説明

オレフィン系共重合体またはその変性物の水性エマルジョン

【課題】さらに優れた接着性を有するオレフィン系共重合体含有水性エマルジョンまたはオレフィン系共重合体変性物含有水性エマルジョンを提供する。
【解決手段】分散質を乳化剤とともに水に分散されたエマルジョンであって、
該分散質が、エチレン及び/若しくは直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、下記ビニル化合物(I)とに由来する構造単位を含むオレフィン系共重合体であるか、又は、
該オレフィン系共重合体に、さらに、不飽和カルボン酸類をグラフト重合して得られるオレフィン系共重合体変性物であり、
該分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmであるエマルジョン。
CH=CH−R (I)
(式中、ビニル化合物(I)のRは、2級アルキル基、3級アルキル基、または脂環式炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系共重合体またはその変性物を含有する水性エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系共重合体やその変性物を含有する水性エマルジョンは、有機溶剤をほとんど含有しないことから、取り扱いの際の作業環境を良好に維持することができる。このような特性により、自動車や家電などのさまざまな分野で接着剤、塗料、塗料用プライマー、印刷用バインダー等に適用されることが期待されている。
具体的には、オレフィン系共重合体変性物として、α−オレフィン及び/又はエチレンに由来する構造単位と、ビニルシクロヘキサンなどのビニル化合物に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体に、アルケニル芳香族炭化水素及び/又は不飽和カルボン酸類をグラフト重合せしめてなるオレフィン系共重合体変性物が知られており、該変性物は、難接着性であるポリプロピレンへの接着性に優れることが開示されている(特許文献1)。また、該変性物の1種であるエチレン、ビニルシクロヘキサン及び不飽和カルボン酸類の共重合体を分散質として、1.7〜3.3μmの中位粒子径(メジアン径)を有する水性エマルジョンは、成形性、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性、接着性に優れることが特許文献2に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−160621号公報([0060]〜[0062])
【特許文献2】特開2005−320400号公報([0007]、[0064]〜[0072])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報に記載の水性エマルジョンは、ポリプロピレンなどの難接着性ポリオレフィンへの接着性が十分ではなく、これらの分野に該水性エマルジョンを適用するには、さらなる接着性の向上が求められている。
本発明の目的は、さらに優れた接着性を有するオレフィン系共重合体含有水性エマルジョンまたはオレフィン系共重合体変性物含有水性エマルジョンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ある範囲のメジアン径を有するオレフィン系共重合体またはオレフィン系共重合体変性物を分散質とする水性エマルジョンが、ポリオレフィンとの接着性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、分散質を乳化剤とともに水に分散されたエマルジョンであって、
該分散質が、エチレン及び/若しくは直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、下記ビニル化合物(I)とに由来する構造単位を含むオレフィン系共重合体であるか、又は、
該オレフィン系共重合体に、さらに、不飽和カルボン酸類をグラフト重合して得られるオレフィン系共重合体変性物であり、
該エマルジョンに含まれる該分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmであるエマルジョンである。
CH=CH−R (I)
(式中、ビニル化合物(I)のRは、2級アルキル基、3級アルキル基、または脂環式炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0006】
本発明のエマルジョンは、環境への安全性が高く、接着性に優れた接着層(皮膜)を与え、形成された接着層(皮膜)は、成形性、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性などに優れていることから、接着剤、塗料、塗装用プライマー、塗料用または印刷用バインダーとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いられるオレフィン系共重合体は、エチレン、直鎖状α−オレフィン、若しくは、エチレン及び直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、下記ビニル化合物(I)とに由来する構造単位を含むオレフィン系共重合体である。
CH=CH−R (I)
(式中、ビニル化合物(I)のRは、2級アルキル基、3級アルキル基または脂環式炭化水素基を表す。)
【0008】
また、本発明で用いられるオレフィン系共重合体変性物(以下、変性物という場合がある)は、該オレフィン系共重合体に、さらに、不飽和カルボン酸類をグラフト重合して得られる。
つまり、変性物に含まれる構造単位としては、エチレンに由来する構造単位、直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位、若しくは、エチレン及び直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、ビニル化合物(I)とに由来する構造単位と、不飽和カルボン酸類に由来する構造単位とを少なくとも含有する。
【0009】
ここで、Rは2級アルキル基、3級アルキル基または脂環式炭化水素基である。
2級アルキル基とは、2級アルキル基に含まれる炭素原子であって、ビニル基(CH=CH−)に結合した炭素原子が1つの水素原子と結合している分枝状アルキル基を意味する。2級アルキル基の炭素数は、通常、3〜20である。
3級アルキル基とは、3級アルキル基に含まれる炭素原子であって、ビニル基に結合した炭素原子が水素原子と結合していない分枝状アルキル基を意味する。3級アルキル基の炭素数は、通常、4〜20である。
脂環式炭化水素基とは、シクロアルカン、シクロアルキン、シクロアルケンなどの脂環式炭化水素から水素原子を1個除いた残りの原子団である。脂環式炭化水素基の炭素数は、通常、3〜20である。水素原子を除いた結合手はビニル基(CH=CH−)と結合する。
