説明

オレフィンを生産するための方法

i.ヒドロホルミル化触媒の存在下に、x個の炭素原子を有するオレフィンを、一酸化炭素および水素と反応させることによって、x+1個の炭素原子を有するアルコールを生産する段階およびii.脱水触媒の存在下、段階iにおいて生産されたアルコールを脱水することによって、x+1個の炭素原子を有するオレフィンを生産する段階を含み、段階iにおいて使用されるヒドロホルミル化触媒は、a.コバルト源ならびにb.iからiiiおよびこれらの混合物から選択されたリガンド:i.一般式Iのリガンド:RP−R(I)(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子C−C12を有するヒドロカルビル基であり、またはリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を表し、およびRは一般式:−R−C(O)NR(II)(式中、Rはアルキレン基であり、RおよびRは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表す。)の一価の基である。)、ii.一般式IIIのリガンド:RP−R−C(O)N(R)−R−N(R)C(O)−RPR(III)(式中、R、RおよびRは、上に定義された通りであり、Rは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表し、Rは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはアルカリーレン基を表す。)、およびiii.一般式IVのリガンド:RP−R−C(O)N−(R−NC(O)−R−PR(IV)(式中、R、R、RおよびRは上に定義された通りである。)に基づくことを特徴とする、x個の炭素原子を有するオレフィンを、x+1個の炭素原子を有するオレフィンに変換するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンを生産するための方法、特に、x個の炭素原子を有するオレフィンを、x+1個の炭素原子を有するオレフィンに変換するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
より長鎖のα−オレフィン、特に1−ヘキセンおよび1−オクテンなど、偶数個のα−オレフィンに対する必要性は高い。中でも1−ヘキセンおよび1−オクテンは、ポリエチレン生産におけるコモノマーとして用いられ、このポリエチレン生産において、例えば線状低密度ポリエチレンの調製における可塑剤としての役割を果たす。
【0003】
オレフィンを生産する一方法は、オレフィンメタセシス反応を介する。この種の反応の不利な点は、ある特定のオレフィンのみを生産されるように反応を制御するのが困難であり、この方法で生産された大多数のオレフィンは、内部オレフィンであるという点である。したがってメタセシス反応は、1−ヘキセンまたは1−オクテンなどのα−オレフィンの調製に非常に適しているわけではない。メタセシス反応の1種類、すなわち内部オレフィンとエチレンの間のエテノリシスは、α−オレフィンを得ることが可能であろうが、平衡および選択性の制限に由来する技術的欠点がある。さらに内部オレフィンのエテノリシスでは、出発内部オレフィンよりも短鎖のオレフィンを得ることになる。
【0004】
1−ヘキセンは、エチレンの三量体形成により生産することもできるが、C4、C8およびC1Oの不純物も生成される。
【0005】
国際公開第03/024910号パンフレットは、α−オレフィンを含めたオレフィン化合物の炭素鎖長を増加することによって、1−ペンテンを1−ヘキセンに変換する、1−ヘプテンは1−オクテンに変換することができる方法を開示している。この方法は、
−出発オレフィン化合物を提供し、これをヒドロホルミル化することによって、出発オレフィン化合物と比較して炭素鎖長が長いアルデヒドおよび/またはアルコールを生産する段階、
−場合によって、ヒドロホルミル化反応中に形成されるアルデヒドを水素化することによって、出発オレフィン化合物と比較して炭素鎖長のより長いアルコールにそれを変換する段階および
−炭素鎖長のより長いアルコールを脱水することによって、出発オレフィン化合物と比較して炭素鎖長のより長いオレフィン化合物を生産する段階
を含む。
【0006】
1−ヘキセンおよび1−オクテンなどのα−オレフィンは、国際公開第03/024910号パンフレットの方法で生産することができるが、この方法には不利な点がいくつかある。第1に、国際公開第03/024910号パンフレットの実施例に見られるように、ヒドロホルミル化段階の間に形成されたアルコールは、直線性が比較的低い(すなわち約88%以下)。ヒドロホルミル化段階の間に形成されたアルコールにおける低直線性により、この方法は経済的な見地から望ましくない。さらに、国際公開第03/024910号パンフレットの方法において、α−オレフィン最終生成物の許容可能な純度を達成するために、脱水前にヒドロホルミル化生成物から分枝のアルコールを取り出すことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/024910号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、上記の不利な点を回避するα−オレフィンを生産するための方法を提供することが望ましい。
