オフセット印刷用インキ組成物の製造方法
【課題】 従来の方法よりも省エネルギー化につながり、かつ生産性を大幅に向上させることができるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 オフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、移行工程と、顔料分散物作製工程とを含む。移行工程では、100℃以上180℃以下の油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、顔料を油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る。顔料分散物作製工程では、顔料油成分湿潤物を、脱水し、油成分に樹脂成分を溶解させて顔料分散物を作製する。
【解決手段】 オフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、移行工程と、顔料分散物作製工程とを含む。移行工程では、100℃以上180℃以下の油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、顔料を油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る。顔料分散物作製工程では、顔料油成分湿潤物を、脱水し、油成分に樹脂成分を溶解させて顔料分散物を作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、印刷版上に供給された、高粘度のペースト状のインキを、ゴムブランケットなどの中間転写体に転写した後、紙などの被印刷体に印刷することを特徴とした印刷方式である。そして、オフセット印刷は、高精細かつ鮮明な画像の印刷物を短時間で大量に印刷することができることから、商業印刷や新聞印刷などの分野で広く用いられており、印刷方式の代表的なものとなっている。この印刷方式で使用されるオフセット印刷用インキ組成物は、顔料、樹脂成分、油成分および添加剤などを含んで構成されている。
【0003】
一般的なオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、たとえば特許文献1に開示されているように、撹拌装置を用いて油成分中に樹脂を溶解させて樹脂ワニスを得るワニス化工程と、撹拌装置を用いて顔料と樹脂ワニスとを撹拌混合して顔料分散用混合物を得るプレミキシング工程と、3本ロールミルやビーズミルなどの分散装置を用いて顔料分散用混合物を分散処理して顔料分散物を得る分散工程と、ディスパーなどの撹拌装置を用いて顔料分散物と残余のインキ用材料(粘度調整用のワニスなど)とを撹拌混合してオフセット印刷用インキ組成物を得る後添加工程とを含む。
【0004】
特許文献1に開示のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法によれば、これら複数の工程を組み合わせることによって、顔料が微細に分散されたオフセット印刷用インキ組成物を得ることができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、顔料を微細に分散させるために、多くのエネルギーおよび手間を必要とし、また製造時間が長くなって生産性を低下させることから、改善すべき点がある。
【0006】
オフセット印刷用インキ組成物の製造において、顔料としては、たとえば、顔料の粒子同士が強固に凝集した、乾燥状態の顔料が用いられる。乾燥状態の顔料は、水系で製造された微細な顔料の一次粒子を濾過用の袋などの中に入れて水分を絞った後、熱などを利用して乾燥させる工程を経て製造され、この工程で、顔料の粒子同士が強固に凝集する。顔料の粒子同士が強固に凝集していることから、顔料が微細に分散されたオフセット印刷用インキ組成物を得るためには、オフセット印刷用インキ組成物の製造時に、顔料に、微細な一次粒子まで分散させることができる力を付与することと、一旦分散した顔料の粒子が再凝集することを防ぐことが必要である。
【0007】
顔料を一次粒子まで分散させるためには、顔料を充分に湿潤させることが必要である。しかしながら、顔料を湿潤させる材料として、予め、油成分に樹脂を溶解して得られる樹脂ワニスを利用する従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、顔料と樹脂ワニスとを撹拌混合したとき、樹脂ワニスによって顔料が充分に湿潤するまでに時間がかかる。
【0008】
この理由としては、高粘度のペースト状のオフセット印刷用インキ組成物の材料であり、高粘度に仕上げられる樹脂ワニスが、表面が凸凹の顔料粒子の凝集体の内部に浸透しにくいためである。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在する空気が、高粘度の樹脂ワニスによって移動を妨げられて気泡になり、このようにして発生した気泡が顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在することによって顔料粒子の凝集体の内部に樹脂ワニスがさらに浸透しにくくなるためである。なお、この気泡によって、前記分散工程において顔料に付与された力が低減されるので、顔料に、微細な一次粒子まで分散させることができる力を付与することが困難となる。
【0009】
一旦分散した顔料粒子が再凝集することを防ぐためには、顔料粒子の表面に、油成分に溶解した樹脂が吸着することが必要である。樹脂が吸着していない顔料粒子は、一旦分散されたとしても、分散状態が不安定であるため、再凝集しやすい。しかしながら、前述のようにして顔料粒子の凝集体の表面および内部に発生した気泡は、油成分に溶解した樹脂が顔料表面に吸着することを妨げる原因となる。
【0010】
このように、樹脂ワニスの顔料粒子の凝集体内部への浸透、および樹脂の顔料粒子表面への吸着を阻害する気泡を顔料粒子の凝集体の表面から除去するためには、前記プレミキシング工程において、撹拌装置による撹拌時間を長くし、また、前記分散工程において、分散装置でより多くの力を顔料に付加して長時間の分散処理を行う必要があり、その結果、撹拌装置および分散装置を稼働させるためのエネルギーおよび手間が多く必要となるとともに、製造時間が長くなる。
【0011】
このような問題を解決するため、特許文献2には、水性顔料スラリーを、油成分および樹脂ワニスなどの水中に混和しない非顔料インク成分と混合する工程を含む印刷用インクの製造方法が開示されている。特許文献2に開示の印刷用インクの製造方法によれば、水性顔料スラリーは、乾燥状態の顔料よりも顔料粒子同士の凝集力が弱いので、顔料を容易に分散させて、顔料の分散に必要なエネルギーの削減等を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−169464号公報
【特許文献2】特表2008−542480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献2に開示の印刷用インクの製造方法であっても、顔料を一次粒子まで分散させ、かつ顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在する気泡を除去するために必要な撹拌時間を充分に短縮することができないので、生産性を大幅に向上させることができず、また、顔料の分散に必要なエネルギーを充分に削減することができない。
【0014】
したがって本発明の目的は、従来の方法よりも省エネルギー化につながり、かつ生産性を大幅に向上させることができるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、前記顔料を前記油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る移行工程と、
前記顔料油成分湿潤物に樹脂成分を添加して、樹脂成分混合物を得る樹脂成分添加工程と、
前記樹脂成分混合物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る脱水工程と、
前記脱水物を、加熱下で撹拌混合することによって、前記脱水物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料分散物を得る樹脂成分溶解工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法である。
【0016】
また本発明は、顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、前記顔料を前記油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る移行工程と、
前記顔料油成分湿潤物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る脱水工程と、
前記脱水物に樹脂成分を添加して、樹脂成分混合物を得る樹脂成分添加工程と、
前記樹脂成分混合物を、加熱下で撹拌混合することによって、前記樹脂成分混合物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料分散物を得る樹脂成分溶解工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法である。
【0017】
また本発明によれば、前記樹脂成分添加工程において前記油成分湿潤物に添加する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われ、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記脱水工程では、加熱および減圧下で、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら、前記樹脂成分混合物を脱水し、
前記樹脂成分溶解工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、前記脱水物を撹拌混合し、前記脱水物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、前記樹脂成分添加工程において前記脱水物に添加する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われ、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記脱水工程では、加熱および減圧下で、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させながら、前記顔料油成分湿潤物を脱水し、
前記樹脂成分溶解工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら油成分中に溶解させることを特徴とする。
【0019】
また本発明によれば、前記回転軸は、前記タンクの中心軸線と同一直線上にある軸線まわりに回転駆動され、
前記カッター羽根は、
前記ブレードの、最外周縁部の先端部における回転直径が、タンクの内径に対して30〜80%であり、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程において、前記ブレードは、ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で回転駆動されることを特徴とする。
【0020】
また本発明によれば、前記ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜した第1ブレードと、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して他方側に離反するように傾斜した第2ブレードと、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行な第3ブレードとを含んで構成され、
前記第1および第2ブレードは、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部に連なっており、
前記第1、第2および第3ブレードの回転方向下流側に臨む縁辺部は、回転方向下流側に臨んで先細状に形成されていることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、前記樹脂成分溶解工程の後工程として、前記顔料分散物にゲル化剤を添加し、前記樹脂成分をゲル化させるゲル化工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、移行工程と、樹脂成分添加工程と、脱水工程と、樹脂成分溶解工程と、を含む。移行工程では、100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、顔料を油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る。樹脂成分添加工程では、顔料油成分湿潤物に樹脂成分を添加して樹脂成分混合物を得る。脱水工程では、樹脂成分混合物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る。樹脂成分溶解工程では、脱水物を、加熱下で撹拌混合することによって、脱水物中の樹脂成分を油成分中で溶解させて顔料分散物を得る。
【0023】
100℃以上180℃以下という高温に予め加熱された油成分は粘度が低いので、移行工程で、油成分を、油成分中に移行させた顔料粒子の凝集体の表面および内部に速やかに浸透させることができるとともに、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができる。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができるので、樹脂成分溶解工程で、顔料粒子表面に、油成分に溶解した樹脂成分を吸着させることができ、一旦分散した顔料粒子の再凝集を防止することができる。したがって、顔料を微細に分散させるためのエネルギーおよび手間を低減することができるとともに、製造時間を短縮することができるので、生産性を大幅に向上させることができる。
【0024】
本発明によれば、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、移行工程と、脱水工程と、樹脂成分添加工程と、樹脂成分溶解工程と、を含む。移行工程では、100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、顔料を油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る。脱水工程では、顔料油成分湿潤物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る。樹脂成分添加工程では、脱水物に樹脂成分を添加して樹脂成分混合物を得る。樹脂成分溶解工程では、樹脂成分混合物を、加熱下で撹拌混合することによって、樹脂成分混合物中の樹脂成分を油成分中で溶解させて顔料分散物を得る。
【0025】