置換基Rとしては、3〜10員環を有する炭素数3〜20の脂環式炭化水素基、炭素数4〜20の3級アルキル基が好ましい。
【0010】
置換基Rが2級アルキル基であるビニル化合物(I)としては、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘプテン、3−メチル−1−オクテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘプテン、3,4−ジメチル−1−オクテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,5−ジメチル−1−ヘプテン、3,5−ジメチル−1−オクテン、3,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,6−ジメチル−1−オクテン、3,7−ジメチル−1−オクテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,4,4−トリメチル−1−オクテンなどがあげられる。
置換基Rが3級アルキル基であるビニル化合物(I)としては、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘプテン、3,3−ジメチル−1−オクテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,3,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,3,4−トリメチル−1−オクテンなどがあげられる。
置換基Rが脂環式炭化水素基であるビニル化合物(I)としては、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタンなどの置換基Rがシクロアルキル基であるビニル化合物;5−ビニル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセンなどの置換基Rがシクロアルケニル基であるビニル化合物;1−ビニルアダマンタンなどがあげられる。
【0011】
好ましいビニル化合物(I)は、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン、5−ビニル−2−ノルボルネンである。より好ましいビニル化合物(I)は、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルネンである。更に好ましいビニル化合物(I)は、3,3−ジメチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサンである。最も好ましいビニル化合物(I)は、ビニルシクロヘキサンである。
【0012】
本発明に用いられるオレフィン系共重合体において、ビニル化合物(I)の単量体単位の含有量としては、該オレフィン系共重合体を構成する全ての単量体単位100モル%に対して、通常、5〜40モル%であり、好ましくは10〜30モル%、とりわけ好ましくは10〜20モル%である。
ビニル化合物(I)の単量体単位の含有量が40モル%以下であると、得られる接着剤の接着性が向上する傾向にあるので好ましい。
ビニル化合物(I)の単量体単位の含有量は、1 H−NMRスペクトルや13C−NMRスペクトルを用いて求めることができる。
【0013】
本発明で用いられる直鎖状α−オレフィンとしては、通常、炭素数3〜20の直鎖状α−オレフィンであり、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ナノデセン、1−エイコセン等が挙げられる。中でも、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく、とりわけプロピレンが好適である。
【0014】
本発明で用いられるオレフィン系共重合体において、エチレンに由来する構造単位および直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位の合計含有量としては、該オレフィン系共重合体を構成する全ての単量体単位100モル%に対して、通常、95〜60モル%であり、好ましくは90〜70モル%、とりわけ好ましくは90〜80モル%である。
【0015】
エチレン、直鎖状α−オレフィン、又は、エチレン及び直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位としては、エチレンに由来する構造単位が好適である。
【0016】
本発明で用いられるオレフィン系共重合体は、エチレン、直鎖状α−オレフィン、若しくは、エチレン及び直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、ビニル化合物(I)とを共重合して得られるものであり、さらに付加重合可能な単量体を共重合して得られるものであってもよい。
ここで、付加重合可能な単量体とは、エチレン、直鎖状α−オレフィンおよびビニル化合物(I)以外の単量体であって、エチレン、直鎖状α−オレフィンおよびビニル化合物(I)と付加重合可能な単量体であり、該単量体の炭素数は、通常、3〜20程度である。
付加重合可能な単量体の具体例としては、シクロオレフィン、下記一般式(II)

(式中、R’、R”は、それぞれ独立に、炭素数1〜18程度の直鎖状、分岐状あるいは環状のアルキル基、またはハロゲン原子等を表す。)
で表されるビニリデン化合物、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル、アルキル酸ビニル、ビニルエーテル類、アクリロニトリル類などが挙げられる。
【0017】
シクロオレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−ベンジル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、8−メチル−2−テトラシクロドデセン、8−エチル−2−テトラシクロドデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−エトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン、8−シアノ−2−テトラシクロドデセン等が挙げられる。より好ましいシクロオレフィンは、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネンであり、特に好ましくは2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセンである。
【0018】
