説明

オリゴフェニレンエチニレン系化合物

【課題】固体デバイスへの応用が可能である新規のオリゴフェニレンエチニレン系化合物を提供する。
【解決手段】以下の一般式(1)で表されるオリゴフェニレンエチニレン系化合物。(但し、nは1乃至3の整数であり、R1、R2は、アルキル基、Xは、フェニルチオール誘導体、または含ケイ素アルキル基 を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のオリゴフェニレンエチニレン系化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
テルピリジンはマンガン、鉄、コバルト、ルテニウム、ニッケル、銅、亜鉛などの2価の遷移金属イオンと強い結合力で錯体を形成することが知られており(例えば、非特許文献1参照)、この錯体形成機能を利用した様々な研究例が既に報告されている。特に、図2の(A)に概念図を示すように、機能性部位Aと機能性部位Bとを繋ぐリンカーとしての応用が精力的に研究されている。例えば、親水性高分子と疎水性高分子を繋いだ両親媒性ブロック共重合体(非特許文献2参照)、電子ドナーとアクセプターの超分子集合体(非特許文献3参照)、蛍光センサー(非特許文献4参照)、刺激応答性ゲル(非特許文献5参照)等でリンカーとして用いられている。そして、これらの材料では、遷移金属との錯体形成を通じて、新しい機能を発揮することができるとされている。
【0003】
一方、アルカンチオール基を有するテルピリジンを合成し、金ナノ粒子を繋ぐリンカーとして用いた報告もある(非特許文献6参照)。この研究では、鉄イオンを加えると錯体が形成され、結果として、ナノ粒子が3次元的に繋がった集合体が形成されると報告されている。
【0004】
【非特許文献1】Rainer Dobrawa et. al., Macromolecules 2005, 38, 1315-1325
【非特許文献2】Bas G. G. Lohmeijer et. al., Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 3825-3829.
【非特許文献3】Abdelkrim El-ghayoury et. al., Thin Solid Film 2002, 403-404, 97-101.
【非特許文献4】Michael A. R. Meier et. al., Chem. Commun. 2005, 4610-4612.
【非特許文献5】J. Benjamin Beck et. al., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 13922-13923.
【非特許文献6】Tyler B. Norsten et. al., Nano Lett. 2002, 2, 1345-1348.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの非特許文献2〜非特許文献6にて報告された研究では、溶液中での錯体形成や機能が中心であり、固体デバイスへの応用に至っていない。
【0006】
従って、本発明の目的は、固体デバイスへの応用が可能である新規のオリゴフェニレンエチニレン系化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係るオリゴフェニレンエチニレン系化合物は、以下の一般式(1)で表されることを特徴とする。但し、nは1乃至3の整数であり、R1及びR2はCm2m+1(ここで、mは3乃至18の整数)を表し、OR1に対してOR2はパラ位を占め、Xは、以下の式(2−1),(2−2),(2−3)又は(2−4)で表される。
【0008】





【0009】
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係るオリゴフェニレンエチニレン系化合物は、オリゴフェニレンエチニレンの一端が、チオール基又はチオアセチル基で修飾されており、他端がテルピリジンと結合していることを特徴とする。
【0010】
そして、本発明の第2の態様に係るオリゴフェニレンエチニレン系化合物にあっては、チオール基又はチオアセチル基が金属と結合することで、あるいは又、以下の式(3−1)又は(3−2)で表されるTIPS基又はTMS基がSiと結合することで、金属粒子あるいは合金粒子あるいは半導体粒子と結合し、
テルピリジンが金属イオンと結合することで、オリゴフェニレンエチニレン系化合物同士が結合する形態とすることができる。
【0011】


【0012】