100℃以上180℃以下という高温に予め加熱された油成分は粘度が低いので、移行工程で、油成分を、油成分中に移行させた顔料粒子の凝集体の表面および内部に速やかに浸透させることができるとともに、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができる。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができるので、樹脂成分溶解工程で、顔料粒子表面に、油成分に溶解した樹脂成分を吸着させることができ、一旦分散した顔料粒子の再凝集を防止することができる。したがって、顔料を微細に分散させるためのエネルギーおよび手間を低減することができるとともに、製造時間を短縮することができるので、生産性を大幅に向上させることができる。
【0026】
また本発明によれば、脱水工程および樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われる。顔料成分添加工程では、塊状態の固形樹脂を含む樹脂成分を添加する。樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことによって、樹脂成分がタンク投入時に飛散することを抑制することができる。タンクの内部空間に設けられる撹拌羽根は、回転軸に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根である。脱水工程では、加熱および減圧下で、カッター羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させることによって、樹脂成分混合物を撹拌混合し、塊状態の固形樹脂を粉砕するので、後の樹脂成分溶解工程では、加熱温度を低下させ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。
【0027】
また本発明によれば、脱水工程および樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われる。顔料成分添加工程では、塊状態の固形樹脂を含む樹脂成分を添加する。樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことによって、樹脂成分がタンク投入時に飛散することを抑制することができる。タンクの内部空間に設けられる撹拌羽根は、回転軸に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根である。脱水工程では、加熱および減圧下で、カッター羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させながら、顔料油成分湿潤物を脱水する。樹脂成分溶解工程では、カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させることによって、樹脂成分混合物を撹拌混合し、樹脂成分混合物中の塊状態の固形樹脂を粉砕するので、加熱温度を低下させ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。
【0028】
また本発明によれば、タンクの内部空間に設けられるカッター羽根は、基部とブレードとを含んで構成されている。基部は、タンクの中心軸線と同一直線上にある軸線まわりに回転駆動される回転軸に垂直に固定される円板状の部分である。ブレードは、最外周縁部の先端部における回転直径がタンクの内径に対して30〜80%となるように形成されている。そして、脱水工程および樹脂成分溶解工程では、ブレードは、ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が10m/s以上となる速度で、カッター羽根が回転駆動される。
【0029】
脱水工程および樹脂成分溶解工程では、タンクの内径に対して所定の回転直径を有するブレードを含むカッター羽根を、所定の周速度で回転駆動させるので、タンク内に収容されるインキ用材料に充分なせん断力を付与することができる。そのため、脱水工程では、タンク内に収容されるインキ用材料を速やかに脱水することができる。また、樹脂成分溶解工程では、タンク内に収容されるインキ用材料の撹拌混合時における加熱温度を低下させても、油成分中に樹脂を溶解させることができるので、熱による樹脂成分の劣化を抑制することができる。
【0030】
また本発明によれば、タンクの内部空間に設けられるカッター羽根は、基部と第1ブレードと第2ブレードと第3ブレードとを含んで構成されている。基部は、回転駆動される回転軸に垂直に固定される円板状の部分である。第1ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜したブレードである。第2ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して他方側に離反するように傾斜したブレードである。第3ブレードは、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行なブレードである。
【0031】
脱水工程では、基部の回転面に対して一方側および他方側に離反するように傾斜した第1および第2ブレードと、基部の回転面に平行な第3ブレードとを有するカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合するので、タンク内に収容されるインキ用材料に大きなせん断力を付与することができ、タンク内に収容されるインキ用材料を速やかに脱水することができる。また、樹脂成分溶解工程では、タンク内に収容されるインキ用材料の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。したがって、樹脂成分溶解工程において、熱による樹脂成分の劣化をさらに抑制することができるとともに、熱エネルギーロスを少なくすることができる。
【0032】
また、カッター羽根は、前記第1および第2ブレードが、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部に連なっている。このように構成されたカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合する脱水工程では、カッター羽根が回転駆動されるときに、タンク内に収容されるインキ用材料に対して撹拌流が作用する。そのため、タンク内に収容されるインキ用材料は、タンク内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合されるので、タンク内に収容されるインキ用材料の脱水効率を向上することができる。また、樹脂成分溶解工程では、タンク内に収容されるインキ用材料の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。
【0033】
また本発明によれば、樹脂成分溶解工程の後工程として、顔料分散物にゲル化剤を添加し、樹脂成分をゲル化させるゲル化工程を含む。樹脂成分をゲル化することによって、得られるオフセット印刷用インキ組成物のインキ性状および印刷適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】撹拌装置100の構成を示す図である。
【図2】撹拌装置100に備えられるカッター羽根10の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明の実施の一形態であるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法において用いられる撹拌装置100の構成を示す図である。本発明の実施の一形態であるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、減圧脱水装置30が接続された撹拌装置100を用いて行われ、移行工程と、顔料分散物作製工程と、ゲル化工程と、後添加工程とを含む。
【0036】
(移行工程)
移行工程は、撹拌装置100を用いて行われる工程であり、タンク20に油成分を投入して100℃以上180℃以下、好ましくは130℃まで加熱した後、100℃以上180℃以下の温度下で油成分が撹拌混合されているタンク20に、水と顔料とを含む含水顔料を投入し、カッター羽根10を回転軸23の軸線まわりに回転駆動させて、50〜150℃の温度下で、約3〜30分間撹拌混合することによって、含水顔料中の顔料を油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る。なお、顔料は、表面が親油性であることから、油成分中に移行する。
【0037】
含水顔料に対する油成分の使用量は、含水顔料中の顔料100質量部に対して50〜400質量部、好ましくは100〜400質量部である。
【0038】
含水顔料は、水および顔料を含むものであり、含水顔料としては、オフセット印刷用インキ組成物の顔料成分として常用される含水顔料を用いることができる。
【0039】
含水顔料に含まれる顔料としては、無色または有色の、無機顔料または有機顔料を挙げることができる。
【0040】
具体的には、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、磁性酸化鉄などの無機顔料、アゾ顔料、レーキ顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料などの有機顔料、およびカーボンブラックなどが挙げられる。
【0041】
含水顔料は、水系で顔料の材料成分を化学反応させて製造した微細な顔料の一次粒子を、濃縮のために濾過用の袋などの中に入れて水分を絞る(フィルタープレス)ことによって、または、フィルタープレス後に、熱などを利用して乾燥させて得られる、ウェットケーキまたはプレスケーキと呼ばれる含水顔料として製造される。
【0042】
含水顔料の含水率は、30質量%以上80質量%以下である。含水率が30質量%未満の含水顔料を用いた場合、顔料が、微細な一次粒子まで分散されにくくなる。含水率が80%を超える含水顔料を用いた場合、高い顔料濃度を有する顔料分散物が得られにくくなる。
なお、含水顔料の含水率は、以下のようにして求められる。
【0043】
適量(10〜20g)の含水顔料を秤量皿に取り、130℃のオーブン内に1時間放置した後、重量を測定する。放置したことによって含水顔料の重量は減少しており、この減少した重量を、含水顔料に含まれていた水の重量とする。放置する前の含水顔料の重量に対する、含水顔料に含まれていた水の重量の割合を、含水顔料の含水率とする。
【0044】
油成分としては、オフセット印刷用インキ組成物の油成分として常用される油成分を用いることができ、植物油成分、鉱物油成分等が使用できる。植物油成分を単独で用いてもよく、鉱物油成分を単独で用いてもよく、植物油成分と鉱物油成分とを併用して用いてもよい。
【0045】
植物油成分としては、植物油および/または植物油由来の脂肪酸エステルが好適である。植物油としては、大豆油、綿実油、亜麻仁油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油などの乾性油または半乾性油が例示できる。また、植物油由来の脂肪酸エステル化合物としては、上記植物油由来の脂肪酸のモノアルキルエステル化合物が挙げられる。上記脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和または不飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などが例示できる。脂肪酸モノエステルを構成するアルコール由来のアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシルなどのアルキル基が例示できる。
【0046】
これら植物油や植物油由来の脂肪酸エステルからなる植物油成分は、要求される溶解性や性能に応じて、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい植物油成分は、大豆油および/または大豆油脂肪酸エステルである。
【0047】
鉱物油成分としては、水と相溶しない沸点が180℃を超える、好ましくは沸点200℃以上の非芳香族系石油溶剤が使用できる。非芳香族系石油溶剤の具体例としては、0号ソルベント、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号(以上、いずれも新日本石油株式会社製)などが挙げられる。これら鉱物油成分は、要求される溶解性や性能に応じて、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
高粘度の樹脂ワニスを利用する従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、樹脂ワニスの粘度が高いので、樹脂ワニスによって顔料を充分に湿潤させるまでに時間がかかる。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在する気泡を除去するために、エネルギーおよび手間が多く必要で、製造時間がかかるために、生産性が低下する。
【0049】
また、水性顔料スラリーを、油成分などの水中に混和しない非顔料インク成分と混合する従来のオフセット印刷用インク組成物の製造方法は、非顔料インク成分が充分に低粘度ではないので、顔料粒子を一次粒子まで分散させるために必要な撹拌時間を充分に短縮することができず、生産性を大幅に向上させることができない。また、顔料の分散に必要なエネルギーを充分に削減することができない。
【0050】
本実施形態のように、移行工程で、100℃以上180℃以下と高温であるために充分に低粘度である油成分に、含水顔料を添加して撹拌混合することによって、油成分が、顔料粒子の凝集体の表面および内部からの毛細管圧や親和性の影響を大きく受けるので、油成分が顔料粒子の凝集体の内部へ浸透しやすくなる。そのため、油成分で顔料を速やかに湿潤させることができるとともに、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができ、仮に顔料粒子の凝集体の表面および内部に空気が存在していたとしても、速やかに油成分と置き換わり、系外に空気を排出することができる。このように気泡が除去されると、後述の顔料分散物作製工程において、油成分中に溶解した樹脂成分が、顔料粒子の表面に吸着することによって、顔料粒子の分散安定性が高まるので、一旦分散した顔料粒子が再凝集することを防止できる。
【0051】
したがって、顔料を微細に分散させるためのエネルギーおよび手間を充分に低減することができるとともに、製造時間を短縮することができるので、生産性を大幅に向上させることができる。
【0052】
また、樹脂ワニスを利用する従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、樹脂成分を油成分中に溶解させるための設備と熱エネルギーとを必要とするが、本実施形態では、そのような設備が不要になる。そのため、従来の方法よりも設備および生産コストがかからない。
【0053】
なお、100℃未満の温度下で油成分が撹拌混合されているタンク20に含水顔料を投入すると、油成分が充分に低粘度ではないので、油成分で顔料を速やかに湿潤させることができない。180℃を超える温度下で油成分が撹拌混合されているタンク20に含水顔料を投入すると、含水顔料に含まれる水の突沸を招きやすくなるので、安全性の面で好ましくなく、また、含水顔料中の顔料が油成分中に移行する前に、含水顔料に含まれる水が揮発するので、顔料の凝集が発生して、着色力(濃度)および色相に悪影響がでる。さらに、鉱物油成分(AFソルベント)などの沸点の比較的低い油成分が不必要に揮発する問題がある。