ビニリデン化合物としては、例えば、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、2−メチル−1−オクテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ヘプテン、2,3−ジメチル−1−オクテン、2,4−ジメチル−1−ペンテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、塩化ビニリデン等が挙げられる。特に好ましいビニリデン化合物はイソブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテンである。
【0019】
ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,5−シクロオクタジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等が挙げられる。特に好ましいジエン化合物は1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、5−エチリデン−2−ノルボルネンである。
【0020】
アルキル酸ビニルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどが挙げられ、ビニルエーテル類としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニルなどが挙げられ、アクリロニトリル類としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0021】
オレフィン系共重合体における付加重合可能な単量体単位の含有量は、通常、得られるオレフィン系共重合体変性物の接着性が損なわれない範囲であり、具体的な含有量としては、該オレフィン系共重合体を構成するすべての単量体単位100モル%に対して、通常、約5モル%程度以下、好ましくは1モル%以下であり、付加重合可能な単量体単位を実質的に含有しないことがより好ましい。
【0022】
本発明で用いられるオレフィン系共重合体の製造方法としては、例えば、インデニル形アニオン骨格、または架橋されたシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を有する遷移金属化合物を含有する触媒の存在下に製造する方法などが挙げられる。中でも、特開2003−82028号公報、特開2003−160621号公報、及び特開2000−128932号公報に記載の方法に準じて製造する方法が好適である。
【0023】
オレフィン系共重合体の製造においては、用いる触媒の種類や重合条件によって、本発明に用いられる共重合体以外にエチレンの単独重合体やビニルシクロヘキサンの単独重合体などが副生することがある。そのような場合には、ソックスレー抽出器等を用いた溶媒抽出を行うことにより、容易に本発明に用いられる共重合体を分取することができる。例えば、ビニルシクロヘキサンの単独重合体は、トルエンを用いた抽出の不溶成分として、またポリエチレンなどのポリオレフィンは、クロロホルムを用いた抽出の不溶成分として除去することができ、本発明において用いられる共重合体は両溶媒の可溶成分として分取することができる。もちろんオレフィン系共重合体は、用途により問題なければ、そのような副生物が存在したままで使用してもよい。
【0024】
本発明に用いられるオレフィン系共重合体の分子量分布(Mw/Mn=[重量平均分子量]/[数平均分子量])は、通常、1.5〜10.0程度であり、好ましくは1.5〜7.0程度、とりわけ好ましくは1.5〜5.0程度である。該オレフィン系共重合体の分子量分布が1.5以上、10.0以下であると、得られるオレフィン系共重合体変性物の機械的強度および透明性が向上する傾向にあることから好ましい。
また、機械的強度の観点から、該オレフィン系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、通常、5,000〜1,000,000程度であり、好ましくは10,000〜500,000程度であり、とりわけ好ましくは15,000〜400,000程度である。該オレフィン系共重合体の重量平均分子量が5,000以上であると得られるオレフィン系共重合体変性物の機械的強度が向上する傾向にあることから好ましく、1,000,000以下であると、該オレフィン系共重合体の流動性が向上する傾向にあることから好ましい。
【0025】
本発明で用いられるオレフィン系共重合体は、機械的強度の観点から極限粘度[η]の値は、通常、0.25〜10dl/g程度であり、好ましくは0.3〜3dl/g程度である。
【0026】
本発明は、分散質が上記オレフィン系共重合体であり、上記オレフィン系共重合体が乳化剤とともに分散された水性エマルジョンであるか、あるいは、分散質が上記オレフィン系共重合体に不飽和カルボン酸類をグラフト重合して得られるオレフィン系共重合体変性物(以下、単に変性物という場合がある)であり、変性物が乳化剤とともに分散された水性エマルジョンである。中でも、分散質が変性物であると、接着性の優れることから好ましい。
変性物に対する不飽和カルボン酸類のグラフト重合量は、得られる変性物100重量%に対して、通常、0.01〜20重量%程度、好ましくは0.05〜10重量%程度、より好ましくは0.1〜5重量%程度である。
不飽和カルボン酸類のグラフト重合量が0.01重量%以上であると、該変性物の接着力が向上する傾向にあるため好ましく、また、20重量%以下であると、該変性物の熱安定性が向上する傾向にあるため好ましい。
【0027】
不飽和カルボン酸類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、ハイミック酸、アンゲリカ酸、テトラヒドロフタル酸、ソルビン酸、メサコン酸などの不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水ハイミック酸などの不飽和カルボン酸無水物;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−i−ブチル、メタクリル酸−i−ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジメチルエステルなどの不飽和カルボン酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノエチルアミド、フマル酸−N,N−ジエチルアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミドなどの不飽和カルボン酸アミド;マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどの不飽和カルボン酸イミド;塩化マレオイルなどの不飽和カルボン酸ハライド;アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムなどの不飽和カルボン酸金属塩などが挙げられる。また、上記の不飽和カルボン酸類を組み合わせて使用しても良い。