【0009】
特別に選択したヒドロホルミル化触媒を用いることによって、ヒドロホルミル化段階において生産されたアルコールの直線性が改善できることが、本発明者らによって現在までに判明した。加えて、特別に選択されたヒドロホルミル化触媒の使用は、α−オレフィン最終生成物の純度における全体的な改善をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明の一態様によれば、本発明は、x個の炭素原子を有するオレフィンを、x+1個の炭素原子を有するオレフィンに変換するための方法を提供し、この方法は、
(i)ヒドロホルミル化触媒の存在下に、x個の炭素原子を有するオレフィンを、一酸化炭素および水素と反応させることによって、x+1個の炭素原子を有するアルコールを生産する段階および
(ii)脱水触媒の存在下、段階(i)において生産されたアルコールを脱水することによって、x+1個の炭素原子を有するオレフィンを生産する段階を含み、
段階(i)において使用されるヒドロホルミル化触媒は、
(a)コバルト源ならびに
(b)下記(i)から(iii)、およびこれらの混合物から選択されたリガンド
(i)一般式(I)のリガンド
P−R (I)
(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子C−C12を有するヒドロカルビル基であり、またはリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を表し、および
は一般式
−R−C(O)NR (II)
(式中、Rはアルキレン基であり、RおよびRは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表す。)の一価の基である。)
(ii)一般式(III)のリガンド
P−R−C(O)N(R)−R−N(R)C(O)−R−PR (III)
(式中、R、RおよびRは、上に定義された通りであり、Rは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表し、Rは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはアルカリーレン基を表す。)および
(iii)一般式(IV)のリガンド
P−R−C(O)N−(R−NC(O)−R−PR (IV)
(式中、R、R、RおよびRは、上に定義された通りである。)
に基づくことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本方法の第一段階において、x個の炭素原子を有するオレフィンは、適切なヒドロホルミル化触媒の存在下、ヒドロホルミル化反応条件下にて、一酸化炭素および水素との反応によるヒドロホルミル化反応に処され、x+1個の炭素原子を有するアルコールが生産される。
【0012】
x個の炭素原子を有するオレフィンは、ヒドロホルミル化反応における使用に適切なオレフィン化合物のいずれであってもよく、置換または非置換の、線状または分枝の、内部またはαオレフィンおよびこれらの混合物を含む。
【0013】
x個の炭素原子を有するオレフィンは、単一の炭素炭素二重結合を有するオレフィンを含むことが好ましい。好ましくはこの出発オレフィンは、分岐していない線状オレフィン、好ましくはαオレフィンである。xは、好ましくは2から36、より好ましくは4から16、特に4から9の整数である。
【0014】
ヒドロホルミル化に適切な供給原料は、単一のオレフィンを含有してもよいし、オレフィンの混合物であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、1−ペンテンは1−ヘキセンに変換し得る。本発明の別の実施形態において、1−ヘプテンは1−オクテンに変換し得る。別の実施形態において、1−ブテンおよび1−ペンテンの混合物は、1−ペンテンおよび1−ヘキセンの混合物に変換し得る。
【0016】
本発明の一実施形態において、1種または複数のα−オレフィンを含有する、Fischer−Tropsch由来の供給流は、出発オレフィン化合物源として使用し得る。
【0017】
本発明の方法を反復することによって、形成したオレフィン化合物を連鎖成長させることができる。例えば、本発明の方法は、追加の段階:
(iii)ヒドロホルミル化触媒の存在下に、段階(ii)において生産された、x+1個の炭素原子を有するオレフィンを、一酸化炭素および水素と反応させることによって、x+2個の炭素原子を有するアルコールを生産する段階および
(iv)脱水触媒の存在下に、段階(iii)において生産されたアルコールを脱水することによって、x+2個の炭素原子を有するオレフィンを生産する段階
