説明

オリゴ糖の製造方法

【課題】 温和な条件下で効率良く、より複雑な構造をもつオリゴ糖を製造する方法を提供する。
【解決手段】
一般式1
【化1】



(式中、環Aは単糖類及びその誘導体を表わし、Sは環Aのアノマー位の炭素に結合しており、nは1もしくは2であり、Rは1価のアルキル基もしくは1価のアリール基を表わす)で表される糖供与体と平均重合度が2〜20のキシロオリゴ糖からなる糖受容体とをグリコシル化反応させることを特徴とするオリゴ糖の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴ糖を効率的かつ工業的規模で安価に製造する方法に関する。特に本発明は、温和な条件下で効率良く、より複雑な構造をもつオリゴ糖を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の急速な高齢化社会への移行と健康志向の高まりから、健康の維持・増進、疾病の予防と回復などに関わる生体調節機能が食品に求められるようになった。このような状況において種々の機能性食品の開発が行われ、糖質においても低カロリー、整腸作用、虫歯予防などの機能をもつオリゴ糖が注目されている。
【0003】
ほとんどの糖類はホモキラル(光学活性)であり、この特性を利用するために糖類を機能性物質の合成原料として用いたり、ホモキラルな光学素子として利用することが行われている。例えば、セルロースのヒドロキシプロピル誘導体のコレステリック液晶について、そのピッチを電気的な刺激によって変化させ、表示分野に応用する可能性があることが知られている(非特許文献1参照)。さらに、このようなコレステリック液晶の構造を固定化すると、円偏光散乱フィルムが得られることが知られている。そのため、近年、種々の機能をもったオリゴ糖を得るために簡便かつ汎用的なオリゴ糖の製造法の開発が進展している。
【0004】
オリゴ糖を得る手段としては、小麦フスマやコーンコブといった植物の主要構成成分から抽出することが広く行われている。例えば、製紙用パルプのヘミセルラーゼ処理液中からキシロオリゴ糖を回収、精製することができる(特許文献1参照)。しかしながら、この方法で得られるキシロオリゴ糖は6割以上が中性糖であり、生理学的な効果が期待される酸性キシロオリゴ糖は全体の4割以下で効率よく得られない。中性キシロオリゴ糖にグルクロン酸を化学的に結合させることができれば、木材から得られるキシロース成分を更に有効に活用できるが、現在までにこの化学反応を進める効率的な手法は確立されていない。
【0005】
従来のオリゴ糖の製造法としては、アノマー位に脱離基を有する糖(糖供与体)と遊離の水酸基をもつ糖(糖受容体)の縮合反応であるグリコシル化反応が挙げられる。通常のオリゴ糖の化学合成においては、グリコシル化により得られた新たな糖のアノマー位の保護基を除去し、脱離基を導入して糖供与体とした後、次の糖受容体と縮合を行うか、又は新たな糖の水酸基の保護基を除去して糖受容体とし、次の糖供与体と縮合を行う。これらの工程を繰り返し行うことによって糖鎖を伸長させる。
【0006】
従来、この反応には糖供与体として糖のアノマー位の炭素がクロロ化もしくはブロモ化された糖誘導体が用いられてきた(非特許文献2参照)。これらは対応する1−O−アシル化糖にハロゲン化水素を作用させたもので、この糖供与体を用いてグリコシド結合を生成することができる。しかし、ハロゲン化水素を用いる方法は酸に敏感な保護基を有する化合物には適用することができず、高度に脱水した反応条件が必要とされる。また、オリゴ糖に適用する際に上記の糖のアノマー位の炭素がクロロ化もしくはブロモ化された糖誘導体を用いた場合は、グリコシド結合が開裂する可能性があり、工業化は困難であった。
【0007】
これらの問題を解決する方法として、最近ではグリコシルイミデート、チオグリコシド、グリコシルフルオリドを糖供与体として用いる反応が開発されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5参照)。これらの方法において共通するのは、クロロ化もしくはブロモ化されたグリコシルハライドと比較してはるかに安定で比較的温和な条件で調製でき、活性化に必要とされる試薬もグリコシルハライドと比較して多様なことであり、従来の方法ではグリコシル化が不可能な基質に対しても適用できる可能性がある。
【0008】