不飽和カルボン酸類としては、中でも無水マレイン酸が好ましい。
【0028】
変性物の製造方法としては、例えば、オレフィン系共重合体を溶融させたのち、不飽和カルボン酸類を添加してグラフト重合せしめる方法、オレフィン系共重合体をトルエン、キシレンなどの溶媒に溶解したのち、不飽和カルボン酸類を添加してグラフト重合せしめる方法などが挙げられる。
オレフィン系共重合体を溶融させたのち、不飽和カルボン酸類を添加してグラフト重合せしめる方法は、押出機を用いて溶融混練することで、樹脂同士あるいは樹脂と固体もしくは液体の添加物を混合するための公知の各種方法が採用可能であることから好ましい。さらに好ましい例としては、各成分の全部もしくはいくつかを組み合わせて別々にヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等により混合して均一な混合物とした後、該混合物を溶融混練する等の方法を挙げることができる。溶融混練の手段としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸又は二軸の押出機等の従来公知の混練手段が広く採用可能である。特に好ましいのは、連続生産が可能であり、生産性が向上するという観点から、一軸又は二軸押出機を用い、予め十分に予備混合したオレフィン系共重合体、不飽和カルボン酸類、ラジカル開始剤を押出機の供給口より供給して混練を行う方法が推奨される。押出機の溶融混練を行う部分の温度は(例えば、押出機ならシリンダー温度)、通常、50〜300℃、好ましくは80〜270℃である。温度が50℃以上であるとグラフト量が向上する傾向があり、また、温度が300℃以下であるとオレフィン系共重合体の分解が抑制される傾向があることから好ましい。押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の二段階に分け、前半より後半の温度を高めた設定にすることが好ましい。溶融混練時間は、通常、0.1〜30分間、特に好ましくは0.1〜5分間である。溶融混練時間が0.1分以上であるとグラフト量が向上する傾向があり、また、溶融混練時間が30分以下であるとオレフィン系共重合体の分解が抑制される傾向があることから好ましい。
【0029】
不飽和カルボン酸類をオレフィン系重合体にグラフト重合させるためには、通常、ラジカル開始剤の存在下に重合を行う。
ラジカル開始剤の添加量は、オレフィン系重合体100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。添加量が0.01重量部以上であるとオレフィン系重合体へのグラフト量が増加して接着強度が向上する傾向があることから好ましく、添加量が10重量部以下であると得られる変性物中における未反応のラジカル開始剤が低減され、接着強度が向上する傾向があることから好ましい。
ラジカル開始剤は、有機過酸化物であり、好ましくは半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物である。分解温度が50℃以上であるとグラフト量が向上する傾向があることから好ましく、分解温度が210℃以下であるとオレフィン系重合体の分解が低減される傾向があることから好ましい。また、これらの有機過酸化物は分解してラジカルを発生した後、ポリプロピレン系樹脂からプロトンを引き抜く作用があることが好ましい。
【0030】
半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物としては、ジアシルパーオキサイド化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物、パーオキシケタール化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカルボネート化合物等があげられる。具体的には、ジセチル パーオキシジカルボネート、ジ−3−メトキシブチル パーオキシジカルボネート,ジ−2−エチルヘキシル パーオキシジカルボネート、ビス(4−t−ブチル シクロヘキシル)パーオキシジカルボネート、ジイソプロピル パーオキシジカルボネート、t−ブチル パーオキシイソプロピルカーボネート、ジミリスチル パーオキシカルボネート、1,1,3,3−テトラメチル ブチル ネオデカノエート,α―クミル パーオキシ ネオデカノエート,t−ブチル パーオキシ ネオデカノエート、1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン,t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート,t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート,t−ブチルパーオキシラウレート,2,5ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン,t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブテン,t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ベルオキシ)バレラート、ジ−t−ブチルベルオキシイソフタレート、ジクミルパーオキサイド、α−α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等があげられる。
分解温度が50℃より低いとグラフト量が向上しない傾向があり、分解温度が210℃より高いとグラフト量が向上しない傾向がある。また、これらの有機過酸化物で好ましいのはジアルキルパーオキサイド化合物、ジアシルパーオキサイド化合物、パーカルボネート化合物、アルキルパーエステル化合物である。
【0031】
本発明に用いられる変性物は、通常、分子量分布(Mw/Mn)が、1.5〜10であり、好ましくは1.5〜7、とりわけ好ましくは1.5〜5以下である。分子量分布が10以下であると、該変性物の接着性が向上する傾向にあり、好ましい。
該変性物の分子量分布は、前記のオレフィン系共重合体の分子量分布と同様に測定することができる。
【0032】
本発明に用いられる変性物は、機械的強度の観点から極限粘度[η]の値は、通常、0.25〜10dl/g程度であり、好ましくは0.3〜3dl/g程度である。
【0033】
本発明のエマルジョンは、かくして得られたオレフィン系共重合体またはその変性物が分散質として乳化剤とともに水に分散されたエマルジョンであって、該分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmである。