尚、テルピリジンが金属イオンと結合することで、金属錯体が形成される。ここで、金属イオンを構成する金属として、広くは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属を挙げることができ、具体的には、例えば、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、水銀(Hg)を挙げることができる。また、金属粒子あるいは合金粒子を構成する金属として、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、鉄(Fe)等の金属を挙げることができるし、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム燐(InP)、硫化鉛(PbS)、セレナ化鉛(PbSe)、テルル化鉛(PbTe)を挙げることができる。
【0013】
本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係るオリゴフェニレンエチニレン系化合物(以下、これらを総称して、単に、本発明のオリゴフェニレンエチニレン系化合物と呼ぶ場合がある)にあっては、例えば、金属粒子あるいは合金粒子の表面において、本発明のオリゴフェニレンエチニレン系化合物から成る自己集合単分子膜を形成した後、金属イオンの溶液に浸漬することで金属錯体を形成するといった使用方法を例示することができる。
【0014】
本発明のオリゴフェニレンエチニレン系化合物は、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)におけるチャネル形成層に適用することができるし、金属イオンの検出、定量化のための試薬として用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のオリゴフェニレンエチニレン系化合物において、フェニレンエチニレンである「尻尾部」は、共役系であり、剛直な構造を有し、長さが可変であるという特徴を有する。従って、例えば、金属微粒子間を、直線状に、云い換えれば、導電性の高い分子の状態で繋ぐことができ、また、同時に「粒子・分子・粒子」という基本ユニットから構成されたネットワークの電子状態が分子長によって制御できるという利点を有する。尚、本発明のオリゴフェニレンエチニレン系化合物は、尻尾部が剛直な共役構造を有するため、分子が比較的長いにも拘わらず(例えば、n=1にあっては、分子長は3.5nm)、高い導電性が期待できる。このような配位性リンカー分子の設計は、分子デバイスの高機能化を追及していく上で、有望な基礎技術となり得る。また、本発明のオリゴフェニレンエチニレン系化合物は、金属イオンと鋭敏に反応し得るので、金属イオンの検出、定量化のための試薬として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1は、本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係るオリゴフェニレンエチニレン系化合物に関する。実施例1のオリゴフェニレンエチニレン系化合物は、以下の一般式(1)で表される。但し、実施例1にあっては、
n :1
1及びR2:Cm2m+1(但し、m=6)
X :フェニルチオール基
とした。
【0018】

【0019】
あるいは又、実施例1のオリゴフェニレンエチニレン系化合物[オリゴ(1,4−フェニレンエチニレン)誘導体]は、オリゴフェニレンエチニレンの一端が、チオール基で修飾されており、他端がテルピリジンと結合している。ここで、チオール基が金属[例えば、金(Au)]と結合することで、オリゴフェニレンエチニレン系化合物は金属粒子(金粒子)と結合し、テルピリジンが金属イオン[例えば、鉄(Fe)イオン]と結合することで、オリゴフェニレンエチニレン系化合物同士が金属錯体を形成することで結合する。
【0020】
あるいは又、実施例1のオリゴフェニレンエチニレン系化合物は、テルピリジンにπ共役系スペーサーであるオリゴフェニレンエチニレン[より具体的には、オリゴ(1,4−フェニレンエチニレン)]を化学結合させ、更に、チオール基(あるいはチオアセチル基)で修飾した新規のリンカー分子である。
【0021】
以下、一般式(1)におけるn=1の化合物に相当する新規化合物であるオリゴフェニレンエチニレン系化合物、即ち、オリゴ(1,4−フェニレンエチニレン)誘導体の合成方法を、説明する。尚、実施例1のオリゴフェニレンエチニレン系化合物の合成ルートの概略を図1に示す。
【0022】
[化合物2]
エタノール300ミリリットルに、化合物1である2,5−ジブロムヒドロキノン(2,5-dibromohydroquinone)を20グラム(0.075モル)、KOHを14グラム(0.25モル)、更には、1−ヨウ化ヘキシル(1-iodohexane)を43グラム(0.20モル)、加えた溶液を調製し、アルゴン雰囲気下で一晩還流させた後、得られた懸濁液を冷却し、濾過した。次に、濾液を濃縮した。そして、200ミリリットルのCH2Cl2に溶解させ、次いで、200ミリリットルの水で2回洗浄し、溶媒を除去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:n−ヘキサン=1:2v/v)で精製することで、25グラムの黄色の化合物2を得た(収率:77%)。尚、化合物2におけるヘキシルオキシの側鎖は、可溶性付与のために付けてある。
