説明

オフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物

【課題】オフセット輪転印刷に好ましく使用できる帯電防止剤組成物を提供する。
【解決手段】分子量200〜8000のポリエチレンオキシドを必須成分としてなることを特徴とするオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物、及び該濃縮組成物を10〜500倍に希釈したオフセット輪転印刷用帯電防止剤組成物。
【効果】オフセット輪転印刷に好ましく使用でき、印刷物の帯電や滑走性、コスレ性、湿潤性に関する問題を解消し、高品質の印刷物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物に関し、更に詳しくは印刷物のスタックや断裁を円滑に行わしめるために印刷物に耐コスレ性、すべり性を付与し、且つ印刷物の静電気を除去し、各種印刷後工程トラブルを生じさせないオフセット輪転印刷に好ましく使用できるオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物である。
【背景技術】
【0002】
オフセット輪転印刷は、巻紙(Web紙:ウェブ)を用い高速印刷を行い、オーブンで乾燥後冷却し、シリコンアプリケーターで帯電防止剤を塗布し、折機で処理後、シーダーで巻き取り紙を枚葉紙に断裁する工程を含む印刷方式である。
一般には、印刷物の帯電防止効果が低いと紙のくっつき、詰まりが発生しトラブルとなる。また印刷物に耐コスレ性、耐ひじわ性及び適度な滑り性がないと、コスレ汚れや円滑な断裁製本作業を阻害する。
【0003】
巻紙(Web紙)を用いたオフセット輪転印刷は高速印刷を確保できるが、印刷後工程での折り、断裁工程での1)静電気除去、2)滑走性、3)耐コスレ性、4)耐ひじわ性を解決することが不可欠である。これらの問題を解決する手段として、通常シリコンアプリケーターで、オーブン後の印刷面にシリコーン系帯電防止剤を塗布している(特許文献1)。
【0004】
オフセット輪転印刷では印刷物の乾燥を目的としてオーブンを通過させている。オーブンの排ガスは白金を触媒として燃焼処理を行っている。帯電防止剤塗布はオーブンの後工程ではあるが、印刷室内の雰囲気にシリコンが存在すると前記白金の触媒毒となり高額な白金触媒の寿命を縮めることとなる。従って、従来滑走性付与等を目的としてシリコーンエマルジョンが用いられていたが、ノンシリコンタイプのものが望ましい。
【特許文献1】特開平5−221170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
帯電防止剤は通常商業ベースでは、濃縮化したものを商品化することが一般的であり、本発明はこの濃縮帯電防止剤組成物に関する。
通常、印刷作業時にこの濃縮帯電防止剤組成物を水道水などで所望の濃度に希釈して使用している。
本発明の目的は、特に上記の印刷物に帯電している静電気を除去すると共に印刷物に滑走性、湿潤性、耐コスレ性を付与し円滑な折本の折り、スタッカーの揃い、背割れ防止に好ましく使用できるオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、オフセット輪転機の排ガス燃焼装置に充填されている触媒の被毒作用を有するシリコン化合物を含有しない帯電防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記印刷物に静電気除去、滑走性、耐コスレ性、湿潤性を付与する働きを有し、更には従来の濃縮帯電防止剤より更に高濃度に濃縮化が可能なオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物に関し鋭意研究を重ねた結果、特定の化合物を組み合わせることにより上記の問題は解消でき、且つ、高濃度に濃縮化しても安定性に優れ、使用に際して所望の濃度に容易に希釈化できるオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物が得られることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち本発明は、下記の式(I)で示されるポリエチレンオキシドを必須成分として含有してなることを特徴とするオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物を提供することである。
式(I):
【化1】