ここで乳化剤としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピルアルキルエーテル、及びこれらの混合物が、エマルジョンの安定性に優れる傾向があることから好ましい。
【0034】
また、乳化剤としては、水溶性アクリル樹脂が好ましく用いられる。
水溶性アクリル樹脂とは、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を含有する樹脂を含有する水溶液でであり、該水溶液は、通常、該樹脂が均一に溶解している。該樹脂を構成する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、イタコン酸などの炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の炭素数4〜18の(メタ)アクリル酸エステル;
エチレンアクリレート、エチレンメタクリレートなどのアクリル酸ビニルエステル;
塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル;
塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;
ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸、およびそれらの塩などのビニル化合物;
スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル;
(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;
N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;
ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;
スルホン酸アリル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル化合物などが挙げられる。
水溶性アクリル樹脂としては、α,β−不飽和カルボン酸、アクリル酸ビニルエステル、及び(メタ)アクリル酸エステルのそれぞれに由来する構造単位を含有することが好ましく、特に、該樹脂を構成する単量体に由来する構造単位100モル%に対して、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を10〜90モル%、アクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位を5〜60モル%、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を5〜85モル%を含有することが好ましい。
なお、水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びポリオキシエチレンポリアルキルエーテルを組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明のエマルジョンの製造方法としては、例えば、オレフィン系共重合体又はオレフィン系共重合体変性物と乳化剤とを剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させる方法;オレフィン系共重合体又はオレフィン系共重合体変性物をトルエンなどの有機溶媒に溶解させたのち、乳化剤とを剪断応力を作用させながら混合したのち、水に分散させたのち、有機溶媒を除去する方法などが挙げられる。
ここで、剪断応力を作用させる際の剪断速度としては、通常、450秒−1〜30000秒−1程度、好ましくは1000秒−1〜10000秒−1程度である。剪断速度が450秒−1以上であると、得られるエマルジョンの接着性が向上する傾向があることから好ましく、30000秒−1以下であると、工業的に製造が容易になる傾向があることから好ましい。
ここで、剪断速度とはスクリューエレメント最外周部の周速度[mm/sec]をスクリューとバレルとのクリアランス[mm]で除した数値である。
【0036】
剪断応力を作用させる装置としては、例えば、2軸押出機、ラボプラストミル(株式会社 東洋精機製作所)、ラボプラストミルマイクロ(株式会社 東洋精機製作所)などの多軸押出機、ホモジナイザー、T.Kフィルミクス(プライミクス株式会社)などバレル(シリンダー)を有する機器等が挙げられる。
【0037】
多軸押出機を例として、具体的なエマルジョンの製造方法を説明すると、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機のホッパーからオレフィン系共重合体変性物を供給し、加熱、溶融混練させ、更に該押出機の圧縮ゾーンまたは/および計量ゾーンに設けた少くとも1個の液体供給口より供給された乳化剤と混練したのち、水に分散させる方法などが例示される。
【0038】
バレル(シリンダー)を有さない機器によるエマルジョンの製造方法としては、例えば、攪拌槽、ケミカルスターラー、ボルテックスミキサー、フロージェットミキサー、コロイドミル、超音波発生機、高圧ホモジナイザー、分散君(株式会社フジキン)、スタティックミキサー、マイクロミキサーなどを用いる機械乳化法などが挙げられる。
また、上記のような機械乳化法以外にも自己乳化などの化学乳化法でのエマルジョン製造方法も挙げられるが、好ましくは、機械乳化法である。
【0039】
本発明のエマルジョンの製造方法としては、オレフィン系共重合体変性物と乳化剤とを剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させる方法が、容易に後述する所望のメジアン径を与えることから好ましく、とりわけ、2軸押出機および多軸押出機は高粘度の変性物も処理することができることから好ましく、中でもとりわけ、2軸押出機が好適である。
【0040】
本発明のエマルジョンは、分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μm、好ましくは0.2〜0.55μm、より好ましくは0.4〜0.55μmである。
体積基準メジアン径が0.01μm以上であると、製造が容易なことから好ましく、1μm以下であると、接着性が向上する傾向があることから好ましい。
ここで体積基準メジアン径とは、体積基準で積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径である。
【0041】