を含むこともできる。
【0018】
段階(i)および(ii)に加え、段階(iii)および(iv)を含めることによって、例えば1−ブテンを1−ヘキセンに変換することができる。
【0019】
重要なことであるが、ヒドロホルミル化段階(i)および存在する場合は好ましくはヒドロホルミル化段階(iii)もまた、ヒドロホルミル化触媒の存在下に行われ、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも92%の直線性を有するアルコールが生産される。本明細書中において直線性は、GC分析を用いて測定されている。
【0020】
ヒドロホルミル化触媒は、このような直線性の必要条件を満たすものから選択されることが重要である。
【0021】
形成されたアルコールは、ヒドロホルミル化されたオレフィンより1個多い炭素原子を有する。
【0022】
ヒドロホルミル化段階の間、アルコールに加えてアルデヒドも形成され得ることは、当業者により認識されよう。ある種のアルデヒドはその場での水素付加反応により、対応するアルコールへ変り得る。ヒドロホルミル化段階の間に、かなりの量のアルデヒドが生産される場合、水素付加段階を含めることによって、アルデヒドをアルコールに変換することが好ましい。ヒドロホルミル化の間に多い量のアルデヒドが形成されない場合、水素付加段階は必要ないであろう。
【0023】
本発明の使用に好ましいヒドロホルミル化触媒は、
(a)コバルト源ならびに
(b)(i)から(iii)およびこれらの混合物から選択されたリガンドに基づくヒドロホルミル化触媒である
(i)一般式(I)のリガンド
P−R (I)
(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子C−C12を有するヒドロカルビル基であり、またはリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を表し、
は、一般式:
−R−C(O)NR (II)
(式中、Rはアルキレン基であり、RおよびRは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表す。)の一価の基である。)
(ii)一般式(III)のリガンド
P−R−C(O)N(R)−R−N(R)C(O)−R−PR (III)
(式中、R、RおよびRは上に定義された通りであり、Rは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表し、Rは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはアルカリーレン基を表す。)および
(iii)一般式(IV)のリガンド
P−R−C(O)N−(R−NC(O)−R−PR (IV)
(式中、R、R、RおよびRは上に定義された通りである。)。
【0024】
好ましくはRおよびRは、リン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有し、但しこの5個の環原子のうちの1個がリン原子であり、好ましくは6から12個の環原子を有する、置換または非置換の環状基を表す。この環状基は、単環基(例えば置換もしくは非置換のホスファシクロヘキシル基、ホスファシクロヘプチル基またはホスファシクロオクチル基)または多環基である。
【0025】
およびRは、リン原子Pと一緒になって、少なくとも6個の環原子を有するホスファビシクロアルキル基、例えば7−ホスファビシクロヘプチル基、8−ホファビシクロヘプチル基または9−ホスファビシクロノニル基を表すのが好ましい。RおよびRは、リン原子Pと一緒になって、置換または非置換の9−ホスファビシクロノニル基を表すのが最も有利である。この9−ホスファビシクロノニル基は、いくつかの異性構造を有することができる。本発明の目的のためには、[3,3,1]および[4,2,1]異性体が好ましい。RおよびRは、リン原子Pと一緒になって、置換または非置換の[3,3,1](すなわち対称性の)または[4,2,1](すなわち非対称性の)9−ホスファビシクロノニル基、好ましくは置換もしくは非置換の[3.3.1](すなわち対称性の)9−ホスファビシクロノニル基(S−phobaneとしても知られている)を表すのが適切である。
【0026】
対称性9−ホスファビシクロノニル基を、非対称性9−ホスファビシクロ基から分離するための分離方法は、以下の出版物に見出すことができる:M.R.Eberhard、E.Carrington−Smith、E.Drent、P.S.Marsh、A.G.Orpen、H.PhetmungおよびP.G.Pringle、Adv.Synth.Catal.、2005年、347巻、1345頁、およびJ.H Downing、V.GeeおよびP.G.Pringle、Chem.Commun.、1997年、1527頁。
【0027】
