説明

オフセット印刷用新聞用紙

【課題】
印刷時のパイリングの発生を抑えたオフセット印刷用新聞用紙を提供する。
【解決手段】
原紙の両面に、接着剤とアルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤を含む表面処理剤が塗工乾燥されてなるオフセット印刷用新聞用紙であって、該新聞用紙を蒸留水に浸漬して超音波処理し、超音波処理前後の質量変化が0.2g/m以下であることを特徴とする。アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の塗工量が片面0.001〜0.02g/mであり、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤の塗工量の比率が1対4〜4対1であることが望ましい。さらに、表面処理剤に顔料を含み、顔料の塗工量が片面0.01〜0.50g/mであることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用新聞用紙に関する。さらに詳しくは、印刷時のパイリングの発生を抑えたオフセット印刷用新聞用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のオフセット印刷用新聞用紙は、カラー印刷が多用されており、カラー印刷の見栄えは原紙の白色度が高いほど良くなることから、一般のオフセット印刷用新聞用紙の白色度アップが要求されている。また、オフセット印刷用新聞用紙には軽量化(低坪量化)が求められている。低坪量の紙は表面の印刷が裏面から見える裏抜けが生じやすく、比較的多量のインクが付与されるカラー印刷では裏抜けが生じやすい。したがって、低坪量であっても高い不透明度が要求される。
【0003】
新聞用紙の白色度を向上させる手段としては、填料を内添する方法が採用されている。填料を内添すると白色度を上げるとともに不透明度を上げることができる。新聞用紙に通常使用される填料としては、ホワイトカーボン、タルク、クレー、二酸化チタン、炭酸カルシウム、尿素ホルマリン樹脂、などそれぞれの特性により使用されている。例えば、二酸化チタンは光散乱係数が非常に高いので、不透明度を向上させるには有効であるが、高価であり、新聞用紙では多用されていない。タルク、カオリンは安価であるが、吸油性はそれほど高くない。吸油性の高いホワイトカーボンは比較的少量の添加量で印刷後不透明度向上の効果が高く、多く使用されている。また、炭酸カルシウムは酸性抄紙では分解されるため中性抄紙に使用が限定されるが、比較的安価で白色度が高いことに加え、各種の粒子形状や吸油量などの特性を有するものが使用できるので、中性抄紙では多く使用されている。
【0004】
しかし、これらの填料は、添加量が多くなると、抄紙機のワイヤーでの歩留まりが悪くなるほか、印刷時に紙から脱落しブランケットにとられるパイリングを起こしやすくなるという問題がある。パイリングを防ぐためには、表面に塗工する澱粉やポリアクリルアミドなどの水溶性接着剤の塗工量を多くする必要があるが、このような対応をとると、ネッパリトラブルが発生しやすくなる。ネッパリとは、オフセット印刷において原紙に付着する湿し水により、接着剤が原因となり、紙表面の粘着性が増加する現象で、ネッパリトラブルが発生すると用紙がブランケットに貼り付いたり、断紙に至る場合もある。すなわち、パイリングは接着剤の塗工量を多くすると低減出来るが、接着剤の塗工量を多くするとネッパリトラブルが発生するという性質があるため、両者を同時に改善するのが難しくなっている。
【0005】
このような問題に対してパイリングやネッパリトラブルを解決する方法として、具体的には次のような技術が提案されている。
(1)特定の加工澱粉を含む表面処理剤の粘度と塗工量の積が特定範囲にあるオフセット印刷用新聞用紙。(特許文献1)
(2)乾燥塗工量が0.3〜3g/mの顔料塗工層にオレフィン系サイズ剤を含有するオフセット印刷用新聞用紙。(特許文献2)
(3)原紙の含む炭酸カルシウムが2%以上5%未満であり、塗工量が3g/m以下のサイズ剤を含む顔料塗工層を設けるオフセット印刷用新聞用紙。(特許文献3)
【0006】
また、アルキルケテンダイマー(AKD)を表面サイズ剤として使用した新聞用紙として、次の技術が提案されている。
(4)化工澱粉、アルキルケテンダイマーおよび防滑剤を含有する塗工層を設け、動摩擦係数が0.40〜0.70の範囲にある新聞印刷用紙。(特許文献4)
(5)中性新聞用紙にケテンダイマー系サイズ剤及び紙表面加工剤をゲートロールコーターで外添した後、表面温度が50℃以上であるソフトカレンダーに通紙することによりサイズ度を発現させる中性新聞用紙の製造方法。(特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−118114号公報
【特許文献2】特開2006−169693号公報