これらの方法の中でも、チオグリコシドを糖供与体として用いる方法は、酸及び塩基性条件下での保護基の導入や脱保護基、及び通常用いられるグリコシル化反応の条件下で影響を受けないため、ほかのグリコシル化反応と組み合わせると複雑なオリゴ糖を効率よく合成することが可能である。また、ジチオグリコシドを用いることにより著しく収率が上がることも報告されている(非特許文献6参照)しかしながら、高重合度のオリゴ糖を合成する場合、反応を多段階にわたって行う必要があり、コストがかさむという問題があった。
【0009】
効率的にオリゴ糖を合成する方法としては、One−Potグリコシル化反応がある。One−Potグリコシル化反応は糖供与体あるいは糖受容体の反応性の違いを利用し、糖供与体の脱離基と活性化剤の組み合わせを複数用いることにより、1つのフラスコ内で連続的にグリコシド結合を形成させる反応であるが、使用する薬剤が多岐にわたり工程が複雑かつ精密な制御を要するという問題があった(特許文献2、非特許文献7、非特許文献8 参照)。
【特許文献1】特開2000−333692号公報
【特許文献2】特表2002−522598号公報
【非特許文献1】R.Chiba et al.,Macromolecules.,vol.36,pp.1706-1712(2003)
【非特許文献2】H.G.Fletcher et al.,Methods Carbohydr. Chem.,vol.2,pp.226(1963)
【非特許文献3】A.H.Haines.,Adv.Carbohydr.Chem.Biochem.,vol.33,pp.11(1976)
【非特許文献4】D.Horton.,Adv. Carbohydr. Chem.,vol.18,pp.123,(1963)
【非特許文献5】K.C.Nicolaou et al.,Journal of American Chemica Society.,vol.106,pp.4189-4192(1984)l
【非特許文献6】E. J. Grayson et al.,Journal of Organic Chemistry,vol.70,pp9740-9754,(2005)
【非特許文献7】Z,Zhang et al., Journal of American Chemical Society.,vol.121,pp.734-753(1999)
【非特許文献8】H,Yamada et al.,Tetrarhedron Letter.,vol40,4581(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、温和な条件下で効率良く、より複雑な構造をもつオリゴ糖を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、単糖もしくは単糖誘導体にスルフィド結合もしくはジスルフィド結合を付与したものを糖供与体とし、重合度が2〜20のオリゴ糖を糖受容体として反応させた場合に、特に効率よく簡便にグリコシル化反応が進むことを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の各発明を包含する。
【0012】
(1)一般式1
【化1】


(式中、環Aは単糖類又はその誘導体を表わし、Sは環Aのアノマー位の炭素に結合しており、nは1もしくは2であり、Rは1価のアルキル基もしくは1価のアリール基を表わす)で表される糖供与体と平均重合度が2〜20のキシロオリゴ糖からなる糖受容体とをグリコシル化反応させることを特徴とするオリゴ糖の製造方法。
【0013】
(2)前記一般式1中の環Aは、グルコース、キシロース及びグルクロン酸から選ばれる少なくとも1種である(1)項記載のオリゴ糖の製造方法。
【0014】
(3)前記糖受容体としての平均重合度が2〜20のキシロオリゴ糖は、反応に関与しない水酸基が全て保護されているキシロオリゴ糖であることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載のオリゴ糖の製造方法。
【0015】
(4)前記平均重合度が2〜20のキシロオリゴ糖がアセタール化されたキシロオリゴ糖であることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載のオリゴ糖の製造方法。
【0016】
(5)前記糖供与体が前記一般式1中の環Aが中性単糖類又はその中性誘導体を表わす単糖類又はその誘導体からなり、前記グリコシル化反応後にアルコール性水酸基をカルボキシル基に転化する酸化反応が行なわれることを特徴とする(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載のオリゴ糖の製造方法。
