地処理剤)には、水性のものと油性のものとがあり、上述の特許文献1,2には、下地処理剤が水性であるか油性であるかは明記されていないが、少なくとも特許文献1の明細書の第2頁第3欄に開示されている紙面改良剤については油性のものとなっている。
【0011】
一方、近年、環境保全の観点から有機溶媒蒸気の大気放出を抑制することが求められており、2006年4月からはVOC(Volatile Organic Compound;揮発性有機化合物)排出規制が施行され、印刷産業の分野でもVOC排出量の低減は益々求められている。また、印刷作業者の作業環境の面からも、揮発性有機溶剤の含有量が少ない印刷資材が好ましいことは言うまでも無い。
【0012】
このような観点から、かかる下地処理剤には、水性のものを用いることが好ましい。
なお、ここで、水性の下地処理剤とは、少なくとも水を含有している下地処理剤を意味する。水は、溶媒、あるいは分散媒(エマルションタイプの場合)として含有されている場合が多いが、他の目的で含有されていても良い。
しかし、水性の下地処理剤を印刷用紙に供給すると、紙の繊維が一旦膨潤し、更にその後の繊維中からの水分の蒸発に伴う繊維の収縮によって、紙の繊維状態に表裏差が生じる場合が少なくなく、結果として印刷用紙がカールすることになる。
【0013】
このようなカール発生の状況は、常に同じとは限らないが、例えば、図8に示すように発生する。図8に示す例は、新聞用紙に水性下地処理剤供給後、新聞用紙(Web)をカットして自然乾燥させたものであり、水性下地処理剤を供給した面が内側になるように紙が弧を描いてカールしている。一般的な性質として、印刷用紙の繊維が一度水に濡れて膨潤した後、比較的早速やかに乾燥が行なわれると、一度膨潤した繊維はもとの状態より収縮する場合が多い。この場合も、印刷面の方により多くの水が含有された状態から、比較的速やかに乾燥が進んだため、印刷面側の繊維収縮が大きかったものと推定される。
【0014】
このように印刷後に印刷用紙がカールしていると、その後の印刷用紙のハンドリングにおいて紙にシワが入り易かったり、最終の印刷物がカールしたり、嵩張ったりするなどの不具合を生じて好ましくない。
本発明は、このような課題に鑑み案出されたもので、新聞用紙のように低白色度印刷用紙等に下地処理剤で下地処理を行なって印刷品質を向上させることができるようにする技術において、環境保全等の観点から水性の下地処理剤を適用しながら、印刷用紙のカールの発生を抑制することができるようにした、オフセット印刷機による印刷方法及びオフセット印刷機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目標を達成するため、本発明のオフセット印刷機による印刷方法(請求項1)は、オフセット印刷機による印刷方法であって、少なくとも印刷用紙の印刷面に水性の下地処理剤を供給する下地処理剤供給ステップと、その後、前記印刷用紙にオフセット印刷を行なう印刷ステップと、をそなえ、前記下地処理剤供給ステップと同時もしくはその後であって、前記印刷ステップよりも前に、前記印刷面の裏面に水分を供給する水分供給ステップをそなえていることを特徴としている。
【0016】
なお、ここで言う印刷面とは、下地処理剤の供給対象となる印刷面であり、印刷面の裏面とは、印刷しない面、若しくは、下地処理剤の供給対象ではない印刷面である。
前記水性下地処理剤は、少なくとも白色顔料を含有していることが好ましい(請求項2)。
前記印刷用紙は低白色度印刷用紙であって、前記オフセット印刷機は新聞輪転機であることが好ましい(請求項3)。
【0017】
前記下地処理剤供給ステップと前記印刷ステップとの間に、前記印刷面を乾燥処理する印刷面乾燥ステップをそなえていることが好ましい(請求項4)。
この場合、前記下地処理剤供給ステップと前記印刷ステップとの間に、前記印刷面を乾燥処理する印刷面乾燥ステップをそなえていることが好ましい(請求項5)。
なお、本発明において言う印刷面の乾燥処理とは、印刷機の印刷部において印刷が開始される段階において、少なくとも印刷面の下地処理剤が印刷部で転写される印刷インキと混ざり合って印刷インキに濁りを生じせしめることのない状態になることを指す。必ずしも、下地処理剤中に含有される溶媒成分が、印刷用紙中に浸透する、あるいは大気中に揮発して、印刷用紙上の下地処理剤層から完全に除去される必要はない。
また、裏面の乾燥処理は、裏面の水分状態が印刷面の乾燥処理による紙面の水分状態と均衡を保つために行なう。
【0018】
本発明のオフセット印刷機(請求項6)は、印刷用紙にオフセット印刷を行なう印刷機であって、印刷部の1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側に設置され、前記印刷用紙の印刷面に水性の下地処理剤を供給する下地処理剤供給部と、前記1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側であって、前記下地処理剤供給部の設置箇所若しくは該設置箇所よりも下流側に設置され、前記印刷用紙の前記印刷面の裏面に水分を供給する水分供給部と、をそなえていることを特徴としている。
【0019】
この場合も、前記水性下地処理剤は、少なくとも白色顔料を含有していることが好ましい(請求項7)。
前記印刷用紙は低白色度印刷用紙であって、新聞を印刷する新聞輪転機として構成されていることが好ましい(請求項8)。
前記1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側であって、前記下地処理剤供給部よりも下流側に、前記印刷面を乾燥させる印刷面乾燥部をそなえていることが好ましい(請求項9)。
【0020】
この場合、更に、前記1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側であって、前記水分供給部よりも下流側に、前記裏面を乾燥させる裏面乾燥部をそなえていることが好ましい(請求項10)。