【特許文献3】特開2007−162173号公報
【特許文献4】特開平7−279094号公報
【特許文献5】特開平9−111691号公報
【0008】
特許文献1に記載の発明は、スチレン系モノマーを含んでなる表面サイズ剤を使用したものであるが、表面サイズ剤のみでは不十分で、内添サイズ剤を併用しなければ高いサイズ度を得るのが難しく、内添サイズ剤の効果が出にくい中性抄造への適用は難しいことが予想される。
特許文献2に記載の発明は、表面処理剤にカチオン性澱粉とスチレン系表面サイズ剤を使用して吸水抵抗性の付与と湿潤強度の向上を達成するというものであるが、吸水抵抗性が不十分であることが予想される。
特許文献3に記載の発明は、EST12表面・サイズ度テスターによる測定で最大信号強度が0.1〜1.0秒以内にあることを特徴とするものであるが、サイズ剤の成分について特定されたものではない。
特許文献4に記載の発明は、アルキルケテンダイマーと防滑剤を使用し、アルキルケテンダイマーを使用する場合の滑りの問題を解消している。ところが、化工澱粉、およびアルキルケテンダイマーの2成分の塗布量が0.5〜2.0g/mで、これらの配合比が化工澱粉10部に対して、アルキルケテンダイマーが0.5〜3.0部とされており、アルキルケテンダイマーの塗布量が0.024〜0.46g/mと多く、塗工装置の汚れの問題が懸念される。
特許文献5に記載の発明は、ケテンダイマー系サイズ剤を外添することが記載されているが、表面処理剤の他の成分については特定されていない。
【0009】
上記技術によって、パイリングをある程度は防ぐことが出来るものの、パイリング防止対策としては十分ではなく、パイリングをより効果的かつ適切に防ぐことが出来る技術の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、印刷時のパイリングの発生を抑えたオフセット印刷用新聞用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明のオフセット印刷用新聞用紙は、
原紙の両面に、接着剤とアルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤を含む表面処理剤が塗工乾燥されてなるオフセット印刷用新聞用紙であって、該新聞用紙を蒸留水に浸漬して超音波処理した後の絶乾質量Aと、該超音波処理する前の新聞用紙の絶乾質量Bとに基づいて、下記(a)式で得られる質量変化Xが0.2g/m以下であることを特徴とする。
(a)X[g/m]=(B[g]−A[g])/(試験片の面積[m]×2)
第2発明のオフセット印刷用新聞用紙は、第1発明において、
アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の塗工量が片面0.001〜0.02g/mであり、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤の塗工量の比率が1対4〜4対1であることを特徴とする。
第3発明のオフセット印刷用新聞用紙は、第1発明または第2発明において、
前記表面処理剤に顔料を含み、顔料の塗工量が片面0.01〜0.50g/mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、印刷時において、紙から脱落する填料や表面処理剤を少なくでき、また、紙表面の粘着性が増加することも防ぐことができるから、パイリングの発生を抑えることができる。
第2発明によれば、表面処理剤がアルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤の両方を含んでいるので、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤によって高いサイズ効果を得つつアルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の塗工量を抑えることができる。すると、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤を新聞用紙に使用した場合に問題となる印刷時の滑りや、紙流れによるしわ入り、断紙等を防ぎながら、紙から脱落する填料や表面処理剤を少なくできるので、印刷時のパイリング発生を抑えることができる。