本発明のエマルジョンには、例えば、ポリウレタン水性エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体水性エマルジョンなどの水性エマルジョン、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウムなどの充填剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、発泡剤、ポリアクリル酸、ポリエーテル、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉などの増粘剤、粘度調整剤、難燃剤、酸化チタンなどの顔料、二塩基酸のコハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等の高沸点溶剤、可塑剤などを配合してもよい。
中でも、本発明のエマルジョンをポリプロピレンやポリエステルのように界面張力が低い基材へ塗工する場合、濡れ性を高くするという観点から、必要に応じて、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のシリコン系添加剤や、アセチレングリコール系界面活性剤を添加することが好ましい。
充填剤は、難燃性、接着時の塗工性を改良するために使用することが推奨され、その使用量としては、エマルジョンの固形分100重量部に対して、通常、1〜500重量部程度、好ましくは、5〜200重量部程度である。
【0042】
本発明の水性エマルジョンから得られる接着層に貼合される被着材としては、例えば、木材、合板、中密度繊維板(MDF)、パーティクルボード、配向性ストランドボードなどの木質系材料;壁紙、包装紙などの紙質系材料:綿布、麻布、レーヨン等のセルロース系材料;ポリエチレン(エチレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリプロピレン(プロピレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリスチレンなどのポリオレフィン;ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂ポリエステル、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどのプラスチック材料;ガラス、陶磁器などのセラミック材料;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属材料などが挙げられる。
【0043】
かかる被着体は、複数の材料からなる複合材料であってもよい。また、タルク、シリカ、活性炭などの無機充填剤、炭素繊維などとプラスチック材料との混練成形品であってもよい。
【0044】
本発明の積層体とは、上記のエマルジョンに由来する接着層及び被着体を有する積層体である。
被着体の一方が、木質系材料、紙質系材料、セルロース系材料などの吸水性の被着体である場合には、本発明の水性エマルジョンはそのまま接着剤として用いて、他の被着体と貼合することができる。即ち、吸水性の被着体/接着層を有する積層体を得ることができる。
また、吸水性の被着体に水性エマルジョンを塗工したのち、水性エマルジョンから得られる層に他の被着体(吸水性でも非吸水性でもよい)を積層させれば、水性エマルジョンに含まれる水分は吸水性の被着体に吸収され、水性エマルジョンから得られる層が接着層となり、吸水性の被着体/接着層/被着体を有する3層積層体を得ることができる。
【0045】
被着体が、例えば、プラスチック材料、セラミック材料、金属材料などの非吸水性の場合には、被着体の少なくとも片面に本発明の水性エマルジョンを塗工したのち乾燥させて、非吸水性の被着体/接着層を有する積層体を得ることができる。
接着層の両面の被着体がいずれも非吸水性の場合、すなわち、非吸水性の被着体/接着層/非吸水性の被着体の3層積層体の製造方法としては、一方の被着体に片面に本発明の水性エマルジョンを塗工したのち、乾燥させ、水性エマルジョンから得られる接着層を形成したのち、他方の被着体を張り合わせ、加熱して接着させて、3層積層体を得ることができる。もちろん、吸水性の被着体についても同様の方法で製造することができる。
【0046】
本発明の水性エマルジョンに由来する接着層は、従来から難接着性とされていたポリプロピレンなどのポリオレフィンの被着体とも優れた接着性を有する。
また、同時に、該接着層はポリウレタンなどのポリオレフィン以外のプラスチック材料、木質系材料、セルロース系材料、セラミック材料、金属材料などポリオレフィン以外の被着体とも優れた接着性を有する。
このように、ポリオレフィンの被着体と、ポリオレフィン以外の被着体とを接着するためには、従来、塩素系ポリオレフィンを接着層とすることが知られていたが、本発明の水性エマルジョンから得られる接着層は、塩素を含有することがなく、しかも該接着層のみでも、ポリオレフィンの被着体及びポリオレフィン以外の被着体のいずれにも接着性に優れる。中でも、ポリウレタンの被着体が発泡ポリウレタンである積層体は、自動車内外装用に好適である。
【0047】
ここで、ポリウレタンとは、ウレタン結合によって架橋された高分子であり、通常、アルコール(−OH)とイソシアネート(−NCO)の反応によって得られる。実施例に示したような発泡ポリウレタンは、イソシアネートと、架橋剤として用いられる水との反応によって生じる二酸化炭素かフレオンのように揮発性溶剤によって発泡されるポリウレタンである。自動車の内装用には、半硬質のポリウレタンが用いられ、塗料には硬質のポリウレタンが用いられる。
【0048】
被着体としては、中でも、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、(メタ)アクリル樹脂、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンなどが好ましく、とりわけ、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンが好ましい。
【0049】
また、本発明の水性エマルジョンは塗料あるいはプライマーとして用いることができる。特に、従来、難接着性材料と言われたポリプロピレンに塗工される塗料あるいはプライマーに好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。例中の部および%は、特に断らないかぎり重量基準を意味する。また、固形分は、JIS K-6828に準じた測定方法で行った。粘度は、25℃でブルックフィールド粘度計(東機産業株式会社製)により測定した値である。
極限粘度[η]は、ウベローデ型粘度計を用い、テトラリンを溶媒として135℃で測定した。
【0051】
オレフィン系共重合体およびオレフィン系共重合体の変性物に係る分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)を用い、ポリスチレン(分子量688〜400,000)標準物質で校正した上で、下記条件にて求めた。なお、分子量分布は重量平均分子量(以下、Mwという)と数平均分子量(以下、Mnという)との比(Mw/Mn)で評価した。