本発明のオフセット印刷機(請求項11)は、印刷用紙の両面にオフセット印刷を行なう印刷機であって、印刷部の1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側に設置され、前記印刷用紙の一方の印刷面に水性の下地処理剤と水分とを選択して供給する第1供給部と、前記下地処理剤供給部と対向するように配置され、前記印刷用紙の他方の印刷面に水性の下地処理剤と水分とを選択して供給する第2供給部と、をそなえていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明のオフセット印刷機による印刷方法(請求項1)及びオフセット印刷機(請求項6)によれば、印刷用紙の印刷面に下地処理剤を供給した上で印刷用紙に対してオフセット印刷を実施するので、下地処理により印刷面の平滑度や不透明性や白色度を高めることが可能になり、印刷面に良好に印刷が施されるようになる。特にカラー印刷を色再現性良くより鮮明に印刷することが可能になる。また、水性の下地処理剤を用いているので、環境保全等に寄与する。
【0022】
印刷用紙の片面を印刷面として水性の下地処理剤を用いると、印刷面とその裏面との間で水分状態が相違することから印刷用紙にカールが発生し易いが、この印刷面の裏面にも水分を供給するので、印刷面とその裏面との間で水分状態を近付けることができ、印刷用紙のカールの発生が抑制される。したがって、その後の印刷用紙のハンドリングにおける紙にシワが入る不具合や、最終の印刷物がカールしたり、嵩張ったりするなどの不具合を回避することが可能になる。
【0023】
水性下地処理剤が、少なくとも白色顔料を含有していれば、カラー印刷部分の色再現範囲を確実に拡大することができ、カラー印刷を再現性良くより鮮明に印刷することが可能になる(請求項2,7)。
また、印刷用紙が低白色度印刷用紙であって、オフセット印刷機は新聞輪転機である場合、カラー印刷部分の色再現範囲が縮小しカラー印刷の色再現性が低下しやすいが、下地処理により印刷面の白色度を高めることが可能になり、カラー印刷を色再現性良くより鮮明に印刷することが可能になる(請求項3,8)。
【0024】
印刷面に下地処理剤を供給した後この印刷面を乾燥処理してから印刷を行なえば、印刷面の下地処理剤を短時間に確実に乾燥させることができ、印刷面の下地処理剤が転写される印刷インキと混ざり合って印刷インキに濁りを生じせしめることを防止して、印刷を良好に行なうことができるようになる(請求項4,9)。特に、新聞輪転機のように、高速で印刷を行なう場合には、自然乾燥では印刷面の下地処理剤を乾かし難いことが考えられるが、このような場合にも、確実に印刷面の下地処理剤を乾燥させることができる。
【0025】
そして、この印刷面の乾燥処理と並行して印刷面の裏面を乾燥処理することで、印刷面とその裏面との水分状態を均衡させながら両面を乾燥させることができるので、印刷用紙のカールの発生を抑制することができる(請求項5,10)。
本発明のオフセット印刷機(請求項11)によれば、印刷用紙の両印刷面のうち、いずれかの印刷面については下地処理剤が必要であるが、残りの印刷面については下地処理剤が不要の場合、下地処理剤が必要な印刷面に対しては第1供給部又は第2供給部により印刷面に水性の下地処理剤を供給し、下地処理剤が不要な印刷面に対しては第2供給部又は第1供給部により印刷面に水分を供給する。これにより、下地処理剤を供給した印刷面では、カラー印刷を色再現性良くより鮮明に印刷することができる。また、下地処理剤が不要な印刷面に対しては水分を供給するので、下地処理剤を供給した印刷面とその裏面の下地処理剤を供給しない印刷面との間で水分状態を近付けることができ、印刷用紙のカールの発生が抑制される。
【0026】
また、印刷用紙の両印刷面とも下地処理剤が必要であれば、両印刷面に、第1供給部又は第2供給部により水性の下地処理剤を供給すれば、両印刷面において、カラー印刷を色再現性良くより鮮明に印刷することができ、また、両印刷面の間で水分状態が近付くので、印刷用紙のカールの発生が抑制される。
さらに、印刷用紙の両印刷面とも下地処理剤が不要であれば、両印刷面に、水性の下地処理剤も水分も供給しなければよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態について説明すると、図1〜5は本発明の第1実施形態について説明するもので、図1はそのオフセット印刷機の要部構成を示す説明図、図2はその印刷面へ供給した下地処理剤及び裏面へ供給した水分の乾燥に関する概念図、図3はその新聞用紙の印刷面を示す正面図、図4はそのオフセット印刷機による印刷方法を説明するフローチャート、図5は本実施形態にかかる効果を説明する斜視図である。
【0028】
本実施形態は、オフセット印刷機としての新聞輪転機に関し、図1に示すように、新聞輪転機の印刷部(印刷装置)6の上流側に、印刷用紙としてのウェブ状の新聞用紙(以下、ウェブとも言う)10の印刷面に水性の下地処理剤を供給する下地処理剤供給部(下地処理剤供給装置)4Aと、この印刷面の裏面に水分を供給する水分供給部(水分供給装置)4Bとを有する下地処理剤供給装置4を追加したものである。
【0029】
なお、下地処理剤は、印刷面を改善するためのもので、ここでは、下地処理剤として水性白色インキを用いる例を説明するので、下地処理剤供給部4Aについては白色インキ供給部(白色インキ供給装置)とも呼ぶことにする。なお、新聞用紙(ウェブ)10は、例えば白色度54〜55%,坪量42〜44g/m2程度の一般的なものとするが、これに限るものではない。
【0030】
また、下地処理剤を供給する印刷面の裏面に水分を供給するのは、印刷用紙の片方の面にのみ水性の下地処理剤を供給すると、紙の繊維の膨潤及びその後の繊維の収縮によって、例えば下地処理剤を供給した面を内側にして印刷用紙がカールすることになるため、これを回避するためである。ここで水分とは、水を主体とした液体であれば良く、他の機能を付与、あるいは補助するために添加剤などを含んでいても良い。ここでは、主として水分31を含む液(水分付与液)30を裏面に供給するものとする。
【0031】