第3発明によれば、顔料を少量塗工しているので、顔料粒子が紙表面に表出して、印刷時に紙とブランケットとの密着性を弱めることができるので、パイリング発生を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は原紙に接着剤を含む表面処理剤を塗工したオフセット印刷用新聞用紙であり、原紙は古紙脱墨パルプ(DIP)を主原料とし、機械パルプを含有している。古紙脱墨パルプは新聞古紙、雑誌古紙等を脱インキして得られるものであり、資源の再利用の観点から、高配合するのが好ましい。機械パルプとしては、サーモメカニカルパルプ(TMP)、グランドウッドパルプ(GP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)、プレッシャライズドグランドウッドパルプ(PGW)などが使用できる。これらの機械パルプは新聞用紙の不透明度向上に寄与する。その他のパルプとしては、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)などの化学パルプを適宜配合することができる。化学パルプは、新聞用紙の強度向上に寄与する。
【0014】
本発明のオフセット印刷用新聞用紙では調成工程で原料となるパルプを混合した後、不透明度を向上させることを目的に填料を添加することができる。使用する填料としては、ホワイトカーボン、カオリン、タルク、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0015】
また、必要に応じ、鹸化ロジンサイズ剤、ロジンエマルジョンサイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸等のサイズ剤や、硫酸バンド、カチオン澱粉、カチオン性ポリアクリルアミド樹脂等の定着剤を内添することができ、その他、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、スライムコントロール剤、ピッチコントロール剤、消泡剤、染料等の添加剤も使用することができる。
とくに最近では、抄造時の操業性改善のため、あるいは、中性化による抄造pHの上昇や炭酸カルシウムを填料として内添する際の抄紙系内の汚れを低減するため、内添サイズ剤を減量、または添加せずに抄紙し、表面サイズ剤の塗工によりサイズ度を向上させることが多くなってきている。
【0016】
本発明のオフセット印刷用新聞用紙は、オフセット印刷が行われたときに、印刷前後における新聞用紙の質量変化が一定値以下となるように、表面処理剤の塗工量や成分を調整している。
具体的には、新聞用紙を20℃の蒸留水に浸漬して超音波処理した後の絶乾質量Aと超音波処理する前の新聞用紙の絶乾質量Bに基づいて、下記(a)式で得られる質量変化Xが0.2g/m以下となるように、表面処理剤の塗工量や成分を調整している。
(a)X[g/m]=(B[g]−A[g])/(試験片の面積[m]×2)
【0017】
上記(a)式で得られる質量変化Xの値は、水中に溶出して原紙から離脱する接着剤等の溶出量を示している。この質量変化Xが0.2g/mより大きい場合には、オフセット印刷時において、表面処理剤に含まれる接着剤の湿し水への溶出量が多くなり、また、紙粉や表面処理剤の他の成分の湿し水への溶出量も多くなるから、これらに起因するパイリングが発生する。
よって、新聞用紙は、質量変化Xが0.2g/m以下となるように、表面処理剤の塗工量や成分を調整すれば、オフセット印刷時におけるパイリングの発生を抑えることが出来る。
【0018】
質量変化Xを求めるために、新聞用紙を20℃の蒸留水に浸漬し、超音波処理しているのは、以下の理由による。
まず、新聞用紙を20℃の蒸留水に浸漬すると、オフセット印刷において原紙に湿し水が付着した状態を再現することができる。
また、蒸留水に浸漬した状態の新聞用紙に超音波処理すると、オフセット輪転機における印刷中に、湿し水が付着した原紙にオフセット輪転機から加わる刺激を再現することができる。言い換えれば、印刷中において、原紙に対して加わる摩擦力や圧力などのエネルギが作用した状態を再現することができる。
つまり、新聞用紙を20℃の蒸留水に浸漬し超音波処理するのは、実機印刷機に近い状態における接着剤等の溶出量を求めるためであり、かかる方法を利用すれば、新聞用紙を単に蒸留水に浸漬して得られる接着剤等の溶出量を求める場合に比べて、質量変化Xの値は実機印刷機で生じる湿し水への接着剤等の溶出量に近いものとなる。
よって、上記方法で得られた質量変化Xの値に基づいて新聞用紙を評価すれば、その新聞用紙のパイリングに対する耐性を適切に評価することができる。
【0019】
なお、蒸留水に浸漬する新聞用紙の大きさは特に限定されないが、新聞巻取紙から、その新聞巻取紙の巾で所定の長さだけ採取した新聞用紙を使用すれば、上記質量変化Xをその巻取紙の代表値とすることができるので、好適である。
【0020】
また、新聞用紙を浸漬する水は、20℃の蒸留水とすれば、新聞用紙のパイリングに対する耐性を評価するのに十分であるが、代用に水道水を用いてもよい。また、エッチ液を添加してもよい。
【0021】
さらに、蒸留水に浸漬されている新聞用紙に対して超音波処理を行う時間は、処理時間に対して質量変化Xが一定となる時間以上とする。処理時間に対して質量変化Xが一定となるのは、新聞用紙からの接着剤等の溶出と、紙粉、填料や顔料の流出がこれ以上増えない状態になっていることを示している。このため、かかる処理時間とすれば、新聞用紙が最もパイリングを起こしやすい状態で新聞用紙を評価できるので、新聞用紙のパイリングに対する耐性をより適切に評価することができる。