【0054】
ここで、移行工程、後述する顔料分散物作製工程および後述するゲル化工程で用いられる撹拌装置100について、図1を用いて説明する。図1は、撹拌装置100の構成を示す図である。撹拌装置100は、タンク20の内部空間に、撹拌羽根であるカッター羽根10が設けられて構成される。
【0055】
タンク20は、底面が円弧状の有底筒状に形成されたものであり、ステンレス鋼などの金属材料によって構成されている。撹拌装置100では、タンク20の外周面を覆うように加熱手段24が設けられており、この加熱手段24は、水などの流体が流体供給口24aから流体排出口24bに向けて流過することによって、タンク20内の温度を制御可能に構成されている。また、タンク20の内部空間には、内周面と所定の間隔をあけて対向するようにバッフルプレート25が配設され、タンク20内に投入されるインキ用材料が撹拌混合されるときの流れ方向および流速が制御される。また、タンク20の上縁端部には、着脱自在の蓋体26が設けられ、蓋体26が装着された状態では、タンク20内が密閉空間となる。
【0056】
そして、タンク20の底面中央部には、ゲル化工程において作製される、ゲル化された顔料分散物が、タンク20内から排出されるときの流過開口となるタンク排出口21が設けられる。
【0057】
さらに、タンク20の上方側面には、その内部を減圧することで、顔料分散物作製工程において樹脂成分混合物を脱水することができる減圧脱水装置30と接続される接続口22が設けられる。
【0058】
撹拌装置100には、タンク20の中心軸線と同一直線上となる軸線まわりに、駆動モータ27により回転駆動される回転軸23が、蓋体26を貫通して設けられ、この回転軸23の延在方向端部近傍に、カッター羽根10が固定されている。
【0059】
なお、移行工程および後述する顔料分散物作製工程では、ディスパーやフラッシャー(ニーダー)が内部空間に設けられた撹拌装置が用いられてもよい。
【0060】
(顔料分散物作製工程)
顔料分散物作製工程は、撹拌装置100を用いて行われる工程であり、移行工程で得られた顔料油成分湿潤物を、脱水し、油成分に樹脂成分を溶解させて顔料分散物を作製する工程である。本実施形態では、顔料分散物作製工程は、樹脂成分添加工程と、脱水工程と、樹脂成分溶解工程とを含む。
【0061】
<樹脂成分添加工程>
樹脂成分添加工程では、移行工程で得られた顔料油成分湿潤物を撹拌混合しているタンク20に、樹脂成分を投入し、樹脂成分混合物を得る。
【0062】
樹脂成分としては、オフセット印刷用インキ組成物の樹脂成分に常用的に使用される樹脂を用いることができ、顔料分散用樹脂およびバインダー樹脂に分けられる。
【0063】
顔料分散用樹脂としては、低粘度化を図れるものを好ましく用いることができ、植物油変性アルキッド樹脂などのアルキッド樹脂、ギルソナイト樹脂(天然アスファルタムから抽出された軟化点120〜125℃の炭化水素樹脂も含む)、顔料分散剤などを挙げることができる。
【0064】
バインダー樹脂としては、たとえば、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、フェノールを含有しないポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂等を挙げることができる。
【0065】
バインダー樹脂は、粒子径が3mm程度に粉砕された粉砕樹脂、粒子径が10〜500mm程度の塊状態の固形樹脂などの形態をとり、樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことが好ましい。樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことによって、樹脂成分がタンク投入時に飛散することを抑制することができる。なお、バインダー樹脂として粉砕樹脂が用いられる場合、顔料分散物作製工程では、フラッシャー(ニーダー)が内部空間に設けられた撹拌装置が用いられてもよい。
【0066】
樹脂成分の使用量は、顔料の種類などによって変わるが、含水顔料中の顔料100質量部に対して、30〜300質量部が好ましい。
【0067】
<脱水工程>
脱水工程では、減圧脱水装置30によってタンク20内を減圧し、カッター羽根10を回転軸23の軸線まわりに回転駆動させ、樹脂成分混合物を、30〜100℃の温度下で撹拌混合することによって、塊状態の固形樹脂を粉砕するとともに、樹脂成分混合物の含水率が2質量%以下になるまで脱水する。これによって、脱水物が得られる。なお、黄色の顔料は、温度によって色相に大きな影響がでるので、黄色の顔料を用いる場合には、40〜60℃程度で脱水することが好ましい。
【0068】
樹脂成分混合物の含水率は、たとえばカールフィッシャー水分計で測定することができる。
【0069】
脱水工程でのタンク20内における樹脂成分混合物の脱水は、温度が30〜100℃程度となる圧力31.8〜760mmHgの条件で行う。熱の影響を受けやすい顔料、たとえば黄色の顔料を含む含水顔料を用いる場合、脱水工程でのタンク20内における樹脂成分混合物の脱水は、温度が40〜60℃程度となる圧力55.3〜149mmHgの条件で行うことが好ましい。
【0070】
<樹脂成分溶解工程>
樹脂成分溶解工程では、カッター羽根10を回転軸23の軸線まわりに回転駆動させ、脱水物を、好ましくは80〜200℃、より好ましくは80〜150℃の温度下で、15〜120分間撹拌混合することによって、油成分中に樹脂成分を溶解させて顔料分散物を得る。
【0071】
80〜200℃の温度下で撹拌混合することによって、樹脂成分と油成分との間でエステル交換反応が起こるのを防止して、樹脂成分の低分子量化を抑制することができるとともに、短時間で油成分中に樹脂成分が溶解された顔料分散物を得ることができる。
【0072】
撹拌装置100に設けられる撹拌羽根であるカッター羽根10は、バインダー樹脂の形態に応じて、最適な形状が異なる。
【0073】
バインダー樹脂として、粒子径が3mm程度に粉砕された粉砕樹脂を使用する場合、この分野で常用されるディスクタービン羽根を撹拌羽根として用いても、油成分中に樹脂成分を充分に溶解させることができる。しかしながら、バインダー樹脂として、粒子径が10〜500mm程度の塊状態の固形樹脂を使用する場合、ディスクタービン羽根を用いて撹拌混合しても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができない。したがって、バインダー樹脂として塊状態の固形樹脂を用いる場合には、図2に示す形状を有するカッター羽根10を用いることが好ましい。
【0074】
図2は、撹拌装置100に備えられるカッター羽根10の構成を示す図である。図2(a)は、カッター羽根10の展開図を示し、図2(b)は、カッター羽根10の平面図を示し、図2(c)は、カッター羽根10の側面図を示す。カッター羽根10は、ステンレス鋼などの金属材料からなる部材であり、基部11と、第1ブレード12と、第2ブレード13と、第3ブレード14とを含んで構成されている。また、カッター羽根10の配設位置は、タンク20の底面から、タンク20の高さに対して10〜25%の高さ位置である。
【0075】
基部11は、タンク20の中心軸線と同一直線上にある回転軸線まわりに回転方向Aに回転駆動される回転軸23に、垂直に固定される円板状の部分であり、平面視したときの形状が正六角形である。そして、カッター羽根10では、2枚の第1ブレード12と、2枚の第2ブレード13と、2枚の第3ブレード14との合計6枚のブレードが、回転軸線に関して周方向に等間隔に、正六角形状の基部11の各辺から半径方向外方に連なるように形成されている。6枚の各ブレード12,13,14は、同じ形状および大きさに形成されており、本実施形態では、平面視したときの形状が台形である。
【0076】
また、6枚の各ブレード12,13,14において、基部11から半径方向外方に延びる延在方向の長さL2は、正六角形状の基部11の各辺の長さL1に対して、150〜300%に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10における各ブレード12,13,14の強度を、充分に確保することができる。
【0077】
2枚の第1ブレード12のそれぞれは、基部11から半径方向外方になるにつれて基部11の回転面に対して一方側に離反するように傾斜したブレードである。そして、各第1ブレード12同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。
【0078】
第1ブレード12における基部11の回転面に対する傾斜の角度θ1は、30〜50°に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、タンク20内の各工程のインキ用材料に対して撹拌流を作用させることができるのでそれぞれの工程の効率を向上させることができる。具体的には、移行工程で、顔料を油成分中に移行させるときの効率、脱水工程で、塊状態の固形樹脂を粉砕するときの効率および顔料油成分湿潤物を脱水するときの効率、樹脂成分溶解工程で、油成分中へ樹脂成分を溶解させるときの効率、および後述するゲル化工程で、樹脂成分とゲル化剤との反応効率を向上させることができる。
【0079】
また、第1ブレード12は、回転方向Aの上流側の第1上流側基端部12aが回転方向Aの下流側の第1下流側基端部12bよりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部11に連なっている。このように構成されたカッター羽根10を回転駆動させると、各工程のインキ用材料に対して撹拌流が作用する。そのため、前述した各工程の効率が向上する。
【0080】
特に脱水工程では、樹脂成分混合物が、タンク20内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合されることで、樹脂成分として塊状態の固形樹脂を用いた場合、塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上させることができる。そのため、樹脂成分溶解工程では、粉砕された固形樹脂の油成分中への溶解効率を向上させることができるので、加熱温度を低下させ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができ、熱による樹脂成分の劣化を抑制することができる。
【0081】
さらに、第1ブレード12は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部12cが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、脱水工程で、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第1ブレード12の縁辺部12cによって、塊状態の固形樹脂に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、脱水工程で、粉砕効率を向上させて塊状態の固形樹脂を粉砕することができるので、樹脂成分溶解工程では、加熱温度を200℃以下に低下させることができ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第1ブレード12の縁辺部12cの厚みは、縁辺部12c以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0082】
2枚の第2ブレード13のそれぞれは、基部11から半径方向外方になるにつれて基部11の回転面に対して他方側に離反するように傾斜したブレードである。そして、各第2ブレード13同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。
【0083】
第2ブレード13における基部11の回転面に対する傾斜の角度θ2は、30〜50°に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、タンク20内の各工程のインキ用材料に撹拌流を作用させることができ、前述した各工程の効率が向上する。
【0084】
また、第2ブレード13は、回転方向Aの上流側の第2上流側基端部13aが回転方向Aの下流側の第2下流側基端部13bよりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部11に連なっている。このように構成されたカッター羽根10を回転駆動させたときに、各工程のインキ用材料はタンク20内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合される。そのため、前述した各工程の効率が向上する。
【0085】
さらに、第2ブレード13は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部13cが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、脱水工程で、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第2ブレード13の縁辺部13cによって、塊状態の固形樹脂に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、脱水工程で、粉砕効率を向上させて塊状態の固形樹脂を粉砕させることができるので、樹脂成分溶解工程では、加熱温度を200℃以下に低下させることができ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第2ブレード13の縁辺部13cの厚みは、縁辺部13c以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0086】
2枚の第3ブレード14のそれぞれは、基部11から半径方向外方に連なり、基部11の回転面に平行なブレードである。そして、各第3ブレード14同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。そして、第3ブレード14は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部14aが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、脱水工程で、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第3ブレード14の縁辺部14aによって、塊状態の固形樹脂に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、脱水工程で、粉砕効率を向上させて塊状態の固形樹脂を粉砕させることができるので、樹脂成分溶解工程では、加熱温度を200℃以下に低下させることができ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第3ブレード14の縁辺部14aの厚みは、縁辺部14a以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0087】