【0017】
(6)前記グリコシル化反応における糖供与体がグルコピラノシルメタンサルファイト類又はグルコピラノシルメタンジサルファイト類であり、糖受容体がグリコシル化反応に関与しない水酸基が保護されたキシロオリゴ糖類であることを特徴とする(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載のオリゴ糖の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法は、反応に使用される糖供与体が安定で調製が容易であり、なおかつ、反応性が高いために収率が高く、原材料としてオリゴ糖を使用しているために多段階にわたる合成を省略でき、工業的に有利なオリゴ糖の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明のグリコシル化反応における糖供与体である単糖及び糖誘導体は下記一般式1で表される。
【0020】
【化2】

【0021】
上記一般式1において、Aは糖もしくは糖誘導体であり、糖の環状構造は5員環であっても6員環であってもよい。通常、アルドースを使用するが、ケトースも使用することができる。具体的には、これらの糖として、エリスロース、スレオース等のテトラオース、リボース、アラビノース、キシロース等のペントース、グルコ−ス、マンノ−ス、ガラクト−ス、アロース、タロース等のヘキソース、又は2−デオキシグルコース、2−デオキシリボース等これらの糖の一部がデオキシ化された糖あるいは2−アセトアミド−2−デオキシグルコ−ス等のアミノ糖、さらには、シアル酸、グルクロン酸などを挙げることができる。誘導体化された糖としては、グルコースの4位の水酸基がメチルエーテル化された4−0−メチルグルクロン酸などグルクロン酸誘導体などが上げられる。また、これらの糖にはD体、L体が存在するが、そのいずれでも、また、混合物でも使用できる。nとしては1、2いずれでもよく、Rはメチル基、エチル基等のアルキル基やフェニル基等の芳香族が用いられるが、置換基による制限はない。
【0022】
これらの糖は、アノマー位以外の水酸基を全て保護して使用できることは言うまでもないが、溶解性等のため必要最小限保護した遊離の水酸基を有する誘導体でも差し支えない。水酸基の保護基としては従来周知のものを使用できる。具体的には、アセチル、トリフルオロアセチル、トリクロルアセチル、ベンゾイル、p−ニトロベンゾイル基等のアシル基で保護する方法、アセトアルデヒド、アセトンなどでアセタール化する方法、メチル、ベンジル、トリフェニルメチル基等のアルキル基でエーテル化する方法、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル基等でシリル化する方法などを挙げることができる。
【0023】
糖受容体となるオリゴ糖としては、平均重合度が2〜20のオリゴ糖であれば、構成する糖の種類の制限はないが、特にキシロース、グルコースは木材資源として豊富にあり、好適である。オリゴ糖の重合度が20を超える場合、オリゴ糖を構成する立体構造が複雑となりグリコシル化反応が進み難くなる。キシロオリゴ糖を得る手段としては、特許文献1に記載されている方法で効率的に木材パルプから得ることができる。この製造法によりキシロオリゴ糖を製造する場合、使用するキシラナーゼの種類、酵素添加量、酸処理条件などを変化させることで容易にオリゴ糖の重合度を調整することができる。
【0024】
糖受容体となるオリゴ糖には数多くの水酸基があるが、反応に関与しない水酸基は全て保護する必要がある。水酸基の保護基としては、従来周知のものを使用できる。具体的には、アセチル、トリフルオロアセチル、トリクロルアセチル、ベンゾイル、p−ニトロベンゾイル基等のアシル基で保護する方法、アセトアルデヒド、アセトンなどでアセタール化する方法、メチル、ベンジル、トリフェニルメチル基等のアルキル基でエーテル化する方法、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル基等でシリル化する方法などを挙げることができる。特に、キシロオリゴ糖受容体の水酸基を保護する場合はアセトアルデヒド、アセトンなどでアセタール化すればオリゴ糖を構成する末端のキシロース単位においてアセタール化されてない水酸基が一つ残るため、この水酸基をグリコシル化反応の反応基として用いることができ、好ましい。