【0022】
蒸留水に浸漬されている新聞用紙を超音波処理する方法はとくに限定されないが、微細な泡の発生と破裂に伴い、エネルギを発生する超音波洗浄機を使用することができる。かかる超音波洗浄機は、例えば、コインや時計、宝石、貴金属、実験器具などの洗浄に利用されている公知のものを使用することができる。
そして、蒸留水に浸漬されている新聞用紙には、超音波処理に代えて、撹拌、ブラッシング等の方法やこれらの方法を組み合わせて、その表面にエネルギを加えることもできる。つまり、オフセット輪転機による印刷時において湿し水が付着した原紙に加わる摩擦力・圧力などのエネルギや刺激が作用した状態を再現でき、かかるエネルギや刺激を新聞用紙表面に加えることができる方法であれば、超音波処理に代えて採用することができる。
【0023】
本発明のオフセット印刷用新聞用紙は原紙に接着剤と表面サイズ剤を含む表面処理剤を塗工する。表面サイズ剤として、アルキルケテンダイマー(AKD)系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤を含む表面処理剤が塗工され、後述する質量変化が0.2g/m以下とされている。
アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤は少量でサイズ効果が高いが、滑りの問題があり、新聞用紙に使用すると、印刷時に紙流れによるシワ入りや断紙が発生するおそれがあり、使用が限られていた。また、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤は機械的安定性が低いので、高添加量になりやすく、しかも反応性が高いので、他の物質と凝集物を作り、塗工装置の汚れが発生しやすいという問題があった。
本発明では、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の塗工量を抑えて、滑りと塗工装置の汚れを防止し、必要なサイズ度は、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤と併用することにより、サイズ効果を発現させ、質量変化を所定の範囲としている。
【0024】
(アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤)
本発明で使用するアルキルケテンダイマー系表面サイズ剤としては、下記一般式化1であらわされるAKDが用いられる。
【化1】

(式中、R1、R2は、炭素数8〜30の飽和または不飽和炭化水素基)
【0025】
AKDは乳化剤によって水に分散されて用いられる。式中、R1、R2は同一又は異なる炭化水素基を示す。この炭化水素基としては、例えば、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコデシル等のアルキル基、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニル等のアルケニル基、オクチルフェニル、ノニルフェニル等のアルキル置換フェニル基、ノニルシクロヘキシル等のアルキル置換シクロアルキル基、フェニルエチル等のアラルキル基等が例示できる。これらのケテンダイマー系化合物は、1種または2種以上混合して用いられるが、その融点は40℃以下であることが好ましい。なお、ここで融点とは、上昇融点を言い、キャピラリー法で測定した値である。
【0026】
一般的なケテンダイマー系化合物は、牛脂を原料とした炭素数16、18の直鎖飽和脂肪酸の混合物から製造されたものを用いている。これは融点が48℃前後であり、この化合物を用いた表面サイズ剤の塗工液温度がこの化合物の融点以上である時は、粕の発生は少ないが、融点以下になると、粕が発生し、塗工装置の汚れを生じ、操業上の問題を起こしている。
【0027】
表面サイジングを行う場合には、紙層形成後の紙表面に表面処理剤を、サイズプレス、ゲートロールコーター、ビルブレードコーターあるいはキャレンダー等を用いて塗工する。この表面サイジングの目的は、紙にサイズ性を付与する以外に、紙に表面強度あるいは印刷適性を付与することが含まれる。これらの機能を付与するために、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉系接着剤、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子物質が使用されるが、これらの物質は予め高温でクッキング処理を行い糊化して用いなければならない。これらの水溶性高分子物質と表面サイズ剤を併用する場合、両者の水溶液を混合して用いることになる。この際、水溶性高分子物質はクッキング処理により高温の状態にあり、両者の水溶液の混合によって表面サイズ剤も高温になる。この時の温度は通常40〜60℃であり、表面サイズ剤は広い温度範囲に耐えられる熱安定性を必要とされる。よって、融点が40℃以下であるケテンダイマー系化合物を含有する製紙用サイズ剤組成物は、塗工液を使用する温度範囲にわたって、相変化が無く、熱及び機械的安定性が優れているため、粕等の発生も極めて少なく、塗工装置の汚れを軽減させることができ操業性を高めることができる。