【0023】
1H NMR(CDCl3):δ=7.10(s,2H),3.97(t,4H),1.84(m,4H),1.49(m,4H),1.36(m,8H),0.93(t,6H)
【0024】
[化合物3]
次に、化合物2に対して2当量のTMSA(trimethylsilylacetylene,トリメチルシリルアセチレン)を、Pd/Cuを触媒に用いたカップリング反応を生じさせることで、化合物3を得た。具体的には、化合物2(10.0グラム,23.0ミリモル)、Pd(PPh32Cl2(0.97グラム,1.4ミリモル)、及び、CuI(0.44グラム,2.3ミリモル)のTHF溶液10ミリリットルに、脱水したトリエチルアミン(9.5ミリリットル,69.1ミリモル)を加えた。そして、アルゴン雰囲気下、室温でTMSA(6.6グラム,67.3ミリモル)の溶液を加え、一晩、撹拌し、その後、水を加えてCH2Cl2で抽出し、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:n−ヘキサン=1:1v/v)で精製し、更に、GPC(BioBeads S−X3,溶離液:THF)で精製して、9.2グラムの黄色の化合物3を得た(収率:81%)。
【0025】
1H NMR(CDCl3):δ=6.91(s,2H),3.96(t,4H),1.80(m,4H),1.52(m,4H),1.35(m,8H),0.92(t,6H),0.27(s,18H)
MALDI−TOF−MS:m/z=470.14[M+
28462Si2計算値:m/z =470.30
【0026】
[化合物4]
次に、化合物3と1−ブロム−4−ヨードベンゼン(1-bromo-4-iodobenzene)の脱シリル化反応とカップリング反応を生じさせることで、化合物4を得た。具体的には、化合物3(7.85グラム,16.7ミリモル)とK2CO3(13.85グラム,100.2ミリモル)のTHF/メタノール溶液(1:1v/v,100ミリリットル)を、アルゴン雰囲気下、50゜Cで30分間撹拌した。次に、Pd(dba)2(0.96グラム,1.6ミリモル)、CuI(0.32グラム,0.1ミリモル)、トリフェニルホスフィン(triphenylphosphine,0.88グラム,0.19ミリモル)、更には、1−ブロム−4−ヨードベンゼン(14.20グラム,50.1ミリモル)のTHF溶液(50ミリリットル)を加え、アルゴン気流下、60゜Cで一晩撹拌して反応させた。その後、水を加えて反応を止め、有機溶媒を除去した。次いで、CH2Cl2で抽出し、溶媒を取り除いた。そして、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:n−ヘキサン=1:2v/v)で精製し、更に、GPC(BioBeads S−X3,溶離液:THF)で精製して、8.8グラムの黄色の化合物4を得た(収率:83%)。
【0027】
1H NMR(CDCl3):δ=7.50(d,4H),7.40(d,4H),7.01(s,2H),4.04(t,4H),1.85(m,4H),1.37(m,8H),0.91(t,6H)
MALDI−TOF−MS:m/z=636.02[M+
3436Br22計算値:m/z =636.10
【0028】
[化合物5]
次に、化合物4の一方の端にのみ、Sonogashira カップリング条件で、TMS基を付けた。具体的には、化合物4(4.0グラム,6.3ミリモル)、Pd(PPh32Cl2(133ミリグラム,0.19ミリモル)、及び、CuI(60ミリグラム,0.31ミリモル)のTHF溶液(10ミリリットル)に、脱水したトリエチルアミン(1.3ミリリットル,9.45ミリモル)を加えた。そして、アルゴン気流下、60゜CでTMSA(0.50グラム,5.0ミリモル)の溶液を加え、一晩、撹拌しつつ反応させ、その後、水を加えて反応を止めた。CH2Cl2で抽出し、溶媒を取り除いた。そして、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:n−ヘキサン=1:1v/v)で精製し、更に、GPC(BioBeads S−X3,溶離液:THF)で精製して、3.3グラムの黄色の化合物5を得た(収率:80%)。
【0029】
MALDI−TOF−MS:m/z =654.00[M+
3945BrO2Si計算値:m/z=652.23
【0030】
[化合物6]