【0025】
次に、グリコシル化反応について述べる。本発明では糖供与体としてチオグリコシド、ジチオグリコシドを用いるが、以下に示す公知の方法により合成できる。
まず、チオグリコシドの合成法について述べる。最初に糖の水酸基を保護した誘導体にVilsmeier試薬を反応させてグリコシルハライドへと変換する。反応温度は5℃〜10℃の間で行うのが好ましい。得られたグリコシルハライドにナトリウムメタンチオサルフォネートをジオキサンなどの溶媒中で反応させることでチオグリコシドが得られる。溶媒は極性溶媒、特に非プロトン性極性溶媒が望ましいが特に制限はない。反応温度は50℃〜100℃が望ましい。ナトリウムメタンチオスルフォネートは塩化メタンスルフォニルを硫化ナトリウム9水和物と水中で反応させることにより得られる。
【0026】
ジチオグリコシドの合成についても公知の方法が適用できる。上記反応で得られたチオグリコシドにトリエチルアミンの存在下エタンチオールを反応させることでジチオグリコシドが得られる。
【0027】
グリコシル化は、上記のチオグリコシド又はジチオグリコシドとアセタール化されたオリゴ糖を反応させることにより行われる。
【0028】
活性化剤としては、一般にチオグリコシドのグリコシル化の際に用いられるものが挙げられる。すなわち、酢酸水銀、硝酸水銀などの水銀塩、銀トリフルオロメタンスルホナート等の銀塩、NBS、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)−トリフルオロメタンスルホン酸塩、さらに臭素、ヨウ素、トリメチルシリルトリフラート、トリエチルシリルトリフラート、三フッ化ホウ素エーテル錯体、塩化スズ(IV)等が挙げられる。
【0029】
反応に用いる溶媒は、エーテル、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等周知の非プロトン性有機溶媒がよく、特に制限はない。反応温度、反応時間は用いる触媒、溶媒等により異なり、特に限定されないが、それぞれ0〜 25℃、10分〜1時間が適当である。活性化剤の使用量に特に制限はないが、通常は1−チオグリコシド誘導体に対して1.0〜2.0当量の範囲で添加する。1−チオグリコシド誘導体に対してオリゴ糖を過剰に用いる方が好ましく、通常は2.0〜5.0当量がより好ましい。
【0030】
反応温度としても特に制限はないが、通常、−80℃から溶媒の沸点の範囲であり、操作性等を考慮すると−10℃〜室温の範囲が好ましい。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下に示す%は、特に断らない限りすべて質量%を意味するものであり、対パルプの添加率は、パルプの絶乾質量に対する質量の比率である。なお、各測定法は以下のとおりである。
【0032】
(1)全糖量の定量
全糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業)を用いて作製し、フェノール硫酸法(「還元糖の定量法」学会出版センター 発行)にて定量した。
【0033】
(2)還元糖量の定量
還元糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業)を用いて作製し、ソモジ−ネルソン法(「還元糖の定量法」学会出版センター 発行)にて定量した。
【0034】
(3)ウロン酸量の定量
ウロン酸は、検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業)を用いて作製し、カルバゾール硫酸法(「還元糖の定量法」学会出版センター 発行)にて定量した。
【0035】
(4)平均重合度の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち、15000rpmにて15分遠心分離して不溶物を除去し、上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
【0036】
(5)酸性キシロオリゴ糖の定量法
酸性オリゴ糖1分子中のウロン酸残基とキシロース残基の量比は核磁気共鳴装置〔以下NMR、日本電子(株)製〕用いて行った。サンプルは凍結乾燥、重水素置換を行った後、測定を行った。1H NMR, 13C NMR, HMQC測定によりグリコシド結合をしているキシロース1位(4.409ppm)とウロン酸1位(5.226ppm)のプロトンケミカルシフトを決定した。水素の量比に相当する各シグナルの面積を算出しグルクロン酸とキシロースの比率を求めた。また、高速液体クロマトグラフィー質量分析装置(アプライドバイオシステム社製)によって高分解能分子量測定を行い、オリゴ糖1分子当たりのウロン酸残基数を求めた。