【0028】
このような融点が40℃以下であるアルキルケテンダイマー系表面サイズ剤は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、前記一般式〔化1〕で示されるケテンダイマー系化合物の融点以上の温度でケテンダイマー系化合物と保護コロイド及び/又は分散剤とを水性溶媒中に混合し、ホモミキサー、高圧吐出型ホモジナイザー、超音波乳化機等の各種公知の乳化機で均一に分散させることにより得られる。さらに保護コロイド及び/又は分散剤は、公知のものを使用することができる。例えば、カチオン化澱粉等のカチオン性分散剤、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸塩等のアニオン性分散剤、ソルビタンエステル等のノニオン性分散剤、あるいはカチオン性、アニオン性、両性のアクリルアミド系ポリマー等の高分子保護コロイドを挙げることができる。これらは、1種あるいは2種以上併用して用いることができる。ケテンダイマー系化合物の濃度が10〜30重量%、分散相の粒子径が10μm以下であることが好ましい。
【0029】
(高分子系表面サイズ剤)
本発明で使用する高分子系表面サイズ剤としては、スチレンマレイン酸系共重合体、スチレンアクリル酸系共重合体、オレフィンマレイン酸系共重合体、スチレン系ポリマーなどの高分子化合物がある。
【0030】
(表面サイズ剤の塗工量、比率)
ここで、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の塗工量が片面0.001〜0.02g/mであり、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤の塗工量の比率が1対4〜4対1であることが好ましい。
【0031】
アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の塗工量が片面0.001g/mより少ないとサイズ度が不足し、0.02g/mより多いと新聞用紙の滑りや塗工装置の汚れのトラブルが起こりやすくなる。また、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤の塗工量の比率が1対4を超えて、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤が少ないと、表面サイズ剤の塗工量に対するサイズ度向上効果が不足し、コストアップとなる問題がある。4対1を超えて、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤が多いと、塗工装置の汚れのトラブルが起こりやすくなる。
【0032】
(接着剤)
また、印刷時のパイリング発生を抑える目的で接着剤を使用する。接着剤としては、澱粉系接着剤やポリアクリルアミド系接着剤を使用できる。澱粉系接着剤としては、酸化澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉等を使用することができる。ポリアクリルアミド系接着剤としては、ノニオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド(例えば、第3級アミン基及び/又は第4級アンモニウム塩基を有する水溶性ポリアクリルアミド)、アニオン性ポリアクリルアミド、あるいは両性ポリアクリルアミドなどが使用できる。
【0033】
その他の接着剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース化合物、カゼイン、合成たんぱく、大豆たんぱく等のたんぱく類、また、合成物であるポリビニルアルコールなどを使用してもよい。また、これに加えてスチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ラテックス類を使用することもできる。
【0034】
本発明のオフセット印刷用新聞用紙に塗工する接着剤の塗工量は、片面あたり固形分で0.3g/m以上とするのが好ましい。塗工量が片面あたり0.3g/mよりも少ないと表面強度向上効果が不十分で、超音波処理前後の質量変化が大きくなり、パイリングを起こしやすくなる。塗工量の上限は無いが、過剰になると印刷時に接着剤の溶出量が多くなるので、ネッパリトラブルを起こしやすくなる。
【0035】
(顔料)