なお、カラー印刷部分の色再現範囲を拡大するためには、本実施形態のように、白色顔料を含有する水性下地処理剤が好ましい。白色顔料として一般的なルチル型酸化チタンの屈折率は2.71であり、樹脂との屈折率差が大きく、インキとして用いた場合にバインダー樹脂と酸化チタン微粒子界面で光の屈折が大きいために、白色度が高いが、白色顔料は酸化チタンに限るものではない。例えば、酸化亜鉛は屈折率1.95で白色度では酸化チタンには劣るが、必要に応じて用いても良い。使用する白色顔料は1種でも良いし、複数種を同時に用いても良い。なお、白色顔料を固体微粒子として含有する下地処理剤を、以後は白色インキと表記する。
【0032】
印刷用紙表面の白色度が増すことで、その上に載ったインキの発色性が向上する。例えば、有機顔料を用いたCMYインキのようなカラーインキは、隠ぺい力が高くないため下地の色の影響を受けやすく、下地の印刷用紙が例えば新聞用紙のように灰色に着色していた場合、その灰色の影響を受けて、CMYの色がくすんでしまう。しかし、白色インキにより白色度が増加した印刷用紙に印刷することで、CMYのくすみを抑えることが可能になり、色再現範囲が広がる。
【0033】
色再現範囲を広げてカラー印刷の発色性を鮮やかにするために、白色インキを供給された印刷用紙の白色度はオフセット印刷前の段階で60%以上となることが好ましい。
さらに具体的に説明すると、新聞輪転機では、給紙部1に巻取紙1aとして装備されたウェブ10をインフィード部2から繰り出して印刷部6に搬送し、印刷部6に備えられた印刷ユニット(図示略)で所要色のインキを転写した上で、冷却部,ウェブパス部及び折機(何れも図示せず)を経て折帳として出力する。
【0034】
インフィード部2は、インフィードローラ2aと、移動してウェブパス距離を変更しながらウェブ10の張力を調整するダンサーローラ2bと、インフィードローラ2aとウェブ10を挟んで対向して配置されたガイドローラ3aと、ダンサーローラ2bからのウェブ10の出側に配置されたガイドローラ3bとを備えて構成され、ウェブ10を設定された状態に保持しながら印刷部7に向けて送り出すようになっている。
【0035】
なお、印刷部6には、単色印刷の場合には単数の印刷ユニットが備えられるが、ここでは、フルカラー等の多色印刷を行なうように、複数の、例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各カラーインキとブラック(K)との4色の印刷ユニットが備えられている。
このような既存の新聞輪転機におけるインフィード部2のウェブパス長を変化させる装置であるダンサーローラ2bよりも下流であって、印刷部の1色目のブランケット胴ニップ部(図示略)よりも上流(ここでは、印刷部6入口のガイドローラ3c部分よりも上流)に、下地処理剤供給装置4が追加されている。
【0036】
本実施形態の下地処理剤供給装置4は、ウェブ10の両印刷面のうちの一方の印刷面(図1では、上側の面)の側に下地処理剤20を供給する下地処理剤供給部4Aと、他方の印刷面(図1では、下側の面)の側に水分(水分付与液30)を供給する水分供給部4Bと、両印刷面を乾燥させる乾燥処理部4Cとを備えている。
下地処理剤供給部4Aは、一般的なオフセット印刷の印刷ユニットと同様に構成され、下地処理剤を刷版に供給する下地処理剤供給ロール4aと、下地処理剤の供給領域に応じた刷版を装着された版胴4bとを備えている。また、水分供給部4Bも、一般的なオフセット印刷の印刷ユニットと同様に構成され、水分を刷版に供給する水分供給ロール4cと、水分の供給領域に応じた刷版を装着された版胴4dとを備えている。
【0037】
なお、ここでいう版胴4b,4dとは、通常の平版印刷における刷版と同様に、印刷面の下地処理剤又は水分を塗布すべき領域に応じた領域について下地処理剤又は水分を転写可能にする表面性状を有するものである。また、一方の印刷面における下地処理剤を塗布すべき領域とは、例えばカラー印刷を行なう領域とし、他方の印刷面における水分を塗布すべき領域とは、下地処理剤を塗布すべき領域の真裏の対応する領域とする。
【0038】
ただし、よりシンプルには、水分供給にかかる版胴4dに装備する刷版を、下地処理剤を塗布するための版胴4bに装備する刷版の塗布領域と関係なく、対象の印刷面の全面に水分を塗布するような全面をベタ濃度とした版とすることが考えられる。この場合には、刷版を外周に装備する版胴4dに代えて、自身の外周面から直接対象の印刷面に水分を塗布するような水分転写胴を用いてもよい。さらにシンプルには、下地処理剤を塗布するための版胴4b及び水分供給にかかる版胴4dにそれぞれ装備する刷版を、対象の印刷面の全面に下地処理剤又は水分を塗布するような全面をベタ濃度とした版とすることも考えられる。この場合にも、刷版を外周に装備する版胴4b,4dに代えて、自身の外周面から直接対象の印刷面に水分を塗布するような下地処理剤胴或いは水分転写胴を用いてもよい。
【0039】
なお、この下地処理剤供給装置4によるウェブ10上への下地処理剤の供給は、図3の印刷及び切断された新聞紙11に示すように、印刷面(印刷ページ)11a,11bにおける所要の箇所(ここでは、写真の印刷箇所13及び広告の印刷箇所14,15)のみに行なうようになっている。なお、新聞紙11へ供給する下地処理剤は、その一例として白色インキがあげられ、印刷面11aのうち記事を印刷する箇所12には、白色インキを供給しない。つまり、所要の箇所13,14,15に応じた白色インキ用の刷版を用意し、版胴4bに装着し印刷を行なうことで、このような処理を行なうことができる。
【0040】
また、図示しないが、印刷面(印刷ページ)11a,11bの裏面の印刷面に対しては、全面に水分を供給する水分供給用刷版を用意し、版胴4dに装着し印刷を行なうことで、裏面の所要箇所又は全面にカール防止のための水分が供給される。
なお、白色インキ、あるいは基本インキや特色インキ用の刷版は、印刷部分をベタ(網点面積率100%)刷りとしても良いが、ベタ刷りではない適宜の網点形状としても良い。この場合、ウェブ10の印刷面の白色度、あるいはインキの光学濃度の向上をある程度実現しながら、各インキの乾燥をはやめることができる。
【0041】