以上のように、2枚の第1ブレード12と、2枚の第2ブレード13と、2枚の第3ブレード14との合計6枚のブレードが、基部11から半径方向外方に連なるように形成されたカッター羽根10では、2枚の第3ブレード14の遊端部間の長さに対応する、最外周縁部の先端部における回転直径L4が、タンク20の内径に対して30〜80%に設定される。そして、移行工程、顔料分散物作製工程、および後述するゲル化工程では、第3ブレード14の遊端部の周速度、すなわち、各ブレード12,13,14における最外周縁部の先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で、カッター羽根10が回転駆動される。各工程では、タンク20の内径に対して所定の回転直径L4を有するブレードを含むカッター羽根10を、所定の周速度で回転駆動させるので、タンク20内に収容される各工程のインキ用材料に、充分なせん断力が付与しながら撹拌流を作用させることができるので、前述した各工程の効率が向上する。
【0088】
なお、タンク20内で撹拌混合するときに用いられるカッター羽根は、前述したカッター羽根10の形状に限定されるものではない。前述したカッター羽根10は、6枚のブレードが基部11から半径方向外方に連なるように形成されたものであるが、カッター羽根のブレードの枚数としては、好ましくは3〜10枚、より好ましくは4〜8枚である。
【0089】
なお、樹脂成分添加工程は、脱水工程の後に行われてもよい。その場合、顔料分散物作製工程は、脱水工程、樹脂成分添加工程、樹脂成分溶解工程の順で行われる。塊状態の固形樹脂を用いる場合、塊状態の固形樹脂は、樹脂成分溶解工程で粉砕されながら、油成分中に溶解される。
【0090】
(ゲル化工程)
ゲル化工程は、顔料分散物作製工程で得られた顔料分散物を撹拌混合しているタンク20に、ゲル化剤を投入し、80〜150℃の温度下で、15〜120分間撹拌混合し、樹脂成分とゲル化剤とを反応させて樹脂成分をゲル化させる。ゲル化工程は、オフセット印刷用インキ組成物のインキ性状や印刷適性上行われることが好ましいが、行われなくてもよい。
【0091】
ゲル化剤としては、アルミニウムアルコラート類、アルミニウムキレート化合物等が挙げられる。好ましい具体例としては、アルミニウムトリイソプロポキシド、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート等が例示できる。
【0092】
(後添加工程)
後添加工程では、顔料分散物作製工程で得られた顔料分散物に、油成分や添加剤等を添加し、撹拌混合することによって、オフセット印刷用インキ組成物を得る工程である。
【0093】
なお、脱水工程の後、かつ樹脂成分溶解工程の前に、最終的なオフセット印刷用インキ組成物の配合となるように、油成分や添加剤を添加しておくことで、顔料分散物作製工程後の顔料分散物をそのままオフセット印刷用インキ組成物として使用することができる。
【0094】
添加剤としては、オフセット印刷用インキ組成物の成分として常用される、ドライヤー、乾燥遅延剤、酸化防止剤、整面剤、耐摩擦性向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0096】
<残渣率>
顔料分散物作製工程で得られた顔料分散物50gに溶剤(灯油:トルエン=1:1)100gを滴下しながら、ガラス棒を用いて撹拌した。これをメッシュサイズ400の金網を用いて濾過して、金網上に残った物質を回収し、60℃のオーブンで1日乾燥させた。顔料分散物作製工程で得られた顔料分散物50gに含まれる顔料の重量に対する、乾燥後の回収物質の重量の割合を残渣率として求めた。
【0097】
<樹脂成分混合物および顔料油成分湿潤物の含水率>
樹脂成分混合物および顔料油成分湿潤物の含水率(質量%)は、カールフィッシャー水分計測定方法を使用して測定した。なお、測定条件としては、樹脂成分混合物または顔料油成分湿潤物を1.0g用いて、温度25℃の条件で測定した。
【0098】
<ラレー粘度>
ラレー粘度(Pa・s/25℃)は、株式会社ケンウッド ティー・エム・アイ製のTE851を使用して測定した。
【0099】
<タック値>
タック値は、東洋精機株式会社製のインコメーターにて、30℃の条件で400rpmの回転速度にて1分値を測定した。
【0100】
<着色力>
白色のオフセット印刷用インキ組成物を、実施例1〜4、比較例1〜3のオフセット印刷用インキ組成物で着色し、黄色については比較例1、紅色については比較例2、藍色については比較例3の着色力を「100」として、相対評価した。相対評価値が高いほど着色力に優れるインキ組成物である。
【0101】
<印刷評価>
オフセット印刷用インキ組成物の印刷適性(濃度変化)は、三菱重工業株式会社製、DAIYA IE型印刷機で実際に印刷して調べた。印刷評価は、湿し水供給ダイヤルを35%、60%にした状態で印刷し、黄色については比較例1、紅色については比較例2、藍色については比較例3を基準(良好)として、印刷濃度の変化で評価した。なお、印刷条件は以下のとおりである。
【0102】
印刷条件
湿し水:サイファ TP−3(湿し水濃度1%、サカタインクス株式会社製)
印刷速度:4500枚/時
湿度/温度:25℃/60%
印刷用紙:オーロラコート紙(日本製紙株式会社製)
【0103】
(実施例1)
[移行工程]
高さ250mm、内径210mmのタンクに、油成分として亜麻仁油3質量部、大豆油10質量部、大豆油脂肪酸ブチルエステル10質量部、およびAF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)10質量部を仕込み、130℃まで昇温させた後、含水顔料(プレスケーキ状態のピグメントイエロー174、固形分30%)56.7質量部を添加し、60℃で10分間、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合し、顔料油成分湿潤物を得た。
【0104】
なお、タンク内には回転直径110mm(タンク内径に対して52%)の図2に示した6枚ブレードのカッター羽根を設置した。
【0105】
[顔料分散物作製工程]
顔料油成分湿潤物に、塊状態のロジン変性フェノール樹脂(星光ポリマー株式会社製、商品名:OR−357)33質量部を添加し、タンク内を減圧(タンク内の圧力:92.5mmHg(0.12atm))するとともに、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて加熱撹拌して、塊状態のロジン変性フェノール樹脂を粉砕しながら、含水率が2質量%以下になるまで脱水した。そして、加熱撹拌を継続して、油成分中に、粉砕されたロジン変性フェノール樹脂を含む樹脂成分を溶解させた。
【0106】
[ゲル化工程]
ゲル化剤としてアルミニウムキレート1質量部を添加して130℃で30分間反応させ、実施例1の黄色の顔料分散物を得た。
【0107】
(実施例2)
顔料をピグメントレッド57:1に変更した以外は実施例1と同様の方法により実施例2の紅色の顔料分散物を得た。
【0108】
(実施例3)
顔料をピグメントブルー15:3に変更した以外は実施例1と同様の方法により実施例3の藍色の顔料分散物を得た。
【0109】
(実施例4)
顔料分散物作製工程を以下のように変更したこと以外は実施例1と同様の方法により実施例4の黄色の顔料分散物を得た。
【0110】
[顔料分散物作製工程]
顔料油成分湿潤物が収容されたタンク内を減圧(タンク内の圧力:92.5mmHg)するとともに、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて加熱撹拌して、含水率が2質量%以下になるまで顔料油成分湿潤物を脱水した。塊状態のロジン変性フェノール樹脂(星光ポリマー株式会社製、商品名:OR−357)33質量部を添加し、加熱撹拌を継続することで、塊状態のロジン変性フェノール樹脂を粉砕しながら、油成分中に、粉砕されたロジン変性フェノール樹脂を含む樹脂成分を溶解させた。
【0111】
(比較例1)
[ワニス化工程]
高さ250mm、内径210mmのタンク内に、油成分として亜麻仁油3質量部、大豆油10質量部、大豆油脂肪酸ブチルエステル10質量部、AF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)10質量部、樹脂成分として、塊状態のロジン変性フェノール樹脂(星光ポリマー株式会社製、商品名:OR−357)33質量部を仕込み、200℃で40分間、ディスクタービン羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにディスクタービン羽根を回転駆動させて加熱撹拌し、塊状態のロジン変性フェノール樹脂を溶解した。なお、タンク内には、従来型撹拌羽根(ディスクタービン羽根)を設置した。
【0112】
[ワニスゲル化工程]
さらにタンク内にゲル化剤としてアルミニウムキレート1質量部を添加して130℃で30分間反応させることで樹脂ワニスを得た。
【0113】
[フラッシング工程および減圧脱水工程]
卓上フラッシャー(井上機械社製)に、ワニスゲル化工程で得られた樹脂ワニスと、含水顔料(プレスケーキ状態のピグメントイエロー174、固形分30%)56.7質量部を添加し、60℃で30分間フラッシングを行った。その後、本体を傾けることで浸出した水を除去し、さらに、タンク内を減圧(タンク内の圧力:92.5mmHg)することで、含水率を2質量%以下とした。これによって、比較例1の黄色の顔料分散物を得た。
【0114】
(比較例2)
顔料をピグメントレッド57:1に変更した以外は比較例1と同様の方法により比較例2の紅色の顔料分散物を得た。
【0115】
(比較例3)
顔料をピグメントブルー15:3に変更した以外は比較例1と同様の方法により比較例3の藍色の顔料分散物を得た。
【0116】
<オフセット印刷用インキ組成物の作製>
実施例1〜4および比較例1〜3の各顔料分散体に、大豆油13.07質量部、AF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)13.07質量部を加え、撹拌混合し、実施例1〜4および比較例1〜3のオフセット印刷用インキ組成物を得た。
【0117】
以上のようにして得られた実施例1〜4および比較例1〜3のオフセット印刷用インキ組成物についての評価結果を表1,2に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
表1,2の結果から、実施例1〜4は、タック値、着色力などのインキ特性、および印刷適性が高い状態で維持された上で、比較例1〜3よりも製造に要するトータル所要時間が短縮されたことがわかる。
【符号の説明】
【0121】
10 カッター羽根
11 基部
12 第1ブレード
13 第2ブレード
14 第3ブレード
12a 第1上流側基端部
12b 第1下流側基端部
12c 第1縁辺部
13a 第2上流側基端部
13b 第2下流側基端部
13c 第2縁辺部
14a 第3縁辺部
100 撹拌装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、印刷版上に供給された、高粘度のペースト状のインキを、ゴムブランケットなどの中間転写体に転写した後、紙などの被印刷体に印刷することを特徴とした印刷方式である。そして、オフセット印刷は、高精細かつ鮮明な画像の印刷物を短時間で大量に印刷することができることから、商業印刷や新聞印刷などの分野で広く用いられており、印刷方式の代表的なものとなっている。この印刷方式で使用されるオフセット印刷用インキ組成物は、顔料、樹脂成分、油成分および添加剤などを含んで構成されている。
【0003】
一般的なオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、たとえば特許文献1に開示されているように、撹拌装置を用いて油成分中に樹脂を溶解させて樹脂ワニスを得るワニス化工程と、撹拌装置を用いて顔料と樹脂ワニスとを撹拌混合して顔料分散用混合物を得るプレミキシング工程と、3本ロールミルやビーズミルなどの分散装置を用いて顔料分散用混合物を分散処理して顔料分散物を得る分散工程と、ディスパーなどの撹拌装置を用いて顔料分散物と残余のインキ用材料(粘度調整用のワニスなど)とを撹拌混合してオフセット印刷用インキ組成物を得る後添加工程とを含む。
【0004】
特許文献1に開示のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法によれば、これら複数の工程を組み合わせることによって、顔料が微細に分散されたオフセット印刷用インキ組成物を得ることができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、顔料を微細に分散させるために、多くのエネルギーおよび手間を必要とし、また製造時間が長くなって生産性を低下させることから、改善すべき点がある。
【0006】
オフセット印刷用インキ組成物の製造において、顔料としては、たとえば、顔料の粒子同士が強固に凝集した、乾燥状態の顔料が用いられる。乾燥状態の顔料は、水系で製造された微細な顔料の一次粒子を濾過用の袋などの中に入れて水分を絞った後、熱などを利用して乾燥させる工程を経て製造され、この工程で、顔料の粒子同士が強固に凝集する。顔料の粒子同士が強固に凝集していることから、顔料が微細に分散されたオフセット印刷用インキ組成物を得るためには、オフセット印刷用インキ組成物の製造時に、顔料に、微細な一次粒子まで分散させることができる力を付与することと、一旦分散した顔料の粒子が再凝集することを防ぐことが必要である。
【0007】
顔料を一次粒子まで分散させるためには、顔料を充分に湿潤させることが必要である。しかしながら、顔料を湿潤させる材料として、予め、油成分に樹脂を溶解して得られる樹脂ワニスを利用する従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、顔料と樹脂ワニスとを撹拌混合したとき、樹脂ワニスによって顔料が充分に湿潤するまでに時間がかかる。
【0008】
この理由としては、高粘度のペースト状のオフセット印刷用インキ組成物の材料であり、高粘度に仕上げられる樹脂ワニスが、表面が凸凹の顔料粒子の凝集体の内部に浸透しにくいためである。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在する空気が、高粘度の樹脂ワニスによって移動を妨げられて気泡になり、このようにして発生した気泡が顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在することによって顔料粒子の凝集体の内部に樹脂ワニスがさらに浸透しにくくなるためである。なお、この気泡によって、前記分散工程において顔料に付与された力が低減されるので、顔料に、微細な一次粒子まで分散させることができる力を付与することが困難となる。
【0009】
一旦分散した顔料粒子が再凝集することを防ぐためには、顔料粒子の表面に、油成分に溶解した樹脂が吸着することが必要である。樹脂が吸着していない顔料粒子は、一旦分散されたとしても、分散状態が不安定であるため、再凝集しやすい。しかしながら、前述のようにして顔料粒子の凝集体の表面および内部に発生した気泡は、油成分に溶解した樹脂が顔料表面に吸着することを妨げる原因となる。
【0010】
このように、樹脂ワニスの顔料粒子の凝集体内部への浸透、および樹脂の顔料粒子表面への吸着を阻害する気泡を顔料粒子の凝集体の表面から除去するためには、前記プレミキシング工程において、撹拌装置による撹拌時間を長くし、また、前記分散工程において、分散装置でより多くの力を顔料に付加して長時間の分散処理を行う必要があり、その結果、撹拌装置および分散装置を稼働させるためのエネルギーおよび手間が多く必要となるとともに、製造時間が長くなる。
【0011】