本発明では、表面処理剤に顔料を使用するのも好ましい実施形態である。顔料を使用することにより、インキ着肉性、裏抜けの改善、白色度アップが見込める。使用する顔料としては、例えば、二酸化チタン、ホワイトカーボン、炭酸カルシウム、焼成カオリン、カオリンなどがあるが、二酸化チタン、ホワイトカーボンは高価であり、炭酸カルシウム、焼成カオリン、カオリンを単独あるいは併用で用いるのが好ましい。
【0036】
ここで、顔料の塗工量は片面0.01〜0.50g/mであることが好ましい。顔料の塗工量が片面0.01g/mより少ないと、前述した顔料使用の効果が低く、顔料の塗工量が片面0.50g/mより多いと、顔料の脱落が多くなり、超音波処理前後の質量変化が大きくなって、パイリングを起こすおそれがある。
表面処理剤には、その他、防滑剤、滑剤、増粘剤、消泡剤、染料など公知の薬品を使用することができる。
【0037】
本発明において、原紙に表面処理剤を塗工するコーターとしては、ゲートロールサイズプレス、2ロールサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター等が挙げられるが、低塗工量のコーテイングに適したゲートロールサイズプレスが好ましい。
また、表面処理剤を塗工された紙は乾燥工程を経てカレンダー処理を施される。ここで使用されるカレンダー装置としては両面が金属ロールで処理されるマシンカレンダー、弾性ロールと金属ロールから構成されるソフトカレンダー、シューカレンダー等が使用される。以上のようにして本発明のオフセット印刷用新聞用紙が製造される。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、質量%、質量部、塗工量は断りのない限り固形分または有効成分で表したものである。
【0039】
(実施例1)
パルプ原料としてDIP(カナダ標準濾水度190ml)を90質量%、TMP(カナダ標準濾水度110ml)を10質量%の割合で混合したパルプ原料100質量部に対し、歩留まり向上剤(製品名:ND260/ハイモ株式会社製)を0.020質量部、カオリンを5.0質量部添加し、硫酸バンドでpHを5.5に調整して、ハイブリッドフォーマー型抄紙機で抄紙した。次に、ゲートロールサイズプレスを用いて、顔料と接着剤と表面サイズ剤を含む表面処理剤を下記のように塗工した。
(表面処理剤塗工条件)
顔料として焼成カオリンを使用し、接着剤として酸化澱粉(製品名:MS9000/日本食品化工株式会社製)を使用し、表面サイズ剤としてアルキルケテンダイマー系表面サイズ剤(製品名:SE2395/星光PMC株式会社製)と高分子系表面サイズ剤(オレフィン系表面サイズ剤、製品名:ポリマロンOM−25/荒川化学工業株式会社製)を使用した。
顔料の片面当りの塗工量が0.010g/m、接着剤の片面当りの塗工量が0.50g/m、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.010g/m、高分子系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.010g/mとなるように、原紙両面に同じ塗工量で塗工した。
塗工後に、乾燥、カレンダー処理を経て、坪量43.0g/mのオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0040】
(実施例2)
接着剤の片面当りの塗工量が0.30g/mとなるように塗工した以外は実施例1と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0041】
(実施例3)
顔料の片面当りの塗工量が0.40g/m、接着剤の片面当りの塗工量が0.90g/m、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.020g/m、高分子系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.040g/mとなるように塗工した以外は実施例1と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0042】
(実施例4)
顔料の片面当りの塗工量が0.40g/m、接着剤の片面当りの塗工量が0.90g/mとなるように塗工した以外は実施例1と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0043】
(実施例5)
アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.0040g/m、高分子系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.016g/mとなるように塗工した以外は実施例4と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0044】