また、下地処理剤供給装置4は、上述のように、インフィード部2のウェブパス長を変化させる装置であるダンサーローラ2bより下流であって、印刷装置の1色目のブランケット胴ニップ部の上流に設けられるので、白色インキ用の刷版を印刷部6における各刷版の位相と合わせることが容易であり、図3に示すように、所要の箇所13,14,15への白色インキの印刷を確実に行なえるものになっている。
【0042】
さらに、下地処理剤供給部4A及び水分供給部4Bは、既存の印刷機をより有効に利用する構成として、図1に示すガイドローラ3b等を下地処理剤供給部4A又は水分供給部4Bの圧胴の代わりに用いることも考えられる。
あるいは、必要に応じて、下地処理剤供給ロール4a,水供給ロール4cの位置に版胴を備え、これらの下地処理剤供給ロール4a,水供給ロール4cから受けた下地処理剤又は水をウェブ10の表面(印刷面)に転写する転写胴を版胴4b,4dの位置に備えるようにしてもよい。この場合の転写胴は、例えば、商業用オフセット輪転機(商オフ)や新聞輪転機のブランケット胴に相当するものでも差し支えない。
【0043】
さらには、特に、印刷用紙への水分供給はカール防止のためなので、上述のように、対象面全体に水分供給をするという比較的シンプルな供給態様でもよいことから、ローラを用いるほか、スリットコータを用いたコータ方式、スプレー方式、水蒸気噴きつけ方式なども適用できる。
なお、ここでは、ウェブ10の一方の印刷面に下地処理剤を転写し、ウェブ10の他方の印刷面には下地処理剤を転写しないものとしているが、これは、一方の印刷面には色再現性を重視した写真等の印刷箇所があり下地処理剤を供給して印刷面の色再現範囲の拡大することが必要であるが、他方の印刷面には色再現性を重視した写真等の印刷箇所がなく下地処理剤を供給して印刷面の色再現範囲の拡大することは特別必要でないためである。
【0044】
しかし、新聞印刷のような両面印刷では、いずれの印刷面にも下地処理剤を供給する必要がある場合、一方の印刷面には下地処理剤を供給する必要があるが他方の印刷面には下地処理剤を供給する必要がない場合、一方の印刷面には下地処理剤を供給する必要がないが他方の印刷面には下地処理剤を供給する必要がある場合、いずれの印刷面にも下地処理剤を供給する必要がない場合、をそれぞれ想定できる。
【0045】
このような各場合を考慮すると、両面印刷を行なう印刷機では、下地処理剤と水分との何れかを選択して印刷面に供給する供給部を、両印刷面に対してそれぞれ設けて、各印刷面に下地処理剤と水分とを選択的に供給できるようにすることが有効である。例えば、図1に示す下地処理剤供給部4Aを下地処理剤と水分との何れかを印刷面に供給する第1供給部とし、図1に示す水分供給部4Bを下地処理剤と水分との何れかを印刷面に供給する第2供給部とする。
【0046】
そして、両印刷面に下地処理剤を供給すべきであれば、第1供給部及び第2供給部でそれぞれ対応する印刷面に下地処理剤を供給し、何れか一方の印刷面のみに下地処理剤を供給すべきであれば、第1供給部及び第2供給部のうち下地処理剤を供給すべき供給部では対応する印刷面に下地処理剤を供給し、残りの供給部では対応する印刷面に水分を供給すればよい。また、両印刷面のいずれにも下地処理剤を供給する必要がなければ、第1供給部及び第2供給部とも下地処理剤も水分も供給しないようにすればよい。
【0047】
もちろん、印刷機自体が片面印刷のものであれば、印刷面の側に下地処理剤供給部4Aを設け、非印刷面の側に水分供給部4Bを設ければよい。
そして、この場合も、印刷面に下地処理剤を供給する必要がなければ、下地処理剤も水分も供給しないようにすればよい。
また、下地処理剤供給装置4における下流に設けられた乾燥処理部4Cは、下地処理剤20を転写されたウェブ10の一方の印刷面を速やかに乾燥させると共に、水分付与液30を転写されたウェブ10の他方の印刷面を一方の印刷面の乾燥と対応させて乾燥させるものである。本実施形態では、乾燥処理部4Cには、下地処理剤20を転写された一方の印刷面を加熱乾燥する加熱装置5aと水分付与液30を転写された他方の印刷面を加熱乾燥する加熱装置5bとが対向して備えられている。
【0048】
なお、加熱装置5a,5bとしては、温風をウェブ10の印刷面に吹き付けることによる乾燥する温風方式や、高温蒸気をウェブ10の印刷面に吹き付けることによる乾燥する蒸気方式や、赤外線を照射する方法や、これらの組み合わせたもの(いずれも、非接触方式)、或いは、ウェブ10の印刷面に高温ロールを接触させウェブ10速度と同期した周速度で回転させるようにした、高温ロール方式など種々のものが適用できる。
【0049】
ここで、前記温風方式、前記蒸気方式、前記赤外線照射方法、前記高温ロール方式のいずれについても印刷面からではなく印刷面の裏側から加熱乾燥させることもできる。さらに、下地処理剤が電子線、紫外線などによるエネルギー線硬化型である場合は、電子線や紫外線照射による乾燥装置とすることもできる。
特に、高温蒸気を適宜用いると、ウェブ10の加熱に伴う水分低下によるウェブの収縮等の不具合が防止されるため好ましい。例えば、高温ローラをウェブに接触させる接触方式のものとすることも可能であり、別途高温ローラを設けることもできるし、ガイドローラ3Cを発熱させて接触式で乾燥させることもできる。ここでは、温風と高温蒸気とを混合させた非接触方式のものを用いている。
【0050】
次に、水性の下地処理剤の乾燥特性に及ぼす下地処理剤中の溶媒(水分)の挙動特性について説明する。
乾燥工程は、下地処理剤に含有された溶媒(水分)の、印刷用紙への浸透工程(浸透処理)と、大気中への蒸発工程(蒸発処理)と、の2つの工程から乾燥が実施される。
図2は、下地処理剤の乾燥工程を説明する概念図であるが、図示するように、下地処理剤20には、少なくとも、着色剤としての顔料21、バインダー樹脂22、溶媒(水分)23が含有されており、下地処理剤20により形成される下地処理層は、印刷用紙10に塗布された直後には、図2(a)に示すように、顔料21、バインダー樹脂22、溶媒(水分)23が何れも含有されているが、乾燥工程が進むに従って、図2(b)に示すように、このうちの溶媒(水分)23が除去されていく。