このような問題を解決するため、特許文献2には、水性顔料スラリーを、油成分および樹脂ワニスなどの水中に混和しない非顔料インク成分と混合する工程を含む印刷用インクの製造方法が開示されている。特許文献2に開示の印刷用インクの製造方法によれば、水性顔料スラリーは、乾燥状態の顔料よりも顔料粒子同士の凝集力が弱いので、顔料を容易に分散させて、顔料の分散に必要なエネルギーの削減等を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−169464号公報
【特許文献2】特表2008−542480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献2に開示の印刷用インクの製造方法であっても、顔料を一次粒子まで分散させ、かつ顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在する気泡を除去するために必要な撹拌時間を充分に短縮することができないので、生産性を大幅に向上させることができず、また、顔料の分散に必要なエネルギーを充分に削減することができない。
【0014】
したがって本発明の目的は、従来の方法よりも省エネルギー化につながり、かつ生産性を大幅に向上させることができるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、前記顔料を前記油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る移行工程と、
前記顔料油成分湿潤物に樹脂成分を添加して、樹脂成分混合物を得る樹脂成分添加工程と、
前記樹脂成分混合物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る脱水工程と、
前記脱水物を、加熱下で撹拌混合することによって、前記脱水物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料分散物を得る樹脂成分溶解工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法である。
【0016】
また本発明は、顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、前記顔料を前記油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る移行工程と、
前記顔料油成分湿潤物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る脱水工程と、
前記脱水物に樹脂成分を添加して、樹脂成分混合物を得る樹脂成分添加工程と、
前記樹脂成分混合物を、加熱下で撹拌混合することによって、前記樹脂成分混合物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料分散物を得る樹脂成分溶解工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法である。
【0017】
また本発明によれば、前記樹脂成分添加工程において前記油成分湿潤物に添加する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われ、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記脱水工程では、加熱および減圧下で、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら、前記樹脂成分混合物を脱水し、
前記樹脂成分溶解工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、前記脱水物を撹拌混合し、前記脱水物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、前記樹脂成分添加工程において前記脱水物に添加する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われ、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記脱水工程では、加熱および減圧下で、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させながら、前記顔料油成分湿潤物を脱水し、
前記樹脂成分溶解工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら油成分中に溶解させることを特徴とする。
【0019】
また本発明によれば、前記回転軸は、前記タンクの中心軸線と同一直線上にある軸線まわりに回転駆動され、
前記カッター羽根は、
前記ブレードの、最外周縁部の先端部における回転直径が、タンクの内径に対して30〜80%であり、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程において、前記ブレードは、ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で回転駆動されることを特徴とする。
【0020】
また本発明によれば、前記ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜した第1ブレードと、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して他方側に離反するように傾斜した第2ブレードと、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行な第3ブレードとを含んで構成され、
前記第1および第2ブレードは、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部に連なっており、
前記第1、第2および第3ブレードの回転方向下流側に臨む縁辺部は、回転方向下流側に臨んで先細状に形成されていることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、前記樹脂成分溶解工程の後工程として、前記顔料分散物にゲル化剤を添加し、前記樹脂成分をゲル化させるゲル化工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、移行工程と、樹脂成分添加工程と、脱水工程と、樹脂成分溶解工程と、を含む。移行工程では、100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、顔料を油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る。樹脂成分添加工程では、顔料油成分湿潤物に樹脂成分を添加して樹脂成分混合物を得る。脱水工程では、樹脂成分混合物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る。樹脂成分溶解工程では、脱水物を、加熱下で撹拌混合することによって、脱水物中の樹脂成分を油成分中で溶解させて顔料分散物を得る。
【0023】
100℃以上180℃以下という高温に予め加熱された油成分は粘度が低いので、移行工程で、油成分を、油成分中に移行させた顔料粒子の凝集体の表面および内部に速やかに浸透させることができるとともに、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができる。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができるので、樹脂成分溶解工程で、顔料粒子表面に、油成分に溶解した樹脂成分を吸着させることができ、一旦分散した顔料粒子の再凝集を防止することができる。したがって、顔料を微細に分散させるためのエネルギーおよび手間を低減することができるとともに、製造時間を短縮することができるので、生産性を大幅に向上させることができる。
【0024】
本発明によれば、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、移行工程と、脱水工程と、樹脂成分添加工程と、樹脂成分溶解工程と、を含む。移行工程では、100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、顔料を油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る。脱水工程では、顔料油成分湿潤物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る。樹脂成分添加工程では、脱水物に樹脂成分を添加して樹脂成分混合物を得る。樹脂成分溶解工程では、樹脂成分混合物を、加熱下で撹拌混合することによって、樹脂成分混合物中の樹脂成分を油成分中で溶解させて顔料分散物を得る。
【0025】
100℃以上180℃以下という高温に予め加熱された油成分は粘度が低いので、移行工程で、油成分を、油成分中に移行させた顔料粒子の凝集体の表面および内部に速やかに浸透させることができるとともに、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができる。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができるので、樹脂成分溶解工程で、顔料粒子表面に、油成分に溶解した樹脂成分を吸着させることができ、一旦分散した顔料粒子の再凝集を防止することができる。したがって、顔料を微細に分散させるためのエネルギーおよび手間を低減することができるとともに、製造時間を短縮することができるので、生産性を大幅に向上させることができる。
【0026】
また本発明によれば、脱水工程および樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われる。顔料成分添加工程では、塊状態の固形樹脂を含む樹脂成分を添加する。樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことによって、樹脂成分がタンク投入時に飛散することを抑制することができる。タンクの内部空間に設けられる撹拌羽根は、回転軸に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根である。脱水工程では、加熱および減圧下で、カッター羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させることによって、樹脂成分混合物を撹拌混合し、塊状態の固形樹脂を粉砕するので、後の樹脂成分溶解工程では、加熱温度を低下させ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。
【0027】
また本発明によれば、脱水工程および樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われる。顔料成分添加工程では、塊状態の固形樹脂を含む樹脂成分を添加する。樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことによって、樹脂成分がタンク投入時に飛散することを抑制することができる。タンクの内部空間に設けられる撹拌羽根は、回転軸に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根である。脱水工程では、加熱および減圧下で、カッター羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させながら、顔料油成分湿潤物を脱水する。樹脂成分溶解工程では、カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させることによって、樹脂成分混合物を撹拌混合し、樹脂成分混合物中の塊状態の固形樹脂を粉砕するので、加熱温度を低下させ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。
【0028】
また本発明によれば、タンクの内部空間に設けられるカッター羽根は、基部とブレードとを含んで構成されている。基部は、タンクの中心軸線と同一直線上にある軸線まわりに回転駆動される回転軸に垂直に固定される円板状の部分である。ブレードは、最外周縁部の先端部における回転直径がタンクの内径に対して30〜80%となるように形成されている。そして、脱水工程および樹脂成分溶解工程では、ブレードは、ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が10m/s以上となる速度で、カッター羽根が回転駆動される。
【0029】
脱水工程および樹脂成分溶解工程では、タンクの内径に対して所定の回転直径を有するブレードを含むカッター羽根を、所定の周速度で回転駆動させるので、タンク内に収容されるインキ用材料に充分なせん断力を付与することができる。そのため、脱水工程では、タンク内に収容されるインキ用材料を速やかに脱水することができる。また、樹脂成分溶解工程では、タンク内に収容されるインキ用材料の撹拌混合時における加熱温度を低下させても、油成分中に樹脂を溶解させることができるので、熱による樹脂成分の劣化を抑制することができる。
【0030】
また本発明によれば、タンクの内部空間に設けられるカッター羽根は、基部と第1ブレードと第2ブレードと第3ブレードとを含んで構成されている。基部は、回転駆動される回転軸に垂直に固定される円板状の部分である。第1ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜したブレードである。第2ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して他方側に離反するように傾斜したブレードである。第3ブレードは、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行なブレードである。
【0031】
脱水工程では、基部の回転面に対して一方側および他方側に離反するように傾斜した第1および第2ブレードと、基部の回転面に平行な第3ブレードとを有するカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合するので、タンク内に収容されるインキ用材料に大きなせん断力を付与することができ、タンク内に収容されるインキ用材料を速やかに脱水することができる。また、樹脂成分溶解工程では、タンク内に収容されるインキ用材料の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。したがって、樹脂成分溶解工程において、熱による樹脂成分の劣化をさらに抑制することができるとともに、熱エネルギーロスを少なくすることができる。
【0032】
また、カッター羽根は、前記第1および第2ブレードが、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部に連なっている。このように構成されたカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合する脱水工程では、カッター羽根が回転駆動されるときに、タンク内に収容されるインキ用材料に対して撹拌流が作用する。そのため、タンク内に収容されるインキ用材料は、タンク内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合されるので、タンク内に収容されるインキ用材料の脱水効率を向上することができる。また、樹脂成分溶解工程では、タンク内に収容されるインキ用材料の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。