(実施例6)
アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.016g/m、高分子系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.0040g/mとなるように塗工した以外は実施例4と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0045】
(実施例7)
顔料の片面当りの塗工量が0.20g/mとなるように塗工した以外は実施例1と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0046】
(実施例8)
顔料の片面当りの塗工量が0.020g/m、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.020g/mとなるように塗工した以外は実施例1と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0047】
(実施例9)
顔料の片面当りの塗工量が0.020g/m、接着剤の片面当りの塗工量が1.0g/m、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.020g/mとなるように塗工した以外は実施例1と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0048】
(比較例1)
接着剤の片面当りの塗工量が0.20g/mとなるように塗工した以外は実施例1と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0049】
(比較例2)
顔料を塗工せず、接着剤の片面当りの塗工量が0.20g/mとなるように塗工した以外は実施例1と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0050】
(比較例3)
顔料の片面当りの塗工量が0.55g/m、接着剤の片面当りの塗工量が0.90g/mとなるように塗工した以外は実施例1と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0051】
(比較例4)
アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.025g/m、高分子系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.0050g/mとしたこと以外は比較例3と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0052】
(比較例5)
アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.0040g/m、高分子系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.020g/mとなるように塗工した以外は実施例4と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0053】
(比較例6)
アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤を塗工せず、高分子系表面サイズ剤の片面当りの塗工量が0.060g/mとなるように塗工した以外は実施例4と同様にオフセット印刷用新聞用紙を得た。
【0054】
実施例1〜9、比較例1〜6の各条件と得られたオフセット印刷用新聞用紙の評価結果を表1、表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
オフセット印刷用新聞用紙の評価方法は以下のとおりとした。
(超音波処理前後の質量変化)
各オフセット印刷用新聞用紙を縦(MD方向)250mm、横(CD方向)1,626mmの長方形に断裁した試験片を使用した。試験片は2枚準備し、1枚は超音波処理前の絶乾質量Bを求め、他の1枚は超音波処理前の絶乾質量Aを求めた。
超音波処理後の絶乾質量A(g)は、試験片をガラス容器に入れて20℃の蒸留水1000cmを注いで超音波洗浄機に入れて10分間処理した後、試験片を水から取り出して乾燥後測定した。
これら超音波処理後の絶乾質量A(g)と超音波処理前の絶乾質量B(g)との差から、次式により単位面積当り(水と接触した単位面積当り)の質量変化X(g/m)を求めた。
X=(B−A)/(1.626m×0.250m×2)
超音波洗浄機は、新明台工業株式会社製UA150(150W、26kHz)を使用した。なお、超音波処理時間は、10分間に設定しているが、これは10分間を超えても質量変化が増加しなかったためであり、10分間の超音波処理により、試験片から溶出する接着剤や、試験片から流出する紙粉、顔料、填料が無くなったことを示している。