【0051】
この乾燥工程では、溶媒の印刷用紙中への浸透と、溶媒の大気中への蒸発とが同時に進行しながら、下地処理剤の乾燥が達成される。この際、当然ながら、溶媒が印刷用紙中に速やかに浸透するほど、また、溶媒が速やかに蒸発(揮発)するほど、下地処理剤の乾燥が速やかに達成されることになる。
水を溶媒とすると、自然乾燥では、速やかな蒸発(揮発)は困難であるが、印刷用紙中への浸透は速やかに行われるので、この面から下地処理剤の乾燥が速やかに達成されることになる。もちろん、本実施形態のように、乾燥処理部4Cにおいて下地処理剤の供給された印刷面を強制的に乾燥させれば、印刷面の表面に存在する溶媒(水分)に加えて印刷用紙中へ浸透した溶媒(水分)の一部も蒸発するため、下地処理剤の乾燥が速やかに達成されることになる。
【0052】
ただし、本発明でいう乾燥状態とは、少なくとも紙面の下地処理剤が印刷部6で転写される印刷インキと混ざり合って印刷インキに濁りを生じせしめることのない状態になることであり、下地処理剤中の全ての溶媒(水分)が、紙面上の下地処理層から印刷用紙中、あるいは大気中に移行する必要はない。
このような下地処理剤の乾燥過程で、印刷用紙中へ浸透した溶媒(水分)は、紙の繊維を一旦膨潤させ、その後、繊維中から蒸発する際に繊維を収縮させるため、紙の繊維状態に表裏差が生じて印刷用紙のカールを招いてしまうが、ここでは、図2(a)に示すように、一方の印刷面に下地処理剤20を供給すると共に、この印刷面の裏面(他方の印刷面)に水分付与液30を供給し、図2(b)に示すように、印刷用紙の両面で印刷用紙中へ水分31が浸透するので、水分による紙の繊維の膨潤とその後の収縮は、紙の略両面に均一に発生させることができるようになっている。
【0053】
なお、カール対策の水供給に関しても、紙面の水分の乾燥が不十分な場合、印刷部6で転写される油性の印刷インキが紙面へ付着しにくくなる(水膜が油性インキをはじく)おそれがある。このため、水の供給面についても、少なくとも油性の印刷インキが紙面へ付着しにくくなることのない程度の乾燥状態にすることが必要になる。
本発明の第1実施形態にかかるオフセット印刷機としての新聞輪転機は上述のように構成されているので、図4のフローチャートに示すように、ウェブ10の表面(印刷面)への印刷が行なわれる。
【0054】
つまり、まず、給紙部1からインフィード部2で張力状態を調整されながら送り出されたウェブ10の一方の印刷面に、白色インキ供給装置4の白色インキ供給部4Aにより白色インキ(下地処理剤)が供給される(ステップS10;下地処理剤供給ステップ)。この白色インキの供給は、印刷方式で所要の箇所13,14,15(図3)のみに行なわれる。
また、これと共に、ウェブ10の他方の印刷面には、水分供給部4Bにより水分が供給される(ステップS12;水分供給ステップ)。
【0055】
次に、ウェブ10は乾燥処理部4Cに進み、加熱装置5により両印刷面(下地処理対象の印刷面とその裏面)が加熱され乾燥処理される(ステップS20;乾燥ステップ)。そして、印刷部6において印刷が行なわれる(ステップS30;印刷ステップ)。
上述のように、印刷面上の白色インキは乾燥処理され、印刷部6において印刷が開始される段階では、印刷部6で転写される印刷インキに対して混ざり合って印刷インキに濁りを生じせしめることの無い状態になっているので、印刷インキに濁りが生じることなく印刷が行なわれる。
【0056】
これにより、白色度の低い新聞用紙(ウェブ)10の表面が白色インキにより高い白色度に処理された上に、フルカラーの写真(図3の印刷箇所13)や広告(図3の印刷箇所14,15)が印刷インキに濁り等を生じることなく印刷されることになり、高白色度の下地を利用して再現したい色調の印刷を実現できるようになる。写真の場合には、原画に忠実に印刷することが可能になり、広告の場合には、例えば原画に忠実に印刷することやより鮮やかで広告効果の高い印刷を実現するができる。
【0057】
また、本実施形態では、白色インキを印刷面における写真箇所や広告箇所のみに、つまり、印刷面の一部に供給するので、効率よく下地処理を行なえ、処理コストを抑制することができる。また、記事部分12は下地処理をしないことでむしろ読み易くなる。
そして、水性の白色インキを下地処理剤として用いているので、環境保全等に寄与する効果もある。
【0058】
特に、印刷用紙中へ浸透した白色インキの溶媒(水分)は、紙の繊維を一旦膨潤させ、その後、繊維中から蒸発する際に繊維を収縮させるため、紙の繊維状態に表裏差が生じて印刷用紙のカールを招いてしまうが、本実施形態では、一方の印刷面に下地処理剤として白色インキを供給すると共に、この印刷面の裏面(他方の印刷面)に水分を供給し、印刷用紙の両面で印刷用紙中へ水分が浸透するので、水分による紙の繊維の膨潤とその後の収縮は、紙の略両面に均一に発生させることができる。これにより、印刷面とその裏面との間で水分状態を近付けることができ、図5に示すように、印刷用紙のカールの発生が抑制される。したがって、その後の印刷用紙のハンドリングにおける紙にシワが入る不具合や、最終の印刷物がカールしたり、嵩張ったりするなどの不具合を回避することが可能になる。
【0059】
例えば、表1は、本実施形態にかかるオフセット輪転機による印刷方法を適用して、坪量43g/m2、白色度55%の新聞用紙相当の紙幅15cmのウェブを用いて、その一方の紙面全面に白色インキを印刷し、白色インキ供給と同時に、反対の紙面全面にカール防止のための水分供給を行なった結果のカール曲率(=曲率半径の逆数)を示すものである。
【0060】