【0033】
また本発明によれば、樹脂成分溶解工程の後工程として、顔料分散物にゲル化剤を添加し、樹脂成分をゲル化させるゲル化工程を含む。樹脂成分をゲル化することによって、得られるオフセット印刷用インキ組成物のインキ性状および印刷適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】撹拌装置100の構成を示す図である。
【図2】撹拌装置100に備えられるカッター羽根10の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明の実施の一形態であるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法において用いられる撹拌装置100の構成を示す図である。本発明の実施の一形態であるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、減圧脱水装置30が接続された撹拌装置100を用いて行われ、移行工程と、顔料分散物作製工程と、ゲル化工程と、後添加工程とを含む。
【0036】
(移行工程)
移行工程は、撹拌装置100を用いて行われる工程であり、タンク20に油成分を投入して100℃以上180℃以下、好ましくは130℃まで加熱した後、100℃以上180℃以下の温度下で油成分が撹拌混合されているタンク20に、水と顔料とを含む含水顔料を投入し、カッター羽根10を回転軸23の軸線まわりに回転駆動させて、50〜150℃の温度下で、約3〜30分間撹拌混合することによって、含水顔料中の顔料を油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る。なお、顔料は、表面が親油性であることから、油成分中に移行する。
【0037】
含水顔料に対する油成分の使用量は、含水顔料中の顔料100質量部に対して50〜400質量部、好ましくは100〜400質量部である。
【0038】
含水顔料は、水および顔料を含むものであり、含水顔料としては、オフセット印刷用インキ組成物の顔料成分として常用される含水顔料を用いることができる。
【0039】
含水顔料に含まれる顔料としては、無色または有色の、無機顔料または有機顔料を挙げることができる。
【0040】
具体的には、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、磁性酸化鉄などの無機顔料、アゾ顔料、レーキ顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料などの有機顔料、およびカーボンブラックなどが挙げられる。
【0041】
含水顔料は、水系で顔料の材料成分を化学反応させて製造した微細な顔料の一次粒子を、濃縮のために濾過用の袋などの中に入れて水分を絞る(フィルタープレス)ことによって、または、フィルタープレス後に、熱などを利用して乾燥させて得られる、ウェットケーキまたはプレスケーキと呼ばれる含水顔料として製造される。
【0042】
含水顔料の含水率は、30質量%以上80質量%以下である。含水率が30質量%未満の含水顔料を用いた場合、顔料が、微細な一次粒子まで分散されにくくなる。含水率が80%を超える含水顔料を用いた場合、高い顔料濃度を有する顔料分散物が得られにくくなる。
なお、含水顔料の含水率は、以下のようにして求められる。
【0043】
適量(10〜20g)の含水顔料を秤量皿に取り、130℃のオーブン内に1時間放置した後、重量を測定する。放置したことによって含水顔料の重量は減少しており、この減少した重量を、含水顔料に含まれていた水の重量とする。放置する前の含水顔料の重量に対する、含水顔料に含まれていた水の重量の割合を、含水顔料の含水率とする。
【0044】
油成分としては、オフセット印刷用インキ組成物の油成分として常用される油成分を用いることができ、植物油成分、鉱物油成分等が使用できる。植物油成分を単独で用いてもよく、鉱物油成分を単独で用いてもよく、植物油成分と鉱物油成分とを併用して用いてもよい。
【0045】
植物油成分としては、植物油および/または植物油由来の脂肪酸エステルが好適である。植物油としては、大豆油、綿実油、亜麻仁油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油などの乾性油または半乾性油が例示できる。また、植物油由来の脂肪酸エステル化合物としては、上記植物油由来の脂肪酸のモノアルキルエステル化合物が挙げられる。上記脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和または不飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などが例示できる。脂肪酸モノエステルを構成するアルコール由来のアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシルなどのアルキル基が例示できる。
【0046】
これら植物油や植物油由来の脂肪酸エステルからなる植物油成分は、要求される溶解性や性能に応じて、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい植物油成分は、大豆油および/または大豆油脂肪酸エステルである。
【0047】
鉱物油成分としては、水と相溶しない沸点が180℃を超える、好ましくは沸点200℃以上の非芳香族系石油溶剤が使用できる。非芳香族系石油溶剤の具体例としては、0号ソルベント、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号(以上、いずれも新日本石油株式会社製)などが挙げられる。これら鉱物油成分は、要求される溶解性や性能に応じて、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
高粘度の樹脂ワニスを利用する従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、樹脂ワニスの粘度が高いので、樹脂ワニスによって顔料を充分に湿潤させるまでに時間がかかる。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在する気泡を除去するために、エネルギーおよび手間が多く必要で、製造時間がかかるために、生産性が低下する。
【0049】
また、水性顔料スラリーを、油成分などの水中に混和しない非顔料インク成分と混合する従来のオフセット印刷用インク組成物の製造方法は、非顔料インク成分が充分に低粘度ではないので、顔料粒子を一次粒子まで分散させるために必要な撹拌時間を充分に短縮することができず、生産性を大幅に向上させることができない。また、顔料の分散に必要なエネルギーを充分に削減することができない。
【0050】
本実施形態のように、移行工程で、100℃以上180℃以下と高温であるために充分に低粘度である油成分に、含水顔料を添加して撹拌混合することによって、油成分が、顔料粒子の凝集体の表面および内部からの毛細管圧や親和性の影響を大きく受けるので、油成分が顔料粒子の凝集体の内部へ浸透しやすくなる。そのため、油成分で顔料を速やかに湿潤させることができるとともに、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができ、仮に顔料粒子の凝集体の表面および内部に空気が存在していたとしても、速やかに油成分と置き換わり、系外に空気を排出することができる。このように気泡が除去されると、後述の顔料分散物作製工程において、油成分中に溶解した樹脂成分が、顔料粒子の表面に吸着することによって、顔料粒子の分散安定性が高まるので、一旦分散した顔料粒子が再凝集することを防止できる。
【0051】
したがって、顔料を微細に分散させるためのエネルギーおよび手間を充分に低減することができるとともに、製造時間を短縮することができるので、生産性を大幅に向上させることができる。
【0052】
また、樹脂ワニスを利用する従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、樹脂成分を油成分中に溶解させるための設備と熱エネルギーとを必要とするが、本実施形態では、そのような設備が不要になる。そのため、従来の方法よりも設備および生産コストがかからない。
【0053】
なお、100℃未満の温度下で油成分が撹拌混合されているタンク20に含水顔料を投入すると、油成分が充分に低粘度ではないので、油成分で顔料を速やかに湿潤させることができない。180℃を超える温度下で油成分が撹拌混合されているタンク20に含水顔料を投入すると、含水顔料に含まれる水の突沸を招きやすくなるので、安全性の面で好ましくなく、また、含水顔料中の顔料が油成分中に移行する前に、含水顔料に含まれる水が揮発するので、顔料の凝集が発生して、着色力(濃度)および色相に悪影響がでる。さらに、鉱物油成分(AFソルベント)などの沸点の比較的低い油成分が不必要に揮発する問題がある。
【0054】
ここで、移行工程、後述する顔料分散物作製工程および後述するゲル化工程で用いられる撹拌装置100について、図1を用いて説明する。図1は、撹拌装置100の構成を示す図である。撹拌装置100は、タンク20の内部空間に、撹拌羽根であるカッター羽根10が設けられて構成される。
【0055】
タンク20は、底面が円弧状の有底筒状に形成されたものであり、ステンレス鋼などの金属材料によって構成されている。撹拌装置100では、タンク20の外周面を覆うように加熱手段24が設けられており、この加熱手段24は、水などの流体が流体供給口24aから流体排出口24bに向けて流過することによって、タンク20内の温度を制御可能に構成されている。また、タンク20の内部空間には、内周面と所定の間隔をあけて対向するようにバッフルプレート25が配設され、タンク20内に投入されるインキ用材料が撹拌混合されるときの流れ方向および流速が制御される。また、タンク20の上縁端部には、着脱自在の蓋体26が設けられ、蓋体26が装着された状態では、タンク20内が密閉空間となる。
【0056】
そして、タンク20の底面中央部には、ゲル化工程において作製される、ゲル化された顔料分散物が、タンク20内から排出されるときの流過開口となるタンク排出口21が設けられる。
【0057】
さらに、タンク20の上方側面には、その内部を減圧することで、顔料分散物作製工程において樹脂成分混合物を脱水することができる減圧脱水装置30と接続される接続口22が設けられる。
【0058】
撹拌装置100には、タンク20の中心軸線と同一直線上となる軸線まわりに、駆動モータ27により回転駆動される回転軸23が、蓋体26を貫通して設けられ、この回転軸23の延在方向端部近傍に、カッター羽根10が固定されている。
【0059】
なお、移行工程および後述する顔料分散物作製工程では、ディスパーやフラッシャー(ニーダー)が内部空間に設けられた撹拌装置が用いられてもよい。
【0060】
(顔料分散物作製工程)
顔料分散物作製工程は、撹拌装置100を用いて行われる工程であり、移行工程で得られた顔料油成分湿潤物を、脱水し、油成分に樹脂成分を溶解させて顔料分散物を作製する工程である。本実施形態では、顔料分散物作製工程は、樹脂成分添加工程と、脱水工程と、樹脂成分溶解工程とを含む。
【0061】
<樹脂成分添加工程>
樹脂成分添加工程では、移行工程で得られた顔料油成分湿潤物を撹拌混合しているタンク20に、樹脂成分を投入し、樹脂成分混合物を得る。
【0062】
樹脂成分としては、オフセット印刷用インキ組成物の樹脂成分に常用的に使用される樹脂を用いることができ、顔料分散用樹脂およびバインダー樹脂に分けられる。
【0063】
顔料分散用樹脂としては、低粘度化を図れるものを好ましく用いることができ、植物油変性アルキッド樹脂などのアルキッド樹脂、ギルソナイト樹脂(天然アスファルタムから抽出された軟化点120〜125℃の炭化水素樹脂も含む)、顔料分散剤などを挙げることができる。
【0064】
バインダー樹脂としては、たとえば、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、フェノールを含有しないポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂等を挙げることができる。
【0065】
バインダー樹脂は、粒子径が3mm程度に粉砕された粉砕樹脂、粒子径が10〜500mm程度の塊状態の固形樹脂などの形態をとり、樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことが好ましい。樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことによって、樹脂成分がタンク投入時に飛散することを抑制することができる。なお、バインダー樹脂として粉砕樹脂が用いられる場合、顔料分散物作製工程では、フラッシャー(ニーダー)が内部空間に設けられた撹拌装置が用いられてもよい。
【0066】
樹脂成分の使用量は、顔料の種類などによって変わるが、含水顔料中の顔料100質量部に対して、30〜300質量部が好ましい。
【0067】
<脱水工程>
脱水工程では、減圧脱水装置30によってタンク20内を減圧し、カッター羽根10を回転軸23の軸線まわりに回転駆動させ、樹脂成分混合物を、30〜100℃の温度下で撹拌混合することによって、塊状態の固形樹脂を粉砕するとともに、樹脂成分混合物の含水率が2質量%以下になるまで脱水する。これによって、脱水物が得られる。なお、黄色の顔料は、温度によって色相に大きな影響がでるので、黄色の顔料を用いる場合には、40〜60℃程度で脱水することが好ましい。
【0068】
樹脂成分混合物の含水率は、たとえばカールフィッシャー水分計で測定することができる。
【0069】
脱水工程でのタンク20内における樹脂成分混合物の脱水は、温度が30〜100℃程度となる圧力31.8〜760mmHgの条件で行う。熱の影響を受けやすい顔料、たとえば黄色の顔料を含む含水顔料を用いる場合、脱水工程でのタンク20内における樹脂成分混合物の脱水は、温度が40〜60℃程度となる圧力55.3〜149mmHgの条件で行うことが好ましい。
【0070】
<樹脂成分溶解工程>
樹脂成分溶解工程では、カッター羽根10を回転軸23の軸線まわりに回転駆動させ、脱水物を、好ましくは80〜200℃、より好ましくは80〜150℃の温度下で、15〜120分間撹拌混合することによって、油成分中に樹脂成分を溶解させて顔料分散物を得る。
【0071】
80〜200℃の温度下で撹拌混合することによって、樹脂成分と油成分との間でエステル交換反応が起こるのを防止して、樹脂成分の低分子量化を抑制することができるとともに、短時間で油成分中に樹脂成分が溶解された顔料分散物を得ることができる。
【0072】
撹拌装置100に設けられる撹拌羽根であるカッター羽根10は、バインダー樹脂の形態に応じて、最適な形状が異なる。
【0073】
バインダー樹脂として、粒子径が3mm程度に粉砕された粉砕樹脂を使用する場合、この分野で常用されるディスクタービン羽根を撹拌羽根として用いても、油成分中に樹脂成分を充分に溶解させることができる。しかしながら、バインダー樹脂として、粒子径が10〜500mm程度の塊状態の固形樹脂を使用する場合、ディスクタービン羽根を用いて撹拌混合しても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができない。したがって、バインダー樹脂として塊状態の固形樹脂を用いる場合には、図2に示す形状を有するカッター羽根10を用いることが好ましい。