【0037】
(6)酵素力価の定義
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定には、カバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義は、キシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(「還元糖の定量法」学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0038】
(7)イオンクロマトグラフによる分析
キシロオリゴ糖の分析には、イオンクロマトグラフ(ダイオネクス社)を用いた。分析には、糖類の分析に適したカラムとしてCarbo Pac PA−10(ダイオネクス社)を用いた。
【0039】
実施例1
(キシロオリゴ糖製造工程)
(酵素処理工程)
国内産広葉樹チップ70%、ユーカリ材30%からなる混合広葉樹チップを原料として、クラフト蒸解によりカッパー価20.1、パルプ粘度41cpsの工場製の未晒パルプを得た。次いで、酸素脱リグニンを行い、カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cpsの酸素脱リグニンパルプを得た。このパルプを100メッシュのろ布にてろ別、洗浄後、パルプ濃度を10%に調整し、希硫酸を加えてpH8に調整し、ついで、バチルス・エスピーS−2113株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 寄託菌株FERM BP−5264)の生産するキシラナーゼを対パルプ1ユニット/gとなるように添加し、60℃で120分処理した。処理後、100メッシュのろ布でろ過してパルプ残渣などを分離し、全糖濃度3700mg/lを含む1050リッター(全糖量として3900g)の処理液を得た。続いてNF膜(日東電工製:NTR−7450、膜質:スルホン化ポリエーテルスルホン系、食塩阻止率50%)を用いて容量比で40倍に濃縮した。この濃縮液は全糖量で2700gを有しており、全糖回収率は70%であった。
【0040】
(酸加水分解処理工程)
酵素処理工程で得られた濃縮糖液1,000mlに対して硫酸を添加してpHを3.5に調整した後、この濃縮糖液を121℃にて1時間反応させた。反応生成物をイオンクロマト用カラム(ダイオネクス社:PA−10)を用いたイオンクロマトグラフィーで分析した結果、高濃度のキシロオリゴ糖(2量体〜10量体)を含むことが判明した。
【0041】
(キシロオリゴ糖の精製・分離工程)
酸加水分解処理工程で調製したキシロオリゴ糖の糖溶液(117mg/ml)10ml、全糖量として1.2gを強酸性イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製:アンバーライト200C)を充填したカラム(内径36mm、長さ150mm)に負荷した。カラムを通過したキシロオリゴ糖を回収した後に、弱塩基性イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製:IRA67)を充填した同様のカラムに負荷した。カラムを通過して得られたキシロオリゴ糖は、濃縮後、80mgの活性炭(和光純薬製:品番037−02115)をキシロオリゴ糖溶液に添加して60℃にて1時間撹拌し、脱色を行った。撹拌後は0.22μmのメンブレンフィルターで活性炭をろ過し、精製したキシロオリゴ糖溶液を得た。精製したキシロオリゴ糖溶液には280nm及び250nmの波長の吸収は認められず、酸処理後のキシロオリゴ糖溶液に含まれる紫外吸収物質は除去されていた。灰分の残存率も出発原料である酸処理後のキシロオリゴ糖溶液に対して0.1%以下であった。また、キシロオリゴ糖の回収率は70.2%であった。また、キシロオリゴ等の平均重合度は5.0であった。
【0042】
(キシロオリゴ等のアセタール化物の調製)
上記のようにして得られたキシロオリゴ糖4gをテトラヒドロフラン50mlに溶解し、その溶液に乾燥アセトン500ml及び(±)カンファースルホン酸660mgを加えて室温で1日、40℃の湯浴中にて19時間反応させた。トリエチルアミン4mlを加えてしばらくの間溶液を攪拌し、反応を停止した。次に、濃縮し、シリカゲルカラム(展開溶媒:トルエン:酢酸エチル=1:1)に添加して精製後、溶媒を留去させてキシロオリゴ糖のアセタール化物を得た。