ホスファシクロアルキル環、またはより好ましくはホスファビシクロアルキル環は、炭素原子および/またはヘテロ原子を含有する1種または複数の適切なヒドロカルビル基により置換されることができる。適切な置換基として、ハロゲン原子、イオウ、リン、酸素および窒素などのヘテロ原子を含有する基が挙げられる。このような基の例は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物および一般式、=O、=S、−O−H、−O−X、−CO−X、−CO−O−X、−S−H、−S−X、−CO−S−X、−NH、−NHX、−NX、−NO、−CN、−CO−NH、−CO−NHX、−CO−NXおよび−CI(式中、XおよびXは、独立して、1から4個の炭素原子を有するアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、iso−ブチルおよびtert−ブチルなどを表す。)の基を含む。ホスファビシクロノニル環が置換されている場合は、1種または複数のアルキル基で置換されているのが好ましく、好ましくは1から10個の炭素原子、より好ましくは1から4個の炭素原子を有する。線状、分枝または環状のアルキル基が使用できる。適切なアルキル基として、メチル、エチル、プロピル、iso−プロピル、ブチルおよびiso−ブチルが挙げられる。
【0028】
メチル基を用いるのがより適切である。置換されているホスファビシクロノニル環は、一置換でも多置換でもよいが、二置換が好ましい。ホスファビシクロノニル環は、2個のメチル基で置換されているのが最も好ましい。
【0029】
アルキレン基Rは、好ましくはC−C22アルキレン基から、より好ましくはC−C10アルキレンから、さらにより好ましくはC−Cアルキレン基から、最も好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはブチレン基から、特にエチレン基から選択される。
【0030】
、RおよびRは、独立して、C−C22アルキル基、C−Cシクロアルキル基、C−C14アリール基(すなわち6から14個の炭素原子を有する不飽和芳香族炭素環基)、(C−C)アルク(C−C14)アリール基または6から14個の環原子を有するヘテロアリール基(すなわち1個または複数の環炭素原子が、N、OまたはSなどのヘテロ原子で代替されている不飽和芳香族炭素環基)を表すのが好ましい。
【0031】
より好ましくは、R、RおよびRは、独立して、アリール基(例えばフェニル)またはアルキル基(好ましくは1から22個、より好ましくは1から10個の炭素原子、さらにより好ましくは1から6個の炭素原子を有するアルキル基)を表す。有利に使用し得るアルキル基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびペンチル基が挙げられる。
【0032】
好ましくは、Rは、C−C14アリーレン基(例えば−C−)またはアルキレン基、好ましくは1から22個の炭素原子を有するアルキレン基、より好ましくは1から10個の炭素原子、さらにより好ましくは1から6個の炭素原子を有するアルキレン基を表す。有利に使用し得るアルキレン基の例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基またはブチレン基、最も好ましくはエチレン基が挙げられる。
【0033】
一般式(I)の範囲に入る特に好ましいリガンドの例は、9−ジメチルアミドプロパノン−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]ノナンおよび9−ジブチルアミドプロパノン−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]ノナンである。
【0034】
一般式IIIの範囲に入るリガンドの例は
15P−CHCH−C(O)N(CH)−C−N(CH)C(O)−CHCH−PC15
である。
【0035】
一般式IVの範囲に入るリガンドの例は
【0036】
【化1】

である。
【0037】
一般式Iのリガンドは、適切なR−P−前駆体と、適切なR基前駆体を結合させることによって調製し得る。
【0038】
−P−前駆体は、RPHであるのが有利であり得る。他の合成R−P−前駆体が、代わりに使用でき、このことは当業者は周知であろう。
【0039】
基前駆体は、N,N−二置換アルケニルアミドであるのが有利であろう。例えば、Rがエチレン基であり、RおよびRがアルキル基であるリガンドが、例えば酢酸などの酸の存在下で、ジアルキル−アクリルアミドとR−P−前駆体の反応によって調製され得る。当業者に理解されるように、本発明による他のリガンドが、類似の化学反応により調製され得る。
【0040】
一般式(III)および(IV)のリガンドは、当業者によって理解されるように、一般式(I)のリガンドと関連して上述したものと類似の化学反応により調製され得る。
【0041】
コバルトヒドロホルミル化触媒は、当業者に周知の様々な方法(米国特許第3501515号明細書、第3448157号明細書、第3420898号明細書および第3440291号明細書で開示されているものなど)で調製することができる。有利な方法は、コバルト塩と所望のリガンドを、例えば液相で結合させ、続いて還元およびカルボニル化を行うことである。