【0074】
図2は、撹拌装置100に備えられるカッター羽根10の構成を示す図である。図2(a)は、カッター羽根10の展開図を示し、図2(b)は、カッター羽根10の平面図を示し、図2(c)は、カッター羽根10の側面図を示す。カッター羽根10は、ステンレス鋼などの金属材料からなる部材であり、基部11と、第1ブレード12と、第2ブレード13と、第3ブレード14とを含んで構成されている。また、カッター羽根10の配設位置は、タンク20の底面から、タンク20の高さに対して10〜25%の高さ位置である。
【0075】
基部11は、タンク20の中心軸線と同一直線上にある回転軸線まわりに回転方向Aに回転駆動される回転軸23に、垂直に固定される円板状の部分であり、平面視したときの形状が正六角形である。そして、カッター羽根10では、2枚の第1ブレード12と、2枚の第2ブレード13と、2枚の第3ブレード14との合計6枚のブレードが、回転軸線に関して周方向に等間隔に、正六角形状の基部11の各辺から半径方向外方に連なるように形成されている。6枚の各ブレード12,13,14は、同じ形状および大きさに形成されており、本実施形態では、平面視したときの形状が台形である。
【0076】
また、6枚の各ブレード12,13,14において、基部11から半径方向外方に延びる延在方向の長さL2は、正六角形状の基部11の各辺の長さL1に対して、150〜300%に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10における各ブレード12,13,14の強度を、充分に確保することができる。
【0077】
2枚の第1ブレード12のそれぞれは、基部11から半径方向外方になるにつれて基部11の回転面に対して一方側に離反するように傾斜したブレードである。そして、各第1ブレード12同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。
【0078】
第1ブレード12における基部11の回転面に対する傾斜の角度θ1は、30〜50°に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、タンク20内の各工程のインキ用材料に対して撹拌流を作用させることができるのでそれぞれの工程の効率を向上させることができる。具体的には、移行工程で、顔料を油成分中に移行させるときの効率、脱水工程で、塊状態の固形樹脂を粉砕するときの効率および顔料油成分湿潤物を脱水するときの効率、樹脂成分溶解工程で、油成分中へ樹脂成分を溶解させるときの効率、および後述するゲル化工程で、樹脂成分とゲル化剤との反応効率を向上させることができる。
【0079】
また、第1ブレード12は、回転方向Aの上流側の第1上流側基端部12aが回転方向Aの下流側の第1下流側基端部12bよりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部11に連なっている。このように構成されたカッター羽根10を回転駆動させると、各工程のインキ用材料に対して撹拌流が作用する。そのため、前述した各工程の効率が向上する。
【0080】
特に脱水工程では、樹脂成分混合物が、タンク20内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合されることで、樹脂成分として塊状態の固形樹脂を用いた場合、塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上させることができる。そのため、樹脂成分溶解工程では、粉砕された固形樹脂の油成分中への溶解効率を向上させることができるので、加熱温度を低下させ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができ、熱による樹脂成分の劣化を抑制することができる。
【0081】
さらに、第1ブレード12は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部12cが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、脱水工程で、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第1ブレード12の縁辺部12cによって、塊状態の固形樹脂に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、脱水工程で、粉砕効率を向上させて塊状態の固形樹脂を粉砕することができるので、樹脂成分溶解工程では、加熱温度を200℃以下に低下させることができ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第1ブレード12の縁辺部12cの厚みは、縁辺部12c以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0082】
2枚の第2ブレード13のそれぞれは、基部11から半径方向外方になるにつれて基部11の回転面に対して他方側に離反するように傾斜したブレードである。そして、各第2ブレード13同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。
【0083】
第2ブレード13における基部11の回転面に対する傾斜の角度θ2は、30〜50°に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、タンク20内の各工程のインキ用材料に撹拌流を作用させることができ、前述した各工程の効率が向上する。
【0084】
また、第2ブレード13は、回転方向Aの上流側の第2上流側基端部13aが回転方向Aの下流側の第2下流側基端部13bよりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部11に連なっている。このように構成されたカッター羽根10を回転駆動させたときに、各工程のインキ用材料はタンク20内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合される。そのため、前述した各工程の効率が向上する。
【0085】
さらに、第2ブレード13は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部13cが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、脱水工程で、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第2ブレード13の縁辺部13cによって、塊状態の固形樹脂に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、脱水工程で、粉砕効率を向上させて塊状態の固形樹脂を粉砕させることができるので、樹脂成分溶解工程では、加熱温度を200℃以下に低下させることができ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第2ブレード13の縁辺部13cの厚みは、縁辺部13c以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0086】
2枚の第3ブレード14のそれぞれは、基部11から半径方向外方に連なり、基部11の回転面に平行なブレードである。そして、各第3ブレード14同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。そして、第3ブレード14は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部14aが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、脱水工程で、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第3ブレード14の縁辺部14aによって、塊状態の固形樹脂に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、脱水工程で、粉砕効率を向上させて塊状態の固形樹脂を粉砕させることができるので、樹脂成分溶解工程では、加熱温度を200℃以下に低下させることができ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第3ブレード14の縁辺部14aの厚みは、縁辺部14a以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0087】
以上のように、2枚の第1ブレード12と、2枚の第2ブレード13と、2枚の第3ブレード14との合計6枚のブレードが、基部11から半径方向外方に連なるように形成されたカッター羽根10では、2枚の第3ブレード14の遊端部間の長さに対応する、最外周縁部の先端部における回転直径L4が、タンク20の内径に対して30〜80%に設定される。そして、移行工程、顔料分散物作製工程、および後述するゲル化工程では、第3ブレード14の遊端部の周速度、すなわち、各ブレード12,13,14における最外周縁部の先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で、カッター羽根10が回転駆動される。各工程では、タンク20の内径に対して所定の回転直径L4を有するブレードを含むカッター羽根10を、所定の周速度で回転駆動させるので、タンク20内に収容される各工程のインキ用材料に、充分なせん断力が付与しながら撹拌流を作用させることができるので、前述した各工程の効率が向上する。
【0088】
なお、タンク20内で撹拌混合するときに用いられるカッター羽根は、前述したカッター羽根10の形状に限定されるものではない。前述したカッター羽根10は、6枚のブレードが基部11から半径方向外方に連なるように形成されたものであるが、カッター羽根のブレードの枚数としては、好ましくは3〜10枚、より好ましくは4〜8枚である。
【0089】
なお、樹脂成分添加工程は、脱水工程の後に行われてもよい。その場合、顔料分散物作製工程は、脱水工程、樹脂成分添加工程、樹脂成分溶解工程の順で行われる。塊状態の固形樹脂を用いる場合、塊状態の固形樹脂は、樹脂成分溶解工程で粉砕されながら、油成分中に溶解される。
【0090】
(ゲル化工程)
ゲル化工程は、顔料分散物作製工程で得られた顔料分散物を撹拌混合しているタンク20に、ゲル化剤を投入し、80〜150℃の温度下で、15〜120分間撹拌混合し、樹脂成分とゲル化剤とを反応させて樹脂成分をゲル化させる。ゲル化工程は、オフセット印刷用インキ組成物のインキ性状や印刷適性上行われることが好ましいが、行われなくてもよい。
【0091】
ゲル化剤としては、アルミニウムアルコラート類、アルミニウムキレート化合物等が挙げられる。好ましい具体例としては、アルミニウムトリイソプロポキシド、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート等が例示できる。
【0092】
(後添加工程)
後添加工程では、顔料分散物作製工程で得られた顔料分散物に、油成分や添加剤等を添加し、撹拌混合することによって、オフセット印刷用インキ組成物を得る工程である。
【0093】
なお、脱水工程の後、かつ樹脂成分溶解工程の前に、最終的なオフセット印刷用インキ組成物の配合となるように、油成分や添加剤を添加しておくことで、顔料分散物作製工程後の顔料分散物をそのままオフセット印刷用インキ組成物として使用することができる。
【0094】
添加剤としては、オフセット印刷用インキ組成物の成分として常用される、ドライヤー、乾燥遅延剤、酸化防止剤、整面剤、耐摩擦性向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0096】
<残渣率>
顔料分散物作製工程で得られた顔料分散物50gに溶剤(灯油:トルエン=1:1)100gを滴下しながら、ガラス棒を用いて撹拌した。これをメッシュサイズ400の金網を用いて濾過して、金網上に残った物質を回収し、60℃のオーブンで1日乾燥させた。顔料分散物作製工程で得られた顔料分散物50gに含まれる顔料の重量に対する、乾燥後の回収物質の重量の割合を残渣率として求めた。
【0097】
<樹脂成分混合物および顔料油成分湿潤物の含水率>
樹脂成分混合物および顔料油成分湿潤物の含水率(質量%)は、カールフィッシャー水分計測定方法を使用して測定した。なお、測定条件としては、樹脂成分混合物または顔料油成分湿潤物を1.0g用いて、温度25℃の条件で測定した。
【0098】
<ラレー粘度>
ラレー粘度(Pa・s/25℃)は、株式会社ケンウッド ティー・エム・アイ製のTE851を使用して測定した。
【0099】
<タック値>
タック値は、東洋精機株式会社製のインコメーターにて、30℃の条件で400rpmの回転速度にて1分値を測定した。
【0100】
<着色力>
白色のオフセット印刷用インキ組成物を、実施例1〜4、比較例1〜3のオフセット印刷用インキ組成物で着色し、黄色については比較例1、紅色については比較例2、藍色については比較例3の着色力を「100」として、相対評価した。相対評価値が高いほど着色力に優れるインキ組成物である。
【0101】
<印刷評価>
オフセット印刷用インキ組成物の印刷適性(濃度変化)は、三菱重工業株式会社製、DAIYA IE型印刷機で実際に印刷して調べた。印刷評価は、湿し水供給ダイヤルを35%、60%にした状態で印刷し、黄色については比較例1、紅色については比較例2、藍色については比較例3を基準(良好)として、印刷濃度の変化で評価した。なお、印刷条件は以下のとおりである。
【0102】
印刷条件
湿し水:サイファ TP−3(湿し水濃度1%、サカタインクス株式会社製)
印刷速度:4500枚/時
湿度/温度:25℃/60%
印刷用紙:オーロラコート紙(日本製紙株式会社製)
【0103】
(実施例1)
[移行工程]
高さ250mm、内径210mmのタンクに、油成分として亜麻仁油3質量部、大豆油10質量部、大豆油脂肪酸ブチルエステル10質量部、およびAF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)10質量部を仕込み、130℃まで昇温させた後、含水顔料(プレスケーキ状態のピグメントイエロー174、固形分30%)56.7質量部を添加し、60℃で10分間、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合し、顔料油成分湿潤物を得た。
【0104】
なお、タンク内には回転直径110mm(タンク内径に対して52%)の図2に示した6枚ブレードのカッター羽根を設置した。
【0105】
[顔料分散物作製工程]
顔料油成分湿潤物に、塊状態のロジン変性フェノール樹脂(星光ポリマー株式会社製、商品名:OR−357)33質量部を添加し、タンク内を減圧(タンク内の圧力:92.5mmHg(0.12atm))するとともに、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて加熱撹拌して、塊状態のロジン変性フェノール樹脂を粉砕しながら、含水率が2質量%以下になるまで脱水した。そして、加熱撹拌を継続して、油成分中に、粉砕されたロジン変性フェノール樹脂を含む樹脂成分を溶解させた。