(式中、nは整数で2〜200を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記式(I)で示される化合物を必須成分とする組成物の使用によって、印刷物の帯電や滑走性、コスレ性、湿潤性に関する問題を解消できる。特に本発明は、従来から問題となっていた単一製品でこれら諸適性を全て満足することを可能としたシリコンフリーのオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の濃縮帯電防止剤組成物に使用する上記式(I)で示されるポリエチレンオキシドは水溶性高分子で、分子量200〜8000の範囲のものから選択使用され、高分子量(4000〜8000)と低分子量(200〜600)のものとの併用でもよく、また高分子量(4000〜8000)のもの単独でも使用できる。高分子量体と低分子量体とを併用する場合は、両者の分子量によって多少異なるが、高分子量体:低分子量体の割合は10:1〜2:1程度の範囲で用いられる。
使用量としては、好適に使用できる範囲は、濃縮帯電防止剤全重量に対して式(I)の化合物は0.5〜50重量%、より好ましくは1.5〜35重量%の範囲である。
【0010】
式(I)で示されるポリエチレンオキシドの具体例としては、ライオン株式会社から販売されている商品名"PEGシリーズ”等が挙げられる。本発明に於いては、PEG#200、PEG#300、PEG#400、PEG#4000、PEG#6000が好適に使用できる。
【0011】
更に本発明のオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物には、上記化合物の他に(a)界面活性剤、(b)防腐剤、(c)着色剤等を必要に応じて添加することができる。
好ましく使用できる(a)界面活性剤の種類はカチオン型界面活性剤であり、中でも塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等が好ましく使用できる。
これらの界面活性剤は単独でも、又2種以上併用することもでき、帯電防止剤使用時の発泡(起泡)を抑制する観点からはその含有量は、帯電防止剤組成物全重量に基づいて濃縮型では1.0%以下が、高濃度濃縮型では5.0%以下が適当である。
【0012】
本発明には、(b)防腐剤を必要に応じて添加することができる。帯電防止剤タンク中にカビが増殖すると、印刷後工程で悪影響を与え、印刷物を汚すなどの原因となることもあるので、これらを防止するために使用される。
本発明で好ましく使用できる防腐剤としては、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、四級アンモニウム塩、トリアゾール誘導体、オキサゾール又はオキサジンの誘導体、ブロモニトロプロパノール、1,1−ジブロモ−1−ニトロエタノール、3−ブロモ−3−ニトロペンタン等が挙げられる。
これらの防腐剤は、種々の調剤液が市販されており、これらの調剤液を使用することもできる。具体例としては、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体と1,1−ジブロモ−1
−ニトロ−2−エタノールを含有せしめた三愛石油(株)製のサンバック、東京ファイン(株)製のファインサイド、ケイ・アイ化成(株)製のバイオホープやタイショウテクノス(株)製のビオサイド6000wなどが挙げられる。
好ましい添加量は、細菌、酵母、カビに対して安定に効力を発揮する量であれば良く、カビ等の種類によっても異なるが、濃縮帯電防止剤組成物全重量に対して0.001〜5.0重量%の範囲が好ましい。又、種々のカビ、細菌、酵母に対して薬効のある2種以上の防腐剤を併用することもできる。
【0013】
本発明に使用できる(c)着色剤としては、食品用色素が好ましく使用できる。例えば、黄色色素としてはCI No.19140,15985、赤色色素としてはCI No.16185,45430,16255,45380,45100、紫色色素としてはCI No.42640、青色色素としてはCI No.42090,73015、緑色色素としてはCI No.42095等が挙げられる。
本発明の濃縮帯電防止剤組成物は、上記各成分のほか残部は水で調整される。
本発明の濃縮帯電防止剤組成物は、使用にあたり、10〜500倍、好ましくは10〜50倍に希釈して用いられ、印刷物への適用は従来のシリコンアプリケーターによる塗布と同様に、ロールコート、スプレーコートすることができる。
【実施例】
【0014】
次に本発明を実施例及び比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限られるものではない。
なお、以下の記載において%は特に指定のない限り重量%を示す。
【0015】
実施例1〜3及び 比較例1〜3
表1に記載の組成に従って、各種濃縮オフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物組成物を調製した。単位はグラムであり、純水を加えて全量を1000mlとした。
【表1】