【0042】
一般式(I)、(III)または(IV)のリガンドの量は一般的に、コバルトの量より過剰に適用され、コバルト1モルに対するリガンドのモルとして表される。リガンドの量は通常、コバルト原子1モル当たり、少なくとも0.2モルのリガンドが存在するように選択される。好ましい触媒系は、コバルト1モル当たりのリガンドのモル量が、好ましくは0.2から20の範囲内、より好ましくは0.4から10の範囲内、特に0.5から5の範囲内にある。
【0043】
コバルト源は、有機または無機のコバルト塩が適切である。適切なコバルト塩は、例えばカルボン酸コバルト塩、例えば酢酸コバルト塩、オクタン酸コバルト塩など、ならびに鉱酸のコバルト塩、例えば塩化物、フッ化物、硫酸塩、スルホン酸塩などのコバルト塩、ならびにこのようなコバルト塩のうちの1種または複数からなる混合物を含む。
【0044】
コバルトの価電子状態は、還元され得、このコバルト含有錯体は、水素および一酸化炭素の雰囲気中で溶液を加熱することによって形成される。還元は、触媒使用前に実行することもできるし、またはヒドロホルミル化ゾーンにおけるヒドロホルミル化法と同時に遂行することもできる。
【0045】
あるいは触媒は、コバルトの一酸化炭素錯体から調製することもできる。例えば、ジコバルトオクタカルボニルから出発し、反応媒体または溶媒中でこの物質を適切なホスフィンリガンドと混合することによって、リガンドは1個または複数の一酸化炭素分子と入れ替り、所望の触媒が生産される。
【0046】
ヒドロホルミル化段階(i)は、ヒドロホルミル化触媒の存在下およびヒドロホルミル化反応条件下で、オレフィン化合物と一酸化炭素および水素を反応させることによって行われる。
【0047】
触媒とヒドロホルミル化するオレフィン化合物の比は、一般に重要ではなく、広い範囲で異なっていてよい。実質的に均一の反応混合物を達成するために、比は様々であり得る。したがって溶媒は必要ではない。しかし、不活性な溶媒を使用すること、または使用する条件下で所望のヒドロホルミル化反応をかなり妨げることのない溶媒を使用することもできる。例えば飽和した液体炭化水素、ならびにアルコール、エーテル、アセトニトリル、スルフォレーンなどをこの方法において溶媒として使用することもできる。反応ゾーンにおける任意の所与の時点での、オレフィン化合物に対する触媒のモル比が、約1:1000から約10:1の間の場合には十分であることが判明した。しかし、オレフィン化合物に対する触媒の比がより高くても、より低くても使用し得、一般的に1:1未満である。
【0048】
一酸化炭素に対する水素の比は、広く異なり得る。一般に使用される、一酸化炭素に対する水素のモル比は少なくとも約1である。一酸化炭素に対する水素の比は、約1から10の範囲内にあるものを含むのが適切である。しかし、それより高いまたは低い比も使用できる。使用される、一酸化炭素に対する水素の比は、所望の反応生成物の性質によってある程度支配されることになる。アルデヒド生産物を主にもたらすことになる条件が選択された場合、一酸化炭素1モルにつき水素1モルだけしかオレフィン化合物との反応に加わらない。本発明の方法の好ましい生成物がアルコールの場合、水素2モルおよび一酸化炭素1モルが、オレフィン化合物1モルとそれぞれ反応する。一酸化炭素に対する水素の比は、このような数値で定義されたものよりいくらか低いものを使用するのが一般的に好ましい。
【0049】
本発明の方法は、様々な圧力において行うことができる。したがって、本発明の方法によるヒドロホルミル化は、8×10Paから1×10Paまでの低い圧力で通常行い得る。しかし、本発明の方法の適応は、このより低い圧力に限定されるものではなく、1×10Paから約14×10Paまでの広い範囲、場合によっては約20×10Paまで、またはさらにより高い圧力を使用することもできる。通常、使用される特定の圧力は、使用される特定の充填量および触媒によってある程度支配されることになる。一般に、約2×10Paから10×10Paの範囲内、特に約2.7×10Paから約9×10Paの範囲の圧力が好ましい。
【0050】
本発明の方法に使用される温度は、一般に約100℃から約300℃、好ましくは約150℃から約210℃の範囲であり、約170−180℃の温度が一般に十分である。しかし、それよりもいくらか高いまたは低い温度を本発明の範囲内で使用することもできる。
【0051】
この方法の第2の段階は、脱水触媒の存在下で、脱水反応条件下、段階(i)(または段階(iii))において生産されたアルコールの脱水を含む。
【0052】
適切な脱水方法のいずれかを使用して、段階(i)(または段階(iii))において生産されたアルコールを、相当するオレフィンに変換することもできる。アルコールがn−アルコールの場合、脱水方法はα−オレフィンが作成されるように制御されるのが好ましい。
【0053】