【0043】
(単糖誘導体の調製)
(2,3,4,6−テトラベンジルグルコピラノシルブロマイドの調製)
2,3,4,6−テトラベンジルグルコース2gを、ジクロロメタン12mlとジメチルホルムアミド0.8mlの混合液にアルゴンガス存在下に溶解した。次に、オキサリルブロマイド(6ml,12mlDMF中に2Mで溶解したもの)をベンジルグルコース溶液に加え、1時間攪拌した。
【0044】
溶媒を留去した後、残渣をジクロロメタン50mlに溶解した。溶解液を硫酸ナトリウム飽和溶液20mlにて2回洗浄した。ジクロロメタン溶液に硫酸マグネシウム溶液を加えて乾燥させた後に硫酸マグネシウムをフィルターで除去し、エバポレーターにてジクロロメタン溶液を除去して固形分を得た。
NMRの結果(数字はppm)
δ:3.57(dd,1H),3.68(dd,1H),3.79-3.84(m,2H,H-4,H-6'),4.07(t,1H),4.07-4.11(m,1H)
4.47-4.62(m,3H),4.74(s,2H),4.84-4.89(m,2H),5.10(d,1H),6.46(d,1H),7.15-7.40(m,20H)
H−NMRの結果、2,3,4,6−テトラベンジルグルコースが2,3,4,6−テトラベンジルグルコピラノシルブロマイドに置換されていることが確認された。
【0045】
(ナトリウムメタンチオサルフォネートの調製)
硫化ナトリウム9水和物〔関東化学(株)、特級、72.1g,0.3mol〕を80mlの水に溶解し、60℃に加熱した。溶液を0〜5℃に冷却し、蒸留した塩化メタンスルホニル〔関東化学(株)、特級、23.3ml,34.5g,0.3mol〕を1時間かけて硫化ナトリウム9水和物溶液に滴下した。得られた混合溶液を還流下18時間加熱し、冷却した。溶液をエバポレーターで乾燥させ、固形分を塩化カルシウム中、真空乾燥機にて24時間乾燥させた後、真空乾燥機にて24時間乾燥した。得られた粉末を100mlのエタノールにて15回洗浄し、洗浄毎にろ過をした。この結果32.5gのナトリウムチオサルフォネートが得られた。
【0046】
(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシルメタンチオサルフォネートの調製)
テトラベンジルグルコピラノシルブロマイド(2.28g,3.7mmol)にナトリウムメタンチオサルフォネート(1.48g,11.04mmol)を加え、15mlのジオキサン溶液を加えた。溶液を70℃で15時間加熱し、エバポレーターにて乾燥し、油状物を得た。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した(ヘキサン/酢酸エーテル=8:2)。精製された糖(収率76%)のアノマーの比率はβ:α=7.5:1であった。得られた糖の異性体をさらにシリカゲルカラムにて分離(ヘキサン/酢酸エチル=9:1)し、2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシルメタンチオサルフォネートを得た
【0047】
NMRの結果(数字はppm)
δ:3.36(s,3H),3.60(dd,1H),3.45(m,4H),3.78(pt,1H),4.49(d,1H),4.51(d,1H)
4.58(d,1H),4.74(d,1H),4.78(d,1H),4.85(d,1H),4.88(d,1H),4.93(d,1H),5.12(d,1H)
7.19-7.22,7.31-7.37(m,20H)
【0048】
(2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシルメタンジサルファイドの調製)
上記の製法で得られた2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシルメタンチオサルフォネートを15mlのジクロロメタンに溶解し、トリエチルアミン(221μL、1.59mmol)を添加し、0℃にまで溶解した。希釈したエタンチオール溶液〔関東化学(株)、特級、39.7ml、0.04M、1.59mmol〕を40分かけて上記溶液に攪拌しながら滴下した。滴下後、室温に戻し、2時間さらに攪拌した。エバポレーターにて溶液を乾燥し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エーテル=9:1)にて精製して、2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシルメタンジサルファイドを得た。