その後、TIPSA(triisopropylsilylacetylene,トリイソプロピルシリルアセチレン)をPd/Cu触媒下でカップリングさせることで、非対称に保護された化合物6を得た。具体的には、化合物5(5.97グラム,9.15ミリモル)、Pd(PPh32Cl2(190ミリグラム,0.27ミリモル)、及び、CuI(86ミリグラム,0.45ミリモル)のTHF溶液(20ミリリットル)に、脱水したトリエチルアミン(2.5ミリリットル,18.3ミリモル)を加えた。そして、アルゴン気流下、60゜CでTIPSA(2.0ミリリットル,9.15ミリモル)の溶液を加え、一晩、撹拌しつつ反応させ、その後、水を加えて反応を止めた。CH2Cl2で抽出し、溶媒を取り除いた。そして、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:n−ヘキサン=1:2v/v)で精製し、更に、GPC(BioBeads S−X3,溶離液:THF)で精製して、3.0グラムの黄色の化合物6を得た(収率:43%)。
【0031】
1H NMR(CDCl3):δ=7.47(d,8H),7.02(d,2H),4.04(t,4H),1.86(m,4H),1.58(m,4H),1.38(m,8H),1.16(s,18H),0.92(t,6H),0.28(s,9H)
MALDI−TOF−MS:m/z=753.36[M+
50662Si2計算値:m/z =754.46
【0032】
[化合物7]
次いで、選択的にTMS基だけを炭酸カリウムを用い取り除き、化合物7を得た。具体的には、化合物6(3.0グラム,4.0ミリモル)とK2CO3(1.6グラム,12ミリモル)のTHF/メタノール溶液(1:1v/v,200ミリリットル)を、60゜Cで一晩撹拌した。その後、NH4Clの飽和水溶液を加えて溶液を中性とし、有機溶媒を取り除いた。CH2Cl2で抽出し、溶媒を取り除いた。そして、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:n−ヘキサン=1:3v/v)で精製し、更に、GPC(BioBeads S−X3,溶離液:THF)で精製して、2.0グラムの黄色の化合物7を得た(収率:72%)。
【0033】
1H NMR(CDCl3):δ=7.49(d,8H),7.03(d,2H),4.05(t,4H),3.20(s,1H),1.85(m,4H),1.57(M,4H),1.39(m,8H),1.14(s,18H),0.94(t,6H)
MALDI−TOF−MS:m/z=682.27[M+
47582Si計算値:m/z =682.41
【0034】
[化合物8]
一方、2,2’:6’,2”−テルピリジン−4’(1’H)−オン(5.0グラム,0.02モル)を、POCl3(50グラム)とPBr3(50グラム)とPOBr3(5グラム)との混合溶液に溶かした。次に、この混合物を100゜Cで1日撹拌した。そして、冷却後、激しく撹拌しつつ、反応物を氷水300ミリリットルに注意深く流し込み、1時間そのまま放置して反応を完了させた。次に、0.2NのNaOH水溶液をゆっくりと加えて、溶液を塩基性にした。このようにして得られた白色の沈殿物を濾過し、100ミリリットルの水で2回、洗浄し、減圧乾燥させた。その後、エタノールから再結晶させることで純度を上げ、4.1グラムの白色の化合物8を得た(収率:66%)。
【0035】
1H NMR(CDCl3):δ=8.72〜8.49(m,6H),7.87(t,2H),7.37(t,2H)
MALDI−TOF−MS:m/z=311.62[M+
1510BrN3計算値:m/z =311.00
【0036】
[化合物9]
その後、化合物7と化合物8とをカップリングさせて化合物9を得る。具体的には、化合物8(1.32グラム,4.26ミリモル)、Pd(PPh32Cl2 (45ミリグラム,0.064ミリモル)、及び、CuI(20ミリグラム,0.106ミリモル)のTHF溶液(5ミリリットル)に、脱水したトリエチルアミン(0.9ミリリットル,8.52ミリモル)を加えた。そして、アルゴン雰囲気下、60゜Cで化合物7(1.95グラム,2.13ミリモル)のTHF溶液(5ミリリットル)を加え、一晩、撹拌しつつ反応させ、その後、NH4Clの飽和水溶液を加えた。CH2Cl2で抽出し、溶媒を取り除いた。その後、アルミナゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:酢酸エチル=5:1v/v)で精製し、更に、GPC(BioBeads S−X3,溶離液:THF)で精製して、1.4グラムの黄色の化合物9を得た(収率:71%)。
【0037】
1H NMR(CDCl3):δ=8.74(d,2H),8.64(d,2H),8.60(s,2H),7.89(d,2H),7.56(s,4H),7.47(s,4H),7.38(t,2H),7.03(d,2H),4.06(t,4H),1.87(s,4H),1.57(s,4H),1.38(s,8H),1.15(s,18H),0.92(t,6H)