この脱水段階は、酸性条件下で行うのが好ましく、弱酸性触媒、例えばAl、SiO、TiOまたはZrOなどを使用することによって200から450℃の温度、通常は250から350℃の温度において、および0から30barg、通常は0から5bargの圧力において行うことができる。この触媒はγ−アルミナ触媒または促進されているアルミナ触媒、例えばCaO.Al、Ca.Alなどを含み得る。H−タイプ合成のゼオライトは、脱水触媒としても使用することもできる。
【0054】
本発明は、以下の非限定的な例を用いてここからさらに説明されることになる。
【実施例1】
【0055】
1−ペンテンの1−ヘキサノールへのヒドロホルミル化
本実験では、3種類のリガンドを使用した。
リガンド1:対称性9−エイコシル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]ノナンおよび非対称性9−エイコシル−9−ホスファ−ビシクロ[4.2.1]ノナンの、約55:45の比での混合物
リガンド2:対称性9−エイコシル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]ノナン(純度98%)
リガンド3:対称性9−ジメチルアミドプロパノン−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]ノナン(純度98%)を以下の方法に従って調製した。
【0056】
リガンド3(対称性9−ジメチルアミドプロパノン−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]ノナン)の調製
対称性9−ジメチルアミドプロパノン−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]ノナンの調製を以下の通り進めた。
【0057】
【化2】

【0058】
トルエン10ml中の2.12gのS−phobane(対称性phobane)(14.9mmol)および1.3mlのジメチルアクリルアミド(12.5mmol)の混合物を、80℃で24時間加熱した。この過剰のphobaneおよびトルエンを真空中で、50℃で取り除き、3g(12mmol)の生産物が得られた。31PN MR:−32.2ppm。
【0059】
温度160−171℃、圧力65barおよび水素/一酸化炭素の比1.4−1.5で、溶媒として2−エチルヘキサノールを使用して、ヒドロホルミル化反応を行った。触媒は、Co(オクトエート)2と上記のホスフィンリガンドの1種を2−エチルヘキサノール中で溶解することにより調製し、必要な作業条件(温度および圧力)で、オレフィン供給物、KOHおよび溶媒が仕込まれている反応容器へ射出した。初期の発熱を阻止し、および反応中の温度プロファイルをより安定させるために、標的温度よりおよそ10℃低い温度で触媒を射出した。一定の時間間隔で反応混合物から取った試料を分析することによって反応の進行を監視した。高温の試料からの揮発成分の大幅な損失を阻止するため、固体二酸化炭素を仕込んだ小フラスコ内に試料を収集した。実験条件および反応終了の結果(t=6−7.5時間)を以下の表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果が示すように、リガンド3により生産されたC6アルコールの直線性は、リガンド1または2により生産されたものより高い。
【実施例2】
【0062】
1−ヘキサノールの1−ペンテンへの脱水
長さ300mmおよび内径13mmの、垂直ステンレススチールチューブ反応器に、50mm層のガラスパール、星型γ−アルミナ触媒(Engelhard AL 0124 CS*5F 3.5MM)約13gの層および別のガラスパールの50mm層を順次積めた。反応器を340℃に加熱し、1−ヘキサノール蒸気を、大気圧下、1.2kgヘキサノールkg−1触媒hr−1のWHSVでチューブ反応器に供給した。反応器から出る反応ガス混合物を、凝縮装置に通し、水相および有機相の二相混合物として収集した。触媒床をこのように24時間作動させた後、有機相の新鮮な試料を収集し、GCで解析した。GCの結果を表1に示す。合計66.5%の1−ヘキサノールが変換され、ヘキセンに対する選択性は50.3mol%であり、このうち97.3重量%は1−ヘキセンであり、ジ−ヘキシルエーテルに対する選択性は49.7mol%であった。ヘキセンへの変換および全選択性を改善するために、未反応ヘキサノールおよびジヘキシルエーテルは、反応混合物に戻して再利用すべきである。
【実施例3】
【0063】
2−ブテンの1−ペンタノールへのヒドロホルミル化
250mLオートクレーブ内で、温度175℃および全圧80barで(オートクレーブは、室温でPH2=40barおよびPCO=20barを充填した)、溶媒として2−エチルヘキサノールまたはメトキシベンゼン(30mL)、CO(CO)(85mg、0.25mmol)およびホスフィンリガンド(1mmol)(リガンド:Coのモル比2)を用いて、2−ブテン(10mL)のヒドロホルミル化を行った。反応時間は10時間であった。2回のGC実験を使用して直線性を求めた。結果を以下の表2に示す。この実験に使用したリガンドは、上の実施例1に使用したものと同じであり、さらにリガンド4を以下の通り加えた。