【0049】
NMRの結果(数字はppm)
δ:3.30(s,3H),3.51(t,1H),3.59(t,1H),3.63(dd,1H),3.70(dd,1H),3.95(dd,1H)
4.10(ddd,1H),4.46(d,1H),4.49(d,1H),4.52(d,1H),4.61(d,1H),4.75(d,1H)
4.78(d,1H),4.84(d,1H),4.93(d,1H),6.25(d,1H),7.15-7.19,7.26-7.39(m,20H)
【0050】
(グリコシル化反応)
0.081mmolの2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシルメタンジサルファイドと0.81mmolのN−コハク酸イミドとキシロオリゴ糖のアセタール化物55mg(平均重合度5.0、分子量0.081mmol)をモレキュラーシーブ4A(関東化学)の存在下ジクロロメタン5mlに溶かして室温でアルゴン雰囲気中1時間攪拌した後0℃まで冷却した。
【0051】
0.041mmolのメタンスルホン酸トリエチルシリル〔関東化学(株)〕溶液を0℃で1時間攪拌後、ジクロロメタン15mlを加え、飽和硫酸ナトリウム溶液にて洗浄操作を繰り返した。エバポレーターにて濃縮し、得られたものをシリカゲルカラムにより分離した。得られた溶液をエバポレーターにて濃縮した。得られた粉末1gを50mlのTHFに溶解し、Pd/C〔関東化学(株)、50mg〕を添加し、水素雰囲気下で12時間ベンジル基の脱保護を行った。得られた溶液をエバポレーターにより溶媒を留去した。さらに、4gのオリゴ糖を採り、メタノール200ml及びジクロロメタン40mlを加えて溶解させた。これに(±)−10−カンファースルホン酸700mg(3mmol)を加え、反応系をpH=1にした。その反応系に塩化カルシウム管を取り付けて室温で24時間反応した。その後、トリエチルアミン0.4mlを加えて反応を停止した。次に、これを濃縮し、酢酸エチル400mlで希釈した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウムで洗浄し、硫酸マグネシウムにより脱水した。これをろ過して濃縮し、シリカゲルカラム(展開溶媒:トルエン:酢酸エチル=2:1)に添加して精製し、溶媒を留去して、2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシルメタンジサルファイドと平均重合度5.0のキシロオリゴ糖アセタール化物の縮合物からなるオリゴ糖を得た。
【0052】
(酸化反応)
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO) 0.02gと臭化ナトリウム0.24gを含む水溶液100mlに、絶乾換算で0.5gの精製した上記グリコシル化反応で得られた縮合物からなるオリゴ糖を添加した。その後、次亜塩素酸ナトリウム〔和光純薬(株)製、商品名 アンチホルミン〕4.6gを添加し、室温で50分間反応した。反応終了後、反応液にエタノールを添加し、反応生成物を沈殿させ、遠心分離によって生成物を回収した。回収物を70%エタノール水溶液を用いて3回洗浄・回収操作に供した後、99%エタノールで洗浄・回収の後、真空乾燥によって酸化反応生成物として酸性オリゴ糖の粉末を得た。
【0053】
(酸性オリゴ糖の重合度)
上記酸性オリゴ糖粉末を超純水に溶解して1%水溶液を作製した。平均重合度は、全糖量をフェノール硫酸法で測定し、その後1%水溶液の還元糖量をソモジーネルソン法で測定した。いずれの測定においても、検量線はD−キシロースを用いて作製した。平均重合度は1ml当たりの全糖量を1ml当たりの還元糖量で割ることで求めた。その結果、上記方法で作製されたオリゴ糖の平均重合度は5.2であった。
【0054】
(核磁気共鳴装置、質量分析装置での分析)
上記酸性オリゴ糖粉末を純水の溶液として、NMR法により重合度及びオリゴ糖1分子中のウロン酸残基とキシロース残基の量比を分析した。キシロース1位(4.409ppm)とウロン酸1位(5.226ppm)のプロトンケミカルシフトを決定し、水素の量比に相当する各シグナルの面積を算出した結果、その面積比は5:1であった。従って、ほとんどがキシロースの5量体にグルクロン酸が一つ結合した酸性キシロオリゴ糖であることが判明した。