なお、プロセスカラーインキによる印刷は省略した。また、白色インキはサカタインクス社製のブライトーンFC−765の白を、離合社製ザーンカップR#4で測定した粘度が8秒になるように水で希釈して印刷に用いた。印刷終了後の新聞用紙の白色度が64%となるように水希釈後の白色インキを供給し、カール防止用の水分は新聞用紙へ供給される水膜が0.5μmとなるように調整した。そして、印刷終了後、新聞用紙(Web)を切り取り、キタハマ製のカール測定装置にてカール曲率を測定した。なお、比較として何も印刷してない新聞用紙の曲率も測定し、合わせて表1に示している。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、本実験に用いた印刷用紙は新聞用紙相当の巻き取り紙であるため、未印刷状態でも若干のカールが観察される。しかし、白色インキだけを供給した新聞用紙の曲率が顕著に増大しているのに対して、カール防止のために水分供給すると明らかにカール曲率が低減することがわかる。印刷後の曲率を更に低減させたい場合には、水供給量を多くするなどの調整を行なえばよい。
【0063】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明すると、図6は本発明の第2実施形態のオフセット印刷機の要部構成を示す説明図である。図6において、図1と同符号は同様なものを示し、これらの説明は一部省略する。
【0064】
第1実施形態では、下地処理剤供給装置(下地処理剤供給部4A,水分供給部4B及び乾燥処理部4C)4が既存の新聞輪転機に追加されたものとしているが、本実施形態は、下地処理剤供給装置4をはじめから新聞輪転機に組み込んだものとしている。つまり、図6に示すように、印刷ユニット6a,6b等を備えた印刷部6の上流部に、これに並んで、下地処理剤供給装置4が装備されている。これ以外は、第1実施形態と同様に構成される。なお、本実施形態でも、下地処理剤として水性の白色インキを用いた場合を例に説明する。
【0065】
なお、本実施形態の場合も、第1実施形態と同様に、下地処理剤供給部4Aは、インフィード部2のウェブパス長を変化させる装置であるダンサーローラ2bよりも下流(ただし、ここでは、ウェブ10を印刷装置6に導くガイドローラ3cの下流)であって、印刷装置6の1色目の印刷ユニット6aのブランケット胴ニップ6cよりも上流に設けられるので、白色インキ用の刷版を印刷部6における各刷版の位相と合わせることが容易であり、上記第1実施形態で説明した所要の箇所13,14,15への白色インキの印刷を確実に行なえるものになっている。
【0066】
また、水分供給部4Bは下地処理剤供給部4Aと対抗して配置され、これら下地処理剤供給部4A,水分供給部4Bの下流に乾燥処理部4Cが配置される。
このような構成によっても、第1実施形態と同様に、水性の白色インキを下地処理剤として用いることで環境保全等に寄与し、しかも、水性の下地処理剤を用いる場合に生じ易い印刷用紙のカールの発生を抑制することができる。
【0067】
もちろん、印刷インキに白色インキによる濁り等が生じることなく印刷インキによる印刷が行なわれるようになって、高白色度の下地を利用して再現したい色調の印刷を実現できるようになるという効果も得られる。
【0068】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明すると、図7は本発明の第3実施形態のオフセット印刷機の要部構成を示す説明図である。図7において、図1と同符号は同様なものを示し、これらの説明は一部省略する。本実施形態でも、下地処理剤として白色インキを用いた場合を例に説明する。
【0069】
本実施形態では、下地処理剤供給装置4自体は、第1,2実施形態と同様であるが、印刷機の下地処理剤供給装置4よりも上流の部分が第1,2実施形態とは異なっている。
つまり、第1,2実施形態では、ウェブパス長を変化させる装置としてダンサーローラを備えているが、本実施形態では、図7に示すように、ダンサーローラはなく、ウェブパス長を変化させる装置としてフローティングローラ7が備えられている。
【0070】
このフローティングローラ7は給紙テンションの変動を吸収する装置であり、輪転機の加減速時やペースター時や緊急停止時などに給紙テンションが下がった場合には、図7中の左側(二点鎖線部参照)の方向へ動きテンション低下分を吸収する。逆に給紙テンションが上がった場合は、図7の右側(二点鎖線部参照)の方向へ動きテンション上昇分を吸収する。
【0071】
なお、第1,2実施形態で説明したダンサーローラ2b及びインフィードローラ2a(図1,図6参照)は,印刷ユニット入口のテンションを積極的に検出してダンサーローラ2bの位置及びインフィードローラ2aの周速を変えてテンション変動を抑え、印刷ユニット入口のテンションを安定させる為の装置であり、ダンサーローラ2bを駆動する駆動装置をそなえるが、このフローティングローラ7は特に駆動装置はついておらず(単なる振り子ローラ)、単に、テンション変動を吸収するための装置である。しかし、ウェブパス長を変化させる点では、ダンサーローラ2b及びインフィードローラ2aと共通する。
【0072】
したがって、ウェブ10の所要の箇所に対して白色インキの供給といった下地処理をする場合、下地処理をした印刷位置の位相がウェブパス長の変化によって生じる印刷位置の位相ズレを防ぐために、白色インキ供給装置(下地処理剤供給装置)4を、ウェブパス長を変化させる装置であるフローティングローラ7よりも下流に配置している。
このような構成によっても、第1,2実施形態と同様に、水性の白色インキを下地処理剤として用いることで環境保全等に寄与し、しかも、水性の下地処理剤を用いる場合に生じ易い印刷用紙のカールの発生を抑制することができる。また、印刷インキに白色インキによる濁り等が生じることなく印刷インキによる印刷が行なわれるようになって、高白色度の下地を利用して再現したい色調の印刷を実現できるようになるという効果も得られる。
【0073】
なお、「ウェブパス長を変化させる装置」が複数ある場合は、給紙部から1色目のブランケット胴のニップ部までのうち、より下流側に位置する「ウェブパス長を変化させる装置」よりも下流側に白色インキ供給装置(下地処理剤供給装置)4を配置することが好ましい。
【0074】
〔その他〕
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はかかる構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、かかる構成を適宜変更して実施することができるものである。