機種 Waters製 150−C
カラム shodex packed column A−80M
測定温度 140℃
測定溶媒 オルトジクロロベンゼン
測定濃度 1mg/ml
【0052】
オレフィン系共重合体中のビニルシクロヘキサン単位の含有量は、下記13C−NMR装置により求めた。
13C−NMR装置:BRUKER社製 DRX600
測定溶媒:オルトジクロロベンゼンとオルトジクロロベンゼン−d4
4:1(容積比)混合液
測定温度:135℃
【0053】
分散質の体積基準のメジアン径は、光散乱/レーザー回折粒度分布測定装置LA−910(堀場製作所製)を用い、該装置の攪拌及び循環を「3」に設定して、粒子屈折率1.50−0.20iで得られる体積基準のメジアン径である。
【0054】
無水マレイン酸のグラフト量は、サンプル1.0gをキシレン20mlに溶解し、サンプルの溶液をメタノール300mlに攪拌しながら滴下してサンプルを再沈殿させて回収したのち、回収したサンプルを真空乾燥した後(80℃、8時間)、熱プレスにより厚さ100μmのフイルムを作製し、得られたフイルムの赤外吸収スペクトルを測定し、1780cm−1付近の吸収よりマレイン酸グラフト量を定量した。
【0055】
<オレフィン系共重合体の製造例>
アルゴンで置換したSUS製リアクター中にビニルシクロへキサン(以下、VCHと記載する場合がある)386部とトルエン3640部を投入した。50℃に昇温後、エチレンを0.6MPa仕込んだ。トリイソブチルアルミニウム(TIBA)のトルエン溶液[東ソー・アクゾ(株)製TIBA濃度 20%]10部を仕込み、つづいてジエチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド 0.001部を脱水トルエン 87部に溶解したものと、ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート 0.03部を脱水トルエン 122部に溶解したものを投入し2時間攪拌した。得られた反応液をアセトン 約10000部中に投じ、沈殿した白色固体を濾取した。該固体をアセトンで洗浄後、減圧乾燥した結果、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体 300部を得た。該共重合体の[η]は0.48dl/gで、Mnは27,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.0、融点(Tm)は62℃、ガラス転移点(Tg)は−28℃、共重合体におけるVCH単位の含有率は12.2モル%であった。
【0056】
<オレフィン系共重合体変性物の製造例>
得られたエチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体100部に、無水マレイン酸0.4部、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン0.04部を添加して十分に予備混合後に二軸押出機の供給口より供給して溶融混練を行い、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体の無水マレイン酸変性物(オレフィン系共重合体変性物)を得た。なお、押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の二段階に分け、前半は180℃、後半は260℃と温度を高めた設定にして溶融混練を行い、オレフィン系共重合体変性物を得た。得られたオレフィン系共重合体変性物のマレイン酸グラフト量は0.2%であった。
【0057】
<エマルジョンの製造例>
(実施例1)
東洋精機製ラボプラストミルマイクロのセルを温度を95℃に設定したのち、該セル内に<オレフィン系共重合体変性物の製造例>で得られた変性物3.12gを封入し、毎分300回転で3分間攪拌した。この時の最高剪断速度は1173秒−1であった。その後、乳化剤としてオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体(重量平均分子量15500:プルロニックF108:旭電化(株)製)0.46gを水0.21gとともに添加し、セル内の温度を95℃に保ちながら、さらに、毎分300回転で3分間混練した(剪断速度1173秒−1)。混練した後、内容物を取り出し、約70℃の温水を入れた容器内で攪拌、分散させ、分散質の体積基準メジアン径が0.43μmのエマルジョンを得た。
【0058】
(比較例1)
乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(エマルゲン1135S-70:花王(株)製)0.64gのみを用いる以外は実施例1と同様にして、分散質の体積基準メジアン径が2.65μmのエマルジョンを得た。
【0059】
<接着性評価>
ブロックポリプロピレン/エチレンプロピレンゴム(EPR)/タルク=60/20/20(重量比)を混練したのち220℃にて射出成形して15cm×5cm×3mmの板(以下、複合PP板という場合がある)得た。純水で複合PP板からゴミ等を取り除いたのち、さらにアセトンで洗浄したのち、複合PP板の上に得られたエマルジョンを乾燥後の皮膜の厚さが10μmとなるよう、1mm厚の成形枠を用いてキャストして塗布した。これを恒温室内(23℃、50%R.H)にて3日間乾燥させ、完全に乾燥させるため120℃のオーブンで1分間加熱して皮膜を得た。得られた皮膜を、JIS−K5400(碁盤目剥離テープ法試験)に準拠し、すきま間隔5mmの碁盤目状の切り傷をつけた後、塗膜状にセロハンテープを貼り付けた。次いで、セロハンテープを貼り付けてから1〜2分後に、テープの一方の端を持って、直角に引き剥がし接着性を評価した。
実施例1については、切り傷の交点と正方形の一目一目に剥がれは全くなかったのに対し、比較例1については剥がれの面積は、正方形面積の65%以上であった。
【0060】
(実施例2)
<積層体による評価>
純水及びエアブローで洗浄した複合PPに、実施例1と同様に調製されたエマルジョン(分散質の体積基準メジアン径0.58μm、固形分43重量%)を約5倍に希釈したのち、エアスプレイガン(岩田塗装機 ワイダー60型、1φノズル径、ホールドカップNo.4)を用いて15μmとなるように塗布した。続いて、80℃に設定された通風オーブンにて10分間乾燥させ、複合PP/水性エマルジョンに由来する接着層を有する2層の積層体(実施例)を得た。
ポリエーテルポリオール(三井武田ケミカル(株)製MHR−2197)100重量及びイソシアナート(三井武田ケミカル(株)製LDP−009)を室温下にてホモミキサー(特殊機化工業(株)製ホモミキサーモデルM)で6秒間混合してポリウレタン発泡原液を調製した。