表1において、実施例1〜3では高分子量ポリエチレンオキシドは分子量6000、低分子量ポリエチレンオキシドは分子量400のものを使用し、比較例1では分子量10000の高分子量ポリエチレンオキシドを用いた。ワックスエマルジョンは日本精蝋(株)製のもの、シリコンエマルジョンはエマルジョン型シリコーン系離型剤(信越化学工業(株)製)を示す。
【0016】
上記の如く調製した実施例1〜3、比較例1〜3のオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物について、下記(a)のようにして該組成物の濃縮化適性を評価した。更に実施
例1〜3、比較例1〜3で調製した濃縮帯電防止剤組成物を水道水を用いて必須成分1〜10%の濃度に希釈して帯電防止剤を調製した。
これらの希釈した帯電防止剤液について、三菱重工業 LITHOPIA オフセット輪転印刷機 (B全機)を使用して下記の印刷テスト(c)〜(e)を実施した。それらの結果を表2に示した。
【0017】
(a)液の濃縮化適性
上記のように調合したオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤を10mlバイアル瓶に入れ、常温放置して液の均一混合性を調べた。
A:1ヶ月間放置しても変化なし
B:成分の沈降物、浮遊物が少量発生する
C:完全に相分離する
【0018】
(b)滑走性
平板上に載せた印刷物面上に一定面積・一定重量のフィルムを載置し、このようにした印刷面を傾斜させていきフィルムが滑り始めた角度を測定した。フィルムはポリエチレンを用いた。
ここでは滑り角度が小さいほうが滑走性が良いことを示す。
(c)耐こすれ性
印刷部数5,000,10,000,20,000と印刷を続けて印刷物のこすれ汚れ状態を目視観察した。判定は以下の基準にしたがった。
A:印刷部数50,000枚以上でもこすれ汚れなし
B:印刷部数10,000〜50,000枚の間でこすれ汚れ
C:印刷部数10,000以下でこすれ汚れあり
【0019】
(d)帯電防止性
印刷機を毎分370回転で稼動させた状態での帯電防止剤塗布前後の静電気量を測定して静電気減少率を算出した。
(e)耐ひじわ性
印刷物のひじわ発生を目視観察した。
A:印刷物が平滑
B:印刷物に凹凸所謂ひじわが見られる。
【0020】
【表2】

ポリエチレンオキシドとシリコンエマルジョンを併用した比較例1では二層に分離し液の濃縮化適正が不良であった。
【0021】
実機試験(印刷機による印刷試験)
表1に示した組成の実施例及び比較例の各オフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物を水道水で希釈して必須成分5.0%溶液とし、印刷試験を行った。
印刷条件は下記の通りである。
印刷機 :三菱重工業 LITHOPIA オフセット輪転印刷機 (B全機)
温 度 :第1オーブン 268℃
第2オーブン 248℃
紙面 117℃
印刷速度 :370rpm
帯電防止剤 :5.0%希釈液
インキ :大日本インキ NEW WEB WORLD ADVAN 黄
大日本インキ NEW WEB WORLD ADVAN 紅
大日本インキ NEW WEB WORLD ADVAN 藍
大日本インキ NEW WEB WORLD ADVAN 墨
用 紙 :日本製紙 DT コート
【0022】
結果は次の通りであった。
比較例1のオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤は、二層分離し濃縮化が不良であるため製品化には至らなかった。
ポリエチレンオキシドを含有しない比較例2、比較例3では静電気減少率が低く紙の詰まり、くっつきが発生し作業効率を低下させた。
高分子量ポリエチレンオキシドの含有量が少ない実施例3は印刷部数50,000枚程度でこすれ汚れが認められ、ポリエチレンオキシドを含有しない従来の帯電防止剤である比較例2、比較例3では、印刷部数10,000〜50,000枚の間でこすれ汚れが認められた。実施例3はその他の点では、従来品と同等ないしは優れていた。
実施例1及び実施例2のオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤を使用した場合には、上述したような不具合の発生はなく、高品質の印刷物が得られた。
【0023】
高分子量ポリエチレンオキシドのみの組成物の結果
実施例1の組成において、ポリエチレンオキシドとして高分子量と低分子量のものに代えて、高分子量ポリエチレンオキシドのみ45gを配合し、実施例4として分子量6000、実施例5として分子量8000の高分子量ポリエチレンオキシドを配合した帯電防止剤組成物について上記と同様に試験した。その結果、実施例4、5のいずれも濃縮化、帯電防止性、印刷機試験等において高品質の印刷物が得られ、良好な結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で示されるポリエチレンオキシドを必須成分としてなることを特徴とするオフセット輪転印刷用濃縮帯電防止剤組成物。
一般式(I):
【化1】

(式中、nは整数で2〜200を表す。)
【請求項2】
式(I)で示されるポリエチレンオキシドの分子量が4000〜8000である請求項1記載の濃縮帯電防止剤組成物。
【請求項3】
請求項1記載の組成物を10〜500倍に希釈した組成のオフセット輪転印刷用帯電防止剤組成物。

【公開番号】特開2009−72979(P2009−72979A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242744(P2007−242744)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(591051139)冨士薬品工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】