【0058】
(パイリング評価)
実施例、比較例の各オフセット印刷用新聞用紙を、オフセット輪転機にかけ、5万部印刷後のブランケットと印刷面を観察し、次の4段階でパイリングを評価した。
◎:ブランケットにパイリングの発生がなく良好であった。
○:ブランケットにややパイリングの発生があるが、印刷面に問題のないレベルであった。
△:ブランケットにパイリングが発生し、印刷面にカスレがみられた。
×:ブランケットにパイリングが発生し、印刷面のカスレがひどかった。
【0059】
実施例1から実施例9に示すオフセット印刷用新聞用紙は、超音波処理前後の質量変化がいずれも0.20g/m以下であり、パイリング評価が良好であった。一方、比較例1は、接着剤の塗工量が片面あたり0.20g/mであり、超音波処理前後の質量変化が0.21g/mと本発明で特定する範囲より大きくなって、パイリング評価がやや悪くなっている。
【0060】
比較例2は、顔料を塗工せず、接着剤の塗工量が片面あたり0.20g/mとしており、超音波処理前後の質量変化が0.22g/mと比較例1よりやや大きくなっているが、パイリング評価は同程度であった。
【0061】
比較例3は、接着剤の塗工量を0.90g/mと多くしているが、顔料の塗工量が0.55g/mと、本発明で特定する範囲より多いため、超音波処理前後の質量変化が0.28g/mと大きくなって、パイリング評価が悪くなっている。
【0062】
比較例4は、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤の塗工量が片面あたり、それぞれ0.025g/m、0.0050g/mであり、その比率が5/1となっている。アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の塗工量が本発明で特定する範囲を超えており、しかも、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の比率が高いので、塗工装置の汚れトラブルが発生し、オフセット印刷用新聞用紙の製造が困難であった。
【0063】
比較例5は、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤の塗工量が片面あたり、それぞれ0.0040g/m、0.020g/mであり、その比率が1/5となっている。他の条件は実施例5と同じであるが、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の比率が低く、サイズ度が不足したためか、超音波処理前後の質量変化が0.23g/mとなり実施例5の0.20g/mより大きくなって、パイリング評価がやや悪くなっている。
【0064】
比較例6は、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤を使用せず、高分子系表面サイズ剤の塗工量が片面あたり0.060g/mとした例である。実施例3と比較すると、表面サイズ剤の塗工量が同じで、他の条件も同じであるが、サイズ度が不足し、超音波処理前後の質量変化が0.21g/mと実施例3の0.17g/mより大きくなって、パイリング評価が悪くなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の両面に、接着剤とアルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤を含む表面処理剤が塗工乾燥されてなるオフセット印刷用新聞用紙であって、該新聞用紙を蒸留水に浸漬して超音波処理した後の絶乾質量Aと、該超音波処理する前の新聞用紙の絶乾質量Bとに基づいて、下記(a)式で得られる質量変化Xが0.2g/m以下であることを特徴とするオフセット印刷用新聞用紙。
(a)X[g/m]=(B[g]−A[g])/(試験片の面積[m]×2)
【請求項2】
アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤の塗工量が片面0.001〜0.02g/mであり、アルキルケテンダイマー系表面サイズ剤と高分子系表面サイズ剤の塗工量の比率が1対4〜4対1であることを特徴とする請求項1に記載のオフセット印刷用新聞用紙。
【請求項3】
前記表面処理剤に顔料を含み、顔料の塗工量が片面0.01〜0.50g/mであることを特徴とする請求項1又は2に記載のオフセット印刷用新聞用紙。

【公開番号】特開2011−32594(P2011−32594A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178503(P2009−178503)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(304040072)丸住製紙株式会社 (51)
【Fターム(参考)】