40℃に保持された温調盤に、型枠(340mm×340mm、高さ10mm)を置き、該型枠内に前記で得られた2層の積層体(実施例)を接着層が上になるように置き、調製された前記ポリウレタン発泡原液をただちに該型枠内に注入し、ポリウレタンが型枠から溢れ出さないように型枠に蓋をした。
15分後、(複合PP/水性エマルジョンに由来する接着層/ポリウレタン)を有する3層の積層体を型枠から取り出した後、一昼夜、室温にて静置した。3層積層体の複合PP(被着体)と発泡ウレタン(被着体)とを引っ張ったところ、発泡ウレタンが材破したものの接着層の界面は剥離しなかった。
【0061】
(比較例2)
40℃に保持された温調盤に、型枠(340mm×340mm、高さ10mm)を置き、該型枠内に複合PPを置き、前記と同様に調製された前記ポリウレタン発泡原液をただちに該型枠内に注入し、ポリウレタンが型枠から溢れ出さないように型枠に蓋をした。
15分後、(複合PP/ポリウレタン)を有する2層の積層体(比較例)を型枠から取り出した後、一昼夜、室温にて静置した。2層積層体の複合PP(被着体)と発泡ウレタン(被着体)とを引っ張ったところ、複合PPと発泡ウレタンの界面が剥離した。
【0062】
(実施例3〜11)
被着体として表1に記載のものをエタノールで脱脂処理したのち、実施例2で用いた水性エマルジョンをバーコーターにて塗工し、80℃のオーブンにて40分間、乾燥させ、膜厚10μmの水性エマルジョンに由来する接着層を得た。続いて、接着層にガムテープを貼着し、精密万能試験機オートグラフ(島津製作所製AG−50kN)にて、ガムテープを180°、50mm/分で剥離する剥離試験を実施した。測定した最大の剥離強度を表1に示す。いずれもガムテープと接着層との剥離で、基材と接着層との剥離は観察されなかった。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例1、実施例12〜14、比較例3)
最高剪断速度を表2に記載のように設定する以外は、実施例1と同様に実施した。結果を実施例1とともに表2にまとめた。尚、実施例14は、<オレフィン系共重合体変性物の製造例>で得られた変性物に代わって、<オレフィン系共重合体の製造例>を用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【0065】
【表2】

◎:切り傷の交点と正方形の一目一目に剥がれは全くなかった。
○:剥がれの面積が正方形面積の15%未満。
×:剥がれの面積が正方形面積の15%以上(比較例3は35%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散質を乳化剤とともに水に分散されたエマルジョンであって、
該分散質が、エチレン及び/若しくは直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、下記ビニル化合物(I)とに由来する構造単位を含むオレフィン系共重合体であるか、又は、
該オレフィン系共重合体に、さらに、不飽和カルボン酸類をグラフト重合して得られるオレフィン系共重合体変性物であり、
該エマルジョンに含まれる該分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmであるエマルジョン。
CH=CH−R (I)
(式中、ビニル化合物(I)のRは、2級アルキル基、3級アルキル基、または脂環式炭化水素基を表す。)
【請求項2】
乳化剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の乳化剤である請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項3】
乳化剤が、α,β−不飽和カルボン酸、アクリル酸ビニルエステル、及び(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を含有する水溶性アクリル樹脂である請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項4】
ビニル化合物(I)がビニルシクロヘキサンである請求項1〜3のいずれかに記載のエマルジョン。
【請求項5】
該分散質の体積基準メジアン径が0.2〜0.6μmである請求項1〜4のいずれかに記載のエマルジョン。
【請求項6】
エチレン及び/若しくは直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、前記ビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体並びに乳化剤、又は、
該オレフィン系共重合体に、さらに、不飽和カルボン酸類をグラフト重合して得られるオレフィン系共重合体変性物並びに乳化剤、
を剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させるエマルジョンの製造方法。
【請求項7】
剪断速度450秒−1〜30000秒−1にて剪断応力を作用させてオレフィン系共重合体変性物及び乳化剤を混練する請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
2軸押出機で剪断応力を作用させながら混練する請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる被着体及び請求項1〜5のいずれかに記載のエマルジョンに由来する接着層を有する積層体。
【請求項10】
被着体が、ポリオレフィンである請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
被着体が、ポリプロピレンである請求項9又は10に記載の積層体。
【請求項12】
木質系材料、セルロース系材料、ポリオレフィン以外のプラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる被着体、請求項1〜5のいずれかに記載のエマルジョンに由来する接着層、及びポリオレフィンからなる被着体を、この順番で有する3層積層体。
【請求項13】
木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる被着体に請求項1〜5のいずれかに記載のエマルジョンを塗工し、乾燥する積層体の製造方法。

【公開番号】特開2008−63557(P2008−63557A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108017(P2007−108017)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(501460383)住化ケムテックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】