リガンド4:対称性9−ジブチルアミドプロパノン−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]ノナン
【0064】
リガンド4は、ジメチルアクリルアミドの代わりにジブチルアクリルアミドが使用されたことを除き、リガンド3と同じ方法を用いて調製する。
【0065】
【表2】

【0066】
表2が示すように、1−ペンタノールに対する最高の位置選択性は、リガンドとしてリガンド3(phobane−ジメチル−アミド)またはリガンド4(phobane−ジブチル−アミド)のいずれかを用いて達成された。
【0067】
この実施例で得た1−ペンタノールを適切な脱水触媒の存在下で脱水することによって、1−ペンテンを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ヒドロホルミル化触媒の存在下に、x個の炭素原子を有するオレフィンを、一酸化炭素および水素と反応させることによって、x+1個の炭素原子を有するアルコールを生産する段階および
(ii)脱水触媒の存在下、段階(i)において生産されたアルコールを脱水することによって、x+1個の炭素原子を有するオレフィンを生産する段階を含み、
段階(i)において使用されるヒドロホルミル化触媒は、
(a)コバルト源ならびに
(b)下記(i)から(iii)およびこれらの混合物から選択されたリガンド
(i)一般式(I)のリガンド
P−R (I)
(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子C−C12を有するヒドロカルビル基であり、またはリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を表し、および
は一般式
−R−C(O)NR (II)
(式中、Rはアルキレン基であり、RおよびRは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表す。)の一価の基である。)
(ii)一般式(III)のリガンド
P−R−C(O)N(R)−R−N(R)C(O)−R−PR (III)
(式中、R、RおよびRは、上に定義された通りであり、Rは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表し、Rは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはアルカリーレン基を表す。)および
(iii)一般式(IV)のリガンド
P−R−C(O)N−(R−NC(O)−R−PR (IV)
(式中、R、R、RおよびRは上に定義された通りである。)
に基づくことを特徴とする、x個の炭素原子を有するオレフィンをx+1個の炭素原子を有するオレフィンに変換するための方法。
【請求項2】
およびRがリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
およびRが独立して、C−Cアルキル基を表す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
x個の炭素原子を有するオレフィンが線状αオレフィンである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
xが4から36の整数である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
1−ペンテンが1−ヘキセンに変換される、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
1−ヘプテンが1−オクテンに変換される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
(iii)ヒドロホルミル化触媒の存在下に、段階(ii)において生産されたx+1個の炭素原子を有するオレフィンを、一酸化炭素および水素と反応させることによって、x+2個の炭素原子を有するアルコールを生産する段階および
(iv)脱水触媒の存在下に、段階(iii)において生産されたアルコールを脱水することによって、x+2個の炭素原子を有するオレフィンを生産する段階
をさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ヒドロホルミル化段階(iii)が、
(a)コバルト源ならびに
(b)下記(i)から(iii)およびこれらの混合物から選択されたリガンド
(i)一般式(I)のリガンド
P−R (I)
(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子C−C12を有するヒドロカルビル基であり、またはリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を表し、および
は一般式
−R−C(O)NR (II)
(式中、Rはアルキレン基であり、RおよびRは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表す。)の一価の基である。)