【0075】
例えば、上記の実施の形態では、新聞輪転機を例に説明したが、本発明は新聞輪転機に限らずオフセット印刷機に広く適用しうる。
また、下地処理剤として、白色インキを用いているが、白色度を向上させる場合にも、例えば脱色剤等の白色インキ以外の白色度向上剤を用いても良い。脱色剤を用いる場合には、印刷機上では洗浄工程は実施し難いため、この脱色剤は新聞紙の着色成分と自分自身が昇華(あるいは蒸発)するような薬剤であることが要求される。
【0076】
また、下地処理を行なう対象の印刷用紙は、新聞用紙のような低白色度の印刷用紙に限らない。当然ながら、下地処理剤も白色度向上剤に限るものではなく、例えば透明インキ(例えばニスなど)をはじめとした用紙表面の平滑性を向上させるものや、例えば金属成分を含有するインキや、反射率向上剤といった明度(白色度とは異なる)を向上させるものなども適用できる。
【0077】
また、下地処理剤として、白色以外の特色インキ、つまり、シアン,マゼンタ,イエローの基本インキ色及び白色,黒色のインキ色以外のインキ色の特色インキを用いることも考えられる。このような特色インキの下地への適用は、色彩の表現バリエーションが大幅に増加し、極めて印象の高い発色も可能になるため、特に、広告に採用することで、広告効果の向上に寄与しうる。
【0078】
また、下地処理剤を複数用いるようにしてもよい。つまり、白色インキ供給装置4のような下地処理剤供給装置を複数設けて、それぞれ異なる下地処理を行なう。これによれば、例えば、同一紙面上に白色度の向上とその他の色の明度の向上や表面平滑化等の異なる下地処理を実施することができ、印刷に対するさまざまな要求に対応することができる。
また、上記の実施形態では、印刷面における写真箇所や広告箇所については、白色インキ(下地処理剤)を全領域に供給しているが、写真箇所や広告箇所の中の必要な箇所のみに白色インキ(下地処理剤)を部分的に供給してもよい。つまり、下地がほとんどでない領域には下地処理を施さないようにする。これにより、より効率よく下地処理を行なえ、処理コストをさらに抑制することができる。なお、この場合も、下地処理の輪郭は大きめに取って、インキにより下地がほとんどない領域の境界部分にも下地処理を行なうようにして、下地処理しない箇所が露出しないようにすることが好ましい。
【0079】
また、上記の実施形態では、乾燥処理部4Cに加熱装置5a,5bを装備したが、前述のように、白色インキ等の下地処理剤が速乾性のものであって常温で短期間に乾燥するものであれば、乾燥処理部4Cの具体例として、乾燥処理部4Cを、加熱装置を装備しない単なるスペース、すなわち自然乾燥(または常温乾燥)区間とすることも可能である。
また、水分供給部として、印刷面の反対面から高温蒸気の形で水分を供給する高温蒸気供給部(高温蒸気供給装置)を装備すれば、高温蒸気の供給によって印刷面の反対面に水分が供給され印刷用紙のカールを防止すると同時に、高温蒸気の熱によって水性下地処理剤の乾燥を促進する効果もあり、乾燥処理部4Cを不要とすることもでき、極めて効率的である。
【0080】
また、本実施形態では、水分供給部4Bを下地処理剤供給部4Aと対向させて、印刷用紙の走行方向の同位置に配置しているが、水分供給部4Bを下地処理剤供給部4Aよりもウェブ走行方向の下流側(もちろん、印刷部の1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側)に配置することも可能である。
このような配置構成例として、印刷用紙の走行方向の同位置に、印刷用紙の両面にそれぞれ下地処理剤供給部を対向させて配置し、さらに、その下流の印刷用紙の走行方向の同位置に、印刷用紙の両面にそれぞれ水分供給部を対向させて配置する構成が考えられる。かかる構成によれば、両下地処理剤供給部による印刷用紙の両面への下地処理剤供給を何れも行なう場合や何れも行なわない場合には、その下流の各水分供給部による水分供給は行なわず、両下地処理剤供給部の一方による印刷用紙の一方の面への下地処理剤供給のみを行なう場合には、印刷用紙の他方の面への水分供給のみを行なうように対応する水分供給部を作動させればよい。
【0081】
特に、印刷用紙のカールの発生は、印刷用紙の一方の面にのみ供給した水性の下地処理剤の溶媒としての水分が、紙の繊維を一旦膨潤させその後収縮させるために起こり、本発明における水性下地処理剤の供給面の裏面に水分を供給するのは、裏面に供給した水分が、水性下地処理剤の供給面と同様に、紙の繊維を一旦膨潤させその後収縮させる作用を利用するものである。
【0082】
特に、裏面の紙繊維の収縮がカール防止に効果があると考えられる。また、この収縮作用は、水分を急激に蒸発させるほど強く起こるものと考えられる。水分の蒸発という点では、水性下地処理剤を供給した印刷面と水分を供給したその裏面とを比べると、水性下地処理剤を供給した印刷面の紙面内に浸入した水分は、印刷面の表面に存在する下地処理剤中の顔料21やバインダー樹脂22によって邪魔されるため、水分のみ或いは主として水分を供給された裏面よりも水分は蒸発し難いものと考えられる。
【0083】
したがって、自然乾燥の場合や両面を同程度に加熱処理するなど、水性下地処理剤供給面と水分供給面とで同条件で乾燥が進む条件下では、水分供給面の水分蒸発の方が速やかに進みやすい。この点で、水分供給が水性下地処理剤供給よりも下流側で実施されれば、水性下地処理剤供給面と水分供給面とで接近した水分状態となって、紙繊維の収縮を同程度に調整しやすい効果がある。
【0084】
また、可能な限り少ない水分供給でカールを防止することも可能と考えられる。つまり、裏面に供給した水分を加熱等によってより急激に乾燥させれば、紙繊維の収縮作用が強く発生し、裏面に少ない水分を供給しながらもカールを抑えることができる。こうした急激に乾燥を行なう場合にも、印刷用紙が印刷部に進入する段階では、印刷用紙で水分状態が略均等であることが好ましい。このような点を考慮すると、水分供給を水性下地処理剤供給よりも下流側で実施する方が有効であると考えられる。
【0085】