【0106】
[ゲル化工程]
ゲル化剤としてアルミニウムキレート1質量部を添加して130℃で30分間反応させ、実施例1の黄色の顔料分散物を得た。
【0107】
(実施例2)
顔料をピグメントレッド57:1に変更した以外は実施例1と同様の方法により実施例2の紅色の顔料分散物を得た。
【0108】
(実施例3)
顔料をピグメントブルー15:3に変更した以外は実施例1と同様の方法により実施例3の藍色の顔料分散物を得た。
【0109】
(実施例4)
顔料分散物作製工程を以下のように変更したこと以外は実施例1と同様の方法により実施例4の黄色の顔料分散物を得た。
【0110】
[顔料分散物作製工程]
顔料油成分湿潤物が収容されたタンク内を減圧(タンク内の圧力:92.5mmHg)するとともに、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて加熱撹拌して、含水率が2質量%以下になるまで顔料油成分湿潤物を脱水した。塊状態のロジン変性フェノール樹脂(星光ポリマー株式会社製、商品名:OR−357)33質量部を添加し、加熱撹拌を継続することで、塊状態のロジン変性フェノール樹脂を粉砕しながら、油成分中に、粉砕されたロジン変性フェノール樹脂を含む樹脂成分を溶解させた。
【0111】
(比較例1)
[ワニス化工程]
高さ250mm、内径210mmのタンク内に、油成分として亜麻仁油3質量部、大豆油10質量部、大豆油脂肪酸ブチルエステル10質量部、AF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)10質量部、樹脂成分として、塊状態のロジン変性フェノール樹脂(星光ポリマー株式会社製、商品名:OR−357)33質量部を仕込み、200℃で40分間、ディスクタービン羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにディスクタービン羽根を回転駆動させて加熱撹拌し、塊状態のロジン変性フェノール樹脂を溶解した。なお、タンク内には、従来型撹拌羽根(ディスクタービン羽根)を設置した。
【0112】
[ワニスゲル化工程]
さらにタンク内にゲル化剤としてアルミニウムキレート1質量部を添加して130℃で30分間反応させることで樹脂ワニスを得た。
【0113】
[フラッシング工程および減圧脱水工程]
卓上フラッシャー(井上機械社製)に、ワニスゲル化工程で得られた樹脂ワニスと、含水顔料(プレスケーキ状態のピグメントイエロー174、固形分30%)56.7質量部を添加し、60℃で30分間フラッシングを行った。その後、本体を傾けることで浸出した水を除去し、さらに、タンク内を減圧(タンク内の圧力:92.5mmHg)することで、含水率を2質量%以下とした。これによって、比較例1の黄色の顔料分散物を得た。
【0114】
(比較例2)
顔料をピグメントレッド57:1に変更した以外は比較例1と同様の方法により比較例2の紅色の顔料分散物を得た。
【0115】
(比較例3)
顔料をピグメントブルー15:3に変更した以外は比較例1と同様の方法により比較例3の藍色の顔料分散物を得た。
【0116】
<オフセット印刷用インキ組成物の作製>
実施例1〜4および比較例1〜3の各顔料分散体に、大豆油13.07質量部、AF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)13.07質量部を加え、撹拌混合し、実施例1〜4および比較例1〜3のオフセット印刷用インキ組成物を得た。
【0117】
以上のようにして得られた実施例1〜4および比較例1〜3のオフセット印刷用インキ組成物についての評価結果を表1,2に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
表1,2の結果から、実施例1〜4は、タック値、着色力などのインキ特性、および印刷適性が高い状態で維持された上で、比較例1〜3よりも製造に要するトータル所要時間が短縮されたことがわかる。
【符号の説明】
【0121】
10 カッター羽根
11 基部
12 第1ブレード
13 第2ブレード
14 第3ブレード
12a 第1上流側基端部
12b 第1下流側基端部
12c 第1縁辺部
13a 第2上流側基端部
13b 第2下流側基端部
13c 第2縁辺部
14a 第3縁辺部
100 撹拌装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、前記顔料を前記油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る移行工程と、
前記顔料油成分湿潤物に樹脂成分を添加して、樹脂成分混合物を得る樹脂成分添加工程と、
前記樹脂成分混合物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る脱水工程と、
前記脱水物を、加熱下で撹拌混合することによって、前記脱水物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料分散物を得る樹脂成分溶解工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項2】
顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、前記顔料を前記油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る移行工程と、
前記顔料油成分湿潤物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る脱水工程と、
前記脱水物に樹脂成分を添加して、樹脂成分混合物を得る樹脂成分添加工程と、
前記樹脂成分混合物を、加熱下で撹拌混合することによって、前記樹脂成分混合物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料分散物を得る樹脂成分溶解工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂成分添加工程において前記油成分湿潤物に添加する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われ、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記脱水工程では、加熱および減圧下で、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら、前記樹脂成分混合物を脱水し、
前記樹脂成分溶解工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、前記脱水物を撹拌混合し、前記脱水物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させることを特徴とする請求項1に記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂成分添加工程において前記脱水物に添加する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われ、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記脱水工程では、加熱および減圧下で、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させながら、前記顔料油成分湿潤物を脱水し、
前記樹脂成分溶解工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら油成分中に溶解させることを特徴とする請求項2に記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項5】
前記回転軸は、前記タンクの中心軸線と同一直線上にある軸線まわりに回転駆動され、
前記カッター羽根は、
前記ブレードの、最外周縁部の先端部における回転直径が、タンクの内径に対して30〜80%であり、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程において、前記ブレードは、ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で回転駆動されることを特徴とする請求項3または4に記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜した第1ブレードと、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して他方側に離反するように傾斜した第2ブレードと、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行な第3ブレードとを含んで構成され、
前記第1および第2ブレードは、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部に連なっており、
前記第1、第2および第3ブレードの回転方向下流側に臨む縁辺部は、回転方向下流側に臨んで先細状に形成されていることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つに記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂成分溶解工程の後工程として、前記顔料分散物にゲル化剤を添加し、前記樹脂成分をゲル化させるゲル化工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項1】
顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、前記顔料を前記油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る移行工程と、
前記顔料油成分湿潤物に樹脂成分を添加して、樹脂成分混合物を得る樹脂成分添加工程と、
前記樹脂成分混合物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る脱水工程と、
前記脱水物を、加熱下で撹拌混合することによって、前記脱水物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料分散物を得る樹脂成分溶解工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項2】
顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
100℃以上180℃以下の温度に予め加熱された油成分に、水と顔料とを含む含水顔料を添加し、撹拌混合することによって、前記顔料を前記油成分中に移行させて、顔料油成分湿潤物を得る移行工程と、
前記顔料油成分湿潤物を、加熱および減圧下で脱水して脱水物を得る脱水工程と、
前記脱水物に樹脂成分を添加して、樹脂成分混合物を得る樹脂成分添加工程と、
前記樹脂成分混合物を、加熱下で撹拌混合することによって、前記樹脂成分混合物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料分散物を得る樹脂成分溶解工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂成分添加工程において前記油成分湿潤物に添加する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われ、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記脱水工程では、加熱および減圧下で、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら、前記樹脂成分混合物を脱水し、
前記樹脂成分溶解工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、前記脱水物を撹拌混合し、前記脱水物中の前記樹脂成分を油成分中に溶解させることを特徴とする請求項1に記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂成分添加工程において前記脱水物に添加する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程は、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられたタンク内で行われ、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記脱水工程では、加熱および減圧下で、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させながら、前記顔料油成分湿潤物を脱水し、
前記樹脂成分溶解工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら油成分中に溶解させることを特徴とする請求項2に記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項5】
前記回転軸は、前記タンクの中心軸線と同一直線上にある軸線まわりに回転駆動され、
前記カッター羽根は、
前記ブレードの、最外周縁部の先端部における回転直径が、タンクの内径に対して30〜80%であり、
前記脱水工程および前記樹脂成分溶解工程において、前記ブレードは、ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で回転駆動されることを特徴とする請求項3または4に記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜した第1ブレードと、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して他方側に離反するように傾斜した第2ブレードと、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行な第3ブレードとを含んで構成され、
前記第1および第2ブレードは、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部に連なっており、
前記第1、第2および第3ブレードの回転方向下流側に臨む縁辺部は、回転方向下流側に臨んで先細状に形成されていることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つに記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂成分溶解工程の後工程として、前記顔料分散物にゲル化剤を添加し、前記樹脂成分をゲル化させるゲル化工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2013−14696(P2013−14696A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148674(P2011−148674)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】
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