(ii)一般式(III)のリガンド
P−R−C(O)N(R)−R−N(R)C(O)−R−PR (III)
(式中、R、RおよびRは上に定義された通りであり、Rは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表し、Rは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはアルカリーレン基を表す。)および
(iii)一般式(IV)のリガンド
P−R−C(O)N−(R−NC(O)−R−PR (IV)
(式中、R、R、RおよびRは上に定義された通りである。)
に基づくヒドロホルミル化触媒の存在下で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1−ブテンが1−ヘキセンに変換される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
(a)コバルト源ならびに
(b)下記(i)から(iii)およびこれらの混合物から選択されたリガンド
(i)一般式(I)のリガンド
P−R (I)
(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子C−C12を有するヒドロカルビル基であり、またはリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を表し、および
は一般式
−R−C(O)NR (II)
(式中、Rはアルキレン基であり、RおよびRは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表す。)の一価の基である。)
(ii)一般式(III)のリガンド
P−R−C(O)N(R)−R−N(R)C(O)−R−PR (III)
(式中、R、RおよびRは、上に定義された通りであり、Rは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表し、Rは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはアルカリーレン基を表す。)および
(iii)一般式(IV)のリガンド
P−R−C(O)N−(R−NC(O)−R−PR (IV)
(式中、R、R、RおよびRは上に定義された通りである。)
に基づくヒドロホルミル化触媒。
【請求項12】
一般式(I)
P−R (I)
(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子C−C12を有するヒドロカルビル基であり、またはリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を表し、Rは一般式
−R−C(O)NR (II)
(式中、Rはアルキレン基であり、RおよびRは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表す。)の一価の基である。)のリガンド。
【請求項13】
一般式(III)
P−R−C(O)N(R)−R−N(R)C(O)−R−PR (III)
(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子C−C12を有するヒドロカルビル基であり、またはリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を表し、Rはアルキレン基であり、Rは、独立してアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリール基またはヘテロアリール基を表し、Rは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはアルカリーレン基を表す。)のリガンド。
【請求項14】
一般式(IV)
P−R−C(O)N−(R−NC(O)−R−PR (IV)
(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子C−C12を有するヒドロカルビル基であり、またはリン原子Pと一緒になって、少なくとも5個の環原子を有する、場合によって置換されている環状基を表し、Rはアルキレン基であり、Rは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基またはアルカリーレン基を表す。)のリガンド。

【公表番号】特表2010−504305(P2010−504305A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528735(P2009−528735)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060030
【国際公開番号】WO2008/034894
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】