この水溶液を質量分析装置にかけてキシロースとグルクロン酸のモル比を求めると5:1でありNMRの結果と一致した。収率は85%であった。
【0055】
実施例2
実施例1において、糖受容体としてキシロビオース〔和光純薬工業(株)製、M.W.282.25〕を用いた以外は実施例1と同様にしてオリゴ糖の合成を行った。収率は93%であった。実施例1と同様にしてNMRにより分析するとキシロース1位(4.409ppm)とウロン酸1位(5.226ppm)のプロトンケミカルシフトの面積比を測定した結果、その面積比は2:1であった。また質量分析にて合成物について質量分析装置によりキシロースとグルクロン酸のモル比を求めると2:1であり、NMRの測定結果と一致した。
【0056】
実施例3
実施例1において、2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシルメタンチオサルフォネートを用いてグリコシル化反応を行った以外は実施例1と同様にしてオリゴ糖の合成を行った。収率は65%であった。実施例1と同様にしてNMRにより分析するとキシロース1位(4.409ppm)とウロン酸1位(5.226ppm)のプロトンケミカルシフトの面積比を測定した結果、その面積比は5:1であった。また質量分析にて合成物について質量分析装置によりキシロースとグルクロン酸のモル比を求めると5:1であり、NMRの測定結果と一致した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、低カロリーで、整腸作用、虫歯予防作用などの機能を有する酸性オリゴ糖を比較的に温和な条件で安定的に製造することができる方法が提供され、特に中性キシロオリゴ糖から生理学的な効果が期待される酸性キシロオリゴ糖を高収率で製造することが可能となり、キシロオリゴ糖の用途が飛躍的に拡大される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1
【化1】

(式中、環Aは単糖類又はその誘導体を表わし、Sは環Aのアノマー位の炭素に結合しており、nは1もしくは2であり、Rは1価のアルキル基もしくは1価のアリール基を表わす)で表される糖供与体と平均重合度が2〜20のキシロオリゴ糖からなる糖受容体とをグリコシル化反応させることを特徴とするオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
前記一般式1中の環Aは、グルコース、キシロース及びグルクロン酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のオリゴ糖の製造方法。
【請求項3】
前記糖受容体としての平均重合度が2〜20のキシロオリゴ糖は、反応に関与しない水酸基が全て保護されているキシロオリゴ糖であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオリゴ糖の製造方法。
【請求項4】
前記平均重合度が2〜20のキシロオリゴ糖がアセタール化されたキシロオリゴ糖であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のオリゴ糖の製造方法。
【請求項5】
前記糖供与体が前記一般式中の環Aが中性単糖類又はその中性誘導体を表わす単糖類又はその誘導体からなり、前記グリコシル化反応後にアルコール性水酸基をカルボキシル基に転化する酸化反応が行なわれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のオリゴ糖の製造方法。
【請求項6】
前記グリコシル化反応における糖供与体がグルコピラノシルメタンサルファイト類又はグルコピラノシルメタンジサルファイト類であり、糖受容体がグリコシル化反応に関与しない水酸基が保護されたキシロオリゴ糖類であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載のオリゴ糖の製造方法。



【公開番号】特開2007−314585(P2007−314585A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142278(P2006−142278)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】