何れにしても、カール防止には、水分供給とその後の乾燥処理(水分を蒸発させる処理)とが共に寄与するので、これらを考慮して、水分供給位置、水分供給量、乾燥処理の手法を選定することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるオフセット印刷機の要部構成を示す説明図である。
【図2】本発明の各実施形態にかかる印刷用紙の印刷面へ供給した下地処理剤及びその裏面へ供給した水分の乾燥に関する概念図印であり、(a)は下地処理剤及び水分の乾燥前の状態を示し、(b)は下地処理剤及び水分の乾燥進行後の状態を示す。
【図3】本発明の第1実施形態にかかる新聞用紙の印刷面を示す正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態にかかるオフセット印刷機による印刷方法を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態にかかる効果を説明する斜視図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかるオフセット印刷機の要部構成を示す説明図である。
【図7】本発明の第3実施形態にかかるオフセット印刷機の要部構成を示す説明図である。
【図8】本発明の課題を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0087】
1 給紙部
1a 巻取紙
2 インフィード部
2a インフィードローラ
2b ダンサーローラ
3a,3b,3c ガイドローラ
4 下地処理剤供給装置
4A 下地処理剤供給部
4B 水分供給部
4C 乾燥処理部
4a 下地処理剤供給ロール
4c 水分供給ロール
4b,4d 版胴
5a,4b 加熱装置
6 印刷部(印刷装置)
7 フローティングローラ
10 印刷用紙としての新聞用紙(ウェブ)
11a,11b 印刷面(印刷ページ)
12 記事を印刷する箇所
13 写真の印刷箇所
14 広告の印刷箇所
15 水分供給箇所
20 下地処理剤
21 着色剤としての顔料
22 バインダー樹脂
23 溶媒(水分)
30 水分付与液
31 水分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフセット印刷機による印刷方法であって、
少なくとも印刷用紙の印刷面に水性の下地処理剤を供給する下地処理剤供給ステップと、
その後、前記印刷面にオフセット印刷を行なう印刷ステップと、をそなえ、
前記下地処理剤供給ステップと同時もしくはその後であって、前記印刷ステップよりも前に、前記印刷面の裏面に水分を供給する水分供給ステップをそなえている
ことを特徴とする、オフセット印刷機による印刷方法。
【請求項2】
前記水性下地処理剤は、少なくとも白色顔料を含有している
ことを特徴とする、請求項1記載のオフセット印刷機による印刷方法。
【請求項3】
前記印刷用紙は低白色度印刷用紙であって、前記オフセット印刷機は新聞輪転機である
ことを特徴とする請求項1又は2記載のオフセット印刷機による印刷方法。
【請求項4】
前記下地処理剤供給ステップと前記印刷ステップとの間に、前記印刷面を乾燥処理する印刷面乾燥ステップをそなえている
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のオフセット印刷機による印刷方法。
【請求項5】
前記水分供給ステップと前記印刷ステップとの間に、前記裏面を乾燥処理する裏面乾燥ステップをそなえている
ことを特徴とする、請求項4記載のオフセット印刷機による印刷方法。
【請求項6】
印刷用紙にオフセット印刷を行なう印刷機であって、
印刷部の1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側に設置され、前記印刷用紙の印刷面に水性の下地処理剤を供給する下地処理剤供給部と、
前記1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側であって、前記下地処理剤供給部の設置箇所若しくは該設置箇所よりも下流側に設置され、前記印刷用紙の前記印刷面の裏面に水分を供給する水分供給部と、をそなえている
ことを特徴とする、オフセット印刷機。
【請求項7】
前記水性下地処理剤は、少なくとも白色顔料を含有している
ことを特徴とする、請求項6記載のオフセット印刷機。
【請求項8】
前記印刷用紙は低白色度印刷用紙であって、新聞を印刷する新聞輪転機として構成されている
ことを特徴とする、請求項6又は7記載のオフセット印刷機。
【請求項9】
前記1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側であって、前記下地処理剤供給部よりも下流側に、前記印刷面を乾燥させる印刷面乾燥部をそなえている
ことを特徴とする、請求項6〜8の何れか1項に記載のオフセット印刷機。
【請求項10】
前記1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側であって、前記水分供給部よりも下流側に、前記裏面を乾燥させる裏面乾燥部をそなえている
ことを特徴とする、請求項9記載のオフセット印刷機。
【請求項11】
印刷用紙の両面にオフセット印刷を行なう印刷機であって、
印刷部の1色目のブランケット胴ニップ部よりも上流側に設置され、前記印刷用紙の一方の印刷面に水性の下地処理剤と水分とを選択して供給する第1供給部と、
前記下地処理剤供給部と対向するように配置され、前記印刷用紙の他方の印刷面に水性の下地処理剤と水分とを選択して供給する第2供給部と、をそなえている
ことを特徴とする、オフセット印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−273032(P2008−273032A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119655(P2007−119655)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】