MALDI−TOF−MS:m/z=914.14[M+
626732Si計算値:m/z=913.50
【0038】
[化合物10]
その後、TBAF(tetrabutylammonium fluoride,フッ化テトラブチルアンモニウム)で、化合物9におけるTIPS(triisopropylsilyl,トリイソプロピルシリル)基を取り除いた。具体的には、化合物9(1.4グラム,1.53ミリモル)のTHF溶液(50ミリリットル)に、フッ化テトラブチルアンモニウム三水和物(0.96グラム,3.06ミリモル)のTHF溶液(3ミリリットル)を加えた。そして、室温で10分間撹拌しつつ反応させ、その後、NH4Clの飽和水溶液を加え、溶液を中性に戻し、有機溶媒を取り除いた。CH2Cl2で抽出し、溶媒を取り除いた。その後、アルミナゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:酢酸エチル=5:1v/v)で精製し、更に、GPC(BioBeads S−X3,溶離液:THF)で精製して、0.8グラムの黄色の化合物10を得た(収率:73%)。
【0039】
MALDI−TOF−MS:m/z=757.37[M+
534732計算値:m/z =757.36
【0040】
尚、化合物10は、例えば、Siと容易に結合するので、例えば、シリコン半導体基板の表面に、化合物10から構成された導電性の薄層を容易に形成することができる。
【0041】
[化合物11]
一方、−78゜Cに冷却した1,4−ジヨードベンゼン(1,4-diiodobenzene,4.95グラム,17.5ミリモル)のジエチルエーテル溶液(50ミリリットル)に、t−ブチルリチウム(tert-butyllithium,18.5ミリリットル,31.5ミリモル,ペンタン中1.7M)を滴下した。そして、−78゜Cに冷却したまま、30分間撹拌した。次に、硫黄粉末(S8)0.57グラム(17.5ミリモル)を一気に加え、0゜Cで1時間撹拌した。次いで、溶液を再度−78゜Cに冷却し、塩化アセチル(1.54ミリリットル,21.0ミリモル)を一気に加えた。その後、水を加えて反応を止め、有機溶媒を取り除いた。CH2Cl2で抽出し、溶媒を取り除いた。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:n−ヘキサン=1:2v/v)で精製することで、2.32グラムの白色の化合物11を得た(収率:48%)。
【0042】
1H NMR(CDCl3):δ=7.75(d,2H),7.15(d,2H),2.44(s,3H)
【0043】
[化合物12]
そして、化合物10(0.73グラム,0.96ミリモル)、化合物11(0.81グラム,0.89ミリモル)、更には、Pd(PPh32Cl2(34ミリグラム,0.048ミリモル)、及び、CuI(15ミリグラム,0.077ミリモル)のTHF溶液(15ミリリットル)に、脱水したトリエチルアミン(0.4ミリリットル,3.85ミリモル)を加え、アルゴン雰囲気下、60゜Cで一晩撹拌しつつ反応させた。その後、水を加えて化合物を溶解させ、CH2Cl2で抽出し、溶媒を取り除いた。次いで、アルミナゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:酢酸エチル=5:1v/v)で精製し、更に、GPC(BioBeads S−X3,溶離液:THF)で精製して、0.4グラムの黄色の化合物12を得た(収率:42%)。
【0044】
1H NMR(CDCl3):δ=8.74(d,2H),8.64(d,2H),8.60(s,2H),7.90(d,2H),7.55(d,8H),7.43〜7.28(m,4H),7.04(s,2H),4.07(t,4H),2.45(s,3H),1.87(m,4H),1.57(s,4H),1.39(t,8H),0.94(t,6H)
MALDI−TOF−MS:m/z=908.38[M+
615333S計算値:m/z =907.38
【0045】
[化合物13]
その後、化合物12において、水酸化アンモニウムでチオアセチル基を脱保護化させて、チオール基に変えて、目的の化合物である化合物13を得ることができた。具体的には、化合物12(72ミリグラム,0.080ミリモル)のTHF溶液(2ミリリットル)に、25%のアンモニア水溶液(0.5ミリリットル)を加え、室温で1時間撹拌して反応を生じさせ、NH4Clの飽和水溶液を加えて溶液を中性に戻した後、CH2Cl2を加え水層を抽出し、溶媒を取り除いた。その後、アルミナゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:酢酸エチル=5:1v/v)で精製し、更に、GPC(BioBeads S−X3,溶離液:THF)で精製して、65ミリグラムの黄色の化合物13を得た(収率:94%)。
【0046】
MALDI−TOF−MS:m/z=865.44[M+
534732計算値:m/z =865.37
【0047】
得られた化合物13のオリゴフェニレンエチニレン系化合物(配位性有機半導体分子)は、例えば、金属微粒子の表面の金属原子と化学結合するアンカー部位(チオール基)、共役系部位(フェニレンエチニレンである「尻尾部」)、及び、錯体形成部位(テルピリジン部位)の3つのユニットから構成されている。
【0048】
得られた化合物13のオリゴフェニレンエチニレン系化合物が金属イオンと錯体を形成することを、UV−Vis吸収スペクトル測定によって確認した。図2の(B)に測定結果を示す。図2の(B)において、点線の曲線は、化合物13のオリゴフェニレンエチニレン系化合物のジクロロメタン溶液を表し、実線の曲線は、化合物13のオリゴフェニレンエチニレン系化合物のジクロロメタン溶液にFe(BF42のメタノール溶液を加えたものを表す。溶液の調製及びスペクトル測定を室温にて行った。580nm〜590nmに、錯体形成により新たに生じたMLCT遷移(Metal-to-Ligand Charge Transfer transition)に帰属するピークが見られることから、錯形成が確認された。
【0049】
得られた化合物13のオリゴフェニレンエチニレン系化合物は、具体的には、例えば、以下のように用いることができる。即ち、先ず、金属微粒子溶液(コロイド)中で、金属微粒子の表面に形成されていた保護膜分子を、化合物13のオリゴフェニレンエチニレン系化合物の分子で置換する。金属微粒子における金属に、化合物13のオリゴフェニレンエチニレン系化合物のチオール基が結合する。尚、保護膜は、通常、金属粒子同士の凝集を防ぐために形成されている。次いで、化合物13のオリゴフェニレンエチニレン系化合物の分子を「新たな保護膜」として有する金属微粒子コロイドに基づき、例えば、LB法によって、所望の基体上に密な金属微粒子のアレイを形成する。その後、金属の塩を投入し、金属イオンを配位性分子(テルピリジン)と錯体を形成させることで、金属微粒子同士がリンクされる。このような手順でネットワークを築くことで、分子の長さに依存しないネットワークを得ることが可能となる。
【0050】
1とR2とが異なる場合にも、実施例1と同様の方法で、Xがフェニルチオール、フェニルチオアセチル、TIPS、TMSの場合のオリゴフェニレンエチニレン化合物13’,12’,9’,14を合成することができる。合成ルートを図3に示す。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、実施例1のオリゴフェニレンエチニレン系化合物の合成ルートの概略である。
【図2】図2の(A)は、テルピリジンと2価の遷移金属イオンとの強い結合力で錯体が形成された状態の概念図であり、図2の(B)は、実施例1のオリゴフェニレンエチニレン系化合物が金属イオンと錯体を形成することを確認したUV−Vis吸収スペクトル測定結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1のオリゴフェニレンエチニレン系化合物の別の例における合成ルートの概略である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(1)で表されることを特徴とするオリゴフェニレンエチニレン系化合物。

但し、nは1乃至3の整数であり、R1及びR2はCm2m+1(ここで、mは3乃至18の整数)を表し、OR1に対してOR2はパラ位を占め、Xは、以下の式(2−1),(2−2),(2−3)又は(2−4)で表される。




【請求項2】
オリゴフェニレンエチニレンの一端が、チオール基又はチオアセチル基で修飾されており、他端がテルピリジンと結合していることを特徴とするオリゴフェニレンエチニレン系化合物。
【請求項3】
チオール基又はチオアセチル基が金属と結合することで、あるいは又、以下の式(3−1)又は(3−2)で表されるTIPS基又はTMS基がSiと結合することで、金属粒子あるいは合金粒子あるいは半導体粒子と結合し、
テルピリジンが金属イオンと結合することで、オリゴフェニレンエチニレン系化合物同士が結合することを特徴とする請求項2に記載のオリゴフェニレンエチニレン系化合物。



【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−46405(P2009−46405A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212199(P2007−212199)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】